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No.21322の一覧
[0] とある転生者の麻帆良訪問(ネギま!×とある魔術の禁書目録 オリ主憑依)[カラーゼ](2010/10/31 15:16)
[1] 第1話[カラーゼ](2010/09/04 00:26)
[2] 第2話[カラーゼ](2010/09/04 00:28)
[3] 第3話[カラーゼ](2010/08/21 12:48)
[4] 第4話[カラーゼ](2010/09/04 00:29)
[5] 第5話[カラーゼ](2010/09/04 00:32)
[6] 第6話[カラーゼ](2010/09/04 00:33)
[7] 第7話[カラーゼ](2010/09/04 00:35)
[8] 第8話[カラーゼ](2010/09/04 00:38)
[9] 第9話[カラーゼ](2010/08/24 20:46)
[10] 第10話[カラーゼ](2010/09/04 00:41)
[11] 第11話[カラーゼ](2010/08/25 23:45)
[12] 第12話[カラーゼ](2010/09/04 00:42)
[13] 第13話[カラーゼ](2010/08/28 20:02)
[14] 第14話[カラーゼ](2010/08/28 18:04)
[15] 第15話[カラーゼ](2010/08/29 12:30)
[16] 第16話[カラーゼ](2010/09/04 00:43)
[17] 第17話[カラーゼ](2010/08/30 18:21)
[18] 第18話[カラーゼ](2010/08/31 22:41)
[19] 第19話[カラーゼ](2010/09/04 00:24)
[20] 第20話[カラーゼ](2010/09/03 22:22)
[21] 第21話[カラーゼ](2010/09/04 17:48)
[22] 第22話[カラーゼ](2010/09/05 23:22)
[23] 第23話[カラーゼ](2010/09/05 20:24)
[24] 第24話[カラーゼ](2010/09/06 20:43)
[25] 第25話[カラーゼ](2010/09/08 00:52)
[26] 第26話[カラーゼ](2010/09/11 21:59)
[27] 第27話[カラーゼ](2010/09/13 12:53)
[28] 第28話[カラーゼ](2010/09/15 14:10)
[29] 第29話[カラーゼ](2010/09/16 03:25)
[30] 第30話[カラーゼ](2010/09/19 00:34)
[31] 第31話[カラーゼ](2010/09/24 21:39)
[32] 第32話[カラーゼ](2010/09/30 00:28)
[33] 設定集[カラーゼ](2010/09/29 00:48)
[34] 第33話[カラーゼ](2010/09/28 00:13)
[35] 第34話[カラーゼ](2010/09/30 17:36)
[36] 第35話[カラーゼ](2010/10/04 23:06)
[37] 第36話[カラーゼ](2010/10/14 12:10)
[38] 第37話[カラーゼ](2010/10/14 23:18)
[39] 第38話[カラーゼ](2010/10/31 15:29)
[40] 第39話[カラーゼ](2010/11/07 15:05)
[41] 第40話[カラーゼ](2010/11/08 01:44)
[42] 第41話[カラーゼ](2010/11/10 01:14)
[43] 第42話[カラーゼ](2010/11/12 01:21)
[44] 第43話[カラーゼ](2010/11/21 20:08)
[45] 第44話[カラーゼ](2010/11/21 20:12)
[46] 第45話[カラーゼ](2010/12/06 16:45)
[47] 第46話[カラーゼ](2010/12/06 16:48)
[48] 第47話[カラーゼ](2010/12/05 13:38)
[49] 第48話[カラーゼ](2010/12/19 02:01)
[50] 第49話[カラーゼ](2011/01/17 16:43)
[51] 第50話[カラーゼ](2011/03/29 01:58)
[52] 第51話[カラーゼ](2011/05/29 01:44)
[53] 第52話[カラーゼ](2011/08/18 15:44)
[54] 第53話[カラーゼ](2011/09/03 18:05)
[55] 第54話[カラーゼ](2011/11/04 21:57)
[56] 第55話[カラーゼ](2012/08/27 00:24)
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[21322] 第48話
Name: カラーゼ◆68f6dca0 ID:da7c297e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/19 02:01
SIDE 桜咲刹那

朝日が、昇る。
カーテンの奥が明るくなりだすのをぼんやりと見ながら、私は何も考えずにベッドに身を投げ出していた。
何も考えない。
そうすることで『痛み』を感じずに済むから。
一晩中泣き続けて、結局得られた答えがそれだった。
今、私はどんな顔になっているのだろうか。
泣き腫らした目を見られたくない。
動きたくない。
泥の中に埋もれてしまったかのように、体が重い。
動こうとするたびに、関節が体の中で軋む音を立てた。
首の関節が動く。
頬が冷たかった。
流した涙で湿ったシーツに、頬が触れたからだ。
そんなことを理解できる思考ではなく、私はぼんやりと『冷たいな』と思った。
そう、私には冷たさしか残っていない。
僅かに灯った暖かさ。
希望と期待。
それらをすべて打ち砕かれた私には、もう冷たさしか残っていない。
腹筋だけを使って、ゆらりと起き上がる。
横を見ると、投げだされた夕凪が寂しげに転がっている。
こんなものを持って、何をしろというのだろうか。


ギチギチギチギチ。


何の音かと思えば、歯が鳴っていた。
寒いからじゃない。
確かに朝は寒いが、そうじゃない。
力が入りすぎているのか。
しかし、それに抗う気力がない。
その力に任せるがまま、私はもう一度ベッドに倒れ込んだ。
目に入るのは時計。
時刻は6時半を指していた。
何時間泣いていたのだろう。
どうでもいいことに思考を振り、私は現実から逃避する。
何もかも、だるく感じる。
なにもしたくない。
なにもやりたくない。
力が入らない。
それでも、力が入って体が強張る。


ギチギチギチギチ。


その音がひどくイラついて、私は力が入らない体で体を上げ、顎を思いっきり枕に叩きつけた。
小さな音が、静まり返った部屋に響いた。
衝撃を与えたせいだろうか、また涙が出てきた。
何をしているんだ。
私には使命がある。
こんなことで、そんな使命を疎かにするつもりか。
思ったことに、即座に反論する。
なにもしていない。
使命なんて、そんなものはどうでもいい。
こんなこと?
こんなこととは、具体的に―――。
そこまでいって、思考を強制的にシャットダウンする。
こうして、また思考の先は暗闇だ。
何も考えない。
何もない。


ギチギチギチギチ。


地面が揺れたような気がした。
これが眩暈なのだろうか。
ぐらぐらと揺れる頭がしっかりとした答えなんて返してくれるわけがない。
これは眩暈のせいなのだ。
だから、私は明確な答えを出せずにいるのだ。
言い訳。
それを並びたてて自己を正当化しながら、私は時間を無駄に過ぎ去らせていく。
私の目の前には、壁。
魔法的防御も何もない、ただの壁だ。
錯覚だろうか、私にはそれが雲を突き破っているように見える。
ああ、高い。
高い、壁だ。


ギチギチギチギチ。


いいだろ、別に。
これまでだって大丈夫だったんだ。
一日くらい、たいしたことじゃない。
そう、たった一日だ。
一日くらい、逃避していたっていいじゃないか。
そして、私は気づく。
なら、明日は逃避できないじゃないか。
その事実に恐怖する。
怖い。
外に出るのが怖い。
『   』さんに会うのが、怖い。
こんな精神状態じゃ会う事もできない。
まともに考えることもできない。


ギチギチギチギチ。


うるさい。
うるさいうるさいうるさい。
下から手で抑えつけ、顎の動きを止める。
怒りなのか、悲しみなのか、恐怖なのか。
それら感情がごちゃ混ぜになって、私の情緒を乱していく。
突然、扉が開いて光が漏れてきた。
私は肩をびくつかせ、硬直する。
そこからやってきたのは龍宮だった。
何も言わず、静かに歩いてきて鞄を手に取る。
こちらを一瞥したのがわかった。
でも、龍宮は何も言わなかった。
私が泣いているのなんて、すぐにわかったはずだ。
でも、声をかけてくれなかったというのは、有難かった。
悩む必要がない。
意識して苦しくなる必要はない。
楽な方へ、楽な方へ。
堕落する方向へ逃避しながら、私は龍宮が外に出るのをただひたすらに待った。
龍宮はカバンを担ぐと、すぐに玄関の方に向かった。
どうやら、荷物を取りに来ただけのようだった。
靴を履く音が聞こえた後、龍宮の冷静な声が響く。
「今日は、私が対象を護衛しよう」
それが何を意味するか理解する間もなく、龍宮は扉を閉めて外に出て行った。
だから、私も考える事をやめた。
だるい。
何も考えられない。
再び無限ループに陥った。
何も、何も、何も、何も。
否定する事ばかり思いつき、ただただ自己を正当化していく。
罪悪感などは思考の中にない。
だから、平然とこんな事ができたのだろう。
この日、私は初めてお嬢様の護衛という仕事を放棄した。






SIDE ネギ・スプリングフィールド

「3-Aの皆さん、おはようございまーす!」
今日も、僕は登校……じゃなかった、出勤する。
まだ頭の中に登校するなんていう言葉が出てくるあたり、まだまだ僕は先生としての自覚が足りない事がわかる。
タカミチに相談したら、まだそこまで考えてなくていいよ、とか言うんだろうなあ。
「ネギ君、おはよー!」
「おはよー、ネギ先生!」
僕の挨拶に応えてくれる3-Aの皆さんの言葉が嬉しくて、昨日の夜の疲れが吹き飛ぶようだった。
昨日全力でエヴァンジェリンさんと戦って、魔力の消耗が激しかった僕はすぐに帰って眠りについたが、まだ本調子とは言えない。

あれだけの魔力を使ったんだ、流石に一晩じゃ回復しない。

体に僅かな疲労感と、それに伴う反応の遅さに危うくペンを取り落としそうになり、僕はつくり笑いを浮かべて誤魔化した。
僕が何気なく後ろの席の方を見ると、エヴァンジェリンさんが頬杖をついて座っていた。
目が合うと、思いっきり鼻を鳴らされた。
僕なんかとの約束を守ってくれるなんて、意外と律儀な所があるんだな。
僕の視線に気づいたアスナさんも、ぎょっとしてそっちの方を見ていた。
僕はそれに気づかないフリをしながら、出席をとっていく。
ハルナさんの所まで出席をとった後、次の人の名前を呼ぶ。
「桜咲さーん……あれ?」
返事がないので席の方を見ると、桜咲さんはいなかった。
欠席かな、と思っていると、龍宮さんが声を上げた。
「刹那は体調不良で欠席だよ、ネギ先生」
「えっ? 大丈夫なんですか?」
「ああ。一日休んでいたら治るだろう」
そういえば龍宮さんは桜咲さんと同じ部屋だったっけ。
以前に見た部屋割のメモ帳を思い出しながら、僕はそう思う。
とりあえず桜咲さんの出席簿にチェックを入れ、それからも出席確認を行っていく。
その間、僕は今朝の事を思い出す。

エヴァンジェリンさんに会ったのだ。

そこで僕は父さんが生きている事を告げたんだけど、これが予想外なほどエヴァンジェリンさんを喜ばせる結果になった。
エヴァンジェリンさんは父さんに呪いをかけられたんじゃなかったっけ。
復讐する相手が見つかって嬉しいのかな?
どちらにしても、エヴァンジェリンさんと父さんの戦いは見れるなら見たいと思う。
きっと、雷の暴風や闇の吹雪なんて目じゃないような凄い魔法が交錯するんだろう。
父さんに追いつくためにはそんな領域に行かなければならないことに、僕は一つ頷いて確認をとった。
その父さんだけど、エヴァンジェリンさんから京都に何らかの情報がある事を聞きとることができた。
父さんが一時期住んでいた家……別荘みたいなものがあるらしい。
日帰りで京都に行くこともできるけど、それだけで満足な探索ができるわけじゃないし、僕は先生だからあまり時間もない。
だからそれを見つけることは難しいと思ってたんだけど、アスナさんから聞いた所、修学旅行は京都に行くことになったらしい。

それで僕はテンションが今朝から上がりっぱなしなのだ。

鳴滝さんたちと一緒に盛り上がって、そのまま高いテンションのまま僕は授業を始めて、すぐに終えた。
すぐに終えたというのも気分的なもので、しっかりと授業はしたんだけど。
なんだか修学旅行のことで頭がいっぱいになってきた気がする。
ちょっと頭を冷やさないといけない。
頭を振って、僕は教室から出た。
いつも思うけど、3-Aはテンションが高いせいか、教室内の温度がちょっと高い気がする。
廊下が若干ひんやりして感じるのは、そういうことだろうと思う。
頬を撫でる僅かに冷たい空気により、僕は思考を切り替える。


思うのは、ここ一週間前からのこと。


今回のエヴァンジェリンさん関連の事件で不審な所は多すぎる。
それについて学園長先生に聞くいい機会だと思った。
もちろん全部答えてくれるとは限らないけど、質問にいくつか答えてくれるんなら嬉しい。
僕は子供だから、全部話してくれないのかもしれない。
もしかしたら答えてくれる答えが嘘かもしれない。
でも、僕は聞くしかない。
この不自然を解消するためにはより多くの情報が必要だ。
それをかき集めるためにも、学園長先生に話を聞く事は決して無駄じゃない。
そう思い、僕は学園長室のドアを叩いた。
すぐに入室の許可が出て、僕はその中に踏み入った。
ドアを閉めて学園長先生の方を見ると、いつも通りに執務机に座っていた。
そう思い、僕は足を踏み出して―――その雰囲気が若干違うことを悟った。
踏み出す足の骨が軋む音が聞こえた気がした。
それほどの静寂。
窓の外から聞こえてくる生徒たちの声や、風で窓が揺れるもの音すら一切しない。
まったくの無音空間。
僕は日常的にありえそうでありえない空間に困惑しながら、前に進んだ。


「何の用じゃの、ネギ君?」


困惑していたせいだろう、僕は反応が一瞬遅れて、慌てて要件を告げた。
「エヴァンジェリンさんのことについて……いえ、ここ最近のことについて聞きたい事があります」
僕は真剣な目で学園長先生を見つめた。
学園長先生の目は長い眉毛と窪んだ目でよく見えないが、その視線が僕の目に向けられていることがわかる。
一拍の沈黙。
その沈黙の後、学園長先生は頷いた。
「言ってみなさい」
その一言が、僕の肩を圧迫した。
いや、物理的な力が働いたわけじゃなく、なんというか、気配みたいなものが僕を圧してるんだろう。
これが気圧されている、という感覚なんだろうか。
それだけ学園長先生が真剣に僕の話を聞こうとしているということがわかって、僕も頭の中で聞きたい事を再度まとめる。
息を吸って、吐きだした。
「まず、エヴァンジェリンさんが桜通りの吸血鬼事件の犯人だということを、学園長先生は知っていましたか?」
学園長先生の表情は動かない。
小さくテーブルの上で組んだ手を動かした。
その答えは思ったよりも速く……ほぼ即答だった。
「うむ、知っておった」
それに、僕は予想されていた答えであったにも関わらず、頭に血が上っていくのがわかった。

僕の脳裏に過ぎるのはまき絵さんと宮崎さんだ。

まき絵さんはエヴァンジェリンさんに襲われて倒れていた。
しかもその記憶が綺麗さっぱり消去されているのが、僕の常識というか、そういうのを打ちのめした。
以前に宮崎さんを助けた時、僕はアスナさんに魔法がバレて、何の戸惑いもなく記憶消去魔法を使おうとした。
あの時は失敗したけど、それを自然とやってしまったことが僕にはとても怖いことに思えた。
魔法とは正しい事ばかりに使われるわけじゃない。
そうやって、記憶を消去し、証拠を隠滅するためにも使えるんだ。
それが納得いかなかったが、いけないことをなかったことにする、ということでは僕がやったこととエヴァンジェリンさんがやったことは同じだと思う。

……頭に血がのぼったせいで、思考がよそにそれた。

僕はそれを自覚するほどには気を落ちつかせて、溜息のように深呼吸をする。
熱くなっちゃダメだ。
ただ感情を叩きつけただけじゃ何も変わらない。
もっと、冷静に。
僕が聞かなければならないことはそれとは別だ。
支離滅裂にならないように気をつけながら、僕は再び訊ねた。
「じゃあ、どうしてそれを放置していたんですか」
疑問文としてのニュアンスとは、ちょっと違った気がした。
責めるような口調。
目上の人に対して失礼だと思ったが、僕は感情が押し殺せなかった。
力がこもって、コントロールできなかった。
そんな口調だったのに、学園長先生は何も咎めずにただ説明を始める。
始めると言うか、その前にある一言に僕は唖然としてしまう事になった。



「君の成長のためじゃよ、ネギ君」



その答えがあまりにも予想外すぎて、僕は思考を停止した。
学園長先生はエヴァンジェリンさんと同じく悪い魔法使いである。
学園長先生はエヴァンジェリンさんの手下である。
学園長先生はエヴァンジェリンさんと同じ吸血鬼である。
だからエヴァンジェリンさんの行動を黙認していた……僕はだいたいこんな風に考えていた。
一般人にも手を出しているのに、咎めないということはグルじゃないか、と思ったからだ。
でも、これまでのことは僕のため。
エヴァンジェリンさんが一般人を襲っていたのを放置したのは、僕のため。
意味がわからない。
どうしてそうなるのか。
僕はそれを聞かずにはいられず、思わず身を乗り出して学園長先生に聞こうと思ったが、学園長先生は手で制した。
「きちんと説明する。落ちついて聞いてくれんかの」
学園長先生は、今度こそ説明を始めた。
まず、今回の桜通りの吸血鬼事件が発生したのは吸血鬼であるエヴァンジェリンさんが血を吸って力を蓄えるために起こした行動であること。
僕と戦うために。
期間としては、半年ほど前からエヴァンジェリンさんは吸血活動を行っているという。
僕が麻帆良に来る前から。
ということは、僕が麻帆良に来るのはその頃から決定していたという事なんだろうか。
メルディアナ魔法学校の校長先生と学園長先生は知り合いだそうだから……そういうことなんだろう。
さて、どうしてエヴァンジェリンさんは僕と戦うために力を蓄えたのだろうか。
それは僕がサウザンドマスターの血を引く者だから。
父さんに呪いをかけられたエヴァンジェリンさんは、麻帆良から出ることはできない。
麻帆良から出るためには呪いを解く必要がある。

必要なのは、サウザンドマスターの血。

つまり、僕の血でも代用可能……らしい。
吸血鬼の理論なんて僕にはわからないから、それで本当に解けるのかわからないけど。
まあ、エヴァンジェリンさんは僕の血を狙って戦いを仕掛けてきたわけだけだ。
「そこまではわかったかの?」
「はい、わかりました。次は、どうして僕のためなのか説明してくれますか?」
頷いて、学園長先生は続けた。
「では、ネギ君。君は桜通りの吸血鬼事件を経験して、エヴァと戦って、どうなったかの?」
「ど、どうなったか、ですか?」
僕はそれに考え込むことになった。
どうなったか、というのは非常にあいまいで、どう答えて良いか判断できない。
うんうん悩んでいると、数秒後に学園長先生は言った。
「以前の君は、エヴァとワシの関連性に気づけたかの?」
「―――あっ」
そうだ。
以前の僕……麻帆良に来た頃の僕と比べると、僕は明らかに『成長』している。
裏で何が行われているか、違和感に気づいて行動できるほどに。

以前の僕と、今の僕。

三か月以上経つけど、思いなおせば僕は随分と変わった。
自分の失敗をノートに書き込むようになった。
もうノートは半分以上埋まってしまったけど、以前より書く回数は少なくなった。
魔法についての修行を自主的に行うようになった。
これで、僕は魔力の暴走を抑えることができた。
前よりずっと論理的に考えることができるようになった。
筋道立てて物事を推察するなんて、前の僕にはできない。
いや、できたから今の僕がいるんだけど、前の僕にいきなりそれを要求されても無理だろう。
そして、何が何でも勝とうと思って、罠を幾重にも仕掛けてエヴァンジェリンさんを倒そうとした。
以前の僕には、そんなことはできなかったはずだ。
できなかったことができるようになったということは、成長しているという事。
ここ最近努力をして、魔力の制御や魔法陣についての知識を吸収して、それを応用したのも成長があってこそ。
エヴァンジェリンさんと戦わなければ、僕はここまで知恵をつけなかっただろう。
つまり、そういうことか。
「エヴァンジェリンさんと戦わせることで、僕を成長させようとしたんですか?」
「その通りじゃ」
肯定されて、僕はなんとも言えない表情になった。
最初は問い詰めようと思っていた。

一般人を巻き込むなんてどういうつもりだ、と。

アスナさんを巻き込んでしまった僕がどうこう言うのは間違いかもしれないけど……。
でも、一般人を巻き込んだのは僕を成長させるためだった。
つまりは、全部学園長先生の掌の上だったという事。
不快感と共に、ありがたさというか、強くしてくれて感謝する気持ちもある。
父さんを探すためには、サウザンドマスターと同等の力を持つ必要がある。
そのために強くなるのは間違いじゃないんだけど。
でも、なんというか、こう、面白くないのかな。
納得はいった、でも納得できない。
僕が気持ちの整理ができないでいると、学園長先生は言った。
「ネギ君、すまんかった。本当ならこんな強引な手段ではなく、自然と強さを身につけて欲しかったんじゃが……やはり心配での。君に戦いというものがどういうものなのか知って欲しかった。戦いで緊張し、本来の実力が発揮できんようになって欲しくなかったんじゃ。初陣を経験する者としていない者には大きな差がある。その差が取り返しのつかんことになるかもしれんと思うと、ワシはこうして君に経験を積ませることしかできんかった」
「僕の事を考えてくれたことは嬉しいです」
そう、それは本当だ。
学園長先生の言う事が真実なのであれば、学園長先生は僕のためを思ってこの事件を起こしたことになる。
それはとても嬉しい。
心配してくれたのなら尚更だ。
「僕を騙してエヴァンジェリンさんと戦わせたことも、いいです。これが僕のプラスになったんですし、誰かと本気で戦うなんて経験はありませんでしたから。それを経験できたことは良かったです」


でも、と僕はここで否定を入れる。


「一般人を……まき絵さんや宮崎さんを巻き込んだのは、防げたことだったと思います。記憶消去の魔法で他の生徒の人はエヴァンジェリンさんに噛まれて吸血された事を知らずに生きている。それがなんだか、とても怖いと思いました。それで問題ないというのは違うと思います」
学園長先生は、ここで初めて唸った。
表情にも変化を見せている。
怒っているのではなく、おそらくそれは驚いている顔。
「君は神楽坂君にも記憶消去の魔法をかけたそうじゃが?」
「はい。あの時の僕は深く考えずに自分のことだけを考えてましたけど、今は違います。一方的に加害して、一方的に記憶消去するのは犯罪の証拠隠滅にも使えます。僕はそれと同じようなことをやったんだと思っています。だから、もう二度とあんなことはしません」
今でもあれは後悔している。
思いだせば、なんであんなことをやったんだろうと思う記憶がぞろぞろと。
経験というのはある意味恐ろしい。
自分の失敗とか未熟さをあぶり出してくれるから。
それをなんとか踏まえているから僕はここまできっちりと饒舌に話すこともできる。
これが成長なんだと思うと、どこからどこまでが学園長先生の掌の上なんだろうと疑問に思う。
考えすぎかと思うけど、可能性を何パターンも考えておくのは悪い事じゃないというのは鉄則だ。
頭の中の引き出しにしまっていると、学園長先生は頷いた。
「それだけしっかりと言えるんなら、ワシも安心じゃ。誰でも失敗することはあるからの」
ふぉふぉふぉ、と笑う学園長先生。
ちょっと場の雰囲気は暖かくなりかけたけど、僕はそれを元の軌道に戻す。
「だから、さっきの謝罪は僕じゃなくて、まき絵さんや宮崎さんにしてください」
エヴァンジェリンさんが吸血活動を始めることができたのは、学園長先生の許可があってのことだと思う。

あるいは黙認か。

どちらにしても、学園長先生はエヴァンジェリンさんを止めることができたはずだ。
それを放っておいたんだから、学園長先生もエヴァンジェリンさんも、どちらも悪い。
僕はそう思う。
学園長先生は小さくため息をついた。
「(まさかネギ君のような子供にそう言われるとはのう……人格の成長が早すぎやせんか?)」
何か呟いたみたいだったけど、何を言ったんだろう。
おそらく独り言なんだろうけど。
「次に聞きたい事なんですけど、いいですか?」
「何かの?」
「エヴァンジェリンさんと戦った後に見た鬼のことです。なんというか、化物というよりは人間っぽい化物で……理性もなく暴れ回っているようには見えませんでした。うろ覚えなんですけど、野獣のように暴れ回っていないんです。麻帆良は妖怪が出現するってことはタカミチから聞いてたんですけど、あれは多すぎですし、統率も取れているように見えました。ああいう種族なんだと言えばそれまでですけど……」
正直、あの時は疲れていて記憶があいまいになってしまっている。
僕の想像で補っている可能性もあるので、ちょっと強く出づらい。
学園長先生は僕の疑問に『ほう?』と片眉を挙げた後、説明を始めた。
「あれは自然に出現したものではない、とネギ君は考えておるということじゃな?」
「はい。魔法使いが異界から召喚したとしか思えないんです」
「それは当たっておるよ。ただ、その全貌を話すと長くなるが、聞くかの?」
「お願いします」
それから学園長の長い説明が始まった。
まず、あそこに出現した鬼は自然発生のそれではなく、やっぱり召喚されたものだった。
召喚した人たちは誰かわかっていないけど、どういう組織がやったのかはわかっているらしい。


それは、関西呪術協会。


関西、というと日本の地方の名前だ。
なんだか聞いたことがあるような気がしたけど、学園長先生の説明に耳を傾けることにした。
関西呪術協会と、学園長先生が理事を務める関東魔法協会の仲は昔から悪く、衝突をしているそうだ。
停電の時に町の明かりが消え、襲撃しやすくなるから一気に大戦力を投入して攻め込んでくるらしい。
まるで戦争じゃないか、と僕は思った。
「だ、大丈夫なんですか? 誰かが大けがをしたりとか……」
「こちらの生徒や先生も大けがはしとるが、死者は出ておらん。こちらも出さんようにサポートはしとる。ネギ君が心配せんでもいいことじゃよ」
悔しいが、心配しても何もできないのが現状だ。
それに、僕が無理に関わっても迷惑をかけるだけだと思う。
「手が足りんというのは本音じゃが、君に手伝ってもらうほど麻帆良は危うくない。アクセラレータやタカミチ君も麻帆良を守っておるから、心配いらん」
「あ、アクセラレータさんもですか?」
広域指導員ってことは知ってたけど、裏でそういうことをやってたんだ……。
それとも、広域指導員ってそういうものなのかな?
それを尋ねると、学園長は笑って違うと言った。
正確には広域指導員となれるような人物が魔法関係者である事が多いだけの話らしい。
広域指導員とは主に生徒たちに対して指導をする人たちのことで、外部から襲撃してくる人たちに対しては警備員という名称の役割が与えられるらしい。
でも、そのことについて僕は案外どうでも良かった。
僕が広域指導員になることもないだろうし、知識として頭の中に入れておくだけだ。
それよりも聞きたい事がまだある。
そのことが学園長先生にもわかったんだろう、話を素早く戻してきた。
「関西呪術協会におる魔法使いは陰陽師と呼ばれる。彼らは独特の符と呼ばれる媒体を使い、西洋魔法とはまた違う手法で魔法と同等の現象を起こすのじゃ。鬼を召喚するのも西洋魔法とは違う系統じゃから、君が理解するのは難しいじゃろうな」
「その陰陽師が攻めてきているという事ですか?」
「うむ。その目的は世界樹についての情報収集と、このかの奪還じゃ」
僕はいきなり飛び出してきた名前に驚いた。
このかというと、ウチのクラスのこのかさんしか思い浮かばない。
「どうしてこのかさんが関わってくるんですか!? まさかこのかさんも魔法関係者……!?」
「いやいや、このかは魔法を知らんよ」
ふぉふぉふぉ、と笑いながら学園長先生は言った。
どうしてこのかさんが出てくるのかというと、このかさんは関西呪術協会の長である近衛詠春という人の娘のようだった。
長の娘、ということは。
「う、うーん……なんていうんだろう、こういうの。人質?」
「これ、人聞きの悪いことを言うんじゃない」
昔にあった人質交換というわけじゃないらしい。
どうもこのかさんにも事情があるらしくて、その辺りのことは個人のプライバシーにあたるとして学園長先生は話してくれなかった。
ただ、関西呪術協会に所属している一部の人たちがこのかさんを強引に取り戻そうと動いているということは話してくれた。
そういう人たちが麻帆良を襲撃しにやってくるらしい。
関西呪術協会とこのかさんの関係については以上として、話は修学旅行のことに向かう。
「ただ、修学旅行、つまり京都に行くという事はこのかが関西呪術協会の本拠地へ行くことになると言う事じゃ。このか奪還を志しておる連中からすれば格好の的となる。君も気にかけておいて欲しい。もちろん、その危険から守るために、このかには独自の護衛がついておる」
「護衛がついてるんですか?」
「桜咲君のことじゃよ」
僕はそれに驚くと同時に、どこか納得した。
なんだかすごく強いって話を聞いたし、見た目からピリッとしているからだろう。
僕は納得したけど、首を捻る。
「でも、桜咲さんは今日は欠席でしたよ?」
「何やら風邪をひいておるらしい。まあ、今日は静かに休ませてあげなさい。護衛はまた他の人にやってもらっておる」
風邪をひいた、の下りで心配になった僕はお見舞いに行こうかと思ったが、学園長先生に釘を刺された。
余計な気を遣わさずにゆっくり休ませろと言う事だろう。
学園長はひとつ咳払いをした。
「で、じゃ。話は変わるが、ここで頼み事があるんじゃ」

そこで学園長は机の引き出しを開け、一つの手紙のようなものを取り出した。

なんだかすごく高価そうなものだった。
「ワシとしてもケンカはやめて関西呪術協会とは仲良くしたいんじゃ。いつまでもいがみあっとっても仕方ないし、お互いが中途半端に小競り合いを起こしても不利益にしかならん。ネギ君はこちらと向こうの友好関係を結ぶための特使としてこの親書を関西呪術協会の長に届けて欲しいんじゃ」
僕はそれに驚いた。
急な話の転換もそうだが、いきなり親書なんていう大事な物を僕に預けて、長に届けろだなんて。
「どうしてそうなるんですか? 他の人にやってもらえば……」
「そういう選択肢もあるにはあるんじゃが、そうなると魔法先生が二人も京都に行くことになる。それは向こうさんが了承せんのじゃよ。となると、この時期に親書を届けることができるのはネギ君だけになる。それに、君はナギの息子じゃ。西洋魔法使いと胸を張って表明できるんじゃから、西洋魔法使いの集まりである関東魔法協会の特使として条件は十分に満たしておる」
だが、と学園長先生は眉を寄せて厳しい顔をした。
「関西呪術協会も長のようにこちらに友好的な人間ばかりではないんじゃ。お互いの親交を邪魔するために向こうから刺客が送り込まれてくるかもしれん。その場合、君は状況によっては応戦する必要がある」
「応戦……戦いになると言う事ですか?」
「うむ。君と神楽坂君では手に余る敵もでてくるかもしれん。その場合は他の人の助けを借りるんじゃぞ」
他の人といわれても、僕の知り合いで協力してくれそうな人はタカミチと、アスナさんと、他には……。
うまく人が思い浮かばず、そのまま悩んでいると、学園長先生は軽く笑った。
「今回は魔法先生は君だけじゃし、必然的に頼る人たちは限られとるからの。悩むのも無理はない」
そう言って、学園長先生はメモ用紙を取り出して、すらすらと何事か書いた。
差し出してきたのでそれを受け取ると、そこには見覚えのある名前があった。


『龍宮真名 桜咲刹那 一方ミサカ』


「そこに書かれとる三人は魔法関係者で、かなり腕も立つ。最悪、彼女たちに協力を頼みなさい」
無難なのはミサカ君かのう、と学園長先生は呟いていた。
でも、ちょっとミサカさんとは顔を合わせづらい。
まだ『あれ』から一週間も経っていないし、なんだかすっきりしない終わり方だったから、まだ気まずさが残っているのだ。
ミサカさんは良い人みたいだから、たぶん協力してもらえると思うけど……いざ頼むとなると気が引ける。
桜咲さんはこのかさんの護衛だから忙しそうだ。
いや、このかさんを関西呪術協会が狙っているんなら、一緒に行動した方が―――いや、そうなるとこのかさんに魔法がバレてしまう。
このかさんのことだから手品の一言で済んでしまうかもしれないが、二度はないと思う。
となると龍宮さんだけど、なんだかあの人は近づきづらい空気なんだよなあ。
桜咲さんと同じで。
実力もあって学園長先生公認なら頼んでいいかもしれないけど、頼みづらい人たちばかりだ。
僕がそう思っていると、学園長先生はまた引き出しを開けた。
「それにただのお使いじゃないぞい。お使いには駄賃が必要じゃしの」
そう言って、学園長先生は引き出しの中からとある写真をとりだした。
それを見せてもらうと、そこには着物を着た壮年の男性の姿があった。
頬がこけていて、なんだか不健康的に見える。
でも、それには不釣り合いな気がする棒……おそらく刀だろうそれを持っていた。
写真では迫力は伝わってこないけど、なんだかとても刀の存在がその人にしっくりと来ていて、違和感がない。
普通の男の人に見えるのに。
「この方はどなたなんですか?」
「近衛詠春。関西呪術協会の長にして、『紅き翼』に所属しておった英雄の一人じゃ。君のお父さんのことも良く知っておる」


ゾクッ、と僕の背筋に何かが走った。


『紅き翼』とは、父さんが所属していた団体だ。
今朝聞いた、エヴァンジェリンさんの言葉が思い出される。

『京都に行け。そこに奴の別荘がある』

繋がった。
間違いなく、父さんの手がかりは京都にある。
関西呪術協会という組織の長で、父さんと同じ『紅き翼』に属していたんなら、絶対に父さんの情報は持っているはずだ。
世間的には死んだことにされている父さんでも、同じ組織の友人になら何か話しているかもしれない。
僕は思わず力が入り、長さんの写真を握り潰しそうになって、慌ててしわを伸ばした。
その様子を見て学園長先生は笑った。
「この親書を持っていく代わりに、彼にナギの事を聞いてきなさい。色々と興味深い話が聞けるかもしれんぞい」
「はい!」
なんだか、もっと修学旅行が楽しみになった。
父さんを間近で見ていた人の話が聞ける。
父さんに対しての手掛かりが確実になった瞬間だった。
僕は心を躍らせていたが、そこに学園長先生の声がかかる。
「ネギ君、これで質問は終わりかの?」
「はい、気になる事はだいたい解決しました」
「それなら良かった。じゃが、上機嫌な所悪いが嫌なことをしなければならん」
学園長先生はそう言って、引き出しから今度は書類の束を取り出した。
あの机、何でも入ってそうだ。
そんなふざけた思考を押しつぶして、僕はにやけそうになる顔を抑え、真剣な表情にする。



「茶々丸君を君が襲った事件、覚えておるかの?」



息を詰まらせた。
踊っていた心が不整脈で波打つ。
それは、僕にとってとてもいけないことをした事件の事だ。
認識した瞬間、頭が真っ白になりそうになり、なんとか持ちこたえて思考を回す。
とは言っても、これからどうなるのか予想もつかない。
アクセラレータさんはいずれ処分が下ると言っていた。
だから、学園長先生がこの事を言ってくることも予想しておくべきだった。
そこまで考えて、僕は呼吸を忘れていることに気づき、息を吐きだして、ようやっと頷くことができた。
「それについて、君はその非を認めなければならん」
そう言って、学園長先生は書類を僕に手渡してきた。
受け取って、その中身に目を通す。
書かれているのは、桜通りの吸血鬼事件に対する詳細な情報だった。
僕が説明を求めたことに対しての答えもあるし、僕にはわからないこともある。
学園長先生が非を認める文章もあり、何が起こっているのか僕にはよくわからなかった。
そこにある情報があまりに膨大すぎて。

でも、僕は『絡繰茶々丸襲撃事件』という項目で硬直していた。

そこには『ネギ・スプリングフィールドが故意により神楽坂明日菜と共に絡繰茶々丸を襲撃し、一方ミサカの介入により事なきを得た』というような内容がつらつらと書かれている。
「こ、これは……?」
「茶々丸君を襲撃した事件についてのレポートじゃ。何か間違っておることがあるのなら言ってくれ。ミサカ君と茶々丸君、神楽坂君も呼んで確認をとらせる」
僕はその内容にもう一回目を通す。
それは僕が茶々丸さんを襲撃する経緯まで書かれており、しかもそれらも見覚えのあるようなものばかりだ。
僕が考えていたことが、学園長先生にはお見通しだったという事だ。
完全に僕の思考回路が読まれているのか、それとも事件が起きた後に推測されたのか。
まるで既に僕に対しての聴取が終わって、その上でできあった書類みたいだ。
呆然とする僕に対して学園長先生は小さくため息をつきながら、サインペンを差し出してくる。
見れば、下の方にはサイン欄があった。
「すまんの、ワシもこんなことはしたくないんじゃが、君が茶々丸君を襲撃したという確固たる証拠が欲しいんじゃ」
「……どうして証拠が欲しいんですか?」
「この事件、周囲に曲解されて伝わっておるらしくての。簡単に言えばミサカ君が君を襲撃したというような噂が流れておるんじゃ。そのせいでミサカ君には迷惑がかかっておる。その噂を事実で覆し、ミサカ君に対する迷惑をとり払わなければならん。そのために証拠が必要なんじゃよ」
ミサカさんに迷惑がかかる。
僕のせいで他人に迷惑がかかると思ったら、僕はその書類にサインするしかなかった。


『Negi Springfield』


「これでいいですか?」
学園長先生は頷いて、その書類を机の中にしまった。
トンッ、という引き出しが閉まる小さな音が、なぜかギロチンが落ちるような音に聞こえた。






SIDE 近衛近右衛門

ワシはネギ君がとぼとぼと学園長室から出て行くのを眺めていた。
ドアが閉まると、大きくため息をつく。
これから書類をまとめて、事実を公表しなければならん。
流石に全校集会のように魔法先生を集めてやるわけにはいかんし、流石にそこまでしてはネギ君がかわいそうじゃ。
直筆サインがあれば、過激派の連中も納得するじゃろう。
ネギ君の事は深く考えないようにし、ワシは気になることについて思いだす。

桜咲君のことじゃ。

桜咲君が学校を欠席するという事実は、朝から龍宮君からの電話によって知った。
その時のやりとりを思い出す。
朝から電話がかかるのはさほど珍しいことではないが、相手が相手だっただけに何が起こったのかと身構えてしまった。
結局、それは取り越し苦労になるんじゃが。
『学園長、刹那が欠席するそうです。近衛の護衛は代わりに私がやります』
「ほ? 欠席理由は?」
『私にもよくわかりません。ただ、何かショックなことがあったと思います。一晩中泣いてましたし』
ワシはそれに驚いたが、驚愕というほどではなかった。
むしろ困惑という面が強い。
桜咲君の精神は強靭に見えて実は脆いということはワシも龍宮君も知っておる。
しかし、停電時には活躍したと聞いておるから、おそらく停電後。
戦闘が終了してから、彼女がそこまでショックを受ける何かが起こったに違いないじゃろう。
「原因はわかるかの?」
『ああいうのはそっとしておくに限ります。落ちついたら事情を聴くつもりですが……刹那は強情ですし、何もしゃべらないかもしれません』
「ふむ。まあ、無理に聴くことはせんでくれ」
『了解』
龍宮君はそこで通話を切った。

桜咲君が泣くほど衝撃を受けるのは何か。

ワシとしてはこのか関連のことしかわからんのじゃが……きっと、それ以外の事に興味はないじゃろうしの。
そう考えて、ワシは桜咲君とアクセラレータが親密であったことを思い出した。
桜咲君が周りと付き合い始めたのは、アクセラレータによる影響が強いというのもわかっておる。
彼女の彼氏騒動についてはワシも笑わせてもらったものじゃ。
さっきから殺伐とした雰囲気だったからか、朗らかで暢気な思考に移りつつあるが、ふとそこで何かが直結した気がした。
桜咲君もいくら剣の道で生きてきたからと言って、もう15歳になる。
女性としての自覚も出てくる頃じゃろう。
まさかとは思うが、男女関係で悩んでいるとかはないだろうか。
何故その結論にたどり着いたかというと、以前見たドラマがそんな感じの構成だったからじゃ。

一人の男を、二人の女が取り合う。

男は一人の女を選んでしまい、もう一人の女は嫉妬に狂って男が選んだ女を殺して自分も自殺する、という非常に暗いストーリーじゃ。
こういう現実はありえるじゃろうが、こんなバッドエンドは御免じゃな、と内心突っ込みながら見ていた。
そこで、その男と女を当てはめてみることにする。
なんというか、アクセラレータは高音君といい佐倉君といい、意外とモテたりする。
もしかしてアクセラレータが誰かを選んでしまったんじゃろうか。
それに気づいて、ショックを受けたとか。
そこまで考えて、ワシは首を振った。

まさか。

そんなドラマみたいなこと、あるはずがないじゃろう。
そう思って笑い飛ばそうとしたが、笑えなかった。
もしもそれが事実だった場合、どうしろと。
これから修学旅行も控えているというのに。
「……やっぱりアクセラレータが修学旅行に行く件、無理矢理スケジュールにねじ込むかの」
本当なら別便か何かで『個人的な旅行』という言い訳が欲しかったが、桜咲君が頼りにならんのなら頼れる面子などそういない。
アクセラレータは魔法先生でも魔法生徒でもない、警備員じゃ。
そういった言い訳も、強引ではあるができるしのう。
桜咲君に対しての情報は後々龍宮君から伝えてもらうとして、ワシはアクセラレータを修学旅行スケジュールに強引にねじ込むための根回しと書類作りを開始することにした。







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