第二十三話 廻ってきた順番
「うーん、ナイトオブラウンズとも対等にやり合えちゃうなんて、さすが僕のランスロットとデヴァイサー~」
G-1ベースでロイドが久々のランスロットの活躍に小躍りしていると、その後ろで苦々しい表情で煙管をくゆらせているラクシャータがいた。
ロイドがランスロットの整備のためと称していい年をしてダダをこねるようにして同行を願い出ているところに遭遇したラクシャータは、セシルがみっともないからやめろと止めている姿を見てつい彼女を哀れんでしまい、自分が見張りを買って出るから乗せてやってと言ったことを今になって少々後悔している。
何故かゼロが見張っているならいいとあっさり許可したことを恨みたい。
「うちの紅蓮だって、あれくらい出来るわよプリン伯爵。
ってか何であんたこっち来たのー。腹黒皇子の差し金?」
「いやだってランスロットを動かせるスザク君がこっち来るっていうからこっちに来たってのもあるけど~、僕が完成させるはずだったハドロン砲、いじったの君だろー。
僕が完成させるはずだったのに何してくれちゃってんのさ?」
「あんたがちゃっちゃと完成させなかったのが悪いんだろ。
思わぬ共同作業するハメになって、こっちも気持ち悪いったらなかったよ」
バチバチと火花を散らすラクシャータと堂々と『ランスロットの制作者です~。このたびはうちのデヴァイサーがどうもどうも~』と乗り込んできたロイドに、この二人は知り合いなのだろうかと囁き合う。
ちなみに現在G-1ベースの司令室にいるのは六家の象徴にして陣頭に立つことを望んだ神楽耶とエトランジュ、ラクシャータ、情報担当のディートハルト、平和主義のブリタニアの象徴であるユーフェミア、ロイドとセシル、十数名ほどの黒の騎士団員である。
「だったらやらなきゃいいのにさー。まあいいよ、次は僕が君以上の兵器を造ってみせるから」
「あんたにだけは絶対負けらんないね。
カレンをあんなとこに立たすなんてあたしとしてもムカつくけど、まあお父さんの心配ってのも解るからなあ」
現在シュタットフェルトはカレンの父であることもあって比較的自由に動くことを許されており、通信室で愛娘にもうそうろそろ戻ってはどうか、私はお前が心配でと言っては娘から大丈夫、ときには全然出番ないんだから危険なんてないでしょ、などと怒鳴られている。
「あのスザクに出番奪われるなんて!!あームカつく!!」
(娘の代わりに頑張ってくれてありがとう、枢木少佐!)
父親から感謝されている傍で娘から恨まれているスザクは、崩れ落ちた租界の防壁にルルーシュの凄さを改めて思い知っていた。
「さすがだね・・・抜け目ないよ」
「ふん、負ける戦いをするつもりはない。枢木、お前は私に・・・」
「私が行くわ!交代するって言ってくれましたよね、ゼロ!!」
通信機で怒鳴るように要請して来たカレンに、ルルーシュはいやそのままG-1ベースの護衛をと言おうすると、アルカディアが割り込んできた。
「悪いけどこれは私達に譲って貰えない?あれは逃せないの」
「アルカディア様?ですが・・・!」
「戦力を分散する訳にはいかないわ。G-1ベースは私達の要なの、突出した力を持つ貴女が守ってくれたらみんな安心して戦える」
G-1ベースに護衛は必須であり、アルカディアとクライス、ジークフリードの三人でも充分務まると言えば務まるが、コーネリアを討ち取りたいからカレンに任せたいというアルカディアにカレンは悩んだが、家族の仇を取りたいと言うアルカディアの望みはもっともだった。
《・・・貴方の気遣いに感謝する。だが、それは無用だ》
《何のことかしら、ゼロ》
ルルーシュの言葉にアルカディアがとぼけたように言うと、ルルーシュはふっと笑みを浮かべた。
《俺とユフィとの間にわだかまりが残らないよう、貴方がコーネリアを殺そうとしていることですよ》
確かにこの戦争がこちらの勝利で終われば、ユーフェミアに残った家族はルルーシュとナナリーだけだ。
家族の仇だから殺したいと思っているのは事実だろうが、そもそも彼女の機体の性能は蜃気楼以下なのだから、ただでさえ少ない同じ情報処理能力型が揃って出撃するメリットを台無しにするようなことを、自分以上の結果主義のアルカディアがやるわけがない。
このことからルルーシュは自分とユーフェミアとの仲を出来るだけ良好な方向にするためにアルカディアが自分がやると言い出したことに、彼は気付いていた。
アルカディアという人間は、事実を語ることで側面の事実を隠すタイプであることくらい、これまでの付き合いで承知している。
ユーフェミアに恨まれても、それは戦争を始めると決めた時から覚悟していたことなのだから今さらだった。
《ですが俺とユフィを思っているのなら、コーネリアは俺と戦わせて頂きたい。
これはブリタニア皇族の業、俺達がカタをつけるべきものだ》
《・・・そう、なら好きにしたら?私はG-1ベースを守る方に専念する》
ギルフォードを相手にしてもいいが、政庁を攻略するにはやはり黒の騎士団エースとうほうが絵になるし、自分もエトランジュから離れたくはない。
クライスはコーネリアを殺したいと思っていたがアルカディアが言うのならと、従うことにした。
妻であるエドワーディンがコード所有者として生きていることを、彼は既に知っていた。
ゼロ救出作戦時にギアスキャンセラーでエトランジュのギアスが解けた後、慌てて彼女の元で戻ろうとした自分を止めたのは、誰あろうエドワーディンだったから。
『エディは無事よ。大丈夫だから落ち着いてみんなと協力して。
私が生きてることを黙ってたのはクラを信用してなかったわけじゃないわ、信じてくれるでしょう?』
あとでアルカディアを問い詰めたとき、事情を説明された彼は納得した。
だからアルカディアと同様、彼女とはそれ以降連絡を取っていない。
愛する妻が生きていたからと言ってコーネリアに対する殺意が消えたわけではなかったが、それよりもルルーシュへの同情があった。
「解った、気をつけろよ」
「枢木は邪魔をして来るブリタニア兵を追い払ってくれ」
「解ったよ、ゼロ」
「カレンは私と共に来い。ただし、危なくなったら撤退しろよ」
「やった!この紅蓮可翔式があれば、コーネリアの騎士なんてすぐに撃破して見せます!!」
やっと自分の出番が来たと、カレンは驚喜しながらG-1ベースを離れていく。
それを見たシュタットフェルトがカレンの名前を絶叫していたが、哀れ娘は聞いていなかった。
役割が決まったところでカレンはルルーシュと共に政庁を目指して進軍し、アルカディアとクライスは引き返していった。
「なかなか落ちませんね、政庁」
エトランジュが司令室でモニターを見ながら言うと、神楽耶もさすが敵の本拠地と唇を噛んだ。
「スザクが防壁のブリタニア軍を政庁に向かうのを阻止しているとはいえ、民兵以外の兵力差はまだあちらにあるようですわね・・・。
ゼロ様にばかり頼っているようでは世界に日本ここにありと示したことにはなりません。
私達のこの手で、数字をつけられ支配される土地ではなく日本という独立国家であると証明しなくてはならないのです!!」
キョウト六家はすでに各地に散らばり、奪還した地域の統制を取っている。
神楽耶はキョウト六家の筆頭として、安全地帯で吉報を待つなどという真似はその矜持が許さなかった。
「現状はどうなっているのです?」
「政庁に空中から蜃気楼と紅蓮が到着しつつあります!
地上ではグラストンナイツが布陣しており、そちらには藤堂中佐率いる部隊が交戦に入りました!」
「ゼロは屋上から政庁を制圧するつもりのようですね。
コーネリアとギルフォードの姿が見えないところを見ると、あそこで待ち構えているのではないでしょうか?」
エトランジュの推測に皆頷くと、そこが正念場であることを知って唾を飲み込んだ。
「ダールトン将軍はこちらで抑えてあるとはいえ、さすがにグラストンナイツは油断なりませんわ。
防壁の残党を始末し終えたら、スザクを援護に向かわせるべきです」
ダールトンはすでにルルーシュの支配下にあるとはいえそれを公にするには少々不自然すぎたため、彼は特区の一室で監禁中である。
ちなみに閉じ込める前に知っている限りの情報を喋らせると言うおまけつきだった。
使える者は反省して戻ってきた裏切り者の従兄でも使うべきだと言う神楽耶の意見をエトランジュが普通に通信機を使ってルルーシュに伝えると、是の返事が来た。
「さすが神楽耶様、的確なご判断です。
こちらはもうすぐコーネリアと交戦いたしますので、よろしくお願いします」
「お任せ下さいゼロ様!キョウト六家の名にかけて、後方支援の指揮の任務程度はまっとうさせて頂きます!」
愛する夫としているゼロの言葉に神楽耶は舞い上がりながらも、次の瞬間には為政者としての顔でスザクに指示を出す。
「お姉様・・・いえ、コーネリア総督がゼロによって討たれたという報告が来たら、わたくしが降服するように呼び掛けましょう。
その際には彼らの扱いは国際法にのっとって頂きたいのですが」
ユーフェミアの申し出に神楽耶はぴくりと眉を動かしたが、彼女の言い分は至極もっともなものだったのでそれを了承した。
「速やかに抵抗をやめるのであれば、もちろんそうさせて頂きますわユーフェミア皇女。
わたくし達は誇り高き日本人ですもの、条約に従った捕虜の扱いをお約束いたします。
捕虜の方々をブリタニアにお返しする機会があれば、彼らが母国の地を再び踏むことが出来ましょう」
エトランジュは何も言わなかったが、その場にいるだけで既に証人となったことを微笑むことで示している。
十代の少女達が政治の駆け引きをしていると、通信兵が叫ぶように報告した。
「蜃気楼および紅蓮、屋上にて戦闘に入った模様です!」
(お姉様、ルルーシュ・・・!!)
愛する姉と異母兄に挟まれたユーフェミアは内心で泣きたかったがそれを押し隠し、政庁方面を映し出しているモニターをただ眺めることしかできなかった。
「ようこそゼロ。舞踏会はお好きかな?」
屋上で待ち構えていたのは、案の定コーネリアとギルフォードだった。だが他にナイトメアの姿は見当たらず、反応もない。
「貴女となら悪くはないダンスが踊れそうですコーネリア。では一つお相手願いましょう」
ルルーシュはマントをつけたコーネリアの乗機であるグロースターの前にゆっくりと降りていくと、カレンに命じた。
「カレン、君はギルフォードを頼む。邪魔はさせるな」
「了解しました、ゼロ!」
カレンはギルフォードの前に紅蓮可翔式で突っ込んでいくと、ギルフォードはナイトメア戦闘用大型ランスで迎え撃つ。
「黒の騎士団のエースだな・・・姫様の邪魔はさせん!」
「それはこっちの台詞よ!弾けろ、ブリタニアっ!!!」
カレンは呂号乙型特斬刀でギルフォードと斬り合いながら、空中戦を繰り広げている。
「フロートシステムは初めてだけど・・・でも負けてられないわ!
私は日本を解放して、ここで父さんや母さんと前みたいに仲よく暮らすんだ!!」
「エリア11は姫様のもとで衛星エリアに昇格すれば、もっといい暮らしが出来るはずだ!!」
「うるさい、黙れ!!私達はお前達の都合でさんざんな目に遭わされてきたんだ、それが気に入らないってことがまだ解らないの?!
これだからブリタニアは!!」
カレンがスラッシュハーケンをギルフォードに撃ちこむと、彼は避けきれずに機体を損傷させてぐらついたが落下はしなかった。
「私達はもう誰にも支配されない!!ここは日本だ、衛星だの矯正だのというあんた達の都合で決められる場所じゃない!!」
早くカタをつけて、ルルーシュに加勢しなくては。
カレンはそう考えるとギルフォードに猛然と攻撃し、空を舞う。
先に始めた自分達の騎士の戦闘を横目に、コーネリアとルルーシュは静かに向かい合った。
「こんな形でお前と踊る羽目になるとはな・・・」
故クロヴィスがルルーシュとナナリーを偲んで造った屋上庭園は、アリエスの離宮によく似ていた。
芸術家気質のクロヴィスが出来る限りアリエス宮に近づけて造っただけはあり、大きさが違うだけの小さな宮がある。
『ルルーシュ、お前が社交界にデビューするその日には、私がワルツの相手をしてやるからな』
ダンスの練習でたまに相手をしてやっていた日々を思い返して、コーネリアは吹っ切るようにナイトメア戦闘用大型ランスを構えて突進する。
「ゼロ、覚悟!!」
蜃気楼はもともと多くの敵を遠方から一気に殲滅する遠距離戦を得意とするナイトメアで、コーネリアのように接近戦を得意とするナイトメアとは相性が悪い。
だが防御力だけは世界一を誇り、ラクシャータからそれで駄目ならナイトメアにはもう乗るなと言われている。
コーネリアは流れるようにルルーシュに攻撃してくるが、フロートシステムを搭載したばかりで攻撃力自体はまだ上がっていないグロースターでは蜃気楼に傷一つ負わせることが出来ない。
「くっ、何と頑丈なナイトメアだ!」
「絶対守護領域がなくとも、多少の斬撃ならものともしないようだ。さすがはラクシャータ」
ルルーシュはラクシャータを称賛しながらコーネリアから距離を取ると、ハドロンショットの照準をコーネリアに合わせた。
だがコーネリアも距離を取られるやアサルトライフルを撃ちこんできた。
「斬るのが駄目なら、撃つまでだ!!」
「無駄ですよコーネリア。この蜃気楼の前ではその程度の攻撃、ただの射的の弾でしかない!」
ルルーシュは素早くキーボードを操作すると、ドルイドシステムを用いて制御される全方位エネルギーシールド・絶対守護領域を蜃気楼の周囲に展開する。
「なっ・・・なんだそれは?!」
全く傷一つついていないどころか平然と立っている蜃気楼を見て、コーネリアは愕然とした。
あのナイトメアはシュナイゼルの特派が開発した機体だが、システムこそ秀逸だが戦闘しながら動かせるほど単純ではないと聞いている。
そしてそれが出来るのは規格外の頭脳の持ち主だけ、とも。
「絶対守護領域・・・ドルイドシステムをさらに改良したシステムです。
こちらには優秀な科学者がおりますのでね、私用に開発させたものですよ」
「・・・陛下はとんでもない宝を自ら捨て、恐ろしい敵を作ったようだな」
もしルルーシュがブリタニアにいたなら、もっと穏健な形でブリタニアのために貢献してくれただろう。
コーネリアは余計なことばかりしている父を、初めて心底から恨みたくなった。
(あの防御壁を崩すには、接近戦で一気に壊すしか・・・!)
コーネリアはナイトメア戦闘用大型ランスの先に仕込んであるエネルギー回路にエナジーを回すと、ナイトメアの加速装置を最大限に上げた。
(何故だ・・・何故私は戦っているのだろう?)
コーネリアはこれまで、神聖ブリタニア帝国の第二皇女として生まれ育ち、皇族の義務としてマリアンヌのようになりたくて、軍の道へと入って来た。
それが国のため、ユーフェミアのためだと信じて疑っていなかった。
それなのに父は自分にすら秘密にしている計画を持ち、末の弟妹を捨てた。
だからいつ自分達もそうなるのかと怯えて強硬に国是の元で動いていたが、それが尊敬する女性の息子と戦うことになり、愛する妹も自分は間違っていると言われて敵対する組織へと行ってしまうことになるなど、想像すらしていなかった。
どこで何を間違えてしまったのか、もうコーネリアには解らない。
ただ言われるがまま動く戦闘人形、それが自分だ。
「ゼロ!!!」
コーネリアはブースターを動かしてグロースターのスピードを一気に上げると、蜃気楼に向かって突っ込んでいく。
「コーネリア!!」
ルルーシュはハドロンショットを一点に集中し、グロースターの足を完膚なきまでに破壊した。
足が砕け散ったグロースターは自重を支えきれず、そのまま後ろに倒れ込んだ。
「姫様!!」
「逃がすかあっ!」
慌てたギルフォードがコーネリアの元に向かおうとした刹那、カレンはグレネードランチャーを容赦なく撃ち放った。
フロートシステムを破壊されたが安全装置が働いたギルフォードのグロースターは、ゆっくりと屋上の庭園へと落下していく。
コクピットからギルフォードが出て来くると、同じくコーネリアがゆっくりと投げ出されたコクピットから出てきた。
顔から血が流れ、衝撃からか右腕の骨にひびでも入ったのだろう、左手で覆っているのが見えた。
紅蓮可翔式が守るように蜃気楼の前に立つと、蜃気楼からルルーシュが降りてきた。
「お前の勝ちだ、ルルーシュ・・・強くなったな」
「・・・・」
「ナナリーに追いかけっこで負けていたお前がなあ・・・ふふ、こんな形で手合わせにすることになるとは、七年前には思ってもみなかったぞ」
敗者とは思えぬ笑みを浮かべたコーネリアがギルフォードに支えられ、ルルーシュは無表情で仮面を脱いだ。
「・・・私はこれまで、幾多もの植民地を造ってブリタニアに貢献して来た。
今更命乞いは出来んが、下の者達は助けてやって欲しい」
「ええ、既に条約にのっとった捕虜の扱いをすると神楽耶様が表明し、エトランジュ様も同意しました。
しかし責任者だけは例外です。生きて捕まることを選ぶなら、貴女は裁判にかけられることになるでしょう。死刑はまぬがれないものと覚悟して下さい」
「私がして来たことだからな、敗北した相手を戦犯として処刑したのは・・・次は私の番ということか」
因果は巡る。
妹を守って来たから、妹は自分を守ろうとした。
他国を蹂躙し支配し殺戮してきたから、支配された者達は自分を殺そうとした。
人生のツケは人生の一番辛い時になって必ずまとめてくるものだと、どこかで聞いたことがあったが、まったく事実のようだった。
「最後に言い残すことはありますか?」
「・・・一つだけ、尋ねたいことがある。
お前は父上の計画を知っているのだったな・・・何が目的だ?」
銃の照準を自分に合わせながら問うルルーシュを、コーネリアがまっすぐに見据えて尋ねるとルルーシュはゆっくりと答えた。
「・・・くだらない計画ですよ姉上。全世界の意識を一つにするなどという、迷惑極まりない計画です」
ルルーシュがそう言ってギアスのことは言わず世界の人々の意識を一つに束ねて嘘のない世界を創る気らしいと答えると、コーネリアとギルフォードは目を見開いた。
「母もその計画が出来ると信じていたようで、あの男の協力者だったそうですが。
実にバカバカしい計画です。別に信じて頂かなくても結構ですよ、ただ本人が可能と思いこんでやろうとしているだけですから」
「・・・そんな、そんなことのために私はこれまで?」
「そうです。死んでもまた会えるので、世界各地で人が死んで虐げられても問題ないと言う、訳の分からない理論です。
公表しても構いませんが、誰も信じないと思いますよ」
「当たり前だ、公表できるか!確かにシュナイゼル兄上もクロヴィスも、日本の遺跡に興味を示していたが・・・」
いくつも思い当たる節があったコーネリアは地面に疲れたように座り込み、少しうつろな瞳で弟に尋ねた。
「・・・マリアンヌ様の事件、あれもそれに関係していることか?」
「関係していると言えばしていますが、していないと言えばしていませんね」
ルルーシュはそう前置きすると、V.Vのことを話した。
子供の姿のまま生きている父の双子の兄だと教えると、コーネリアは今度こそ絶句した。
「・・・あ!」
(そういえばユフィがあのV.Vなる子供はどこかで見たことがある気がすると・・・確かにペンドラゴンの学園に飾られている陛下の写真とそっくりだ)
そしてそのV.Vが弟を取られたと思い込んでマリアンヌを襲って殺したと聞くと、コーネリアは彼が確かにマリアンヌに対して憎しみを抱いている発言をしていたことを思いだし、末弟がでたらめを言っているとは思えず混乱する。
「姫様、あの子供は『僕の大事な弟をたぶらかしたあの女』とマリアンヌ様のことをそう言っていました」
「・・・ああ、言っていたなギルフォード」
「なるほどね・・・とにかく俺が調べた限りではそういう結果になりました。
遺跡を手に入れるために必要だったから、俺とナナリーを日本にやったんです。
兄から守るためと言いながら、死んでもまた会えるから構わないと、そんなバカな考えで、です」
「V.V・・・不老不死というやつか?」
「冷凍保存とか、成長を遅らせるとかそんな実験かもしれませんね。
事実そう言う人体実験を行っていたのは、貴女もご存じのはずですが」
「・・・ああ、確かにな」
ジェレミアを思い浮かべたコーネリアは頭痛がする頭を押さえて、世界を一つにするなどという現象以外はある程度筋の通った理論を聞いていた。
荒唐無稽な話を何を馬鹿な、と一笑に付すのは容易い。だが確かに信じて貰わなくてもいいと言うような話をしてどうなるのか、と考えれば、少なくとも父シャルルは現実に実現可能であると信じて行動していると考えるべきだろう。
あの日の通信室で、シャルルとルルーシュとの会話が綺麗に成立していたことがそれを証明している。
ルルーシュはコードとギアスについては言わず、現実味を帯びたように言い変えているだけだったが、コーネリアは疑うよりも一応の辻褄が合い過ぎているせいでその説明を否定出来ないでいる。
シャルルの言動、実際にあった遺跡、興味を示していたシュナイゼルとクロヴィス、さらに妙な人体実験の様子にV.Vなる者が統括している機関など、ルルーシュの説明と合致していることがあまりにも多かったからだ。
「もしそれを本当に陛下が考えているとすれば、あまりにも愚かだ・・・既に差国是主義が浸透している中で、ナンバーズの考えなど知ったところでどうなるというのか・・・」
互いの考えを知ったところで、あるのは恨みつらみの応酬だろう。
怨念と憎悪の塊をぶつけられるのがどれほどのものか、コーネリアはすでに嫌というほど思い知っている。
「・・・解った、もういい。恐ろしいものだな疑問に思わないと言うことは・・・」
「姫様・・・」
『強盗殺人を家業にしているような人間に折る膝はない』
マグヌスファミリアの前国王アドリスが、降服を呼びかけた際コーネリアに叩きつけた台詞だ。
あの時は侮辱されたと激怒したものだが、彼はただブリタニア以外の国からブリタニアという国のありようを端的に表したに過ぎなかったのだろう。
あの時に自分がどう見られているかをしっかり受け止めていたならサイタマの虐殺に繋げることはなく、末弟は自分を信じてくれていたかもしれない。
「何故言われたのかと少しでも考えていたら・・・はは、何もかも遅すぎたな」
「・・・エトランジュ様は反省しているなら許してもいいと言えるお方です。ですが反省をしていない人を許すわけにはいかないそうです」
恨み続けるにも力がいるのだ、恨みの連鎖に身を置きたくないとルルーシュから聞くと、コーネリアは小さく笑った。
「知っている。あのマグヌスファミリアの女王の従兄だという男、アルフォンスといったな・・・あいつがユフィとお前達のやり取りをすべて私に聞かせていたからな」
「・・・・!そうですか」
いらぬお節介を、とルルーシュは思ったが、どうりでコーネリアがいっこうに自分やユーフェミアを糾弾しないわけだと納得した。
「『これ以上何も言わせるな』とな・・・ああいう人間が反ブリタニア陣営にいることは、ブリタニアにとって幸運と言わねばならんのだろうな」
コーネリアはユーフェミアに同情してあのような行動を取ったのだろうアルフォンスを思い返して、エドワードとして自分達の前に現れた時から気が回る男だと認めていたことを思い出した。
「命だけなら助けられなくはない、とあの男は言った。そして私に生き地獄を見て貰うしかない、ともな。
だがそんな私を助ければ、お前とユフィの立場がまずくなる。
マグヌスファミリアの連中は私を虐げることはしないだろうが、逆に助けることもするまいよ。自分達の地位を保つことで精いっぱいなのだからな」
恐らくコーネリアが何をされようとも、自分達の不利になる場合を除いて助けたりはしないだろう。
そんな余裕が彼らにあるとは思えず、またそんな義理もないからだ。
「そう、みんな罪を許すだけの余裕がない。だから貴女を殺して終わりにしたいと思っている。
エトランジュ様もアルフォンスも、家族を大事にしている人間を見ればそれに手を貸して笑うことが出来る人でした。
それでも妹を守ろうと必死になっていると知っている貴女を、手段を選ばず殺そうとしたんです・・・戦争は人を変える」
「・・・そうだな、みんな変わってしまった。私もルルーシュもクロヴィスも、そしてナナリーもユフィもだ」
変わって欲しくなかったから箱庭で大事にしていたつもりだったのに、多くの選択肢を間違えてしまった。
人命を尊重する戦いが出来る余裕があったのに、それを無視して命を奪った。
ナンバーズという数字で見ていたから気にしたのは生産量だのどの割合でブリタニアのためになるかだのそんなことばかりで、その中にたった一つの命として見る者がいることを忘れていた。
「姉上・・・俺はブリタニアをぶっ壊す!そしてこの戦争を終わらせて世界を変える」
「姉と呼んでくれたか・・・ありがとうルルーシュ」
コーネリアは知りたいことを知り、心残りだった妹もこの末弟やむやみに争いを招かない者達が彼女の傍にいるのならもはや思い残すことはないと、自らのこめかみに銃を当てた。
「ユフィとお前が作る世界を見ることが出来ないのが残念だ。やるからには勝て!それがブリタニアの業だ」
「・・・・」
「お前達が断ち切ってくれることを、マリアンヌ様と共に見守らせて貰う」
そう言ってコーネリアは穏やかな笑みを浮かべながら、銃の引き金を引いた。
響き渡る銃声。
すさまじい爆発音が政庁の屋上に響き渡ると、政庁の外で戦っていた黒の騎士団とブリタニア軍はいっせいにそちらに視線を集めた。
煙が舞い上がる中で二体のナイトメアが浮かび上がる。
「コーネリア様のグロースターか?!」
「へっ、ゼロの蜃気楼に決まってるだろ、バーカ!」
どちらのリーダーの機体かと固唾を飲んで見守ると煙から現れたのは、蜃気楼とそれを守る紅蓮可翔式だった。
「ゼロだ!!ゼロがコーネリアを倒したぞ!!」
「黒の騎士団の勝ちだ!!日本の勝利だ!!」
うおお、と歓声が上がる中で、ブリタニア軍は唖然としている、
「まさか、コーネリア殿下が・・・あり得ん!!」
「おい、殿下のご指示を仰げ!!・・・だめだ、連絡がつかない・・・」
呆然と蜃気楼を見上げるブリタニア軍に、ルルーシュは勝利を宣告した。
「コーネリアは私が討った!!同様に彼女の騎士ギルフォードは、私の親衛隊長である紅月 カレンが倒した。我らの勝利だ!!」
「ゼロ、ゼロ、ゼロ!!」
「ご覧ください、これまで虐げられてきた日本人のために立ちあがったゼロが、見事コーネリアを倒しました!!
正義は勝ったのです!!ゼロの勝利です!!」
興奮することしきりでディートハルトが炎上する政庁をカメラに収めながら繰り返し絶叫して放送すると、日本各地で歓声が起こった。
(素晴らしい、さすがはゼロ!!本当に一年足らずで日本を解放した!
まさにカオス、奇跡の体現者だ!!)
「ブリタニア軍の皆さん、私はユーフェミアです。
黒の騎士団にいらっしゃる日本の皇族の方である神楽耶様には、貴方がたは捕虜として国際条約にのっとった扱いをして下さると約束して下さいました。
いずれ捕虜交換などの折には、本国にお返しするとのことです。
武装を解いてゼロの指示に従ってください!繰り返します・・・」
G-1ベースから聞こえてくるユーフェミアに指示に、指揮官のいないブリタニア軍はどうすることも出来ずに指示に従いだした。
燃えさかる政庁に消火指示を出しながら、ルルーシュは大きく日本の国旗と黒の騎士団の旗をはためかせた政庁の門前へと降り立った。
トウキョウ租界、陥落。
神聖ブリタニア帝国の植民地が初めて解放された瞬間だった。