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No.21322の一覧
[0] とある転生者の麻帆良訪問(ネギま!×とある魔術の禁書目録 オリ主憑依)[カラーゼ](2010/10/31 15:16)
[1] 第1話[カラーゼ](2010/09/04 00:26)
[2] 第2話[カラーゼ](2010/09/04 00:28)
[3] 第3話[カラーゼ](2010/08/21 12:48)
[4] 第4話[カラーゼ](2010/09/04 00:29)
[5] 第5話[カラーゼ](2010/09/04 00:32)
[6] 第6話[カラーゼ](2010/09/04 00:33)
[7] 第7話[カラーゼ](2010/09/04 00:35)
[8] 第8話[カラーゼ](2010/09/04 00:38)
[9] 第9話[カラーゼ](2010/08/24 20:46)
[10] 第10話[カラーゼ](2010/09/04 00:41)
[11] 第11話[カラーゼ](2010/08/25 23:45)
[12] 第12話[カラーゼ](2010/09/04 00:42)
[13] 第13話[カラーゼ](2010/08/28 20:02)
[14] 第14話[カラーゼ](2010/08/28 18:04)
[15] 第15話[カラーゼ](2010/08/29 12:30)
[16] 第16話[カラーゼ](2010/09/04 00:43)
[17] 第17話[カラーゼ](2010/08/30 18:21)
[18] 第18話[カラーゼ](2010/08/31 22:41)
[19] 第19話[カラーゼ](2010/09/04 00:24)
[20] 第20話[カラーゼ](2010/09/03 22:22)
[21] 第21話[カラーゼ](2010/09/04 17:48)
[22] 第22話[カラーゼ](2010/09/05 23:22)
[23] 第23話[カラーゼ](2010/09/05 20:24)
[24] 第24話[カラーゼ](2010/09/06 20:43)
[25] 第25話[カラーゼ](2010/09/08 00:52)
[26] 第26話[カラーゼ](2010/09/11 21:59)
[27] 第27話[カラーゼ](2010/09/13 12:53)
[28] 第28話[カラーゼ](2010/09/15 14:10)
[29] 第29話[カラーゼ](2010/09/16 03:25)
[30] 第30話[カラーゼ](2010/09/19 00:34)
[31] 第31話[カラーゼ](2010/09/24 21:39)
[32] 第32話[カラーゼ](2010/09/30 00:28)
[33] 設定集[カラーゼ](2010/09/29 00:48)
[34] 第33話[カラーゼ](2010/09/28 00:13)
[35] 第34話[カラーゼ](2010/09/30 17:36)
[36] 第35話[カラーゼ](2010/10/04 23:06)
[37] 第36話[カラーゼ](2010/10/14 12:10)
[38] 第37話[カラーゼ](2010/10/14 23:18)
[39] 第38話[カラーゼ](2010/10/31 15:29)
[40] 第39話[カラーゼ](2010/11/07 15:05)
[41] 第40話[カラーゼ](2010/11/08 01:44)
[42] 第41話[カラーゼ](2010/11/10 01:14)
[43] 第42話[カラーゼ](2010/11/12 01:21)
[44] 第43話[カラーゼ](2010/11/21 20:08)
[45] 第44話[カラーゼ](2010/11/21 20:12)
[46] 第45話[カラーゼ](2010/12/06 16:45)
[47] 第46話[カラーゼ](2010/12/06 16:48)
[48] 第47話[カラーゼ](2010/12/05 13:38)
[49] 第48話[カラーゼ](2010/12/19 02:01)
[50] 第49話[カラーゼ](2011/01/17 16:43)
[51] 第50話[カラーゼ](2011/03/29 01:58)
[52] 第51話[カラーゼ](2011/05/29 01:44)
[53] 第52話[カラーゼ](2011/08/18 15:44)
[54] 第53話[カラーゼ](2011/09/03 18:05)
[55] 第54話[カラーゼ](2011/11/04 21:57)
[56] 第55話[カラーゼ](2012/08/27 00:24)
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[21322] 第19話
Name: カラーゼ◆68f6dca0 ID:11f779aa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/04 00:24
SIDE 一方通行

秋になった。
体育祭?
ウルティマホラ?

既に過ぎてしまったモノを言ってもしょうがないだろう。

古菲が優勝して終わりだよ。
例の『漢魂』の奴もいたが、所詮脇役は脇役。
『漢魂』を使う前に瞬殺されていた。
なにやら古菲が龍宮と話していた所が見えたのでそちらをみていると、何故かこちらに視線をロックオンして来たため、少し面倒な事になりそうになったので逃げる事にした。
後ろから『なんで逃げるアルかーっ!?』という声が聞こえてきたような気がしないでもない。
俺の興味は格闘オタク少女でもなく少女版ゴルゴでもなければ、古菲と共に『ほほう、やはりなかなかの逃げ足の速さでござるな』と呟いていた似非忍者にもないのだ。
もちろん逃げきってやった。
どうやって逃げきったのかというと、言うまでもないが能力を使ったのだ。
超能力は魔力も気も使わないため、俺自身が気配を潜めてしまうと魔法や自身の超感覚に頼る連中は俺を見逃してしまう確率が高くなる。
この時は光を屈折させ、周りの景色に同化して古菲をやり過ごした。
いや、全身ミラーな何かになるのはわかっているが、一応林の中に隠れたのでそこそこカモフラージュにはなったと思う。
いざとなれば超速度の瞬動で振り切ってやるが、一般人もいる中で古菲が捕えられないような瞬動をやるのは気が引けた。
それから数日、俺は現在、アスナとこのかを尾行している刹那を尾行している。
俺はアスナやこのかを確認できない。
それほどの距離から刹那は二人を尾行しているのだ。
ストーカーの才能ってあるよな、と思ってしまう。

あっても何も嬉しくないが。

それにしても、あれじゃ完璧な変態だな、と刹那を見ながら思う。
周りから目立たないように背中に呪符を貼りつけているようだが、カンの良い奴辺りは気付いているようだ。
俺は気づかれるような間抜けではないが。
そう思いながら、周りから変人と思われている刹那を見やる。
俺は『読心能力者』ではないので相手の心を読む事はできないが、それでも多少はわかる。

あれは羨望の眼差しだ。

その先には、おそらく仲良くしているアスナとこのかが一緒にいるのだろう。
アスナに自身を投影しているのかもしれない。
その眼差しを見たら、やはり護衛というよりストーカーだと思う。
護衛というのはやはりSPのような黒服でサングラスをかけた屈強な連中の事だと思うのだ。
淡々と仕事をこなす彼等に対し、刹那はキラキラとした目でこのかを見るもんだから、とてもではないが護衛に見えないのである。
しかしまあ、よくもあんな顔をして傍から見守り続けられるもんだ。
ま、原作のアクセラレータの生き方もラストオーダーを影から守ろうとしていたから、同じようなものか。
だからだろうか、俺の心の中にはやけに刹那に共感を覚える部分がある。
傍にいて守る必要はない。
自分は汚れている。
だから太陽のような存在であるあいつを汚すわけにはいかない。
あいつを守るために俺は戦う。
何を失おうとも、それだけは果たす。
打ち止めと出会ってから他者の温もりを覚えた一方通行はそれを心の軸にして突っ走った。
結果がどうなったのか、その辺りは俺は知らない。
このアクセラレータの記憶にもない。
当たり前だ、このアクセラレータは演算能力を失っていないのだ。
だから結果的にアクセラレータがラストオーダーを守りきったのか、それは知らない。
あの二人が幸せになれるように願おう。
さて、話は脱線したが、この状況をどうするか、だ。

介入しても良い。

今の状況は学園長にとってもあまり良い物とは思っていないようだし、何より娘に魔法をバラすなという近衛詠春の考え方が甘過ぎるからだ。
『紅き翼』も相当に世界の裏を見て来たはずだが……年老いてボケたのか、このかの魔力のデカさを知ってるくせに魔法を教えるなというのは核弾頭のスイッチをどっかそこらへんに放置してその周りを新米のSPに固めさせるのと同じだ。
俺は娘をもったことがないから娘のかわいさというものはわからんが、この対策がただ娘に清純で綺麗にいて欲しいという親の願望ならば、俺はそれが本当に子供のためになるのかと尋ねてみたくなる。
伝説の英雄のパーティ『紅き翼』の近衛詠春の娘とくれば、旧世界、魔法世界ともに非常に価値がある存在だ。
更にサウザンドマスターを上回るほどの膨大な魔力を秘めていると来れば、それを利用しようと思う馬鹿がどれだけいることか。
それでいて彼女に自分を守る術すら教えずに放置しているのだから、それは親としての怠慢としか言えないと思うのだ。
本当に彼女を大切に思っているのなら、無理矢理にでも自分を守る術を教えなければならなかったのだ。
覚える術が回復系を中心にしていたとしても、強力な魔法障壁は張れるだろうし、魔法の射手も1000本とか物量に任せて攻撃すれば一般的な魔法使いにとってとんでもない脅威となるはずだ。
それで刺客を片付けられるとは思えないが、そういう手段を持っておくことは大切だと思う。
しかし、
「……介入するにしてもどうすりゃいいンだ」

問題はそこである。

修学旅行のような事件が起きない限り、刹那はこのかに自分の正体を明かそうとはしないだろう。
この二人を親密にするためには、お互いに自身の立場を認識し、かつお互いの秘密を共有する必要がある。
……現段階じゃどうにもできないな。
やはり、修学旅行を待つしかないか。
彼女達の行き違い、そして歪な関係は外部から強引に力を加えては壊れてしまう危険性がある。
壊れてしまえば修復は不可能。
二人は癒せぬ傷を負って一生を過ごしていかなければならなくなる。
これからの展開も考えるとそれは決してやってはいけないこと。
ネギパーティにはアスナとこのか、そしてのどかは絶対必須。
彼女達のアーティファクトはかなり強力だからだ。
だから彼女達の天秤を揺らすのは危険なのだが……気になる。

気になる。

俺は為す術がない現状にやれやれと首を振ると、その場から去った。
何やら、無性にフテ寝をしたくなった。






その数日後。
俺は刹那と共に悪魔を駆逐していた。
本日は陰陽師ではなく西洋魔術師がお出ましのようだ。
この麻帆良の体制や学園長が嫌いな西洋魔術師の連中が陰陽師に混ざって攻めてくる事もあるのだ。
自分たちは正義の味方を気取っているくせに、それが自分主観の話になると自分に都合の良い正義に理論武装して襲いかかって来る。

こういう連中は嫌いな人種であるが、一方的な嫌悪の対象というのは間違っていると思う。

俺は目の前の悪魔が放った魔力の衝撃波をシカトして反射し、悪魔にそのまま衝撃波を直撃させる。 
それも気にせずに、俺は目の前の悪魔を例の『ジェット・パンチ』で粉々に吹き飛ばした。
自分の信じることを信念とし、突き進むのは悪いことではない。
無論、それは極端に狭い主観的な考えであり、客観的に見れば短絡的な考えであることは明らかだ。
彼らの悪いところは、その極端な主観にあるのであり、それに従って行動しているのは行動力がある証だろう。
認めるのはそこくらいであり、まあ馬鹿な事やってるなという思いはあるのだが。

さて、話は変わるがこの『ジェット・パンチ』。

最近、これを放つとネギを狙ってやってきたヘルマン伯爵の『悪魔パンチ』のような衝撃波を撃つ事が可能になった。
俺も慣れてきたことがあり、突き出した拳を繰り出し、更に自分を軸として拳を振りまわし、その勢いを利用して回転蹴り、その衝撃波で周りをぶっ飛ばすなどといった派生技を編み出すことに成功していた。
目が回る、というのに対しては教訓が生きていて、二度とないように念入りにベクトル操作をしている。
あんなことは二度と御免だ。
ベクトル操作で突き出した拳で飛ぶ衝撃波は豪殺居合拳に少し似ている。
ただ気などを放出しているわけではなく純粋な衝撃破のためか、その射程距離はタカミチのそれよりも短い。
その代わり、連射力は明らかにこちらが上であり、近距離で撃ち出せるという利点もある。
拳だけではなくおそらく頭突きでも体当たりでも繰り出せるし、豪殺居合拳よりも汎用性は高い、と思っている。

そして、俺としてはこの実戦はエヴァの別荘で試した研究成果の試し切りであったりする。

全力を出すと『ザ・ワー○ド』と化す俺の意識加速はネギの雷天大壮2には及ばないものの、通常の人間には知覚できない速度の事柄も認識する事が可能になっている。
身体が遅く感じるが、まあ慣れてしまえばどうということはない。
それに、ラカンがやった雷天大壮の弱点である先行放電などでのネギの出現地点の捕捉も行えるだろう。
流石に雷天大壮2を超えるのは無理だが。
人間の知覚の限界をはるかに超えている。
実際、あのラカンですらあの速度には手出しできなかったわけだし。
だが、俺にはラカンの鋼の肉体よりも悪質な反射がある。
ネギが雷天大荘2状態で木原神拳でもやってくるのだったら話は別だが、あれは異常に難しく、そう簡単に再現できるようなものではない。
この世界の人間が木原神拳をやれるかどうか実験するにしても、それは俺の弱点の確立になってしまう。
エヴァに俺の弱点を知られるとおもしろくないし、超が敵に回る可能性がある以上、弱点を知られるのは下策である。
知られても叩き潰せる自信はあるが、万が一の可能性も潰しておきたい。
こんな悪魔どものノロい速度では当然俺の実験相手にもなりはしないし。
俺が反射なんていう能力を持っている、と気づく奴はいるだろうが、それを逆転させて攻撃する、という方法を実行できる実力を持つ連中が世の中にどれほどいるか……。
「(ま、普通なら誰もンな事思いつく奴はいねェだろうな)」
この世界では魔法や特殊能力の出鱈目度がかなり高い。
いや、禁書目録の世界もかなり出鱈目ではあるのだが、とりあえずそれは置いといて。
魔法や物理攻撃を反射する程度の魔法はある、と考えている。
『加速』やら一言の魔法もある事だし。
誰も使っていないのは、反射できる攻撃そのものに制限があるか、あるいは詠唱がクソ長いのに効果は一瞬とか、技術的に不可能とか、もしかしたら相手の攻撃を利用するなんて正々堂々じゃないなどという理由で実用化されていない、などだろう。
そしてそういう知識があるだろう熟練の魔法使い達は俺を反射する障壁を張っているからだ、と思うだろう。
だが、その前に魔法使い達は俺が魔力を使っていない事に気がつくはずだ。

魔法使いは古い歴史もあって常識的観念にとらわれやすいと言う弱点がある。

気を使って魔法や物理攻撃を反射する特殊能力なんてないのだ。
精霊の力もない以上、俺の反射能力は魔力によって行われている物だと魔法使いは認識するしかないのだ。
その混乱した隙をついて、たいていの敵は倒せるだろう。
常識的観念にとらわれている以上、俺を倒す事はできないだろうし。
あるがままを受け入れる柔軟な思考が必要なのだ。
そういうことを考えている内に、最後の一体をブッ潰してしまう。
いつも通り、手応えのない相手だった。
刹那に『ちょっと待ってろ』といい残し、俺は超高速で術者の居場所へ向かう。
陰陽術やら西洋式の気配遮断術式もあるのだろうが、だからと言って実体が消えるわけではない。
「(座標確認。疑似『風花旋風・風障壁』)」
轟!!と俺の前方で竜巻が渦巻く。
これは漫画でネギが修学旅行の時にやっていた竜巻障壁の『檻』である。
特定した座標を中心として半径を三メートルとし、直径六メートルの円形の空間を持つ巨大な竜巻を発生させる。
更に風を逃がさずに回転させるため、傍目から見れば球状の竜巻にしか見えない。
穴をあけても風ですぐに塞がり、触ろうとしても押し戻される。
雷の暴風とかなら吹き飛ばされるだろうが、そんなもん唱えている内に俺が到着してしまう。
要するに時間稼ぎであるが、これがなかなかに便利なのだ。
ブッ殺さずに捕える、という手加減はこの身体ではなかなか難しく、生け捕りなんて不可能じゃね?とか考えていた所にこれだ。
ちょっと俺の発想力が役に立ったか、と思う瞬間だった。
敵の術者の特定はどうしているのかというと、麻帆良全体の風を掌握している俺ならば、この辺りで気配がない不自然な風の動きをしている座標を特定する事など造作もない事だ。
前のアクセラレータはそんなことはできなかっただろうが、学園都市は人も多いし住宅街もたくさんあった。
それに、特定の個人を特定するのに向いていないこの能力は、アクセラレータにとって元々不要だったのだろう。
俺は風の檻で捕らえていた術者を見つけた。
というより、球状の竜巻であるが。
俺はその竜巻の勢いを反射で無効化して中に入り、驚愕しているソイツの頭を掴んで生体電流を操作、気絶させる。

こう言う奴には問答無用が一番だ。

俺は気絶した術者の腕を縛り、刹那の所まで戻った。
刹那はどこか呆れたような表情で俺の背に担がれている術者を見やる。
「毎度毎度の事ですが、あなたのその探索能力は常識を超越してますね」
「あァ?今更何言ってやがる」
本当に今更だ。
俺が非常識なのは今に始まったことじゃない。
「(私にもそういう力があれば、お嬢様を―――)」
「おい、なんつった?」
「いえ……なんでもありません。さあ行きま―――ふふぇ!?」
俺は刹那の頬をむにーっと引っ張った。
おお、伸びる伸びる。

柔らけェ~。

「ふぁ、ふぁにふんふぇふはーっ!?」
おそらく、『な、何すんですかーっ!?』とでも言っているのだろう。
刹那は気で強化した腕で俺の手を振り払おうとするが、そんなもんで反射が揺らぐと思ってもらっては困る。
もちろん、ビクともしない。
あー、やっぱり刹那を苛めるのはクセになるな。
散々に弄繰り回してから頬を開放してやる。
刹那は赤くなった頬をさすりながら、こっちを抗議がこもった目つきで睨んで来る。
「い、いきなり何ですか!?」
「なんでもなくねェだろうが。俺はそォやってはぐらかされたりすンのが嫌いなンだよ」

実際、今の呟きは聞こえなかったが、気になる。

刹那が何を思っているのか……しかも俺を前にして言いかけた事なら、刹那が俺をどう思っているのかとかがわかる。
好意とか、そういうのを期待しているわけではなく純粋に刹那の気持ちを知りたいのだ。
このかとの悩みかもしれないし、最近の自分が嫌になってきたとか言う思春期の悩みかもしれない。
ンなこたァカウンセリングにでも相談しろと言いたい所だが、彼女はあまり見知らぬ人に悩みを話せるほど他人を信頼する事はできない。
だから面識のある人に相談するしかなかったのだが、彼女の面識のある人といえば、この麻帆良では学園長に刀子にタカミチに3-Aくらいしかいないんじゃないだろうか。

相談できる人物とすれば、かなり限定されて来る。

学園長はどうにも信用ならず、刀子はこのごろ忙しい上に今更関西のゴタゴタに巻きこむわけにもいかないという刹那の気持ちもあるだろうし、タカミチは面識があって担任だとしても相談できるほどに親密と言うワケでもない。
3-Aで彼女が話せる相手といえば長瀬楓、龍宮真名辺りだろうが、龍宮はカウンセリングに向いてそうな人物じゃないし、長瀬に相談しても根本的な解決にはならないだろう。
不満などを吐きだす、ということはそれだけで楽になる、というのは俺の体験談だ。
流石にこれだけ付き合っているんだ、そういう悩みを解決してやりたいと言う思いはある。
そういう気持ちになっても吐き気がしないのは、俺の気持ちが強いからだろうか?
それとも一方通行が認めているから?
よくわからんが、押し通せるならこのまま押し通すことにする。
刹那は多少考えて、ため息をついた後に俺を見た。
「どうせ、言わないといったら力ずくでも言わせようとするんでしょう?」
「よくわかってンじゃねェか」
まあ、力ずくと言ってもまた頬を引っ張りまわすだけだが。
流石に殴り飛ばすのは罪悪感があるしな。
「あまり聞かれたくない上に長くなる話か?」
「長くなるかどうかはわかりませんが……聞かれたくはありません」
「そォか。なら俺の家に来い」
「…………」
俺がそういうと、刹那はなんだか嫌そうな顔で俺を見た。
「ンだよ?別に襲う気はねェぞ。襲うンなら悪魔殲滅し終わった後にヤッた方が後で色々とやりやすい」
「真顔でそんなこと言わないでくださいッ!!」
刹那は真っ赤になった顔で怒鳴ったが、俺はどこ吹く風。
やっぱり生真面目だからこういう話には弱いんだな。
結局、襲わないと確約したため彼女は俺の家に来ることになった。
やれやれ、そんなに俺はケダモノに見えるかね。
俺達は森を出ると、待機していた魔法先生にこの術者の身柄を預けた。
彼は無傷で気絶している術者を見て少し驚きながら、いつものように感心したように言った。
「早いなあ。流石アクセラレータ、いつも仕事が迅速で助かるよ」
「さっさと仕事を終わらせたいだけだ。連ドラの予約忘れちまったンでな」
俺の軽口に魔法先生は笑うと、次にやってきた一団に顔を向けた。

そこにいたのはガンドルフィーニの班の面々だった。

「テメェ等も終わったか」
「ああ。術者は逃がしてしまったけどね」
アクセラレータがいたら絶対に逃がしはしなかったんだろうけど、とガンドルフィーニは言った。
ま、この三人はあまり能力的に追跡には向いてないしな。
ガンドルフィーニはスタンダードな力を持つ戦闘者。
高音は影を放つことによって捜索はできるが、影自体がそれほど強くないために単体では返り討ちになってしまう。
愛衣は言うまでもない。
全体的な戦闘能力は高いのだが、こと逃げる相手を追跡となるとのがしやすい傾向にあった。
少し疲れたように高音がため息をつく。
「このごろあなたのおかげで逃走手段を高度化する連中が多くなってきたんです。私達も二手に分かれますか?」
「戦力を分断するのは上策じゃないが……この際仕方ないだろうな」
ガンドルフィーニは渋々と言ったように頷いた。
「麻帆良大結界で術者の場所くらいは把握できねェのか?」
「そこまで便利にはできてないよ」
「監視衛星ぐらい飛ばしてねェのか麻帆良は?」
「そんなことしたら他の国に叩かれます。気象衛星ならともかく軍事衛星はちょっと」
やはり、学園都市のようにはいかないらしい。

流石に権力の強さが違うか。

「とにかく、俺は終わったし帰らせてもらうぜ。刹那、行くぞ」
「あれ?桜咲さんとアクセラレータさん、一緒にどこか行くんですか?」
ピクリ、と愛衣の不用意な一言に反応したのは高音とガンドルフィーニである。
「まさか、アクセラレータさん、あなた……桜咲さんをお持ち帰りして食べてしまおうなんて思っていないでしょうね!?」
「君は煩悩なんてないと思っていたんだが、やはり男だったんだな……だが教師として不純異性交遊は止めさせてもらうぞ」
「ふざけンなクソども。何でそうテメェ等はそういう思考に直結すンだ?特に高音の食いつきがハンパねェンだが?」
「なっ、私はいつもそんな思考をしている訳じゃ―――」
俺は高音の言葉を無視して愛衣と肩を組むと、その耳元に口を寄せて高音を指差しながらボソボソと囁く。
「なあ愛衣、見ろ、あれがお前の尊敬するお姉様の真の姿だ。実はお前に隠れてこっそりと自分の欲望を満たしているに違いねェ」
「ええっ!?」
「具体的に言うとゴニョゴニョ」
「ええええっ!?」
「更にゴニョ。ゴニョニョ」
「ふぇえええええっ!?」
「何を言ってるんですか何をーッ!?」
高音が影を使い魔を身体に纏って俺を攻撃するが、純粋な物理攻撃なんぞ俺には効かん。
それを見てはっとした高音は慌てて愛衣を俺から引き離した。
既に愛衣の顔は真っ赤で『うふふ、お姉様はあんな、あんなことを……うふふふ』と昇天寸前の顔でヤバげな言葉を呟いている。
やりすぎたか?
だが反省はしてない。しない。するものか断じて!
「愛衣ッ、しっかりするのよ!傷はまだ浅いわ!!」
「つーわけでガンドルフィーニ。後始末頼むわ」
「場を掻き乱すだけ掻き乱してそれか。流石にもう慣れたけどね」
肩を竦めながらガンドルフィーニはそう言った。
ガンドルフィーニは高音にあわせていただけらしく、本気で俺が刹那を襲うとは思っていなかったらしい。
高音は本気で刹那を心配していたようだが……揃いも揃って俺をなんだと思ってやがるんだ。
そう思いながら、俺は刹那と共にその場を後にした。
「……あの人達はいつもああなんですか?」
「そォだ。あンだけからかってもまともに反応してくる奴ァ珍しい。からかいがいがあるって奴だ」
俺の答えに刹那は顔を引きつらせていた。
刹那は内心で『麻帆良祭での予感は嘘ではなかったか……』と呟いていた。
俺が知るわけもなかったが。






SIDE 桜咲刹那

一度だけ来たことがある、アクセラレータさんのアパートにやってきた。
部屋に入った事はないが。
彼の部屋に入った時、予想外に生活感漂う普通の空間だったので驚いた。
だらしのない生活を送っているのかと思えば、きちんと整理整頓されている本棚や洗い物がたまっていない綺麗な流しが見られる。
おそらくここを出る前に読んでいただろう週刊誌とコーヒー缶以外は片付いているのだった。
個人的に、若い男性の部屋というのはもっとごちゃごちゃとしていて、その、不謹慎な本も置いてあるものだと思っていた。
私の価値観が古いのか、それとも知識が偏っているのだろうか?
とにかく、そういう生真面目そうな部屋に驚いてしまい、意外だ、と呟いてしまったらしい。
意外ってなんだコラと言われて頬をつねられてしまった。

ほ、本当に痛い。

抗議してアクセラレータさんの手を解こうと全力を尽くすが、やっぱりピクリとも動かない。
筋肉の硬直がほとんどないところを見ても力を込めているように見えないから、彼の何らかの能力が働いているのだろう。
いつもより多少以上長く頬を引っ張られ、私は赤くなってしまった頬を抑えながら涙目でため息をついた。
なんでこんなしょーもないことばかり彼は能力を活用するんだろうか。

才能の無駄使いとはこの事か。

そんな事を思っていると、アクセラレータさんが丁寧にも私の前に茶を置いて、どっかりと目の前のソファーに座った。
「ここには盗聴機も何もねェし、誰かに見られることもねェ。さっさと全部暴露しちまえよ」
やはり、逃げ場はないか。 
というか、私にしてはあの場でのはぐらかす発言は迂闊だったな。
アクセラレータさんに悟られては隠し事などできないだろう。
彼のカンは凄まじく冴え渡る物だと知っているから。
こうやって呼ばれるのも面倒くさい、この際だから私の事を全部話す事にしよう。
私は隠すのが苦手だ。
隠れるのは得意なのだが、どうにも私は刀子さん曰く精神の修行が足りないらしい。
想定外の事態になるとすぐに動揺したり、慌てたりする癖があるようだ。
自分でもわかっているのだが、治らないと言うのは困ったものだ
私は茶を一口含んでから、話し始める事にした。
「私が烏族と人間のハーフで、どこかに拾われて事情があってこの麻帆良に来た、と言うのはお話したと思います」
「あァ。保健室で聞いたな」
保健室、と言われてあの時を思い出す。

『バケモノ』の話。

色々なバケモノがいて、私の翼が生えているという事実だけでは到底バケモノには及ばない、という話。
アクセラレータさんというバケモノがいる以上、私もそれを納得せざるを得ないのだが……私はよほど頑固らしい、どうも納得できなかった。
私はその微妙な気持ちのまま、続ける。
「どこかに拾われた、というのは……前々から鬼を召喚して麻帆良に攻めてくる陰陽師の本拠地である関西呪術協会に拾われたんです。関西呪術協会については御存知ですか?」
「関東魔法協会と仲が悪い事くらいしか知らねェな」
「それだけ知っていれば十分です。……彼等が麻帆良に攻めこんで来る理由は知っていますか?」
「世界樹の情報を探りに来るのが目的だろ?後は学園長をどうこうしようとする馬鹿な輩の話くらいだ」 
「はい。表向きはそうなんですが……裏は違います」
今さらだが、この事を言っていいのだろうか、とふと思う。
この事を知っているのは学園長に高畑先生、刀子さんくらいしか知らない。
もちろん他にもいると思うが、決して大人数ではないだろう。
なのに、私の勝手でこの人に話してよいのだろうか。
信用できるか否かと問われれば、この人は信用できる人だと断定できる。
それに、こう見えてこの人は秘密や約束などをきっちりと守る人だと言う事も知っている。
しょうがないか、と諦める事にして、私は全てを話すことにした。
その赤い瞳を見て、告げる。

「本当は、関西呪術協会の長、近衛詠春の娘である近衛木乃香お嬢様の誘拐にあります」

アクセラレータさんはそれを聞いて、納得した表情をした。
「どォしてその近衛詠春とかいう関西の長が自分の娘を麻帆良に預けるのかわかンねェンだが……人質交換か何かか?」
「違います。このかお嬢様が関西におられては非常に危険だと長が判断なされたから、この麻帆良に避難させる形で預けられたのです」
「……内部抗争か?」
「その通りです」
やはり、アクセラレータさんはこういう話題では非常に頭の回転が早い。
理解度の高さや解析力などは私には遥かに及ばないだろう。
そう感心しながら、私は続けた。
「このかお嬢様は正当なる関西の長の娘です。やんごとなき血脈を受け継ぐお嬢様には、計り知れないほどの魔力が存在しているのです。それこそ、伝説のサウザンドマスターを凌ぐほどに」
サウザンドマスターと聞いて、アクセラレータさんの顔つきが変わった。
普段その魔力を開放していないから私でもよく知らないのだが、お嬢様の身体にはその膨大な魔力が存在している事に違いはないらしい。
長や学園長がサウザンドマスター以上と言っていたからので彼にとってわかりやすいと思ったのだが、どうやらその通りのようで、何よりだ。
少し満足。
「関西ではそのお嬢様の魔力や、お嬢様の発言力などを手にするために近づく輩が絶えませんでした。ちょうどそのころ関西ではとある大戦により重要スポットにいた人物が多く戦死していたため、下を纏める力がなかったのです。そのせいで、大戦による被害が少なかった関東魔法協会を逆恨みする連中を抑える事ができませんでした」
「なるほどな。そのお嬢様を手に入れてしまえば強大な魔力タンクが手に入る。そう言う奴等の魔力タンクの使い道は召喚か、大規模な遠距離攻撃術式しかねェ。関東魔法協会を攻撃しようとするためにお嬢様を利用しようとするやつらから守るためにこの麻帆良にお嬢様を移したってワケか」
「はい。関東魔法協会の最高権力者は学園長……近衛近右衛門殿です。麻帆良はお嬢様を守るには絶好の場所なのです」
魔力についてはこの人は専門外のはずだが……もしかして勉強したんだろうか?
勉強、という二文字は苦手なのでさっさと頭の外に追い出すことにする。
彼はうんうんと頷いてから、ふと思いついたように私に尋ねた。

「その近衛このかっていうお嬢様はどォして今も守られてンだ?そンだけデケェ魔力タンクなら物凄い術を使えていてもおかしくねェと思うが」

うっ。
なんだか、この話題についてはこの人は納得しない気がする。
言いにくいのだが、やはり彼の手前で言わないわけにもいかなかった。
「お嬢様は……その、長の方針でまだ魔法を知らないのです」
「はァ?」
やはり、アクセラレータさんは理解できないような顔をした。
それだけの魔力を持ちながら、力を持たない理由がわからないのかもしれない。

もしくは、どうしてただ守られる存在になっているのか。

どちらにしても、大きな力を持っているのならそれをフル活用してでも自分の身を守るために利用するのがアクセラレータさんの考えだと思うので、長の方針は理解できない物なのだろう。
彼は頭を捻りながら、なんとかこんなものだろうというような疑問を出して来る。
「……権力闘争に巻きこむのが嫌だったからか?」
「おそらくそうだと思います。お嬢様は非常に大切に育てられましたから。あなたや私とは反対に、荒事にはまったく不向きな性格ですし……権力うんぬんのことは後々話せばよい事だと考えておられるのだと思います」
するとアクセラレータさんは眉根を寄せて、
「まァ、考えてみりゃ初等部に入る前のガキに権力がどうのってのァ酷な話だな」
「そして、私はそのお嬢様をお守りするための護衛として麻帆良にやってきました」
「話の流れからしてそうだろォとは思ってたが……いいのか?関西からすりゃテメェは裏切りモンだぜ?」
「構いません」
私は強い目でアクセラレータを見ながら、きっぱりといった。
「お嬢様を守れるのなら、裏切者と罵られようと関係ありません」
それは私の意志の柱だ。
何があろうと決して折れる事のない柱。
お嬢様を守るためならば命すら惜しくない私にとって、こんな事を断言するのはなんでもないことだ。
なのに、アクセラレータは目を見開くと、さっきよりも少し柔らかい表情になって拍手を贈ってくれた。
「え?」
どうして彼が拍手してくれるのかわからず、私は無防備に彼を見つめてしまった。
彼は拍手を止めると、尋ねてきた。
「よく言った。迷いなく断言できるということはテメェの意志が強靭という証だ。そういう所はすげェと思うぜ」
唖然とした後、アクセラレータさんが私を褒めてくれた、という事実が異常なまでに恥ずかしくなった。
いつも悪態をついているアクセラレータさんが素直に褒めてくれるなんて、考えられなかったからだ。
慌ててそんなことないと否定しようとして、即座にアクセラレータさんの言葉が割り込んでくる。

「だからこそ聞くが、テメェはどうしてその子の傍で守ってやらねェンだ?」

それに、私は調子に乗った感情をすぐに冷めさせることになった。
それについては、思考する時間が欲しい。
私はどうしてお嬢様のそばで私が守っていないという事を知っているのか、それに疑問を抱かないままに、淡々と語った。
「……私がお嬢様の傍にいると、魔法についてバレる危険性があります。長の命令がある以上、私が馴れ馴れしくお嬢様に近づくわけには参りません」
「だからと言って、テメェの傍から見守る護衛方法じゃ後手に回る可能性が高い。先手を打つ事はまず不可能だ。護衛ってのは対象者がウザがるくらいにくっついていた方が効果的だろ?長だろうとテメェだろうと、そこらへんがわからねェとは思えねェけどな」
探るような彼の目線から、私は目を逸らした。
やましいことなど何もないはずなのに、やけに気まずい。
暫く無言の空間が形成されていたが、やがて彼がぽつりと私に尋ねた。


「怖ェのか?」


びくっ、と無意識的に私の肩が震えた。
「怖ェのか」
さっきと違うイントネーションの発言。
疑問から確信へ。
もう隠す事も無意味だと悟った私は……いや、そのことを意識する事を避けていたということを悟った私は、ただ怖いからと言ってそれについて考える事を拒絶していた自分に驚き、彼の言葉には弱々しく頷く事しかできなかった。
「自分が翼を持つバケモノだと知られて拒絶される事が怖ェンだな?」
そうだ。

私は、『バケモノ』だ。

アクセラレータさんは違う。
彼は私を蔑んだりしなかった。
彼もある種のバケモノだから、私に共感してくれる所があったのだと思う。

だが、お嬢様は違う。

その身体に宿すのはサウザンドマスターを超越する凄まじい魔力だとしても、外見的に、そして種族的に人間である以上、お嬢様は決してバケモノとは呼ばれない。
お嬢様は人間だ。
私はバケモノだ。
私が心の奥底でそう考えていたから、人間とバケモノは決して相容れない物だと思っていたから、お嬢様に拒絶されるのが何よりも怖かったから、私はそれを考えずにいたのだ。

怖い。

私はお嬢様に拒絶される光景を思い浮かべて、思わず気絶しそうな眩暈に襲われた。
それは、とても怖い。
私にとって、死ぬよりも怖い事だ。
私は初めてアクセラレータさんの言葉によって、それを思い知らされた。
しばらく、時が流れる。
針は十二時を刺そうとしていた。
夜中の静寂が、場の雰囲気をどんどん重くしていく。
そんな中で、アクセラレータさんは静かな声で私に言った。
「このかお嬢様って奴がどんな人物なのかは、俺はよく知らねェ。だから拒絶されたりしねェなんて無責任な断定はしねェつもりだ」
ふぅ、と彼は一息ついた。

「だがな」

その否定の声に、私は顔を上げた。
目の前の彼は、どこかいつもよりも穏やかな顔をしているように見えた。
テーブルの上に頬杖をついて、俯きがちの私を見上げるようにこちらを窺ってくる。
「俺みてェな最強クラスのバケモノでも笑って受け入れてくれるような奴等が、麻帆良には溢れてる。タカミチやガンドルフィーニ……高音や愛衣だってそうだ。だから自分を蔑むのはもうやめろ」
じっと、アクセラレータさんの色素の薄い、しかし意志の強い赤い瞳が私の目を見つめる。
その目は突き刺すように強いものだった。
私はその赤い瞳から目が離せなくなった。

俺の目を見ろ、と彼の瞳がぶっきらぼうに語っている気がして。

「背中に翼が生える?混血?ハーフ?バケモノ?それがどうした。そりゃァ『桜咲刹那』の付加要素に過ぎねェ。テメェをバケモノだとか呼んでた奴等は、付加要素を見ているだけに過ぎねェ。テメェがどうしてそこまでして近衛このかを守ろうとしているのか知らねェが、自分が守ろうとしている奴が、守ろうと心に誓った奴が、『桜咲刹那』の本質を見てねェってのか?上辺だけ見て、人を判断するような奴に見えンのか?」
俺はそんな奴を命かけて守ろうとは思えねェ、と彼は言った。
「お前が仕える主を間違えるとは思えねェ。だからきっとソイツは俺とは比べ物になンねェほど『桜咲刹那』を知ってンだろうさ。そんな奴が、どうしてテメェを拒絶する?本質を見てる奴は付加要素なんざ気にしねェもンだぜ?」
ガン、と頭を殴られたような衝撃が私を襲った。


『本質』

『付加要素』


なるほど……そんな考えもあるのか。
私という『桜咲刹那』という個が本質であり、バケモノや女であることは二の次。
お嬢様は、私の知っているお嬢様は、とても優しいお方だった。
小さな時に遊んだ頃も、私は何度もお嬢様に近づくのは止めろと周りの人間に言われた。
お嬢様もそうだったのかもしれない。

だが、お嬢様は私と遊んでくれた。

手鞠で、おはじきで、百人一首で。
お嬢様はバケモノと呼ばれて蔑まれ、差別されてきた私を唯一『桜咲刹那』として見てくれた人だった。
そんなお方が、今更私をバケモノと呼んで蔑むのだろうか。
いや、それは希望的観測に過ぎない。
だが、しかし……。
私の心の中にどうしようもない葛藤が生み出されると、何故か目頭が熱くなった。
あっ、と声を出したときにはもう遅い。
私は急いで下を向いて、アクセラレータさんに顔を合わせないようにした。
泣き顔を見られるのは恥ずかしいからだ。
どうして泣いてるんだろう?


私は、どうして泣いているんだろう?


彼の言葉に感動した?
違う。
彼の考え方に衝撃を受けたのは確かだが、感動するほどではない。
なら、どうして?
心の奥底ではお嬢様にバケモノとして見られる可能性を排除して、安心したからだろうか。
それも違う。
私の心はそんな弱くもないし、他人の言葉で揺らぐほど軟弱ではない。
そうかもしれない、という希望的観測で心から安心できるほど、私の心は能天気にできていない。
考えれば考えるほど、私は思考のループに陥っていく。
だんだんと何を考えているのかわからなくなってくると、私は無意識的に何か暖かいものを掴み取っていた。
抱きこむように、それを引き寄せる。
それはとてもではないが男性とは思えない真っ白な肌をしたアクセラレータさんの手だった。
私とは違ってタコも傷も全くない綺麗な手だった。
間近で見ると、青い血管が透けて見えるのがわかる。
それでいて、男特有の逞しさとゴツっとした硬い感触が、私の手から伝わって来る。
そして、何よりも私よりその手は大きかった。
大きいという事実は、どうしてこれほどまでに暖かいのか。
私の小さな手が彼の手を握ると、彼はささやかな力で握り返して来た。
何故か、それがどうしようもなく嬉しくて、私の涙は止まらなかった。

嬉しい?

そうだ、私は嬉しいんだ。
思えば、私は麻帆良に来てからずっと緊張していた気がする。
刀子さんからも『もっと肩の力を抜きなさい』と人の事は言えないようなことを言われていたが、その通りだった。
だけど、今、この瞬間だけは、私の緊張がほぐれたのだ。
それがアクセラレータの言葉によるものだということは明白だろう。
まさかそれだけでこんなに涙を流すとは思えなかった。

いや、それだけではない。

それはリラックスしただけであり、緊張の糸が切れて涙を流す理由になっても、嬉しい理由にはならない。
どうして嬉しいのだろう。
考えるまでもなく、私の中で答えが閃いた。
ああ、そうなんだ、と。
こういう安心できる空間が、自分の居場所ってものなんだ。

ずっと憧れていた、『居場所』。

その居場所がアクセラレータさんの家というのは、半年前の私だったらまず信じられないだろうが。
でも、とても心地よいものだ。
心がポッと温かくなって、私の心を静めてくれる。
暫くすると落ちついて、私の涙は止まった。
目元に残る涙をぬぐって目を開けると、

私はずっと彼の手を握っていた事にようやく気付いた。

「は、はわっ、あわ、す、すみませんっ!」
「……今更かよ」
本当に今更だ。
目の前で泣いてしまった羞恥心もまとめて襲いかかってきて、私の顔はこれ以上ないくらいに真っ赤に染まった。
急激に頭に血が上って、何も考えられなくなる。
「別に、泣くってのァ恥ずべきことじゃねェぜ?泣かねェ人間なんていねェんだしよ」
不器用な彼のフォローが心に染み渡る。
何故か、彼の言葉の一つ一つがとても心地良い。

どうして?

心の中に沸き起こる疑問をとりあえず無視し、私はアクセラレータに向かって頷いた。
彼は落ちついた様子で、時計を指差した。
時刻はもうすぐ一時になろうとしている。
流石に、もう帰らねばまずいだろう。
明日の朝の鍛練はキツくなるな。
「じゃァな。夜道でブッ倒れないように気ィつけろよ」
気遣いの一言で、私の頬は熱くなる。
まだ私の情緒は不安定なようだ。
どうしても、あの温もりを思い出してしまう。
私は立ちあがると、アクセラレータの方に向き直った。
「あの……今日はその、御迷惑をおかけしてしまって……」
「構わねェよ」
どうでもいい、というような口調でそう言った。
本当に、今日の事は彼にとって日常のワンシーンに過ぎないのかもしれない。
だが、私にとって何か大切な事を教えてくれた時間だった。
私は最大の感謝の意をこめて、頭を下げた。

「ありがとうございました」

返事がない。
それでもいい。
言いたかっただけだ。
私は踵を返して彼の家を出ていこうとするが、ドアに手をかけた私の背中から彼の声がした。
「からかわれてェンなら、いつでも来い。茶ァくらいは出してやンよ」
何故か、その声に私の胸は高鳴った。
振り向いても彼は見えない。
それでも。
はい、と答えた私の声は、
私自身、聞いた事がないくらいに弾んでいた。





SIDE 一方通行

刹那が帰って、俺は握られていた手をほんの少し開いた。
止めていた反射を再起動する。
パシャ、と手の甲に残っていた涙が弾かれた。
俺はガシガシと頭を掻いた後、一つため息をつく。
どうしてついたのかわからなかったが、悪いものではなかったようで、不快感はなかった。
いつもコーヒーを飲まないと落ち着かないが、今日は別に飲む気は起きなかった。
席を立つと、ソファーを叩く。
ぐるん!と180度回転し、俺は窓の方に向いた。
カーテンを開いて、まったく見えない星を見上げる。
なんだか、今日はほんの少しだけ暖かかった気がした。






SIDE 高音・D・グッドマン

ゆゆしき事態です。
とにかく、ゆゆしき事態です。
私は心の中でそのフレーズのみを連呼しながら、教室で思い悩んでいた。
なにがゆゆしき事態なのかというと、あのアクセラレータについてのことである。

いや、アクセラレータの事についてはほとんどが問題的な事態だったのだが、今回は少し違う事態なのだ。

とある夜の日、愛衣の通う中等部の二年A組に属する桜咲刹那さんという方とアクセラレータが一緒に帰ったその日から、なにやら桜咲さんに彼氏がいるとの噂が流れ始めたのだ。 
どうしてウルスラにいる私がそんな噂を聞くかって?
桜咲さんのクラスに新聞部のエースのような方がいるみたいで、彼女がしつこく桜咲さんをつけまわして、その会話で得た情報から出した結論を新聞で発表したのを私が見たのだ。
どうせしょーもないガセ情報だろ、と流すのが普通なのだが、その新聞を桜咲さんが見たようで。
その場を目撃した愛衣は、『顔を真っ赤にして慌ててましたね。あれは完全にホの字じゃないですか?』と彼女らしくない何やらムフフな表情でそう言っていた。

ホの字。

どうしてそんな言いまわしをするのか不明だが、とにかくそれは限りなく真実に近いらしい。
ここまで詳細な情報を得られたのは2-Aが騒ぎまくったおかげで1-Dまで情報が流れてきたからだ、と愛衣は言っていた。
何でも大声で、
『桜咲さんに彼氏ができたってーッ!?』
『で、どこまでいったの!?』
『まさか最後まで!?ウヒョーッ!?』
『わ、私に彼氏なんていません!!朝倉さんのデマですデマ!!』
『顔を真っ赤にする辺りがアヤシイ~』
『桜咲さんって受けと攻め、どっちなのかな?』
『ああ見えて実は受けなんじゃない?ほら、恋人の前では実はデレデレとかいう感じなんじゃ?』
『なんというツンデレッ!!』
『これが萌えカ!?それがツンデレなのカーッ!?』
『せ、せっちゃーんっ!?』
『本人の前でなんて話をしてるんですかーッ!?』
という馬鹿騒ぎを起こして隣のクラスでホームルームをしていた新田先生とホームルームが終わって帰ろうとした高畑先生が戻って鎮圧なされたとか。
その大声はしっかり1-Dまで聞こえていたらしく、またか、という感じで聞き流していたらしいが、人物が人物だし愛衣もちょっとクラスの新聞部の人に尋ねて見たらしい。

もともと桜咲さんや龍宮さん、長瀬さん、古菲さんの麻帆良四天王と呼ばれる武術集団はその強さや人柄や人物関係についても謎が多く、明るい感じの古菲さん以外は身持ちが固くてとてもではないが情報収集できる相手ではなかったのだとか。

ならばどうして彼氏がいるなんていう情報に行きついたのかというと、いつしか彼女がらしくない行動を取り始めたからだ、と言う。
真面目に授業に取り組むタイプの人だったのに、授業中に窓の外を見てため息をつくとか。
何かを思い出すように虚空を見つめて、フッと頬を赤らめながら笑顔を浮かべたりとか。

間違いなくそれは恋煩いである、と新聞部の子の先輩の朝倉さんという人が確信し、スクープだと追い求めたらしい。

その朝倉さん、麻帆良パパラッチと言われるほどのしつこい取材で有名で、彼女に調べられた人物は個人情報もろもろまでバラされるという手腕を持つらしい。
ガンドルフィーニ先生も彼女の事は知っているらしく、魔法の存在に自力で辿りつく生徒ではないか、とかなり危険視している生徒でもある。
その朝倉さんに調べ上げられた桜咲さんは、どうやらプライベートで男性と接触している様が目撃されたらしい。
その証拠写真がこれです、とどこから手に入れたのか愛衣に突き付けられた写真を見ると、そこはどこかの喫茶店の一場面の写真だった。

ウーロン茶片手に嬉しそうな笑顔の桜咲さんと、もう一人、問題の人物が映っている。

おおよそ男性とは思えない白い手。
頭は映っていないが左半身が映っている。
他は壁に隠れてしまっていて見えない。
しかし、その見覚えのある白い手を見て、私は確信してしまった。

彼はアクセラレータだと。

朝倉さんは表向きにはもっとよい写真を取れたんだけどバレたら困るし、と言っていたらしいが、本当はあの写真は取らされた一枚だという。
路地でカメラを構える朝倉さんに向けて、その人物は視線を向けてニヤリと笑ったそうだ。
その本人の顔を取ろうとすると、親指を下に向けられたらしい。
本人の顔が映らない絶妙の位置で、ようやくOKがもらえたという。
そのカンの良さ、その余裕。
間違いないと更に確信するのだった。
しかし、これが本当だとしたら何がきっかけでこうなったのか気になるのが普通の女子高校生の思考というものだ。

アクセラレータと桜咲さんが仲良くなるきっかけと言うのは、おそらく一週間くらい前に桜咲さんがアクセラレータの家に呼ばれたときだ。

あの時に何かされたか、何か言ったに違いない。
私が思うに、桜咲さんはうまく乗せられてるか、勘違いしているのではないかと思う。
アクセラレータは基本的な学力だけは底知れないほど高いせいか、口はかなり回るほうだ。
桜咲さんにうまく好意を持たせるように彼が仕組んだのかもしれない。
アクセラレータの場合、それがないと言いきれない所が怖い。
もしくは彼の言葉で彼女が惚れさせられてしまったか。
アクセラレータに自覚はなくて、無自覚的に放った言葉が彼女を落としてしまったという可能性もある。
今までの彼の行動を思うと、これもそうでないと言いきれない。

ぶっちゃけ、わからないのだ。

これはもう本人に聞いてみるしかないのだが、男女関係に私がどうこう口出しするのもなんだか気が引ける。
もしも相思相愛ならば、私は単なる邪魔者に過ぎない。
まあ、あのアクセラレータに彼女など、考えられないのだが。
というわけでアクセラレータの家にいこうとするのだが、学園祭以来私はこのクラスの新聞部にマークされている。
アクセラレータの家を尋ねようものなら、即座に新聞ネタになることだろう。

あの事は今でもからかわれているというのに。

このごろは夜にもはち合わないし、困った物だ。
電話やメールは真偽が確かめられないから意味が無いし。
もしもこれで桜咲さんが騙されていたというのなら、ゆゆしき事態なのである。
同じ魔法生徒として彼の危険性を気付かせれやらなければならない。
あなたが思うほど彼は安全じゃないのよ、と。
悩んでいても始まらない。
とにかく、私は彼女に事情を聞く事にしたのだった。
「うおっ、グッドマンさんがなんか決意を固めた目をしてる」
「ついに噂の彼氏とヤッちゃうのかなぁ」
「賭ける?」
「人の貞操を賭け事にするもんじゃありませんッ!!」
私は相変わらずのクラスメートの反応に怒鳴った。
どうやら、まだ彼女達は誤解を忘れてくれないらしい。
夏休みも終わって秋だというのに。
私の真っ赤になった顔は、もみじとよく似ていた、と友達にからかわれた。
詩的な言い方に感心すると同時、そろそろマジでキレていいですか?と言いながら影を展開しそうになったのは、余談となる。






~あとがき~

かつてないほど長文になりました。長すぎてすみません。
長すぎる文を読んでくださった方、本当にありがとうございます。
個人的にどうしても切れない展開だったので、このまま投稿させてもらいました。
次からはまたいつもの分量に戻る予定なので……。

話は変わって個人的な意見なんですけど、刹那は非常に打たれ弱いと思います。
幼少時にはいじめられ、剣とお嬢様が全てだった彼女には、その二つが精神の柱となりました。
それら以外の事には非常に耐性が強いのですが、逆に言えばその二つの事になると急に弱体化します。
泣きたいことだってあるはずです。
つらい事を吐きだしたりしたくなる時もあるはずです。
それが許されない環境と言うのが麻帆良です。
頼るものは自分の剣のみであり、自分は人間じゃないというコンプレックスを強く持っているために社交もできず。
それでは杓子定規で単純なお嬢様一筋の性格になるのもしょうがないです。
だからこそ、裏側は恐ろしいまでに一途で純粋だと考えています。
なにせ、彼女から剣を取ればただの世間知らずな女の子ですからね。

高音は何やら勘違いをしている模様。
高音と愛衣の出番をご期待ください。


次回はほのぼのします。
原作までもう少し……その前にイベントをいくつも挟もうとは思ってますけど。


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