第十九話 支配の終わりの始まり
十二月中旬、ユーフェミアは各植民地エリアの取材陣を集めて会見を開いていた。
「・・・今回、他エリアの方々の強い希望により、エリア11における事業がどのように行われているかを皆様にも知って頂きたく報道陣の方々をお呼びした次第です。
我がエリア11ではメグロゲットーに医療特区日本を設立すべく、大規模な医療施設のために現在工事を行っております」
「ナンバーズの保護も行う予定と伺っておりますか、事実でしょうか?」
「メグロにお住まいだった方々には、そのまま従業員として働いて頂くことになりました。
また、子供達も土地を徴収した以上保護をするのが当然であると考えます」
質問にはっきりと答えていくユーフェミアに、以前の彼女とはずいぶん違うと記者達は顔を見合わせた。
「現在建設中のナナリー医療総合病院では、ナンバーズでも必要な医療を受けることが出来るようにしたいと考えています」
「亡き閃光のマリアンヌ様の姫君を記念した病院だそうですが、ナナリー皇女殿下を殺したイレヴンでも受け入れるおつもりなのですか?」
知らないとはいえあんまりな質問にユーフェミアの顔色が変わったが、それを咎めるべくダールトンがその質問を発した記者の前に飛び出すのを制止してユーフェミアは言った。
「・・・ナナリーに危害を加えた人とイレヴンを混同するのは、大変おろかな振る舞いであると、私は考えます」
いっそ事実を暴露したいというのがユーフェミアの本音だったが、何とかこらえて記者会見を終わらせた。
「・・・ダールトン、取材陣の方をメグロまでご案内して下さい。
私も会議をした後視察に向かいますので」
「かしこまりました。お任せ下さいませ」
ユーフェミアは執務室に置いてあるナナリーから贈られた折り紙を見つめて、大きく溜息をついた。
(ナナリーの手術が行われて成功したって、エドワードさんから聞いたわ。
今リハビリを懸命に頑張っているそうね。私も何かしてあげたかった・・・)
姉なのに何の力にもなれなくてすまないと、ユーフェミアは幾度も謝った。
メグロにナナリーが住んでいたことを突き止めたユーフェミアは、異母妹と仲良くしてくれたという施設の者達にせめてもの恩返しをしたくて、メグロの一部から医療施設を造ることにしたのだ。
コーネリアも日本人に対して態度を軟化させているし、日本だけでも穏やかな暮らしをして貰えるかもしれないとユーフェミアは安堵した。
だがメグロのナナリーがいた施設に行ったユーフェミアには、やはり悪意の視線の方が多かった。
シンジュクで両親を殺され自身も足に損傷を負ったという少年からは、殺意を含まれた目で睨みつけられたほどだ。
とにかく信用と実績を積み上げて信頼を得、特区の有用性を伝えて他国エリアにも広めよう。
「他エリアにも特区が出来れば、少しでも誰かの助けになるかもしれないもの。
何を言われても、誰かの助けになれるのなら私は構わない」
ユーフェミアはそう決意すると、会議に出るべくスザクを伴って部屋を出た。
アッシュフォード学園のクラブハウスでは、生徒会メンバーが勢揃いしていた。
生徒会の仕事に追われているが、TVでは近々建設を本格的に始める予定の医療施設、および特区に関して世界的に報道されるため、その内容を映し出しているのだ。
と、そこへ生徒会室の電話が鳴ったのでミレイが受話器に出ると、そこからアルフォンスの声が響いてきた。
「はーい、こちらアッシュフォード生徒会です」
「あ、ミレイさん?エドワードだけど今忙しいから用件だけ言うね。
ちょっと特区で学生代表としてインタビューを受けて貰いたくて、急いでこっちに来て貰いたいんだ。ユーフェミア皇女殿下のお望みでね」
「え・・・でも」
「お願い、君達しか頼めないんだ。制服でいいよ、インタビューだから。
もう迎えの人が着いたはずから、すぐに出る準備して欲しいんだけど。
ルチアっていう眼鏡をかけた三十代の綺麗な女性だから」
「・・・解りました、すぐに行きます」
理由をあえて言わなかったところを見ると、盗聴でもされているのかもしれないと察したミレイは、すぐに決断した。
ガチャンと受話器を置いたミレイは、さっそく生徒会メンバーに言った。
「すぐに経済特区にお出かけするわよ。何か急いでるみたいだから、着替えなくていいわ」
「解りました。じゃあ早く校門に行こう」
何かあったと悟った面々はすぐにクラブハウスを飛びだすと、アルフォンスが寄越したと言う迎えに会うべく校門へと向かう。
既に迎えの車が到着していたが最近本国から来たと言う教師が待ち構えており、勝手な外出は許さないと車に近づいたミレイ達に向かって高圧的に言った。
「皇族方の御視察が延期になったとはいえ、いつおいでになるか解らないんだぞ。
生徒会ならば不測の事態に備えて学園内にいるように」
「でも、ユーフェミア様の特区のイベントに招待されたんですよ。
今日明日いらっしゃるわけではないのですから・・・!」
「いいから黙って教師の言うことを聞け!理事長の孫だからと言って特別扱いはせんぞ」
教師は言うだけ言ってペットボトルの水を飲み干すと、車内から家庭教師が着るようなドレスを着た三十代の眼鏡をかけた美しい女性・・・ルチアが降りて来て、教師に向かって丁寧だが貴族らしい高圧的な口調で言った。
「ですが、今回の特区へご招待なさったのはユーフェミア皇女殿下です。
正式な招待状もこちらにございますが」
ユーフェミアの署名が入った招待状を突きつけたルチアの言葉に、それを手にした教師は怯んだ。まごうかたなきブリタニア皇族のみが使用出来る紋印が、綺麗に押されている。
しかし彼にはその命令を受け入れるのに迷う理由があった。
この教師の正体は皇帝直属の機密機関である情報局の男で、シャルルに命じられてアッシュフォード生徒会の監視を行っていたからだ。
アルフォンスが借りているマンションはアッシュフォード学園から250メートル先にあり、マオもそこに住んでいるため正体は早くから知っていた。
ただルルーシュのように正体を知りながら何事もなかったように接するほどの演技が期待出来ないアッシュフォード生徒会には、何も伝えていなかったのである。
「エリア11の副総督であり、我が神聖ブリタニア帝国の第三皇女であらせられるユーフェミア皇女殿下の御招待を断るには、それ相応の理由が必要です。
わたくしもユーフェミア様のご命令で動いている以上、何かおありならおっしゃって頂かなくては困るのですが」
「・・・それは」
皇帝の命令で、今日はアッシュフォード生徒会のメンバーを外に出すなと言われている。
だがそれは極秘であり、本当に皇帝からの命令であると証明出来ない以上、しょせん下っ端の自分では独断でれっきとした皇族であるユーフェミアの命令の元で動いているルチアを止めることが出来ない。
実際はカレンとアルフォンスがユーフェミアにアッシュフォード生徒会のメンバーを招待して欲しいと頼んだだけなのだが、正式な招待には変わりはない。
「・・・ならば私も同行させて頂こう。生徒だけでは何かと不安なので」
「ええ、よろしくてよ。でも混まないうちに特区に到着したいので、五分以内に戻っておいでになられない場合は先に出発させて頂きますわよ」
やけにあっさり了承したルチアは、早く車に乗り込むようにとアッシュフォードのメンバーに指示した。
ミレイ達がさっさとリムジンに乗り込むと、教師はトイレに入って機密情報局のC.C捕獲担当本部に連絡を入れて事情を説明すると、必要時には人員を送り込むのでその処置でよしとの返事を受けた彼がトイレを出ようとした刹那、胸を押さえて苦しんだ。
「がっ・・・なぜ・・・?」
突然の呼吸困難にもがき苦しむが、今日は休日のため他の教師はいない。
生徒達も教師用のトイレに入ってくることはないし、急を知らせるボタンもない個室だった。
便器に縋りついて苦しんだ教師は、やがてその体から力が抜けていく。
アッシュフォード学園にはいくつかの監視カメラが仕掛けられていたが、それは生徒会のメンバーを監視する目的であるため、職員用トイレにはない。
もしもルルーシュ自身がいたらそれこそあらゆる箇所に仕掛けられていただろうが、監視対象はごく普通の生徒達であるためクラブハウスや教室などを中心にするだけで充分との判断だった。
おまけに校門には仕掛けられているものの、現在別の理由で多くの人員を外に出してしまった上に彼が監視につくという処置に安堵し、本部に残っていた通信士は監視カメラを見ていなかった。
彼の死体が同僚の教師によって発見されたのは、それから一時間後のことだった。
「五分経過・・・残念ですが時間がないのでもう出発したと、さっきの教師の方に伝えておいて下さいませ。では、失礼いたします」
警備員にそう伝えたルチアがさっさと運転席に乗り込むと、経済特区に向けて車を発進させた。
「・・・あの、貴女は?」
ミレイがおずおずと尋ねると、ルチアは淡々と答えた。
「わたくしはマグヌスファミリアで教師をしております、ルチア・ステッラと申します。
アルフォンス様に命じられて、貴方がたをお助けしに参りました」
ルチアは一週間ほど前にエトランジュの要請を受けて偽造パスポートを使って来日していた。
決起後に日本にいるブリタニア人と日本人との間に軋轢が生じかねないため、亡命歴のある彼女なら双方の立場からいいアドバイザーになってくれると考えたからである。
マグヌスファミリアでブリタニア貴族が教師をしていた話を聞いていたミレイ達は納得すると、ルチアは続けて報告する。
「さっきの教師、あれはシャルル皇帝が派遣した情報員ですわ。
貴方がたををずっと監視しており、電話やメールもなど全部筒けだったとのことですが」
「マジすか?!それでアルフォンスさん、ルルーシュ絡みのことはラブリーエッグでしか絶対やり取りするなって何度も念を押してたんですね」
リヴァルが納得すると、自分達の会話内容全てがだだ漏れだったと知ってミレイとシャーリーが気持ち悪そうな顔になった。
「クラブハウスにも監視カメラがいくつか仕掛けていたそうで、ゼロの痕跡を見つけようと向こうも必死だったようですわね。
どうも貴方がたの会話から今でもルルーシュ皇子との接点があると把握していたようですし・・・。
そしてどうして今日皆様を学園から出したがらなかったかと申し上げますと、ゼロことルルーシュ皇子の居所が判明したからなのです。
ただし、それはこちらが仕向けたことですので、ご心配には及びませんが」
「わざと見つかったってことっすか?何でまた?」
「詳細は省きますが、今から日本解放戦を始めるからでしてよ。
ゼロは貴方がたを大事に思っていらっしゃるから、いざという時は人質に取るつもりで学園から出したがらなかったとのことです」
ルルーシュが決起したあかつきには自分達を人質に取るつもりだったと知ったアッシュフォードの一同は、その可能性に気づかず呑気にしていた己に腹が立った。
「・・・すげえムカつくんですけど!それで俺達を助けに来てくれたんですね」
「そういうことです。今マグヌスファミリアの皆様はそれにかかりきりですので、特区を見るために日本に来ていたわたくしが迎えに来た次第ですの。
学園の監視員は二人いて、一人は既に対処済みです。さっきの教師のほうも処置しましたので、ご安心を」
用務員を装っていた監視員は学園の用品を受け取る際業者と入れ替わっていたルルーシュによってギアスをかけられており、先ほどの教師は招待状に塗りつけていた毒を皮膚から吸収してこと切れている頃合いだろう。
あの教師もギアス能力者だそうだが、ギアスを過信しまともな手段というものに対して考えが向かわなさ過ぎるのはこちらにとって実に好都合だった。
ああ言った事態になれば本部に連絡をするのは当然で、周囲にばれない場所で連絡するだろうから見つかるのはもう少し遅くなるはずだ。
「特区に入る前に、特区にいるって親御さんには連絡なさっておいたほうがよろしくてよ?
今からものすごい騒ぎになりますもの、居場所だけは知らせておいて差し上げたほうがよろしいかと存じますが」
ちゃんと特区のブリタニア人は安全に保護していることは知らせるつもりだが、子供がどこにいるか解らなくて無駄に不安にさせないほうがいいというルチアに皆が携帯でメールを打って親に知らせにかかる。
《アッシュフォード支部のメンバーは無事に保護いたしましてよゼロ。
そっちの作戦を開始しても問題ありません》
《助かりましたよミズ・ステッラ。特区に到着したころに、こちらも始めるとしよう》
エトランジュのギアスを通じて報告を受けたルルーシュは、ニヤリと笑みを浮かべた。
「こちらはメグロにあります医療施設建設現場です。
この区域はナンバーズと婚姻を結んでいるブリタニア人やその子供が多く住んでいる地域で、ユーフェミア副総督閣下も大変お気にかけているとのことです。
これより潜入取材を試みようと思います」
生放送の取材班の周囲には十人ほどの視察団中にコラリーとクレマンがおり、名誉ブリタニア人兵士が十数名と数人のブリタニア人の指揮官とともに護衛についている。
だが彼らが足を踏み入れようとした瞬間、建設現場から突然銃声が響き渡った。
「じゅ、銃声です!銃声が響き渡りました。いったいどういうことでしょうか?!」
アナウンサーの叫びに、ブリタニア士官が名誉ブリタニア人の兵士達に威圧的に命じた。
「ただちに調べに向かう!ついて来い!」
「イエス、マイロード」
銃声がした場所に銃の携帯が許されていない名誉ブリタニア人達は内心嫌だったが、逆らうことなど許されていない彼らは部隊長について施設におそるおそる入っていく。
放送を見て殆どが丸腰の兵士では意味がないと理解しているダールトンはすぐに援護の兵士を送り込むよう指示を出したが、間に合うはずもない。
一方、銃声がした施設に入った兵士達が建設中の二階で見たのは、銃を持った黒髪のブリタニア人の少年だった。
壁にはいくつかの銃痕があり、先ほど銃を撃ったのは彼だろうと予想がついた。
「来たか・・・ご苦労だったなお前達」
「だ、誰だお前は・・・?!」
「尉官にまで成り上った名誉ブリタニア人諸君、お前達の仕事はこれで最後だ。
同胞を売り払い、自らの安泰のみを図った売国奴に日本解放戦の邪魔をされては困るんだよ」
調査に来た名誉ブリタニア人兵士達は、己の旧悪を暴かれて顔を赤く染めた。
この場にいる者達はレジスタンス組織を密告し、日本が占領された際は官僚や物資を提供していた資産家を競ってブリタニアに差し出すことで身の安泰を図った者達だった。
ルルーシュが裏で手を回してこの者達をメグロの取材陣の護衛につくようにしたのは、この作戦に必要だった日本人の生贄にするのに最適な人材だったからである。
何しろ日本人で少尉や中尉になることは非常にまれであり、そう言った者達をアピールするのは特区にも有益であるとアルフォンスに言わせるだけで事足りる。
既にギアスをかけられている中佐が何の指示もしないのでどうしていいか解らず名誉ブリタニア人の兵士達が立ち尽くしていると、突然の爆発音とともに現れたのはブリタニア軍のナイトメアだった。
「う、うわああ!!」
名誉ブリタニア人兵士達はその衝撃をもろに受けて転倒し、苦痛に身を浸しているとそれにかまわずナイトメアがルルーシュを発見して報告した。
「こちらH-ワン、対象の“生餌”を発見した!これより捕縛に入る」
その言葉とともに、ナイトメアの背後から数人のブリタニア人が銃を構えて乱入する。
「ナンバーズの兵士どもか・・・見られた以上は仕方ないな。殺せ」
「はっ」
「ひっ・・・や、やめてくれ!!うわあああ!!!」
ナンバーズを犬か何かと同じに考えている機密情報局の男に命じられた兵士達は、何が起こったのか解らず混乱するばかりの名誉ブリタニア人兵士達をブリタニア士官もろとも無表情で撃ち殺していく。
予想通りの展開であり、またそう仕向けたのは自身であるとはいえ嫌悪したルルーシュは大きく溜息をつくと、機密情報局の男達に向かって言った。
「俺を生餌にするとはいい度胸だ。
だがまあ間違いではないな。俺は確かに餌なのだから」
「解っているなら結構だ。分際をわきまえることはいいことだぞ?
お前を繋ぎとめる“鎖”は確保し損ねたが、後で回収すればすむことだ」
エリア11におけるブリタニアの機密情報局のリーダーを担当している男の得意げな台詞に、ルルーシュは嘲るように質問した。
「お前達に一つ、質問しよう。
無力が悪だと言うのなら、力は正義なのか?復讐は悪だろうか?」
「悪も正義もない。生餌には生餌の役目があるだけだ」
「そうか、ではお前達の役目を教えてやろう。俺はお前達を誘き寄せるエサなのだからな・・・まんまと釣られてくれた礼だよ」
「何?」
指揮官の男が反問すると、ルルーシュはにやりと笑みを浮かべた。
「ここは現在、ユフィが望む日本人とブリタニア人が特区以前から造り上げていた理想の区域だ。
ユフィはそれを称賛し、今世界にそれを伝えようとしている。
そんな中でブリタニア人がそこを襲い、日本人と手を取り合って暮らしていたブリタニア人や日本人の死者が出たら、日本人が激怒するのは当然だと思わないか?
ブリタニアがいる限り平穏などないのだから、立ち上がるしかないとな」
「・・・まさか!貴様!!」
「理解したな。そう、お前達も餌だ・・・日本人を日本人として目覚めさせるためのな」
図られたと知った機密情報局の男達が速やかにルルーシュを確保しようと麻酔銃を向けると、ルルーシュは短く命じた。
「ルルーシュ・ランペルージが命じる!お前達は死ね!!」
「・・・イエス、ユアハイネス」
絶対遵守の命令を受けた男達は、自らの銃で自らの頭を撃ち抜いていく。
物言わぬ屍と化した男達が倒れ伏し、血の匂いが充満する中で、ルルーシュは嘲るように言った。
「・・・そう呼ぶ必要はない。俺はただのルルーシュだ」
邪魔な者達をまとめて消し、日本を取り度すためのきっかけは作ることに成功した。
窓から外を伺っていると、施設内に隠れさせていたブリタニア人が飛び出して取材陣に語っている。
「い、今ブリタニア人が来て、みんなを撃ったの!ナンバーズと慣れ合うお前達は非国民だって!!こんな特区は潰すのが当然だって!!
助けて!助けて下さい!!」
命からがら逃げ出したような様子で赤く眼を縁取らせた女性の必死の訴えに、取材陣や同行していた視察団の面々はざわめきだす。
他にも日本人やハーフ、ブリタニア人も互いに支え合って怯えたような顔で同様の証言をしたので、銃声を目の当たりにした取材陣や同行した視察団の面々は顔を見合せた。
「さ、さっきナイトメアが来たな?あれも過激な純血主義のブリタニア人のか?」
「確かに、ナイトメア来たの早すぎない?銃声がしてまだ十分も経ってないのよ?」
その証言を疑うより信じてしまう者が多かったのは、いざという時は常日頃の態度が物を言うという言葉を如実に表していた。
生放送だったので当然このやり取りは全国で放送されている。
恐らくコーネリア辺りからでも指示が飛んだのだろう、慌てて放送を打ち切るのが見えた。
特区のテレビ局の社内の中ではディートハルトが実に楽しそうに笑いながら、放送を再開しようと時期を図っている。
「だがもう遅い。真実よりも事実こそが、この先の未来を造る」
ルルーシュは計画通りにことが進んだことに満足し、建設現場で既に完成していた地下の避難通路に向かって歩き出す。
隣の部屋や廊下には、マオによってスパイと判明したブリタニア人や名誉ブリタニア人が自殺させられ、あるいは銃によって殺害されて屍となって横たわっていた。
スパイとして潜入した以上擬態とはいえ彼らは主義者の活動をしてきた者達だから、そう言った意味でのアリバイは確保しているため、計画の生贄としては申し分なかったのだ。
「無力は悪ではなかった。力は正義ではなかった。
復讐は悪ではないが、原動力にはなり得た。そして友情は、少なくとも俺達にとっての正義となった」
ルルーシュは歌うように言いながら地下に下りていくと、そこにはC.Cが迎えに来ていた。
その奥には悪辣とはいえ邪魔な者達をまとめて排除し、ルルーシュを狙っているという機密情報局に打撃を与え、日本人が立ち上がるきっかけとなるという一石三鳥の策に感心している卜部がいる。
「ちょっとまあ酷いとは思うけど、仕方ないな」
スパイ連中には情報を適当に与えて囲っておいたのはあらたなスパイが来ることを防ぐためでだけはなく初めからこの意図があったのだろうと、卜部は舌を巻いたものだ。
「邪魔者をまとめて片付ける最良の策だ。
・・・あとはブリタニアから奪い返すだけだ」
国を、家族を、自由を、そして誇りを。
・・・・さあ、奪われたものを取り戻そう。
ルルーシュはそう決意を秘めながら、仮面をかぶってマントを翻し、仲間とともに戦場へと歩きだした。