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No.21322の一覧
[0] とある転生者の麻帆良訪問(ネギま!×とある魔術の禁書目録 オリ主憑依)[カラーゼ](2010/10/31 15:16)
[1] 第1話[カラーゼ](2010/09/04 00:26)
[2] 第2話[カラーゼ](2010/09/04 00:28)
[3] 第3話[カラーゼ](2010/08/21 12:48)
[4] 第4話[カラーゼ](2010/09/04 00:29)
[5] 第5話[カラーゼ](2010/09/04 00:32)
[6] 第6話[カラーゼ](2010/09/04 00:33)
[7] 第7話[カラーゼ](2010/09/04 00:35)
[8] 第8話[カラーゼ](2010/09/04 00:38)
[9] 第9話[カラーゼ](2010/08/24 20:46)
[10] 第10話[カラーゼ](2010/09/04 00:41)
[11] 第11話[カラーゼ](2010/08/25 23:45)
[12] 第12話[カラーゼ](2010/09/04 00:42)
[13] 第13話[カラーゼ](2010/08/28 20:02)
[14] 第14話[カラーゼ](2010/08/28 18:04)
[15] 第15話[カラーゼ](2010/08/29 12:30)
[16] 第16話[カラーゼ](2010/09/04 00:43)
[17] 第17話[カラーゼ](2010/08/30 18:21)
[18] 第18話[カラーゼ](2010/08/31 22:41)
[19] 第19話[カラーゼ](2010/09/04 00:24)
[20] 第20話[カラーゼ](2010/09/03 22:22)
[21] 第21話[カラーゼ](2010/09/04 17:48)
[22] 第22話[カラーゼ](2010/09/05 23:22)
[23] 第23話[カラーゼ](2010/09/05 20:24)
[24] 第24話[カラーゼ](2010/09/06 20:43)
[25] 第25話[カラーゼ](2010/09/08 00:52)
[26] 第26話[カラーゼ](2010/09/11 21:59)
[27] 第27話[カラーゼ](2010/09/13 12:53)
[28] 第28話[カラーゼ](2010/09/15 14:10)
[29] 第29話[カラーゼ](2010/09/16 03:25)
[30] 第30話[カラーゼ](2010/09/19 00:34)
[31] 第31話[カラーゼ](2010/09/24 21:39)
[32] 第32話[カラーゼ](2010/09/30 00:28)
[33] 設定集[カラーゼ](2010/09/29 00:48)
[34] 第33話[カラーゼ](2010/09/28 00:13)
[35] 第34話[カラーゼ](2010/09/30 17:36)
[36] 第35話[カラーゼ](2010/10/04 23:06)
[37] 第36話[カラーゼ](2010/10/14 12:10)
[38] 第37話[カラーゼ](2010/10/14 23:18)
[39] 第38話[カラーゼ](2010/10/31 15:29)
[40] 第39話[カラーゼ](2010/11/07 15:05)
[41] 第40話[カラーゼ](2010/11/08 01:44)
[42] 第41話[カラーゼ](2010/11/10 01:14)
[43] 第42話[カラーゼ](2010/11/12 01:21)
[44] 第43話[カラーゼ](2010/11/21 20:08)
[45] 第44話[カラーゼ](2010/11/21 20:12)
[46] 第45話[カラーゼ](2010/12/06 16:45)
[47] 第46話[カラーゼ](2010/12/06 16:48)
[48] 第47話[カラーゼ](2010/12/05 13:38)
[49] 第48話[カラーゼ](2010/12/19 02:01)
[50] 第49話[カラーゼ](2011/01/17 16:43)
[51] 第50話[カラーゼ](2011/03/29 01:58)
[52] 第51話[カラーゼ](2011/05/29 01:44)
[53] 第52話[カラーゼ](2011/08/18 15:44)
[54] 第53話[カラーゼ](2011/09/03 18:05)
[55] 第54話[カラーゼ](2011/11/04 21:57)
[56] 第55話[カラーゼ](2012/08/27 00:24)
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[21322] 第53話
Name: カラーゼ◆68f6dca0 ID:347ab112 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/03 18:05
SIDE 一方通行

「ですから焼肉は市販のタレじゃなくてポン酢の方が絶対に美味しいんですって!!」
「ステーキの間違いじゃねェのか?」
麻帆良では珍しい、日の光が差さない空の下。
俺と愛衣は商店街の一角で、相変わらず不毛な言い合いを続けていた。
何故か焼き肉でタレではなくポン酢を強固に主張する愛衣と、それを総スルーしてステーキ用の肉を肉屋のおっさんから買う俺。
案外珍しい……というよりは、初めての組み合わせかもしれない。
そう思いながら、俺はどうしてこんな面倒なことになったか思い出してみる。
喧しい愛衣の声を反射で遮断しながら、である。
ことの発端は、ミサカの一言であった。

『今日の晩御飯はお肉ですねー、とミサカはダラけきった正義を主張するためにソファーに寝転びます』

言葉通り、完全にやる気の欠片もない様子だった。
ミサカは基本的に真面目なので、ああやってゴロゴロしているのは珍しい。
いつもソファーに寝転んで本を読んでるかソファーに座って勉強してるかソファーに座って高音とかと話しているんだが……よく考えたら料理する時以外はソファーから動かないな、あいつは。
いや、それにしても今日のグータラ感は凄まじかった。
また学校で誰かに妙な事を吹き込まれたのか、ネットで変なサイトを見つけて働きたくない症候群にでもかかったのか。
とにかく変だったので、とりあえず高音に言って外に連れ出させ、その間に俺と愛衣で買い物をするという珍しい組み合わせになったわけだ。
とりあえず面倒なミサカは高音に押し付けてしまって、愛衣は楽そうな方に逃げてきた感じである。
愛衣は愛衣でミサカのことが気になるようだったが、妙なところでこだわりがある愛衣は焼き肉のタレとポン酢についてのことで頭がいっぱいになっていてそれどころじゃないらしい。
その愛衣は、俺が反射で無視していることにようやく気付いたのか、視界を妨害することでなんとか気を引こうとしているようだ。
前に回って目隠しをする、という愛衣なりに精いっぱい考えた気の引き方のようだったから、しょうがなく反射を解除して話を聞くことにする。
「なンだ、騒々しいな」
「騒々しくさせてる本人が何を言ってるんですか何を!!」
案の定キレてきたため、俺はポケットをごそごそと探る。
「あァあァ悪かった。飴玉やるから許せ」
「え、ホントですか―――って、私は子供じゃないですよ! 飴玉ごときで機嫌を取るとか、中学生をバカにしすぎです!」
「贅沢な奴だ。最後の一個だったのによ。しょォがねェ俺が食うか」
「でもタダでくれるんだったらもらいたいですってあーッ!? 今私の言葉を確認してから食べましたよね!? 思いっきりこっち見てましたよね!?」
「イチゴ味か。意外とイケるじゃねェか」
「こっちの言葉完全無視ですかッ!?」


相変わらず愛衣をいじるのは楽しい。


高音というストッパーがいないから尚更だ。
そう思いながら、俺はイチゴ味の飴を舐めながら歩いていく。
後ろでぶーぶー言っていた愛衣は、俺がポケットから出したメロン味の飴で機嫌を直したようだった。
最後の一個だというのは、結局愛衣を釣るためのウソだったりする。
幸せそうに飴を口の中で転がす愛衣を横目で見て、やっぱりガキには飴玉だと再認識した。
今までいた商店街を出て、俺たちはどこにでもあるような小さな公園に通りかかる。
ずいぶんと新しい。
横にゴミ捨て場があることから、新しいゴミ捨て場を作るついでに作ったんだろうという何の根拠もない予想を立てる。
最近この辺りを通ることはなかったから、その間にできたのだろう。
その予想だけは間違っていないはずだ。
まさかこの年齢でボケたわけじゃあるまい。
俺がその公園に意識を向けていることがわかったのか、愛衣がそっちの方に視線を向ける。
「公園がどうかしたんですか、アクセラレータさん」
「別に」
本当にどうでも良い話なので、俺はさっさと話題を流すことにしてその場から立ち去ろうとした。
その時、愛衣が少し素早い動きで俺の進路を阻害する位置にやってきた。

いわゆる通せんぼである。

ふざけているのなら足を止めずに撥ね退けてやろうかと思ったが、真剣な顔をしていたため、足を止める。
ちょうどその位置は、公園を通り過ぎる少し前。
ゴミ捨て場の前であった。
「アクセラレータさん、ちょっと寄って行きましょうよ」
その声は、ふざけているにしては若干トーンが低いものだった。
話がしたい―――そういうことだろう。
ふらりと公園の方に視線を向けると、あつらえたかのように小さなベンチがある。
ため息をつかずに、短く頷いた。
自動車が侵入できないように突き刺さっている金属棒の間を通り過ぎ、砂地を踏む。
小学生が遊んだのだろうか、雨が降ったため湿っている砂地の上には、いくつもの足跡がある。
小さな記録を俺たちの大きな足で塗り替えながら、俺はどっかりとベンチに座った。
真新しい木でできているベンチは湿っていたため、愛衣は柵に寄りかかる形になる。
泥の中で転がっても汚れ一つつかない反射のおかげで、ベンチに座っても尻が濡れずにすむのだ。
若干それを羨ましそうに見ていた愛衣だったが、頭を軽く振って真剣な顔に戻る。
そろそろ感情をそのまま表に出すのを控えて欲しい、と思う。

もう小学生じゃないんだし。

中学2年生である彼女にはとても失礼なことを思ったが、否定する気は起きなかった。
まあ見習う先輩が高音だからどうしようもないか。
俺はベンチに座りながらぐるりと首を回して、膝の上に頬杖を突く。
そのまま、横目で愛衣を見上げた。
「で、何か話があると見たが……何の話だ?」
単刀直入に聞くことにする。
それは以前からの俺のスタンスなので、愛衣もすぐに対応してくれた。
「桜咲さんのことです」
意外な話題と言えば意外な話題のため、俺は片眉を上げる。


停電に近づくにつれ付き合いがなくなってきた、というよりは俺の家に来ることが少なくなった刹那。


戦闘に備えて入念に鍛練しているんだろうと思っていたんだが、愛衣は何かが気にかかったようである。
どんな話なのか、興味がある。
俺は視線を前に戻すことで、愛衣に先を促した。
「このごろ、桜咲さんはアクセラレータさんの家に来てないじゃないですか。2,3日来ないのはたまにありましたけど、もうそろそろ1週間になります。お姉様も気にしてましたけど……何か、トラブルでもあったんですか?」
それを聞いて、俺は鼻を鳴らす。
「刹那に直接聞きゃァいいじゃねェか。同じ学校なンだろ?」
「そ、それは……なんというか、同じ学校でも雰囲気が違いすぎて入れないというか……」
まあ、気弱な愛衣だとあの濃いメンツがいる中に入っていけない、というのもわかる。
一応、その愛衣が教室に入ろうとしたくらいには心配していることを確認し、俺は続ける。
「正直に言うと、まったく覚えがねェ。停電の時も普通だったしな」
「また何か余計な事を言ったとかないんですか? アクセラレータさん、無自覚でそんなところがありますから」
「無自覚なら覚えてるわけねェだろォが」
頭を掻きながら、それなりに原因を考えてみる。
来ないことについて考えたことがない、というのは嘘だ。
刹那は個人的に頑張ることがあるんだし、忙しいんだろうと思っていた。
関西呪術教会の対策を練っているのかもしれないし。
それに、なんで俺の家に来ないのか、とわざわざ言いに行くのは変だ。
刹那は『相談があるから俺の家に来ている』のだから、来る来ないは彼女の勝手である。
俺が強制させる必要性は、まったくと言って良いほどない。
それなのに、どこか不完全燃焼な俺がいて、その事実にイラついてため息が出る。
「刹那が来よォが何しよォが、俺には関係ねェことだろ。結局、うるせェのが一人増えるだけだ」
「それはアクセラレータさんの意見ですよね? 私たちはちょっと寂しいんですよ。お友達と急に疎遠になったような気がして……」
「だから俺に動けってかァ? テメェ、そりゃお門違いって奴だ」
俺は頬杖をついていた頭を上げ、首を回して愛衣の方を見る。
先ほども言った通り、刹那が俺の家に来ることに対しての義務や、強制とかはない。
愛衣は、きっと刹那がこのまま俺の家に来ることがなくなって、疎遠になってしまうことが怖いんだろう。


愛衣は若干天然な所があるが、それ故に純粋で、優しい。


人との別れというのもつらいんだろう。
だが、世の中には出会いと別れっていうのはいくつもある。
今のうちにそれに慣れた方がいいんじゃないのか。
そう思いながら、俺はちょっと未来のことを想像する。
修学旅行を経験して、刹那はこのかとの付き合いが多くなるだろう。
それに伴って俺との付き合いが激減するのは、まず間違いない。
まあ、なんとなく疎遠に近いものになってしまうんだろうと思う。
残念な気持ちがないといえば嘘になるが、しょうがないと割り切っている自分がいる。
どうせ、刹那や愛衣、高音も、いずれ麻帆良を出ていく人間である。

俺もそうだ。

その時の別れが、若干早くなったのだ。
そう思っている自分がいるのである。
そしてそれを当たり前として受け止めている。
愛衣にはそれができないんだろう。
子供の我儘。
俺には、もうできないものである。
その愛衣は俺の言葉に動揺しつつも必死に言葉を探しているようで、しばらく黙っていた。
やがて、呟く。
「本当に、アクセラレータさんは桜咲さんが来なくなったことについてどうでもいいと考えてるんですか?」
「どォでもいいってわけじゃねェ。ただ、刹那にも事情があンだろォよ。それで忙しいから、俺のところに顔を出さねェンじゃねェか、とは考えてる。本人に聞いたわけじゃねェから、俺の推測になるがな」
ただ、俺は事情を知っているから納得しているだけだ。
愛衣のように、事情を知らなければ俺もちょっとは気にしただろうが。
「焦らず待てよ。刹那が麻帆良からいなくなったなンてことじゃねェンだから、そォ心配することじゃねェよ」
「……本当にそう思ってるってことは、知らないんですね。気付いてない、が正しいですか。アクセラレータさんらしいですけど」
突然、愛衣は愛衣らしくない口調で言った。
子供っぽくない、大人の口調。
壮絶な違和感と共に俺の耳に入ってきた言葉は、なんだかするりと頭の中に入ってきた。
その意味を理解して、俺は頭に血が上ってくるのが分かった。
「どォいう意味だ」
それは、俺が思っている以上に低い声だったのだろう。
愛衣が肩をすくませるのを必死に抑えたのが分かった。
何度も何度もドついているから、本能的に俺の威圧に反応してしまっている。
それに年月の経過を感じて、俺はほんのすこし落ち着くことができた。
しかし、それでもほんの少しでしかない。
俺の目は、しっかりと愛衣を睨みつけていた。
愛衣はその視線に応じて、一言一言、確かめるように言う。
「昨日からミサカさんの元気がないじゃないですか。その理由、わかってますか?」
それに対して、俺は首を振るしかない。
だが、癪なので反応せず、無視してやった。
愛衣はそれに構わず続ける。
「昨日、廊下で会ったときにちょっと相談されたんです。その時に聞いたんですけど―――」
らしくない前置き。
それが、今から言うことをためらっているように見えたのは、どうしてだろうか。
その疑問に答えが出る前に、愛衣は小さな声で言った。
「―――桜咲さん、なんですよ」






SIDE 高音・D・グッドマン

アクセラレータにミサカさんを連れ出せ、と言われた時は、正直に言って渡りに船だと思いました。
彼も今の状態のミサカさんには戸惑っていたようで、完全にその目が『なンとかしろ』と言っていたのを覚えています。
面倒事を押しつけられた状態になりますが、昨日の愛衣から受けた相談が本当なのかどうか確かめることができます。
しかし、それを言い出すタイミングがありませんでした。
あまりにも、ミサカさんの様子がおかしいから。
確かにいつもどこかぼんやりとしている所はありますが、それにしても今日の態度は異常でした。
基本的に辛口な所もあるミサカさんですが、根は非常に真面目です。
ああやってダラけている姿を見るのは、彼女に会って初めてでした。
しかも冗談ではなく、本気でダルそうでした。
それは今のミサカさんの状態を見るとよくわかります。
いつものミサカさんは、私以上に良い姿勢で歩いていました。
どこかで訓練でも受けていたんじゃないか、というくらい規則正しい動きで歩いています。
その美しいともいえる歩き方は、ある意味で尊敬してました、
しかし、今の歩き方は、まるで叱られた時の愛衣みたいでした。
擬音にするなら『とぼとぼ』が当てはまるでしょう。
夕立が降ってはいけないからと持っていた傘が、がりがりと路上のアスファルトを削っています。
ダラけているというよりは、落ち込んでいる、という風に見た方が良いでしょう。
何に落ち込んでいるのか、それは昨日に愛衣から聞いています。


原因は、桜咲さん。


愛衣によると、ミサカさんはこのごろ桜咲さんに避けられている、という自覚があるそうです。
停電から特にその様子は露骨で、ミサカさんから話しかけようとしても巧みに逃げられてしまうようです。
私は、愛衣が相談してきた時のことを思い起こします。
あれはどこかの道を歩いていた時でした。
「停電の前までは、教室だとちゃんと話してくれたみたいです。いつもと何の違和感もなかったそうですけど、停電の後、急に桜咲さんは態度を変えたみたいで……ミサカさんはどうしたらいいかわからなくなったみたいです。アクセラレータさんにも相談してなくて、ずっとため込んでたって言ってましたし」
そう言った言葉が、強く印象に残っています。
ミサカさんはいつもアクセラレータに突っかかったりしてますが、彼を頼りにしていることくらいは知っています。
結局、ミサカさんの保護者はアクセラレータですし、ここに来たばかりのミサカさんに世話を焼いていたのは彼なのですから、それは当然だと言えるでしょう。
そのアクセラレータに、相談していない。
なんというか、新しい方面での問題だと思いました。
むしろ誰にも相談できずに、まず愛衣に打ち明けることなんて……私が言うのもなんですけど、愛衣にはあまり頼れるところはないというのに。
それほど切羽詰まっていたんですね、と本人を前に思ったものです。
どうしてアクセラレータに相談しなかったのか、と私が尋ねると、愛衣はこう答えました。
「どうも桜咲さんに避けられている自覚がある、というのも勘で、アクセラレータさんに相談すると途端に大ごとになりそうだからと言ってました」
アクセラレータに迷惑をかけたくないのか、それとも桜咲さんに勘違いされたと思われるのが嫌なのか。
私にはわかりませんでしたが、どちらにしろ、ミサカさんはあまり事を大きくしたくないということはわかりました。

だったら、相談される相手としては私が適任でしょう。

ミサカさんの交友関係はほとんど3-Aですが、私は違います。
ウルスラに在学している私はあまり3-Aとの接点はなく、そのことについて彼女たちに話すこともないと思いますから。
そう思った私は、とりあえず無難に声をかけることにしました。
「ミサカさん、今日は元気がなさそうですけど、どうしたんですか?」
すると、ミサカさんはこっちをちらりと見た後に俯く。
「少し友人関係で悩んでまして、とミサカはため息をつきます」
実際にため息なんてついていませんが、そこには敢えて突っ込まないことにします。
おそらく気分的なものでしょうし。
そう思った私は、手ごろなベンチを見つけて、そこで話すことにしました。
雨が降っては困りますから、屋根のあるところで。
麻帆良はこういう細かい配慮ができているベンチが多いのですが、お金が有り余ってるんでしょうか。
そう思いながらベンチの上を手で払って、そこに座ります。
ミサカさんも私の隣に座りました。
覗きこんでみると、いつもの無表情がどこか疲れたように見えます。
いつも姿勢が良いミサカさんがふらふらしているからか、なんだかとても頼りなさそうに見えました。
「実は停電の前の話からになるのですが、とミサカは前置きをしながら話し始めます」
意外とミサカさんは自分の悩みを打ち明けることに対しては積極的でした。
私が尋ねなくても話していくその様は、まるで話す相手を求めているかのように見えます。
悩みの相談相手がアクセラレータ一本だったミサカさんにとって、気軽に相談できる相手がいなかったというのはとてもつらいことだったんだということがよくわかりました。
ミサカさんから聞いた話は、おおよそ愛衣が言った内容と同じものでした。

停電から桜咲さんと話してない、むしろ話しかけに行ったのに避けられる、ということ。

私はそれを頷きながら、相槌を返して話を聞いていた。
「なんだか、纏っている空気が変わったように感じられるのです。怒っているというよりは余裕がないというか……ミサカはよくわからないのですが、何か刹那さんが切羽詰まっているのではと思うのです、とミサカは続けます」
愛衣と話が違ったのは、ミサカさんがミサカさんなりに桜咲さんと話すことがなくなった理由を考えていたことでした。
話を聞いてまとめると、ミサカさんは桜咲さんの雰囲気を『怖い』と思ったそうです。
背筋がぞくっとするような、そんな恐怖を感じたらしいのです。
まさか殺気なんじゃないだろうか、と私は思った。
私が本気で背筋をぞくっとさせられた時といえば、鬼と戦闘をしていた時に致命的なミスをしたときと、部屋でゴキブリを見つけた時くらいです。
ゴキブリはともかく、戦闘でぞくっとさせられたことは何度もあるから、桜咲さんから放たれるそれは殺気なんじゃないんだろうか、と仮定してみます。


それをミサカさんに伝えようとして、やめます。


今のミサカさんも余裕がなさそうですから、私の中で考察がまとまってから伝えようと思いました。
ミサカさんが話すことはもう終わったそうなので、私から質問をさせてもらうことにします。
一番詳しく聞きたいのは、停電前後のこと。
それから態度が変わったんだから、そこに何かあったに違いありません。
理由がわかれば対策だってわかるはずです。
それを訪ねると、ミサカさんはこめかみの辺りを掻きながら、ぽつりぽつりと話し始めました。
停電が始まる前までは、桜咲さんの反応は普通だったらしいのですが、とりあえずその辺りから『話した内容』を重視して話を検証していきます。
停電前までは特に問題なく、たわいのない話。
できるだけ詳しく思い出してもらいましたが、クラスの中にいる人たちの話だとか、最近の時事ネタだとか、そんな話でした。

次に、停電中の話に移ります。

停電中は前に愛衣も言っていたのですが、ミサカさんは桜咲さんと組んで行動していたようです。
愛衣は息がぴったりあっていて凄いと言っていたのですが、どうやらミサカさんもそう思っているようでした。
そこからの会話は戦闘中だったのであまり覚えていないそうです。
最後に『凄く強い鬼』に遭遇して、それと戦っている最中にアクセラレータに助けられたそうですが、これはあまり関係ないでしょう。
その時のアクセラレータの態度も聞いてみましたが、どうやら非常に気が立っていたようで、桜咲さんを見た時も睨むような目つきだった、と話していました。
まさか桜咲さんがアクセラレータを恐れ始めた、なんていうオチはなさそうですが……一つの結論ではあるので、保留にしておきます。
そしてその鬼を倒した後、私たちもいたミーティングを終えた後、二人は一緒に帰ったそうです。
私は目を鋭くしました。
おそらく、何か問題があったのはそこではないかと考えたからです。
話を聞いていくと、いきなり衝撃の事実が。



「ミサカさんはアーティファクトを持っていたんですか!?」



「はい、まあ……とミサカは言葉を濁します」
これは私も初耳でした。
カードを見せてもらった所、どうやらヘルメット型のアーティファクトのようです。
無論、本契約ではなく仮契約カードでしたが、それよりも重大な問題があります。
これの相手が誰か、ということです。
まあ、ミサカさんのことですからどうせ一人しかいないでしょうけど。
どこかもじもじしながら、ミサカさんは仮契約の相手がアクセラレータであることを告白しました。
改めて聞いても、私の顔が引きつっているのが分かります。
よく私もテレビドラマは見ますが、なんというか、簡単な構図が頭の中で構築されてしまったのです。

桜咲さんがアクセラレータさんに好意を抱いているのは、私も愛衣も知っています。

本人は否定していましたが、あれは純粋な恋愛感情でしょう。
見ていて微笑ましくなるくらいの。
だからこそ、仮契約の相手を知った時の桜咲さんの衝撃は大きかったんじゃないでしょうか。
実際、私もかなり衝撃的でしたし。
彼のことはあまり悪いとは思っていないこともあって、少しだけ動揺しました。
衝撃的ではありましたが、あくまで動揺は少しです。
さて、桜咲さんが仮契約のことを知ってショックを受けたとして、私の中では奇妙な三角関係ができていた。
不謹慎ですが、ドラマか少女漫画にしかないような状況に、私はドキドキしてしまいました。
要するに、桜咲さんは勘違いをしているのではないか、と。


ミサカさんとアクセラレータが付き合っていて、桜咲さんはアクセラレータが好きなことに気づいて、それでショックを受けて―――考え続けて行くと止まりません。


桜咲さんは内に溜めこむタイプですし、そうやって一人で自己完結しそうです。
そうなっていくと、またややこしい事態だと思ってしまいます。
桜咲さんの思い込みとミサカさんの鈍感さ。
これが問題だったのでしょう。
そして、それから停電後の話を聞きましたが、やはりそれらは直接的な原因とは思えず。
やっぱり、結論としては私が今挙げた問題点のことなのでしょう。
納得した私がうんうん頷いていると、その様子をミサカさんが覗きこんできました。
「何かわかったのですか、とミサカは期待を込めて高音さんを見つめてみます」
わかったというか、これしかないというか。
というより、言いづらい。
非常に言いづらいのですが。
そう思いながらも、私は問題になっていることを語り始めます。
「これは私の予想にすぎませんが、多分原因はわかったと思うのです。とても言いづらい話ではあるのですが」
「それでも、私は刹那さんと仲直りしたいのです、とミサカは頭を下げます」
慌てて下げた頭を上げさせながら、私は続けます。
「結論から言いますと、桜咲さんはミサカさんとアクセラレータを恋人同士だと勘違いしている、ということです」


時が止まったかのように、ミサカさんはぴくりともしなくなってしまいました。


顔が赤くなったり眼を見開くだったりの反応があればまだわかるのですが、反応もできないほど衝撃的だったのでしょうか。
しばらくして、私がミサカさんの顔の前で手を振っていると、なんだか顔が急速に赤くなっていくのがわかりました。
ようやく私の言っていることを理解したようです。
やがてとても困ったような、焦ったような顔で私に詰め寄ってきました。
「あ、あ、あの! ミサカは特に仮契約しましたが、別にアクセラレータに対してそういう感情を持っているわけではありません、とミサカは主張します! 確かにアクセラレータには色々と助けられたりとか頼りになりそうだとか思っていますが、それと恋愛感情を直結して考えるのは少々思考が短慮すぎると思うのですが、とミサカは反論します!」
「ミサカさん、反論が反論になっていませんよ」
むしろ暴露していることに気づいて、また顔を真っ赤にしていくミサカさん。
そんな様子をかわいいと思いながら、私は続けます。
「ミサカさんとアクセラレータがそういう関係ではないにしろ、問題は桜咲さんがそう思っていることなんです。桜咲さんが今認識している事実が彼女の中での真実なのですから。まあ、同年代で仮契約カードを持っているのならそういう関係と取られてもおかしくありません。実際、今の風潮はそんな感じなのですから」
パートナーが一番近い存在である以上、それが異性であれば惹かれていくのはある意味当然の帰結なのかもしれません。

まあ、そうでない関係の仮契約者はいくらでもいるのですが。

きっとミサカさんはそんなことは知らないでしょうし、ミサカさんに聞く限り桜咲さんも仮契約のことを知らなかったそうですから、無理もないことかもしれませんが。
「とりあえず、原因はそれでしょう。アクセラレータとミサカさんが恋人同士で、桜咲さんがそれに気づいて嫉妬している、というのが今の三人の構図です」
「み、ミサカはアクセラレータと恋仲ではありません、とミサカは頑なに主張します」
「それはわかってますけど、桜咲さんがそう思っているのですから仕方ないでしょう」
私がため息をつくと、ふと思いついたかのようにミサカさんは顔をあげました。
「高音さん、一つ質問をしてもいいでしょうか、とミサカは尋ねます」
「なんですか?」
「あくまで仮定ですが、私とアクセラレータがそういう関係だとして、刹那さんがそれに嫉妬しているということ―――」
そこで間を置いてから、ミサカさんは呟くように言いました。




「―――刹那さんはアクセラレータのことが好きなのですか、とミサカは尋ねました」




ようやくというか、なんというか。
私は半分呆れながら、その質問に頷いた。
途端に顔を赤くしながら唸るように悩み始めるミサカさんを見て、まるで子供を相手にしているような感覚になります。
恋愛事情なんてまったく想像していなかったんでしょう、ミサカさんは頭を抱えているようでした。
私は助け船を出すことにします。
「今すぐ問題を解決したいなら、私は正直に話すべきだと思いますよ。ミサカさんはアクセラレータと付き合っていない、と」
「……ちょっと、心の整理の時間が欲しいです、とミサカはミサカが混乱していると判断します」
それもそうか、と私は思いました。
ミサカさんにとっては今すぐ解決すべき問題なのでしょうが、ミサカさん自身が心の整理をしたいということなら、私は結論を早めたりはしません。
ミサカさんが落ち着いていきたいのなら、修学旅行後でも私は構いませんし。
「じゃあ、ミサカさん。そろそろ帰りましょうか。話しこみすぎたかもしれません」
巨大な時計塔の針を見て私が言うと、ミサカさんは立ち上がりました。
無言の同意だということがわかった私は立ち上がって、歩き出したミサカさんに続きます。

どうも、事態は複雑な方向に進んでいるようで。

なんだかミサカさんもムキになっているのが怪しいし。
桜咲さんを応援するのもなんだか違う気がするし。
今日はこのことを愛衣に話す必要がありそうです。
きっと愛衣は奇声をあげるんでしょうが、この際しょうがないでしょう。
あの子がアクセラレータのことを尊敬以上の目で見ているのは知ってますし、それが好意に変わっていくのに気づくのも、そう遠いことではないと私は思っています。
魔法世界に一旦戻る頃になれば気づくと思っていましたが、それも早まりそうです。
ミサカさんがアーティファクトを手に入れたということで、事態は大きく揺れ動いています。
加速するその先に何が待っているのか、私にはわかりません。
ふう、とため息をつきました。
私にも、ちょっと心の整理の時間が必要ですね。
そう思いながら、私は目を閉じて、今度は心の中でため息をつきました。






SIDE 一方ミサカ

結局話はそこで打ち切りとなり、ミサカはアクセラレータの家へ戻ってきました。
既に買い物は終わったのか、アクセラレータと愛衣さんは先にいましたが、何やら真剣なムードが漂ってきます。
まるで救われたかのように高音さんに飛びつく愛衣さん。
それを横目で見ていたのか見ていないのか、微妙なバラエティ番組を無表情で眺めているアクセラレータ。
さて何を考えているのかと顔を見たところ、ミサカは首をひねることになりました。
どうせいらついているか怒っているかの二択かと思ったのですが、どうやら違うようです。

眉根を微妙に寄せています。

何やら悩んでいるように見えなくもないですが……傍目からはやはり無表情に見えます。
意外と感情が表に出やすい彼が表情を硬化させているのは非常に珍しい。
普段とは異質な雰囲気が愛衣さんのHPをガリガリ削ったのでしょう。
実際、傍にいることに慣れているミサカですら、今のアクセラレータにはちょっと近づき辛いです。
敏感にそれを察知した高音さんは、ミサカの背中を軽く叩きます。
「私たちは先に失礼します」
とでも言いたいのでしょうか。
高音さんは手短にアクセラレータに挨拶を投げかけ、すぐさま退却していきました。
その様を横目で眺めた後、ミサカは視線を前に戻します。
同時に窓を見て、曇天のせいで赤い空が見えないことに気づきました。
時刻を見ると、6時過ぎ。
まだ夕飯には早いですね。
そう判断したミサカは、とりあえずいつもの指定席であるアクセラレータの右斜め前にある一人掛けのソファーに座ろうとして、その前を通り過ぎてしまいました。
意識してやったわけじゃないのですが、なんとなく、そうしたい気分でした。
座ったのは、アクセラレータの隣。
アクセラレータは一瞬だけこちらを見た後、再びテレビに視線を戻しました。
何を考えたのか、やはりまったく読めません。
しょうがないので、ミサカも笑えないバラエティ番組を眺めることにします。
無言のまま、面白くない受けと返しの応酬を眺めること数十分。
そろそろ腰を上げて夕飯の準備をしようかと思った時でした。
アクセラレータが横目でじっとこちらを見ていることに気づきます。
ずっと見ていたのか、急に見始めたのかはわかりませんが、とりあえず、ミサカもその目を見つめ返すことにします。

こちらは顔ごと向けて、まっすぐに。

衣擦れの音すら響かない静寂が、ぴんと張り詰めます。
その時間はおそらく10秒にも及ばないものですが、ミサカはもっと長く感じられるものでした。
「なんでしょうか、とミサカは視線の意味を尋ねます」
「高音に何か相談したのか?」
即答されたのは、他愛のないことでした。
普通ならそのまま何があったのかをすらすら言うミサカですが、流石にこれは素直に話すわけにはいきません。
「少し。話したらスッキリしました、とミサカは感想を述べます」
内容は言わずに、ぼそぼそとミサカは言います。
明らかにスッキリしたわけではない、という口調。
自分に正直すぎるミサカが、今では少し恨めしい。
それを聞いて、アクセラレータは一つ頷きました。
「刹那とのいざこざらしいが、テメェがそう言うンだったら、もういいンだな」
その表情は、やっぱりしかめっ面のような無表情でしたが、
なんとなく、とても暖かいもののように感じました。
まるでそれがホッとしたようなそれに見えて、もしかしてアクセラレータがミサカのことを心配していたのでは、と自惚れてみます。
それで嬉しくなるミサカがいて、ミサカは単純な思考回路に呆れと安心を感じながら、



不意に、刹那さんの感情がアクセラレータに筒抜けているのでは、という不安が襲いかかってきました。



今まで筒抜けていたなんてことはないと思いますが、勘の良い彼のことです、愛衣さんから聞いた断片的な情報で全部悟ってしまったかもしれません。
それは、刹那さんがかわいそうでした。
もしも本当に刹那さんがアクセラレータのことが好きなら、その想いは彼女自身の口から言うべきです。
こんな、人づてで相手が悟るような状況なんて、最悪です。
そんなことが知れたなら、この先どうなるか。
「俺は何も聞いちゃいねェよ」
はっとして、ミサカは顔を上げます。
ばつん、という音と共にテレビが消えました。
耳ざわりだった雑音が消えて、どこかの電化製品の排気音だけが辺りの音になりました。
アクセラレータはテレビに向けていた視線をこちらに向けると、喋り始めます。
「俺が聞いたのは、なんだか知らねェがテメェと刹那がモメてるってことだけだ。その原因は知らねェし、別に知らなくてもいいと思ってる。これは俺が関わる問題じゃねェらしい」
「愛衣さんがそう言ったんですか、とミサカは尋ねます」
「あァ。あの臆病な愛衣がな、俺を睨みつけてきたンだぜ。そンだけ、愛衣にとってテメェと刹那は大事な存在なんだろォさ」
くつくつと笑うアクセラレータの表情は、とても疲れたように見えました。
嬉しそうで、それでいて寂しいような、そんな雰囲気。
肉体年齢的にたった数年ではありますが、ミサカよりも一段飛び越えた年長者の雰囲気が感じられました。
「俺が加わったら、何か問題になりそうな問題なンだろ? だったらさっさと解決して、さっさといつものテメェに戻れ。テメェがいつまでもそんな調子だとこっちまで調子狂っちまう」
それを聞いて、ミサカは頷いていました。
アクセラレータの嘘かもしれないが、アクセラレータはこういう嘘はつかないような気がします。
少し開けていた空間を詰めます。
アクセラレータはいつも、ソファーに寄りかかるときは右腕をソファーの手すりに、左腕をソファーの裏側に落とすような、そんな恰好をしています。
真剣な時でさえそんな恰好なのですが、ちょっとだけ様になっているのがムカつきます。
そのムカつきのまま、ミサカはもう少し空間を詰めました。
具体的には、ミサカとアクセラレータの足の側面がぴったりとくっつくくらい。
アクセラレータは股を開いて座っているので、ミサカは必然的にソファーに対して斜めに座ることになり―――



当然ながら身長差があるため、ミサカの頭はアクセラレータの胸の上に乗っていました。



反射で全然人間っぽい感触を感じられません。
感じるのは硬い金属のような体。
刹那さんは、こんな馬鹿のどこを気にいったんでしょうか。
そんなことを思いながら、意地悪のつもりで頬を摺り寄せてみました。
視線の先にあるのは、落ち着きなく組まれたアクセラレータの足。
照れているということが感じられ、なんだかますます意地悪したくなってきます。
「おい、本当にどォしたんだ」
本気で戸惑い始めたアクセラレータの声。
そんな声なんて久しぶりに聞いた気がして、ミサカはくすくす笑いました。
「明日になったら、『いつものミサカ』に戻ります、とミサカは約束します」
寝ても今日のことは忘れられないでしょうから、そんなことは単なる口約束に過ぎません。
「でも、ちょっと今日は色々とショックなことがあったんです、とミサカは報告します」
これは本当で、本当に高音さんと話した内容はショックでした。
まあ、なんというか、正直に言うとミサカも参っているのです。
本当ならアクセラレータに嫌なことも全部ぶちまけて不安を発散するのですが、今回はそんなことなんてできません。
ですから、




「後10分だけ、『変なミサカ』でいさせてください」




そう言うと、アクセラレータは全部諦めたような、盛大なため息をついて。
もうどうにでもしろと手足を投げ出しました。
こんこんと胸を叩くと、反射も解除してくれました。
途端に感じる、体温と鼓動。
今までまったく感じなかったそれに安心感を抱きながら。
ミサカは、自然と意識を睡魔に刈り取られていきました。






SIDE 一方通行

ミサカが寝息を立て始めたのを確認して、俺は右足を手前のテーブルに叩きつける。
テーブルからはまったく音がせず、代わりにタンスが勝手に開き、ふわりと畳まれた毛布が舞う。
風を操作してそれを広げ、ほとんど負担のないようにミサカに被せた。
そうしてから、俺はミサカを見下ろす。
胸の上に頭を置いているんだから、その表情は見えない。
もしかしたら狸寝入りかもしれないが、その時はその時だ。
「(何が10分だ、馬鹿が)」
内心でそう呟きながら、俺も目を閉じる。
眠りはしないが、ミサカが起きるまでは動けないからだ。
背もたれに体重を預け、一息つく。
ミサカは正直に信じたかどうか知らないが、俺は本当にミサカと刹那が何かもめ事になっているとしか知らない。
余計なことは聞いていないし、愛衣もしゃべらなかった。
結局、あの公園での話は短い応酬で終わったし、それほど濃い内容を話したわけではない。
だが、俺を睨みつけてきた愛衣の顔は、今でも鮮明に思い出せる。
まさか、あの愛衣がなぁ。
俺が入ってきたころは高音の背後に隠れてた、あのガキがなぁ。
悔しいが、嬉しい。
反抗期に入った娘を持った親の気持ちってのは、こんなもんなんだろうか。
まあ、普通ならこんな生ぬるい反抗期なわけがないが。
そんな気持ちだからか知らないが、俺は寄りかかってくるミサカを拒絶しなかったし、ショックを受けたからと言ってすり寄ってくるのも、なんとか受け入れてやった。
なんだか、やきもきしていたのが馬鹿らしく思えてきた。
問題を起こしても、ちゃんと自分で解決するというミサカの意見は尊重したいし、邪魔する気はない。
ただ、もう日がない。
明後日には、もう修学旅行だ。
明日は日曜日で、呼び出さない限り刹那には会えないだろう。
多分、呼び出されても断るだろうし。
そうなると、修学旅行中に何らかのアプローチをかけることになる。
修学旅行でのドタバタを知っている俺からすれば、そんな暇なんてあるかね、といったところである。
まあ、前途多難であることに違いはあるまい。
ミサカの過酷な未来をシミュレートしながら、起きたらどんな言葉でからかってやろうかと考えて―――


途端に、それは襲い掛かってくる。


「うっ……」
強烈な眩暈だ。
以前からたびたび起こっている異常現象。
座っているのにバランスを崩してしまうという妙な感覚に陥りながら、俺はなんとか姿勢を制御する。
以前は吐き気を感じるほどつらいものもあったが、今回は軽い方らしい。
バランス感覚を崩す程度で済んだ。
ミサカが起きていないことにホッとしながら、俺は額に浮かんだ汗を袖で拭う。
今起きたからいいものの、これが修学旅行中に起きてみろ、誰に見られるかわかったもんじゃない。
誰にもこの弱みは見せない。
見せられない。
ミサカも、ジジイも、タカミチも、俺を頼りにしているんだ。
そんな俺が弱みを見せてどうする。
「クソが」
ミサカにも聞こえないほど小声での呻き。
ぐらぐら揺れる体を脱力させることで封じながら、俺は思う。
本当に、こんなザマでミサカを守れるのか?
「(―――ッ、不安に思うんじゃねェッ!!)」
自分を叱咤しながら、俺は修学旅行での自分の行動プランを思い返していく。
そうすることで、若干ながら現実から目をそらすことができたから。
しばらくした後、俺はふと思う。


針が欲しい、と。







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