※先週は更新できず、今週も遅れてしまい申し訳ありませんでした。
先々週から左腕に炎症が起こり、ある程度マシになりましたがまだ少し辛い状況にあります。
しばらくすれば治るとのことですが、完治するまで小説の更新速度が遅れると思います。
佳境に入ったところで楽しみにして下さっている読者の皆様方には申し訳ありませんが、なるべく早めの更新を心がけたいと思いますのでお待ち頂ければ幸いです。
ご心配をおかけして、誠に申し訳ありませんでした。
では短めになってしまいましたが、物語をお楽しみくださいませ。
第三十九話 変わりゆくもの
ギアス嚮団の捜査から数ヶ月が経過した。
季節は陽気な春になっていたが、ブリタニア進攻の準備に加え、大規模な戦争こそないが世界のあちらこちらでブリタニア植民地エリアで反乱が起きたのでその援護を行ったりシュナイゼルのダモクレス計画を阻止するために動いたりと、黒の騎士団は忙しい。
そんなある日、紅蓮とランスロットの改造が終わったという報告を受けたルルーシュは、これで第二次日本防衛戦で黒の騎士団が受けた被害を埋め、ブリタニア進攻が可能になったとニヤリと笑みを浮かべた。
「斑鳩も完成したしな。これで新たな移動基地のもと、ブリタニアに進攻出来る」
「超合集国連合に報告して、裁可を下して貰うとしよう。
だが、向こうも軍備を整え直しているだろうから、油断は出来んな。
ダモクレスの要塞とやらがブリタニアへ移送されたらしいという報告がある」
星刻がダモクレスについて苦々しげな声で語ると、ルルーシュも仮面の下で眉をひそめた。
カンボジアで研究開発されていたという巨大空中要塞ダモクレスがつい先月、トロモ機関からブリタニアへ移送しているようだとの報を受けた黒の騎士団は、何とか破壊出来ないものかと考え、超合集国連合加盟国やその同盟国に黒の騎士団を派遣しようとした。
だが斑鳩がまだ未完成だった以上あの要塞には打つ手がなく、おまけにブリタニアはブリタニアの同盟国の領空を通って運んだため、ブリタニアのみに的を絞っている黒の騎士団は手を出すことが出来ず、指をくわえているしかなかったのである。
「カンボジアにあるうちにどうにかするべきではあったが、シュナイゼルが妨害してきたからな。
ダモクレスと相対する時に備えて、策を練っておかねば」
マオはシュナイゼルの思考を読んだものの、詳しい内部構造や設備に関しては専門用語が多くとても憶え切れるものではなかったため、ダモクレスに関しては深く調べられたわけではなかった。
大まかな構造だけで布陣を考えるのは無謀なので出来る限りの情報を収集したいところだが、さすがはシュナイゼルというべきか、なかなか調べが進んでいないのが現状だ。
だがいくら情報収集が大事だといえど、これ以上ブリタニア進攻を遅らせるわけにはいかない。
こちらがイニシアチブを取るためにも、軍を進めなくてはならないのだ。
ルルーシュはそう決意すると、室内の電話を取って桐原につなげた。
「桐原、私だ。超合集国連合会議を開いて、ブリタニア進攻の決議を出して貰いたい」
「うむ、そろそろ頃合いかと思っておったところじゃ。
既に根回しは済んでおるし、各代表からもゼロの指示待ちでそれが受け次第進軍をという意見でおおむね一致しておるゆえ、明日には出せようぞ」
既に水面下で決まっていた事項だとしても、表面は取り繕わねばならないのが民主主義国家である。
EUとの調整があるので超合衆国の決議が出、黒の騎士団に進軍命令が出たとしても早くとも全ての準備が整うのは三日はかかるだろう。
EUに関してはアドリスが動いてくれているから今はそちらに任せてあるが、後でどのあたりまで話が進んでいるか確認しておかねば。
ルルーシュは八年ぶりに向かう生まれ故郷のブリタニアの地図に視線を送ると、再び書類の束へとサインを始めるのだった。
翌日、ブリタニアへ進軍する際の戦意高揚のために、完成した紅蓮聖天八極式とランスロット・アルビオンのお披露目が海上にて行われた。
完成した斑鳩の完成式も兼ねており、雄大に海を進んでいる。
赤と白のナイトメアが美しく曲線を描いて空を舞う雄姿に、観客席にいる者達は息を漏らして見惚れている。
「メーザーバイブレーションソードの威力も段違いに増してるって聞いてるけど、紅蓮には難しいね」
「紅蓮の防御力がスポンサーのシュタットフェルト伯爵の意向で上げられてるからねえ~。
言っとくけど、今のソードはラウンズ機でも一撃で倒せるくらいの攻撃力は余裕であるんだからね」
黒の騎士団に来る時に出来るだけこっそり貰って来たラウンズの専用機とシミュレーションしたら、ナイトオブワンのギャラバッドとですら勝てるという確率が八割を超えた。
最もあちらも機体を強化しているとのことなので、油断は禁物なのだが。
ロイドとしては紅蓮より高性能にしたかったのに、予算の差という現実的な問題のもと紅蓮聖天八極式より性能的に一歩譲る羽目になったことに悔しさがあるが、それでも大幅な性能アップを果たしたことには満足している。
ランスロット・アルビオンは優遇されている方で、黒の騎士団のナイトメアの中では紅蓮に次いだ性能を誇っている。
「日本は省エネ技術が凄く高いからエナジーを効率よく機体に行き渡らせることでエナジーフィラーも長持ち出来て、長期戦でも安心ですね」
今までは防衛戦が主だったから基地が近くエナジーの補給もしやすかったが、こちらから攻め込むとなれば長く戦えることは重要な要素となる。
性能がいいということはエナジーの消費が激しいということなので、省エネ技術はランスロットにとって必須といえた。
さらに攻撃力も大幅に上がり、武器をもたない素手でも暁のスラッシュハーケンをたやすく破壊出来るほどになっている。
計算ではトリスタンのそれでも破壊出来るはずだとロイドが豪語していたほどだ。
一方、紅蓮可翔式を進化させた紅蓮聖天八極式となった紅蓮は最終決戦とあって激戦が予想されるため、シュタットフェルトの第二次日本防衛戦の二の舞はやめてくれという哀願のもと、攻撃力もそうだが防御力も大幅に上げられた。
装甲を分厚くし、コックピットへの衝撃を減らすなどの策を施すとスピードが下がってしまうため、せっかく上げた機動力を殺さないよう装甲を軽量化する代わり、第二次日本防衛戦でモルドレッドから押収したシールドからヒントを得て、機体に電磁波を流すことでシールドの役目を果たす機能をつけることにした。
そのためランスロット・アルビオンのメーザーバイブレーションソードでもなかなか効果的な一撃が与えらない仕様になっており、それを見ていたシュタットフェルトは大きく安堵の息をついている。
軍事機密に関する兵器等のお披露目はさすがに出来ないが、これまでのナイトメアとは段違いのスピードでそれぞれの武器をかざして模擬戦闘を行うナイトメアに、黒の騎士団員の士気は上がっていく。
赤い八枚羽と緑色の六枚羽のエナジーウイングが優雅に空を舞う姿に、それを見ていた者達からは嘆声が漏れる。
続けて星刻の神虎、藤堂の斬月のお披露目が行われ、こちらは黒の騎士団基地の演習場で陸上で模擬戦闘を行っていた。
機体性能は神虎の方が上だったが、軍人歴が長い藤堂は経験を生かして攻撃を避け、的確に相手の隙を突いていく。
士気を上げるためのセレモニーなので全力ではないにせよ、それでも充分感嘆に値するだけの技量を見せつけた黒の騎士団の幹部達の雄姿に団員達は大きく歓呼の声を上げていた。
「第九世代、十世代ていってもいいくらいにナイトメアの性能が一気に上がっちゃったね。
ま、こっちのイリスアゲートシリーズは戦闘補助が目的の特殊なタイプだから、せいぜい第六世代くらいだけど」
アルフォンスがモニターを見ながらそう呟くと、ロイドがにいっと笑って言った。
「でもソローのバリアの範囲を広げたから数十体のナイトメアを保護出来るってのはけっこういいよ~。
フィーリウスとパターの有線電撃アームを強化したから決まれば相手のナイトメアの動きはほぼ確実に止められるし、スピードも上げたから捕獲の成功率はグンと高まったしね。
ゲフィオンディスターバーも搭載済みだから、うまくやればラウンズだって倒せるよ」
動きを止めてしまえばナイトオブワンのギャラハッドであろうとも鉄の塊の人形でしかないのだ。
モルドレッドを捕獲した時に使用したが、周囲にブリタニア兵はいなかったのでおそらく情報は向こうにいっていないはずである。
力押しではないナイトメア、というのはロイドの興味をいたく引いたようで、あれこれいろんなアイデアを提供してくれた。
そしてアルフォンスはひたすら相手の攻撃を妨害するというぶっちゃけ嫌がらせに特化したプログラムを作成し続け、ロイドにより効率よくそのプログラムは整えられてインストールされたという訳である。
「モルドレッド戦のような目に遭うのは二度とご免だからね。
ラウンズにはとっとと戦場から脱落して貰うよ」
全身打撲という一番悲惨な目に遭い二ヶ月近く入院していたアルフォンスは、同じことを二度も繰り返さないことをモットーにしている。
一度で懲りたらしいアルフォンスは数で勝てない相手がいることを学んだため、これまで以上に悪知恵を結集して戦うことにしたようだ。
「お~、怖い怖い。イリスアゲートシリーズも大幅に改造したし、戦力としては超アップ!第二次日本防衛戦も、悪いことばかりじゃなかったね~」
「これで最後にしたいものだけどね」
ロイドの前向きな台詞を聞いたアルフォンスが、ぽつりと呟く。
「新しい兵器、それに勝つための兵器、さらに・・・まるで終わりが見えない。
科学は上限がないからこそやりがいがあるって思ってたけどさ・・・この分野に関していえば終わりが見たいよ」
もともとナイトメアフレームは医療目的として開発が起こったものだ。
それがいつしか戦争方向に使用され始め、効果が出てきたことから短期間にこれほどの進化を見た。
アルフォンスは医療機器の開発をするために科学の道に入り、ナイトメアについても医療用のものについては知っていた。
基本的な知識があったからこそ、三年前にEU戦で打ち捨てられていたナイトメアフレームを使用出来るくらいには改造出来たのだ。
「駄目だねえ~、最後まで開き直らないと。
君の言うとおり、戦争やってれば兵器開発なんて終わりのない競争さ。
ナイトメアは当初は医療目的だったから、医学的知識がある奴が多かったしね。 人体の構造を知っていて、ある程度治す知識があれば効率よく人が殺せる方法だって思いつける」
「・・・・」
医療に関する知識を学びながら人殺しのための兵器を開発したことを非難されたり、彼が作った武器が原因で死んだブリタニア人の遺族や仲間から恨まれたことがある。
人を殺しておきながら自分が家族を殺されたことを恨む資格があるのかと言われたこともあった。
そしてまだ何も解らずにいた大事な従妹に、嫌ならどうしてやるのかと涙ながらに言われたことも。
だがアルフォンスは何を言われても何も言わなかった。
彼は最初に決意したとおり、ブリタニアを滅ぼし家族みんなで祖国に戻るために現実的な手段を選んだだけだ。
戦争ほど矛盾に満ち溢れた場所はない。そこに望むと望まざるとに関わらず足を踏み入れた以上、いちいち取り合っていたら自分が壊れるだけなのだから。
「・・・僕は僕の守りたいもののために、持ち得る全ての手段を使うだけだ」
「ま、君は最初から矛盾だらけの道だってぜーんぶ解ってこの道に来たんだろ?
スザク君をコテンパンにのしたって本人から聞いたけど、結果を出すのにどれだけ苦労するかも解ってない子に偉そうに言われたのが気に入らなかったんでしょ。
・・・最後まで貫きなよ。戦いが終わるまでね」
矛盾を抱えているからこそ開き直ってここまで来たのだからと先にこの道を進んできたロイドの忠告を、アルフォンスは無表情で聞きながらモニターを見つめた。
「それはそうとニーナ君のウラン理論なんだけどね、エネルギーに変換するためのシステムについての論文見た?」
暗くなった雰囲気を無視してロイドが突然話題を変えると、アルフォンスは頷いた。
「見たよ、やっとシステムが暴走しても止められる理論が出来たって聞いた。
でも、すっごい複雑なシステムだよ・・・ゼロクラスじゃないと動かせないんじゃない?
刻々と変化する組成に対応する反応を、周囲の環境を正確に反映した上でぶつけることで臨界反応を停止させるそうだが、それだけにそれについていってシステムを直接打ち込まねばならないとあって、アルフォンスは使い物にならないと一蹴した。
「うん、でもエネルギーとしては効率がいいから、この戦いまでに何とか形にしたかったって残念がってたね。
この戦争が終わったら、暴走を止めるシステム作るの手伝おうかな~。復興作業には膨大なエネルギーが必要だからね」
戦争が終わったら、復興を。
当たり前のことなのに、まだまだ戦争のことばかりを考えていたアルフォンスは目を小さく開いた。
「・・・そうだね、戦争が終わったら必要かも。
でもロイド博士、知ってた?『戦争が終わったら僕は何かをするんだ』って言った人には亡フラグが立つってさ」
冗談めかして笑うアルフォンスに、ロイドは飄々と言った。
「僕は科学者だから、迷信は信じなーい。君ってけっこう縁起担ぐんだね~」
ロイドの笑い声に苦笑しながら、アルフォンスは思った。
(戦争が終わったら、か・・・やっと終わりが見えかけてる)
終わりが見えないと思っていた戦争だったが、ゴールの文字が見え始めた。
やっとここまで来たのだ。ロイドの言うとおり、最後まで貫かなくてはならない。
アルフォンスはモニターを見つめながら、現在超合集国連合会議に出ているゼロの開戦宣言を待っていた。
同時刻、合衆国日本の東京にある超合集国本部の大会議室では、超合集国連合会議が行われていた。
直接ここに赴いているのは日本代表の桐原や日本の土地を借りている合衆国ブリタニアのユーフェミアや合衆国中華の天子などの近辺の国の代表が数名だけだが、他の代表達はモニターで参加している。
軍備が整い次第ブリタニア進攻、というのは既に内々に決定していたため、通り一遍のやり取りの後投票が行われた後に満場一致で正式にそれが決定する。
超合集国連合議長の桐原が重々しく言った。
「では超合集国連合決議により、黒の騎士団にブリタニア進攻を要請する」
「黒の騎士団はその要請を受諾する。
速やかに行動を開始し、神聖ブリタニア帝国に向けて進軍しよう!既に準備は整っている」
ゼロの衣装をまとったルルーシュは要請を受諾すると会議室を後にして、黒の騎士団本部のエトランジュの部屋を借りているナナリーとロロの元へと足を向けた。
二人はテレビでカレンとスザクの模擬戦闘を見ていたが、兄の入室に気づいて笑顔を浮かべて出迎えた。
「お帰りなさいませお兄様。会議はいかがでしたか?」
「ブリタニア進攻が決定した。すぐにブリタニア本国へと向かう。
・・・ペンドラゴンを陥落させるまで、日本には戻らない」
「・・・そうですか。解りました。私はロロとここで、お兄様のお帰りをお待ちしております」
以前から聞いていたとはいえ、とうとうこの時が来たのだとナナリーは目を閉じた。
そしてすぐに瞼を開けると、テレビに目を向けた。
「カレンさんやスザクさんがいらっしゃるのですもの、必ず勝利を収めて日本に凱旋されると信じておりますわ。
私もラクシャータさんに造って頂いた神経接続が可能なナイトメアで物資の運搬などのお手伝いをします」
わずかでも皆の力になりたいと語る妹に、ルルーシュは笑みを浮かべた。
「ああ、だが無理はするなよ。シャーリー達にお前達の様子をたまにでいいから見てくれるように頼んだ。
・・・留守を、頼む」
「任せて兄さん。兄さんこそ気をつけてね」
兄を信じてはいるが、やはり戦闘のことなので何が起こるか解らないと不安はあるロロの髪を、ルルーシュは優しく撫でた。
「そのためにナイトメアの強化をさせたからな。
蜃気楼の攻撃力も範囲も上がったし、必ず勝ってみせる」
「私も皆さんと一緒に出来る限りお手伝いを頑張ります。
戦争のために物資がちょっと不足しているそうですけど、咲世子さんの母校の生徒さんが一つの道具で何通りもの使い方をしているのを見たんです」
先日アッシュフォード学園で行われたチャリティーバザーに出かけたナナリーは、協賛していた日本の学校の生徒が出店している店に行ったところ、生徒の一人が地面に落としてしまったおにぎりを捨てず、鉄粉をまぶしてカチカチに乾かし、それをやすりにして使っているのを見た。
「物がないからって他の人から奪ったりしなくても、ある物でなんとかしようと思えばなるんですね、お兄様。
ブリタニアはこういうところを日本の方から学ぶべきです」
「僕、今ナナリーと一緒にその学校の人からいろいろやり方を教わってるんだよ兄さん。ところでニンジャって何だろう?」
ブリタニアの植民地だった国から物資を奪ってブリタニア軍が撤退したため、エリア解放は出来たが国民の生活が困窮しているというニュースを聞いて憤慨していたナナリーと人と積極的に関わるようになったロロの言葉に、ルルーシュは感動した。
「ああ、お前達は本当に成長したなナナリー、ロロ。
俺もこれで安心して出陣出来る。
・・・では、行ってくるよ」
「はい、行ってらっしゃいませ」
「ナナリーといい子にして待ってる」
内心の不安を抱えながらも、笑顔で手を振る二人に見送られて、ルルーシュは部屋を出た。
部屋を出ると、ドアの外でC.Cが待っていた。
「以前はナナリーから目を離すのがあれほど心配していたというのに、随分変わったなものだな」
「ああ、あの子はもう俺がいなくても文字通り一人で歩けるようになった。
初めは寂しいと思ったが、これでよかったと思う」
自分がいなくても一つずつ出来ることを増やし、世界を見つめて歩きだしたナナリーは、本当に強くなった。
自分だけではなく他者を思いやり動くようになったナナリーと、初めは人とどう関わっていいか解らないと怯えすらしていたロロも、今は知らない人間からでも教えを得るようになった。
「この世界に変わらないものなどない、ということだろうな。
子供は大人になり、大人はいずれ老人になる。
幼くして時間が止まっているV.Vにはそれが解らなかったんだろう。
もしくはそれに取り残されることが怖くて仕方なかったのかもな・・・」
自分とそっくりの姿をした弟が外見的な変化を遂げているだけならまだしも、内面的にも変わっていたのを知って恐怖し、マリアンヌ殺害という凶行に走ったのかもしれない。
自分だけを愛してくれた弟が、別の人間に心を向けたことが許せなかったのだろう。
「V.Vの気持ちは分からなくはない。私も時の流れに取り残された魔女だからな」
「だが不老不死といえど、変わるものは変わるさ。そう思わないか?
お前の性格も、出会った時に比べれば丸くなったと思ったが」
以前にあったどこか尖ったような雰囲気が消え、今はマオやギアス嚮団の者達の面倒を見たりするなど柔らかくなったとルルーシュは思う。
変わらなかったなら、変えなくてはならないものがある。
差別国是を掲げ他者を虐げることを当然としている国家など、その最たる例だろう。
「ふん、童貞ボウヤが言うようになったな。
チャリティーバザーでのデートで、お前も成長したということか。
だがせっかくいい雰囲気だったのにキスの一つもしてやらんのは男としてどうなんだ?」
「・・・覗きとはいい趣味をしているな、C.C」
シャーリーと二人でバザーを回っていたルルーシュは、シャーリーにアクセサリーを買ったりと、なかなかいい調子で過ごしていたがそれ以上の進展はなかった。
はぐれないように手を繋いで歩いていただけでも、ルルーシュにとっては進歩かもしれない。
実際は覗いたわけではなくカマをかけただけなのだが、やっぱりなとC.Cは呆れた。
「何だ、やっぱりそうだったのか。
もしかしてお前、やり方を知らないのか?何だったら私が教えてやるぞ?」
「うるさい、必要ない!それは、若い女が申し出ることじゃないだろう。
もう少し慎みというものを持ってだな・・・」
「お前はどこぞの一昔前の父親か?全くお前も面倒な奴だ。
手ほどきなんて親切をしてやる女なんか、滅多にいないんだぞ」
本当に面倒な男だ、と毒づいたC.Cがスタスタと歩き去ると、ルルーシュは余計なお世話だ、と舌打ちする。
「・・・さっさとくっつけばいいんだ。私だって未練が出るからな。
全く鈍すぎるんだよ、私の魔王は」
そうぼやくC.Cだが、その顔には笑みが浮かんでいた。
紅蓮聖天八極式とランスロット・アルビオンとの模擬戦闘が終わると、続いてやって来たのはゼロの機体である蜃気楼だった。
漆黒に輝く機体に、黒の騎士団員から歓声が上がる。
「諸君、今日は重大なお知らせがある。
先ほど行われた超合集国連合会議で、神聖ブリタニア帝国への進軍が要請された。
非道な行為を続けるブリタニアを倒すことこそ我らの悲願である平和への道と考えた私は、それを受諾した!」
高々と手を掲げて宣言すると、黒の騎士団員達から歓声が上がった。
「やっとかよ!!待ちくたびれたぜ!!」
「世界を戦乱に陥れたブリタニアを倒せ!!」
「非道なる国家に正義の鉄槌を!!」
ようやくブリタニアに向けてこちらからの反撃を始めるのだと昂揚する騎士団員達を見降ろして、ルルーシュは演説する。
「我が勇敢なる黒の騎士団の諸君、我々はブリタニアを倒し、世界を平和にするために立ち上がった正義の味方である!!
ブリタニアは非道なる行為を繰り返し、それを恥じるどころか誇りさえする国家であり、その国是のもと諸君らが苦しめられてきたことは私もよく知っている。
だが、かといってその怒りに任せてブリタニア人に対して迫害を行えばそれはブリタニア人と同じなのだ。よってブリタニア人に対する無用な殺戮や暴行、略奪はこれを一切禁ずる。
恨みや哀しみは確かにあるし、忘れるには重いものであることは承知している。 しかし、それでも過去の過ちを繰り返すことだけは断じて避けねばならない!!
大多数のブリタニア人は間違っていると思っていてもそれを口に出すことすら許されぬ状況にあるのだということを、諸君らには知っておいて貰いたい」
正義という大義名分がどれほど人間を残酷にするかを知っていたルルーシュはそう釘を刺すと、さらに続けた。
「敵を間違えるな!我々の敵は差別国是を掲げ、弱肉強食こそ真理であると主張し、争いを肯定し他者を虐げる世界を作り上げた神聖ブリタニア帝国皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアであり、その主張を正しいと宣言する皇族、貴族である!
黒の騎士団は、その主張を否定して立ち上がった集団である。進化を続けていると言いながら原始の原則である弱肉強食を掲げ逆行を続ける者達に、正しく進化した人間の在り方を示すのだ!!」
「そのとおりだ!俺達は差別主義のブリタニア人とは違う!」
「人の矜持を忘れるな!!」
「ゼロ、ゼロ、ゼロ!!」
正義という建前が他者を虐げる大義名分になるのなら、それを止めるために使うことも出来る。
こうして演説をしていると、言葉とは何と不思議なものなのだろうか。
戦争を扇動しているその口で平和を説くのはある意味滑稽ではあるのだが、必要なことなのだ。
「ここに、神聖ブリタニア帝国との開戦を宣言する!!
最終進軍目標は神聖ブリタニア帝国首都、ペンドラゴン!!」
その宣言とともに斑鳩から砲弾が空に向けて撃たれ、蜃気楼の右に紅蓮が、左にランスロットが立ち並ぶ。
最後の戦いの幕が上がる。