べりべりべりべりべり、べりべりべりべりべり、がしゃん。 べりべりべりべりべり、べりべりべりべりべり、がしゃん。 べりべりべりべりべり、べりべりべりべりべり、がしゃん。 べりべりべりべりべり、べりべりべりべりべり、がしゃん。 べりべりべりべりべり、べりべりべりべりべり、がしゃん。 石畳の広い部屋に、単調なリズムで11の音の連なりが繰り返し、繰り返し響く。 よく耳を済ませれば、押し殺された息や衣擦れの音。 そして、声にならない誰か大勢の悲鳴、らしきもの。そういう雰囲気。 べりべりべりべりべり、べりべりべりべりべり、がしゃん。 じっとりとした沈黙が降りる中、レコンキスタの参謀であるクロムウェルは、その作業を続けていた。 べりべりべりべりべり、べりべりべりべりべり、「ふぅっ、中々、これは、疲れます、ねっ」 がしゃん。 彼の片手には、ペンチが握られていた。 もう片方には、重たそうな、ハンマー。 荒い息でクロムウェルは、振り下ろしたそれを肩に背負い直し、ペンチを握り直す。 そして隣へ。 べりべりべりべりべり、べりべりべりべりべり、がしゃん。 彼はそれらを手に、床に固定されている丸太のような物に取り付いて、手早く“作業”を行う。 明らかに手慣れた様子で。 先程からの異音は、彼が奏でているようである。 べりべりべりべりべり、べりべりべりべりべり、がしゃん。「小指」 べり、「薬指」 べり、「中指」 べり、「人差し指」 べり、「親指」 べり、「左手ー」 べりべりべりべりべり。 爪を剥がす音。 クロムウェルが、取り付いていたのは、ヒトだった(・・・・・)。 石造りの大広間に、『アースハンド』で床に四肢を固定された人体が、300余りか。 既に彼の手で処理(・・)されたものは、そのおよそ半分、と見られる。 剥がした爪を、クロムウェルは腰に下げた袋に入れる。 クロムウェルが愛おしげに、ヒトの頭蓋骨がすっぽり入りそうなくらいの大きさの袋を撫でる。 革袋だが、それは、一体何の革でできている? 爪を剥がされた人物は、身じろぎ一つしない。 出来ない。 『アースハンド』で固定されているから。 腕も脚も、首も、手首も、指すらも。 悲鳴一つ上げない。 上げられない。 口も瞼も、水魔法によって、接着され、癒合(・・)されているから。 完全に癒着して閉じてしまった口腔は、悲鳴を発することもない。 囚人服を着せられた男は、癒合された瞼に開けられた小さな涙用の穴から、止めどなく涙を流している。 涙が鼻に流れて窒息しないようにという心遣いだ。 胸は激しく上下し、鼻からは鼻水が流れだしている。 まあ、爪を剥がされたから当然か。 クロムウェルは、肩に担いだ武骨なハンマーを、口と瞼が縫いとめられて床に固定されて爪も剥がされた人物の頭蓋に向かって、――振り下ろす。 がしゃん。「処理する囚人も、残り、半分、かぁ」 クロムウェルがハンマーを背負い直して、勿体無い、とばかりに呟く。(本来ならば、素材を殺さず活かして、もっと色々と行ってから止めを刺すのですが。まあ、今回は、数が多く必要ですから簡単な処理しかできませんものねー) まだまだ試したい拷問方法も沢山あるというのに、とクロムウェルは溜息をつく。 ここに集められた囚人は、生粋の犯罪者だったり、現王派についていた貴族だったり、レコンキスタに批判的なジェントリーであったり、様々だ。 共通点は、レコンキスタにとって、死んでもらったほうが役に立つ人間、ということか。 この残虐な行為を、クロムウェルは何とも思っていない。 それどころか、彼の瞳には、隠しきれない愉悦と昂揚が見て取れる。それは、神官らしい宗教的な愉悦と昂揚だった。 太陽神に生贄の心臓を捧げるマヤの司祭のように、クロムウェルの目は、自分の行為に酔っていた。「でも、シャルル様の、そしてレコンキスタの為だ、頑張ろう。ふ、ふひ、ひははは、はぁっはっはっは! 生爪剥ぎ祭りだ~~!! ひゃははははははは! イゴーロナク様にぃー、捧げるのだぁー!」 べりべりべりべりべり、べりべりべりべりべり、がしゃん! いひひひひ! べりべりべりべりべり、べりべりべりべりべり! ひゃっはー! がしゃん! うふ、うふ、うわははははっははは! べりべりべりべりべり、べりべりべりべりべり、がしゃん! べりべりべりべりべり、べりべりべりべりべり、がしゃん! いあ、いあ、いごーろなく! べりべりべりべりべり、べりべりべりべりべり。 ふぅ、ふぅっ、よいしょおっ! がしゃん! 狂える司祭クロムウェルの笑い声と、残虐な拷問の音が、石造りの冷たい広間に響き渡った。◆◇◆ 白の国アルビオンの首都、ロンディニウムにある王宮、ハヴィランド宮殿。 テューダー王家のジェームズ王は、宮殿を追われ、現在そこを占拠しているのは、レコンキスタである。 失政相次ぐテューダー王朝を打倒し、真にアルビオンの民、引いてはハルケギニアの民を統率するべき新政府を樹立し、ゆくゆくはエルフに奪われた聖地を回復する、というお題目を掲げている。 レコンキスタのトップは、ジェームズ王の弟であるモード大公。 次席に、ガリアからの亡命貴族、シャルル・ドルレアン。 そして参謀には、一司祭からの大抜擢で、オリヴァー・クロムウェルが就けられている。 だが、レコンキスタの中枢に近い者は、皆、知っている。 誰が本当の盟主なのか。 亡命貴族という立ち位置でありながら、あっという間に各貴族の弱みを握り、あるいは巧妙に鼓舞し、王家への反乱を煽ったのが、一体誰なのかを。 青い髪の謀略家。 笑顔の奥に隠された野心。 ガリア星慧王(せいえおう)の『弟』、などと言うと、彼は烈火の如く怒るので禁句だが。 レコンキスタの実質的な首領であるシャルルは、ハヴィランド宮殿の一角でじっと待っていた。 暫くすると、シャルルが居る部屋に通じる扉の一つが開く。 それと同時に、言い知れぬ『冷たさ』が、扉の向こうからやって来た。 それは墓所の冷気だった。死神の領域が、扉の向こう、地下へと通じる階段から、立ち上ってきたのだ。「ひぃ、はぁ。あ、シャルル様、これわこれは、わざわざここでお待ちにならずとも、っ」 邪悪がやって来た。 地の底から亡霊たちをその身に背負って。 その亡霊さえも食い散らかして。 邪神の手先、オリヴァー・クロムウェルが、地下の拷問室から怖気と共にやって来た。 彼は返り血を浴びた僧服もそのままに、引きずっていたハンマーを振りかぶって、挨拶するような気安さで、シャルルに殴りかかった。「いひ、いひひひ、直ぐに、貴方も、我が、神にぃ! 捧げます、からぁーーー!!」「『電撃(ライトニング)』!」「ぎひぃっ!?」 シャルルは、狂った司祭を、電撃の魔法で迎撃。 電流によってクロムウェルの体の筋肉が出鱈目に収縮し、びだん、と海老のように通路を跳ね飛んだ。 彼の手に握られたハンマーとペンチは電流のせいで、彼の手のひらの皮膚に張り付いている(そのせいで、ハンマーが彼の手からスッポ抜けるということはなかった)。 所々からしゅうしゅうと煙を吹き上げるクロムウェルに、シャルルは懐から取り出した水の秘薬を瓶ごと投げつける。 薄い(つまりそれだけ高級な)瓶が割れて、クロムウェルの僧服に染みていく。煙が多少は治まった。 そして風の『操り』で、未だに痙攣するクロムウェルを立たせ、さらに浮かせて空中に吊り下げる。 シャルルはクロムウェルの耳元に『伝声』の魔法で、声の通路をつなぐと、ドスの利いた声で喋る。「なあ、クロムウェル。挨拶で、人を、殺そうとォ、するなァ!」 その声に、クロムウェルは、先程までの狂気は何処へやら、おどおどと目をあちこちに動かして、如何にも不審げな様子で答える。「ひぃっ!? こ、殺そうとなんか、してないですよ? ちょっと肩の骨を砕いて、ぐぅりぐりと、踏みつけにしてやろうと思っただけで! ひ、ひひひ」 弁解になっていないが、彼はこれで、大真面目に回答している。 そして先ほどいきなりシャルルに殴りかかったのも、素だ。 出会ったのが、シャルルでなければ、ハヴィランド宮殿にハンマーを持った僧服の男が、その衝動のままに大暴れしていただろう。 シャルルとて、この狂人の人となりを知っていなければ、不意を打たれて殺されていたかも知れない。 だが、シャルルは、クロムウェルが儀式の下準備(・・・・・・)の後に、ハイテンションで所構わず拷問しようとするだろう、ということが予測できていた。 だからこそ、地下室の出入口の間で、クロムウェルを待ち伏せしていたのだ。(この拷問癖さえ無ければ、もっと扱いやすいものを……) シャルルは内心溜息をつくが、無いものねだりだとは理解している。 むしろ、この異常な司祭の脳髄に眠る、異端の知識の有用性に気づいただけでも、十分以上に儲け物だ。 便利な生きた図書館以上の役割を望むのは酷というものだろう。「いいか、クロムウェル。君が望むだけの人員は、与えているだろう? 今は、それで我慢するんだ。良いな?」「は、はいぃ! きちんと、狡猾に、TPO(時、場所、場合)と、供物(犠牲者)は、わきまえて、拷問します! ええ、間違いなく! ええ、そうですとも! 惨忍さと、狡猾さは、我が神が好むところですゆえ、もちろん! もちろん、めね、めねめねめね!」「……分かれば良い。人にバレるような、稚拙で、拙劣な行為はするな」 シャルルは深い溜息をついて、クロムウェルを宙空から下ろす。 クロムウェルは、壊れたおもちゃのように、コクコクと首を動かしている。 こいつ絶対に理解してない、と、シャルルは思うが、それでもこの場でこれ以上のことを諒解させるのは無理だろう。 根本的な部分で、この司祭は、もはや常人と同じ世界には立っていないのだ。 僅かなりともコミュニケーションが取れる時点で、望外の幸運である。 シャルルは話題の矛先を変える。 と同時に、クロムウェルの後ろに回り、先へ進むように促す。後ろから殴られてはかなわない。 二人は、地下拷問室に通じる通路から、クロムウェルが崇める神の『手』を象ったものが置かれている場所へと、足を進める。「それで、300人の囚人を『使用』して、儀式の準備は整ったのかね?」「ええ、ええ、もちろん! 万端でございます! ほら、こちらに、300人分の、『証』が! あはははははっ」 そう言って、クロムウェルは、大事な宝物を見せびらかすように、人の頭ほどの、肌色の革袋を踊るように掲げて見せる。 300人の両手指の生爪がみっしりと詰まった、拷問の証拠品である。 悍ましい所業を、まるで童のように誇らしげに、クロムウェルは語る。 が、シャルルはその尽くを、仮面のような笑顔でスルー。 まともに聞いていたら、こっちが正気を無くしそうだからだ。 その間にも、クロムウェルは無邪気に、身振り手振りで、やれ、爪が脆いと剥ぎづらいだの、一撃で頭蓋骨を粉砕するにはコツが要るだの、病み言を並べていく。 やがて、二人は『手』――『イゴーロナクの手(THE HAND of Y’GOLONAC)』が安置された部屋まで辿り着く。 その扉は、暗鬱で凄惨な血腥い(ちなまぐさい)気配を発しており、常日頃から、近づくものは皆無であった。 近づく者といえば、『手』の創造者であり、崇拝者でもあるクロムウェルと、彼に嫌々同行するシャルルくらいのものである。 そして、決まって、その翌日(遅くとも一週間以内には)、彼らに敵対していた者が『乱心して周囲の者を拷問して殺害する』という事件が起こるのだった。 例えば、クロムウェルが『アイアン・メイデン』を手に入れたとはしゃいだ翌日、レコンキスタに与しなかったある土魔法使いの貴族が、『錬金』の魔法を使った土の針で自分の妻を、串刺しにして殺していることが発見された。 第一発見者が惨状を見つけたとき、下手人の貴族は既に、『ブレイド』で自分の首を刎ねていた。 彼の表情は、絶望に染まっていた。 まるで妻を刺し殺したのが、彼の意思ではなかったかのようだった。 仲の良い夫婦だと評判だったのに何故、と皆が訝しんだ。 例えば、クロムウェルが、『人はパンで死ねるのか』と大真面目に悩んだ翌日、現王派を支援していた商会の会頭が、自分の娘の口にパンを無理やり押しこんで殺してしまった。 娘の胃や食道、気道には、20本あまりのパンが詰め込まれていた。 その商会は呪われている、と人々は噂し、やがて倒産した。 例えば、クロムウェルが、『熱した寸胴鍋を人に被せるとどうなるだろう』などと呟いて王宮の厨房に鍋を借りに行った翌日、ロンディニウムの大司教が、彼の妻の手によって、熱された鍋を被せられて大火傷を負った。 大司教の妻は、『どこからか悪魔が囁いたせいだ』と強弁した。 大司教は、この時の火傷が原因で、衰弱して死んだ。 例えば、クロムウェルが、『ネズミちゃーん、お腹はすいてまちゅかー? 人の腹筋や内臓はどんな味なんでしょうねー?』とか言って厨房に仕掛けたネズミ捕りに囚われたネズミに語りかけていた四日後、ある軍司令官の部下が、営巣に縛られて身動き取れない状況で、内臓をネズミに貪り食われていたのが発見された。 死んだ将校の上官であった軍司令官は、精神を病んで辞表を提出したが、代わりに彼に送られたのは軍法会議の召喚状だった。 彼は敵軍に内通していたのだ。 最終的に裏切り者の軍司令官は銃殺(貴族としては不名誉な死に様だ)された。 例えば。例えば。例えば。数え上げればキリがない。 レコンキスタは、数々の利益と弱みによって纏め上げられた集団だった。――結成当初は。 それが今では、得体の知れない恐怖によって統率された、恐るべき集団へと変貌してしまっている。 恐怖、それは、レコンキスタに敵対した者へと襲いかかる、理解不能の災厄に対する恐怖だ。 隣人が狂う恐怖。 親しい人を自分が拷問して殺してしまう恐怖。 見えない鎖によって、アルビオンの民衆の心は、雁字搦めに押さえつけられ、縛られてしまっている。 ロンディニウムの空は、今日も灰色に染まっていた。 だが、得体の知れない恐怖によって、レコンキスタという新しい秩序のもと、アルビオンは確かに一つにまとまりつつあった。 クロムウェルが、軽く身なりを整え、『手』の安置室の扉を開く。 暗黒の冷気が、扉の向こうからやって来る。 冷たい、それでいて、どこか途方も無い巨獣の吐息を思わせる生臭さが、後ろに居たシャルルを包みこむ。(何度来ても慣れないな。まあ、これに慣れたらマズイという意味では、一種のバロメータになるか) 自分が正気を保っているかどうかの、バロメータに。 クロムウェルは先程までの稚気に溢れた様子からは想像できないほどに、厳粛な雰囲気を纏っていた。 表情だけをとれば、彼の荘厳な様子は、まるで名のある聖職者のようであった(彼自身としては常日頃から、敬虔なる聖職者のつもりである――仕える相手は邪神だが)。 クロムウェルは手に持った300人分の生爪が入れられた革袋を掲げて、おずおずと安置室に入る。 安置室の中央の段の上には、汚らわしい緑灰色に燐光を放つ、天に向かって伸ばされた手が、圧倒的な存在感で置かれていた。 それは左手の肘から先を象ったものであった。 特徴は軽く開かれた掌と、その掌に開いている歯列の整った半開きの口だ。 『手』が生えている30サント四方の台座には、ネームプレートのような粘土板が付いている。 クロムウェルが供物を――生爪が詰まった革袋を――捧げるために、祝詞らしき言葉を唱えながら、一歩一歩、『手』に近づく。「いあいあ、いごーろなく、んぐる、や、み、みるず、ざくす、ぃんめだ、じゃぁむ、ら、め、からら、が、きぃいや、んざらす――」 陶酔した瞳で、恍惚として歩みを進めるクロムウェルを、シャルルはゴミを見るような目で見る。(全く、この空間は、吐き気がする。だが、この呪い(まじない)が有効なのも確か。この『奉仕者が捧げた供物に施された唾棄すべき行為を、他人になぞらせる効果』は、有効だ。……意志力が強い者には効きづらいらしいが) 『イゴーロナクの手』の効果は、『捧げられた供物に応じて、台座に名を刻まれた人物に、特定の行動を強制する』というもの。 例えばある土魔法使いの貴族の名前を台座に刻み、『手』に、アイアン・メイデンで殺された者の血が詰まったフラスコを捧げれば、『手』はそのフラスコを喰らい、台座に刻まれた者に、供物を作るのに必要な行為(この場合は串刺しにして失血死させること)を強制する。 その結果、その土魔法使いの貴族は、手近な者を串刺しにして殺すだろう。 全く彼の意思に反して。 殺したくもないのに、耐えざる誘惑によって殺してしまうだろう。 例えばある商会の会頭の名前を台座に刻み、パンを口に次から次に詰めて殺された者の唇を剥いで捧げれば、『手』はその唇を喰らい、商会の会頭に呪いを成すだろう。 彼はその結果、愛娘の口にパンを捻り込んで殺すだろう。 例えば熱した鍋をかぶせて殺した者の焼け爛れた耳を捧げれば、台座に名を刻まれた者は、身近な者に対して、熱した鍋を被せたいという抗い難い欲求に襲われるだろう。 例えば人の腹の上に鍋をかぶせて中にネズミを入れて内臓を貪り食わせた後に、そのネズミを『手』に捧げれば、台座に名を刻まれた者は、同じ方法で適当な人物の内臓をネズミに喰わせたくてたまらなくなるはずだ。 クロムウェルが長く長い祝詞を唱え終えて、生爪が詰まった革袋を、恭しく『手』のひらの上に捧げ置く。 供物が受理されたことを示すように、ゆっくりと緑灰色の指が握られ、上に置かれた肌色の革袋に食い込む。 無事に供物が受け取られたことを見て、クロムウェルの顔が歓喜に歪む。「ああ、我が神、イゴーロナク様! 供物を受け取っていただき感謝いたします! 誠に、誠に、誠に、ありがたきことこの上なし!」 『手』が置かれている段の下で、クロムウェルが五体投地し、コメツキバッタのように頭を何度も叩きつけている。 取り敢えず無事に儀式が終了したのを見て、シャルルはそっと安置室を出る。 これ以上、この悍ましい空気を吸うことは我慢できなかった。 300人分の生爪(両手指の生爪を剥いで頭蓋骨を粉砕されて殺された者たちの『証』)が供物に捧げられた。そのうち(一昼夜しないうち)にあの革袋は『手』のひらの口に喰われて、邪神のもとへと送られるのだという。 そして邪神の力によって、悍ましい魔術が影響力を発揮し始めるのだ。具体的には、『手』のネームプレートに名前が刻まれた者は、その悍ましい300人分の拷問行為を成したクロムウェルの行動をなぞってしまうということだ。 つまり。つまり? そういうことだ。 『手』の台座のネームプレートに刻まれた名前は、『ジェームズⅠ世・テューダー』。 失陥寸前の現王派最後の砦、ニューカッスル城に残されている兵力は、『300人』に足りるか足りないかだという。 つまり、そういうことだった。「チェックメイト」 シャルルのその呟きを聞く者は、居なかった。◆◇◆ 蜘蛛の巣から逃れる為に 17.ニューカッスルの惨劇◆◇◆ 魔法学院のルイズの私室にて。 サイトはシエスタ共々正座されていた。サイトは野戦服、シエスタはメイド服。 彼らの眼前には、野戦服のままのルイズが腕を組んで仁王立ちしていた。「はい、では今日の戦闘の反省から行きましょう」 今日も今日とてシュヴルーズの戦闘訓練が行われたのであった。 最近きな臭くなりつつある情勢を反映してか、何時の間にか、危機感を持った者たちが、教師生徒問わずに参加し、参加者は膨れ上がり、今ではちょっとした中隊規模になっている。 ……その打撃力は、ちょっと類を見ない感じになりつつある。 まあ元からの参加者たちだけでも、虚無組(ルイズ&サイト&シエスタ)、クルデンホルフ組(ベアトリス&ルネ&ヴィルカン)、巻き込まれ優等生組(ギーシュ&レイナール)と、かなり突出したメンツだったが。 追加の参加者は、まず、タバサ&キュルケの留学生組。「楽しそうだし、たまには身体も動かさないとねぇ」「私だけハブにされるのは悲しい」 ギトー&マリコルヌ&その他風系統メイジの特攻野郎神風チーム(速力優先!)。「どうした君たち! もっと、早く速く疾くだ! 風系統の強さとは即ち速度なのだ! 速さが足りないぞぉ!!」「サー、イエッサー!」「そうだ! 我々メイジは鳥より速く竜より速く雲よりも速く何よりも速いのだそう在らねばならんのだ巧遅よりも拙速を尊ぶのだそれは何も身体の動きの速さ詠唱の速さ魔法の速さに限らないもっとも重要なのはより遠くのことをより早く知覚し瞬時に適切な判断を行うこと即時即決即断即行――」 モンモランシーや保険医を始めとする水メイジ中心の衛生兵チーム。「衛生兵(メディック)! メディーック! モンモランシー! 突っ込んだロレーヌが後ろからの味方(キュルケ)の砲撃に巻き込まれた!」「ああまたキュルケなの!? 担架部隊はレビテーションで負傷者を後送して! 先ずは出血を止めて、火傷部位には『水精霊の涙』の湿布を! 秘薬は出し惜しみしないで! どうせ経費はベアトリス持ちなんだから! ショック症状だけは何としても防ぐのよ! そうなりゃ後はどうにでもなるわ!」「うわぁぁああ!? 巨大ゴーレムが出たぞー!? レイナールのゴーレムだ! アレはムキムキの見かけのとおり動きが素早い、ウボァー!?」「ギーシュ君吹っ飛んだーー!! 衛生兵(メディック)! メディーック!」 研究者肌の学生とコルベールを中心とした観測班。「ロレーヌ、開始10分で全身火傷で脱落、原因はフレンドリィファイア(誤爆)、と。グラモンは、おお、立ち上がった。鎧を纏って支えにしているのかな?」「ミスタ・コルベール、冷静ですね」「うむ、戦場では冷静さを失った者から死んでいくからね。君たちも、いずれ戦場に立つかも知れないし、あるいは不慮の事故に巻き込まれるかも知れない。そういった時に、パニックを起こさないでいられるかどうかというのは、冷静で居られるかどうかにかかっている」「はぁ」「よそ見していると見逃すぞ? 蛇のような冷静さを持ちたまえ」 そして何処からか現れて後片付けや補給を行う奴隷矮人(ゴブリン)部隊(標的兼業)。「ベアトリスさまのためなーら、えーんやこらっ」 「えーんや、こーらぁっ」「『水精霊の涙』、一ケース追加でーす」「肉弾壁なら任せろーー!!」 「ゴブリンは壁、ゴブリンは石垣、ゴブリンは堀ー!」 「うわぁー」 「ぎゃひぃ」 「ひでぶ」 軍隊の訓練どころか戦場もかくやという厳しさである。 救いは補給線が充実していて物資の窮乏からは無縁なことくらいだろうか。 きっと夏期休暇までには、訓練参加者の彼らは立派な護国の戦士に成っていることだろう。 まあ、それはさておき、訓練時の回想からルイズの部屋に視点を戻そう。「サイト、今日の訓練の時、一瞬出足が鈍ったわね。どうして?」 仁王立ちのルイズが正座しているサイトに尋問する。 サイトは気まずそうにシエスタの方を一瞥するが、シエスタは疑問符を浮かべるばかりである。 さらにルイズが促すと、観念してサイトが口を開く。「……シエスタに見惚れていたからであります」「はあ?」 「え」 ルイズとシエスタが同時に疑問の声を上げる。 サイトがヤケになって一気にまくし立てる。「だって、みんな野戦服の中で一人だけメイド服なんですもの! スカートなんですもの! ヒラヒラするんですもの! 気になるじゃないですかよぅ。銃を構えているところは凛々しいし……」 シエスタはルイズから頑丈で自己修復機能と四次元ポケットも付いているメイド服を支給されている。 そのメイド服は、銃弾くらいなら弾くし、着用者に治癒をかける効果もある、非常に高等な魔道具である。 下手な野戦服より動きやすいし、四次元ポケット内蔵のため、重い装備に振り回されることもないし、何より可憐であるという理由で、シエスタはルイズから訓練時もメイド服を着ることを申し付けられていた。 メイドの戦場とは日常であり、故にメイド服は戦闘服でなければならない、とかいう信念を持ったクルデンホルフの趣味人が開発したものらしい。常在戦場。 サイトの告白を聞いて、シエスタの顔が真っ赤になる。 サイトの顔も真っ赤だ。俺何言ってるんだろう。 ルイズは、こめかみをひくつかせながら、苛立たしげに左手の指を擦り合わせている。「……へえ、そう。そうなんだ。ふ、ふふ、じゃあサイト、もっと訓練の密度を上げてやらないとねぇ。メイド服が気にならなくなるくらいに、鉄火場をもっともっと経験させてあげるわ……」「え、いや、そんな結構です」「遠慮しなさんな。先ずは、そうね、今からニューカッスルに行くわよ」「ニューカッスルって、確か、アルビオン内乱の真っ最中じゃ――」 問答無用、と、ルイズは『世界扉』を詠唱。 サイトの首根っこを掴み、現れたゲートに放り込む。 さらにデルフや二人分の背嚢もポイポイとゲートに投げ込む。「じゃあ、シエスタ。ちょっと小一時間空けるわ。帰ってきたら、ティータイムにしましょう」「はい、ルイズさん。いってらっしゃいまし」「ふふ、いってきます。じゃあまた後で」 シエスタに手を振って、打って変わって上機嫌そうな様子で、ルイズも虚無のゲートに飛び込む。 行く先はアルビオンの現王派最後の砦、ニューカッスル城。 狙いは虚無の秘宝『虚無のオルゴール』。 つまり端的に言えば――火事場泥棒である。 残されたシエスタは、ティータイム用のお菓子を仕込みに厨房へと向かう。「ルイズさんも、ルイズさんです。デートに行きたいなら行きたいで、素直に誘えば良いのに。ふふふ、全く、ルイズさんは主人としては申し分有りませんけれど、乙女としてはどうなんでしょう?」 ルイズさんには、乙女としての教育が必要かもしれません。 主人思いのメイドは、茶会での話題のバリエーションに、恋話を加えることを決定する。同僚や市販の本からの情報収集も行わなければ。 シエスタ完璧メイド化計画に対抗しての、ルイズ乙女化計画である。 それにしても、鉄火場に火事場泥棒に行くのがデートとは、随分世紀末的である。◆◇◆ ニューカッスルのある個室。 急に扉が開かれて、息急き切って男が入ってきて、大慌てで扉を閉める。 入ってきたのは、灰色の長髪と髭が凛々しい、トリステインからの潜入部隊の一人、ワルド子爵だ。 ワルド子爵は個室の家具を動かして、扉の前にバリケードを作ると、荒い息をつく。(なんで、こんな所で私は追い詰められてるんだ) 彼は軽く今までの道行きを回想する。 ゲルマニア行幸から帰る途中に、婚約者のルイズがアルビオンのウェールズ王子を連れてきて、気づいたらその護衛任務が追加されていた。――まあ、それは良い。仕方ない。 そして閣議の決定によって腕利きの使い手をアルビオンに派遣し、情勢を探るように命令された。 その派遣団に、風のスクウェアで、実体のある『偏在』(つまり精神力が回復する『偏在』)を使えるワルド子爵は抜擢された。――風メイジは隠密行動に優れているから、これも仕方ない。激務にも程があるが、それは何か報いてもらうとしよう。 潜入任務に於いて、ワルド子爵が請け負ったのは、ニューカッスルに布陣する現王派との接触。 特に現王ジェームズⅠ世は、外界からの情報が届く状況にあるとは思えないため、ウェールズ王子確保の情報を、是非とも奏上せねばならない。 あわよくば今後のアルビオン介入に便利になるような言質を取ってくること。 あと、略奪の憂き目に遭うであろう資産を“お救いする”こと。――そろそろ“俺は真剣に怒っても良いのではないか”と思い始める。 紆余曲折あって、何とか単身でニューカッスル城に忍びこみ、ウェールズ王子から父王に宛てられた密書を渡すことに成功。 ついでにその返書と、ウェールズ王子にテューダー朝の王に即位させる旨をしたためた書状および王冠を託される。 他の者からも、『どうせ叛徒に略奪されるくらいならば』と、色々なものを託される。――雪ダルマ式に膨れ上がる責務と重要性に頭痛がしてくる。 完全に包囲されたニューカッスル城の中で、どんちゃん騒ぎ。 王子が逃げ延びることがほぼ確実になったため、ジェームズ王以下の者たちは、叛徒に対して『テューダー朝、侮り難し』ということを見せつけるべく、玉砕の準備を進める。 現王派最後の戦艦『イーグル』号がトリステインに拿捕されているため、非戦闘員の脱出手段なし。 否応なく、非戦闘員も戦闘員も関係なく、玉砕の準備。 とはいえ、ただ単に突っ込むのではなく、土魔法によって弓矢などの武器の作成し非戦闘員を戦力化し、通路崩落閉鎖による敵進路の局限、トーチカ(特火点)の構築など、持てる限り最大の力で敵戦力を減滅させる作戦を取るという。――母の遺言で『メメント・モリ』と言われている身としても、彼らの悲壮な決意に満ちた有様を最後まで見届けようと思う。風メイジのワルドならば、上手く『レビテーション』を途中途中で掛ければ、託された財宝を背負っていても、地下の秘密港から降下できるだろう。 さていよいよ歴史の証人となる覚悟が出来たところで、ジェームズ王による、玉砕特攻前の最後の演説である。 そう、ここからが問題だった。 ジェームズ王が突如として乱心したのだ。 まあ、思い返してみれば、その日は朝からジェームズ王の様子がおかしかったのだ。 落ち着きなく杖に手を伸ばしては引っ込めを繰り返し、忙しく行き来する人の手を(さらに言えば指先を)じっと注視していた。 王の目元には深いクマが刻まれていたが、皆それを、テューダー朝最期の日を迎えるのに眠れなかったせいだと解釈していた。 他にも眠れなかった(眠る暇がなかった)者たちは居たし、ワルド子爵も大して問題がないだろうと思っていた。 だが違ったのだ。 ジェームズ王が遥か遠い所からの悪意と狂気に蝕まれていたことに、皆が漸く気づいたのは、彼が出陣式で老臣を手にかけた瞬間であった。 バリーだかパリーだかいう老臣を呼び寄せたジェームズ王は、その老臣の目鼻口を過剰な『治癒』の魔法で塞ぎ、あっという間に『ブレイド』で彼の首にぐるりと一周薄皮一枚分の切れ目を入れて、その切れ目に『エア・ハンマー』を叩き込んで、その風圧と衝撃波で老臣の頭の皮をひん剥いたのだ。 皆がその光景に呆然としている間にも、頭の皮を剥がされた老臣は倒れ、恐ろしい絶叫を上げてのたうち回ったが、ジェームズ王はそれを一瞥すらせずに、ひっくり返されて袋状になった老臣の頭の皮を腰に結わえると、「生爪剥ぎ祭りだ~~!!」と言って、風の『操り』の魔法で、のた打ち回る老臣の身体を固定して、「すまない、でも、抑えられないのだ。すまないすまない、でも抑えられない、楽しい、爪を剥いで、剥いで止めねばならぬのに剥いで楽しい愉快だ剥いで――」泣き笑いしながら、べりべりと老臣の爪を剥がし始めた。 ジェームズ王が正気を失っているのは、もはや誰の目から見ても明らかであった。 女性たちは金切り声を上げ、広間から逃げようとする。 家臣たちの何人かは、乱心した王を取り押さえようと、縛めの魔法を唱えようとした。 だが、それはジェームズ王には当たらなかった。 何故なら、老臣の指の爪を全て剥がして、その頭を『ブレイド』の応用で強化した王杖で叩き潰したジェームズ王は、他の誰よりも早く動き、次の犠牲者の背後に移動していたからだ。 風の国の王は、最速の王。 広間の空気(かぜ)は、全てがジェームズ王の支配下にあった。 広間の風を支配下に置いたジェームズ王の前では、全てが無意味。 杖を振ろうとしても、腕は風に固定されて動かず。 詠唱は真空に遮られて声にならず。 それどころか身動きすら出来ず。 しかし風に助けられた王の動きは疾風の如く。 その狂乱の魔の手から逃れるすべは無かった。 風王、“重圧”のジェームズ。 厳格な政治姿勢と併せて知られた二つ名は、彼の得意魔法である超広範囲の『操り』の魔法に由来する。 深海のような重圧の中で、皆は動きを封じられた。 その中で動けたのは、魔法衛士隊において厳しいという一言では言い表せないほどの修練を自らに課していたワルド子爵だけだった。 いかに王族、風の国の王とはいえ、ジェームズ王は老人である。 邪悪な呪いの昂揚によって精神力が増したとは言え、現役の風のスクウェアの魔法衛士隊隊長を押し留めるには至らなかった。 辛うじてジェームズ王の風の支配から逃れたワルド子爵は、素早く『偏在』を詠唱し、二体に分かれる。 その内の一体は、狂える老王に攻撃を仕掛け、広間を覆う風の縛めの魔法からジェームズ王の気を逸らさせる。 それは単純な足止めだけではなく、縛めの魔法から解き放たれた他の者たちを再戦力化するためであり、また広間から逃げるワルド本体を、雪崩を打って逃げ出すであろう非戦闘員の肉の壁の中に隠すためである。 そして無事にワルド子爵は虐殺の広間を抜け出し、何とかニューカッスル城の一室に身を隠すことに成功したのだった。 小部屋に逃げこみ、一瞬安堵したワルド子爵の後ろで、何か、いや誰かが倒れこむ音がした。「痛って~……」「誰だ!?」 ワルド子爵が振り向いた先には、黒髪で月目の少年が居た。その後ろには、『サモン・サーヴァント』のゲートのような銀色の鏡が浮遊している。 確かにこの部屋には子爵しか居なかったはず。風メイジは気配に敏感だから、それは間違いない。この少年はあのゲートから現れたのか? 黒髪月目の少年の左眼は、子爵の婚約者と同じ鳶色だった。ゲートの鏡が揺らぎ、また何かを吐き出す。「あら、ワルド様? どうしてここに? ここアルビオンですよね?」 さらに鏡の向こうから、剣や荷物が飛んできて、野戦服でも可愛らしい婚約者(ルイズ)が顔を出す。 ルイズは野戦服のポケットからマジックカードを取り出すと、「あれ、ここトリスタニアじゃないわよね。座標はニューカッスル城で間違ってないみたい。でもじゃあなんでワルド様が?」など言いつつ座標確認用のアプリを呼び出して現在位置を確認し始める。 理解不能の事態の連続に、さしもの近衛隊長も、考えることを放棄した。だが彼の苦難はまだまだ続く。 何故なら未だここは狂える風王の腹の中。◆◇◆「へぇ、婚約者、ねぇ」「人間が使い魔だったとは、ねぇ」「(両手に花~♪)」 斯く斯く云々(カクカクシカジカ)でお互いの情報を交換し合った今、サイトとワルド子爵、ルイズは慎重にニューカッスル城の廊下を歩いていた。 ひとまずは、ワルド子爵が現王派から託されたという宝物を纏めて置いている地下秘密港へと進路をとっていた。 ルイズは上機嫌だが、男ふたりの間の空気は火花が散っているようである。 その道中、否応なく、惨劇の証が目に付くし、鼻を突くし、耳を劈く(つんざく)。 広間から逃げた者たちは、包囲されたニューカッスル城唯一の逃げ道である秘密港へと殺到したのだろう。 だが、彼らは逃げられなかったのだろう。 狂った風王の『操り』の重圧が、風の及ぶ限り、王の意思の及ぶ限り纏わりついて動きを鈍らせ、やがては追いついた狂風王によって爪を剥がれて頭を割られて殺されたのだろう。 廊下は血と脳漿で彩られ、鉄錆の臭いに満ちている。頭を潰されたヒトガタが、地下秘密港に近づくにつれて、徐々にその数を増していく。 その中を、サイトは探針のようにデルフリンガーを掲げて先頭を歩く。 デルフリンガーには先日の虚無の『解除(ディスペル)』の四乗が未だに残っており、それによって通路に満ちるジェームズ王の『操り』を消去しながら進んでいるのだ。もし『解除』が切れても、デルフリンガーの魔法吸収能力で以て、『操り』は断ち切れるはずであった。 狂風王との接触があるかと危惧されたが、何事も無くワルドが預かった物品を置いている場所まで到達した。 慎重に倉庫の中へ入るが、特に何も潜んでは居なかった。 全員部屋に入ったあと、ワルドが倉庫の扉に『サイレント』を掛ける。空気の動きを遮断する魔法は、『操り』の魔法に対して障壁となるはずだ。 ワルドが『サイレント』を掛ける間に、ルイズは財宝を漁って、目当ての『始祖のオルゴール』が無いかどうかを探す。 しかし、その中には無いようである。 古ぼけたオルゴールは誰からも忘れられて、未だに城の宝物庫に安置されているのだろう。 ルイズは落胆の溜息を一つ。 そして真新しい四次元ポケットを背嚢から取り出すと、ワルドの方へ放る。 四次元ポケットは『オルゴール』以外の宝物を持ち去るために、他にも幾つも持ってきているから、一つくらいワルドにあげても問題はない。「ルイズ、これは?」「魔法で内部を拡張した(実際は別空間に繋いでいる)袋です。おそらくここに山と積まれたもの全てが納まるかと思います」「そうか、ありがとう。使わせてもらうよ。それで、お目当てのものは見つかったかい?」「いいえ、ワルド様。『オルゴール』はここには無いようですわ。恐らくは城の何処かにあるのでしょう」 そう言って、ルイズは踵を返す。 サイトもそれに無言で付き従う。 置いて行かれる格好になったワルドが、慌てて虚無の主従に声を掛ける。「おいおい、待ちたまえよ。城の中は危ない。僕が探してきてあげよう」「いいえ、ワルド様。ワルド様はご自分の任務を優先してくださいまし。それに私、自分のものは出来るだけ自分で手に入れたい性質でして」「そうだそうだ。ルイズには俺がついてるから心配いらねぇよ」 サイトが野戦服のホルスターに差した日本刀(デルフリンガー)の柄に手をかけて、じろりとワルドを睨む。 ワルドも負けじと睨み返す。「使い魔君、君じゃルイズは守れないよ」「いいや、守れるね。何せ俺のご主人様は無敵なんだ。つまり、その使い魔の俺もまた、無敵というわけだ。ガス欠寸前のお前なんかより――」「問答をしている時間は無いわ。さっさと行くわよ、サイト」 ルイズが先に行こうとサイトを促す。 サイトはワルドを一瞥して、ルイズの後を追う。 そして彼女は杖を一振り。どかん、と音が――城中の空気(・・)を震わせる爆音が響き渡った。 ルイズたちは囮を務めるつもりなのだった。次々と爆音が響き、移動しているルイズたちの位置を誇示する。 ジェームズ王は、この城の何処に居ようと、さっきの爆音を耳にしただろう。城の全ての空気を支配している王は、気づいてしまっただろう。 程なくして、ルイズたちは、あの風王と相まみえるはずだ。 確かにルイズが言ったとおり、任務遂行のためにはここで別れる方が良いのだろう。 ワルド自身の残りの精神力の量は、アルビオンから降下するには足りるだろうが、ジェームズ王の相手をするとなると心許無い。ジェームズ王の魔法を振り切るのに疲労していた。それをルイズとサイトは見抜いていた。 ルイズたちが狂風王を引き付けている間に、さっさと秘密港から飛び降りるべきだ。 だが、まだ学生の、女子供を、しかも婚約者を囮にして、自分は逃げ延びるのか。 確かに任務は果たさねばならない。だが――。 爆音が遠ざかる。 トリステイン魔法衛士隊隊長、ジャン=ジャック・フランシス・ド・ワルドよ、それでいいのか。 いいや、良いものか! 死を想え。 死から逃げるな。 死に立ち向かい、死の姿を目に焼き付けるのだ。 そうしなくてはならない。 それこそが、俺の生き様だったはずだ。「ああ~、もう! 仕方ない! ユビキタス・デル・ウィンデ!」 ワルドが苛立たしげに頭を掻きむしり、特製の実体を持った『偏在』分身を一つ作り出す。 これでそれぞれの『偏在』に残された精神力は、上手く使っても、アルビオンからの落下の勢いを殺しきるので精々だろう。 二人に増えたワルドは、倉庫に積まれた現王派から託された物品を二人がかりで四次元ポケットに詰めていく。 二人がかりの作業は直ぐに終了し、二人のワルドは互いに別れを告げる。「あ~あ、かっこつけちゃって。これっぽっちの精神力じゃ、下手したら墜落死しちゃうぜ、ジャン=ジャック」「ふん。たまには斬殺じゃなくて墜落死でも良いだろうさ、ジャン=ジャック。婚約者を見捨てるよりは余程良い」「それでも任務達成のために保険(『偏在』)を作る辺り、抜け目ないね」「まあな。だがお前には嫌な役を押し付ける。敵地から逃げ延びる役なんてものを」「そう思うなら、精々かっこ良く散って来な。婚約者のピンチに駆けつけて助けて来れば良い」「ああ勿論だ、ジャン=ジャック」「ヘマすんなよ、ジャン=ジャック」 そして、別れたワルドたち(実体を持った分身には、区別は意味なく、どちらも本物である)は、一人は鍾乳洞の秘密港に、もう一人はルイズたちに加勢しに上へ。 精神力の残りが少ない。 ルイズたちの方に加勢に行くワルドは、碌に魔法は使えないし、生き残れはしないだろう。 肉の壁になるのが精一杯といったところだろうか。「だがまあ、頑張って見せ場を作って欲しいもんだ――」 そう呟いて、秘密港へ向かった方のワルドは、雲海へと身を躍らせた。 密書と亡国の想い出たちを抱いて、ワルドはトリステインに向かって落ちていく。 ワルドの身体が雲間に消える。◆◇◆ 一方で、ルイズたちは、ジェームズ王に遭遇する前に、宝物庫にて『虚無のオルゴール』を確保することに成功していた。 ルイズの指に嵌められた『風のルビー』が光を放ち、オルゴールが虚無の旋律を奏でる。ルイズが両手で掴んでいるオルゴールから不思議な光が漏れ、それが風となって彼女のピンクブロンドを持ち上げる。 サイトはその神秘的な光景を目に焼き付けたかったが、宝物庫の扉からのプレッシャーが、刻一刻と強まっていたため、デルフリンガーを構えて見張りをやらされている。「新呪文出るといいなぁ。なあ、デルフ」【まあなあ。新呪文じゃなくても、正規の方法で習得した呪文は、威力や精度、魔力効率に補正がつくから、なんか便利なのが出るといいけどな】「へえ、そうなのか。良く知ってるな。ルイズが始祖の秘宝から覚えた呪文って、『爆発』と『解除』と『幻影』だっけか。あとはシャンリットに居たときに習ったものとか、他の虚無遣いから伝え聞いたものらしいな」 その内に始祖の秘宝からの魔法の伝授が終わったのか、光は収まっていく。「……ふぅ」「終わったかー?」「ええ、見張りご苦労。全く未知の新しいのは出なかったけど、『加速』を正攻法で覚えられたのが収穫ね。今までよりもっと楽に使えるようになるはずよ」「へえ、『加速』っていうと、あれか。『ザ・ワールド』。『時よ止まれ、そなたは美しい』。『加速』が出たのは風のルビーだからかな? 風って速そうなイメージだし」「そうかもね」「で、帰るのか?」 ちらちらと一層強まった狂風王のプレッシャーを気にして、サイトが訊ねる。 しかしルイズはそれに首を振る。「いいえ、『国王が乱心して最期まで付き添ってくれた臣下を殺して回った』というのは、外聞が悪いわ」「なるほど。つまり“彼らは自決を選んだ”ということにしたいわけだな」「そういうこと」「“死体も残らないような最期だった”というわけだな?」「そうよ。“死体も残らないような最期”を遂げてもらう必要があるわ」 爪を剥がされて頭を潰された死体も、狂ったジェームズ王も、人目に晒すことは出来ない。 だから、狂気の痕は全て無かったことにする。 このニューカッスル城ごと。「出来んのかよ?」「まあ、ちょっと思いついたことがあってね」 そう言ってルイズは、マジックカードを翳して、『錬金』の魔法を行使。 手のひら大の穴が開いた金属製の戦輪(チャクラム)を幾つかと、無数の拳大の弾頭を作成していく。 作成した弾頭は、四次元ポケットに突っ込んでいく。「よし、準備完了っ」「いよいよ狂った王様が近づいてきている気がするぜ」 扉の向こうの邪悪な気配は強まるばかりである。 気分はラスボス手前のセーブポイントに居る勇者のようだ。「さて、行きましょうか。サイトは後ろから着いて来なさい。前にいると、射線(・・)が塞がっちゃうから」 愉快そうに笑いながら、ルイズは宝物庫の扉を開き―― ――その目の前に、血塗れの王様が哂っていた。「え?」 「ルイズっ」 待ち伏せされていた。 デルフの纏った『ディスペル』の影響によってジェームズが感知できない(・・・・・・)部屋、それが、賊の居場所だと、ジェームズ王は理解していた。 だからジェームズ王は、ルイズたちの居る宝物庫に辿り着けたのだ。「すまない、だがどうしても爪を剥ぎたいんだ、本当はこんなことはしたくないのに、悪魔が、頭のない掌に口のある悪魔が、急かすのだ。あと、93人、爪を剥がさなければならぬのだ、多くの者は追い詰められて地下の港から落ちていった、だから足りない、あと93人、爪を剥がして頭を割って、爪を剥がして頭を割って、爪を剥がして頭を割って――」 王様の狂った目を覗き込んで、感受性豊かなルイズは、大邪神イゴーロナクの恐るべき呪力を感じ取ってしまった。 だから動けない。 ルイズの知識にない、しかし、ルイズの知る何よりも邪悪な神の力に触れて、軽い金縛り状態に陥っていた。 サイトが主人を害そうとする狂風王に斬りかかろうとするが、肝心のルイズと半開きの狭い扉が邪魔になってしまっている。 ジェームズ王の手が、放心するルイズに伸びようとした瞬間。 ジェームズ王は、横から飛んできた何かによって、吹き飛ばされた。 ガンダールヴの視力は、ジェームズ王を吹き飛ばした何かを、恐るべき動体視力で捉えていた。 それは、手だった。 肘から先だけ切り離された人間の左腕が、砲弾のように飛んできて、ジェームズ王の横っ面を殴り飛ばしたのである。(ろ、ロケットパンチ!?) サイトはその刹那、声にならない驚きを上げる。 素早く目線を走らせれば、自分の左腕を切断して投擲したらしいワルドの姿が見える。 どうやらあの男、戻ってきたらしかった。 ガス欠で『エアハンマー』も使えないから、『ブレイド』で切った左腕でロケットパンチを行ったらしい。 吹き飛ばされたジェームズ王は、直ぐ様起き上がる。 しかし今度はルイズには目もくれず、自分の頬を殴り飛ばした誰かの左腕を拾い上げると、歯を使って、まるで獣のように、誰かの左腕の爪を剥がし始める。 ワルドがその辺の瓦礫を投げすに、わざわざ腕を投げたのは、爪を剥がすことに執着しているジェームズ王の気を引く目的もあったのかも知れない。「いひ、いひひひ、爪、爪ツメつめ、爪ぇええええ」 そして、そこで漸くルイズが我を取り戻す。 彼女の表情は、怒りに染まる。邪神の力を借りてジェームズ王を狂わせた何者かへの怒りだ。人間の運命を、まるでゴミのように扱う邪神たちへの憤怒だ。 しかし次の瞬間には、哀れみが浮かぶ。哀れ邪神に魂を弄ばれ犠牲となったジェームズ王とその臣下たちへの憐憫だ。 ルイズは悼む色を隠し、決然と宣言する。「“重圧”のジェームズ陛下。介錯仕ります」 ルイズの前に先ほど作られたチャクラムが猛スピードで回転させられながら『レビテーション』で浮かべられる。 そのチャクラムの穴の後ろに、拳大の弾頭をまた『レビテーション』。 そしてルイズが唱えるのは『加速』の呪文。 しかし『加速』の対象は、ルイズではない。 前で回転し続けるチャクラムである。 『加速』の魔法で時間から切り離されたチャクラムは、ルイズたちから見て、ほとんど光速に近い速度に達したように見える。 そして、その領域においては、速度とは重さ、そしてつまり、重力でもある。 時間から切り離されて、超速度とともに超重量をチャクラムは得て、中心に光さえも歪める重力の焦点を発生させ――その後ろにあった弾頭を、恐るべき力で引きつける。 弾頭はチャクラムの穴を通るように、ジェームズ王に向かって瞬時に超加速。 弾頭がチャクラムの穴を通る瞬間に、『加速』は解除され超重力も解除。弾頭は振り子のように引き戻されたりはせずに、一直線に進む。 そして、着弾。 ジェームズ王は、文字通り、消し飛んだ。◆◇◆ その後ルイズたちは、『世界扉』で崩れ行くニューカッスル城を離脱。 ワルドの『偏在』は、ジェームズ王を吹き飛ばした『加速』重力砲弾の余波で崩落した瓦礫に巻き込まれて死んだ。 死に顔は、達成感に満ちていた。白い歯がキラリと光っていた。 「ワルド様、ちゃんと本体の方は脱出しているといいんだけれど……」「まあ多分大丈夫じゃないか。なんか殺しても死ななそうだし、あの髭男」 実際、ニューカッスル城に来ていたワルドも、恐らくは実体を持った『偏在』であって、バックアップはロンディニウムかトリステインに居るのだろうけれど。 今、ルイズとサイトは、ルイズが『錬金』で作った天馬のガーゴイルの上に乗って、ニューカッスル城を睥睨していた。 ニューカッスル城の回りには、砂糖に群がろうとするアリのように、王弟派の軍が展開しようとしていた。 ルイズたちが乗る天馬型ガーゴイルは、ニューカッスル城の上から、大陸の縁から大きく外側に離れて、徐々に高度を落とす。 そしてペガサスが、アルビオンの地平より下に到達したとき、下降をやめた。 ルイズが幾つものチャクラムと弾頭を空中に浮かべる。「じゃあ、やっちゃいましょう。何もかもを台無しに。筋書きは『命運を悟った現王派は、ニューカッスル城ごと自爆し、その生死は不明』」「まあ、やるなら今が頃合いか。これ以上待つと、城に近づいた敵側にも被害が出そうだしな。ただの人間は殺したくないんだろ?」 アルビオン本日は晴天なり、ただしニューカッスルにおいては下から上へ降る流星雨にご注意下さい。 輪転する円刃の中央から、加速された弾頭が次々と数百も発射される。 それは残らず余さずニューカッスルの秘密港の辺りに吸い込まれ、天空大地を打ち砕いていく。 アルビオンの大地が、震え、ニューカッスル城が、大地ごと崩落していく。 テューダー朝の最期の一撃は大地すらも揺らした、と、アルビオンでは長く語り継がれていくことになる。◆◇◆ ロンディニウムの宮殿にて。 レコンキスタの会議が開かれていた。 長辺が非常に長い長方形の上座の短辺に、アルビオン王弟モード大公及び宮宰、改め、アルビオン王チャールズ・スチュアートが座っていた。 ニューカッスル城失陥の知らせを受けた会議であった。 この時を持ってアルビオンに君臨する王朝は、テューダー朝からスチュアート朝(レコンキスタ)に切り替わったのだ(とはいえ、トップが入れ替わっただけであり、末端では今のところはそれほど大きな組織の変化は起きていない)。 だが、その上座に居る元モード大公は、非常に沈んだ顔をしていた。「兄上……、何も自爆して死なずとも」 甘いな、というか、拙いな、と元モード大公の直ぐ左の長辺の端に座っているシャルルは思う。 ここは 「憎きジェームズ・テューダーは滅んだ! 新生アルビオンの夜明けだ! 皆の者、祝杯を!」 と、内心はどうあってでも、鼓舞してみせねばならない場面だ。 このチャールズ・スチュアートという男、公私の区別がつかないことの甚だしい男、いやお坊ちゃんである。 まあそのおかげで、シャルルが付け入る隙が在ったのだが。 この年食ったお坊ちゃん大公は、エルフに恋し、子供まで設けておきながら、大公の地位は手放したくないのだと言っていた。 そうならば、それはもはや、兄王を弑逆するしか道がないではないか。 それに思い至らないなんて、馬鹿じゃないのか。 とはいえ、これでなかなか人徳は、いや人徳だけはあるようで、サウスゴータの太守など南部諸侯を中心に、忠誠心に篤く、有能な人材を、レコンキスタは抱えている。 のっけから辛気臭くなった会議を、シャルルは溜息をついて、仕切り直す。「まあまあ、陛下。悼む気持ちはわかりますが、会議の方も進めませんと。ではまずは、参謀クロムウェルから、各種計画の進捗報告を」 そう言って、シャルルの向かい、チャールズ・スチュアートの右の長辺の端に落ち着きなく座っている、僧服の男を促す。「へ、あ、はい、シャルル様。シャンたちからの協力による巨大動力炉作成計画は、半年後に試作型が一先ず完成しそうです」「擬真機関(As A Truth-Engine)と言ったかな? そうか、試作型とはいえ、もう完成が目前か」 手元の着工計画と予算案を見て、シャルルが感嘆の声を上げる。 異界の昆虫がもたらした新式エネルギー炉は、今後、ハルケギニアの覇権を握るの鍵になるものだ。 膨大な予算を費やしてここ数年研究してきたものであり、『アルビオン大陸航空要塞化計画』の要である。「擬神機関(Azathoth-Engine:アザトース式エンジン)で御座います、シャルル様」 末席の、頭部からネコミミのように半物質の脈翅を生やしている、虚ろな目をした人間が訂正する。 彼は新式エネルギー炉の開発部長である。 その頭脳には、半物質の拷問愛好家、シャッガイからの昆虫(シャン)が棲みついている。「? 擬真機関(As A Truth-Engine)だろう?」「擬神機関(Azathoth-Engine)です。……ああ、知識のない方には尊き神の御名が発音どころか、聞き取りも出来ないのでしたね」 頭に蟲の脈翅を生やした開発部の人間(?)が溜息をついて首を振る。 シャルルと盟主チャールズ・スチュアート(元モード大公)や、幾人かの閣僚は頭に疑問符を浮かべている。 訳知り顔なのは、クロムウェルを初めとした、外法の知識に親しい連中だ。 シャルルが軽く咳払いする。「……まあ良い。では、クロムウェル、続けてくれたまえ」 クロムウェルはチック症患者のように首をせわしなく回しながら、さらに報告を続ける。「はい、はい、はい。ええと、他は概ね予定通り進捗しており、問題は――あ、研究開発部の娯楽提供用の人員が不足しそうですね。10名ほど回して頂ければ足りるそうですが」「またか。まあ10名なら良いだろう。しかし何処から抽出したものか」 悩むシャルルに、他の閣僚が手を上げて次々と発言していく。「それについては考えが。この際、アルビオン全土の寺院荘園を取り上げて、そこの司教から抽出してはどうでしょう。その、チャールズ・スチュアート陛下の細君が暮らしやすいようにするためにも、必要でしょうし」「なるほど、名案だ」「取り上げた土地は、ジェントリーや貴族に売って、資金にしよう」「そしてその資金を使って、空賊の取り込みを行っては? 拷問用……げふん、娯楽提供用の要員は拿捕した空賊から抽出しても良いでしょう」「確かにこの辺りで空賊、いや民間の私掠船については実態を把握しておきたいところですな」 侃々諤々、新生アルビオン、スチュアート朝の議論は白熱していく。=================================『加速』を使った重力レンズ砲については、衝撃波とか色々突込みどころ満載だけどスルーして頂けると有難いです原作二巻相当分(ニューカッスル城陥落まで)終了2011.03.07 初投稿グロ注意2011.03.08 注意書き追加↑