第二十二話 騎士の意地
ヒョウゴブロック、コウベ租界。
かつて空・海・陸の物流の要として知られ、今はカンサイブロック最大の都市にあるコウベ租界は、今黒の騎士団によって完全に包囲されていた。
指揮を執るのは四聖剣の一人・朝比奈である。
「黒の騎士団の皆様、いよいよ日本が解放される時が参りました!
私達マグヌスファミリアはろくなお手伝いも出来ず恐縮ですが、この日本か解放されれば他の植民地にされている国々の大きな希望になります。
お願いするばかりで申し訳ありませんが、どうか皆様のご活躍をお祈りさせて下さい!!」
ヒョウゴにある黒の騎士団基地でエトランジュがモニターを使って黒の騎士団員達に向かって檄を飛ばすと、玉城が拳を突き上げた。
「よっしゃ、任せて下さいエトランジュ様!!
おめーら聞いたか!俺ら日本人が先駆けてブリタニアから独立すりゃ、日本ここにありって世界に示されることになるんだ!!
行くぞ、おめーら!!」
「おうっ!!」
士気を最高に上げた団員達が持ち場へ足取り強く向かっていく姿に、エトランジュは頑張って下さい、応援していますと声をかけていく。
(エトランジュ様って、ゼロが誘拐された時もそうだったけど人をその気にさせるのすごい上手だよな~。自分がやらなきゃって気にさせるのがうまいっていうか・・・。
まあ玉城みたいにノリやすいのが日本人の国民性ってのも大きいだろうけど)
相手を自然に持ち上げて士気を高めるエトランジュに、朝比奈は感心したものだ。
成功すればいずれ創立される超合集国において日本の力がトップになれるが、失敗すればすべてが終わる。
ここは空港も港もある都市だから、早めに陥落させればエトランジュを通じて海外からの援護物資を受け入れることが容易になる。
暁直参仕様は襲いかかってくるナイトメアを蹴散らし、地方庁に向けて前進していた。
「日本を守れ!ブリタニアを倒せ!!」
「ビルなんぞいくら倒しても構へんわ!また創り直せばええ!!
この日本はなあ、災害大国や言われてたんや、何度酷い天災に見舞われても、何回でも立ち直って来たんや・・・!
それに比べたら人災なんか物の数にも入らん、何年かかってもええ、絶対元に戻してみせるわ!!」
何が起こっても、再び蘇ってみせる。
何によって破壊されようとも、以前よりも強く美しい街並みをこの手で生み出してみせる。
日の丸を掲げて応戦してくる黒の騎士団にブリタニア軍は押され、朝比奈が小型ミサイルを撃って地方庁の防壁を薙ぎ払った。
「血路は開かれた、全軍突撃!!
ただし一般のブリタニア人に対する暴行・殺害は一切禁止する!!
我々は誇り高き日本人だ、無駄な恨みを買うブリタニアと同じ愚は犯すな!!」
朝比奈がオープンチャンネルで何度も繰り返すと、ユーフェミアの反逆宣言を聞いていた騎士団員は一切の危害を加えないので英語で家から出ないようにと指示を出す。
コウベ租界は最後まで抵抗をしていたが、アルフォンスが特区協力員としてカレンと各地を回っていた時にこっそり細工していたシステムを動かされ、地方庁は陥落した。
地方長官はVTOLで逃亡したが、どうせ逃走した先で処罰されることは明白なのであえて放置した。
「見い、カンサイ地方庁に日の丸が揚がったで!!北海道に続いて、関西が日本に戻った!!」
「よし、四聖剣の面目は保たれたな。
じゃあ手筈通り統治はキョウト六家の宗像公にお任せして、俺達はトウキョウに向かいます」
朝比奈が通信機を使って藤堂に報告すると、藤堂は頷いた。
「経済特区日本に置かれてあったG-1ベースを使い、トウキョウ租界を目指すそうだ。
エトランジュ様と、それからユーフェミア皇女も行くそうだが」
「あのお姫様、ねえ・・・情があるんでしょうけど、いいんですか?」
「そう思う気持ちは解らんでもないが、それは我々の職務外のこと、口に出してはならん。エトランジュ様が見張りとして彼女についているそうだ。
日本人の支持もある以上、うかつなことは出来んしな・・・ともかく日本解放が先だ」
「確かに・・・では至急団員達をまとめてトウキョウへ向かいます」
朝比奈は通信を切ると、日本の旗が翻ったカンサイ地方庁を背にして、黒の騎士団とともに東へと進路を進めるのだった。
「エリア11内の租界の半数が陥落しました。
現在ゼロ率いる部隊が経済特区フジに駐屯していますが、周囲の基地が藤堂率いる騎士団によって破壊されており、軍が出せません」
わずか二日で前から各地に散らせた兵で手際よく日本を解放していくルルーシュに、コーネリアはトウキョウ租界でルルーシュを迎え撃つことを決めた。
地方を解放してからは指揮官のみをVOTLでトウキョウに向かわせており、数時間後にはトウキョウに戻ってくるだろう。
「黒の騎士団のほとんどは民兵だ、ゼロを討てば収まる!!
トウキョウ租界は城塞都市でもある、ここで奴らを迎撃するのだ」
「本国へ援軍を要請いたしますか?」
「他エリアはこの機に乗じて連鎖的に反乱が起きる危険があるゆえ、要請は出来ぬ。
本国からでは間に合わん。兵力としては数では劣るが質は我らが上だ、その必要はない」
コーネリアがそう言った刹那、会議室のドアが開いて紫色のマントを翻した女性が入室して豪快に叫んだ。
「軍は無理でも、ナイトオブラウンズならいるぞ!」
「ノネット!!いつエリア11へ?!」
驚いたように立ち上がるコーネリアに、ノネットは笑いながら答えた。
「つい先ほどですよコーネリア殿下。着任は来週からですが、驚かせようと思って早めに来たのですが・・・」
私的な面ではコーネリアを士官学校の先輩後輩でもある友人として呼び捨てにするノネットだが、ここは公的な場であるためノネットは敬語で話しかける。
「しかしそれは正解だったようですね。この機会にモニカの仇を討ってくれよう!
我が機体、アグロヴァルに先陣を切らせて頂きたい」
ゼロの正体を知らぬノネットの申し出にコーネリアはためらったが、それに反対する理由は公にはない。
「・・・ユーフェミア皇女の件は、私からも陛下にお願いしよう。
ゼロに甘言を吹き込まれてあんなことを言わされたに決まっているのですから」
「エニアグラム卿、そのことは・・・」
何やら複雑そうな顔でギルフォードが口にしないように言って来たのでノネットは眉をひそめたが、後で尋ねることにしてこの場は作戦を決めることを優先した。
「特派のランスロット・・・イレヴンの騎士しか扱えぬと聞いて、エリア11に来た折にはぜひ手合わせをと思っていたが」
「特区を守るべくランスロットが動いたようで、派遣した部隊は全滅させられた模様です。
今はゼロについていったユーフェミア様を護衛すべく、ランスロット同様奪取したG-1ベースにて進軍しており、現在特区には一部隊が補給基地の指揮を兼ねて残っているようです」
その補給部隊の指揮を執っているのは、副指令の扇である。
戦場の責任者は藤堂だし、補給も重要な任務ゆえ、彼に任されたのだ。
「一部隊をたった一機で?なるほどイレヴンのくせにやるものだ。
ユーフェミア皇女の騎士を選ぶ目に間違いはなかったようですね」
素直に賞賛するノネットはトウキョウ租界の防壁に自ら立ち、コーネリアは政庁で全体指揮と防衛に当たることが決定して各々準備に散っていく。
会議が終わってコーネリアとともにノネットが彼女の私室に入ると、エリア11に赴任する直前に会って以来一度も会わなかった友人の憔悴しきった顔を見て無理もないと溜息を吐く。
「ユーフェミア皇女がゼロに何を言われたが知らないが、私が必ず取り戻してみせる。
皇位継承権は諦めて貰うしかないが、代わりによき婿を選んで降嫁するなどの手段があるはずだ。
そうだ、ナイトオブスリーのジノ・ヴァインベルグなどはどうだ?少々軽い男だが・・・」
「・・・違う、違うんだノネット。ゼロはユフィをたぶらかしてなどいない」
ノネットはてっきりコーネリアはゼロに対して怒り心頭だと思っていたが、むしろ庇うような言い方をしていることに驚いた。
「どうしたんだ、いったい・・・何があった?」
最近コーネリアの態度がイレヴンに甘いことを不思議に思ってはいたが、妹可愛さからだと判断していたノネットに、コーネリアは告げた。
「ゼロはルルーシュだったんだ。マリアンヌ様の忘れ形見が、生きて・・・」
「な、なんだと!!それは間違いないのか、コーネリア?!」
「ああ、何度か話もしたし会った・・・陛下もご存じだ」
自分が尊敬する先輩でもあるノネットに、一人思い悩んで抱えるのに疲れたコーネリアがこれまでのことを話すとノネットは唖然とした。
「・・・ルルーシュ殿下とナナリー殿下を殺そうとしたのは、陛下だと?
それに憤ってゼロになったと言うのか?まさか、そんな・・・」
「陛下自身も暗にお認めになっていた。だからブリタニアを壊してやると、ナナリーも私の敵だと言って・・・」
「・・・マリアンヌ様の御子息がゼロ・・・そんなことがバレたら大ごとだぞ、コーネリア!」
「解っている!だからお前にも話したんだ。今回のユフィの反逆は、どうもあの子の独断らしい」
コーネリアがルルーシュから聞いたプランを話すと、ぬか喜びさせるだけのことを言うほど愚かな末弟ではないと言うコーネリアに、ノネットは予想外の事態に髪をかき上げた。
「・・・解った、ルルーシュ様は無傷で捕えよう。適当な人間にゼロの仮面を被せて処刑したことにして、何とか保護するんだ。
マリアンヌ様には私もお世話になったんだ、助力は惜しまん」
コーネリアが日本人に甘い政策を行いだした理由を知ったノネットは、自分もなるべく日本人を殺さず戦うことにした。
とはいえさすがに藤堂や四聖剣などに対しては手加減は出来ないので一般兵のみになるだろうが、コーネリアの顔を立てねばならない。
と、そこへ部屋の扉がノックされ、ギルフォードの声が聞こえてきた。
「お話し中失礼いたします姫様。シュナイゼル殿下からご連絡が入りましたが、いかがなさいますか?」
「兄上が?・・・解った、こちらに回してくれ」
「承知いたしました」
ギルフォードが通信室からコーネリアの部屋に回線を回すと、テレビモニターにシュナイゼルの顔が現れた。
「報告は聞いたよ、コーネリア。まさかユフィが反逆するとは、私も驚いたよ」
滅多なことでは感情の揺らぎなど見せないシュナイゼルだが、ユーフェミアの反逆宣言には少し驚いた。
“少し”なのはユーフェミアの性格からして激怒する事件であるのは確かである上、神根島でもエトランジュと話して彼女との間にちょっとした関係が出来上がっていることを予想していたからである。
ユーフェミアは先に自分が黒の騎士団に参加表明することで姉の助命を願うつもりだろうと、的確に予測していたのだ。
むしろいきなり宗旨替えして日本人を虐殺するなどの行為だったなら、シュナイゼルは目を見開いて驚いたに違いない。
「おおかたゼロが余計なことを吹き込んだのだろうけど、私もあの子が心配だ。
こちらでも何とかしてみるから、安心しなさい」
「シュナイゼル兄上・・・お気遣いありがとうございます」
「代わりにと言っては悪いが、こちらも君に頼みがある。
今恐らく黒の騎士団にいるだろうマグヌスファミリアの女王、エトランジュ・アイリス・ポンティキュラスを生きたまま捕えて貰いたい」
シュナイゼルの依頼にコーネリアが眉をひそめると、シュナイゼルはいつものように穏やかな笑みを浮かべたまま説明した。
「血の紋章事件で亡命したバテ公爵の娘であるイザベル・バテが、マグヌスファミリアの教師として住んでいることが判明したんだ。
皇籍から外れて降嫁した陛下の異母姉の娘だよ」
「な・・・・!」
「現在ブリタニアから亡命したブリタニア人達のまとめ役として、いろいろ暗躍しているようでね、どうもエトランジュ女王の父王と大学時代に知り合っていたようだ。
いくら亡命しているとはいえ、ユフィに続いて皇族に連なる者が反ブリタニア活動をしていたことをこのタイミングで知られるのは、あまり良くないからね」
エトランジュ達がルルーシュがブリタニア皇族と知りながらあっさり仲間になった理由を知ったコーネリアは、力なく頷いて了承した。
「・・・承知しました。もし彼女らを見つけた場合は速やかにそちらにお送りします」
「ありがとう。それともう一つ、君に聞きたいことがあってね」
「何でしょうか?」
「マグヌスファミリアを侵攻した時のことなんだが、当初の予定より侵攻する日にちが三日、早まっているね。それは何故だい?」
唐突な質問だったが答えないわけにもいかず、コーネリアはすぐに答えた。
「皇帝陛下のご命令です。あんな小国に時間をかけるな、国王を捕えろと」
「国王・・・エトランジュ女王の父であるアドリス王のことだね」
コーネリアが頷くと、シュナイゼルは侵略地の王族や指導者に興味など示したことのない父にしては妙な命令だと思ったが、顔には出さなかった。
「・・・もしそれがなかったら、国民達はみな脱出に成功していただろうね」
定期船とは別に船を借りて国民の脱出に力を尽くしていたマグヌスファミリアだったが、突然の侵攻に驚き最後の船が出ることが不可能になった何十人かの国民が居残った。
アドリスが通信で国に居残ったことを聞いたコーネリアがマグヌスファミリアの国土を侵攻したが最後の意地で抵抗され、城を土砂に埋もれさせて自害した。
「だいたいは解ったよ。中華では話し合いに失敗したが、もう一度その機会を持ちたいと思ってね。
殺し合いばかりで解決するのは悲しいことだからね・・・丁重に扱ってほしい」
「解りました。では私はゼロを迎え撃ちます」
「うん、期待しているよコーネリア。では健闘を祈るよ」
シュナイゼルが通信を切った後、ノネットはマグヌスファミリアが黒の騎士団に加担していることは聞いていたが、帝国宰相たるシュナイゼルが気にかけるほどであることに少し驚いた。
「マグヌスファミリアの連中は、ゼロの正体を知っているのか?」
「ああ、知っていてルルーシュに従っているそうだ。
元からブリタニア皇族に連なる人間がいたから、気にならなかったようだな」
まさかルルーシュやナナリー以外にもいたとは思わなかったコーネリアだが、思っていたよりエトランジュが持つブリタニア人の人脈が大きいことに気付いた。
「・・・ノネット、そろそろ時間だ。出るぞ」
「解った、ルルーシュ様のことは任せておけ。必ず生きて保護してみせる」
ノネットがマントを翻して私室を出ると、コーネリアはパソコンを開いて文字を討ち始めた。
トウキョウ租界では市民に外出禁止令が出され、市民が戦々恐々としていたがユーフェミアが黒の騎士団にいるのなら大丈夫かもしれないと楽観している者もそこそこいた。
トウキョウ租界には各租界を放棄し、日本にいるブリタニア軍を結集して黒の騎士団を迎撃せんと待ち構えており、その先陣を切るのはナイトオブナインのノネット・エニアグラムである。
(マリアンヌ様とルルーシュ様には申し訳ないが、私はシャルル陛下に忠誠を誓った身ゆえ、あの方のなさることに異は唱えられん。
だがお命だけはお守りいたしますゆえ、どうか・・・!)
シャルルは結果さえ己の思うとおりにいくのなら多少の命令違反や勝手な行動は気にしないため、ノネットはこの反乱を鎮めればルルーシュとナナリーをコーネリアとともに保護しても咎められることはないと解っていた。
彼女は彼女なりにルルーシュやナナリーに同情していたが、それはアルカディアの言うところの“ブリタニアらしい独善さ”でしかないことに気づかない。
そしてそのノネットと相対するのは、久々にスザクが操るランスロットであった。
いつの間にやらロイドがフロートシステムをつけて若干改造してあるが、一度特区攻防戦で出撃しただけでカンを取り戻してコツをつかんだ彼は、見事な動きで黒の騎士団の戦列に加わっていた。
一方、黒の騎士団エースである紅蓮可翔式のパイロットであるカレンはというと、移動基地でもあるG-1ベースの近辺で苛立った表情で護衛に当たっていた。
なぜこうなったかというと、話はユーフェミアの反逆宣言の少し前、ユーフェミアが反逆すると官僚の前で言い出した時に遡る。
それを聞いた時数名が彼女についていくと表明したが、シュタットフェルトだけは失敗した時娘がどうなるのかとためらいを見せた。
その態度でユーフェミアはカレンが正体を父にすら秘匿していることを知ったが自分がバラしてもいいものか迷ったため、御令嬢と相談なさってはどうかと提案した。
シュタットフェルトはそれもそうだと思い、慌てて会議室を飛び出してカレンに電話をかけた。
特区の方を扇に任せて自分は紅蓮の元へ行こうとしていたカレンは、父には悪いが事実を告げようと携帯を手にした瞬間に彼からかかって来た電話を取ると、シュタットフェルトは事情を説明して尋ねた。
『ユーフェミア様は黒の騎士団に入って、新たな道を探すと仰っておいでなんだ。
もう特区は続かないから、そのほうがいいと・・・お前はどう思う?』
『え、ユーフェミア皇女が?本当に?!』
仰天したカレンは父はリスクが高すぎるから中立の方が無難だ、お前や百合子のためにも・・・と慎重に動きたがる父を一喝した。
『もうこうなったら仕方ないでしょ!ユーフェミア皇女についていけばいいわ!』
『だが、リスクが・・・』
『もうリスクなんて最大限にあるわよ。だって私、ゼロの親衛隊長なんだもの!』
既に黒の騎士団の幹部だと言う事実をカミングアウトした娘に、シュタットフェルトはめまいがした。
しかも黒の騎士団のエースであり、コーネリアを追いつめたこともあると告げられたシュタットフェルトは腹をくくるしかなくなり、ユーフェミアの反逆に参加したのだった。
その後カレンはルルーシュから特区に紅蓮を運ぶと言われたので特区に留まって父に会いに行くと、彼は娘を思いきりひっぱたいた。
『お前は、どれだけ親に心配をかければ気が済むのだ!』
危険なことはするなとあれほど、若い娘が何故ナイトメアなんぞに、また勝手に危ないことをする気かと極めて正当な叱責をカレンは素直に聞いていたが、それでも兄の念願だった日本の解放だけは譲れないと訴える娘に、シュタットフェルトは根負けした。
ただし、彼は据わった目でゼロに哀願した。
『む、娘を前線に出すのはやめてくれ!!もう私には娘と百合子しかいないんだ!!
財産はすべて騎士団に提供するから、それだけは・・・・!』
必死で頭を下げるシュタットフェルトに正直カレンの戦線離脱は痛かったが、ランスロットに代わりに先頭に立たせるかとルルーシュはそれを受け入れた。
『ゼロ、私に出るなというのですか?!この日本解放の大事な時に!!』
『君には私の護衛をして貰う。ここにはエトランジュ様もいるしユーフェミア皇女もいるからブリタニアが奪還するために襲いかかってくる可能性があるから、生半可な者を残していくわけにはいかない。
私自身もここで指揮を執る身だ、親衛隊長たる君が離れるのもどうかと思う。
常に私の傍にいて貰う分には構わないだろう?シュタットフェルト辺境伯』
当初はスザクにやらせるつもりだったが交代させるというルルーシュに、カレンはじろりとスザクを睨みつける。
『え、僕のせい?!』
『それなら結構だ。カレン、そうしてくれ!私もG-1ベースにいるからな』
さんざん心配をかけてしまった自覚のあるカレンは父に言われてもまだ嫌がったが、小声で『ランスロットのエナジーが切れたら、君と交替だ。恐らく政庁が陥落する前後に切れるだろうから、その後は俺も出るから護衛を頼む』と言われ、渋々納得したのである。
常に自分の傍にいて貰うと言って了承を得たのだから少々強引でも嘘は言っていないと言うルルーシュに、防壁はスザクに任せるが政庁攻防戦に参加するのを待ちながらG-1ベースを護衛している次第である。
黒の騎士団でもランスロットを先頭に立たせることに異論が出たが、ユーフェミア自身はG-1ベースに残ることと、日本最後の首相の息子がブリタニアの支配を受け入れて日本が少しでも良い地位にいられる努力を重ねていたのにそれを台無しにされてようやく目が覚めたのだからやらせてやれというゼロの鶴の一声に、藤堂と桐原が同意したことにより実現した。
『おほほほ、これで無様に負けでもしたらキョウト六家の恥・・・死んでも政庁を落としてきて下さいませね、親愛なるお従兄様?』
強引に合流して来たかつての婚約者であり従妹でもある神楽耶に笑顔で脅しをかけられ、死んでもいいけど失敗しないでねという無情な声援をアルカディアに送られたスザクはランスロットで出撃したのである。
「お前はユーフェミア様の騎士だな!お前とこんな形で手合わせすることになろうとは・・・!」
「貴方は・・・?」
「私はナイトオブラウンズのナイトオブナイン、ノネット・エニアグラムだ!
イレヴンでありながらユーフェミア皇女の騎士にまでなったその実力、こんな形で試すことになるとは思っていなかったぞ」
「ナイトオブラウンズ・・・!」
まさか来ていたとは思わなかったスザクは息を呑んだが、負けは許されないとスザクはメーザーバイブレーションソードを構えてノネットの機体であるアグロヴァルと相対した。
カレンの代わりとはいえ日本解放の先陣を任せてくれた親友のため、自らの主君であるユーフェミアの居場所を造るため、そして何より自身の望みである日本の解放を果たすためにも、自分は勝たねばならないのだ。
『スザク、必ず生きて戻ってきて下さい。新たな日本を、ブリタニアを、そして世界を貴方とともに私は見たいの』
「何としても、そこを通して頂きます!ラウンズは僕に任せて、藤堂さん達は防壁まで道を開けて下さい!」
防壁を無効化するにはルルーシュが必要で、その彼を安全な場所に立たせる必要があった藤堂は頷くと、他のブリタニア軍のナイトメアに斬りかかっていく。
「藤堂 鏡志朗、まかりとおる!!」
「我ら四聖剣の名にかけて、そこは通させて貰うぞ!!」
「防壁が崩されれば、政庁まで直進されるぞ!守り抜け!!!」
「オールハイル・ブリタニア!!」
「日本をこの手に取り戻せ!!!」
黒の騎士団とブリタニア軍が乱戦している中で、スザクはアグロヴァルのナイトメア戦闘用ランスをかわし、メーザーバイブレーションソードでそれを打ち落とした。
「やるな!だが甘いっ!」
ノネットはスラッシュハリケーンを接近しているランスロットの腹部に直撃させると、装甲は亀裂が少し入ったがスザクはすぐに態勢を整え直し、フロートシステムを使って空中へと飛ぶ。
アグロヴァルにもフロートシステムが取り付けられているので、すぐにランスロットの後を追いもう一撃とばかりにスラッシュハーケンを撃ち放ったがスザクはすぐさま左に回避し、少し距離を取ってからヴァリスをアグロヴァルに撃ち放つ。
「なっ・・・!」
あり得ない反応速度にノネットは驚愕したが、直撃は何とか避けられたものの右腕が一部ダメージを受けてしまった。
「やるな・・・それだけの力があれば、ナイトオブラウンズも夢とはいえなかっただろうに、惜しいものだ!」
「確かに、それを夢見た時はあった・・・でも、ブリタニアの中で得る力ほど不安定な物はないとこの事件が証明しているくらい、僕にだって解る!!
それに僕には、地位や権力なんかより大事なものがある!!」
七年もの間耐え忍んできた日本人達が、ようやく手が届いた解放。
ささやかな箱庭ですら差別主義にとらわれたブリタニア人の前ではほんの数ヶ月咲いただけの花に終わってしまうことを知った今、親友の言うとおりブリタニアを内部から変えることは出来ないと思い知った。
「僕も残念ですよナイトオブナインの方。ナンバーズであっても認めてくれる人がいるのなら、以前の僕ならナイトオブラウンズも悪くないと思えたかもしれません。
だけど、ブリタニアが変わらない限り無理なんです・・・皆が手を取り合える平和な世界は、今のままでは手に入らない」
ランスロットは高性能な分、エネルギーの消費が激しい。そのため短期で決着をつけなくては不利になる。
スザクはこれ以上戦闘を長引かせるのはまずいと判断したこともあり、強化型スラッシュハリケーンを撃つべくパスワードを打ち込みながらアグロヴァルに照準を合わせた。
ノネットも右腕が半分動けない状態になった今接近戦は不利だと判断し、小型ミサイルの使用を決めた。
小型ミサイルとはいえ破壊力はナイトメアに搭載出来る中では最高の攻撃力を誇り、まともに食らえばナイトオブラウンズの機体ですら木っ端みじんになる代物で、対ゼロ用に開発されたものだった。
ゼロがマリアンヌの子息である以上まさか使う訳にもいかぬと未使用のままで終わるはずが、まさか役に立つとは思わなかった。
「・・・これをゼロ以外の者に使うことになろうとはな」
パスワード入力などの手間がないノネットの方が、動きは早い。右腕が半分動かないと言うハンデをものともせず、ランスロットに向けてミサイルを発射した。
「喜べ枢木!ゼロを葬るための特別製ミサイルだ、光栄に思うがいい!!」
「な・・・今避ければ藤堂さん達も巻き添えに・・・!」
スザクはミサイルに向けて強化型スラッシュハリケーンを撃ちこみ、軌道を変えて上空で爆発させると、その隙を突いて突っ込んできたアグロヴァルの攻撃をもろに食らって落下しかけたが何とか持ち直した。
(エナジーがもうすぐ切れる・・・まずいな)
強化型スラッシュハリケーンを使用したせいで、エナジーフィラーの残量が大幅に減ってしまっている。
だがせめてこのナイトオブラウンズだけは仕留めなくては、ルルーシュやユーフェミアの面目が立たない。
しかし動くのが精いっぱいな中、自分に何が出来るのかと考え始めた時、ノネットは驚いた。
「あれは、ゼロ?!」
「え?」
ノネットの声にスザクがモニターに目を移すと、そこにはまごうかたなきルルーシュの機体である蜃気楼が飛来して来た。
「なんで・・・ここに?」
「全く、味方になっても手間ばかり掛けさせてくれるなお前は」
ルルーシュは呆れながらそう言うと、ノネットにハドロンショットを撃ちながらスザクを守るように立った。
ノネットはかろうじてよけることは出来たが蜃気楼とランスロットに近づくことが出来ず、舌打ちした。
「防壁を崩すには、私の仕込みを発動させる必要があるから来たんだ。
別にお前だけのためというわけではない」
《スザクのピンチにあの馬鹿とか言ってけっこう焦っていたように見えたのは気のせいか?》
コードを通じて呟かれたC.Cの皮肉に、ルルーシュは綺麗にスルーした。
「代わりのエナジーフィラーだ。さっさと交換しろ」
「ありがとう、ゼロ」
自分は追い詰めてばかりだったのに、自分が追い詰められた時に助けに来てくれた親友にスザクは嬉しく思いながら、エナジーフィラーを受け取った。
「ゼロ・・・!!どうか降服を!今なら・・・!!」
「断わる。何度も言わせるな、私はブリタニアを壊す!!
ナイトオブナイン、あの男は貴公が仕えるに値する男ではない。
ナンバーズであろうともその力を認めることが出来る器量を持つ者なら、私はその手を取り合えると信じているが、いかがだろうか?」
自分の正体を知っているようだとG-1ベースにいるマオから報告があったルルーシュがそう誘うも、ノネットは首を横に振った。
「残念ながらそれはお断り申し上げる。騎士たるもの二君に見えるものではない!!」
「そうか、残念だ。ではここで主君の忠義に散って貰おう!」
漆黒の機体と純白の機体が並んで立つ様は、一枚の絵画のように美しい。
モニターで見ていたユーフェミアは、長く離れ離れになっていた二人がようやく共に戦っている光景に見入っている。
(スザクとルルーシュが・・・やっと・・・)
そしてその背後では、アルカディアがふっと小さく笑った。
「勝負はついたわね。
あのミサイルは威力からしても一発撃つのが精いっぱいだし、エネルギーさえあればランスロットだけでも充分な上、あの頭の切れるゼロとゼロいわく体力バカな枢木というまさしく悪夢なコンビに誰が勝てるってのよ」
私だったらしっぽ撒いて全力で逃げる、まあ逃げるのも大変そうだけどと言いながら、政庁攻略のために自身もイリスアーゲート・ソローに搭乗すべく立ち去っていく。
通信機から『何で親衛隊長の私を差し置いてあいつがゼロと共闘してるのよ!一緒に出撃してくれるって言ったじゃない!!』とカレンの怒鳴り声がしており、万一に備えて暁で待機中のC.Cがあいつは嘘つきだからとフォローにならないフォローをしている。
「私は今から防壁を崩しに行く。君はどうする?」
「僕はもちろん、ナイトオブナインを止める。任せてくれ」
蜃気楼が優雅に空に舞い上がると、スザクはアグロヴァルに向かってメーザーバイブレーションソードを構えた。
「ゼロに手出しはさせない!」
「どけ!!お前を相手にしている暇はない!!」
ノネットは友人との約束、恩義のあるマリアンヌとの義理を果たすためにすぐにも蜃気楼を負わなくてはならないと言うのに、邪魔をしてくるスザクに苛立ちを感じてスラッシュハーケンを撃ってくるが、スザクは難なくかわして接近する。
『優しい世界でありますように』
『私と一緒に、頑張ってくれませんか?』
『枢木 スザク、お前は生きろ』
「俺はユフィと、親友との約束を守る!!
それが俺が決めた俺のルールだ!!」
スザクはそう叫びながらメーザーバイブレーションソードをアグロヴァルに振り下ろし、機体を破壊した。
「そんな・・・・もう少しで・・・!」
右腕が破損しているせいでスピードが衰えてよけることが出来なかったノネットは唖然としながら、アグロヴァルのコクピットのモニターでランスロットではなく蜃気楼を視界に収めた。
「すまないコーネリア、約束は果たせそうにない・・・先に逝って、マリアンヌ様にお詫びする」
ノネットは政庁に向けてそう最後の言葉を残すと、爆発するアグロヴァルの中でその生を終えた。
「やった、ナイトオブラウンズが敗れたぞ!!」
「ゼロの援護がなきゃまずかったけど、さすがゼロだ!いいフォローだぜ!!」
黒の騎士団の士気が上がる中、それと反比例してブリタニア軍の中では動揺が広がっていく。
「まさか、ナイトオブナインが?!あり得ん!!」
「たかだかイレヴンごときに・・・!!信じられない・・・」
政庁では爆発するアグロヴァルをモニターで見ていたコーネリアが大きく溜息をつくと、椅子から立ち上がって言った。
(ノネット・・・すまない。余計な事を言わなければよかったのかもしれないな)
「ここまで落とされるわけにはいかん!私が出る!!
私が行くまで、防壁を持ちこたえさせろ!!」
「お供いたします、姫様」
二人が司令室を出ようとした刹那、通信兵が報告した。
「コーネリア様、ゼロが何か言っています!!」
「何?」
コーネリアが振り向いてモニターに視線を移すと、蜃気楼が空高く舞い上がり機械で加工されているが力強い声で告げた。
「聞くがよい、ブリタニアよ!我が名はゼロ!力ある者に対する反逆者である!!」
「ルルーシュ・・・」
「0時まで待とう、我が軍門に降れ!!これは最終通告だ、我が軍門に降れ!!」
繰り返し降服を呼びかけるルルーシュにコーネリアは自らのグロースターに搭乗すべく司令室を出て行った。
だがその頃、租界の階層を司るシステムを担当している者数名が赤く眼を縁取らせて同胞を撃ち、システムを動かしていた。
そして十五分後、時計の針が0時を指した時にそれは始まった。
租界全土をいっせいに大きな揺れが襲いかかり、外壁部が砂のように崩れていく。
「う、うわあああ!!地面が・・・・!」
「まさか、裏切り者がいたのか?!」
フロートシステムを搭載しているのは主な士官専用機のみで、一般兵にはまだ普及してないため、どうすることも出来ずに落下していく。
「ふははははははは!!!!
地震対策のための階層構造、しかしフロアパーツを一斉にパージすればこれほど脆いものはない。
黒の騎士団を向かえ撃つため、外縁に布陣したのがあだになったな」
「ゼロ・・・やっぱお前すげえよ」
玉城が感心しながらその光景に見入っていると、イリスアーゲート・ソローとイリスアーゲート・フィーリウスが頭上を通過して行った。
「ぼーっと見てる場合じゃないわよ!早く租界に突っ込みなさい!
コーネリアのことだから、布陣を整え直して迎撃してくるわよ!!」
「アルカディア殿の言うとおりだ!ゼロの奇跡を無駄にするな、全軍突撃!!」
アルカディアの言葉に藤堂が指示を出すと、黒の騎士団は歓声を上げて租界へ突入していくのだった。