第二十五話 動き出した世界
日本が解放され、超合集国連合の創立および合衆国ブリタニアの建国宣言がなされた後、世界はまさに混乱の真っただ中にあった。
超合集国本部の蓬莱島は未だ建設中の施設が多かったが、天子が視察して急いで欲しいと作業者達に直々に頼んだ上に給金を多少なりと上げて建築スピードを上げ、新たな未来を紡ぐためにと作業員が皆張り切ったので予定より早く本部が完成した。
中華連邦から独立したインド軍区、現在は合衆国インドとなった・・・とはまだ多少揉めているようだが、水面下でルルーシュが動いているので、今のところは目立ったトラブルは起こっていない。
超合集国に参加した国々は代表達を一度集め、改めて対ブリタニア戦線を構築することで意見の一致を得ており、超合集国憲章により固有の軍を放棄し、黒の騎士団に参加させる準備を推し進めている。
一方、まとまりを見せている超合集国とは違い、EUでは凄まじいまでの論争がEU連合議事堂で起こっていた。
エトランジュが改めて事の経緯を説明し、超合集国連合との同盟についてどうするべきかを返答したいと言ったことで、会議が紛糾したのである。
「マグヌスファミリアはブリタニアと交戦している国を我がEUと協力するよう説得するのが役目だが、戦争に協力するのは分を超えているのではないか?」
「口だけの説得に誰がついてくるものか!きちんとこちらが協力する意志と準備があると示してこそだ。
エトランジュ女王はせいぜいマツタケなどというこちらでは食べもしない食材を要求した程度、他の貿易は対等な取引だとこちらも認めたことですぞ」
「日本が解放されたことで、我が連邦軍はなにをしているのかと厳しい批判が相次いでいる。少しは面子を気にして頂きたい!!」
「面子?!ほう、成果を上げずに面子を気にして虐げられている者達を見捨てろと?
華々しい成果が欲しければ自身が努力すべきでしょうに!!」
「誰がそんなことを申しましたか!
いやこのままでは民兵上がりの軍隊に連邦軍は劣るという風評が立ち士気が下がってしまい、ブリタニア軍との戦いに支障をきたすということです!!」
「でしたら成果を上げればよろしい。自分達もエリア解放を成し遂げる力があると!!
我が国は昨年からエリア17などと呼ばれてブリタニアに占領されているのですぞ。
矯正労働エリアとして国民達がどんな扱いを受けているか、ご存知でしょう。我が国でなくともいい、植民地を解放しEU連邦軍も黒の騎士団に負けぬ力があると示し、EUの民に希望の灯を灯して頂きたい!」
激しい議論をいつもの末席ではなく議長席に近い席に座で聞いていたエトランジュは、秘書の名目で同行して貰ったマオと共にどうしたものかと首を横に振った。
現在EUでは、いくつかの派閥に分かれている。
ブリタニアと和平をすべきだという国と、徹底抗戦をすべきだという国に分かれており、和平派は自分達の国が侵略される前に他国を差し出して己の安泰を図りたいというのが本音である。
というより、そうしなければブリタニアが和平を認めないのである。
ブリタニアの国是主義は既に世界の誰もが知るところなのだ、ブリタニアが世界平和のために動いていると信じている者がいるとすれば、よほどの馬鹿か皇族を盲信するブリタニア人だけであろう。
事実つい二ヶ月ほど前にエリア19となった国はそうやって自らEUを脱退し、最初から衛星エリアとすることで多少の自由と自治を認められた。
他にもその打診を受けている国々があり、その背後にシュナイゼルの影があることをエトランジュ達は既に知っていたが、証拠がないため今まで踏み込めずにいた。
その国々はいずれ同じようにEU連合を脱退し、ブリタニアに与することになるだろう。
贈収賄をしたり、横領をシュナイゼルに握られている官僚がおり、かつての中華連邦の大宦官達のように取りこまれた者も多い。
エリア19に続く国が出てくるであろうことは明白で、既に四ヵ国が脱退申請を出しており代表はこの場にはいない。
いずれ新たなブリタニアの植民地として、数字に名を変えて呼ばれることになるのだろう。
しかしその四ヵ国も、希代のカリスマゼロがいようとも所詮民兵上がりの軍でブリタニアを倒すことが出来るはずがないと考え、EU軍がただひたすら防戦一方な状況を見て自国の安泰と己の保身を考えた行動について、早まったかと後悔している官僚が出た。
しかしブリタニアと通じてEUの情報を提供していた以上、それをネタにされれば己の身が危ない。
このままブリタニアの植民地としてEUを離れなければならず、ブリタニアの庇護と援助を受けなくてはならないのだ。
そしてそれはまだ脱退こそしていなかったが、同じようにシュナイゼルと繋がった者達も同じである。
ならば出来るだけブリタニア皇族に貸しを作るに越したことはないので、暗にシュナイゼルに命じられたこともあり、せっせとエトランジュの案である超合集国との同盟を阻止しにかかっていた。
「他国の力を借りればEUの力はその程度と侮られることになる。
エトランジュ女王は伝統あるEUの威光を貶めるおつもりか」
「そんなつもりは全くありません。一方的に力を借り続ければそうかもしれませんが、EUも超合集国連合に力を貸すのですからお互い様です。
それのどこが恥になるのですか?」
EU連合自体が互いに協力し合おうという目的で生まれた組織のはず、それを世界規模にするだけのことではと言うエトランジュに、同盟賛成派は一斉に頷いた。
ことに昨年エリア17として占領され亡命政権を立ち上げた国の代表は、エリア解放を成し遂げた黒の騎士団と渡りをつけたエトランジュを高く評価していた。
「全くその通りです。しかも超合集国連合の中心は中華で、黒の騎士団の本拠地はサクラダイトの産地である日本ですぞ。
これほど頼もしい味方がどこにあります!」
「あんな怪しい仮面の男を信用するエトランジュ女王の感性を疑う。
素顔を出さない人間をトップにする黒の騎士団になど、とうてい信用出来たものではない」
実のところその意見はもっともなもので、徹底抗戦派であっても同盟をためらう国はそれが理由だったりするのだが、それでも結果を出さなければならないのが国を預かる者としての責務である。
「しかし成果は上げていらっしゃいます。ゼロは成果を上げてこそ信用が得られるとおっしゃって、事実日本解放を成し遂げられました。
しかし一人だけで成し遂げたわけではない、皆で力を合わせるべきだとのこと。
EUも同じブリタニアを敵としているのだから、ともに手を取り合おうと仰ったのです」
「それが本音だという保証がどこにある!いい加減目を覚まされてはいかがか!
そもそもエトランジュ女王がEUの国を解放したがっているとは思えませぬな。
いつぞやアイン宰相が報告しておられたが、貴女はシュナイゼル宰相がマグヌスファミリアの国土返還を申し出た際すぐに断ったそうですが、自国を取り戻す好機を自ら捨て去るほどだ」
「我が国の安泰を図るためにこれまで真摯に協力して下さった方々を裏切る訳には参りません。
シュナイゼル宰相はあろうことか援助と補償はすると言いましたが、謝罪の言葉など一度もなかったのです。ただ部下に責任転嫁をしただけです。
それに正式な申し込みではない以上、そんな約束はなかったと言われればどうするすべもないのはお判り頂けると存じます」
ブリタニアの親切ほど信じられない善意はないと、普段の大人しさから想像出来ない辛辣な台詞に同意した者は多い。
EU連邦の国土返還をするからには、EUを通すのが筋なのだ。確かに当事者であるエトランジュに申し出ること自体はおかしくはないが、ほとんど不意打ちで一方的に告げてきた時点で充分相手を軽んじている行為である。
ゼロは確かに素顔を隠してはいるが、それ以外の主張は堂々と行い結果を上げている。
先に行われた超合集国連合会議でもEUとの同盟を決め、正式な使者である日本国外務大臣である宗像が神楽耶とともに訪れて同盟を申し込んでいた。
シュナイゼルのそれと同じにするのはどうなのかと主張する者達に、和平派はぐっと押し黙った。
「政治は結果がすべてだ。このまま膠着状態を続けるより、新たな力として超合集国連合と同盟を組むことに私は賛成する。
このままで状況打破が出来ると仰る方がいれば別だが」
面子を気にして独力でEUの植民地を解放出来ると主張する以上、代案を出さす否定するのはどうかいう正論に、ラストニア国代表が挙手して可能だと自信たっぷりに言った。
「EU軍にいる我が国出身の将軍が、明日提出する予定の作戦案です。
まず現在戦線となっている地域から撤退し、焦土作戦を敢行するのです。
いずれブリタニアは物資や食料を近くの植民地や本国から輸送するでしょうが、空軍の四割を持ってその補給ルートを断つのです。
ユーラシア大陸の半分は我々が占めているのですから、こちらの物資が途絶えることはあり得ません」
幸い日本が解放された上に中華連邦もブリタニアと敵対しているため、海路と空路を使うしかない以上空路での補給を断たれるだけでも大ダメージだというラストニア代表に、なるほどそれならいけるかもしれないとざわめき始めた。
「この作戦が成功した後に総攻撃をすれば、植民地の解放が成ります。
黒の騎士団やゼロなどと言うあやしげな男の力を借りるなどEUの恥です」
ふふんと自信ありげに言い放ったラストニア代表が肩をそびやかすと、イギリス代表が立ち上がって言った。
「なるほど確かにそれは効果的ですな。しかしEU内にある国が物資を提供すれば、意味がありません。
先日脱退した国はもちろんのこと、他に密にブリタニアに通じた国があれば終わりだ」
「何をおっしゃいますイギリス首相!
エリア19に自ら成り下がった国に続いた国はとっくに脱退申請を出しております」
「しかしですな、貴方は先日、シュナイゼルと個人的に会っておられたようだ。
EU議会に図らず接触されたようですが、それについてご説明を願えますかな?」
冷たい声音で詰問されて、ラストニア代表は青い顔で息を呑んだ。
イギリス首相が差し出したのは、動画カメラだった。
非常にはっきりした綺麗な画像で自国の官邸でシュナイゼルと親しげに話をしている様子が、はっきりと映っている。
「な、何故これが・・・?!」
「あの場におられた貴方の秘書が、貴方の裏切りに心を痛めて記録してくれたのですよ。
エトランジュ女王は味方を裏切ることが出来ず国に戻れる機会を棒に振ったのに、自分達だけの安泰を図るような醜い真似はしたくないと」
「あ・・・あ・・・・!」
陸に打ち上げられた魚のように口を動かしているラストニア代表が何も言えず立ち尽くしていると、EU内にもシュナイゼルの息がかかっている者がいることを知り皆疑心暗鬼の目で互いを見つめた。
確実にブリタニアと通じていないと断言出来るのは、黒の騎士団と深い繋がりを持つマグヌスファミリアとブリタニアの初代皇帝の出身であるためブリタニア人いわく「開祖の地を奪回する」とされて最終侵略目的になっているイギリスくらいなものだ。
よってブリタニア討つべしと主張する国の代表は、自然とこの二人に視線が向くことになる。
「さあ、お答え頂きましょうか。
これを記録した方からは伺っておりますが、貴方からもお話を伺わなくては不公平というものですからな」
密にシュナイゼルと会っていたというだけで、既にろくでもない内容であることは明らかである。
証人として天子がいた上にさっさと報告してあったエトランジュとシュナイゼルとの会話とはまるで違うのだ。
問い詰められたラストニア代表は舌をかんだが、もはやごまかしきれない。
開き直って笑い声をあげなら答えた。
「くっ・・・そうだとも、我が国は既にブリタニアと密約を結んだ!
同盟国として今後は交友する、貿易や国交などについても対等なものだ」
「なっ・・・EUを裏切る気か?!」
「いつまでも戦いを続けていられる余裕は我が国にはない!
戦費のために税をかけ、国民の不満は高まっているのだ。EUが当てにならん以上、己で生き残りの道を探したまで!」
ブリタニアと戦争を続けてもう何年も経つが、領土を奪われ続けている以上負担を抑えるためにはこれしかなかったのだというラストニア代表に、確かに長引く戦争に国民の負担が大きくなっているという主張は正しい。
勝ち馬に乗るよう努めるのが国を預かる者として当然だという主張ももっともだが、だからと言ってこれまで苦楽を共にしてきた仲間を裏切るという行為をあっさり認めるわけにはいかなかった。
「ならば潔く脱退するがよろしい!我々を売り渡して取引材料にするとは、何たる卑劣な!!」
「このような裏切りを許せばそれこそEUの面子に関わる!
ラストニアは脱退表明をしていない以上、背信行為で罪に問うべきだ」
「うむ、それがよい!他にもブリタニアと通じている者がいないか、調査をしておかねばならぬやも」
EU内にざわめきと疑心暗鬼が広まった。
それを見ていたエトランジュは、この醜い展開に内心で大きく溜息を吐いた。
ルルーシュの言っていたとおり、ラストニアや他の国の裏切りがばれなければそのまま情報の横流しや操作が出来、露見すればEU内部の分裂を招くことが出来るという抜け目のないシュナイゼルの策に、見事に乗せられている。
だがそれが半分阻止出来たのは、マオのお陰だった。
堂々と海外を行き来出来るようになったので前々からの約束だったギアスの譲渡を行うため、彼はEUにやって来た。
コミニュティに行く前に報告していかなくてはならないからとEU連邦の議事堂に来た際、マオがどんな状況か調べておこうとギアスを発動させたところ、ブリタニアに既に通じていた国がいたことが発覚したのだ。
その可能性が高いとルルーシュから言われていたからこそのマオの行動が功を奏したことに一同は驚きすらしなかったが、ただちに動いて不正や裏切りの証拠を揃えた。
EUを裏切ることに後ろめたさを感じていた秘書をマオお得意の心理誘導で味方につけ、アルフォンスのギアスを使って相手の部屋に侵入してデータを盗むなど実に手段を選ばない捜査の末、あっさり連中に言いわけをさせないだけの証拠を集めることに成功したのである。
マグヌスファミリアがブリタニアと戦うために証拠をねつ造したと言いがかりをつけられたり、マグヌスファミリアには権限がないので無断で他国を捜査をするとは何事と批判される可能性があったため、王室の末流とはいえEUでも発言力が強いイギリスに嫁いでいた叔母を通じて事の次第を報告し、代わりに告発してくれるように依頼したのである。
ラストニア代表の秘書がマグヌスファミリアではなくイギリスに報告したことにすれば、イギリスが正式に捜査機関を動かすことが出来るため、獅子身中の虫がいることが明らかになった。
イギリスもEUのために裏切り者は速やかに排除しなくてはならない上、自国がそのために動けば今後の発言力が大きく増す。
超合集国と黒の騎士団をまとめているゼロがエトランジュの背後にいる以上、エトランジュに任せれば黒の騎士団が大きく介入してくる危険があるので、それを防ぐためにも迅速に動いた。
別に手柄を立てて大国にしたいわけではないどころか、超合集国の同盟関係以外のことで目立ちたくないマグヌスファミリアからすれば裏切り発見の手柄を譲ることにためらう理由がなかった。
《ルルの言ったとおりだね。ブリタニアと徹底抗戦派の国の首相に証拠を渡して告発させれば連中をとっとと排斥出来るって》
《はいマオさん。国によって代表を免職することでそのままEUに残るか、それともこのまま脱退するかに分かれるでしょうが、それでも背後から撃たれる危険は格段に減ることでしょう》
この際味方を増やすのではなく玉石混合をやめて玉だけを拾って組織固めをしようというルルーシュに、確かにその方がいいと納得した。
ブリタニアを追いつめていけば自然その国も戻ってくるかブリタニアに協力することを辞めるに違いないのだから、それで充分である。
エトランジュ達が集めた証拠が公開され、改めて他のブリタニアに通じていた国の代表の顔が蒼白になっていく。
背信行為が発覚した国の代表が次々に拘束されると、イギリス代表が議長に向かって言った。
「我々が調べたところ背信行為を行っていたのは彼らだけです。しかしこれではなおさらEUだけでブリタニアと戦うことは困難でしょう。
超合集国連合との同盟は我々の断固たる信念を世界に示す重要な議題であると考えます。議長、採決を!!」
「解りました、もともと本日中に結論を出す予定でしたからな。
では超合集国連合との同盟に賛成か反対か、票を取ります。
賛成の方は青を、反対の方は赤のボタンを押して下さい」
議長の言葉にエトランジュは机の上にある青と赤のボタンがあるスイッチを手に取り、ためらいなく青いボタンを押した。
議長の頭上に置かれてある大きなモニターで、青と赤の棒グラフがゆっくりと上昇していく。
エトランジュは祈るような思いで、モニターを見つめた。
そして五分が経過し、そのグラフは止まった。
五分以内に押さなかった者は棄権したとみなされ、決定事項に関して何ら権限は与えられない。
「賛成19!反対8!棄権5!よって超合集国との同盟成立が採択されました!!」
過半数が賛成という結果に、エトランジュは嬉しそうに笑みを浮かべた。
ゼロを何とか信じて貰おうと、神楽耶と宗像が一生懸命EU代表達を回って説得に回った成果が実ったのだ。
「神楽耶様にすぐにお知らせに上がらなくては!皆様に解って頂けて嬉しいです」
EUの戦力が削られたのは痛いがこれでEUの膿が絞り出され、ブリタニアとの戦いにも新たな一手が打てると他の代表達も安堵の表情だ。
「では速やかに同盟のための調印大使や軍について超合集国とも話し合わなくてはなりませんな。
まずは使節団をあちらに派遣しましょう。マグヌスファミリアのエトランジュ女王陛下は当然として、他に誰にご足労願うべきか」
エトランジュは既に超合集国の主なメンバーとの間に大きなパイプが出来ているため、同盟の象徴としては打ってつけだ。
しかしまだ幼く政治や軍事に関しては素人に毛が生えた程度しかないため、よくて実用性のあるお飾りとしての役目である。
話し合いの末同盟に賛成した国のフランス代表が使節団大使として任命され、副大使にエトランジュということで話がまとまった。
「若輩の至らぬ身でお手数をおかけすることになると思いますが、よろしくお願いいたしますね」
「いや、エトランジュ女王陛下こそよくここまで頑張って下さった。
その成果を無駄にせぬよう、こちらも誠心誠意努めていく所存です」
フランス代表とエトランジュが握手をすると、さっそく会議の結果を知らせに報道官がEU全土に向けて超合集国連合との同盟が決定したと報道した。
ようやくブリタニアに対して攻勢に転じることが出来そうだと、国民達の反応はおおむね良好である。
何せエリア解放を成し遂げた黒の騎士団との同盟なのだ、一進二退をしているようなEU軍よりも期待の目を向けるのも無理はなかった。
マスコミの前で改めて挨拶に出されたエトランジュは浴びせられるフラッシュに少しおどおどしたが、何とか押し隠して記者達の質問に答えていく。
「ゼロはどのようなお方ですか?!仮面をかぶっているとはいえどのあたりまで信用出来るかコメントを!!」
「ゼロはとてもご立派な方で、仮面をかぶっているのもブリタニアを倒し情勢が落ち着けば自身も仮面の下の生活に戻ると伺っています。
あの方も平和を望んでいるからこそ、仮面をかぶっているのでしょう。始めから仮面を外したまま戦えば、平穏な生活は難しいでしょうから」
事実彼は黒の騎士団総帥の地位にありながらも給与などは受け取っておらず、ことが終われば総帥を降りる旨を既に公表したと告げると、記者達は意地の悪い問いを重ねた。
「擬態であると感じたことはありませんか?」
「横領や背信行為をしているところを見たわけではありませんし、証拠もないのにそれを疑い続けていたら、ゼロに限らず誰ともお付き合いが出来ないと思います」
ブリタニアを倒すと宣言し差別主義を掲げるブリタニア皇族を倒しているのだから、何の不満があるのかと逆に質問された記者は、確かに言っていることとやっていることが同一で彼が裏で悪事を働いているという証拠がないのだから、それ以上はただの誹謗でしかない。
「私はゼロと同様平和を望みます。弱者が強者に虐げられることなく暮らせる国を、家族と穏やかに笑い合えることが当たり前だった時代を。
実子ですら従わないなら死を与えるような国で、どうして安心して暮らすことが出来るでしょう。
私はブリタニア植民地を見て回っていた時、EUが保障する言論の自由の素晴らしさを改めて痛感し、また失いたくないと思いました。
何しろ当時副総督であったユーフェミア皇帝ですら、実際に起こった出来事を口にすることが出来なかったのです。
記者の方々にはそれがどれほど恐ろしいことか、お解り頂けると存じます」
事実を伝えることこそ報道官の義務であり、存在意義だ。それを奪われるなど自身の職業に矜持を持つ者なら誰もが恐れることだった。
「しかし残念なことにブリタニアは強大であり、今も世界各地を脅かしています。
ゆえにゼロは超合集国を創り上げました。超合集国の方も、EUを参考にした部分もあるとおっしゃっておられました。
一つ一つの力は小さくとも、それらが手を取り合うことで大きな力となることを世界に先駆けて証明しているからだそうです」
EUを参考にした部分もあると聞いて、自尊心をくすぐられたEUの議員はうんうんと頷いている。
「Victoria Concordia Crescit(勝利は調和の中から生まれる)と申します。
EUの皆様、長引く戦争に大きな負担がかかっているのは承知しています。
ですが自分勝手な理由で他国を侵略し人としての尊厳を奪い支配するブリタニアを受けれいるわけには参りません。
どうかもう少しだけ耐えて力を貸して頂きたいと思います」
「しかしとある筋からの情報では、最優先でマグヌスファミリアを解放するという密約をゼロと交わしたとありますが、事実ですか?!」
綺麗事を言いながらも実際は自国のためではないかという質問に、記者達はあり得そうだと顔を見合せた。
しかしエトランジュはきっぱりとそれを否定する。
「そのような事実はありません。我がマグヌスファミリアが解放されるのはブリタニア首都が陥落するか、ブリタニア皇帝が戦争をやめて植民地を解放すると宣言しない限りあり得ないでしょう」
それはつまり武力によってマグヌスファミリアが解放されることはないということだ。
どのみち会議でマグヌスファミリアを解放しようと言いだす者がいないと解っている以上、自分から最後でいいと言い出す方が印象がはるかによくなるのだ。
「マグヌスファミリアは私達にとってはかけがえのない祖国ですが、残念ながら何の資源もなく軍を常駐させられるだけの設備もありません。
確かにあちらもろくな軍を置いていないようですが、軍を派遣して解放するだけの価値があるとはいえないのです」
何しろ水道があるのが城だけで交通手段が馬車という国なのだ。
確かにもっともだが自虐的にではなく客観的に淡々と告げる女王に記者達は驚いた。
「私も一番に祖国を解放して欲しい気持ちはありますが、それは皆様同じ思いです。
しかし戦争を早く終わらせるためには、私情を押し殺すことも肝要です。
国民の皆様には既に説明を行い、理解をして頂きました」
「エトランジュ女王のご英断には頭が下がります。
先のブリタニアとの密約を蹴ったことといい、彼女こそがEUで世界平和を第一に考えているお方だ」
イギリス代表がそう言ってエトランジュを持ち上げた。
ブリタニアとの密約を断り、自国は最後でいいと自ら宣言したエトランジュの評価は大きく上がった。
これで他国は無理に一番先に自国を解放しろとは言えなくなり、メリットがある国を解放していくべきだという論が通りやすくなったからだ。
さらに対ブリタニアの象徴とするためにも、エトランジュを積極的にアピールする必要があったのだ。
大きく鳴り響く拍手の中、もはや他者の陰に隠れているわけにはいかなくなったことに、エトランジュはまだ気づいていなかった。
記者会見が終了した後、エトランジュはEU本部のマグヌスファミリアに与えられている部屋伯母のエリザベス、そして従妹のエヴァンセリンを集めた。
そしてマオとアルフォンスと共に入室し、誰も入れないようにジークフリードをドアの前で見張りに立って貰った。
「お久しぶりですリジー伯母様、エヴァ。さっそくですがマオさんのギアスをエヴァに移す件についてお話があるのですが」
「ええ、前々から出ていた話ですからね。
マオ君には約束していたのに延び延びになってしまって申し訳なかったわ」
エリザベスが謝罪しながらマオにソファを進めると、マオは仏頂面でソファに座った。
目の前には以前中華で行われた天子とオデュッセウスとの結婚式の際、エトランジュの身代わりとして参加したエヴァンセリンが不安そうな顔で座っている。
「改めて挨拶しましょう。私はエリザベスで、アルフォンスの母です。リジーは愛称で、お好きなように呼んでね。
今日は私のギアスで貴方のギアスをエヴァに移させて貰うためにご足労を願いました」
エリザベスがそう言いながらエヴァの肩を抱き寄せると、彼女はマオに言った。
「私、エヴァンセリンと言います。中華では挨拶も出来なくてごめんなさい。
十五歳になった時にギアスのことを知ったの。アイン伯父さんからの話を聞いて、心を読むギアスを得るつもりがあるかと聞かれたわ。
戦争にはとても便利なギアスだもの・・・だから、私に下さい」
心を読むギアスは暴走状態だがそれはコードを奪いたいマグヌスファミリアには必要なことであり、ゼロのギアスで抑え込めると聞いて心が読めることによるデメリットをも聞かされていたエヴァンセリンはいくらか気が楽になっていた。
それでも赤裸々な心の声と言うものに、今が戦乱の時代であることも手伝って不安が完全に消えたわけではないのだろう。
マオはギアスなど使わなくても、その表情からそれを読み取った。
そしてそっとギアスを発動し、エヴァンセリンの心を覗いた。
《心の声なんて聞きたくないけど、コントロール出来るようにしてくれるんだから、マオさんよりずっと幸運だわ。
わがままなんて言える立場じゃない、エディもアル従兄さんも頑張ってるんだからマオさんには感謝してギアスを頂かないと》
以前の自分と比べられるというのは不愉快だがもっともではあるため、マオは怒りは感じなかった。
そして彼女が真実自分に感謝してギアスを受け取ろうとしていることを知ったマオは、笑みを浮かべて首を横に振った。
「いーよ、別にこのままで。心が読めても君、それで心理誘導とか出来ないだろ?
僕はそう言うの慣れてて得意だし、いちいちエディのギアスを介してやり方教えてたら彼女の負担が凄いじゃないか。だいたい教えて出来るものでもないし」
「それはそうですが、でも貴方のギアスを移すというのは初めてお会いした時からのお約束です。
いえ、強引にギアスを頂きたいわけではないですし、正直マオさんがそのままで協力して頂けるというのはありがたいことなのですが」
あれほどギアスを手放すことを望んでいたマオが断ったことに驚いたエトランジュに、マオは照れたようにそっぽを向く。
「それにギアス嚮団ともやり合わないといけないんだ、ギアス能力者同士の戦いは些細な時間差でも命取りになる。
あんなふざけた計画は僕にとっても最悪の悪夢なんだ、絶対阻止して貰わなきゃいけないんだから、ギアスを渡しておしまいにしたくないよ」
「マオさん・・・」
それは彼の本音だろうが、やはりエヴァンセリンの恐怖心を汲み取ってくれたことを悟ったエトランジュは、とても嬉しかった。
「ありがとうございます・・・感謝します」
「べ、別に君達のためじゃないんだからね!C.Cや僕のためなんだからね!」
典型的なツンデレ満載なマオにそれ以上誰も謝礼の言葉は言わなかったが、この場の誰もが言葉にせずともマオに感謝した。
「解っています。ではこの件は今回は見送りと言うことでよろしいですね?」
「うん、いーよ。でも戦争が終わってギアス研究が進まなかったらまたよろしく」
エトランジュ達が了承すると、エヴァンセリンはマオの手を取った。
「あの、正直私怖かったの。想像しただけで怖かったのに、何年もそのギアスと付き合ってきた貴方は凄いと思う。
私ギアスを受け取ったら、ギアス研究チームに入ろうと思うの。貴方のギアスをどうにかするとは断言出来ないけど、精一杯頑張ります」
「期待せずに待ってるよ。・・・でも、ありがと」
マオは顔を赤くして小さな声で礼を言うと、照れ隠しのためにクッキーを手にして頬張る。
内心でクスクスと笑っていた一同だが、すぐに真剣な顔つきになった。
ずっと黙っていたアルフォンスが、口火を切った。
「では次の行動、まずは中華連邦・・・いや合衆国中華だな。そこでブリタニアの基地があるから調べて潰すべきだという根回しはゼロに任せてあるよ。
既に彼の指示通りそんな情報があると少しずつ流してあるから、もう少し経てば可能だと思う。
その時はマグヌスファミリアのギアス能力者全員で援護に来てほしいんだけど」
アルフォンスはそう言うと、エリザベスに尋ねた。
「アイン伯父さん、ギアスが暴走したって聞いたけど・・・大丈夫?」
日本解放戦以前からアインのギアスが暴走したことを聞いていたアルフォンスに、エリザベスは小さく首を横に振った。
「ええ、アイン兄さんは大丈夫よ。
ただあのギアスの暴走の仕方が厄介でね・・・次々未来のビジョンが脳裏に浮かんでくるから、脳にものすごい負担がかかってるの。
ほら、以前エディがギアスの使い過ぎで倒れたじゃない?あれと同じ状況でね」
「やっぱり・・・予測はしてたけどね」
暴走すればどうなるかと言うのは、これまでの事例である程度予想がつく。
アインの予知は血縁者の未来を脳裏に浮かべるというものであるため、エトランジュがギアスの使い過ぎで倒れた時、彼もそうなるのではないかと思っていたが見事に的中していた。
アインは宰相としてどうしても倒れたままにはしておけないため、ギアスを知っていたアインの妻にエリザベスのギアスを使って移したため、アインは無事だ。
だが彼女は現在ものすごい勢いで脳裏にいろんな予知画像が回るために脳が混乱しており、ほとんどの時間をベッドの上で呻く日々を送っていた。
予知は出来るがそれを伝えようとエトランジュにギアスを繋げるとエトランジュの負担も半端ないため、リンクを繋げることが出来ない。
そのため、現在予知ギアスは使えない状況にあった。
「いずれゼロに頼んでコントロールさせて貰えないかと思ってるの。
ゼロの妹さんの件でこちらに来るなら、その時にでも」
創立宣言をした後にEUにるというのは具合が悪いため、今ルルーシュは超合集国の調整のために蓬莱島にいる。
正式な同盟が成った後に改めて訪れるという予定になっていた
「解りました、お願いしておきますね」
「この大事な時に、自動発動型とはいえ予知がないのは心細いけど仕方ないか。
幸い頭の切れるゼロがいるから、大丈夫だと思う」
アルフォンスのたのもしい言葉にエリザベスは安堵し、マグヌスファミリアのギアスの能力者はいつでも動けるようにしてあると告げると、エトランジュが普通の人間同士の戦争について語り出した。
「私はEUの副大使として蓬莱島に向かいますが、政治関係については大使のフランスの方にお任せして黒の騎士団本部がある合衆国日本に行くことになると思います。
これまで通り黒の騎士団へ協力する補給を指揮するという名目になるでしょう」
何せ多国籍軍となる黒の騎士団のことは、言語能力の高いエトランジュが適任なのだ。
それは解るのだが戦争の場に引き続き行くことになるエトランジュに、エリザベスは溜息をついた。
「ええ、さすがに副大使ともなるとマグヌスファミリアからも何人か出せという通達があったわ。
王族は多いけど外交や政治関係に長けた者は少ないから、困るのに」
コミニュティを維持するだけで精いっぱいなのでルチアを補佐官として派遣し、エトランジュの護衛としてクライスのように形式的に軍に入って貰ったエトランジュの同級生を寄越すことになった。
「日本は激戦区になるだろうから、ぐれぐれも危ない行動は取らないようにね。
重々それだけは肝に銘じてちょうだい・・・戦争が激化するせいかしら、どうも不安で・・・」
特に息子は専用のナイトメアまで開発して戦場を走り回っているため、エリザベスは気が気でならない。
娘が地下で不自由な生活を強いられ、息子は戦場で危険な作業に従事しているために彼女はいつも不安にさいなまれていた。
「大丈夫だよ母さん。訳の分からない理由で爆弾を投げてくるブリタニアを倒すためなんだから。
何もしなくても勝手に因縁つけて怪我をさせるのがブリタニアだよ?だったら自分で動いて怪我するほうが、よほどマシってもんだよ」
アルフォンスは母にそう笑いかけると、エトランジュに視線を移した。
「エディがやっとここまで味方を集めてブリタニア戦線を完成させたんだよ。
無理やり王位につけさせられたのに立派にその責務を果たしたんだから、母さんも覚悟決めなよ」
「・・・解ってるわ、解ってるの。でも貴方だけのことじゃないのよ?エディを守って、みんなで私達のところに帰って来てちょうだい。
みんな貴方達の帰りを待っているのよ」
「はい、リジー伯母様。こちらの用件が済みましたら一度戻ると、みんなに伝えて下さいな」
エトランジュの嬉しそうな笑みを見て、エリザベスは部屋の隅に置かれていた箱を指さした。
「ああ、以前に贈ったケープがぼろぼろね。新しい物を用意したから、それを着ていきなさい。
まだ一年も使っていないのに、こんなに酷くなって・・・」
エリザベスは日本に行く間際に新しく仕立てたケープがあちこち汚れて擦り切れているのを見て、箱を開けて同じケープを取り出した。
「あら、少し大きくなったのねエディ。少し大きめに作って良かったわ。
今度のはEUで頂いた防寒効果の高い布で作ったのよ。まだまだ寒いから、風邪には気をつけなさい」
青いケープを着せて貰ったエトランジュが箱に視線を移すと、中には他にも下着や鞄、靴や装飾品まである。
「同盟が組まれたらエディがまた外に行くことになるから、綺麗にするのが礼儀だと言ってみんなが作ってくれたのよ。持って行きなさい」
それに添えられたのは友人や家族達からのメッセージカードだった。
“同盟成功おめでとう!!” “ブリタニアに一撃与えたんだってな!よくやった!” “頑張ってるみたいだけど身体大丈夫?戻ってきたらエディの好物のミートパイ作るから楽しみにね!”
「みんな・・・ありがとう・・・」
生活は決して楽ではないだろうに、時間を見ては作ってくれたのだろうそれにエトランジュは嬉しさの余り涙をこぼした。
世界各地が日本解放に沸き返っている中、ブリタニアでは逆の意味で騒然としていた。
「コーネリア姉上が負けた?しかもナイトオブラウンズのノネット・エニアグラムまでも敗北、戦死だと?!」
第六皇子が叫ぶと、通信スクリーンの中で第四皇子は肩をそびやかした。
「妹可愛さに手加減でもしたんじゃないのか?ブリタニア皇族として恥さらしな」
「コーネリアも悩んだんだ・・・死者に対してそんな言い方をするものじゃない」
オデュッセウスが穏やかに叱りつけるが、第四皇子の弾劾は止まらない。
「おかげで各エリアでは反乱の芽が大いに育って、こっちはいい迷惑だ。
日本に続け、とか叫んでうっとおしいことこの上ないので、見せしめのためにナンバーズ殲滅計画を立てている最中ですよ」
「そうよお兄様、私達に逆らうナンバーズなんてやっつけちゃえばいいのよ」
末のカリーヌが笑いながら同意すると、オデュッセウスは大きく溜息をつく。
(だが締め付けるだけでは逆効果だ。始めからユフィの特区のようにしていればここまでにはならなかっただろう。
現にあんなテロさえ起こらなければ、エリア11は治まったはずだ)
三番目の異母妹の案にオデュッセウスは感心し、いずれ自分も視察して各エリアにも建設しやすく出来ればと考えていた。
父皇帝は政治に無関心になって久しかったから、どうせ何も言うまいという打算があったので次に何か催し物があれば参加を申し入れる予定だったのだが、国是主義のブリタニア人のテロという予想外の種にオデュッセウスは唖然とした。
挙句ユーフェミアの反逆宣言、ノネットの敗北、とどめがコーネリアの戦死である。
(だが今になって甘い政策をとれば、ブリタニアが弱体化しているととられて足元を見られる恐れがある。
しかし締め付ければ反発はさらに倍増する・・・どちらもいい案とはいいかねるな)
状況把握能力が高すぎるオデュッセウスは、それ故に思い切った手を取れずにただ右往左往するばかりだ。
と、そこへエリア16にいたシュナイゼルが通信スクリーンに現れた。
「申し訳ありません兄上、遅くなりました」
「いやいいんだよシュナイゼル、よく来てくれたね。
さっそくだがエリア11が黒の騎士団に占拠された件、どうすればいいと思う?」
すぐ下の有能な異母弟なら打開策があるはずだとオデュッセウスが問いかけると、シュナイゼルは即座に答えた。
「EU軍はEU連邦のうち四ヵ国ほどはこちらに取り込むことに成功したので弱体化しましたが、EUが超合集国連合と同盟を組むことを決定したそうです。
よってEU連邦を先に壊滅させ、戦力をこれ以上増加させるのをまず防ぎましょう」
「しかしシュナイゼル兄上、黒の騎士団を放置すればブリタニアはゼロを恐れているとあらぬ風評を立てられます」
第四皇子の反論に、シュナイゼルは涼しげに返した。
「同盟を組んだ以上、黒の騎士団はEUに物資や兵力を提供しなくてはならない。
しかしあちらは各国の兵力を集めたとはいえ、EUを守るために大多数の軍を派遣するわけにはいかない。
向こうもそれを面子や都合からやすやすと受け入れないだろうからね」
こちらが思っていたより早く自分と繋がっていた者達は排斥されたが、いくらでも代わりを作ることが出来るためシュナイゼルにとってはそれほどの痛手ではない。
しかも少ないが今だ逮捕を免れた者達がいるので、彼らに策を授けて動かすことが可能だ。
裏切り者を発見したマオもEUを離れるので、また新しく背信者を送られれば気づくことが出来ない。
シュナイゼルは油断せずに駒をぬかりなく揃え、EUの会議でそういう方向に持っていかせるつもりなのだ。
「つまり、黒の騎士団から無駄に物資を提供させるということですね。
しょせんエリアのことだ、大した供給能力はないでしょうからその隙を狙って討つということですか・・・さすがはシュナイゼル兄上」
特にサクラダイトの産地を奪われたのは痛いが、EUにそれを提供させるように仕向ければ、EUを支配した際にはそれを間接的に手に入ることになる。
その策に納得した第六皇子が引き下がると、シュナイゼルはさらに言った。
「その前に、エリア11にいるブリタニア人に関してですが、それを本国に戻すために話し合いを申し込みましょう。
エリア11にいる者達の安否を知りたいと国民が騒いでいるので、その対処が必要だ。
あちらも正義を建前にしている以上、拒否は出来ないはずだからね」
「それは僕も思っていたよ。よかったら僕が向かうけど・・・」
皇族批判になることを恐れて大きくは騒いでいないが、それでも家族と連絡が取れないと嘆く国民達の姿を見てどうにかするべきだと思っていたオデュッセウスの申し出を、シュナイゼルはやんわりと断った。
「ここは私が行きましょう。
ユフィにはこの一連の出来事について真意を聞きたいですし、他にもいろいろしておきたいことがありますのでね」
「すまないねシュナイゼル・・・エリア11は危険で何が起こるか解らない。
既にルルーシュとナナリーに次いでクロヴィスとコーネリアまでが命を落としているんだ。
君に今更言うまでもないことだけど、くれぐれも注意を怠らないでほしい」
オデュッセウスとしてはだからこそ自分より才能のあるシュナイゼルを危険な地に赴かせることを止めさせたかったのだろうが、正直兄にあのゼロとまともにやり合える能力があるとは思えないと、シュナイゼルはシビアに判断していた。
そしてそう判断された側もそうだろうなと己で理解していたため、あっさりシュナイゼルの言うとおりに彼に任せることにしたのである。
(・・・ルルーシュとナナリーも、か)
シュナイゼルはいつもの笑みを浮かべたまま、その固有名詞を心の中で呟いた。
合衆国ブリタニアに参加します~と飄々と宣言した元後見人だった伯爵と同時に神根島でのユーフェミアの態度を思い返した時、ふと脳裏に浮かんだのは。
七年前自分に勝てないと悔しがっていた十歳とは思えぬチェスの技量を持った末の弟の姿だった。