挿話 交わる絆 ~交流のアッシュフォード~
ギアス嚮団の事件が全世界に報道された一カ月後、アッシュフォード学園では嚮団被害者救済のための基金に寄付を行うべく、バザーが開催された。
バザーと言っても学園祭のように屋台が立ち並び、文化交流で花魁道中を行うなど、派手な催しも行われる。
バザー当日、桐原の余計な善意により休日になったルルーシュは、ナナリーとロロを連れて学園にやって来た。
混んでからではゆっくり楽しめないので、開催時間前に来た。
このチャリティーバザーには黒の騎士団も参加しており、玉城が中心になっていくつかの店が開かれている。
さらにEUや超合集国連合の国々からも、民族料理の屋台が出ていた。
「マグヌスファミリアの方々が作った手作りのケープや、食器などを扱ったお店も出るんですよね、お兄様」
「ああ、EUが出している店だ。エヴァンセリン王女が売り子を務めている。
わずかだがコミニュティに言って、特別に作って貰ったそうだ。
あそこは自給自足が基本だから、たいていの生活用品は作れるからな」
「王族が売り子・・・何か買うのに気後れしそう」
ロロが驚くと、マグヌスファミリアは特殊な王家だから、とルルーシュは苦笑した。
と、そこへ大量の機材を抱えたマスコミが門の前で何やら熱心に話しており、数人の学生が取材を受けているのが見えた。
「あ、お兄様、マスコミの方がたくさんおられますわ」
「こういうのをアピールするのも、平和には大事なことだからな。EUや超合集国加盟国からも来ている。
お前達にはすまないが、万が一にも俺達がブリタニア皇族とバレないよう、取材を受けても拒否してくれ」
「解りました」
いずれバレるかもしれない己の素性だが、戦争中に露見するのはまずいという兄の説明にナナリーとロロは納得し、アッシュフォード学園中等部の制服を着ている。
中等部の学生には取材をしないよう、通達してあるからだ。
マスコミの間を目立たぬようにすり抜けた兄妹は、久方ぶりの母校を感慨深げに見渡した。
「そうだ兄さん、アルフォンスさんから伝言。夕方からエドワーディンさんがクライスさんと一緒に来るから、よろしくって」
「夕方から・・・ああ、エドワーディン王女は夜しか出歩けないのだったな。
いくらコードで元に戻るとはいえ、何の弾みでバレるか解らない以上、それがいい」
エドワーディンはコードにより、紫外線による皮膚の損傷を受けてもすぐに戻る。
だがそれを民衆の目に触れてしまうわけにはいかないので、まだ病気が治っていない以上、昼に外を出歩けないのだ。
「アルフォンスさんは午前中は兄さんの身代わりでゼロとして研究施設の視察して、それが終わったら来る予定みたい。
それから午後からのゼロは外に出る予定はないけど、何かあったら連絡するから携帯が繋がるところにいるようにって」
前日アルフォンス本人から釘を刺されたルルーシュだが、ロロに言ってまで念を押すとはあまり信用されていないようだと、ルルーシュは遠い目をした。
エトランジュと言う万能連絡係がいるといえど、何が原因が使用不可能になるか解らないのだから、当然ではあるのだが。
三人が生徒会のクラブハウスに到着すると、ミレイがハイテンションで出迎えた。
「おはよう!三人ともおひさしぶり!さ、入って入って!
シャーリーとリヴァルは、今会場の調整に出たの。もうすぐ戻って来ると思うわ」
「おはようございます会長。貴女が企画しただけあって、大変盛り上がりそうですよ」
「ルルちゃんにそう言って貰えると、安心するわ。
エトランジュ様からも参加の申し込みがあった時は、驚いたけど嬉しかったもの」
ミレイが嬉しそうに言うと、大きなボストンバッグを机に置いた。
「これ、アルフォンスさんから預かった変装用具。
マスコミがたくさん来てるから、カツラとカラーコンタクトだけでもいいからやっておいてって送ってくれたの」
荷物になるから学園のほうに送ってくれたというかゆい所に手が届くアルフォンスの手回しに、ルルーシュは後で礼を言っておくかとバッグの中身を見た。
「ひと揃いだけでいいのに、化粧道具まであるな。そこまでする必要あるのか?」
「あー、ナナちゃんやロロ向けのもあるんじゃない?
ロロはともかく、ナナちゃんはやっといたほうがいいだろうし」
ルルーシュは有名なマリアンヌに似すぎている容姿だが、ナナリーは可愛らしいがブリタニア皇族の誰かに酷似してはいない。
皇族だった頃の写真も世に出ていないので、その必要はないかと思ったがナナリーは目を輝かせた。
「お兄様、私もお化粧してみたいです」
「お前は可愛いから、まだその必要はないが・・・興味を持つ年頃ということか。
会長、ナナリーを頼んでいいですか?」
「オッケー、任せて!じゃあナナちゃんの部屋に行きましょうか」
ミレイがナナリーを連れてナナリーの部屋に行くと、ルルーシュは適当に茶色のカツラと青色のカラーコンタクトをはめて変装した。
兄を見ているうちに自分もしてみたくなったのか、ロロが言った。
「僕もやってみたい、いいかな?」
「ああ、いいぞ。好きなのを選べ」
多めに用意されたのはこのためかな、とルルーシュが気が効くアルフォンスに感謝していると、ロロがどれにしようかと変装グッズを選んでいる。
と、そこへドアが開く音がして、リヴァルとシャーリーが戻って来た。
「今戻りましたー・・・って、来てたのかルルーシュ!早かったな!」
「ああ、さっき来たところだ。おはよう、リヴァル・・・シャーリー」
「お、おはよう、ルル。お仕事大変だって聞いたけど、来てくれて嬉しい」
顔を少し赤らめて挨拶するシャーリーに、ルルーシュが言った。
「今日ぐらいは友人達を助けてやれ、と桐原が休暇をくれたからな。
何事もなければ、今日一日はここにいられる」
「そっか、前みたいな事件が起こらないよう、気を付けなきゃね」
危うく自分達が誘拐されそうになった事件を思い返したシャーリーに、ルルーシュが言った。
「大丈夫だ、そうならないよう、手は打ってある。世界平和をアピールするためにも、このバザーは成功させたいからな」
ルルーシュは頼もしく言いながら、現在マグヌスファミリアのエヴァンセリンが準備している店で、似顔絵描きのバイトをするための準備をしているマオを思い返した。
彼が居るスペースはアッシュフォード学園のほぼ中心よりなので、何か不穏な考えの人間がいれば解るようになっている。
「ありがと、ルル。お店の方は大丈夫、もう準備が終わってたよ。
エトランジュ様の従妹姫の、エヴァンセリン様にも会った」
王族が売り子、と聞いてびくびくしていたが、当の本人は楽しそうに店をセッティングして楽しんでいたし、隣のスペースに挨拶して気軽に声をかけていた。
たわいない会話を久々に楽しんでいると、ミレイがナナリーを連れて戻って来た。
華やかな色遣いだが中学生らしく薄いメイクが、ナナリーをより引き立てている。
「どうですか、お兄様?」
「よく似合っているよ、ナナリー。ありがとうございます会長」
恥ずかしそうに尋ねるナナリーにルルーシュがそう答えると、ナナリーは嬉しそうに微笑んだ。
ロロも兄と同じ色のウィッグとカラーコンタクトをつけて、ご満悦である。
「あ、いいなあロロ、お兄様とお揃いですもの」
「女の子用でこの色のウイッグはないわね。残念だけど諦めるしかないわ」
ミレイに言われて肩を落としたナナリーだが、お化粧が兄に褒められたので気を取り直した。
「残念ですけど仕方ありませんね。あら、どなたかおいでになったようですが」
聴覚の鋭いナナリーがいち早く気配に気づくと、玄関のドアが開いた音がして用務員をしているシャーリーの父・フェネットが、大きな箱を抱えてやって来た。
他にも警備員の男性が一人、彼を手伝っている。
「あ、お父さん!どうしたのその箱」
「失礼、荷物を持っているのでチャイムを押せなかったよ。
シャーリー、以前から聞いていた荷物が届いたから、持って来たんだ」
「よかった、間に合ったのね!あ、そろそろお店が始まる時間だわ。
私達も開催宣言に行かなきゃ。ルルちゃん達はお店を回って楽しんでね!」
何の荷物だろうとルルーシュが不思議がる間もなく、ミレイがそう言うとナナリートロロも嬉しそうに兄を急かした。
「早く行きましょう、お兄様!開催宣言も見たいです」
「ナナリーの言う通りだよ、早く早く!」
溺愛する弟妹に言われては、ルルーシュは苦笑しながら椅子から立ち上がった。
「よし、じゃあ行くか」
「あ、ルルちゃん、帰る前には絶対顔出してね?またいつ会えるか、解んないんだもの、ね?」
「ええ、会長達が落ち着いたら、また来ます。
ナナリー、ロロ、行こうか」
「うん、兄さん。どこから回ろうか?」
「やっぱりまず、マグヌスファミリアのお店がいいです」
わいわいと楽しそうに話しながら生徒会室を出たランペルージ兄妹を見送って、ミレイはにやりと笑みを浮かべた。
「よし、バレなかったみたいね。シャーリー、リヴァル、時間が来たらルルーシュを確保するのよ、いいわね?」
「りょーかいっす、会長!」
敬礼して了解するリヴァルに、ごめんルル、と内心で謝りながらも止めないシャーリー。
ニヤけるミレイはそっと運ばれた箱の中身を見た。
美しい紋様が施された着物だが、やたら長い下駄など、経済特区日本で見た着物とはまた様式が違っている。
「・・・着付けといったかな、それを担当する方は、別室にお連れしています。
しかし、誰が着るんですか?これ、相当重いですよ。会長やシャーリーでは、文字通り荷が重いのではと・・・」
フェネットの困惑げな問いに、ミレイはフフフと悦に入った笑みを浮かべるばかりである。
「女の子にはきついでしょうね。でも・・・だからばっちり似合って、体力ないけど力ならある程度ある人が着るの」
(ごめん、ルル・・・代わりに私、普通の着物着てルルの横に立つから)
誰のことだろうとフェネットは首をかしげながら、会長命令で沈黙を強いられているシャーリーは手を合わせて謝っていた。
「皆様、本日は我がアッシュフォード学園チャリティーバザーにお越し下さって、まことにありがとうございます!
アッシュフォードだけではなく、日本各地の学校や黒の騎士団、超合集国連合、さらにはEUの方々のご協賛を頂くことが出来たことに、感謝いたします。
このバザーの売上はすべて、ギアス嚮団の被害者のための基金に寄付させて頂きます。
それではどうか今日一日、ごゆっくりと楽しみくださいませ!」
ミレイの挨拶が放送で流れると、入場門が開かれて宣伝の効果もあってか一斉に人がアッシュフォード学園になだれ込んだ。
あえてパンフレットなどは作らず、客はいいと思ったものを購入するようになっている。
また、売店のみではなく、射的や金魚すくいなどの遊戯を楽しむ店などもあり、以前のユーフェミアの誕生パーティーとよく似た雰囲気で学園は祭り一色に染め上がる。
「お兄様、あそこですわ咲世子さんの母校のお店!」
「ニンジャ体験の店、だって。何するんだろ?」
わくわくしながらナナリーとロロが校舎内の教室に作れた店を除くと、的に様々な形の手裏剣と呼ばれる武器を投げて、その点数を競うもののようだった。
隣には作法委員会のからくり屋敷と書かれた美術室があり、やたらリアルな首人形が化粧を施されて飾ってある。
サバイバル技術を教えている学生もおり、おにぎりをちょっとしたナイフ代わりにする手段を熱心に語っていた。
「ナイフやダーツとは違うみたいだね。僕やってみたいな」
「中には面白い仕掛けがたくさんあるんですって!暗闇は私得意ですし、行ってみたいです」
「そうかそうか、よし行ってこい」
ルルーシュが小遣いを二人に渡すと、ナナリーとロロは嬉しそうにまず手裏剣を投げに行く。
「二人とも楽しそうだな。やはり来てよかった」
「私にも小遣いをくれ。貰うのを忘れていたんだ」
ふいに背後から響いた声に、ルルーシュはぎょっとして振り向いた。
「C.C!お前また来たのか!」
「またとは失礼だな。バザーの売上に貢献してやろうと思って、時間を割いて来てやったんだ」
「そうか、それはありがたい話だな」
「だが私の生活費はお前持ちだから、小遣いを貰いに来た。
ちょうど北海道の農業学校が、校内で作った肉や野菜と小麦粉で作ったピザを売っているんだ」
窯も自前らしいぞ、とC.Cが窓の外を指したので見てみると、眼鏡をした生真面目そうな男子学生があれこれ動き回り、黒髪の女子学生が馬術部から借りた馬を使って宣伝している。
「北海道の食材は、日本でも有名らしいからな。行列が出来ているが、いいのか?」
「正直疲れるが、うまいピザのためだから仕方ない。一枚だけお前達に譲ってやる」
C.Cにしてみたら破格の報酬なので、だから代金を寄こせと悪びれない。
ルルーシュは大きくため息をつくと、二十枚は買える金をC.Cに手渡した。
「冷めないうちにナナリーとロロに食べさせたいから、早く持ってこい」
「いちいちうるさいやつだな。だが冷めたピザなど言語道断から、そうしてやる」
C.Cはルルーシュから受け取った金を受け取ると、ピザが焼けるいい匂いに引き寄せられるように校舎を出た。
(いろんな学校があるものだな。見ているだけでもわりと面白いが、参加してみようか)
C.Cには珍しく積極的にそう考え、やたらでかくて何だか手がうねっている教師を的にしたナイフ投げや射的をしている店を通りすがった。
女の子の顔をモニターに映したロボットと評すべき物体が、クラスメイトと共に教師を追い回している。
教師と生徒が仲良く店を運営している様子を、羨ましげにアッシュフォードの生徒達が見つめていた。
正午の鐘が鳴った頃、アッシュフォード学園の裏門に一台のワンボックスカーが到着した。
運転席からアルカディアが降りると、車椅子が乗り込める仕様の後部座席のドアを開き、中からアドリスがエトランジュと共に出てきた。
「お父様、大丈夫ですか?」
「ええ、こんな機会はありませんからね。さあ、今日は楽しみましょう」
「はい、お父様!」
嬉しそうな娘の様子にアドリスも相好を崩し、盛り上がっている校舎の方へと三人で足を進めた。
マスコミが気づいて三人に駆け寄ると、アドリスがにこやかに応対した。
「未来を担う学生達による、世界の絆を深める大変素晴らしいイベントです。
ぜひに娘にも見せてやりたいと思いまして」
「マグヌスファミリアもバザーに参加させて頂きました。
平和になったあかつきには、もっと多くの国々で開催して頂ければ嬉しいです」
十五分ほど記者達の質問に答えていた二人だが、頃合いを見計らってアドリスが言った。
「申し訳ありませんが、あと三時間後に戻らなければならないのです。
娘と一緒に店を回りたいので、このあたりで・・・」
「こ、これは失礼いたしました!では我々はこれで・・・」
三時間しかないのか、と記者達はエトランジュ達の多忙さを垣間見たマスコミ達は、まだいろいろ話したかったがそれを聞いていた客達の冷たい視線に刺され、慌てて去っていく。
「さあエディ、どこから回りましょうか?」
「私、お腹がすいたので屋上でやっている喫茶店に行きたいです。
おいしいスコーンやケーキや紅茶があるんだそうです」
ナナリーからの連絡で、いくつかの店の情報を仕入れていたエトランジュに、座って食事が出来るならと三人はまずそこに向かった。
執事付きで通うのが当然のお嬢様学校が協賛している喫茶店で、生徒や生徒に仕えている執事達が給仕をしていた。
見目麗しい男性が女性客をお嬢様と呼んで甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるので、なかなか盛況だ。
ルルーシュに負けず劣らずの美しい男性が集まっているので、若い女性で屋上はいっぱいである。
客さばきが得意な執事達のお陰で、さほど並ばずに席を確保したエトランジュ達は、アフタヌーンセットを注文した。
「叔父さん向けにリゾット作ってくれるってさ。メニューにないサービスを提供するなんて、さすがサービスがこまやかだわ」
アルカディアが感心して屋上を見渡していると、ふと入口からふらふらとアッシュフォードの女生徒が入って来た。
まだ客が並んでいるのだが彼女は列に並ぶことなくまっすぐ執事達をすり抜け、こちらにやって来た。
エトランジュ達が居るので執事達が気を利かせ、エトランジュ達が居るスペースは不自然にならない程度に幕で仕切られていたため、エトランジュ達はいきなりやって来た少女に驚いた。
「あ、あの、どうかされましたか?」
エトランジュが慌てて問いかけると、女生徒は垂れ幕が下げられている壁までやって来るややおら垂れ幕を引っぺがそうとするので、アルカディアが抑えつけた。
「ちょ、何するのいきなり?!」
「どいて・・・毎日この時間に、壁に傷をつけなくちゃ・・・」
「はぁ?意味が解らないんだけど」
「アル、待って下さい。どうやら彼女は、ギアスにかかっているようです」
コード所持者は、ギアスにかかっている人間の目が赤く縁取られているのが見える。
だからアドリスは彼女の目を見てそれに気付き、アルカディアを押しとどめたのだ。
「ギアス?まさか、ブリタニアの・・・!」
驚いたエトランジュが席から立ち上がるも、アドリスは『毎日この時間に壁に傷』を不思議に思い、慎重に垂れ幕の裏をめくってみた。
すると壁には規則正しく無数についた傷があり、おそらくそれは彼女がやったのだろうとアドリスは抑えつけられている女生徒を見た。
「そういえば、ゼロがギアスの実験をしたことがあるって言ってたな」
アルカディアが記憶をまさぐりながら呟き、女生徒を解放すると彼女は持っていた道具で壁に傷をつけ、ふと我に返ったように瞬きした。
「あ、あれ?私どうしてまたここに・・・って、きゃあ!!」
女生徒はいきなり目の前にいた、TVでさんざん見ているEUと超合集国を繋いだ有名人であるエトランジュと、ギアス嚮団の被害者代表であるアドリスを見て仰天する。
「・・・あれ、あれ?私どうして・・・」
「ああ、落ち着いて下さい。貴女はこちらで喫茶店を楽しむつもりだったのでしょうが、少し立ちくらみを起こしていた様子でした。
ちょうど席が一席空いていたので、少し座って休んで貰おうと、娘が言いましてね」
アドリスがとっさにそう嘘をつくと、エトランジュも困惑しながらも幾度も頷く。
女生徒は幕で仕切られたテーブルは確かに四人席で、自分を除けば三人しかいないので何故自分がここに来たか思い出せないが、それ以外については納得した。
「そ、そうでしたか。すみませんご迷惑を・・・」
「いいんですよ。さ、今娘が紅茶を淹れましたから、それを飲んで落ち着いて下さい」
にこにことアドリスが紅茶を勧めると、女生徒は緊張しながらもそれを受け取った。
一方、エトランジュは事の次第をルルーシュに報告していた。
《あの、これこれこういう女性の方がおられたのですが、ギアス解除はまだなさってなかったのですか?》
《・・・すっかり忘れておりました》
エトランジュの報告を聞いて、ルルーシュは己のミスに顔をひきつらせた。
いくら実験のためとはいえ、永続的に効果があることを想定して、もっとましなギアスにするべきだったと今さらに反省する。
《バッカじゃないの?とにかく、このギアスはジェレミア卿に頼んで解除して貰うわよ。
夜にエドがこっちに来るから、それについて来てくるように伝えておいて》
ジェレミアは未だに一人での行動をするのは誤解を招きやすい立場にあるので、ある程度気を使わねばならない。
ルルーシュはそれを了解したので、ここ何カ月もずっと、毎日気付いたらここにいるんです、何か病気なのかもとため息をつく女生徒を皆気の毒に思った。
毎日壁に傷をつけてることも、どうやら悪い噂になったりしたことがあるようだ。
(ったく、あのうっかりバカ・・・!)
アルカディアは舌打ちすると、女生徒に向かって言った。
「毎日屋上に来るのも無理ないわよ。こんなに眺めがいいんだしね。
壁に傷なんて、学生時代はよくあることよ。私だって意味もなくやったもの」
だから貴女だけがやったとは限らないとごまかすアルカディアに、そういうものでしょうかと女生徒はよく解らない様子だ。
「そうそう、だからあんまり気にしないで。さ、友達と合流して、バザーを楽しみましょうね」
懸命にフォローしたアルカディアと共に、エトランジュもアル従姉様もそうおっしゃっているのだからと、それに追従する。
何とか落ち着いた・・・というより、有名人といることに気後れした女生徒が紅茶を飲み終えてすぐに退出したのを見届けて、アルカディアは肩をすくめた。
「・・・さあて、あの子のフォローに向かいますか。
どうするかな・・・」
あの野郎余計な仕事ばかり増やしやがって、とキレ気味のアルカディアに、アドリスが言った。
「エディ、今アッシュフォードにいるメンバー全員に、こういう噂をばらまくように伝えなさい。これだけで後は解決することでしょう」
アドリスが娘にそう提案すると、エトランジュはすぐにそれを実行する。
その日を境に、“誰にも内緒で眺めの良い屋上の壁に祈りを込めた印をつけると、願いが叶う”という、ありがちなおまじないの内容がアッシュフォード学園を席巻した。
事実屋上に意味不明なマークがあったことはそこそこ知られていたので、ああこのおまじないのためかと生徒達は納得した。
女生徒が最近晴れ晴れとした顔をしているし、そのマークをつけなくなったので願いが叶ったのねと友人が尋ねてきたりもした。
だがそのおまじないを真似する生徒が増えたので、屋上の壁が傷だらけになるという事態が発生し、のちに“壁に傷をつけるべからず”という校則が出来るのだが、それはもう少し先の話である。
食事を終えたエトランジュ達は、咲世子の母校等を回ってから、クラブハウスへとやって来た。
ルルーシュは生徒会室で、手裏剣やかんざしなどを買ってご満悦な弟妹を楽しげに見やっていたが、明らかに怒っていると解る笑みで入って来たアルカディアに硬直した。
「ルルーシュさん、このたびは余計な仕事を増やして下さってどうも」
「・・・いや、その申し訳ない」
例の噂をばらまいたり、ジェレミアが来るための準備をしたりと時間を多少なりと取られ、家族団欒の時間を潰しやがってこの野郎、と声なき声が聞こえる。
返す言葉もない、とルルーシュは素直に謝った。
「・・・まあいいわよ、何とかうまく治められたしね。
他に実験体はないでしょうね?」
ないとルルーシュが断言したので、ならいいとアルカディアはルルーシュからミレイに視線を移した。
「アルカディアさん、今日の件ですけど」
「ああ、私夜はちょっと戻らないといけないの。だからぜひ、エドに着せてあげてくれる?あの服」
自分も着たかったけどね、と残念な様子でそういうアルカディアに、そうですかとミレイは頷いた。
何やら二人で企画していたようだとルルーシュはのんきに見ていると、シャーリーがちらちらとこちらを見ているのが、アルカディアには見えた。
(あの様子じゃ、まだ二人で出掛けられてないな。
・・・ま、あのダイヤモンドのような壁が二つもあるんじゃ、難しいか)
アルカディアとしてはエトランジュがクラブハウスで世話になったシャーリーに借りを返そうと、ロロとナナリーに向かって言った。
「ロロ君にナナリーちゃん!ちょっと頼みがあるんだけどいいかしら?」
「何ですか、アルカディア様」
エトランジュからかんざしの説明を受けていたナナリーが問いかけると、小声で言った。
「あのね、お兄さんに内緒で花魁の格好をして貰うって企画があるの。
その花魁を先導する役目をお願いしたいんだけど、いいかしら?」
「まあ、楽しそうです。ぜひやらせて下さい!」
「僕も、兄さんと一緒ならやる」
目をキラキラさせて了承するナナリーに、ロロもそれならと承諾した。
「じゃあまず先に、二人とも着替えて貰おうかしら。ルルーシュのほうはもう少し準備しなきゃだから、それまでどっか出て貰わなきゃね」
アルカディアはそう言うと、ルルーシュとシャーリーに向かって言った。
「ねー、私これからナナリーちゃん達とさっきの忍者の店行ってくるわ。
ルルーシュとシャーリーさん、悪いけどエディとアドリス叔父さん頼んでいいかな?
ミレイさんとリヴァルさんはここで仕事あるって言ってたから、貴女しか頼めないの」
「え、私は構いませんけど、ルルはどうする?」
「解った、お付き合いさせて貰いますよエトランジュ様」
ナナリーとロロが、自分には秘密でまた何かしようとしているのだろう、アルカディアがついてくれるなら大丈夫だと、ルルーシュはあっさり了承した。
こうしてルルーシュとシャーリーが、エトランジュとアドリスと共にクラブハウスを出ると、アルカディアはミレイとリヴァルに向かって目くばせしたので、彼らは瞬時に彼女の意図を悟った。
「ナイスですよアルカディアさん!」
親指を立てて小声で褒めるミレイに、アルカディアはにやりと笑った。
「さあて、後は例の祭りを開催するだけね・・・じかにこの目で見られないのが残念だけど、写真よろしく」
「りょーかいです!」
びしっと敬礼するミレイに、何だか黒いアルカディを見てリヴァルは思った。
(ルルーシュ、お前あの人に何やったんだ・・・?)
絶対何かやっただろ、と的を射た推測をしたリヴァルだが、それを尋ねる勇気がないリヴァルであった。
クラブハウスからしばらく四人で歩いていたが、やがてアドリスがルルーシュとシャーリーに向かって言った。
「もうすぐ私達は戻らなければならないのですが、父娘水入らずで過ごしたいのです。よろしいでしょうか?」
「それは、お気持ちは解りますが、お二人だけで大丈夫ですか?」
ルルーシュが尋ねると、アドリスはにっこりと頷いた。
「あと一時間程度ですし、人が多い場所を歩くので暗殺などの危険はないでしょう。
不審人物もいないと、報告を受けていますしね」
それに実は解らない程度に変装したSPもいるので、そんなに心配はいらないと言うアドリスに、ルルーシュはそれなら大丈夫だろうと判断する。
「では、どうぞお二人でお過ごし下さい。
何かありましたら、ご遠慮なく連絡をお願いします」
「ありがとうござます!
お父様、私馬術部の馬を見たいです。久しぶりに馬に乗りたいんです」
「ああ、それはいいですね。ではお二人とも、失礼しますよ」
楽しげに笑いながら馬術部の乗馬体験コーナーに向かうエトランジュとアドリスを見送って、二人きりになった。
「ど、どこに行こうか、ルル。どこか行きたいお店、ある?」
「行きたい場所は既に回ったから、特にないんだが・・・君は生徒会役員として動いてたから、あまりまだ店を楽しめていないんだろう?」
君が選ぶといい、と言われたシャーリーは、顔を真っ赤にしながらも、興味があった店を口にする。
「えっと、じゃあマグヌスファミリアのお店に行ってみたいわ。
珍しい工芸品とか売ってたの。でも、500個くらいだって言ってたから、もう売り切れてるかもしれないなあ」
マグヌスファミリアとしては自国民の三分の一の量に当たるので、エヴァセリンは作り過ぎかなあと言っていたが、おそらく完売している可能性が高い。
実はルルーシュ達も買おうと思ったのだが、あまりの行列に驚き、あんなに人気なのなら自分達は遠慮しようとナナリーが言ったため、並んでいない。
ルルーシュがシャーリーと一緒にエヴァンセリンの店に行くと、案の定売り切れと書かれた看板がテーブルに置かれていた。
「・・・やっぱり、ね」
「今のマグヌスファミリアの知名度は、高いからな」
「あ、ゼ・・・じゃなくてルルーシュさん!来てくれたんだ」
店の片付けの準備をしていたエヴァンセリンが二人に気付くと、売り上げが入った箱を嬉しそうに掲げて言った。
「バザー開始と同時に長蛇の列が出来て、一時間くらいで売れちゃった。
余るかなーって思ってたんだけど、まさかすぐに売り切れるなんて・・・」
さっきまで行列整理の人もいて大変だった、と語るエヴァンセリンは、自国の品の評判がいいことにとても嬉しそうである。
「今お店を撤収して、空いたスペースを他の人に使って貰おうと思ってるんです」
「そうだな、売り上げた伸び悩んでいる店をここに移すのもいいかもしれない。ここは場所がいいからな」
行列を予想していたので、マグヌスファミリアの店はけっこう条件の良い場所を割り当てられていた。
売る商品がないのだから、そのほうがより利益も上がるのである。
「では、エヴァンセリン王女はどちらに?」
「私は隣でマオさんの似顔絵コーナーと、絵の販売を手伝おうかと思ってます。
綺麗な風景画で、もう何枚も売れてるんですよ」
そう言ってエヴァンセリンが隣の店を指すと、マオが絵と店を区切る幕とに遮られていたので気付かなかったが、マオが絵を描いていた。
以前エトランジュが送った油絵のセットで、何やら絵を描いている。
「積極的に宣伝してないからあまりお客さんはいないんですけど、一生懸命描いてました。
今、このバザーの様子を描いてるんですって」
終わる頃に出来上がればいいのに、とエヴァンセリンも嬉しそうだ。
「あの人、絵描きさんだったんだ。本当だ、綺麗な絵」
シャーリーがゆっくりとマオの店のほうに歩きだすと、会話が聞こえてキャンバスで必死で顔を隠していたマオが、おそるおそる顔を出した。
「あ、あの・・・・」
「こんにちは。この前、手紙ありがとう」
シャーリーは内心以前にされた心理誘導が原因でまだ少し脅えていたのだが、それを隠して挨拶した。
マオも自分のやらかしたことを今ではとても反省しているので、普通に挨拶されてどうすればいいのか解らず戸惑っている。
ちなみにマオはシャーリーがバザーの店の確認をしている時、全てエヴァンセリンに丸投げして逃げていたので、シャーリーはマオがここにいることを知らなかったのである。
「・・・あのときはその、ごめんなさい。僕の絵でよかったら、その、気に行ってくれたの、どうぞ」
つっかえつっかえそう申し出たマオに、マオがとても反省している様子が見え、二度と同じことを本当にしないと確信したシャーリーは、ほっと肩の力が抜けた。
「いいよ、これはチャリティーバザーだから、ちゃんとお金払うわ。
でも、本当に綺麗な絵だなあ・・・どれにしようかな」
元はひどい人間不信のマオは、人物はC.C以外を描かずに風景画が専門である。
中華の風景と、C.Cと住むつもりだったオーストラリアを中心とした風景画は素人目にも美しく、技術の高さが解る。
「この湖の絵もいいし、黄河の絵も素敵。迷っちゃうなあ」
散々迷った末に、シャーリーは黄河の絵を選んだ。
店の撤収作業を終わったエヴァンセリンが、ありがとうございまーすと絵を包んだ。
「まだバザーを楽しむんですよね?じゃあこれ、生徒会室のほうにお届けしますよ」
結構かさばるので、と気を使ったエヴァンセリンの申し出を、シャーリーはありがとうございますと受け取った。
さすがはお気づかいの一族と呼ばれているだけはある。
「・・・マオ君、私もう怒ってないから、ね?
綺麗な絵、ありがとう。大事に生徒会室に飾らせて貰うね」
まだおどおどしている様子にマオにシャーリーがそう言うと、マオは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
ルルーシュがエヴァンセリンに生徒会室への行き方を聞かれているところを見計らって、マオはこっそりと小さめの絵を持ってきた。
「あ、ありがと!あ、、そ、そうだこれ・・・アルがね、これシャーリーが喜ぶだろうって、描いたんだ」
受け取って貰えるかな、とマオが差し出した絵を受けとったシャーリーが袋から絵を取りだすと、そこにはルルーシュが描かれている。
「わ、マオ君!は、恥ずかしいよ!」
嬉しいけど、とわたわたしながら慌ててルルーシュの絵を袋にしまうシャーリーだが、それでもとても嬉しかった。
「でも、嬉しい。ありがとう、大事にするね」
「うん!受け取ってくれてありがと」
何だかシャーリーが大きく声を出したのでルルーシュがシャーリーのほうを見たが、二人が和やかに話しているのを見て、特に問題はなさそうだとルルーシュは安堵する。
「ルルー、次のお店行こう。いつまでもここにいたら、邪魔になっちゃう」
「ああ、そうだな。では絵はリヴァルの方に話を通しておきますので」
ルルーシュがエヴァンセリンにそう言うと、ありがとうございましたーとエヴァンセリンが手を振って見送った。
マオもぎこちない笑みで見送り、シャーリーがありがとうと再度手を振って店を後にする。
「何かマオが手渡していたようだけど」
「う、うん、絵を一枚貰ったの。あの人、根は悪い人じゃなかったんだね」
シャーリーがちらっとマオの店を振り返ると、彼はエヴァンセリンと楽しそうに何やら話しながら、絵を描いている。
心なしか、マオの顔が少し赤かった。
(C.Cって人がどうって言ってたけど・・・別の恋を見つけたって感じだなあ。
そういえばルル、あの人とどうしたんだろ・・・)
余計なことまで思い返したシャーリーは、次はどこに行こうかと尋ねるルルーシュの声を、上の空で聞いていた。
その頃、エトランジュはアドリスと乗馬体験コーナーにいた。
マグヌスファミリアの馬は速さよりも大人しさと扱いやすさを重視して品種改良された小さめの馬なので、大きな馬に乗ってエトランジュは興奮していた。
扱い慣れない馬だし長く乗っていなかったので、カンを取り戻すのに時間はかかったが、それでも久しぶりの乗馬を堪能したエトランジュはご機嫌である。
「とっても楽しかったです!天子様も最近乗馬を習っているっておっしゃってましたから、中華にまた行く機会があったら御一緒させて貰っても大丈夫でしょうか?」
「ああ、それはいいですね。やはり慣れた人間からアドバイスを貰う方が、上達は早いものです」
疲れたのでベンチに座って談笑していると、ちょうどクレープの屋台が目に入った。
「もうそろそろ帰る時間ですね、お父様。
私、あそこでクレープを買ってきていいですか?」
「それはいいですけど、まだ食べるのですか?」
喫茶店でも食べた娘にしては多い食事量だとアドリスが少し驚くが、エトランジュは首を横に振った。
「いえ、ユーフェミア皇帝とスザクさんへのお土産です。クレープがお好きだって、ユーフェミア皇帝から聞いたことがありましたから。
あの方達は、今回は来れませんでしたものね」
神楽耶と天子は時間差でこちらに来る予定だが、ユーフェミアとスザクは自分の家族がしでかした行為を償うためのバザーに出ることに暗い顔をしていたので、せめてお土産をと思ったようだ。
「そうですか、それはいいことです。ユーフェミア皇帝も何かと気苦労が絶えませんからね・・・。
口さがない連中が、いろいろとうっとおしいのが悪いのですが」
エトランジュが頷いてクレープを買いに行くと、その様子を見ていた日用品が入った袋を持っている男女の二人連れが、そそくさとその場を歩き去る。
しばらく歩いて周囲に人気のないことを確かめると、女性のほうが大きくため息をはいた。
「エトランジュ女王がいたから、ユフィもいるかと思っていたが・・・やはりいろいろと苦労しているな」
幸いなことに何かとエトランジュがユーフェミアに気遣いを見せてくれているようだが、あの妹にはさぞかしそれも悪いと思っているのだろうと、コーネリア・・・・今はフラームと名乗っている・・・は心苦しい限りであった。
ギアス嚮団のニュースでエトランジュの父親が救出されたと聞いて安堵した一方、己がマグヌスファミリアに攻め行ったときに投げつけられた彼の苛烈な一言があったので、妹が辛く当られていないだろうかと不安だった。
テレビなどで見る限りでは、アドリスはコーネリアに対する批判はしていたが、妹には同情的で好意的だった。
ここでじかに見る限りでも、ユーフェミアが好きなイチゴ入りはどうかと勧めていた。
「戦争さえなければ、もう少し私が穏便に事を進める努力をしていたら、ユフィもエトランジュ女王とまともな友誼を築けていただろうにな」
おそらく互い互いに遠慮のある付き合いになってしまっているのだろうと、コーネリアは申し訳なさでいっぱいであった。
もっと違う出会い方をしていたら、きっといい友人になれたはずなのに。
ギアス嚮団の件はコーネリアとしても実験体としてジェレミアを送っていたこともあり、彼が被害者として現れた映像を見たコーネリアは、過去の己を斬り伏せたい衝動に駆られた。
ルルーシュがどうやら彼を引き受けたようだが、あの末弟に迷惑をかけどおしで冗談でなく死にたくなる。
それでもルルーシュが助けてくれた命を粗末に出来ず、また自分について来てくれた忠臣に報いるために、こうして彼女は日本の片隅で生きていた。
「フラーム、そう今自分を責めても・・・今は我らで出来る限りのことをしましょう」
「そうだな、リッター・・・そろそろ夕方になるし、必要な日用品も思っていたより安く揃えられたからな」
捕虜交換でブリタニア本国に戻るブリタニア人が置いて行った荷物が大量にあったことから、それも販売に出されたため、服や生活用品などがかなり多く売られていた。
二人暮らすにもやっとの状況の中なかなか買えずにいたが、お陰でおおまかな必需品は揃ったと二人は安堵する。
「花魁祭りが楽しみだな。あの子が花魁として出ると、生徒会長が言っていたが」
「ブリタニア大陸に進攻の予定が迫っていますから、難しいかもしれませんよ」
現にエトランジュとアドリスが、時間差で次は神楽耶と天子が来ると言っていたのが聞こえたので、本当に上層部は多忙なのだろう。
「そうだな・・・うん?」
ふと見ると、生徒会のメンバーで、ギアス嚮団被害者への募金支援を呼び掛けていたアッシュフォード生徒会の少女が、見慣れた少年・・・ルルーシュと手を繋いで歩いているのが視界に見えた。
「フラーム・・・」
「・・・行こう、リッター。あの子に迷惑をかけられない」
残念そうに、だが元気そうな様子のルルーシュを見て嬉しそうな顔をしたコーネリアがギルフォードを促すと、二人は楽しそうに話しているルルーシュから顔を隠すようにしてその場を歩き去った。
(あの子もガールフレンドと出かける年頃か。
だが、ユフィが残念がるだろうな・・・いや、あの枢木とうまくやれているのなら、祝福するかな)
かつてナナリーと『どちらをお嫁さんにするの?!』とルルーシュに迫ったユーフェミアを思い出して、コーネリアはくすくすと笑った。
高く昇っていた太陽が沈み、夕焼けが赤く空を染めた頃、今度はエドワーディンがクライスと共にアッシュフォード学園にやって来た。
七時まで開催予定なので、二時間程度ではあるのだが生まれて初めて目にする祭り(正確にはバザーだが)に、エドワーディンは興奮している。
「凄い凄い!人があんなにたくさん!」
ずっと地下暮らしだったエドワーディンは目にするものすべてが新鮮で、忍者体験や乗馬、射的などに目を輝かせてかたっぱしから挑戦する。
一通り回ったところで、エドワーディンが花魁祭りで着物を着るためにクライスとクラブハウスに行くと、そこには椅子に縛り付けられたルルーシュが拉致した本人に抗議していた。
「だから、何で俺が花魁なんです?エドワーディン王女がすればいいじゃないですか」
「だってアルフォンスさんがさあ、お姉さんはまだ病弱だから重い着物は難しいって言ったんだもん。
このバザーの売り上げは全て、ギアス嚮団被害者への救済基金に寄付されるわ。
人が集まればそれだけ売り上げが伸びるんだから、集客力を高めるために目を引くイベントは必須だと思うの」
「会長の言う通りとは思いますが、俺が花魁の格好をしなくてはならないのが解らないんですが」
シャーリーと楽しく店を回っていたところで、ミレイ率いる生徒会にどこぞの宇宙人のように拉致されたルルーシュは、生徒会室に運ばれて椅子に縛り付けられている。
弟がすっごい楽しいイベントがあると邪悪な笑みで言っていたので、何やら一つ噛んでいるのだろう。
「あ、貴女がミレイさん?私エドワーディンです」
「え・・・アルカディアさんじゃなくて?!うわー、そっくり!」
リヴァルに案内されてやって来たエドワーディンを見て、ミレイは身長が少し小さくなって肌の色がこれまた少し白いだけのアルカディアのようで、驚嘆の声を上げた。
テレビで何度か見たものの、こうして間近に見てさえも本当によく似ている。
「二卵性の双子で、しかも男女でここまでそっくりなのも珍しいですよね」
シャーリーの言葉にクライスが説明したところによると、マグヌスファミリアでも双子は珍しいらしく、百年に一度生まれるかどうか、というくらいらしい。
「あいつらの場合は、意図的に互いに合わせてたんだけどな・・・主にアルが」
エドワーディンが病気で外に出られなくなってから、アルフォンスは女の服装を進んで着るようになった。
姉と同じ振舞いをすることで、彼女が外で普通に生きられているという体験を錯覚でもいいから味わって貰いたかったからである。
イタリアに留学していた時も、エドワーディンのギアスで彼女が中にいることもあり、姉へのプレゼントと言う名目で割と女装をしていたりする。
友人達も表向きの事情は知っていたし似合っていたので、悪ノリして付き合ってくれたものだ。
「花魁の着物は重いから無理だけど、軽めの着物を着せてくれるって・・・ありがとう」
「いえいえ、アルカディアさんにはとてもお世話になってますし、着物も桐原首相からお借り出来たものですから!」
「桐原・・・・!!」
どうやって渡りをつけたんだ、いつの間にそんな根回しを、そして桐原もこの悪ふざけにいったいなぜ、とルルーシュは内心で頭を抱えた。
ちなみにどうやってミレイが桐原と話をつけたかというと、まず玉城と花魁道中をする話で盛り上がったはいいが、着物が特殊だからその辺が困る、と玉城が唸った。
玉城はそこらの日本人より人脈の高いエトランジュに相談し、エトランジュは着物には詳しくないので神楽耶に相談して、そこから桐原に話が行くと言う伝言ゲームが発生。
扇とヴィレッタが原因でアッシュフォード学園に多大な迷惑をかけてしまったこともあり、桐原が手配したという次第である。
まあルルーシュもたまには友人と羽目を外すのもいいだろうという、おじいちゃん心も大いに加味されている。
「花魁道中って、相当綺麗で頭がいい女性じゃないと出来なかったんですってね~。うん、ルルちゃんにぴったり」
「俺は男です会長・・・」
「着物、私一度着てみたかったのよ!アルもぜひ着てみたらって言ってくれてね、写真撮ってみせてくれって・・・今日はどうしても外せない会議があるから、帰っちゃったし」
ルルーシュは力なく抗議したが、エドワーディンが美しい柄の着物を見て大喜びしており、もはや逃げ切れないことを悟った。
今この花魁道中を潰せば、エドワーディンの楽しみを消しやがってとクライスがキレ、アルカディアも仕事を山と回す嫌がらせ以上のことをしかねない。
(ただでさえアルカディアには借りが山積しているからな・・・少しくらいは返さないと、後々が怖い)
と、そこへルルーシュの携帯が鳴った。
リヴァルが携帯をルルーシュの懐から引っ張り出すと、履歴はエドワード・・・アルカディアの偽名だった。
「メールだな。ほいっと」
重要なメールじゃないよ、と件名に書かれてあったのでリヴァルが携帯を操作してメール本文をルルーシュに見せると、そこには『私の大事な家族のエドが楽しみにしてるの、大丈夫あんたの仕事があっても何とか私が対処するから(はぁと)』と書かれてある。
さらに『PS・忠義の人からあんたのミスで傷がついた壁は直したって報告が来た。私も手伝ったけど、大変だった。借り返せ(`Д´)』。
アッシュフォード学園内で壁に傷を付けるように命じた女生徒のギアスを解除するため、ジェレミアを呼んだはいいが、彼はどうしても目立ってしまう。
何故ここにあの有名なオレンジことジェレミアが?と邪推されるのも面倒なので、アルカディアがあれこれ動いて秘密裏に事を処理してくれたのだろう。
逃げれば絶対、地味に怖い嫌がらせが続くことだろう。アルカディアは貸しも借りも、きっちり返すタイプなのだ。
「・・・もう好きにして下さい」
とうとう白旗を上げたルルーシュに、ミレイはガッツポーズをした。
「よーっし、メイクさんと着つけの人を呼んで!
花魁道中まで時間がないわ!いくわよー!!」
盛り上がる生徒会室の中、椅子に縛り付けられたままのルルーシュは遠い目でうなだれた。
花魁の衣装は元来はかなり重いのだが、工夫をして今はある程度の軽量化が出来ている。
それでも普通の着物よりは重く、カツラをつけられ無駄に高い下駄を履かされたルルーシュは既に疲れ切った顔である。
「ルルちゃん、せっかく綺麗にお化粧して貰ったんだから、そんな顔しないの!」
「おお、エキゾチックでいいねえ~。よーっし、こっち向いてくれ今携帯で撮ってアルに送るから」
「会長・・・本当に私がこいつの先導をしなきゃならないんですか?」
渋い顔でそう行ったのは、男衆の役目をすることになったカレンである。
彼女も午後から休暇を与えられ、父とともにやって来たのだがクラブハウスに顔を出した瞬間にミレイに連行され、問答無用で着替えさせられたのである。
厳しい顔で注意するミレイの横で、パシャパシャと携帯のカメラで遠慮なしにルルーシュを激写する彼の言葉通り、今のルルーシュがまさに凄艶と形容できる美女になっていた。
「白人なのに、東洋の衣装がマッチしてるわね。違和感がない・・・」
エドワーディンが感心することしきりで、黒を基調として金糸銀糸を織り込み、華やかな衣装を着たルルーシュはれっきとした白人であるにも関わらず、彼のために誂えたかのように似合っている。
赤い打ち掛けにもひときわ豪奢な花の模様が施され、夜でもはっきり輝いていた。
「わあ、兄さん凄い綺麗だね!」
「本当ですね。私とロロがカムロっていう付き添いの子供役で出るんですけど、私達なんてかすんじゃいそうです」
「俺としては、むしろかすみたいと思っているよ、ナナリー・・・」
別室で着替えていたロロとナナリーが、兄を誇らしげに見ながら小走りでやって来た。
ナナリーは緋色を基調として牡丹をあしらった可愛らしい着物で、ロロは男衆の黒と黄色を基調とした浴衣に似た着物を着ていた。
さすがにロロに女装させるほど、ミレイも鬼ではなかったようだ。
「さてと、ミスター玉城から準備万端って連絡があったから、そろそろ行くわよ!」
歩きにくいことこの上ない衣装に四苦八苦しながらも、ルルーシュは先導役のカレンの肩をつかみ、牛の歩みでついていく。
ルルーシュに肩を掴まれて真っ赤になったカレンに、ルルーシュは申し訳なさげに謝った。
「すまないなカレン・・・これは本当に歩きにくいから、支えがなければ確実に転ぶ」
「でしょうね・・・ルルーシュ、今回ばかりはあんたに同情するわ」
初心者にこれはきつい、とカレンは大きくため息をつき、おとなしくルルーシュに歩みに合わせて足を進めるのだった。
学園内の通りを歩くだけの簡単なショーだが、噂を聞きつけて既に道は人であふれている。
ゴールには神楽耶と天子がいるそうで、二人は楽しそうに笑い合いながら花魁の到着を心待ちにしていた。
「今、ミレイ会長から花魁道中を始めたって連絡がありましたよ神楽耶様。
けっこうゆっくり歩いてるみたいなんで、ここまで来るのに一時間くらいかかるらしいっす」
「あの衣装では当然ですわね。ある程度は軽量化してあるとはいえ、動きにくいデザインですもの」
玉城の報告に自分だってすたすた歩くのは難しいと言う神楽耶に、天子はどんな着物だろうと興味津々である。
「どうしてそんな歩きにくい着物が出来たの?」
「さあ、わたくしもそれは存じません。十二単も動きにくくて重いですから、同じように華やかさを重視した結果かもしれませんわね」
なるほどと天子は納得し、初めての祭りで手に入れたお面を頭につけ、わたあめを食べて花魁の到着を楽しみにしている。
ちなみに天子の花魁とは何をする人かと言う質問に対し、今で言う有名な芸能人のような存在だと、あながち嘘ではない説明が行われた。
そして待つこと一時間が経過すると、笛の音と和太鼓の音とともに、周囲のざわめきが聞こえてきた。
そして道の真ん中を赤い提灯を持った少年と少女が先導し、カレンの肩につかまって高い下駄に内心苛立ちながらも優雅な所作で、ルルーシュがやって来た。
「ブリタニア人が着ても似合わんだろって思ったけど、これは予想外だな南」
「ああ、でもあの花魁も綺麗だけど、ナナリーちゃんも似合ってて可愛いよなー」
たこ焼きを食べながら花魁道中を見ていた杉山と南は、長い付き合いであるカレンよりも、美しすぎる花魁と基地で頑張る双子のほうに注目している。
「うわあ、とっても綺麗な人!」
思わず感嘆の声を上げる天子に、護衛で付いてきた星刻も彼がゼロであることを知っていたため、彼の素顔に大きく目を見開いた。
(写真を一度見たが、驚いたな。
分厚い着物で体格が解らなくなっているせいもあるが、本当は女だと言われてもこれは納得するぞ)
物資を調達する際、見事な交渉術で支出を下げ、ポイントカードなどの発行などを行っていたゼロは、実は女ではないかという疑惑が出たことがある。
彼の素顔を見れば、その疑惑は確定レベルまで上がることは間違いあるまい。
神楽耶は女装しているにも関わらず、皆の注目を集めている想い人をうっとりと見つめて玉城が撮っている写真を後で渡すように命じている。
ブリタニア人が花魁の役をする、と聞いてただのお笑いかと思ったりした日本人だが、妙にハマっているルルーシュの花魁姿に皆驚き、あちこちでフラッシュが炸裂している。
テレビ関係者も数が少なくなってはいたが、まだ残っていたのでテレビでこれは美しい花魁だとレポーターが興奮して実況していた。
神楽耶と天子からの言葉を受け取った後、ルルーシュは疲労困憊と全身に描きながら椅子に座っており、横でロロが扇子で兄に風を送っている。
「大丈夫?大変だったもんね兄さん」
「ああ・・・ありがとうロロ」
「お疲れ様、ルル。はい、ジュース持って来たよ。ロロもどうぞ」
シャーリーがジュースを二本持ってくると、ルルーシュとロロにそれぞれ手渡した。
「ストローも持ってきたから、使ってね。こぼしたら大変」
「そうだな、助かったよシャーリー。はぁ・・・」
大きくため息をつくルルーシュに、本当に大変だったね、とシャーリーも苦笑する。
「俺は着替えたらすぐに戻って、寝るぞ。明日も仕事があるんだからな」
「あ、うん。アルフォンスさんからクライスさんの車で帰って来いって伝言があったよ」
半ば脅すように花魁祭りに参加させたアルフォンスだが、一応のフォローは忘れない。
「大成功よ、ルルちゃん!
いやあ、さっきから あの花魁は誰だって質問が多かったけど、謎の美女ですって言って情報を流さなかったら、それがミステリアスな雰囲気を倍増させちゃって」
ミレイが男女逆転祭りとは堂々と言っていないため、一部の人間しか花魁の性別は知らされていないようだ。
ルルーシュは是非に公表してほしかったが、それをするとマリアンヌ似の美女が本当は男だと知れると自分の生存に気付かれる恐れがあると思い、沈黙を守るしか道はなかった。
「やっぱサプライズは楽しいわ~。みんな楽しんでくれたみたいだし、売り上げも予想よりずっと多かったもの。
・・・こんな時間が、いつまでも続けばいいのに」
もうすぐルルーシュ達は、母国に攻め入るために日本を発つ。
なるべく犠牲を減らすため、ブリタニア人に無駄な気が居を加えないようにする必要から、エトランジュも進軍に同行すると言う。
ミレイは解っていた。
これがこの学校で行える、最後のモラトリアムだということが。
シャーリーとリヴァルはまだこの学園にいるけれど、勉強や情勢合わせた国是意識改革のために動くことから、以前のように楽しい祭りは頻繁には開けないだろう。
「戦争が終わったら、また出来ますよ会長。
学校でなくても、会長なら別の形でまた開催出来ます」
「ありがと、ルルちゃん。もちろん私だってそのつもり」
既に卒業が決まり、今玉城を通じて黒の騎士団の入団試験を申し込んでいるミレイは楽しそうに笑った。
と、そこへまだ着替えていないエドワーディンが、クライスと主に壇上へと上がった。
リヴァルもマイクを持ってセットし、彼女が使いやすそうにセットしている。
「あれ、また何かやるんですか会長?」
「いいえ、聞いてないわ。何事かしら」
ざわめきながらリヴァルに説明を求めようとミレイが走り寄ろうとすると、エドワーディンが笑顔でマイクで言った。
「皆様、急に壇上に上がりましたことをお許し下さい。
まず最初に、本日のアッシュフォード学園生徒会会長、ミレイ・アッシュフォード嬢の発案であるチャリティーバザーに参加させて頂けたことに、感謝の言葉を言わせて下さい。
本当に楽しいバザーでした。心より楽しませて頂きました」
「そ、そんな・・・私は、その・・・」
そのとおりだ、ありがとう、と一斉に周囲から拍手が起こり、ミレイはらしくなく顔を赤くする。
「今、世界は混乱に満ちています。
その中でも他者を助け、わずかなりと協力する方々の力の強さを見る事が出来、私は外の世界の素晴らしさを知りました。
そしてそれは今はこの日本だけではなく、世界もまたそれに続こうとしています」
え、とミレイが顔を上げると、いつの間にか用意されていた二つの大きなモニターに、大きな学校らしき映像が移されている。
「右のモニターはイギリスにある全寮制の学園で、左は弟・アルフォンスが通うイタリアの大学です。
時差があるのであちらは今昼ですが、今先ほど、イギリスで戦災被害者のためのチャリティーバザが開催され、イタリアは戦災孤児のためのチャリティーバザーの準備を行っています」
「・・・まさか・・・そんな」
ミレイが絶句するのも無理はない。
ミレイ・アッシュフォードに続きます、とコメントする発案者に、よいアイデアを提供して頂けて感謝すると言われたからだ。
「私は地下に閉じ込められている間、人は争わずにいられないのか、と何度も思いました。
でも、そうではないんです。皆さん、どうか今一度ご覧下さい。
見知らぬ人間のために何か力になれないかと、こうして今団結して動いている方々が居るのです。
それはイギリスやイタリアだけではありません。他の国々でも、準備が出来次第行いたいと言う声が、既にエトランジュに届いているそうです」
自分の案が世界で実施され始めたと聞いて、ミレイは涙ぐんだ。
「世界は美しくなんてない。でも、だからこそ美しいという言葉の意味を、私は今理解しました。
ミレイさんには本当に感謝しています。
本当は前からバザーの件は聞いていたんですけど、驚かせたくて・・・ささやかですが、これが私からのサプライズプレゼントです」
「エドワーディン様・・・ありがとうございます。
私・・・とっても嬉しい・・・!」
ポロポロと嬉し涙を流すミレイに、玉城も涙腺が崩壊した。
他の参加者達もうんうんと頷き、いいぞー!と拍手が鳴り響く。
「戦争が終われば、また楽しい企画を立てて下さい。
ぜひ、参加させて頂きたいと思います」
「はい、絶対にまたやります!楽しみにして下さいね!」
力強く約束するミレイに、ひときわ大きな拍手が鳴り響く。
こうしてアッシュフォード学園主催のチャリティーバザーは、大成功の中で幕を閉じた。
世界には、負の連鎖がある。
他者に痛みを受けた人間が、それをまた別の人間に与える。
悲しいことに、人はそれほど強くないからだ。
けれど、同時に自分に出来る事を精いっぱいに行い、他者の痛みを消そうする人間もまた存在する。
全ては救えないけれど、わずかなら助ける事ならば出来るからだ。
そして差し伸べられた手が多ければ多いほど、次は自分が助けようとする人間もそれだけ多くなるだろう。
だから自分が出来る事から始めよう。
悪いことは真似すべきではないけれど、いいことは真似をしてもいいはずだ。
今中華も復興途中だが、バザーを開くくらいなら出来るかもしれない。
そう考えた天子は拙いながらも計画を立て、数日後に官僚達にそう提案する。
後に中華ではリサイクル産業および市場が発展することになるのだが、それは今はまだ未来の話である。
後日談
「・・・なんだ、これは」
「ふふ、私テレビでしかルルーシュの花魁道中見れなかったからって、アルフォンス様から貰ったの。私もじかで見たかったわ、残念」
ユーフェミアが休憩時間にパソコンで見ていた映像に、ルルーシュは唸り声をあげた。
「ルルーシュ、男女逆転祭の時のドレスも似合ってたけど、これも抜群に似合ってるなあ。
動画サイトでもランキングに上がってて、この美女は誰だって論争になってたよ」
もしかしたらゼロかも、って見事に正解な推理もあってさあ、と天然に笑う親友を、ルルーシュは八つ当たりで睨みつける。
カオス大好きディートハルトはブリタニア進攻のために仕事が山積していたので、あの場にはいなかった。
それが事実なら仕事なんぞ放り出して何が何でも出たと、周囲に語る彼の姿があったりする。
「俺は二度とやらないからな!」
「でも、『この美女が来るなら俺は全財産を寄付する!』ってコメントもあったよ。
『戦争には金がかかるし、復興もそうだから、無駄に金持ってる奴から巻き上げるのが一番手っ取り早い。だから頑張って貰おう』ってアルフォンスさんが・・・・」
「あの方も自分も付き合って花魁をするっておっしゃっていたわ。
今度は一人じゃないんですもの、頑張ってね」
天然主従の異母妹と親友の無邪気な声援を受けて、ルルーシュは撃沈した。