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No.2521の一覧
[0] THE FOOL(聖なるかな)【完結】[PINO](2008/06/11 17:44)
[1] THE FOOL 2話[PINO](2008/01/13 19:13)
[2] THE FOOL 3話[PINO](2008/01/14 19:09)
[3] THE FOOL 4話[PINO](2008/01/15 20:00)
[4] THE FOOL 5話[PINO](2008/01/16 20:33)
[5] THE FOOL 6話[PINO](2008/01/17 21:25)
[6] THE FOOL 7話[PINO](2008/01/19 20:42)
[7] THE FOOL 8話[PINO](2008/01/22 07:32)
[8] THE FOOL 9話[PINO](2008/01/25 20:00)
[9] THE FOOL 10話[PINO](2008/01/29 06:59)
[10] THE FOOL 11話[PINO](2008/02/01 07:15)
[11] THE FOOL 12話[PINO](2008/02/03 10:01)
[12] THE FOOL 13話[PINO](2008/02/08 07:34)
[13] THE FOOL 14話[PINO](2008/02/11 19:16)
[14] THE FOOL 15話[PINO](2008/02/11 22:33)
[15] THE FOOL 16話[PINO](2008/02/14 21:34)
[16] THE FOOL 17話[PINO](2008/02/19 21:07)
[17] THE FOOL 18話[PINO](2008/02/22 08:05)
[18] THE FOOL 19話[PINO](2008/02/25 07:11)
[19] THE FOOL 20話[PINO](2008/03/02 21:27)
[20] THE FOOL 21話[PINO](2008/03/03 07:13)
[21] THE FOOL 22話[PINO](2008/03/04 20:01)
[22] THE FOOL 23話[PINO](2008/03/08 21:11)
[23] THE FOOL 24話[PINO](2008/03/11 07:13)
[24] THE FOOL 25話[PINO](2008/03/14 06:52)
[25] THE FOOL 26話[PINO](2008/03/17 07:07)
[26] THE FOOL 27話[PINO](2008/03/22 07:36)
[27] THE FOOL 28話[PINO](2008/03/26 07:27)
[28] THE FOOL 29話[PINO](2008/03/23 19:55)
[29] THE FOOL 30話[PINO](2008/03/26 07:18)
[30] THE FOOL 31話[PINO](2008/03/31 19:28)
[31] THE FOOL 32話[PINO](2008/03/31 19:26)
[32] THE FOOL 33話[PINO](2008/04/04 07:35)
[33] THE FOOL 34話[PINO](2008/04/04 07:34)
[34] THE FOOL 35話[PINO](2008/04/05 17:25)
[35] THE FOOL 36話[PINO](2008/04/07 18:44)
[36] THE FOOL 37話[PINO](2008/04/07 19:16)
[37] THE FOOL 38話[PINO](2008/04/08 18:25)
[38] THE FOOL 39話[PINO](2008/04/10 19:25)
[39] THE FOOL 40話[PINO](2008/04/10 19:10)
[40] THE FOOL 41話[PINO](2008/04/12 17:16)
[41] THE FOOL 42話[PINO](2008/04/14 17:51)
[42] THE FOOL 43話[PINO](2008/04/18 08:48)
[43] THE FOOL 44話[PINO](2008/04/25 08:12)
[44] THE FOOL 45話[PINO](2008/05/17 08:31)
[45] THE FOOL 46話[PINO](2008/04/25 08:10)
[46] THE FOOL 47話[PINO](2008/04/29 06:26)
[47] THE FOOL 48話[PINO](2008/04/29 06:35)
[48] THE FOOL 49話[PINO](2008/05/08 07:16)
[49] THE FOOL 50話[PINO](2008/05/03 20:16)
[50] THE FOOL 51話[PINO](2008/05/04 19:19)
[51] THE FOOL 52話[PINO](2008/05/10 07:06)
[52] THE FOOL 53話[PINO](2008/05/11 19:10)
[53] THE FOOL 54話[PINO](2008/05/11 19:11)
[54] THE FOOL 55話[PINO](2008/05/14 07:06)
[55] THE FOOL 56話[PINO](2008/05/16 19:52)
[56] THE FOOL 57話[PINO](2008/05/23 18:15)
[57] THE FOOL 58話[PINO](2008/05/23 18:13)
[58] THE FOOL 59話[PINO](2008/05/23 20:53)
[59] THE FOOL 60話[PINO](2008/05/25 09:33)
[60] THE FOOL 61話[PINO](2008/06/02 18:53)
[61] THE FOOL 62話[PINO](2008/06/07 09:36)
[62] THE FOOL 63話[PINO](2008/06/05 20:12)
[63] THE FOOL 64話[PINO](2008/06/11 17:41)
[64] THE FOOL 最終話[PINO](2008/06/11 17:42)
[65] あとがき[PINO](2008/06/11 17:42)
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[2521] THE FOOL 40話
Name: PINO◆c7dcf746 ID:a7093543 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/04/10 19:10








橋を越え、社の中へとやって来た『天の箱舟』の永遠神剣マスター達。
彼等を迎えたのは、黒髪の落ち着いた雰囲気の女性だった。
お姉さん系でも、フランクな感じだったヤツィータとは違い、彼女は清楚な美人系だ。

「ようこそお越しくださりました。私は倉橋環。
倉橋家の当主で、この出雲の守護を仰せつかっております」

黒髪の落ち着いた雰囲気の女性は、そう言って会釈をした。
おそらく巫女なのだろうが、どうしてこんなヘソだしルックのエキセントリックな巫女服なのか、
浩二は理解に苦しむのだが、望は環の事を知っているらしく、驚いたような顔をしていた。

「環さん」
「お久しぶりです。望さん」

どうやら、彼女と望は以前に元の世界で会った事があるらしい。
まだ、永遠神剣マスターとして覚醒する前―――
物部学園をミニオンが襲い、異世界に旅立つ運命の日より前のこと。

その当時はまだ、ジルオルが覚醒しようとしている故の苦しみとは解らずに、
原因不明の頭痛だと思って、帰宅の途中に道端で苦しんでいた望は、
偶然通りがかった環に、不思議な力で頭痛を治してもらい、助けてもらったのだそうだ。

「う~っ」

望と環が話している端には、綺羅が唸りながら浩二を睨んでいる。
なし崩し的に、まんまと自分もここに入ったのがお気に召さないらしい。
浩二は、そんな綺羅の視線など何処吹く風。環に頼んで自分もここにいても良いという許可を受けたので、
実に堂々とした佇まいで、望と環の話を聞いていた。

「あの、倉橋……さん? どうして、あなた方は私達の事を」

それは、みんな気になっている事だった。
綺羅が出迎えてくれた時に、彼女は浩二以外の名前を全員知っていたのだ。

「環でいいですよ。沙月さん。そうですね、皆さんは驚くかもしれませんが……
ナルカナ様は、貴方達をずっと見ていらっしゃいました。望さんが元の世界にいらっしゃった時から」

それはすなわち、完全に最初からと言う事だ。

「そして―――」

環がそう言葉を続けようとしたその時であった。
襖が開いて一人の男が姿を現したのは。

「この出雲は、我々『旅団』とも友好関係にあるからな……おまえ達の事は話してある。
ついでに言うと、以前おまえ達の世界に物部学園と学生を戻した時、
事後の混乱を防ぐために情報操作を依頼した組織がここ―――出雲だ」

「え、ちょっと……嘘!」
「サレス!」
「どうしてここに!?」

沙月と浩二と望。三人が唖然とした表情で、まさかのサレス登場に目を見開いている。
サレスは、全員の姿を軽く見渡すと、フッと笑った。

「今までの事情は、おまえ達が寄越したスバルから聞いた。
時の止まった世界を元の形に戻し、望に浄戒の力を取り戻させ……
暁天のマスターとの戦いに赴くという所までな」

「スバルは、そっちにちゃんと辿り着いたのか?」

「ああ。今は治療を受けている。
本人は自己再生でもどうにかなるレベルの損傷だと思っていたようだが……
おまえ達が、魔法の世界に寄越したのは正解だ。あれは、そんなレベルの負傷じゃない。
自己修復なんかで済ませていたら、後2~3年と持たなかっただろう」

そう言って、サレスはやれやれと首を振る。

「まぁ、安心しろ。今は魔法の世界の技師達が、最先端の修理を行っている。
修理に時間はかかるだろうが……必ず元どうりになる筈だ」

「そっか……」

ホッとした様子の望。あの時『天の箱舟』に無理して加えていたら、
大変な事になっていたという事実に安堵する。

「いやまて! サレス」
「……何だ?」

「スバルが、ちゃんと魔法の世界に辿り着き、治療すれば治るってニュースは嬉しいが、
まずは質問に答えてくれ。もう一度言うぞ。何でアンタがココにいる?
旅団と出雲が同盟関係だからって、俺達がここに来るかどうかなんて知らないはずなのに……」

浩二がそう言うと、サレスは笑った。

「偶然鉢合わせた訳ではないさ『光をもたらすもの』―――
すなわち、その裏にいる理想幹神と戦うならば、遅かれ速かれ、お前たちはココに来る事になる。
ナルカナの協力得ずして、彼等を倒す事などできないだろうからな。
だから、スバルに話を聞いた後、ここで待っている事にしたのだよ」

「……アンタ『光をもたらすもの』の裏に、理想幹神がいる事を知っていたのか?」
「当然だろう。旅団の真の目的が理想幹神の打倒なのだから……」
「っ! 理想幹神が裏にいると知ってるなら、何で教えてくれなかったんだ」

浩二とサレスの会話に望が口を挟む。
サレスは望を一瞥すると、ふぅと溜息をついて肩を落とした。

「これについては、私のミスだったと言う以外に無いな……
まさか、おまえ達が理想幹神まで辿り着けるとは思っていなかった。
彼等の尖兵である『光をもたらすもの』の活動を邪魔するのが精々だろうと侮っていたのだから……」

「随分と侮られていたモンだな。俺達も……ええ、おい?」
「まぁ、そう怒るな斉藤浩二。ある意味私は、おまえ達『天の箱舟』を認めたのだから」

そう言って、壁に背を預けて会話を聞いていた絶に目を向ける。

「……誰の力も借りずに、自分達だけで浄戒の力を取り戻しただけではなく、
『光をもたらすもの』を壊滅させ……そこに『暁天』のマスターがいるという事は、
彼とも和解したという事だろう? おまえ達が、そこまでやれるとは思って居なかったよ……」

「…………」

確かに、言われてみればそうかもしれないと浩二は思う。
自分がサレスの立場ならば、こんな寄せ合いのガキだけで作ったコミュニティーが、
旅団でさえ手を焼いていた『光をもたらすもの』を撃破し、
その裏にいる存在まで辿り着けるとは思わなかった筈だから。

「誇ってもいいのだぞ。世刻望―――
おまえを不要だと言った私に……どんなものだ。ざまをみろと」

「……なぁ、サレス……そこで俺がアンタの言うとおりに、
ザマーミロなんて言って笑ったら……まるっきりガキじゃないか」

「―――フッ。そうだな……」

くくっと笑うサレスを見て、浩二は思った。
絶対にコイツ。俺達をからかって楽しんでいると。
ついでに俺なら、ガキだと思われてもきっとザマーミロと言っただろうと。

「話を元に戻そう。私は、おまえ達よりも3日ぐらいは早くついたので、
先に彼女からおまえ達の事情を聞かせてもらった。暁絶との交戦の後……
理想幹神が現れ、永峰希美を前世の神に戻して、理想幹に連れ去って行ったそうだな?」

「……ああ」

サレスは下がってきた眼鏡を上に押し上げる動作をする。
その顔は、微かに笑っていた。

「もったいぶる訳ではないが……状況を知りえた理由はナルカナから直接聞け。
私も彼女に聞いたから、おまえ達の状況を知っているのだからな。
まずはナルカナに会って来い。話の続きは、それからにしよう」

そう言って、環に視線を向ける。すると、環は小さく頷いた

「はい。ナルカナ様も、望さんが来るのを首を長くしてお待ちです」
「むぅ……」

望が唸る。そんな望に、絶が苦笑しながら肩を叩く。

「ここまで来たんだ。焦る事は無いさ。
その、ナルカナがここに来るまで、待っていればいいだけの話だろう?」

「絶……そうだな」
「いえ、それが、その……」

絶と望のやり取りを聞いていた環が、申し訳なさそうな顔をする。

「ナルカナ様にお会いになるためには、これより先の祠に赴かねばなりません。
そして、その祠へ向かう道中には、この出雲を守護する防衛人形―――
まぁ、貴方達にはミニオンと言った方が解りやすいかもしれませんね。
もっとも、ミニオンより数段上の力を持っていますが……
望さん達には、その防衛人形が警備する山道を越えていただかねばなりません」

「何だとっ!」

驚く絶。それは他のメンバーも同じだったようで、何故そんな事をという顔をしている。

「ナルカナ様が言うには、それぐらいの試練を越えられないようでは、
私と会う資格など無いとの事です……」

「ちょっと、何それ? 自分で呼んでおいて試練ですって!」

沙月が怒っている。環は、そんな彼女に申し訳なさそうに言葉を続ける。

「はい。それも、皆様一人ずつ順番に向かい……
防衛人形が防衛する中継地点を、それぞれ一人で突破して頂かねばなりません」

「フッ。なるほど、仲間と協力してではなく……
各人の実力だけで来い。か―――」

「それに、制限時間をつけさせて貰い、
それまでに全員が来なければ、私は会わないと仰ってました」

「やれやれ。制限時間付きか……まるでゲームだな……」

呆れたような絶。彼の言うとおり、ゲームみたいな趣向だった。
皆の中でのナルカナ像が、いろいろと崩れていく。
今までは、全てを見通す力を持ち、出雲という組織の頂点に立つ、
『旅団』の団長サレスでさえ一目置いている実力者という、固いイメージだったのだが、
こんなゲームみたいな趣向を凝らす辺りは、まるで子供だと。

その後、環から試練と言う名のゲームの内容を聞いた浩二は、
とりあえずメモをとっていたのを、自分なりに纏めて皆の前で確認をとる。


「それじゃ、このナルカナへの道(仮)のルールを説明するぞ……

一つ。天の箱舟のメンバー達は、三十分ごとに一人ずつ、この社をスタートする。

二つ。ナルカナの待つ祠に辿りつくためのルートは二つ。
   山越えになるが敵の少ないAルート。麓を走るので距離は短いが、敵が多いBルート。
   そのどちらにも中継地点の鳥居があり、そこを潜らなければならないので、
   AかBのルートのどちらかを必ず進まなければならない。

三つ。制限時間は二時間。たとえ祠に辿り着いても、制限時間が過ぎていれば失格。
   防衛人形に敗北しても失格。しかも、メンバーの内一人でも失敗すれば、
   それは全員の失敗とみなし、もう一度全員がスタート地点からやり直しである―――以上」


ルールを纏めたモノを読み上げた後に、浩二は状況を整理する。
天の箱舟のメンバーは、望、沙月、カティマ、ルプトナ、ユーフォリア、絶に自分。
希美は今居ないので計7人。初回で全員が成功したとしても5時間ほどかかる。
こんなモノを何度も失敗していたら、いつナルカナに会えるのか解ったものではない。

「えっと……今の時間が夕方の4時だから……一回で上手く行けば、
今日の21時頃には、みんな向こうで合流できるわね」

沙月が腕時計を見ながら言う。

「もうっ、こんなゲームに何度も付き合ってる暇は無いから、
一回でクリアするわよ。みんな!」

「ええ。それが条件ならクリアしてみせますよ。
俺は、一刻も早く希美を助けにいかなきゃならないんだから」

「はい。そうですね、一度でみんなクリアしましょう」
「ねぇ、浩二……ボク、意味がよく解らなかったんだけど……」

「えーっと、とにかくみんなが二時間で、
そのナルカナさんがいる所に辿り着けばいい訳ですね? おにーさん。
それなら、二時間もいりません。山道なんて無視して、ゆーくんで飛べば―――」

沙月が檄を飛ばすと、望が力強く答え、カティマがそれに続く。
精神的お子様と、正真正銘お子様の二人は、一度の説明では全てを理解できなかったようで、
メモを持っている浩二の所へとやってくる。

「ユーフォリア……AかBのルートを通って、中継地点を越えなきゃダメだっての……
ルプトナ。おまえは後で地図にルートを書いてやるから、そのコースどうりに進むだけでいい」

途端にがやがやと騒がしくなる社の中。
絶は、まるで林間学校のレクリエーションみたいだなと苦笑していた。

「あの、それでは皆さん。今日は寝所と夕餉の用意してますので、そこでお休みください」
「……え? 環さん。今から行っちゃダメなんですか?」

望が不思議そうな顔をすると、環は苦笑しながら答える。

「今からスタートしたら、ナルカナ様の祠に皆さんが辿り着いた時にはもう夜です」
「別に俺達は気にしませんけど?」

「いえ、その。ナルカナ様が気になさるのです。
夜遅くまで起きているのは、美容に良くないとかで……
そんな時間に押しかけたら、機嫌を悪くしてしまいます……」

何処までも自分の都合を通す女ナルカナ。それがナルカナクオリティー。
仕方が無いので『天の箱舟』のメンバーは、環の言葉に甘えて、
今日はここで一泊する事になったのだった。




**********************





『ふぅ……これも、巡り合わせっちゅうのかなぁ……』
「あん? どうした。最弱……溜息なんか吐いて……」

夜。浩二は一人で境内の中を散歩していた。
白い砂利道を音を立てながら歩き、座るのに適当な岩が見つかったので、そこに座る。

『いやな。ココに来る途中にものべーの中で世刻から、
この出雲の場所を聞いたっちゅー巫女さんについて聞いたやろ?』

「ああ。えっと……確か倉橋時深さんだろ?
環さんと同じく、ナルカナを守護する倉橋って一族の……」

『そうソレ。倉橋時深女史。その人、ワイ知っとりまんねん』
「ほう……そう言えば、おまえ……この世界の事も知ってたよな?」
『相棒の所に来るまでに、おった事のある世界やからな。ココ……』

「あれ? それじゃあ、あのえーっと……そう、岬今日子。
岬今日子さんや碧光陰ってヤツが住んでたのがこの世界か?」

『そうや』

浩二の言葉を『最弱』が肯定する。
しかし、その時。雑木林の中から一人の巫女が現れた事により、会話が止まった。

「あら。懐かしい人の名前を口にする人が居ますね」
「―――っ! 誰だ!」

浩二は飛びずさって『最弱』を構える。すると、手に収まってる『最弱』が叫んだ。

『やめぇや。相棒! 敵やない! この人が倉橋時深女史やねん!』
「……え? この人が……」
「はい。倉橋時深と申します……どうぞ、お見知りおきを……」

にこりと笑う時深。その顔に敵意は見られなかった。
浩二はフーッと大きく溜息をついて『最弱』を下ろす。
時深は、終始穏やかな顔していたが、彼女に声をかけられた時、背筋が凍るかと思ったのだ。
浩二がそう感じたのを『最弱』は知っている。そして、その認識は正しいとも思った。

「……あ、えっと……斉藤浩二です」
「浩二さんですね? 私も、そちらに行ってよろしいでしょうか?」
「あ、はい」

頷いて答える浩二。そして、心の中で『最弱』に声をかける。

(おい、最弱! 彼女……もしかして、エターナルか?)

『そうや。それも極上のや……今の相棒でも、
正面からやりあったら一分も持たずに殺されるで?』

(……俺、少しは強くなった筈なのに、それでも一分もたねーのかよ……)

『相棒が今まで見てきた、どの永遠神剣のマスターよりも彼女の神剣は格上。
潜ってきた修羅場の数も、戦ってきた数も質も、桁外れに違うねん……ついでに年齢も……』

「―――そこっ! 今、何かいいましたか!」
「ひいっ!」

浩二は突然怒鳴られてびっくりする。思わずひいとか言ってしまった。

「な、何も言ってないであります。サー」
「そうですか……今、何やら不愉快なモノを感じたので……」

そう言って穏やかに笑うが、怒鳴ったときの彼女は修羅のようだった。
斉藤浩二にして、トラウマになりかねない程の怖さだった。

「よっと」

彼女は、浩二が先に座っていた岩の近くにある、別の岩に腰を下ろして、
座って話しませんかと笑顔でいってくる。浩二はうなずいて、元の位置に戻った。

「いい月が出ていますね……こういう夜は散歩日和ですよね」
「そ、そうですね」

「あの、つかぬ事をお聞きしますが……貴方は何者なのでしょうか?
それに……その不思議な力の波動の永遠神剣……どうやら、私の事だけじゃなく……
私の友達についても知っているようなので、思わず声をかけちゃいましたけど」

時深がそう言って尋ねてくると、浩二は何と言ったモノかと考える。
しかし、自分以外とは殆ど会話をしない『最弱』にしては珍しく、
自分から時深の質問に答えるようだった。

『岬今日子が持っていたハリセン……覚えてまっか?』
「ええ、もちろん。ユートさんや光陰さんが、よくそれでシバキ倒されていましたからね」

くすくすと、口元に手を当てて笑う時深。

『ワイ。そのハリセンやねん』
「―――え? そんな、まさか……」

『信じられへんかもしれんけど、事実や。
まぁ、もっともあの時はワイのマスターがおらなんだで、話すことはできへんかったけど』

「まってください。今日子さんのハリセンは何度か見ていますが、
永遠神剣であるなら、この私が気づかぬ筈がありません」

『永遠神剣やないからな。ワイは……名を『最弱』いいまんねん。
反永遠神剣『最弱』……天位、地位、そのどちらにも属さず、位さえも持たぬ……
神のツルギ永遠神剣に抗う為に生まれた、世に一本だけのヒトのツルギ……それがワイや』

それから『最弱』は反永遠神剣について時深に語る。
その能力、生い立ち、どうして今は浩二の手にあるのか、それを語る。
時深は、その説明を全て聞き終えると、ふうっと息を吐いた。

「永遠神剣を全て消滅させる……そのような事、できると思っているのですか?」
『そりゃ無理やろ』

あっさりと、自分の目的を無理だと認めてしまう『最弱』に、
身構えて聞いていた時深が、おもわずズッコケそうになる。

「なら、貴方。いったい何なんですか?」

『いやいや、そんな呆れたように言わんでくれまへんか?
常識的に考えて無理やろ? 永遠神剣の第一位は、どれも変態どころか、
究極変態レベルの力もっとるんやで? 二位や三位かて、ド変態レベルや。
そんな変態共を相手に、たった一本のワイが太刀打ちできる訳ないやろ?』

自分達の神剣を変態呼ばわりされるのは不愉快だが、確かにその通りだ。
全ての永遠神剣を屠る事のできる存在などいたら、今頃はとんでもない事になっている筈だから。

「……じゃあ、貴方の目的は?」

『そうやな。精々が、永遠神剣の絶大な力で好き勝手やりおるアホ共に、
人間なめんなってツッコミの一つも入れてやって……
嫌がらせに、奇跡の一つや二つを消したって、驚くアホ面にざまみろって笑ったれればええねん』

そういう『最弱』の言葉に、浩二はうんうんと頷いていた。
そして、やはりこの神剣は最高だ。まさしく俺の剣だと確信する。

「はぁ……」

毒気を抜かれたように溜息を吐く時深に、浩二が声をかける。

「それで……貴方は、エターナルである貴方は……
……反永遠神剣のマスターである俺を消しますか?」

「…………」

「俺、コイツの……『最弱』のマスターを辞めるつもりはありませんよ?
貴方が反永遠神剣の存在を認めぬと言うのなら、その時は全力で抗います。
知恵、力、精神力……そして、仲間……望達には迷惑な話かもしれないけど……
俺の持てる全部を出して、理不尽な暴威に立ち向かいます」

そう言って、浩二は気を発する。
時深はそんな浩二に両手をあげて首を振った。そのつもりは無いという事だろう。

「今日聞いた事……全部、私の胸の内に閉まっておきます。
私も……今でこそエターナル……永遠存在ですが、元は人間だったんです……
それが、ヒトの想いから生まれた小さな灯火を消すなんて、したくありません」

『アンタなら、そう言ってくれると思ったわ。
いや、ホンマ。ええ女やで。ユートはんも、見る目が無いんとちゃいますか?』

「っ―――ですよねっ!」

『最弱』の言葉に、目を輝かせると、がばっと体を起こす時深。

「あのヘタレ。絶対に見る目ないですよね!」
『おう。まったくその通りや。豆腐の角に頭ぶつけて死ねばええねん』
「……それは言いすぎです」
『……はい。すんまへん。ちょっと、調子こきました』

色々と女心は複雑だ。その後、時深と『最弱』は昔話に盛り上がり、
浩二をそっちのけで、ファンタズマゴリアだか何だかの世界での話を始めるのだった。

「彼が『求め』を失って、エターナルになる時……
誘いの巫女である私と契りを結ぶ時、どんなだったか知ってます?
いつまでもグダグダと言ったり、考え事してたり……
私だって、一世一代の覚悟を決めて臨んだのに、それは無いでしょう!
あれ、ある意味女としての私を全否定したに等しいですよ」

『ダッハッハッハ! マジかいな? ハーッハッハッハ! 
据え膳食わぬは男の恥いいまんねんけど……プッ―――ククッ……
ホンマにそんな男がおったんかいな。ワイなら泣いて喜びまんねんけどなぁ』

「そうでしょう。そうでしょう」

うんうんと頷く時深。何だか話しが、ユートって人の事になってから、
妙な方向に進んでいるなぁと思う浩二。
それと同時に、俺だけ部屋に戻ったらダメかなとか考える。

『そう。そうや時深はん。聞いておくんなはれ』
「ん? 何ですか?」

『ワイの相棒。アレだけの綺麗どころと一緒に行動を共にしとるのに……
興味が無いばかりか、世刻とか暁はんの好感度ばかりあげとりまんねん。
これ、どー思います? 相棒とは心が繋がっとるねんから、
彼等を性的な意味で好きや無いっちゅーのは解りまんねんけど……傍から見たらガチホモやねん。
友情なんてモンはな。中学生までや。それより上にあがったら恋愛やろ。
それが正しい思春期の在り方やろ? なのにもーこの男は……』

「浩二さん……ガチホモなんですか?」
「全力で否定します」

何だか話しが、とんでもない方向に進んできたと思う浩二。
『最弱』だけなら、叩きつけて黙らせるが、時深がいるのでそれができない。
コノヤロウ。部屋に戻ったら覚えてろよと浩二は誓う。

「ダメですよそれは。そんな男の子が、女の子とベッドインする時に、ヘタレた事を言うんです」

「大丈夫です。その時はきちんとやりますので。
むしろ、テンション上がり過ぎてギャグになるんじゃないかと思うぐらいに」

こんなアホらしい説教など受けたくないので、浩二は全て聞き流す事にした。

「シミュレートは完璧です。ホテルに入ったら―――
ひゃほー! やってるぜーーっ! 俺のあそこは、さっきからずっとオーバードライブが止まらない。
見てホラ、こんなにエクスプロードしてるだろ? パッションがたぎっている証拠だよ。
リープチャージは十分だ。いつでも行けるぜ! キミのあそこにパワーストライク。
おら、行くぜ! スイングダウン! スピカスマッシュ! って、もうダメだーーっ!
ホーリーがでるううううううっ―――てね」

「ブッ―――! あっはっはっはっは!」
『ハッハッハッハ! アーッハッハッハ! 面白い、それオモロイて、相棒!』

噴き出す時深と、爆笑する『最弱』
時深は爆笑のあまり岩から滑り落ちて、そのまま地面をダンダンと叩いている。
『最弱』も、身体を捻らせて笑っていた。



「あっはっはっは……って、俺……
永峰が攫われて大変な時だって言うのに、何でこんな事をやってんだろう……」



そう呟いて、少しだけ鬱になる浩二。
しかし、その翌日には更に鬱にならざる得ない事を言われるのを、彼はまだ知らなかった……





*********************





「―――え? あの……環さん?
もう一度、言ってくれないでしょうか?」

聞き間違いだよな? 聞き間違いであってくれと言わんばかりの浩二。

「……あの、ですから……
浩二さんは、祠を目指す試練を受けなくて良いってナルカナ様が……」

「何故です?」

「それは、これを持って街に繰り出し、ナルカナ様の素晴らしさを伝える事が、
貴方の試練であると、ナルカナ様が仰ったからです」

「……それで、この鉢巻を頭に巻いて、襷をかけて……
のぼりをおっ立てて、マイクを片手に、街でナルカナを称える演説してこいと?」

「……はい」
「それが、俺の試練だと?」
「……はい」
「……冗談ですよね?」
「本当です」

「…………」
「…………」
「…………」
「……ふ~~っ……………冗談?」
「本当」

「…………」
「…………」
「…………」
「……何故?」
「アンタ。面白いから―――だそうです」


超絶美女神ナルカナ様と明朝体で大書された鉢巻やら、
襷を見ながら言う浩二に、環は苦笑しながら言う。





「何だソレはあああああああ!!! 
こんな試練があってたまるかーーーーーっ! ボケーーーーー!!」





朝の境内に、浩二の声が響き渡るのだった……








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