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No.21322の一覧
[0] とある転生者の麻帆良訪問(ネギま!×とある魔術の禁書目録 オリ主憑依)[カラーゼ](2010/10/31 15:16)
[1] 第1話[カラーゼ](2010/09/04 00:26)
[2] 第2話[カラーゼ](2010/09/04 00:28)
[3] 第3話[カラーゼ](2010/08/21 12:48)
[4] 第4話[カラーゼ](2010/09/04 00:29)
[5] 第5話[カラーゼ](2010/09/04 00:32)
[6] 第6話[カラーゼ](2010/09/04 00:33)
[7] 第7話[カラーゼ](2010/09/04 00:35)
[8] 第8話[カラーゼ](2010/09/04 00:38)
[9] 第9話[カラーゼ](2010/08/24 20:46)
[10] 第10話[カラーゼ](2010/09/04 00:41)
[11] 第11話[カラーゼ](2010/08/25 23:45)
[12] 第12話[カラーゼ](2010/09/04 00:42)
[13] 第13話[カラーゼ](2010/08/28 20:02)
[14] 第14話[カラーゼ](2010/08/28 18:04)
[15] 第15話[カラーゼ](2010/08/29 12:30)
[16] 第16話[カラーゼ](2010/09/04 00:43)
[17] 第17話[カラーゼ](2010/08/30 18:21)
[18] 第18話[カラーゼ](2010/08/31 22:41)
[19] 第19話[カラーゼ](2010/09/04 00:24)
[20] 第20話[カラーゼ](2010/09/03 22:22)
[21] 第21話[カラーゼ](2010/09/04 17:48)
[22] 第22話[カラーゼ](2010/09/05 23:22)
[23] 第23話[カラーゼ](2010/09/05 20:24)
[24] 第24話[カラーゼ](2010/09/06 20:43)
[25] 第25話[カラーゼ](2010/09/08 00:52)
[26] 第26話[カラーゼ](2010/09/11 21:59)
[27] 第27話[カラーゼ](2010/09/13 12:53)
[28] 第28話[カラーゼ](2010/09/15 14:10)
[29] 第29話[カラーゼ](2010/09/16 03:25)
[30] 第30話[カラーゼ](2010/09/19 00:34)
[31] 第31話[カラーゼ](2010/09/24 21:39)
[32] 第32話[カラーゼ](2010/09/30 00:28)
[33] 設定集[カラーゼ](2010/09/29 00:48)
[34] 第33話[カラーゼ](2010/09/28 00:13)
[35] 第34話[カラーゼ](2010/09/30 17:36)
[36] 第35話[カラーゼ](2010/10/04 23:06)
[37] 第36話[カラーゼ](2010/10/14 12:10)
[38] 第37話[カラーゼ](2010/10/14 23:18)
[39] 第38話[カラーゼ](2010/10/31 15:29)
[40] 第39話[カラーゼ](2010/11/07 15:05)
[41] 第40話[カラーゼ](2010/11/08 01:44)
[42] 第41話[カラーゼ](2010/11/10 01:14)
[43] 第42話[カラーゼ](2010/11/12 01:21)
[44] 第43話[カラーゼ](2010/11/21 20:08)
[45] 第44話[カラーゼ](2010/11/21 20:12)
[46] 第45話[カラーゼ](2010/12/06 16:45)
[47] 第46話[カラーゼ](2010/12/06 16:48)
[48] 第47話[カラーゼ](2010/12/05 13:38)
[49] 第48話[カラーゼ](2010/12/19 02:01)
[50] 第49話[カラーゼ](2011/01/17 16:43)
[51] 第50話[カラーゼ](2011/03/29 01:58)
[52] 第51話[カラーゼ](2011/05/29 01:44)
[53] 第52話[カラーゼ](2011/08/18 15:44)
[54] 第53話[カラーゼ](2011/09/03 18:05)
[55] 第54話[カラーゼ](2011/11/04 21:57)
[56] 第55話[カラーゼ](2012/08/27 00:24)
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[21322] 第29話
Name: カラーゼ◆68f6dca0 ID:da7c297e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/16 03:25
SIDE 一方ミサカ

時間が過ぎるものは早いものだ、とは良く言うものです。
三学期期末試験から一週間。
もう残っている行事は三年生の卒業式くらいというこの頃は、期末試験から開放された開放感でダラけ気味です。
それはもちろん普段から暢気な2-Aも例外ではありませんでした。
初春とは言えない肌寒さの中、ミサカは騒がしい商店街の道を歩いていました。

夕飯の買出しです。

ミサカと同じ目的の生徒も大勢おり、中には同じクラスのこのかさんなどの姿が見えます。
示し合わせたわけではありませんが、このかさんは自炊派なので良く会うのです。
「おー、ミサカ。奇遇やな」
「奇遇と言っても何度目でしょうね、とミサカは苦笑しながら手を振り返します」
「あはは、苦笑なんてしてへんやん」
クスクス笑っているこのかさんとパチンと手を合わせます。
いつのまにか、こんな仕草が当然になっていました。
どうも2-Aの中での共通儀式のようなものらしく、すれ違いざまにこうしてやるのが通例らしいです。
ただ、何と言いますか。
これはなんだか楽しいです。
このかさんと談笑して別れ、ミサカは再び商店街を歩きます。
ミサカの頭の中は既に夕飯モードであり、何を食べようか迷っている状態でした。
「(今日は焼き魚にしましょうか……しかしアクセラレータは骨を取るのを面倒くさがるからどうしましょうか、とミサカはブツブツ考え事にふけります)」
そしてミサカは、既にアクセラレータと別々に食事する事は頭にありませんでした。
ミサカの部屋は起きて寝るだけの部屋になりつつあり、部屋はがらんとしています。
でも、この間アクセラレータが見ていたアニメにいたアルビノ少女より遥かにマシな生活空間です。
ミサカの部屋は流石にあそこまで殺風景じゃありません。

何の関係も脈絡もありませんけど、ミサカはデュラ○ラとか見ます。

リアルタイムで見ているので次回予告はどうだったかを思い出しながら、ミサカは買い物を続けます。
しばらくすると、ミサカの前にカツッとローファが地面を踏む音が聞こえました。
前を向くと、そこには超さんが立っていました。
右手には『超包子』とプリントされたレジ袋。
その中に入っているのは、多分いつもの肉まんでしょう。
「やあ、ミサカさん。それとも一方さんと呼んだ方が良いのカナ?」
「こんにちは、超さん、とミサカは挨拶をします。呼び方はミサカで構いません、とミサカは呼ばれなれた名前を支持します」
「じゃあミサカさんと呼ばせてもらうネ。早速だがちょっと聞きたいことがあるヨ。ついて来てくれないカ?」
つまり、ここじゃ聞けないこと、ということですね。
……この流れからすると、超さんも魔法関係者なのでしょうか?
ミサカは自己完結することにして、超さんについていくことにしました。

超さんと私はあまり接点がありません。

こうやって話しかけられるのも、たぶん二回目か三回目くらいです。
以前のは挨拶だったと思いますし。
だから、超さんが何を尋ねようとしているのか、ミサカにはわかりませんでした。
こうなるとミサカの経験不足が浮き彫りになります。
こう言う時、アクセラレータがいたら楽なのに、と思います。
さて、やってきたのはどこにでもあるような喫茶店でした。
何やら男性と女性の組み合わせが多いようですが、それは何らかの意図してのものでしょうか。
女性同士のミサカたちはちょっと浮いている気がします。
やがて案内のお姉さんが案内してくれた席に到着しました。
お互い対面になるように座ると、超さんは何やら拳大の機械を取り出した。
何なのか、それと聞こうとした時、



――――――――――――。



音が消えました。
いえ、ミサカの呼吸音は聞こえていますから音が聞こえなくなったわけじゃありません。
だとすれば、これは一体……?
前を見ると、その反応に満足したように超さんはくすくすと笑っていました。
「驚いたカ? アクセラレータはまったく動じなかったヨ」
その意見に、ミサカはムッと眉をよせます。
「アクセラレータと違いミサカには経験が不足しています、とミサカは普通は驚くものだと常識を語ります」
「まあそうだが、どうもアナタはアクセラレータと同じ匂いがする。だから同じ反応をするかと思ったヨ」

「……匂いフェチなのですか、とミサカは鳥肌を立てて後退します」

「ちょっ!? 何でいきなりそっち方向に話がズレるカ!? 今のは印象という意味ネッ!!」
慌てて弁解する超さんを見て、からかいがいのある人ですね、とちょっとだけ思いました。
今くらいの表現を理解できないミサカではありません。
「(流石、アクセラレータと一番近しいものだけのことはある、ミサカさんも相当な変わり種ネ。これは常識で計っていたら痛い目をみるかもしれないヨ)」
深呼吸をする超さんを見て、ミサカも椅子に座りなおします。
仕切り直し。
超さんは自分の口の前で手を組み、肘をテーブルにつきながらミサカを覗き込むように見てきました。
「アクセラレータから聞いていると思うが、私はとある計画を遂行している。あなたとはアクセラレータと同じく不可侵協定を結ぼうと思ってるネ」
計画?
……ミサカは聞いていませんが。
騙そうとしているにしてはあまりにも仕草が自然なので、おそらくアクセラレータと超さんが何らかの不可侵協定を結んでいる事は間違いないと思います。
まあ、わからないのなら聞けば良いだけのことですね。
「私はアクセラレータからそんなことは聞いていません、とミサカは断言します。とある計画と不可侵協定についての内容を聞きたいと思います、とミサカは尋ねました」
「アクセラレータから聞いていない? 説明しなかった、ということカ」
超さんはそう呟くと、眉根を寄せてからため息をつきました。
力のなくなったそのため息から察するに、おそらく疲れているのでしょう。
まあ、アクセラレータを普通の感性で理解することは不可能です。
超さんもそのことがわかっている人の一人なのでしょう。
超さんはそのまま計画の事について説明を始めました。

まずは自分の計画を邪魔して欲しくないということ。

これは素直に了承しました。
アクセラレータが許容しているのなら少なくとも人類を滅ぼすような計画ではないようですし、ノーと答えれば後々面倒な事になりそうだったので、一応イエスと答えておいたのです。
そして語られたのは超さんの計画、要約すれば全世界に魔法をバラすというものでした。
このまま放っておいたら世界は現実世界と魔法世界との戦争になる。
それを回避するために、今の内に安全策をうつ、ということらしいです。
どうしてそんな未来を知っているのかと思えば、超さんは火星から来た未来人だから、との事です。
頭の病院を勧めたい気分ですが、ミサカも異世界人なので人の事は言えません。
それに、目を見ているとその目がとても真剣な事が良く分かります。
まっすぐな目。
それはミサカをまっすぐに見つめてくる上条当麻に似ていました。
決意がこもった瞳。
睨みつけるわけでもなく、ただ強い瞳。
それを見ても、今言ったそれが本当なのかどうか……ミサカには判断しきれませんでした。
「ミサカは陰謀などはあまり得意ではありません、とミサカは暴露します。その魔法使いの存在を暴露すると言う計画については超さんの言う通り干渉はしないことにします、とミサカは言います」
ミサカは軍事用に開発されたミサカです。
ミサカは単純な戦力として開発されたそれであり、交渉事などの技術や知識は対人関係についての対処の仕方などは実験体であった〇〇〇〇一号から最新型までほとんど変わりません。
まだ魔法などについての情報、そして一般的倫理観が乏しいミサカにとって、超さんの計画が正しいモノであるかどうかはわかりませんでした。
判断できないのなら信頼している人物に追従すれば良い。
というか、今頼れる人物はミサカとしてはアクセラレータくらいしかいないのですけど。
超さんとして見れば今の結果は順調なのでしょう、少し満足げな雰囲気が感じられます。
「ありがとう。助かるヨ」
と言われましても、ミサカ一人くらいではそれほど超さんの敵の戦力にはならないと思いますが。
素早く頭を回転させて、ミサカは気づきます。
……ミサカを敵とするとアクセラレータも敵に回る可能性がある、ということですか。
アクセラレータと不可侵を結んでいるとしても、やはりアクセラレータが裏切る可能性は摘み取っておくと言う事ですね。
今ミサカに接触してくると言う事は、アクセラレータとミサカがどんな関係か調べるため、と取っておいても良いと思います。
ということは調べ終わった後と考えて良いと思いますが……どうやって調べたんでしょう。
ミサカは部活もしてませんし、超さんがアクセラレータの部屋に来たことも、ミサカの部屋に来たこともないはずです。
そうやって思考に陥ろうとしていましたが、そこを超さんの言葉で現実に引き戻されます。
「もう一つ質問があるのだが、いいカ?」
見ると、超さんの顔はさっきの緊張で強張った顔から、ほんの少しだけ柔らかい表情に見えました。
少しホッとさせるような顔です。
ミサカも警戒しつつ、ほんの少しだけ緊張を緩めて超さんに頷きました。
「ミサカさんとアクセラレータの関係を教えて欲しいネ。できればアクセラレータの過去も知りた―――」


「できません、とミサカは即答します」


ほぼ反射的にそう答えていました。
ミサカは咄嗟にそう答えた自分に内心驚愕していましたが、それよりも超さんも驚いたようでした。
眼を一瞬見開いた後、さっきの交渉の時の表情に戻ります。
「『知らない』ではなく『できない』と来たカ。アクセラレータに口止めをされているのカ?」
「それもありますが、個人的に話したくないことでもあります、とミサカは言います」
「それでもお願いしたい。私はアクセラレータのことを知りたい。彼は絶対に口を割らないネ。だから、あなたに聞くしかないんダ」
超さんは頭を下げました。
ミサカはその頭頂部をじっと見つめます。
アクセラレータの事を知りたい。
ならアクセラレータに聞け、というのはもうわかりきっている事ですが、彼の事です、絶対に口を割らないでしょう。
この超さんの言い分からすると、おそらくアクセラレータにはもう聞いている、と見て良いですね。
どうしようもなかったからミサカを頼った、と。
頼られるのはなんだかむず痒くて嬉しい気持ちになりますが、これは別です。
嬉しいと言うより、何かささくれ立つようなイライラしかありませんでした。
その気持ちに不快感を感じながら、ミサカはため息をつきました。
「頭を上げてください、とミサカは促します」
それを聞いて、超さんは頭を上げます。
その顔はさっきと同じもの……強い表情。
上条当麻もそうですが、どうしてこんな表情ができるのかミサカには理解不能です。
しかし、その強い意志を伝えられてもあの事を話すことは気が引けました。
というか、話せません。
だからミサカは、超さんがミサカに頭を下げてまでどうしてアクセラレータの事を知りたいのか疑問に思いました。
「どうしてそう思うのですか、とミサカは尋ねます」
「どうして、とは?」
「超さんとアクセラレータは親しい仲でしょう、とミサカは超さんの口調から予想します。だからこそ、アクセラレータを知りたいという欲求はおかしいと思います、とミサカは首を捻りました」
そう、おかしいのです。
アクセラレータは確かにそうベラベラと自分の事を語りませんが、どうにもならない所に来れば話す事もあります。
それに、超さんが親しい仲だとすればアクセラレータの事はそこそこわかると思うのですが……。
それに、友達、というのはミサカもよくわかりませんが、そう深く知るようなものではないと思います。
深く知れば、それは親友と呼べる存在だと思うのです。
お節介な人であればよく厄介事に首を突っ込みますが、アクセラレータの事を知りたい、というのとは目的がズレてると思いますし。
相手にもほじくり返されたくない過去もありますし、それを知っているであろう他人に聞くのは間違っている、とミサカは思います。
何故そこまでしてアクセラレータの事を知りたいのか……ミサカにはどうもわかりません。
だから、ミサカはこう結論付けました。
「私が思うに、超さんの質問は知的好奇心から来るものではないでしょうか、とミサカは予測します。だからこそ教える事はできません、とミサカは断固拒否します」
超さんは僅かに表情を動かしましたが、すぐにそれまでの表情に戻りました。
「……理由を教えてくれるカ?」
「好奇心程度の覚悟でアクセラレータに踏みこもうとするのは気に入りません、とミサカは告げます。知的探求心は結構ですが、それによりアクセラレータが傷つくのは看過できません、とミサカは断言します」
ミサカの台詞を聞いて、超さんは一瞬呆けた後に眉をひそめました。
それは難解な問題を突きつけられた時の表情に似ています。
「アクセラレータが傷つく、カ」
そう呟いて、一度だけ首を捻りました。
「私にはどうも想像がつかないヨ。彼はあの不条理で何もかもを突破していけそうな気がするネ。悩むことなんてないんじゃないのカ?」
ささくれ立ったイライラが、張り裂けそうなイライラを発散しました。
感情の高ぶりによって、まだ制御しきれない超能力が漏れ、静電気のようにパチパチと前髪が帯電します。


ふざけるな。


アクセラレータは人間です。
それ以上でも、以下でもない。
ただ、少し不器用で素直じゃないだけで。
そして特異な能力を持っているだけで。
それだけで『傷つかない人だ』と断言するというのは、あまりにも短絡的過ぎるでしょう。
確かに、ミサカはアクセラレータを恐れました。
何の攻撃も通じない、人の死を何とも思わないバケモノだと、そういう印象を持っていました。
いかにミサカネットワークからの意思を感じていたからと言っても、そういう本能的な恐怖からは逃れられなかったのです。
でも、アクセラレータは人間でした。
ミサカが定義づけている、『人間』でした。
人との交わりを喜び、晩飯を食べて美味いと言い、別れ際に『寒くならねェよォにしろよ。夜は冷えるからな』と気遣ってくれたり、仲間と呼べるような存在と馬鹿をやり―――そんな存在をバケモノと呼ぶ事は、ミサカにはできませんでした、


……でも。


超さんの言う事は、そういうアクセラレータの人間性を真っ向から否定するそれでした。
アクセラレータでも、傷ついたりはします。
アクセラレータはミサカに視線を合わせる事は滅多にありません。
目を合わせると、すぐに目をそらします。
目線に慣れていない、と言う事はありません。
刹那さんたちには目を向けているし、ミサカだけが例外なのです。
それはどうしてでしょうか、とミサカは思いました。


そして、ふと忘れていたことに気づきます。

アクセラレータは自分に罪悪感を持っていたのではないか、ということに。


自分に対して気をつかうのも『妹達』を殺した罪悪感からだろう、とミサカは分析していました。
でなければ自分にこれだけ良くしてくれる理由がわからないのだ。
何の問題もなく、こうして中学生をやっていられるのはアクセラレータのおかげだということもなんとなくわかっています。
だから、でしょうか。
ミサカはアクセラレータの事を、ほんの少し許していました。
最初はその罪悪感を逆手にとって色々としようと思っていましたが……いつの間にかその気も失せていることに気づきました。
もう、アクセラレータはミサカにとって頼りにしている人です。
その人間性を、彼も人間であると言う事を、超さんは否定しました。
そう自覚するとともに、ミサカの手は拳を握りすぎて痛みを発していました。
でも、今はその痛みすらどうでもよく感じます。
そして、そのどうでもいい思考で確信します。
目の前にいる人物は、アクセラレータという男の中身、その一割すら知らないのでしょう。
だというのにアクセラレータと自分の過去をただの好奇心で知ろうとするなど片腹痛い。
そんな浅い心構えで、そんな事を言われたら……。
「……だから教えられないのです」
ミサカは生まれて初めての憤怒に戸惑いながら、絞り出すように言いました。
バヂッ、と前髪から火花が散る。
ミサカの中に残っていた理性が、このままでは怒りのままに電撃を叩きつけてしまいそうになることに気づき、立ち上がりました。
このままではこの感情をそのままぶつけてしまいかねません。
不必要なほど湧き上がってくる怒りを更に倍増させるように、超さんは『待ってくれ』と同じく立ち上がりました。
ビキリ、と本気でミサカの額に青筋が走ります。
それを自覚しないまま、ミサカは超さんを睨みつけて吐き捨てました。

「ただの好奇心でアクセラレータとミサカの間に踏み込まないでください。不愉快です」

ミサカはそのまま驚きの顔で硬直する超さんを残し、喫茶店から出ました。
溢れる莫大な感情が胸の中で渦巻いて、爆発しそうでした。
その矛先がどこにもなくて、そのエネルギーを処理することができなくて、
ミサカはただ、走り出すことしかできませんでした。






我武者羅に、どこをどう走ったかも覚えていないまま……何時の間にかミサカは世界樹前広場へやってきていました。
肌寒い季節なのであまり人気がない広場を眺めた後、朝のトレーニングの時に走っている道のりをなんとなく歩くことにしました。
歩きながら、ふと、ミサカのさっきまでの目的がなんだったかを思い出します。
「(そうでした……買い物を)」
でも、今はそんな気分じゃありません。
とてもじゃありませんが、鼻歌混じりに夕食の献立を考える気分などではありません。
胸になにかもやもやとした不愉快なものが詰まっていて、所構わず電撃をぶっ放したい気分です。
詰まる所、イライラしているのです、とミサカは冷静に自分の中の感情を分析します。
しかし同時に、何故か悲しくもありました。
その理由はミサカにはわかりません。


理解が、できません。


それが更にミサカの胸のもやもやを増大させます。
悪循環のできあがりです。
それを自覚していながらも止められないミサカは、それから世界樹前広場の周りをぐるぐると回っていました。
帰りたくなかった。
今、アクセラレータと顔を合わせたくありませんでした。
でも、アクセラレータに自分が夕食の材料を買ってくると約束していたことを再び思い出します。
約束を破る事は心苦しいです。
ここをさ迷うか、それとも商店街に行くか、またはこのまま帰るか。
ミサカの頭の中は超と同じようにぐるぐると回転していて、まったく答えが出ませんでした。

もう、この広場を十回以上は回ったと思います。

無意味な時間稼ぎは瞬く間に過ぎていき、まばらに見えていた生徒の数も激減し、ついにはとっぷりと日が暮れてしまいました。
頼りない街灯に照らされて夜道を歩く。
ミサカの頭の中は答えの出ない問いが連続していて、その意識がしっかりしているのかすら判別できませんでした。
のっぺりとした人形のような無表情のまま、ミサカは歩きつづけます。
ミサカの目に、その終着点は見えません。






SIDE 一方通行

遅い。
遅すぎる。
時計の針は七時を通り越し、ついには長い針が下を刺し始めていた。
俺は荒々しく三本目のコーヒー缶を机に叩きつける。
机の上にはミサカがそのまま置いていったノートと教科書、筆箱があった。
彼女が夕飯の材料を買いに行くと言い出して商店街へ向かってから、既に二時間という時間が経過していた。
ここから商店街までどう遅くても十分ほどしかかからない。
食べ物を選ぶ時間を考えると、いくら遅い帰りになっても一時間程度のはずだ。
だというのに、どうしてここまで遅いのか。
材料を選ぶにしても凝り過ぎている。
調理時間がなくなるだろうが。
さっき携帯を鳴らしてみたが、ミサカは電源を切っているようだった。
ヘンな所でクソマジメな所が裏目に出たか。
腕を組んでミサカの帰りを腹を鳴らしながら待っていると、ようやく帰って来たようだ。
インターホンが鳴る。
どこかホッとしている自分に驚きながら、俺は受話器に出た。


『こんばんはー、アクセラレータさん、いますかー?』


「あァ?」
この独特の間延びした声はハカセのものだった。
眉を顰めながら扉を開くと、そこにはいつになく真剣な表情のハカセと、珍しくその後ろに超がいた。
何故か超の方はいつもの陽気さやふてぶてしさは感じられず、なにやらしょぼんとしている様子が見うけられる。
一目でそれを見抜いた俺は、ハカセに尋ねた。
「何があった?」
真剣な口調になってしまったのは致し方ないだろう。

超もハカセも、今では俺の友達だ。

元気のない超なんざ気持ち悪いことこの上ないのでさっさと元に戻って欲しい。
だからその原因を聞こうと思ったのだ。
彼女が落ちこむ理由なんてそうそうないと思うので、つい真剣になってしまった。
しかし、それに問いで返したのはハカセではなく超だった。
「ミサカさんはいるカ?」
「ミサカ……いや、いねェ」
俺がそう言うと、超は見るからにがっくりと肩を落とした。
その様子がまた不可解に思い、尋ねる。
「どォしたンだ?ミサカと何かあったのか?」
「ちょっと軽率な事を聞いてモメてしまってネ。謝ればすむ問題ではないが……頭を下げようと思って来たネ」
超とミサカがモメた?
想像がつかないな。
超の様子をみると落ち込んでいるようだから……ミサカが何かを言ったと言う事はないと思う。
俺が短く現状を分析している中、ハカセが言った。
「お隣の部屋の電気もついていませんでしたしー、アクセラレータさんの家以外にミサカさんが寄る場所は考えにくいんですがー……」
「……超が何か言ったンだな? じゃなきゃテメェがこんなツラしてるわけねェモンな」
「う……返す言葉もないヨ」
がっくりと項垂れる辺り、かなり反省はしているようだ。
何を言ったのか少し気になるところだが、これは本人達の問題だ。
ミサカにも対人関係のトラブルを解決させる良い機会になるかもしれない。
俺はそう思うとため息をついた。
それから申し訳なさそうにしている二人を見やる。
「テメェらは寮に帰れ。もうそろそろ門限だ、帰らねェンなら気絶させて運び出すからな」
「でも……私は」
「明日にしろ。ミサカはああ見えて繊細だ、話した内容は知らねェが、今日中にはテメェに会う気は起きねェだろうさ」
モメた人間とすぐ会って、すぐ謝って、それで和解なんてありえない。
大方の事なら流してしまうミサカとモメたんだ、そう簡単な問題でもあるまい。
両者とも心の整理の時間が必要だろう。
せめて、一日くらいは。
俺がそう言うと流石の超も引き下がり、重いため息をつきながら肩を落とした。

「……悪かったと伝えておいてくれるカ?」

「ミサカがどう思うのかは知らねェぞ」
「ここで言いたかっただけネ。きちんと本人の前で謝罪はする」
「なら良い。ほれ、さっさと帰れ」
超は一礼すると、ハカセと一緒に階段を降りて帰っていった。
それから俺は扉を閉めると、ベランダから夜空へ飛び出した。
頭の中でミサカが行きそうな所を予想するが……ダメだ、アイツが行きそうな所なんて想像がつかん。
電波受信してどこにでも言ってしまいそうな感じがする。

とりあえず、俺はミサカが俺と一緒に歩いた場所を中心的に探すことにした。

こりゃあ、骨が折れそうだ。
ミサカネットワークに接続できるんなら容易いんだが、この世界にミサカが一人しかいないのでそんなこともできない。
ん?
ミサカネットワーク?
ミサカの出す微弱な電場を感じ取れば―――いや、無理か。
今まで意識してミサカの電場を感じたことはないし、電波を乱すほど強力な物でもないだろうし。
確かに意識してみるとそれらしきものを認識することはできるが、誰のものかなんてわかるはずがない。
それに、そもそも俺の肌に触れていないとベクトルの乱れとかも感知できないしな。
クソッ、地道に探すしかないってことかよ。

俺はまず、商店街でミサカがよく行く八百屋などの店の主人たちの下へ聞きこみに向かった。

すると、ミサカを見たという人はいたようだが、どこに向かっているのかはまったくわからなかった。
どうも商店街には来たようだが……。
あちこちに聞き込みし、やがて俺は例の電気屋にやってきた。
古臭い自動ドアをくぐる。
「おお、アクセラレータさんじゃねえか。電子レンジの調子でも悪くなったか?」
あのオヤジだった。
捻りハチマキをしていて、相変わらず冬なのに真っ黒な小麦色の肌をしている。
去年より少し白髪が増えていた。
「いや、今日はそれじゃなくてな……ミサカを知らねェか? まだどっか行ってるらしくてな」
「ミサカちゃんか? あぁー……そういや夕方辺りにものすげえ勢いで走っていくのを見たな」
「どこに向かってた?」
俺の剣幕にちょっと真剣な顔になりながら、オヤジは外に出て、世界樹の方を指さす。
「こっちに向かってまっすぐ突っ走っていったのを見た。チャリより早いんじゃねえかと思ったが……お前さん、何かしたんじゃねえだろうな?」
急に低い声になるオヤジに対して、俺は極めて事務的に答える。
「クラスの連中とモメたンだと。ソイツが俺のトコに来てそのことを知ったンだ。……なンだよその目は」
いつの間にか、その目はいつものような豪快なものに戻っていた。
俺が眉根を寄せると、オヤジは笑った。
「いや、普通の理由で安心したんだよ。病院で劇的なことが発覚したんじゃねえかと心配しちまったんだ」
「テメェ……」
「悪かった、冗談だ」
オヤジはそう言って、世界樹方面を指さした。

「ほれ、さっさと行ってやれ。泣いてる女の子は慰めるのが男の務めだぜ」

「……サンキュー」
いきなりとんでもねーことを言い出すが……やっぱりこのオヤジは一味違う。
俺は後日何か礼の品を持っていくことにして(どうせ受け取らないんだろうなあ、と思いながら)走り出す。

俺はオヤジの言葉を信じて世界樹方面に向かう。

その途中、ジジイに捜索を頼もうかと思ったが、やめた。
ジジイの魔法ならすぐに探し当てることができるだろうが、借りを作るのは嫌だからだ。
あのジジイ、借りを盾にしてどんなこと迫ってくるかわかんねえからな。
麻帆良祭の時も金を餌にしてあんなことさせやがったし……いや、思い出すな、気持ち悪くなる。
……それに、ネギも来た事だし、迂闊な事をしたら色々とまずい。
もちろんミサカに危機が迫っているのなら一も二もなくジジイの手を借りるが、ミサカの事だから変質者に襲われて監禁されているということはないだろう。
他に思いつくのは過激派の行動。
俺の保護下にミサカがいることで、ミサカを不穏分子としての見方を強めている連中がいると言う事はわかっている。
連中の仕業かもしれないが……ミサカがわき目も振らず突っ走る意味がわからない。
まさかミサカが逃げ出すようなシロモノでも使ったのだろうか。
ミサカが脅威に思って逃げ出す存在なんてそれほどないだろうし……ああもう、わけがわからんぞ。
そして思考を停止させると、腹がぐるぐると鳴った。

時計を見ると、もう八時を回っていた。

「チッ」
腹が減る事による苛立ちを押し潰しながら、俺は走り続けた。
大きな橋があるところから広場を見回したが、誰もいない。
芝生が広がる広場にはささやかな風しか通らず、人影はまったく見えなかった。
俺が探っても気配はまったくない。
こりゃハズレか?と思っていると、俺の操作していた風が人の気配を捉えた。
近くないが、遠いというワケでもない微妙な距離。
俺がそちらの方向を向くと、そっちの方向には麻帆良祭で高音や愛衣と待ち合わせた世界樹前広場の大きな階段があった。
そこで座っているようだ。
歩き疲れたのか、それとも途方に暮れたのか。
ため息をつきながら、俺は一気に階段の方に飛んだ。
風を切る音を聞きながら見下ろすと、いた。


この時間に茶髪の女子中等部の制服。

間違いない、ミサカだ。


俺は逆制動をかけると、ほぼ無音で着地する。
だが僅かな物音で気付いたのか、こちらに振りかえった。
何か一つ文句をいってやろうと口を開いたが、その顔を見て、そんな事もいえなくなってしまった。
俺の見て来たミサカはどこかすました雰囲気がある少女だった。
それはいつだろうと変わりなく、無表情でつらつらと事実を長ったらしく表現する独特の雰囲気もあった。
だから、俺は心のどこかで安心していたのかもしれない。
ミサカは感情に疎い。
だからこそ鈍い。
涙を流した事もなく、そのような感情を持つ事は当面ないだろうと考えていたのだ。
だが、振り向いたミサカの顔が、そんなことはないということを物語っていた。

その顔には『悲しみ』という感情が刻み込まれていたからだ。

間違いなくその顔は無表情だが、今にも泣きそうな雰囲気を伝えて来る表情だ。
その悲しみが何から来るのか、超からどういう言葉をかけられたからか、俺は知らない。
だからどういう言葉をかけてやればいいのかわからずに、俺はこう言った。
「―――何やってンだよ、オマエ」






SIDE 一方ミサカ

何をやっているのでしょう、と自問自答しながら歩くこと暫く。
気付くとミサカは世界樹前広場の階段に座っていて、呆然と夜空を見上げていました。
これが黄昏ている、と言う状況なのだと思います。
完全に自失していたようなのでミサカの身体の状態を確認すると、足の疲労と妙な体のだるさ以外は異常ないようです。
木にぶつかったわけではないので安心しました。
特に外傷もない事に気付いた後、ミサカは時計を見ます。

午後八時四分。

最早言い訳のしようもない時間帯です。
真っ暗で人通りもないはずです。
ミサカの頭にふっと思い浮かんだのはアクセラレータでした。
彼は笑えないバラエティ番組を見て顔をしかめているのでしょうか。
それともミサカのことなど気にせずに寝てしまっているでしょうか。
どちらにしても、既に外食で食事を済ませていると判断します。
ミサカを待つ理由なんてないのですから。
不機嫌そうにため息をつく彼の顔を思い浮かべると、途端にミサカには帰らなければならないと言う衝動が襲いかかってきました。
アクセラレータに夕飯の買出しを進み出たのはミサカです。
迷惑をかけたことを謝らなければなりません。
しかし、動きたくないくらいのだるさがあるのも事実です。
それに、アクセラレータにも会いたくありません。
何故なんでしょうか……。
私の頭の中はまたぐるぐると回り始めます。
いけないと思っていても気になってしまい、延々と頭の中を回りつづける無間地獄。
いつもならわからないものはわからないと切り捨てるミサカでも、これは切り捨ててはならないと思ってしまっているのです。
そんなにこのもやもやは大切なのでしょうか。

何故、ミサカは―――。

ぐるん、とまたミサカの頭が無間地獄に囚われそうになったとき、上段に誰かが降り立ったような音が聞こえてきました。
タッ、という軽い音です。
普段なら気付きもしない小さな音ですが、今は静寂に包まれる広場です。
その音は何故か小気味良いくらいミサカの耳に吸い込まれていきました。
誰か来たのだろうか、と振り向きます。
顔を確認する前に、声が。


「何やってンだよ、オマエ」


不整脈。
驚くほど大きく、ミサカの心臓が音を立てました。
すぐに誰かわかりました。
アクセラレータです。
その姿を見た瞬間、ミサカの頭はパンク寸前になりました。
何を言えば良いのか、その選択肢が多過ぎたのです。
ごめんなさいと謝るか、その前の説明をすべきか、この行動の意味を言うべきか、そもそも何もかもを放り出したいくらいにわからないというべきか。
詰まる所、頭が真っ白になっていたのです。
不意に、アクセラレータが来た事に泣きそうになっている自分がいることに気付きました。
何故、泣きそうになるのですか。

何故?

またもや頭が真っ白になって呆然とするミサカを見て、アクセラレータは深いため息をついて頭をバリバリと掻きました。
今にもその口から『面倒くせェ』という言葉が聞こえてきそうでした。
コツ、とアクセラレータが一歩踏み出します。
誰もいない、二人きりで、アクセラレータがこちらに向かって歩いて来ます。

まるで『実験』のように。

現実逃避をしているミサカをよそに、アクセラレータはどんどん歩みを進めてきます。
何もする事ができず、身じろぎすらする事もできず、ミサカは硬直することしかできませんでした。
硬直している間に、アクセラレータはもう隣にやってきていました。
私は彼の顔を見上げたまま座っていました。
今からどんな叱責を受けるのか、という恐怖で怯えていたからです。
どんな怒声を浴びせられるのか。
まさか殴られるのだろうか。
恐い想像ばかりが膨れ上がっていき、沈黙に耐えきれなくなってその想像が破裂しそうになったその時、彼はミサカに聞こえるようにはっきりと言いました。


「帰るぞ」


たった一言。
ミサカが遅くなった理由を尋ねもせず、夕飯はどうしたとかいう事も尋ねず、ただ『帰る』と。
迎えに来てくれた?
まさか。
アクセラレータがミサカのために迎えに来てくれるなんて……いくら彼の様子が学園都市と違うとは言ってもそんな事―――。
そこまで思考が働いた後、アクセラレータはミサカを置き去りにして歩き始めました。
ミサカは慌てて立って、しびれそうになる足を堪えて後を追います。
アクセラレータの歩みは比較的ゆっくりだったので、すぐに追いつけました。
恐る恐る、その横顔を見上げます。
少し眠そうでだるそうなその顔からは、怒りなどといった感情が見うけられません。

どうして?

ミサカの過失で迷惑をかけたのに……どうして怒ってないのですか?
「ど、うして……」
掠れた声しか出ませんでした。
アクセラレータは歩みを止めません。
聞こえていないはずがありません。
無視をしているのでしょう。
「どうして、理由を……聞かないのですか、とミサカは呆然と尋ねます」
さまざまな感情が入り混じったミサカからは、そんな変な尋ね方しかできませんでした。
聞きたいことがあるはずなのに、ミサカがここにいる理由すら聞かないアクセラレータ。

不思議にもほどがあります。

ミサカのその言葉を聞いて、アクセラレータは歩みを止めました。
その後ろにいるミサカも止めます。
アクセラレータは、ミサカも見たことがないような……そう、困ったような、困惑しているような仕草で頭を掻くと、ボソボソと呟きました。
「ンなツラしてる奴に理由なンざ聞けるかよ。帰って飯食って、それからだ」

飯?

「そ……その、夕飯は……?」
「食ってねェよ。誰かさんがほっつき歩いてたせいでな」
「……え」
食べて、ない?
「待ってくれていたのですか、とミサカは尋ねます」
アクセラレータは答えずに、歩みを再開しました。
呆然と見るその背中から、小さく鼻を鳴らしたのが聞こえます。
つまり、待っていた。
こんな夜遅くまでミサカが夕飯の買い出しに行ってから、ずっと。
「あ……く、うぁ……」
そう悟った瞬間、ミサカの中から熱い何かが溢れてきました。
それを止めることができず、その熱いものは私の目から流れていきます。
外気にさらされ、それはすぐに冷たくなりますが、ミサカの体温は更に急上昇します。
しゃっくりのような音がミサカの喉から聞こえると同時に、体が震えます。
今までこんな事は一度もありませんでした。

どういうことでしょうか?

あまりにもアクセラレータの行動が衝撃的過ぎてミサカの情緒がおかしくなってしまったのでしょうか。
何かを言葉にしようとするのですが、うまくいきません。
アクセラレータはミサカの異常に気付いたのでしょう、驚いたように振り向いて、こちらに近寄ってきます。
「……ッ、あーッ、これだからガキのお守りってのは面倒くせェ」
ガリガリと頭を掻きながら、アクセラレータは私の前に立って途方に暮れていました。
ミサカは眼前にいるアクセラレータを見上げました。
ミサカの顔を見てアクセラレータは呆れたようにため息をつくと、軽くつま先で跳躍します。
置いていくのかと思いましたが、そうではなく、アクセラレータは近くにある自販機に一瞬にして移動していました。
さっさと出てこない自販機にイライラしているのか、ボタンを何度も連打しています。
いきなりのアクセラレータの不可解な行動に呆けていると、また一瞬にしてアクセラレータが目前に戻ってきました。
その高速移動に驚いて、ミサカは一歩後ろに下がります。
すると、眼前にペットボトルが差し出されました。
とある有名な紅茶です。

午後に飲むらしいです。

そのラベルが貼られたペットボトルをどうして欲しいのかわからずに、ただそれを眺めていると、アクセラレータは、
「飲め」
いきなり命令でした。
それを受け取り、紅茶を飲みます。
アクセラレータはちゃっかりとコーヒーを買ってるようでした。
喉から伝わる暖かい紅茶が胃に流れ落ちると、まるで染み渡るように暖かさが身体全体に伝わっていきます。
それで、私の体はかなり冷えていたと言う事を実感しました。
ずっと動いてませんでしたから、当然です。
ほぅ、とついた一息が白い息となって空中に吐きだされます。
それがちょっと面白くて、一度、二度と繰り返しやっていると、アクセラレータが突然聞いてきました。
「落ち着いたか?」
暖かいコーヒーを飲んで、若干満たされた表情をしているアクセラレータは、どこか暖かい視線でミサカを見ていました。
いつもなら気持ち悪いとか言ったでしょう。
でも、今はどうしてもそうとは思えませんでした。
泣きだした理由はさっぱりわかりませんが、落ちついたのは確かです。
「はい、とミサカは短く答えます」
それを聞いたアクセラレータは、ふらりと踵を返して歩き出しました。
ミサカはボトルのキャップを閉めながら、慌ててそれを追いかけます。
そして―――いつの間にか、アクセラレータのジャンパーの袖を掴んでいました。
鬱陶しそうに、肩越しでアクセラレータは振り向きます。
紅い目が、至近距離でミサカに向きました。
「ンだよ」
「このままでいいですか、とミサカは質問します」
今は、少しでもアクセラレータに触れていたい。
なんだか、そんな気がするのです。
アクセラレータは私を見た後、何事もなかったかのように前を向いて、ポツリ。


「好きにしろ」


事実上の許可を戴きました。
アクセラレータの少し後ろを歩きます。
ミサカの手はアクセラレータのジャンパーの裾をぎゅっと握っています。
がっくりと肩を落とすアクセラレータに首を傾げました。
アクセラレータの足はコンビニに向いています。
弁当を買って帰ろうとでも思っているのでしょう。
今日は味気ない夕食になりそうです。

でも、明日は昨日以上に豪華な夕飯にしたい。

ミサカはそれを見るアクセラレータの表情を想像して、ほんの少しだけ笑いました。






~あとがき~

苦労した……それだけです。

アクセラレータは年下を慰めるとか、そういうのは物凄く不器用です。
物を買って慰めるくらいしか思いつきません。

次回、超、ミサカ、刹那が出てくる予定です。
このごろすっかりアクセラレータの影が薄くなって……どうしよう。一応主人公なのに。


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