第五十一話 皇帝 シャルル
「やりました、世界の皆さん、ゼロがまたしてもやりました!
あの恐ろしき兵器、悪魔の兵器であるフレイヤを、見事過去の遺物へと変えて見せたのです!!」
興奮するディートハルトの放送に、世界中でゼロコールが沸き起こった。
ダモクレスを太陽に廃棄した件については、あれだけの要塞なのだから別に利用すればよかったのではという意見があった。
だがあれは人を抑えつけるためだけに生まれた要塞、万が一フレイヤがどこぞかに隠されでもしていたらどうすると言われ、その意見はあっという間に消え失せた。
シュナイゼルはダモクレスから脱出艇で斑鳩の捕虜施設に一度送られた後、さらに合衆国日本へとその身柄をオデュッセウスと共に移された。
オデュッセウスはユーフェミアとの面会を希望しており、彼女の方もそれを望んでいたので、折を見て会う予定である。
待遇はエトランジュとの政略結婚を企んでいたシュナイゼルの計画をアルフォンスに知らせてくれたので、それに対して感謝しているマグヌスファミリアがある程度配慮してくれている。
そしてシュナイゼルはというと、淡々と事情聴取に応じ、特に何も希望することはなかった。
もはや自分には何も出来ないし、するつもりもなかったからである。
あれだけの兵器を作り、さらには実際に使用した上に恐ろしい計画を立てたとあって、死刑は当然だとの論議も出ている。
救出されたアルフォンスは、斑鳩の医療施設に送られた。
幸い外傷はなく、本当に眠らされていただけだったので、リハビリさえ済めば特に問題はないと医者達からお墨付きを得られ、エトランジュ達は安堵していた。
睡眠薬が切れて目を覚ましたアルフォンスは、目の前にいたクライスに驚き、そして救出されたことを伝えられて大きくため息をついた。
同時に、コードもギアスも亡くなったことを告げられる。
「そうか、それでエドやエディから連絡がないんだね。
まあいいや、僕らの目的だし、面倒が減ってよかった。
それに、ごめん、迷惑かけた。そのウランの兵器・・・フレイヤだったっけ?よく何とかなったもんだね」
「世界中の科学者が、集まったからな。お前がいてくれりゃ、って結構言われてたみたいだぜ」
能力的にはあの科学者集団の中では劣る方だが、もしいてくれたらニーナの盾になってくれたし、調整役として活躍してくれたのにと、ロイドが言っていた。
「ま、うまくいったんならいいよ。で、エディのほうはどうなの?政略結婚の件、うまく阻止出来た?」
テレビを見る限りでは、明るい様子のエトランジュを見て阻止出来たのだろうと予想していたアルフォンスは、水差しからコップに水を注ぎ入れながら軽い様子で尋ねた。
だがクライスは何だか言いにくそうな顔で、口ごもっている。
「あー、うん、その、なんだ、阻止は出来たよ。
ただな、その反則というか、禁じ手を使ったっつうか、お前にはいいことなんだか、悪いことなんだかっていうか」
「・・・正確に言葉は使えよ、クラ。反則でも禁じ手でも、あのバカからエディを守れりゃ、何でもいいんだよ。
僕は何でも構わないから、詳細を言え」
口裏合わせなきゃいけないだろ、と苛立つアルフォンスに、そう言ってくれるのを待っていた、とばかりに、クライスは告げた。
「そうか、そう言ってくれたら俺もマジ助かるわ!
あのな、お前とエディが結婚してたって事にして、あいつの求婚断ったから!
お前とエディ、今対外的に夫婦ってことになってるんで、口裏合わせよろ!!」
一気にそう告げて、じゃ、と逃げようとしたクライスを、目が点になりながらもアルフォンスは腕を掴んで引き止めた。
「・・・ああん?今、有り得ないことを言われたような気がするんだよ。
ごめん、もっかい言ってくれない?」
「目が怖えぇよ・・・だからさ、お前とエディが結婚してだな・・・エディが既婚者なら、これ以上ない断り文句だからって・・・アドリス様が」
ずっと睡眠状態にあったとは思えない力で腕を掴まれたクライスは、痛みに耐えながらも同じことを繰り返した。
アルフォンスは唖然とそれを聞くと、水差しを床にぶちまけて叫んだ。
「バカか?!僕とエディは従兄妹同士だ。マグヌスファミリアじゃ、認められてない婚姻だぞ?!
家族だって、認めるわけが・・・!」
「認めたさ!エディのためだって言ったら、みんなそれでいいって、反対する奴なんざ一人もいなかった!」
「なんだって?」
「マグヌスファミリアはもう、世界のはずれにある小国じゃあなくなってる。
エディが在位してる間は、なんだかんだで他国に大きく関わらなきゃいけない国になってるんだ。
だから、それを補佐出来る奴じゃねえと、エディの伴侶は務まらない。けど、王族以外にそんなことが出来るのは、うちの国にはいないんだ」
「・・・だったら、他にマシな奴が他国にも!」
「あの状況で、下心なしでエディと結婚してくれる男が、どこにいるんだよ」
完全に他人からの受け売りだったが、そう答えるクライスに、アルフォンスは言った。
「僕以外にも、頭のいい従兄はいるだろ?エディが当事者の意志なしで、婚姻に同意するとは思えないけど」
「ああー、それな。エドがさっくり、『アルはエディが大好きだよ。ずっと前から、エディのことが好きだった』って告げたら、エディは顔を赤くしてた」
クライスが姉の裏切りを暴露すると、アルフォンスは顔をリンゴもかくやとばかりに真っ赤にした。
「・・・ちょ、ちょっと待て!エドが何、何でバラし・・・え?」
「俺はぜんっぜん気付かなかったけどさ、気づいてたやつ割といたぜ?
お前が早くイタリア留学したのも、医療器具の研究のためだけじゃなくて、お前と距離置きたがってたのもあるってさ。
けど言われてみたらお前、マグヌスファミリアが占領された後、ずーっとエディの傍にいたもんな」
本来なら科学者であるはずのアルフォンスは、そのための研究もしていたが、ルーマニアへ慰問のような畑違いの仕事にも同行していた。
女王になったエトランジュのためというなら、クライスのように力の強い男を護衛に差し向ける方が効率的だったのに、彼女の傍にいたのだ。
「気付かれてた・・・え・・・」
「エディ本人は知らなかったみたいだけどな、アドリス様はしっかりと。
で、よく知ってるアルフォンスのほうが、娘を任せても全く不安はないとさ。
エディはそれを聞いて、こう言ってたよ。『アル従兄様と一緒にいられるのなら、私はとても嬉しいです』って」
「・・・他に選択の余地がなかったからだろ。無理して言ってくれたんだ」
起きて早々夢だと言ってほしい展開に、アルフォンスは脱力したように言った。
「・・・でも、もうやってしまったんなら仕方ないな。解った、口裏わせはする。
どうせなら・・・こんな事態になるんだったら、死んで見つかった方がよかったかもな」
そうしたらエトランジュは未亡人であり、再婚と言う形になるにせよ、本当に恋をした男と一緒になる道があった。
「それもこれも、全部あの疫病神のせいだ。あの野郎、どうなってる?」
「生きてはいるけど、まあ死刑は確実じゃねえかって意見が大半。
あれだけやばい思考回路してんだもん、生かすのはやばいだろ」
「その前にあの無駄に綺麗なツラ、見る影もないほどボッコボコにしてやりたい・・・」
アルフォンスは心底から呟いた。身体が動くなら今すぐにでも、松葉杖で滅多打ちに行っていただろう。
「・・・エディは、今どこにいる?」
「日本にいるぜ。お前が無事だと聞いて、喜んでた。
黒の騎士団とEUの連合軍は、このままブリタニア大陸に行くけど、お前は治療のために日本に移送することになってる。
俺と親父も、お前への付き添いって形で戻る」
イリスアゲートは戦闘補佐に特化した機体だが、どちらかと言えばアルフォンスが操縦するイリスアゲート・ソローのほうが頼りにされているので、特に必要ではなかった。
「・・・僕がいない間の出来事、表にして寄こして。
それから、リハビリの準備もすぐに手配してほしいって、ラクシャータ先生に伝えておいて」
「解った、すぐにやる。でも、無理はすんなよ」
クライスはアルフォンスの心情を慮って、一人にしようと立ちあがる。
そして雑巾で手早く濡れた床を拭きとると、コップに水を新しく注いでから病室を出た。
「ちっくしょ・・・家族が何で、エディを追い詰めるんだよ・・・」
選択の余地がないままに、禁忌の結婚をさせられた愛する従妹。
王位継承といい、婚姻といい、彼女は自分の人生の重大事項を、常に己を取り巻く状況で決められてしまう。
ただ一番ましだと思ったのだろうが、そこに少しでも彼女自身の希望が介在したことがあっただろうか。
「結婚くらい、自由に決めさせてやってもいいだろ」
アルフォンスはそう呟くと、苛立ったように水が入れられたコップを壁に投げつけた。
筋力が弱っていた腕では壁まで届かず、それは床に転がって新たに水たまりを作った。
それにさえ苛立ちを募らせたアルフォンスは、テレビの中でフレイヤは脅威にならないと訴え続けるエトランジュを見つめるのだった。
エトランジュ達がラインオメガを使い、全世界の電波をジャックして放送を行う数時間前。
潜伏先のアリエス宮にて、敵から半ば忘れられた皇帝・シャルルが、頭を抑えて考え込んでいた。
(フレイヤ・・・あれをどうにかせねばならん。だが、もはやシュナイゼルは衛星軌道上にさえ行くことが出来るダモクレスにいる。
どれほどの数があるのか、量産体制が整っているかどうか、それさえも解らぬ)
これまでの無関心が見事に祟って、シュナイゼルの手の内が全く知らないシャルルには手の打ちようがない。
『だったらどうしてそんな最悪な計画を立てた人間に宰相という地位を与え、あまつさえそのまま国政を任せ続けたんだ?!
普通に宰相を解任しダモクレスを解体させれば済む話だろう?!』
息子の正論が、今になって身にしみた。
シュナイゼルの計画を知った段階で、せめて己のギアスで忘れさせていればよかったものを。
『今、フレイヤをどうにかするために、どれだけの人員と費用が費やされていると思います?それとも計画が成れば、フレイヤは消えるんですか?』
思想を統一すれば使わないだろうというそれだけの思考のもと、恐ろしい兵器を放置していた。
結果として宮殿を混乱に陥れてしまい、自分の力が及ぶのはアリエスの宮殿と、自分の指示を仰ぐ子供達と、その部下だけだ。
それさえもシュナイゼルの監視の網がかぶさっているため、ろくに動けないと来ている。
「あのダモクレスは、黒の騎士団を迎撃するため、ペンドラゴンを離れたそうです。
ギネヴィア姉様は、ゼロはヤケになっているとしか思えないが、シュナイゼル兄様と相打ちになってくれるのが理想だとおっしゃってました」
カリーヌの報告に、シャルルはそうかとだけ応じた。
(ルルーシュはヤケになるような性格ではない。
フレイヤの対策を立てはしたのだろうが、それが有効かどうか・・・何せまだ、一カ月しか経っておらぬ)
フレイヤ対策に金も人も費やしていると、アドリスは言っていた。
しかしだからといって、この短期間で対処が可能かと言われると、さすがに楽観は出来ないはずだ。
「・・・シュナイゼルが離れたとて、奴の手の者は宮殿内で監視をしておろう。
速やかに連中を捕縛する手配をせよ。そのタイミングは、追って指示を出す」
「イエス、ユア マジェスティ」
傍に控えていたビスマルクが深々と頭を下げると、命令を実行すべく部屋を出て行った。
「陛下、シュナイゼル兄様のダモクレスとフレイヤ、どうなさるんですか?」
「黒の騎士団と戦えば、シュナイゼルも無傷ではすまぬ。その隙を突くしかあるまい」
現時点では本当にその策しかないシャルルは、内心それさえ出来るか怪しいものだと自嘲しながらも、カリーヌには冷静にそう答えた。
そしてさらに時間が経過し、シュナイゼル率いるブリタニア軍と、黒の騎士団との激戦が始まったとの報が届く。
もはや完全に蚊帳の外に置かれたシャルルは、たまに訪れる子供達やその部下達の報告を、黙って聞いていた。
「ゼロのナイトメア部隊が、ダモクレスを包囲するように陣を敷いたそうです、陛下。
フレイヤを撃たれる前に、内部を制圧するつもりなのではと・・・」
部下の報告にそれしかあるまいなと、シャルルは顎に手を当てて考え込んだ。
だがそれでは不十分、既にエネルギーを装填されていればむしろ致命的な失敗になると、シャルルは自ら出陣したルルーシュの身を案じた。
だがそれから一時間も経たぬうちに、別室にいたカリーヌが大慌てで飛び込んできた。
「お父様、お父様!!大変です、ダモクレスが陥落したって、今全世界に放映されています!!」
「なんだと・・・?!」
ダモクレスがこれほどの短時間で落ちたというのも驚きだが、それが全世界に放送されているとはどういうことかと、シャルルは思わず椅子から立ち上がった。
戻ってきていたビスマルクがリモコンでテレビのスイッチを入れると、どのチャンネルを回しても映っているのはユーフェミア、エトランジュ、神楽耶、天子の演説だった。
「これです、お父様!私もニュースを見ていたら、突然この女が現れて!」
「皆様、突然放送に乱入したことをお詫び申し上げます。
ですが、どうしても世界の皆様にご覧頂きたいものがあり、こうして勝手ながら回線をお借りいたしました。
今、ご覧頂いた映像は、先日世界を騒がせた全てを無に帰す兵器・通称フレイヤを、見事黒の騎士団と、EU軍の連合部隊が無効にしてみせたものです。
一度目はゼロが無効にしましたが、先ほどの映像はゼロではなく、EUのプログラマーが行ったもので・・・」
(あの男の、娘・・・!)
映像をよく見てみると、ルルーシュは既にダモクレスに突入した後のようで、無効化したのは初めて見る大型のナイトメアと、中華のナイトメア・神虎が協力してフレイヤに何やらぶつけている姿だった。
(・・・あれで、フレイヤを?このひと月足らずで、開発したと言うのか?!)
「このフレイヤは、ウラン理論をもとにしたものだそうです。
超合集国連合とEUは、エネルギー源として使うことを考えていますが、安全性が確立されるまでは使用しないと言う条約を、締結いたしました。
このウランは非常に危険です。兵器として使うことの愚かさを、皆様にご理解頂きたく・・・」
「この恐ろしい兵器は、この映像の通り巨大な基地を丸ごと消してしまうものです。
これを新たに使おうとする国は、世界によって厳しく糾弾されることになるでしょう。
このような悪夢を生み出した責任を、シュナイゼル・エル・ブリタニアには必ず取って頂きます」
神楽耶の説明に続いて、ユーフェミアが厳しい口調でシュナイゼルの、ひいてはブリタニアの罪を罰すると宣言した。
そして再び、フレイヤを無効化する映像が見せつけるかのように流される。
たった一カ月。
自分の人生の中でも、瞬く間に過ぎ去るような時間だった。
その中で、黒の騎士団は突破口を見出した。
ルルーシュだけではない、その他の人間達の手によって、シュナイゼルの切り札はもはや意味をなさなくなったのだ。
「お、お父様・・・フレイヤは、黒の騎士団に通じないってことですか?」
それでは、どうにかしてフレイヤを造れないかと試行錯誤しているギネヴィア達はどうすればいいのか、とカリーヌが問おうと口を開きかけた時、聞こえてきたのは低い笑い声だった。
「・・・クックック・・・ふははははははは!!」
「お、お父様・・・?」
ショックでおかしくなったのか、とカリーヌが内心で呟くほど、シャルルはひたすら笑い続ける。
「ふははははは!あやつらめ、やりおったわ!!」
哄笑するシャルルを、ビスマルクを除く全員が震えながら見ていると、やがてシャルルは笑い声を止めた。
「ふははは、シュナイゼルもゼロに敗れおったか。
ならばあれにこの国を統べる資格はない、ということだな」
弱肉強食、勝者こそ正義。それがこの国の絶対の掟。
それこそがこの国の原動力である、とシャルルは笑った。
「ビスマルクよ、この放送でシュナイゼルに与している者どもは、指示が来ず混乱していよう。
先に整えた手はず通り、全て捕えよ。そして牢に閉じ込められておるヴァインベルグを解放し、外に潜伏しているエルンストも呼び寄せて、戦闘準備を整えるのだ」
「は、しかし・・・」
それではルルーシュ様と戦うことになるのでは、とビスマルクは戸惑った。
計画が潰えた今、主に残ったのはマリアンヌの忘れ形見であるルルーシュと、ナナリーだけだ。
あの二人に今一度、シャルルに対する理解を示して貰おうと考えていたし、シャルルもそれを望んでいるだろうと思っていたからである。
「シュナイゼルのオモチャを攻略した程度で、我が帝国に土足で踏み込むことは叶わぬ。
カリーヌ、今残っている皇族・貴族どもを集めよ。気を引き締めねば、シュナイゼルの二の舞になるぞと伝えておけ」
「は、はい、お父様!」
父の恐ろしくも頼もしい言葉にカリーヌは、一礼して少女騎士とともに本宮殿へと飛び出していく。
「陛下・・・」
「構わぬ、ビスマルク。すぐに準備を始めよ。
・・・黒の騎士団を、迎撃する」
シャルルの命令を聞いたビスマルクは、その響きから主の意図をおぼろげながら感じ取った。
そして小さく頷き、携帯で宮殿の外にいるドロテアに連絡する。
「・・・マリアンヌ」
シャルルの小さな呟きは、かつて四人で食事をしたリビングに響き渡り、後にはフレイヤは脅威にはならない、シュナイゼルとブリタニア帝国には責任があると訴えるエトランジュ達の声だけが、繰り返し流れていた。
合衆国日本、阪神工業地帯。
その中にある研究施設では、集まった科学者達がグラスを片手に快哉を叫んでいた。
「やった!フレイヤを打ち破ったぞ!!」
「徹夜の甲斐があった・・・みんな、お疲れー」
アイギスの盾が完成し、黒の騎士団がブリタニアへ出発した後も彼らは研究施設から出ず、一度それぞれの部屋で休息を取った。
そして戦闘が開始される前に集まり、ゼロの蜃気楼が出撃したという報告が来ると、後はただアイギスの盾が無事に発動できるように祈った。
見事にゼロがフレイヤを無効化すると、ひとしきり歓声が上がったが、まだ油断は出来ない、問題はこの後だと、真剣な表情で次の情報を待った。
そしてゼロがダモクレスに突入し、アヴァロンから放たれたフレイヤを無事に無効化するアイギスを見て、とうとうその喜びが爆発したのである。
「やっぱあの理論を、ラクシャータ博士の例の数値をあてはめたのがよかったな」
「シバイタロカ博士のは、どうも常人離れしてたからなー」
わいわいとこれまでの苦労について語る科学者達と、モニターの前で何もかもがうまくいったのだと、安堵のあまり座り込んでいるニーナがいる。。
「今回の最大の功労者は、何と言ってもニーナでしょー!
彼女がいなかったら、これは一カ月じゃ無理だったからね」
モニターからそう言ったのは、斑鳩にいるロイドだった。
それに周囲が同意の頷きを返すと、全員から拍手が沸き起こる。
「そんな、これは私だけの力じゃ・・・・!」
顔を真っ赤にして手を振るニーナに、科学者達はそれでも貴女が一番手柄だとニーナを称賛する。
「あの原案作るのだって、このメンバー総がかりで一カ月はかかるよー。
先に出来てたお陰だからね、素直に誇りなよ、ニーナ君」
そのとおり、と全員が同意するので、ニーナは嬉しそうに微笑んだ。
「この調子で、エネルギー源としての使用するための方法も確立したいところなんだけどね。
残念なことに“戦争復興に今度は資金を回したいので、援助は難しい”ってさ」
この一カ月、無限に使えた施設と費用だが、それはあくまでも大量殺戮兵器を止めるという、是が非でも優先されるべき事態のためだ。
エネルギー源を確保するのも重要ではあるのだが、それでもこれ以上の費用を割けないと言うのも当然ではあった。
「・・・ですよねー。でも、私は出来れば一生、ここで研究していたいな。
このメンバーなら、どんな理論でも完成できそうな気がするから」
「んー、じゃあ各国で合同研究出来る施設を、どこかに作れないか聞いてみようか?
また何かをみんなで研究するための施設~」
ニーナの言葉にロイドが提案すると、いいね、落ち着いたらぜひ、賛成の声が上がる。
「ウランの研究に関してなら、許可は出やすいと思うしね。
みんなも興味ありそうだし」
気の早い者は自国にメールを打ち出しており、エネルギーとしてならこうすれば、と理論を展開している者もいる。
「ま、それも戦争が終われば、の話だよね。次はブリタニア攻略だけど・・・」
「ええ、私もそれが気になっていて・・・今、どんな状況なんですか?」
ニーナが心配そうに尋ねると、ロイドが小さく肩をすくめた。
「ダモクレスを太陽にポイ捨てして、ちょうど腹黒殿下と一緒にオデュッセウス殿下、保護されたアル君を、日本に送るところさ。
ブリタニア大陸進攻ももう少ししたら行うつもりだけど、まだフレイヤがある危険があるんで、それを含めて作戦を考えてるところ」
「いくらなんでも、大陸でフレイヤを使うだなんて、バカなことをする人が・・・」
「いない、と言いきれないから、みんな慎重になってるんだよね~」
前科があるとどうしてもね、とロイドが手を振ると、人間ヤケになったら怖いしな~、と言う声が響く。
「腹黒皇子本人は、もう全部フレイヤは使ったって言ってるけど、見事に信用されてないからね。
ま、それでもこっちにはもう安全策があるから、進攻に躊躇はしてないよ」
「解りました、ではこちらで何かサポートできる事がありましたら、連絡して下さい」
「うん、しっかりした顔つきになったね、ニーナ。自分に自信がついた、いい顔だよ」
「ロイド伯爵・・・ありがとうございます」
「もう伯爵じゃないんだけどねー」
ははは~、といつもの笑い声をあげてから、彼は別れの挨拶をしたのち、通信を切った。
ニーナはばんざーい、やったー、と騒いでいる仲間の研究者達を見つめて、先ほどのユーフェミアからの通信を思い出していた。
『本当にありがとう、ニーナ。私の家族の悪行の後始末を、貴方に背負わせてしまってごめんなさいね』
頭まで下げられてニーナは恐縮したが、ニーナに感謝しているユーフェミアは、彼女に向かって言った。
『貴女には、感謝してもし足りないの。貴方のお陰で、ブリタニアの名前そのものが地に落ちずに済んだのだもの』
フレイヤを造ったブリタニア、だがそれを止める理論を考えたのはブリタニア人、ということで、ブリタニアの民そのものがおかしいわけではないと、世界に証明出来たのだ。
まさにこの戦争における合衆国ブリタニアの第一の功績である、との意見は一致しており、彼女に対し最大の勲章はむろんのこと、どのように報いるかでユーフェミアは悩んでいたのだ。
『そんな、ご褒美なんて・・・私は、やれることをやりました。やりたいことを、させて頂くことが出来ました。
そしてそれによって、私は以前になかった自信を身につける事が出来たんです。
それ以上を望むことなんて、私にはありません』
一番大好きな人の役に立てた。
その人に『ありがとう』と言って貰うことが出来た。
もうそれだけで、ニーナは全てが報われたのだ。
本当にそう思っているのに、ユーフェミアの困ったような表情を見て申し訳なく思ったニーナは、ふと思いついてそのままつい口に出してしまった。
『あ、あの、そんな顔をなさらないで下さい!
それなら、その・・・・私と・・・!』
『・・・・?』
『あ・・・その、あの・・・じゃなくて、その・・・!』
嬉しそうに続きを待つユーフェミアに、我に返ったニーナは、まさか自分の想いを受け入れてほしいなどと言えないことに気付き、慌ててごまかすように叫んだ。
『私と、お友達になって下さい!!』
言っちゃった、とユーフェミアは真っ赤になって俯いた。
これ以上ないほど赤い顔で願われた内容に、ユーフェミアはきょとんとした。
『そ、そんなことでいいの?ニーナ』
『そ、そんなことって・・・私にはそれ以上に嬉しいことなんて、ありません!』
力いっぱいそう告げたニーナを見て、ユーフェミアはさらにあっけにとられた。
『初めてユーフェミア様に助けて頂いた時、私本当に嬉しかったんです。
ずっと、ユーフェミア様のお役に立ちたくて・・・だから、その・・・」
だんだんと口ごもるニーナに、ユーフェミアは輝くように微笑んだ。
『ありがとう、ニーナ。私を友達にしてくれるのね、嬉しいわ』
『ユーフェミア様・・・』
『あら、友達に様をつけるのはおかしいわ。ルルーシュ達のように、ユフィと呼んで?』
他の人達がいる前ではいけないけれど、どうかその時以外は、と笑うユーフェミアに、ニーナは夢ではないのだろうかと戸惑った。
『あの、・・・その・・・ユフィ・・・様』
『様はいらないのよ、ニーナ。少しずつでいいから、慣れてね』
『は、はい!ありがとうございます!!』
ニーナの顔は、もはや湯気の立ったリンゴという表現にふさわしいほどになっていた。
『嬉しいです・・・感謝します、・・・ユ、ユフィ』
『いいえ、私も嬉しいのよニーナ。ありがとう』
そうして名残惜しく通信は切られたが、ニーナはそのまま床にへたり込み、赤い顔を両手で包みこんだ。
古典的に頬を引っ張ってみたが、痛いだけで気がついたらベッドの上、と言う状況にはならない。
(これって、現実なんだ・・・!私、ユーフェミア様のお友達になれたんだ!)
ニーナは混乱のあまり、床をごろごろと転げまわったり、意味不明に踊ったりと、自分でも何をしているのかと突っ込んだが、それでも身体は止まらない。
想いを受け入れて貰えずとも、せめて明るい顔でその隣に立てることが出来るのなら。
いずれユーフェミアに伴侶が出来、その子供を産んで幸せになったとしても、きっと自分は笑顔でそれを見守ることが出来るだろう。
『相手に何かを要求したのなら、愛は愛でも、自分に向ける自己愛でしかありません。
ユーフェミア皇帝への愛を美しいままにしておきたいのなら、それを忘れないで』
そう忠告してくれた人の声が、心に響き渡る。
本当は、私と同じ感情を持ってほしいと願いたかったけれど、それはユーフェミアを困らせるだけなのは、ニーナは百も承知していた。
だから、お友達に、と願った。
ユーフェミアはそれを、自分も嬉しいと言ってくれた。
今やルルーシュやナナリーのような近親者でしか許されていない呼称を、許してくれた。
それはきっと、自分が望み得る最大限のことなのだと、ニーナは理解した。
ああ、何て自分は幸せなのだろうか。
ニーナがそう実感して居ると、自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「・・・ナ、さん、ニーナさーん、どしたの?疲れが出たんなら、もう休む?」
何かあったらこっちで対処するよ、と科学者仲間が顔を赤くして過去に飛んでいたニーナを心配すると、ニーナは顔を横に振った。
「ううん、そんなんじゃないです。
ただ・・・幸せだな、って、思っただけです」
ほんの一年前は、知らない人間の前で話すことすら出来なかったのに、今はもうすっかり平気になってしまっている。
そしていろんな研究について語り合うのも、とても楽しくなっていた。
辛い時もあったけれど、今はもうこんなにも幸せだ。
(ありがとうございます、ユフィ・・・様)
まだまだぎこちないけれど、ニーナはユーフェミアに感謝の言葉を捧げる。
アッシュフォード学園にいた時のように、楽しくはしゃぐ科学者仲間に囲まれて、一番愛しい人から同じ立場になることを許されて、ニーナは幸せだった。
日本に送還されることになったオデュッセウスとシュナイゼルは、今特別機に乗り込むところだった。
「帝国宰相シュナイゼル、皇帝オデュッセウス。これより貴方がたを、日本へ送還させて頂く」
「ゼロ、これまでの私とシュナイゼルの軽はずみな行いに関しては、弁解の余地はない。
我々の罪に関しては、超合集国、EU連盟との決議を受け入れよう。我ら皇族の罪を、民に清算させるつもりはない」
オデュッセウスは手錠をつけられてはいたが、堂々とした態度でそうゼロに宣言した。
つまりは皇族のみを処罰し、国民達にまで波及するような罰は出来る限り避けてほしいという意味だった。
「素晴らしい覚悟です、オデュッセウス殿下・・・いえ、皇帝、とお呼びすべきか」
「・・・皇帝か。神聖ブリタニアに王など、もうどこにもいないよ、ゼロ。いるのはもう、自分のことしか考えていない連中だけだ。
そうでない者達は、こぞって貴方とユーフェミアを待っている。彼らのことも、重ねてお願いしたい」
いっそ清々しい笑顔でそう言った異母長兄を見て、ルルーシュは彼の苦労の凄まじさに同情した。
「我々は正義の味方です。罪には罰を、ですが功もまた正しく評価すべきです。
ゆえに、功罪を鑑みての処罰を下されることになるでしょう。ご安心を」
「ありがとう・・・ユーフェミアには本当に、迷惑をかけてしまった。
エトランジュ女王やアルフォンス王子にも、合わせる顔がない」
つい先ほど車椅子に乗って別機に乗り込んでいたアルフォンスと遠くとはいえすれ違ったが、彼の憎悪が結晶化した視線を浴びたオデュッセウスは、冗談でなく泣きたくなった。
もちろんアルフォンスがその視線を突き刺していたのはオデュッセウスではなく、その横にいたシュナイゼルなので、彼はこれに関しても完全なるとばっちりであった。
溜息をつくオデュッセウスの心情をよそに、シュナイゼルは涼やかないつもの表情で言った。
「ユフィに会うのは、もう少し後にした方がいいでしょう。
ここまで来たら、間違いなくゼロの完全勝利は確定している。早ければ一週間もかからず、ペンドラゴン攻略が終わるだろうから」
放っておいても、ブリタニアは自滅する。今頃同盟国からも同盟破棄の通告が来ているだろうし、事情を知った国民も騒いでいる頃だ。
いかに強大を誇るブリタニアでも、内部がボロボロになった国に負ける理由がない。
「父上も消息不明、おおかたもう誰かに殺されたかしているとみるべきだから、後継をすぐには決められない。君もそこを突くつもりだろう?」
「・・・・・」
全くその通りだったので、ルルーシュは沈黙した。
違っている点と言えば、計画が潰えたシャルルが殺されたというより、自殺していると予想しているくらいである。
「ブリタニアの混乱を治めるためにも、ユフィをここに早く連れてくるしかない、ということか・・・。
確かに、僕の今さらな言い訳に付き合っている暇はなさそうだね」
きちんと現状を把握できている優秀な弟なのに、何故あんなことを・・・と、オデュッセウスは何度目かの疑問を思い浮かべて溜息をついた。
「通信でなら、お話する機会を早期に作って差し上げたいと思います、オデュッセウス殿下。
では、すぐに特別機にお乗りください」
ルルーシュがそう促すと、オデュッセウスは頷いてタラップを昇る。
さらにシュナイゼルがそれに続こうとした刹那、何やらテレビを抱えたジェレミアとスザクが飛び込んできた。
「大変だ、ル・・・!ゼロ!シャルル皇帝が・・・!」
「・・・何?まさか、あの男、生きていたのか?!」
スザクの息せききった報告を、ルルーシュが確認すると二人とも頷いた。
「今、ブリタニア国内でこれが流れております。どうぞ、ご覧下さい」
ジェレミアが抱えてきたテレビをつけると、タラップを途中まで上がっていたオデュッセウスが凄まじい速さでUターンし、シュナイゼルも柳眉をひそめて画面を見た。
「・・・・であるからして、我がブリタニアは今、まさに進化の審判を下されようとしておる!
己の頭脳に酔ったシュナイゼル、オデュッセウスは敗れた!敗者にこのブリタニアを統べる資格なし!!」
「ちっ、首でも吊っていたかと思ったが、しぶとい男だ」
思わず呟いたルルーシュの言葉を聞いたシュナイゼルは、ルルーシュがギアス絡みでシャルルと対峙し、父の計画を潰すことに成功したのだと悟った。
(なるほど、となればおそらく、もうギアスは全て消えているね。
だから私に、ギアスをかけなかったというわけだ)
ルルーシュの行動に納得したシュナイゼルは、それでもまだギアスがらみの計画を諦めていないらしい様子の父に、無駄なことだと呆れた。
もはやブリタニアは戦力を大幅に削られ、制海権を奪われ、とどめに世界最悪の兵器を生み出した極悪非道の国家、というレッテルを貼られて孤立している。
損害を最小限に減らそうと考えれば、傷の多い皇族達を差し出す形での講和を申し出るしかないというのに、まだ抗戦しようというのである。
さらに無駄に長々しい演説が続いた後、シャルルは爆弾宣言を投下した。
「しかあし!この戦いを乗り切り、勝利を収めた者こそ、我がブリタニアを統治するにふさわしい強者であることも事実!!
よって、ここに神聖ブリタニア帝国第九十八代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアの名において宣告する!
ゼロを討ち果たした者を第九十九代皇帝として認め、皇帝位を即時に譲るものとする!!
継承権の順位は問わぬ!ゼロを倒した者こそが、次の皇帝だ!!」
「な、なんだと?!」
「・・・・頭のねじが飛んだかな、父上も」
お前が言うか、と言いたくなるような言葉だが、シュナイゼルが常にない暴言を呟いた。
滅多に心の声を実体化しない彼だが、それほどに呆れていい宣告だったのである。
今そんなことをすれば、余計に国内での連携が崩れて不利になる。
味方内で足の引っ張り合いを誘発するような宣言であることぐらい、誰でも解りそうなものだからだ。
「いかがなさいましょう、ゼロ・・・」
ジェレミアが問いかけると、ルルーシュは吐き捨てるように答えた。
「予定は変わらない、このままペンドラゴンへ進攻だ。
だがこの件について、桐原公やエトランジュ様、ユーフェミア皇帝と話し合う必要はある。至急通信会議の用意を」
ジェレミアにそう命じると、ルルーシュはクライスにエトランジュに通信会議のことを伝えて貰おうと、携帯を取り出して電話をかけた。
コールが長く、電話に出たクライスは何故か異様に慌てており、何やら怒鳴り声が響いてくる。
「お、ちょうどよかった!あのバカ皇帝の映像、見たか!?」
「ああ、今見た。通信会議を行うから、エトランジュ様に連絡を頼もうと思ってな。
まあすぐにペンドラゴン進攻、ユーフェミアをブリタニア大陸に派遣という結果は決まっているが、形式は・・・」
「それはいいんだけど、アルがマジギレしてやべえ!おい、とにかく落ち着けって!アル!!」
「あのバカフレイヤ宰相、余計なことはきっちりやるくせに、害虫駆除も出来ないの?!
次から次へと面倒ばかり起こしやがる疫病神の一族、放置しておめおめ戻れるか!!」
ラテン語のアルフォンスの怒声に、ルルーシュは思わず携帯から耳を放した。
「・・・もうこんな感じで暴れて、手に負えねえ。こんな元気がどこにあるんだってくらいで・・・・」
つけていたテレビは松葉杖で床に叩き落とされて破壊され、絶対戻らないと主張して怖い、とクライスは涙声である。
「・・・一通り叫び終えて冷静になれば、アルフォンスのことだ、おとなしく戻るだろう。
出発時間を少々遅らせるよう、指示しておく」
アルフォンスの怒声は、シュナイゼルとオデュッセウスにも漏れ聞こえていた。
ラテン語なので何を言っているかは解らないが、シャルルに加えブリタニア皇族達に対する罵詈雑言であるのは、声音で充分予想がつく。
もちろんオデュッセウスは全力で、ラテン語なので何を言っているかワカリマセン、な態度を貫き通した。
シュナイゼルはというと、エトランジュとの結婚を視野に入れていたため、ラテン語を学び始め、読み書きはある程度マスターしていたし、会話は単語をある程度拾えるレベルにはなっていた。
(フレイヤ宰相、駆除、虫・・・ああ、私に虫である父上を始末する程度はやっていろ、とでも言っているな。反論の余地もないが)
戦争を早期に治めるには確かにシャルルがいないほうが、スムーズに進むだろう。
自分の邪魔をしてくる可能性の高いシャルルを始末するため、シュナイゼルも出来る限り探索の網を広げていたのだが、いったいどこで息をひそめていたのやら。
「父上が生きていれば、国内に残る皇族、貴族達はすぐにまとまるだろうが、あんな宣言をしたのでは台無しだ。
自分が一番手柄を、という意識が先行して、連携など崩れ去るのが落ちだよ。
だが、その結果を踏まえたうえで、父上が何か企んでいると考えるべきだろう」
不本意ながら、ルルーシュはシュナイゼルと同意見だった。
(あの男・・・何を考えている?宮廷の様子を、スパイ達に報告させるしかないな)
ペンドラゴンにフレイヤを向けられていた時は、潜入させていたスパイを地方に避難させたが、それでも数人は逃げずに留まってくれている。
宮廷貴族にもこちらに寝返った者もいるようなので、ある程度は解るだろう。
と、そこへ映像の中のシャルルが声高に叫んだ。
「ゼロよ、見ておるか!!」
「!!」
突然自分に向けて発言したことに、ルルーシュは仮面の中で目を見開く。
アルフォンスも、罵声をやめた。
「世界を一つにまとめることこそ、わしが長年目指してきた悲願!
お前がそれを否定すると言うのなら、我らに勝ってみせよ!!」
まだ言ってるよ、とアルフォンスは呆れていたが、ルルーシュは黙って聞いている。
シャルルは大きく腕を突き上げ、そしていつもの主張を繰り返した。
「我がブリタニアは弱肉強食、強者こそが正義である!
敗者はただ、黙って従えばよいのだ!
オールハイル・ブリタニア!!」
「オールハイル・ブリタニア!オールハイル・ブリタニア!!」
皇族・貴族達がそれに呼応し、やがて映像は途切れた。
「・・・父上は、無理してでも捕まえておくべきだったよ、ゼロ。
もうあの人は、好きにしてくれ」
大混乱の極みにあったペンドラゴンで雲隠れをしていたくせに、よくもしゃあしゃあと顔を出せて勝手なことを言う、とオデュッセウスの顔には怒りが滲んでいる。
「ありがたい申し出です。こちらで適正に扱わせて頂きましょう。
ではお二人とも、そろそろ日本へ送還させて頂きます。ブリタニアのことは、我々にお任せを。悪いようにはいたしません」
「・・・そうか、そうだね。よろしく頼む」
オデュッセウスは一度深く頭を下げると、大きくため息をついて再びタラップを上がっていく。
シュナイゼルは、シャルルが生きていた場合のことは、ある程度予想していた。
だが何の利益ももたらさない、予想外の宣言をしたことに驚いていた。
ギアス絡みで父の計画に関して知っているだろうルルーシュに、いったい何が起こったのかと尋ねようかと思った。
(・・・いけないな、これは欲だ。敗者たる私が、これ以上を知る権利も、何かをする権利もない。
それにルルーシュ達は、これ以上私にひとかけらの情報も、行動の自由も与えまいとするだろうよ。意味がないことだ)
知りたいと言う欲求すら自分で封印したシュナイゼルは、マントを翻して基地へ戻っていくルルーシュに背を向け、異母兄の後に続いたのだった。
「あのバカ親父、まだ生きていたんですか。
とっととリフレインの一気飲みでもすれば、苦しまずに済んだものを」
アドリスはテレビを見ながらそう吐き捨てると、不利にしか働かない宣言をしたシャルルを怪訝に思った。
だがふとある仮説を思いつき、眉をひそめたが、すぐにそれを自身で打ち消す。
「・・・まさか、ね。今さらそんなつもりになっても、意味がない」
バカなことを思いついた、とアドリスが自嘲した時、また軽くせき込んだ。
慌てて手に口を当てるが、今回は血はない。
アドリスはほっとしたが、ここ最近吐血する量が徐々に増えているのは紛れもない事実だった。
自身の腕に刺さる点滴針からは、輸血の血が少しずつ体内に入っている。
アドリスはそれを視界にちらりと治めると、目を閉じて眠りについた。