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No.26404の一覧
[0] 【けいおん!】放課後の仲間たち[流雨](2012/06/28 20:31)
[1] プロローグ[流雨](2011/06/27 17:44)
[2] 第一話[流雨](2012/12/25 01:14)
[3] 第二話[流雨](2012/12/25 01:24)
[4] 第三話[流雨](2011/03/09 03:14)
[5] 第四話[流雨](2011/03/10 02:08)
[6] 幕間1[流雨](2012/06/28 20:30)
[7] 第五話[流雨](2011/03/26 21:25)
[8] 第六話[流雨](2013/01/01 01:42)
[9] 第七話[流雨](2011/03/18 17:24)
[10] 幕間2[流雨](2011/03/18 17:29)
[11] 幕間3[流雨](2011/03/19 03:04)
[12] 幕間4[流雨](2011/03/20 04:09)
[13] 第八話[流雨](2011/03/26 21:07)
[14] 第九話[流雨](2011/03/28 18:01)
[15] 第十話[流雨](2011/04/05 15:24)
[16] 第十一話[流雨](2011/04/07 03:12)
[17] 第十二話[流雨](2011/04/21 21:16)
[18] 第十三話[流雨](2011/05/03 00:48)
[19] 第十四話[流雨](2011/05/13 00:17)
[20] 番外編 『山田七海の生徒会生活』[流雨](2011/05/14 01:56)
[21] 第十五話[流雨](2011/05/15 04:36)
[22] 第十六話[流雨](2011/05/30 01:41)
[23] 番外編2『マークと夏音』[流雨](2011/05/20 01:37)
[24] 第十七話[流雨](2011/05/22 21:00)
[25] 番外編ともいえない掌編[流雨](2011/05/25 23:07)
[26] 第十八話(前)[流雨](2011/06/27 17:52)
[27] 第十八話(後)[流雨](2011/06/27 18:05)
[28] 第十九話[流雨](2011/06/30 20:36)
[29] 第二十話[流雨](2011/08/22 14:54)
[30] 第二十一話[流雨](2011/08/29 21:03)
[31] 第二十二話[流雨](2011/09/11 19:11)
[32] 第二十三話[流雨](2011/10/28 02:20)
[33] 第二十四話[流雨](2011/10/30 04:14)
[34] 第二十五話[流雨](2011/11/10 02:20)
[35] 「男と女」[流雨](2011/12/07 00:27)
[37] これより二年目~第一話「私たち二年生!!」[流雨](2011/12/08 03:56)
[38] 第二話「ドンマイ!」[流雨](2011/12/08 23:48)
[39] 第三話『新歓ライブ!』[流雨](2011/12/09 20:51)
[40] 第四話『新入部員!』[流雨](2011/12/15 18:03)
[41] 第五話『可愛い後輩』[流雨](2012/03/16 16:55)
[42] 第六話『振り出し!』[流雨](2012/02/01 01:21)
[43] 第七話『勘違い』[流雨](2012/02/01 15:32)
[44] 第八話『カノン・ロボット』[流雨](2012/02/25 15:31)
[45] 第九話『パープル・セッション』[流雨](2012/02/29 12:36)
[46] 第十話『澪の秘密』[流雨](2012/03/02 22:34)
[47] 第十一話『ライブ at グループホーム』[流雨](2012/03/11 23:02)
[48] 第十二話『恋に落ちた少年』[流雨](2012/03/12 23:21)
[49] 第十三話『恋に落ちた少年・Ⅱ』[流雨](2012/03/15 20:49)
[50] 第十四話『ライブハウス』[流雨](2012/05/09 00:36)
[51] 第十五話『新たな舞台』[流雨](2012/06/16 00:34)
[52] 第十六話『練習風景』[流雨](2012/06/23 13:01)
[53] 第十七話『五人の軽音部』[流雨](2012/07/08 18:31)
[54] 第十八話『ズバッと』[流雨](2012/08/05 17:24)
[55] 第十九話『ユーガッタメール』[流雨](2012/08/13 23:47)
[56] 第二十話『Cry For......(前)』[流雨](2012/08/26 23:44)
[57] 第二十一話『Cry For...(中)』[流雨](2012/12/03 00:10)
[58] 第二十二話『Cry For...後』[流雨](2012/12/24 17:39)
[59] 第二十三話『進むことが大事』[流雨](2013/01/01 02:21)
[60] 第二十四話『迂闊にフラグを立ててはならぬ』[流雨](2013/01/06 00:09)
[61] 第二十五『イメチェンぱーとつー』[流雨](2013/03/03 23:29)
[62] 第二十六話『また合宿(前編)』[流雨](2013/04/16 23:15)
[63] 第二十七話『また合宿(後編)』[流雨](2014/08/05 01:53)
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[26404] 第十二話
Name: 流雨◆ca9e88a9 ID:a2455e11 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/21 21:16

 あたふたと目まぐるしかった学校祭から一週間が経った。お祭りムードが抜けきらない一週間を終え、校内に満ちていた浮き立つ雰囲気も緩やかに影を潜めていった。大きな行事が終わるのを見届けるように季節は移ろって行く。ついこの間までサウナのごとく蒸していた空気もほんのり和らいだような気がする。
 秋が始まり夏が終わったのを風が含んだ金木犀の香り。薄羽蜻蛉の姿が見られるようになるのはもう少し先だろう。それでも残暑という言葉通りに、日差しはまだ地上を攻める手を緩めてくれなかったりする。最後まで仕事をきっちりこなす憎い心意気には感服だ。それでも、うすら寒くなった風と合わせてちょうど良い具合である。
 校舎の中は生ぬるい空気で満たされていた。暖房の加減がまた微妙な時期なので、暑くなったり寒くなったりを繰り返す中で、帰宅部の生徒がすっかり姿を消した校内はまさに生ぬるいと表現される温度を保っていた。
「まったく。誰の許可をとってんだろ」
 廊下の片隅で呟かれた声は誰に言うでもなく淡い喧噪に溶けた。ひょろ長い廊下の窓に白い陽光が差し込み、影と光の規則的なコントラストをつくりだしている。
 その一角に佇む人物は胸に流れた漆黒の髪を後ろに払い、不機嫌なオーラをびりびりと放っていた。入学当初より伸ばし続けた髪は肩ほどからだいぶ伸びて、背中の中程あたりで揺れている。
 夏の空のような爽やかな青色の瞳、並外れて華麗な容貌は日本人には見えないのだが、燃えるような漆黒のオリエンタルな艶めきと合わさって独特な存在感を放っていた。
 溜め息が一つ。

「やっぱりこういうのはまずいよね」

 彼は廊下の掲示板に貼り出された一枚のポスターを前にして苛々と足踏みをした。
 この立花夏音は一応、世界に知られたミュージシャンその人であって、それが何より問題なのだ。


 ライブ後にできたファンクラブとやらについて、夏音は初めこそ気軽にかまえていた。B5サイズの画用紙に【会員募集中!】と文字だけ書いてあるひっそりとしたもの。発見者の律曰く、校内にぱらりと一枚だけ落ちていたらしい。掲示板等に同じものが貼られている様子はないので、首をかしげていたところだったのだが。
 学校祭以来、自分のファンクラブとやらが目立った活動を見せることはないし、一時の勢いで衝動的に動いてしまっただけかもしれない。そもそも、ご本人様である自分に許可もないのは失礼な話である。
 本格的にそんなものを始動させようとしているならば、憧れを抱く相手に不快な思いをさせようとは思うまい。
 あくまで様子を見てやろう。そんな脳天気な気構えのまま、内心では面白がってすらいた。
 その矢先のこと。

「ねーねー夏音くんこれ見てー」
 夏音と律が鬼気迫る様子でスピードをやっていると、唯が部室に駆け込んできた。
「忙しい」
 一瞬とて目を離すことができないカードゲーム。故にたった一言、短く答えた夏音に唯が頬をふくらませた。
「せっかく夏音くんの晴れ姿を持ってきたのにー」
「はいはいあとでー」
「これ部室に貼っておこーよ」
「だから、あと………でっ!?」
 あまりに唯がしつこいのでちらっと唯の持つモノに目を向けた夏音は思わず目を剥いてしまった。
「そ、そりゃなんだい……」
「夏音くん学園祭Verだよ!」
「ォゥ、ジーザス……」
 夏音は瞳に飛び込んできた大きな文字に魂を引っこ抜かれそうになった。
【立花夏音ファンクラブ 絶賛会員募集中!】
 ゴシックでロリータで、フリッフリでヒラッヒラで、それでいて夏音なポスターがあればこの世から燃やすべきだと夏音は脳裏にラッシュする走馬燈を眺めながら叫んだ。
「悪夢の再来だ。どんな陰謀がこの軽音部を襲うというのか……っ!」
 椅子を蹴倒して天を仰ぐ。染みが目立つ天井がふと天使っぽい顔に見えてきた。
「よっしゃアガリーっ!」
 急に手を休めた相手の隙を決して見逃さなかった律は、自分の手札を無くしたところでもはや勝負どころではない夏音に気が付いて目を瞬かせた。
「なんだ? 雨漏りでもしてんの?」

 しばらく三人はそろって天井をじっと見詰めていた。


「ただのファンクラブの仕業だろ?」
 何を大げさな、と足を組んで鼻をならした律。大胆なモーションで太ももが際どい部分まで露わになり、唯が慌てた。
「り、律っちゃん! あんよがね……」
「あー悪い悪い。ワタクシったらはしたのうござんしたわー」
 なんと言っても男の子の前である。男というには性別の存在感が薄い相手であるが、男には違いない。慎み深い女性にまた一歩近づいたと頷いた律だが、肝心の男がこれっぽっちも自分の太ももに関心を寄せていないことに気が付いた。
 これにはさすがに乙女の矜恃にちょびっと傷がつくというもの。
「おーいニイチャン。太ももだよーん」
 あえてぴらっとスカートをまくってみせる律の存在などないかのようにうつむく夏音の態度は律の傷を抉った。
「私の太ももはそんなに魅力がないのかー!」
 側にいた唯が思わずびくっとなった一喝をもって、やっと夏音は呆けたような表情を彼女に向けた。
「あぁ、ハイ。大変魅力的かと存じましゅ……」
 まったく心がこもっていない賛辞に律は低い声でうなった。だが、あまりに憔悴した様子の夏音を見ていると小さく息を吐いた。
「てゆーか、さっきから自分のポスターをじっと見て気持ち悪い系な?」
「あぁ、自分で見ていて気持ちの良いもんじゃないね」
「別にその写真は気持ち悪くないけどさ……」
 唯はというと、ここに来てやっと自分の持ってきたモノのせいで夏音を落ち込ませたらしいと気が付いた。
(ど、どうしよう。なんかよくわからないけど、私のせいだよね)
 しかし、原因が全くわからない。わかるはずもない。無垢な魂を持つ唯は夏音におそるおそる声をかけた。
「夏音くん! 悩みがあるなら私が聞くよ?」
「しょうぞうけん」
「え?」
「肖像権ってさ、あるよね」
「む、難しい話は抜きでお願いしやす」
 唯は少し前まで持っていた人助けの心から一歩遠のいた。頭を使う悩みは役に立てそうもない。
「俺って一応……あ、これ言っちゃだめなやつだ」
 今、ぼそりとトンでもないことを言われかけた気がする。唯と律、二人の第六感がそう告げていた。
「これ、どこで見つけたの?」
「こ、校内の掲示板に貼ってありました」
 そう尋ねられた唯は、夏音の柔らかい口調にどこか背筋が冷えるような感覚を覚えた。
 これはもしかして怒っているのかもしれない。知り合って半年ほどの付き合いだが、唯は彼が本気で怒っている場面を見たことがない。あからさまに怒りを表現しているうちは、本気で怒っているうちに含まれないのだろう。怒鳴ったり、不機嫌になることはあるが、それは戯れの内として数えられてしまう。
 そう。このように敵意を含んだ怒りを見せる夏音は初めてなのだ。
 唯は「そうか」と低く呻いてから部室を出て行こうとする夏音の背中に声をかけずにはいられなかった。
「ど、どちらへ?」
「お花を摘みに……」
 それ、女性用の……と何故か頭の片隅にあった豆知識が喉から出かかったが、精神で阻止した。
「いってらっしゃい……」
 唯の言葉が終わらない内にバタンと扉が閉まった。
 部室に残った二名の女子は思わず顔を見合わせ、何とも言えない表情の応酬を繰り返した。



 冒頭に戻る。
 目の前のポスターで二枚目である。掲示板は校内のいたるところに点在している。その半分は生徒が使用することができず、もう半分は生徒が使用可能ではあるものの、すでに生徒会や委員会または部活動や文化系コンクール関係の掲示物などで埋め尽くされている。
 そもそも貼るのに教師の許可が必要である上、さらに大原則として掲示物の端に印鑑が押されてなくてはならない。 
 目の前のポスターに印鑑など、ない。つまりこのポスターはゲリラ的に貼っているということになるので、勝手にはがしてもよいということだ。
 ビリッ。 
 派手な音がして自分の姿が二等分にされる。その実行犯はまさにポスターに写っている本人なのだが。
 夏音は躊躇いなしに思い切りポスターをはがした。というよりも破いた。一つが終わると次へ。校内を練り歩き、ありとあらゆる掲示板をあたる。二つ目を破き、三つ目、四つ目へと。
「どれだけ俺のこと好きなんだっ!?」
 好意を寄せてくれるという行為に対して嫌だなんて思わない。というより、自分に好意を抱いてくれる人の数は圧倒的に常人より多いだろう。仕事やプライベートあわせて。
 ただ、今は世間に露出する訳にはいかないのだ。
 自分が何のために普通の高校生をやっているというのだろうか。日本のマスコミが夏音をかぎつけてどうこうすることはないと思うが、情報というのは恐ろしい。
 この現代、ネット時代。自身もその恩恵にどっぷりあずかっている身としては、そこのところの恐ろしさを承知している。
 誰がどこから見ているか。誰が嗅ぎつけてくるか。もしも自分の環境を乱す存在が現れたら? 日本にだってカノン・マクレーンを知っている人などいくらでもいる。
 もしかして、この学校にも何人かいるかもしれない。過信ではない。夏音は自分の知名度を客観的に判断している。現に学校祭の時はジャズ研の上級生に「あなた、どこかで見たことが……」と不審の目で見られてヒヤリとさせられた。
 ともあれ、夏音の正体を知る者が軽はずみにネットに情報を流したとしよう。その情報はたちまちネットの海を漂いながら広まり、結果的に現実となって夏音に襲いかかってくる可能性が十分にあるのだ。
 そんなことになったら、みんなの迷惑になってしまう。そのことが常に夏音の気がかりであった。
 何より、澪以外のメンバーに自分の口以外から事実を知って欲しくないというのもある。最近になって、隠していること自体、何の意味があるのか自分でも分からなくなっていて、その問題に対して悩むこともあった。
 だから、そうならないために動かなくてはならないのだ。夏音にとって、問題の芽は即刻摘むべきものであった。

「これで全部かな」
 八枚。謎の執念を感じる枚数であった。これがいつから貼られていたのか分からないが、普段からぼーっと歩いているだろう唯の目にとまるくらいだ。素通りしていたとかは考えられないから、昨日から今日という可能性がある。
 とりあえず、よしとしよう
 ひと仕事終えたところで上機嫌になった夏音が部室に戻ると、他の部員もそろっていた。
 神妙な顔つきで何を話しているのだろうかと近づくと、どうやら会話の中心に澪がいるらしい。
「だから! 私だってファンクラブとか認めたくないの!」
「んなこと言ったって作られたんだから仕方ないだろー?」
「私は断じて認めない! あんなに大勢の人の前で辱めを受けたのに!」
「はずかしめって……パンチラくらいで」
「パ、パン……パン! パ、パン! パパンパン!」
「どもりすぎだ」
 喘ぐように過呼吸じみた音を漏らす澪は相変わらずの様子であった。しかし、顔を真っ赤にさせてわめく彼女に全員が心の内で安堵していた。
 この一週間ばかり、彼女はまさに色彩を失った廃人と化していた。その様子はホセに敗れたジョーもかくやと真っ白であり、そんな澪の姿は見るに堪えないものがあった。このまま部室の隅っこが定位置となるのだろうかと誰もが懸念していたが、どうやら元の調子を取り戻したようである。
「そちらさんも大変なようで」
 ふらりと現れた夏音が同情を含んだ表情で澪を気遣う。潤んだ瞳で夏音を見る澪は何かを必死に訴えようと、口をパクパクさせていた。
「Oh...Fucking tired!!」
 だいぶ疲弊した様子の夏音にムギが紅茶を用意した。
「よかったらハチミツもあるからどうぞ」
「ありがとう」
「と、ところで夏音くんは今まで何をやっていたの?」
 尋常でない様子で部室を出て行った夏音を見たのが最後、帰ってきた彼が何故だかひと仕事終えたぜーとばかりにスッキリしていたときて、首を傾げた。
「校内のポスター全部はがしてきたよ」
「えー! 何で!?」
「気にくわないからに決まってるじゃん」
「こんなに可愛く写ってるのに?」
 夏音は、いったい何が問題なの? と本気で聞いてくる唯に脱力しそうになった。
「いや、写り映えが気に入らないわけじゃないから!」
「私には夏音くんが怒る理由がちょっとわかんないよ」
 時折、唯の相手ができる人間はよほど心の広い人間であるに違いないと思わされる。夏音は心の狭い人間ではありたくなかったので、無視したいという欲望をおさえた。
「俺が言いたいのは、筋を通せという話だよ」
「筋……? 夏音くんって変なのー」
 唯に変人呼ばわりされるのは実に心外きわまりなかったが、返事をするのも億劫なのでムギに淹れてもらった紅茶を楽しむことにした。ハチミツを足してほんのり甘い紅茶が疲弊した体に優しく沁みこんでくる。
「あーー」
「オッサン外国人」
「うるさーい」
 軽口を叩く律も大して気にならない。やはり癒しこそ、この軽音部の醍醐味であることは間違いない。非癒し系もいるけど、気にならない。
「夏音はどうしてそんな暢気にかまえていられるんだよ!」
 突然、眦をつりあげた澪が爆発して夏音に詰め寄った。
「別にファンができるのはいいことじゃないか」
「お、お前は慣れているかも、しれないけど、私なんてただの一般ピープルなんだぞ! 私の身になって考えてみろ!」
 そう言い放ってからわずかに間をあけてから「考えてみてくださいよ……」とぼそりと言い改めた。怒りをぶつけられる根拠がまったく思い当たらない夏音であったが、テーブルに肘をついて気怠そうに澪を見やる。
「とは言っても、高校生のファンクラブなんてどこにでもあるものでしょ? せいぜい取り囲んでキャーキャー言ったりとか」
「ひ、ひいーおぞましいっ!」
「裏で隠し撮り写真の卸売りが行われたり」
「か、隠し撮り?」
 盗撮とも言う。
「澪ちゃんグッズが裏で流通するくらいだろ?」
「いやーーーっ!!!」
 澪は己の身体を抱きかかえるようにして叫んだ。魂の底から飛び出たような悲鳴だ。
「ま、冗談だよ」
「やりすぎだぞ夏音」
 澪の怯えように見かねた律が夏音を諫めるが。
「律には言われたくない」
「んなっ!」
「そもそも高校のファンクラブなんて創るやつらの自己満足から始まるものでしょ? ファンである事とファンクラブを創ったり、所属することは全く別の目的でしょ」
「でも、その人のことを応援したいって思うから創るんじゃないの?」
「それもあるさ。でも、応援するならもっと別の方法があるはずだよ。結局は、シンボルを持ちたいんだよ。自分とのつながりをシンボルにしたい、ってことだろうよ」
「今日の夏音くん難しいことばかり言ってる」
 しょぼんと気落ちした唯はずずーっと茶をすする。
「まあ応援される側としても不快には思わないけどさ。自分の味方です、って形にして示してくれるわけだから。ただ、お互いが認め合うことから始めなくてはならないってことだよ」
「つまり、こういうことだな? ファンクラブ認めてやるから入会費などは……」
「まったくもって違う。もう喋りなさんな」
 軽音部の長がまともな言葉を発することはないのだろうか。

 どうせやるなら、お互い嫌な思いをしないでおこーねということである。やはり高校生になっても、むしろ高校生という年齢だからこそ、物事の道理がわかっていないのかもしれない。道理とまではいかない。常識の度合いである。
 想像力が足りないから、何をしたらこういう問題が起こるかもしれないという事まで考えが及ばない。
 現に、よかれと思って作ったのであろうポスターも夏音の気に障ってしまった。おそらくこの件で動いている人は夢中になっていることだろう。
「ガキだね……」
 ふいに呟いた一言に部室がしんとなる。
「ず、随分と辛口なんだな」
 律が心なしか引き気味に反応した。それに無言でうなずいた三人も夏音の態度に違和感を得た。
「あら、やだ」
「あら、やだじゃない!」
「まー、迷惑かけないでやってくれるならかまわないんだけどねー。それにまあ、ポスターも剥がしたことだし大丈夫でしょう」
 夏音が表情を緩めたことで、部室の空気もいつものほんわかなものへと戻った。

 その翌々日。
「ふえてるー」
 ぞっと背筋に寒々しいナニかが通り抜けた。得体の知れない戦慄が夏音を突き動かし、行動するまでに秒とかからなかった。昇降口を上がって教室に向かうまで、たったそれだけの距離で二枚のポスターが掲示物に重ねて貼られていた。
 合唱部の参加するイベントの告知ポスターの上に見たくもない自分の女装姿がでかでかと貼られているのを見て、肝が冷えるという言葉の意味を知る。
 というより、合唱部に申し訳ない。
 かろうじて悲鳴を抑えて、言うまでもなく発見したポスターは剥がした。この分だと他も見て廻った方が良さそうだと校内を走り回ったが、案の定の結果であった。昨日まで無かったポスターがあちこちに掲示されているのだ。どれも無駄な存在感を放っており、羞恥に死にたくなった。
 というより何枚刷ってあるのだ。
 犯人の異常性が分かると、さすがに自分の手に余ると考えた夏音は、放課後にさわ子に相談することにした。


「ストーカーに狙われて、貞操の危機を感じてるって?」
 夏音が一応あれでも教師だから、と頼りにした相手は自分の話をずいぶんと歪曲な解釈をしたあげく、とんでもねーまとめ方をしやがった。向かいに座る社会科教師がコーヒーを噴き出したのを視界の隅で確認しつつ、夏音は大まじめに頷いた。
「超極端に突き詰めていくと、そうかも。いや、それは言い過ぎだとしてもちょっと行動に狂気じみたところを感じませんか」
「んー。そもそも、その子のやっている事に認めるべき点が一つもないのだけど」
「まったくです。俺としては、向こうから話に来てくれるだけでいいのに。よっぽど馬鹿なんだか、事をこじらせやがって……ってところです」
「あなたさえ構わないなら、職員会議に通すけど……さすがに、ね?」
「そうなると、俺のファンクラブ云々が赤裸々に……遠慮します」
「そうよねー。でも、このまま放置するのもダメね。許可なしに掲示物を貼ることも、個人を担ぎ上げるような団体を創るのも」
「つまり、ファンクラブ反対?」
「教師としては」
「個人的には?」
「面白そうじゃないー。最近、そういうのと離れちゃったから懐かしいわー」
 彼女は高校生の頃、ここいら一帯で有名なヘビメタバンドをやっていた。最終的に信者を呼び寄せるレベルには成長できた彼女のバンドの事だ。ファンクラブとのいざいこざやりとり等もあったのだろう。規模が違うが。
 相談相手を間違えたかもしれないと思い始めたが、さわ子の言葉を聞いてから少し思うところがあった。
 やっぱり常識を持って行動しない人は、恐ろしい。けど、この場合はよくよく考えるとそういうサイコちっくなものとは違う気もする。
 幼稚なのだ。渦中のポスターのレイアウト、文章に至るまで洗練された出来とは言い難い。本当に何も考えていないのではないだろうか。
「つまり、底抜けの馬鹿か……」
「あ、え、いま先生に向かって………えっ……?」
「あ、違います。そうじゃなくて……やっぱりいいです。自分で解決しますから。お時間とらせてすいませんでした」
 水をぶっかけられたハムスターみたいな表情で目を瞬かせているさわ子を放って職員室を出ると部室へ向かった。ダムダムと足を踏みならして階段を上り、乱暴に部室の扉を開けた。
「ん?」
 普段なら誰かしらの声で楽しげな空気に満ちているはずの軽音部に不穏な気配を感じた。戸惑い、本来は陽気な唯や律の困惑を伝える息づかい。異常に耳が良い夏音は瞬時に異常事態だと察知した。

 なんか、いた。

「へーへー! 軽音部ってこんな風にお茶とか出るんですねー。想像と違ってびっくり素敵ですー!」
 明らかに軽音部員ではない少女。夏音の立つ位置からは後ろ姿しか確認できないが、少し不自然なくらいに明るい茶髪がぽんぽんと揺れていて、その形状は何というか特殊であった。
(そうだ、まどろみの剣だ。ドラクエで一瞬だけ使ってみたあの剣に似ている)
 人によってはチョココロネ、クロワッサンと例えるかもしれない髪型は見事な縦カール。素晴らしきカール大帝。二次元でのみと思っていた髪型を現実に見て、夏音は息を呑んだ。
 背後に現れた夏音に気づいていないのか、彼女は自分の言いたいことを自由に喋り通し続けていた。
 やがて他の者の視線の先に気付いて振り返り、かん高い悲鳴じみた声をあげた。
「キャ~~~~カノンさま!!」
「………さま!?」
 ぎょっとして眼を見開いた夏音が説明を求める目線を仲間達に送る。全員が悲哀を帯びた眼を合わせてくれることはなかった。
 夏音は心臓がばくばくと早まるのをおさえ、目の前の少女を眺めてみた。髪型こそ特殊だが、いたって普通の子のようだと判断した。むしろ普通より可愛い部類に入る。しかし第一段階の印象は束の間のうちにぶっ壊されることになる。
「は、初めまして! あたし堂島めぐみって言います! あの……立花夏音ファンクラブ会長をやらせてもらっています!!」
 一拍遅れて目眩が襲った。足下から崩れ落ちそうになるのをこらえ、額を抑えながらその少女――堂島めぐみとやらを睨む。
「何の冗談だこれは……」
「あの、あたし! 挨拶しなくちゃって!」
 憧れの人を目の前にしてあがっているらしく、本来の快活な性格はナリをひそめているようだ。それでもこちらが遠慮してしまうくらいに声がでかい。彼女にとってそれが自然なのだろうが、いつの間にかペースを握られてしまいそうなタイプである。
「友達に言われたんです。ファンクラブを創るって本人に挨拶もしないで勝手にやるのはよくないって」
 夏音はその言葉にほう、と目を瞠った。案外、まともな交友関係に恵まれているらしい。自分の予想した通り、本当に何も考えていなかっただけなのかもしれない。友人の忠告に素直に耳を傾けるあたりも悪い印象は感じられない。
 焦るあまり、少し大人げないことを考えていたかなと反省するにまで至った。
「あたし! いっつも勢いだけで行動しちゃうからこんなのばかりで! 一昨日もその勢いからポスター作ったんですけど、誰かに剥がされちゃって………ひどいですよね。人がせっかく一生懸命作ったものを踏みにじるなんて……っ!!」
「ん?」
 何が何だというのだ。思考が、その先にある面倒事を察知して早々に匙を投げかけた。いや、待てと強引に事態の理解に頭をめぐらす。
「夏音さまのベストショットを深夜かけて選んだんですよ。用紙だってあのサイズだと専用のプリンターしか刷れないし、遠くの専門店に行かないといけないのに。これって誰かの陰謀だと思うんですよね。きっとカノンさまの美しさ、可憐で、凛然とした佇まいに嫉妬した輩がいるんです!」
 おそらくこの場の誰に助けを求めても、無駄だろう。こうしている間もノンストップで言葉を連射している堂島めぐみの勢いにすっかり萎縮してしまっている始末だ。
 夏音はふっと嘆息すると、両の手を思い切り広げた。
 パンッ!
 と乾いた音が部室に響く。すると今まで矢継ぎ早どころかサブマシンガン並の速度で口を動かしていた存在も思わず口を閉ざす。
「堂島さんって言ったかな?」
「はい! めぐみって呼んでください!」
「堂島めぐみさん」
「めぐみです!」
「shit.めぐみさんとやら。そのポスターを勝手に貼るのもいけないことだって知ってる?」
「え、そうなんですか?」
 心の奥底から不思議に思っているのが表情に出ている。
「うん。生徒が何か掲示物を貼りたい時は先生の許可が必要なんだ。生徒手帳にも書いてあるし、考えたらわかるはずだけど」
「で、でも誰にも迷惑かけていないので大丈夫かなって」
「そう? 他の部活動の掲示物の上に重ねて貼ってあるのもあったけど」
「そ、それは悪いとは思いましたけど急いでいたし……それにずっと掲示してたんだからもういいと思いませんか?」
 夏音の限界を超えてしまった。異文化コミュニケーションの時代とはいえ、相手の言っていることは欠片も理解できないのは問題である。
「君の言うことは何一つ共感できないし、道理を知らない子供のわがままにしか聞こえないよ。というより、高校一年生にもなって自分がやったこともわからないというのか?」
「え………あ、二年ですけど……へっ?」
「ファンクラブについては、こんな俺で良いなら好きにやってくれと言うつもりだったんだ。君が俺に一言でも許可をもらいに来たらね。あまり派手にやってもらうのも困るし、外部へ情報が漏れるようなことは一切ないように厳重な体制を敷くこと。俺の邪魔にならない程度にやって欲しいという二つの事を守ってもらおうとな。けれど君ときたら、俺にリスペクトを向けると公言しながら失礼にも程があることの連続じゃないか。ちなみにポスターを剥がしたのは全部俺だよ」
 夏音の怒濤の勢いの説教に目を白黒させて唖然と聞いていた堂島めぐみであったが、最後の一言に大きく反応した。
「何でそんなことしたんですか?」
「教えてあげよう。自分の写真を引き延ばしたものを勝手にばらまかれて嬉しい人なんていないんだよ」
 しかも本人の黒歴史ど真ん中の代物だ。何の罰ゲームだ。
「そんな……あたし……夏音さんのために……」
「それは俺のためじゃないよね。君のためだ。君が君自身の仲間を増やすために勝手にやっただけだ」
 冷ややかに切り捨てる夏音の言葉は目の前の少女には辛いものとなるだろう。しかし、彼はあえて厳しく言わないとこの少女が学ぶことはないと考えたからこそ、冷淡な物言いになってしまったのだ。 
 とは言うものの、やっぱり女の子に厳しくあたるのは心に悪い。堂島めぐみの肩が細かく震えだし、しゃくりあげるような音が漏れる。どんどん大きくなる前兆に今すぐ回れ右して部室を出て行きたくなった夏音であった。
「う、うぇ……そんなぁ……」
 くるぞくるぞ。
 大噴火の予兆。その場の流れをじっと固唾を呑んで見守っていた女性陣もはぅっと息を詰めた。心なしか夏音に対する非難の視線が混じっていた。
「そんなぁ……そんな風に厳しく𠮟ってもらうの初めてです!」
 おや?
 堂島めぐみは真面目な顔で厳かに言った。
「あたし一人っ子です」
「そ、そうなんだ」
「両親はいつもあたしのこと𠮟らないんです。かといって特別わがままっ子に育ったつもりはないんですが、納得いかないじゃないですか……ちゃんとあたしのこと見てくれてるのかなって。愛してくれるのかなって」
 完全に自分の世界に旅立った者の目だ。秋葉原とか中野なんとかロードでよく見る目だ。あまりに心配と不安に駆られた夏音は思わず澪に目線でSOSを出した。
(おいおい、どうするよコレ……予想外の展開でぶったまげたよ)
 救いを求める視線は容赦なく澪を捉えていた。
(わ、私に何か求められても困る!)
 引きつった顔で、こちらも眼で言い返してきた。すると他の面子もそれに参戦する。
(夏音が起こした事態なんだから、自分で何とかしろ!)
(ふざけんな不本意にもほどがあるだろ! それにずっと高みの見物きめこんでたくせに!)
(とりあえず落ち着かせてみてはどーでしょうか?)
(ああ、そうだな。よし、唯やれ)
(なんで私っ!? おそれおおい任務につき、私には身に余ります!)
(そうか…………やれ)
(いやだよー。なんかこの子怖いもんっ)
(そこは天然系の魅力で何とか、さ)
(ひどいよ律っちゃん!)
(ひどくウィンクが似合わないな律さん)
(うるさい。ウィンクが外人だけのものと思うな!)
(とにかく!)
(やっぱり俺が何とかする感じ?)
 眼と眼で器用にも悲鳴をまじえた会話を交わしていた結論として、やはり夏音が犠牲になることになった。留まることを知らずに喋り続けていた堂島めぐみに向き合った。
「だから夏音さまに言われる一言は純金にも代え難い価値があるのです!」
「ヨシわかったよめぐみさん!」
「本当ですか!?」
「あぁ何にもわからないけど、とりあえず落ち着こう。確かに俺が厳しいことを言うのは君のためでもあるよ。あるけど……」
「じゃあ、『お姉様』って呼んでもいいんですね!?」
「Holy shit…」
 事態に頭がついていかなくなった。
「今のは、許可をもらったってことでいいんですよね?」
「え、いや何のことを言っているのかな」
「あたし、𠮟ってくれる人が欲しかったんです! だからお姉様となってあたしを𠮟ってくださいっ!」
 眼の中に宝石のようなきらめきが踊っている堂島めぐみは夏音の手をとって、胸の前まで掲げた。
 その手をばしっとふりほどき、
「ふざけんなこの縦ロール女が! そのクロワッサン丸ごと切って校長像に寄贈してやろうか!?」
 とは言えず。
 エマージェンシーモードによって魂が肉体から緊急退避している夏音は既に目の前の少女を意識から半分ほど追い出している。まさに危機回避本能の成せる奇跡の技には違いないが、残してきた本体は少女の言うことに差し当たりない程度にうなずくという悲劇のオプション付きであった。
 YURI。これはユリ。リアルで百合だけはなーと日頃から考えていた夏音。この場合、男と女でノーマルなカップリングであるが、何ともアブノーマルな響きとなって襲ってきたものだからたまったものじゃない。
 そもそも、自分は男である。
「ポスターについては本当にごめんなさい! あたし、もう二度と勝手なことしません! だからファンクラブについて認めてもらいたいです」
 やっとのこと手を離したと思いきや、がばっと頭を下げ始めたクロワッサンを眺めながら、こくりとうなずく夏音。
「それで、ファンクラブの方向性もお姉様に情け容赦のないお仕置きや説教をいただけるオプション付きってありですか?」
「それは……気が向いたら」
 半分以下の意識で曖昧な肯定をする。
「きゃーありがとうございます! あたし、さっき言っていたこともきちんと守ります! 勝手なことはしない! ファンクラブはあくまで秘密裏に活動すること! 秘密厳守! あたし全部守れますよー! むしろ、お姉様の魅力が広まりすぎるのもアレなので、少数でいこっかなーなんて」
「そう……」
「ポスターは全部剥がしたんですよね? まだ剥がしていないのがあったら自己回収しておきますので!」
「そう……」
「これでお姉様公認ってことですよね! 燃えてきたー! あたし、精一杯お姉様を応援させていただきます! 立花夏音様のファン一号として!」
 実際に君は一号どころか0を幾つも足した順位だよ、とも言えず。
「So...」
 最後にほぼ抱きつくようなくらい接近してきていた堂島めぐみは万事充ち満ちたような表情で爽やかであった。
「では、失礼しますね! 今日はお邪魔してすいませんでした! 軽音部の皆さんのことも応援していますから! それでは!」
 重たそうな巻き髪を振りながら歩く彼女は部室を出る時に再度礼をして姿を消した。

 竜巻が去った後はこんな空気になるのだろうか。誰も彼もが心神喪失していた。虚ろな瞳を抱え、その視線を虚空にさまよわせながら椅子に崩れ落ちていた。
 なかでも一番ひどいのが夏音であったことは言うまでもない。
 何かひどく恐ろしいものでも見てしまった五歳児のような表情で凍り付いていた夏音は、長い時間をかけて魂が完全に身体に戻ったのを感じた。
 周りを見ると、徐々にフリーズから解けて動き出す部員たちの姿があった。
「夏音くん男の子なのに、何でお姉様なのかなー?」
唯、そこじゃない。決してそこじゃない。夏音以外の全員が思い、おそるおそる渦中の人物の方を向く。
 唯の一言で決定的に我に返った彼は、むくりと立ち上がりふらふらと数歩よろめき……崩れ落ちた。

「う、うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 その後、錯乱状態に陥って叫ぶ夏音を慰めるために軽音部一同は必死になった。終いにはしなしなと倒れ込む仕草に、確かに男にはみえねーわと共通の感想を抱いたことは別の話である。

 とにかく。かろうじてPTSDだけは逃れた夏音は、一年の廊下で堂島めぐみの姿を見かけるたびに怯えきって逃げるようになった。
 彼に対してああやって公言した以上、きちんと目立った行動を控えているようであったが、人の眼がない場所にフィールドが移された途端、運動部顔負けの脚力で夏音に追いつくというスペックの高さを披露した。
 立花夏音のファンクラブはそこそこの会員数を得て、水面下で活動中であるらしい。
 時折、定期報告にふらりと現れる堂島めぐみの報告内容も恐ろしくて夏音は耳を塞いでいる。
 日本に来て、新たなトラウマを発掘した夏音はしばらく百合っぽい表現を出す作品に拒絶反応を示すようになった。
 ちなみに秋山澪ファンクラブ会長は事の次第をどこからか聞きつけたのか、後日、澪に便箋でファンクラブ活動の容認を求める至極丁寧な文書を提出してきたという。


※かなり時間が空いた上に、超絶的に短くてすみません。基本的に一話あたり15000文字以上を、と心がけているのですが。


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