挿話 叱責のルルーシュ
「ただ今戻りました。ご心配をおかけして申し訳ない」
ジークフリードがそう言いながら、エトランジュを抱えて戻って来た。
傍には途中まで迎えに出た咲世子が、何やら紙袋を抱えて立っている。
「お帰りなさいエトランジュ様・・・わ、顔真っ赤ですよ!!
おい、ラクシャータまだ起きてたよな?俺が連れて行くから、ジークフリード将軍は何があったか報告して下さい」
卜部が顔を真っ赤にして荒く呼吸をしているエトランジュをを見て提案すると、藤堂も眉根を寄せて同意した。
「たいそうお疲れのようですな。経緯はジークフリード殿から伺うとして、エトランジュ様は医務室でお休み頂いた方が」
トレーラーには小さいが一応医務室があり、ラクシャータが管理している。ジークフリード将軍は頷くと、エトランジュを卜部に任せた。
「さあエトランジュ様、もう少しの辛抱ですよ。ラクシャータ女史に診て頂きましょう」
「よし、じゃあ俺行ってくるわ」
卜部がエトランジュを抱きかかえて医務室へと向かうと、ジークフリードは会議室に集まったルルーシュ、C.C、藤堂、朝比奈、千葉の前で報告した。
「無事にお戻りのようで、よろしかったですなゼロ。先にご報告させて頂きます。
実は、アッシュフォードでブリタニア皇族が視察に来るとのことで、ブリタニア軍人が数名、来ていたようなのです」
ジークフリードの報告に、一同は顔を見合せた。
「ブリタニア軍人がアッシュフォード学園へ?ゼロの痕跡でも捜索しようってことかな?」
「既に正体がバレたのだから、そんなところだろうな。皇族自ら視察するということだし、一番可能性が高い」
朝比奈の妥当な推測に藤堂も同意するが、ルルーシュはシャルルがアッシュフォード学園で記憶操作を行うつもりだったとすぐに看破した。
「それを教えて下さったのが、アッシュフォードの生徒会の皆様でして・・・ゼロの正体を知ったと、ミレイという生徒会の会長殿がおっしゃっておられました」
「何?何故・・・!」
ルルーシュがいきなりな話に考え込んでいた顔を上げると、ジークフリードも困惑げに詳細を告げた。
「もともと貴方に忠誠を誓った身であるから、協力するのは当然だとのことで・・・黒の騎士団アッシュフォード支部を造るとか」
「・・・会長・・・何を考えて・・・」
ルルーシュが頭を抱えていると、朝比奈は何ともノリのいい人がブリタニア貴族にもいるんだなーといっそ感心していた。
「生徒会の皆さんも、全員異議なしだと賛成してました。
私としてはシュナイゼルの後援貴族の男が貴方の正体を知っており、こちらにつきたいと言っているというのが気がかりですが」
妥当な意見を述べるジークフリードに確かに、と一同も捨て置けない情報にこれも協議する必要があると思った。
「とりあえずまたこっちに来た時のためにと、アッシュフォード学園の制服をくれました。何かあったら連絡したいから、連絡方法を知りたいとのことでして」
「・・・解った、折りを見て連絡するようにしよう。
それにしてもミレイ、リヴァル、シャーリー・・・戦争ごっこじゃないんだぞ」
額を押さえるルルーシュに、朝比奈がまあまあと窘めた。
「黙っててくれるってだけでもよかっただろ?
俺らだっていくらブリタニア人とはいえ学生を巻き込むのもアレだしさ、何とか危ないことを避けて活動して貰えればいいんじゃない?」
「それしか方法がないんだが、ミレイが大人しくしてくれるかどうか・・・だが貴重な情報には感謝する。
ロイド、か・・・確かシュナイゼルが学生時代から付き合っていた男だ。簡単に信用する訳にはいかないからな」
「白兜の開発者、とラクシャータから聞いた。どうも顔見知りのようだったから、どんな男なのか聞いておこう」
ラクシャータは以前にブリタニアの研究機関にいたことがあり、彼女が『あたしの紅蓮弐式がプリン伯爵の白兜なんかに負けらんないね』と対抗意識を燃やしていたことを聞いていた藤堂に、まさかルルーシュが聞くわけにもいかないのでよろしく頼むと任せることにした。
「アッシュフォードにいる軍人に関しては、咲世子さんに続けて内偵をお願いしよう。
ついでにミレイ達にも伝言を頼みたいんだが」
「承知いたしました。お任せ下さい」
ルルーシュの変装を解いた後、馬鹿正直に素顔をさらして政庁を走っていたわけではないので、ゼロ救出に動いていた日本人の女性が咲世子だとは知らないはずだ。
咲世子が了承すると、次の議題はブリタニアの動きについてだった。
「俺の痕跡を見つけるためにアッシュフォードに軍人をやったのだろうが、会長達には詳しいことを教えていないし出来るだけ痕跡は消してあるから時間がかかるはずだ。
とすると、おそらくだが俺を探すためにゲットーへ捜索に出るだろう。
コーネリアのことだ、黒の騎士団を殲滅して反逆の手段を奪い、俺を大人しくさせようとする可能性が高い」
自分では愛情からだと信じているだけに、ためらいなくやりかねないとルルーシュは思った。
良くも悪くも彼女は身内大事の人間なので、そのためなら他者を犠牲にすることをいとわないのは基本的に思考が似ているだけによく解る。
「君の件がなくてもどうせ我々に対して殲滅の意志があるのだから、その件に関しては気に病む必要はないぞ、ゼロ。
サイタマを再現しかねないと、そういうことか?」
「やらないとは言い切れないな。
俺が生きていたのだから、日本人にこれ以上歪んだ憎悪をぶつけるほど愚かではない・・・と思いたいところだ」
もともとブリタニア人が特に日本人を恨んでいたのがブリタニアで人気のあったマリアンヌの子供を殺したと思い込まされていたからで、その自分が生きていたのだから恨む理由はない。
最も間違いを認めることは面子にかけても出来ないため、コーネリアは必死になって自己弁護の言い訳を脳裏で展開していることだろう。
「エトランジュ様とぜひにまた討論して貰いたいものだな。どう答えるやら」
「ああ、グンマで何かコーネリアと言い合ったと伺ったな。
ここで末弟と末妹が日本人に殺されたから許せないと」
「でも殺そうとしたのは実父でした、ね。うわー、さぞ気まずいでしょうね・・・まともな人間なら」
何しろ自身の家族は常に彼らを追い詰めているだけだったのに、それを助けたのが自分達がナンバーズと蔑み身内を殺したと言い張っていた日本人なのだから、自身の心を守るためにどう折り合いをつけるのか見ものである。
藤堂の言葉に朝比奈が苦笑すると、コーネリアの動きはカレンから解るはずなのでいつでも出撃出来るように準備しておこうと話がまとまった。
「明日辺り、アルカディアが戻って来るはずだ。その時に政庁の動きを聞いて、連絡網を改めて構築する。
カレンも来るだろうが、彼女が黒の騎士団員とバレれば得られる情報が限られてくるから、明日限りで出入り禁止にする」
一同が無難な指示に頷くと、ルルーシュは言った。
「しかし、この状態はいつまでも続けられない。
予定外のことですまないが、予定を前倒しにして二ヶ月、遅くとも三ヶ月後には日本解放戦を行う」
「何だと?!確かに悠長にしていられる時間はないが、出来るのか?」
驚く一同を代表して藤堂が尋ねると、ルルーシュは出来ると断言した。
「既に種は撒いてある。
放っておけば俺の味方についてくれたブリタニア人が根こそぎここから排除される恐れがあるし、特区に俺の手が入っていると知られればせっかくここまでいった準備を無駄にされかねないからな」
自分のミスで招いた事態をルルーシュが告げると、頭を下げた。
「すまないが、力を貸してくれ。もう少し時間があったら、俺一人で準備が整えられたんだが」
「・・・頭を上げてくれ。日本解放は我々の悲願だ。
その影すら見えなかった願いを目に見える形でここまで組み上げたのはゼロ・・・いやルルーシュ、君だ」
「藤堂・・・・」
「手を伸ばせば日本解放が叶う・・・それで充分過ぎるほどだ。
ゼロに任せておけばいいという考えを持っていたことを、俺達もおかしいと思うべきだったんだ。
もう一人で何もかもしなくていい・・・・君は本当に、よく頑張った」
七年前から、一人で自身の手で何もかもを動かしていた。
自らの手で食事を作り、洗濯をし、周囲の情報を集めて分析し、有利になるようにするにはどうすればいいかと、常に思考をして生きてきた。
マオが言った。
ルルーシュは頭を空っぽに出来るタイプではない、いつだって自分の行動を見ている批評家の自分がいて、その批評家の自分を冷めて見つめているもう一人の自分がいる、そんな人間だと。
いつも自分の手で何事も推し進めなくては不安でならなかったから、それが当然のことだと信じていたから、周囲に全てを動かすことを求められる状況をむしろ好都合と感じ、それでいいと思っていた。
だが、自らの力ではどうにもならない事態になった時、自ら助けを求められない自分の声をエトランジュが代弁してくれ、その声を聞き入れてくれたのは皮肉なことに自身の血族が不幸のどん底に落とした人間達だった。
エトランジュは大丈夫、助けてくれると言っていたが、正直見捨てられるのではないかと疑っていただけに、ためらいなく救出に来てくれた藤堂に『よく頑張った』と言われ、ルルーシュは気が抜けたようにソファに座りこむ。
「そんなことを言われたのは、初めてだ」
「黒の騎士団入りしてから、俺も君に任せっぱなしにして来たからな。
奇跡の重みを、君が背負ってくれたから」
『そうだ。人々は奇跡という幻想を抱いている。
あがけ藤堂、最後までみっともなくあがいて、そして死んでいけ。
奇跡の藤堂という名前が、ズタボロになるまで』
その言葉に救われ、『正夢にしてみせる』と自分ではとても思うことすら出来なかったそれを、目に見える形にまでしたゼロ。
心のどこかで、彼を失えばその重みが自分に来ることを悟っていたからこそ、彼を助けなくてはと思っていたことも否定出来ない。
しかし、それでも出来るならば動く程度の矜持はある。
『お願いです、あの方を助けて差し上げて下さい。あの方にはいないのです。助けて欲しいと言える大人が、誰もいないのです・・・』
七年前、幼い妹を連れてあの戦火を逃げていたあの少年が、決して口にしなかった助けを求める声。
だからせめてスザクとともに、彼を迎えに来たアッシュフォードの人間が来るまで共にいるくらいしか出来なかった。
「・・・もう一度言うぞ、ルルーシュ。君は本当によくやった。
もう、充分過ぎるほどだ・・・だが」
後はそれこそ一生遊んで暮らしてもいいのではないかとも思える苦労と努力を重ねてきた彼だが、まだまだ黒の騎士団にも、騎士団を必要とするブリタニアに弾圧されている者達にも、必要な人間だ。
そうだ・・・彼も人間だ。
仮面をかぶっていようとも、その素顔はただの少年だった。
唯一の肉親と平和に暮らしたいと望む、どこにでもいるただの人間。
『恒久的な平和は望めなくとも、せめて私や私の家族だけでも平和で豊かな時を過ごせる時代を創ることは出来るでしょう』
せめて、自分達が生きている間だけでも。
自らを正義の記号と言いながらも、やろうとしたことは誰もが望む範囲でしかないささやかな願いを形にするだけだった。
だからこそ、全てが終われば栄光の座を降りる。
栄耀栄華ではなく、家族とのささやかな暮らしを夢見ているのだから、彼からすれば当然の選択だったのだろう。
ならば、自分がするべきことは一つだった。
「・・・だが、まだまだ君が必要だ。
充分頑張った君だが、もう少し頑張ってほしい。
しかし、必ず俺が君を守ろう・・・誰もが望む奇跡が正夢になるまで」
藤堂が厳かに誓うと、厳しい口調で付け足した。
「ただし、一つだけ条件がある」
「・・・何だ?」
やはりか、とルルーシュが内心で呟いただろう声を聞き取った藤堂は、一転して頬を緩めて言った。
「何かあったら、相談するくらいはしてほしい。今回のように勝手に行動されると混乱するぞ。
今までは仕方ないが、今度からは何をするつもりなのかくらいは言ってくれ」
ルルーシュは目を見開いて驚いたが、すぐにふっと笑みを浮かべた。
「解った。その条件、確かに了承した」
今までずっと背負ってきた重荷が、一つ外された。
(一人で、やらなくていいのか・・・)
自分は生きていない、と言われたあの日から、自分で一人で生きなくてはならないのだと思っていた。
いざやり出してみるととてつもなく辛かったから、ナナリーにはそんな苦労をさせたくないといっそう自らに努力を課したが、もうそこまでしなくていいと彼らは言う。
「もう少しだけ、か・・・」
ブリタニアを倒し、新たな優しい世界を構築するまで、確かにあと少しだ。
そのためにも、まずは日本の解放を。
「・・・では、まずは日本という足がかりを俺達の手に。
そのために作戦を開始したいが、手伝ってくれるか?」
「承知した」
藤堂の同意に朝比奈と仙波と千葉は頷く。
それを見たルルーシュは、穏やかな笑みを浮かべ、そして言った。
「それから・・・その・・・助けてくれてありがとう。
・・・心配をかけて、済まなかった」
その言葉と同時に、本当の意味でルルーシュの孤闘は終わりを告げた。
すべての打ち合わせを終えたルルーシュが自室に戻ると、C.Cが待っていた。
「・・・憑きものが落ちたような顔をしているな、ルルーシュ」
「ああ・・・いい気分だ。まさかこんなイレギュラーがあるなど、考えたこともなかったからな」
ベッドに腰を下ろしたルルーシュの横に、C.Cが腰をおろす。
「私が守ってやるって言った時とは、随分反応が違うじゃないか」
「・・・日本がなぜこうなったか、知っているだろうC.C。
俺の家族が言いがかりをつけて植民地にして、搾取し続けた上に虐殺行為をしたんだ。
しかもその言いがかりの原因は俺達だ・・・受け入れられるなんて、考えたこともない」
「・・・・」
「桐原は話が解る方だが、それでも俺に、ゼロに価値があると踏んだから手を組んだ。
今回のことで見限られるかと・・・怖かった」
一度でもミスをすれば、たちまち捨てられるという強迫観念は、たった一度実父に諫言したという“失敗”だけで周囲すべてから見限られたルルーシュは、それ故に失敗をすることを、そしてそれを知られることを何より恐れていた。
困っているなら助けを求めればいい、迷惑をかけてしまったならごめんなさいと謝ればいいと簡単に言えるエトランジュに、内心苛立ったことがあるほどだ。
エトランジュから卜部にこの件がバレたと聞いた時、騎士団は終わったと本気で思った。
何とかして利益を出す方向に持っていかなければ確実に見捨てられると青ざめていたら、ブリタニア皇族を恨んでいるはずの日本人達が助けてくれたのだ。
それだけならまだ自分に利用価値があったのだと安堵するだけだっただろうが、『よく頑張った、もう一人で頑張らなくていい』と言ってくれた。
「今まで誰も・・・そんなこと・・・言ってくれ・・・」
C.Cはルルーシュにそっと寄り添うと、その頭を抱き寄せた。
自分はこれまで出来る限りルルーシュを守ってきたつもりだったC.Cだが、その心の在り方までは守っていなかったと気付いた。
自分を必要としていたことは確かだが、基本的に何も言わない自分をどこかで疑っていたことは知っている。
周囲はルルーシュに求めるばかりで、頑張ることが当然となり過ぎていた。
もともとギアスを押し付ける目的で彼に近づいたC.Cは、彼が孤独になればなるほどギアスを使うと踏んでいたから、この状況をあえて放置していた。
マグヌスファミリアがコードを受け継いでもいいとの返事を貰ったのでその必要はなくなったが、ルルーシュが全てを動かすことを受け入れていたからいいかと続けて放置していたが、やはりどこかで重荷に感じてはいたのだろう。
事ここに至って、C.Cはマリアンヌと決別することを決意した。
何だかんだでマリアンヌとの縁を切れずにいたが、彼女ではルルーシュの救いにはならない相手だとようやく理解したからだ。
そのためにも、このメンバーであの計画を阻止しなくてはならない。
「・・・ルルーシュ、実は話があるんだ。マリアンヌのことなんだが」
「ああ、確認しようと思っていたんだ。生きてるんだろ、母さんは」
「!!」
気づいていたことに驚いたC.Cがルルーシュを見つめると、ギアスで繋がっていない彼女は“エトランジュ”のことを知らない。
だからルルーシュは説明してやった。
「お前からアリエス宮の事件の真相を聞いた時に気付いたんだが、やはりそうか。
母さんが殺された日、警備はすべて引き揚げられていた。つまり目撃者などいないわけだから、母さんとV.Vとの会話を聞けるはずもない。
しかしお前は真相を知っていた・・・つまりお前はその場面を目撃したか、もしくは真相を誰かから聞いたことになる」
目撃していたなら基本的に仲間は助けるC.Cが何もしなかったとは思えないし、そもそもV.Vの方も極秘で襲っただろうからC.Cがいない日を見計らって襲撃したはずだ。
となるとマリアンヌかV.Vから事の経緯を聞いたことになるが、先ほどの理由からV.Vが話すとは考えられない。
ならば残る可能性はたった一つ。
「他人に乗り移るギアスが、マグヌスファミリアにもあるそうだ。
タイプは様々だそうだが、他人の身体を乗っ取る形のギアスもあると聞いた。
恐らく母さんは誰かの身体の中にいる形で生き延びている・・・違うか?」
「・・・ああ、そうだ。誰かは私も知らないが、あいつの意識が乗り移った人間の上に出ている間だけ、会話が出来る」
「そうか・・・解った」
「マリアンヌはお前を心配して、私に様子を見に行ってほしいと七年前に言ったんだ。
お前に対して愛情がなかったわけでは」
C.Cは無表情のルルーシュにそう告げるが、ルルーシュはふっと笑って首を横に振った。
「俺達に愛情がないとは言わないが、関心が薄かったんだろう。無理に慰めなくてもいいぞ」
C.Cは嘘は言わないが本当のことも言わないというタイプだ。
一番つかみづらいが付き合いがそれなりに長いルルーシュは、彼女なりの慰めだとすぐに解った。
「もういいんだ。親に関しては俺はもう諦めた。
血の繋がりなどなくても、仲間がいるし共犯者もいる・・・それで充分だ」
「ルルーシュ・・・解った。お前がそう決めたのなら、私も行こう」
C.Cはルルーシュの決意を聞いて、マリアンヌと決別する意思を固めた。
彼が創る世界の構築を助ける、本当の共犯者としての道を。
「ラグナレクの接続の件は、シャルルや研究者任せで私もよくは知らない。
遺跡関係のほうも、どうもな・・・エトランジュが回復次第、マグヌスファミリアの連中に聞いた方がいいと思う」
「そうだな・・・そのためにも、超合集国を早期に創る必要性がある」
ギアス嚮団の本部は中華連邦にある。よって中華連邦にブリタニア軍の基地があると説明し、公的に介入する権限を得るにはどうしても必要なのだ。
「勝手にやれば後々まずい事態になるからな。保護したギアス嚮団員についてはどうするか・・・」
「それは私に任せろ。お飾りとはいえ七年前まで嚮主だったから、それなりに扱い方は心得ているつもりだ」
大まかな青写真が出来上がったことで、ルルーシュは安堵した。
そしてC.Cに抱き枕にされて、その夜は疲れていたせいもあり穏やかに眠りに就いたのだった。
朝早く心地よい目覚めを受けて起きたルルーシュは、卜部達が徹夜でトレーラーごとイバラキ基地に移動していたことを知り、ここならナナリーも安全だと満足した。
まずは昨夜の件についての整理を行うべく部屋を出ると、既に騎士団のコックが作った朝食を食堂でナナリーとロロが食べていた。
「おはよう、ナナリー、ロロ。すまないな、少し寝過ごしてしまったようで」
「おはようございますお兄様。昨夜はお疲れでしたもの、仕方ありませんわ」
「おはよう・・・ございます・・・」
「ロロ、そんな堅苦しい言い方はよせ。俺達は家族になるのだから」
ルルーシュがロロの頭をぽんと撫でて笑うと、ロロは顔を赤くして頷いた。
「その・・・おはよう・・・兄さん?」
「そう、それでいいんだ。おはよう、ロロ」
改めて挨拶したルルーシュは食堂で朝食を受け取ると、揃って食事を始めた。
「お前達、お揃いの食事にしたのか。まあ洋食の方がなじみがあるからな」
朝食は基本的に洋食と和食が用意されており、どちらを選んでいいのである。
「孤児院では和食もお兄様が作って下さいましたけど、ここのも美味しいので明日はそうしようかなと思ってます」
「和食なんて、僕食べたことない・・・」
ロロがぽつりと呟くと、ルルーシュはそうだろうなと笑った。
「よし、なら今日の夕飯は和食にしよう。嫌いなものとか、苦手なものはあるのか?」
「ない、と思う・・・」
「そうか、和食は少し独特な味だが、美味しいぞ。
エトランジュ様への見舞いと、昨日の後始末の手配を終えたら基地内の店に買い物に行こう。
夕飯の材料もだが、ロロの日用品を買いに行かなくてはな」
ルルーシュとロロでは身長差があるので、お下がりは無理だ。
幸い小さいながらも店があるので、ある程度はここで揃えることが可能なのだ。
「エトランジュ様、お戻りになったんですか?よかった・・・」
「ああ、ただ昨日の件が相当こたえたようで、熱を出して寝込んでおいでなんだ。
プリンでも作って差し入れしようと思っている」
ナナリーがエトランジュが熱を出して寝込んでしまったと聞いて、ナナリーは申し訳なさそうに俯いた。
「まあ、昨夜も大変顔色が悪いと伺っていました。それなのに無理なお願いをして、申し訳ないことをしてしまいました」
「それは俺のミスからだ、お前が気にすることじゃない。負担をおかけしては悪いから、少しだけ様子を伺わせて貰おう。
ロロ、お前の紹介もしておきたいからな」
「僕の、紹介?」
ロロがきょとんとした顔で尋ねると、ルルーシュは頷くと同時に考えた。
(ナナリーにはギアスのことは言っていないから、詳しい紹介は避けた方がいいな。
だが、俺ではなくマグヌスファミリアの元に預けるケースもあるから、ジークフリード将軍の方に言っておくとしよう)
昨夜は情報が錯綜し、また途中リンクが切れるというアクシデントもあったのできちんと伝えておく方がいいと、ルルーシュは判断した。
「・・・お前の秘密もよく知っている人達だから、いろいろ力になってくれる。
クライスといってここにお前と来た男性がいただろう?彼の故郷の人間達だ」
「・・・ああ、そういうことか。解りました・・・ううん、解った」
ギアスを知っているということか、とロロは了解すると、ぱくりとベーコンを口にする。
「僕は失敗作だそうだから、そんな役に立たないと思うけど」
「・・・誰だそんなことを言ったのは」
低い声音でルルーシュが尋ねると、すぐにV.Vだと悟って舌打ちした。
「心臓に負担があるくらいのことで、何を言っているんだあいつは。
お前はもう、あんなことをしなくてもいいんだ。エトランジュ様や他のマグヌスファミリアの人達もそう言うに決まっているから、心配するな」
「そうですわロロさん。全く酷いことを・・・!
持病をお持ちなのですか?それならラクシャータさんに診て頂きましょう、ね?」
純粋にロロが心臓に疾患があるのだと思ったナナリーの案は普通なら妥当なものなのだが、ギアスを使わなければごく普通の身体だ。
しかし検査くらいはしておいたほうがいいだろうと、ルルーシュはロロに言い聞かせた。
「普通に生活する分には問題ないと聞いているが、念のために診て貰ったほうがいいな。
だが心臓に負担がかかるようなことはしないように」
暗にギアスは使うなと言われたロロは、おずおずと言った。
「でも、僕はそれを使って仕事してたし・・・ナイトメアくらいなら乗れるけど、力を使わないと・・・」
「お前を戦いに出す気はないと言っただろう。ナイトメアなんぞもっての外だ。
全く、ブリタニアときたら・・・お前のやるべきことは、ここで普通を学ぶことだ。
ここでは子供を戦争に参加させる掟はない。やりたくないことはやりたくないと言っていいんだ、解ったな?」
「・・・は、はい」
「いい子だ。さあ、食事も終わったようだから俺はエトランジュ様へのお見舞いのプリンを作って来る。
お前達も手伝ってくれないか?」
「もちろんですわお兄様。私もお手伝いさせて下さいな」
「僕・・・・プリンなんて作ったことない」
役に立たないのでは、と俯くロロに、ルルーシュはそんなことはないとロロの手を取った。
「何、手伝いだけだから未経験でも大丈夫だ。
少しずつでも覚えていけば、いざという時役に立つぞ」
ルルーシュは厨房の者に許可証を出してキッチンの一角を借りると、プリンを作り始めた。
「ロロ、お前にはカラメルシロップを作って欲しい。砂糖を煮詰めるだけだから、大丈夫だ」
「う、うん。やってみる」
目の見えないナナリーに火を扱わせられないので、ロロに頼んだルルーシュはナナリーと共に生地を作り始めた。
(・・・やっぱり妹さんと二人で作りたかったのかなあ)
目が見えないのだからルルーシュのサポートが必要なのだと解ってはいるのだが、ロロは同時にそう考えてしまった。
一方、ナナリーは逆に単独で仕事を任せられたロロに羨望を抱いている。
(ロロさんは独りでお兄様に仕事を任せて貰えて、羨ましい・・・私は目が見えないし、足もまだ手術前で歩けないもの。
もしかしたら、お兄様のお仕事をお手伝いすることになるのかも)
自分はリハビリで忙しくなるのだ、とうてい兄を手伝うどころではないし、彼は不本意ながら既に軍の仕事をしていたのだ。
兄は何もしなくていいと言っていたけれど、兄の助けとなる力を持っているだろうことはナナリーにも解る。
お互いにちらちらと視線を送り合いながら作業を進め、ルルーシュが折を見て指示をしていくとプリンが完成した。
「後は冷蔵庫で冷やして、完成だ。
やはり手分けしてやると手早く済むな。ありがとうナナリー、ロロ」
実際は一人でやったほうが速いのだが、ルルーシュはそう言って二人の頭を撫でた。
「プリンは冷えるまで、俺はロロの買い物に行ってくる。ナナリーはラクシャータに診察をお願いしてあるから、行こうか」
「あ、そういえば今日は診察日でしたね。解りました、行って参ります」
既に急な引っ越しの件は告げてあったらしい。
ルルーシュに案内されて診察室に行くと、中にいたラクシャータはやって来た三人をじっと見ていたが、すぐにナナリーに視線を戻した。
「何か知らないけど、急にこっちに住むことになったんだってね~。
ま、移動時間省けるからこっちのほうが楽っちゃ楽だからありがたいわ~」
「あの、よろしくお願いします」
「オッケー。じゃ、手術も近いし念入りに検査させて貰うわね~。
お兄さん達はまた後でおいで」
ラクシャータによろしくと頼んだルルーシュがロロを連れて診察室を出ていくと、ラクシャータは明らかに黒の騎士団上層部から特別扱いを受けている少女の素性に実のところうすうす気がついていたのだが、弟と名乗る少年が出来たことで違ったかなーと内心思った。
(もしこの子があの閃光のマリアンヌの娘で、お兄さんが皇子なら特別扱いも解ったんだけど・・・息子が二人いるってのは聞いてないからね~。
ま、別に政略軍略に関しては畑違いだから首突っ込むのもアレだし)
一応己の職務違いからあれこれ推測だけで口を出すのを避けていただけのラクシャータは、いつもどおりの診察を行うと問題なしと診断した。
「うん、手術に関しては問題ないね。予定通り行うから、微調整をしておくわね~」
「あの、ラクシャータさん。今になって言うのもよくないんですけど・・・私の足、ナイトメアに乗れるようになれますか?」
「へ?何でまた?」
いきなり言いだしたナナリーにラクシャータが驚くと、ナナリーは強い口調で言った。
「私、いつまでも皆様に甘えてばかりじゃいられませんから・・・恩返しがしたいんです。みんなを守れるくらい、強くなりたくて」
だからナイトメアに乗れるようになりたいのだと言うナナリーに、ラクシャータはうーんと考え込みながら答えた。
「そりゃあ出来なくはないね。
ナイトメアフレームはもともと医療用として開発されたものだから、神経装置をナイトメアに接続して普通じゃ出来ない動きをするタイプのもあるにはあるよ」
ナナリーのように手足が使えなくなった軍人のためのナイトメアも、実は開発されてはいた。
ただ全て特注モノになるためまだ数えるほどしか開発されていないというのが現状だった。
「だけど、騎士団からの通達でね、十五歳以下のナイトメアの搭乗は禁止されてる。
それにそうするにしたって、まずは日常生活が出来るようになってからってのが常識だから、今のところは我慢して貰わないとねえ」
「・・・そう、そうですよね。解りました。
無理を言って申し訳ありませんでした」
しゅんとなって謝罪するナナリーに、ラクシャータは笑いながら言った。
「ずっと手術に怯えがあった時に比べれば大した成長ぶりだと思うから、気にしなくていいのよ~。
十五歳になったらそれ用のナイトメアの試作体を作ってあげるから、その時に改めて来たらいいわ~。その時のナナリーちゃんの調子次第で、パイロットに抜擢したげるから」
「本当ですか?!ありがとうございます!
私、頑張りますからお願いしますね」
でも、一年はまだ待たなくてはならないのか、とナナリーは内心で落ち込んだ。
(コーネリア姉様は目的のためならまた関係のない人達を巻き添えにする作戦をするかもしれないって・・・孤児院の人達くらい守れるようにならなければ)
七年前には母のようになるのが夢だったのだ。
歩けるようになって目が見えるようになれば、その夢を叶えられる努力をするくらいは出来るはずだ。
ナナリーはそう決意すると、自らの足を叱咤するように撫でるのだった。
その頃ロロは、何でも好きな物を選んでいいと言われて途方に暮れていた。
一般的には大した品揃えではない小さな店なのだが、選ぶという行為自体に慣れていないロロからすれば選択肢が多すぎて困ってしまうものだったのだ。
「もうすぐ冬だから、重ね着出来るものを選べばいいな。
部屋着ならトレーナーでも充分だが」
「外出着ならもうちょっとおしゃれな方がいいですよ~。男の子だからって手を抜いてはいけません」
商売根性ある女性店員がいろいろと試着を勧めてくるが、ロロはちらっとルルーシュを見た後遠慮がちに自分の希望を言った。
「僕・・・兄さんと同じのがいい」
「俺と同じもの、か?」
意外そうに尋ね返すルルーシュにうん、とロロが頷くと、店員はお兄さんが好きなのね、と微笑ましそうに言いながら、今ルルーシュが着ている服と似たようなデザインの服を持って来てくれた。
「ちょっとデザインが違うけど、これならどうですか?お似合いですよ」
「うん・・・それがいい」
ロロが欲しいと言うのでルルーシュは何も俺と同じにしなくてもと思ったが、自分で選ぶという行為はとても大事だったので尊重することにした。
「解った。ではそれとそろそろ寒くなるから上着を・・・」
「兄さんとお揃いじゃ駄目?」
「嬉しいが、何もかもお揃いにしなくてもいい気もするがな」
苦笑しながらもロロの言うがまま、同じジャケットやパジャマを買い揃えて二人は店を出た。
そして一度基地内に急きょ誂えたランペルージ家の部屋に荷物を運び入れると、キッチンから作っておいたプリンを取り出して診察室にナナリーを迎えに行った。
「ちょうど終わったところですわ、お兄様。お買い物はお済みですか?」
「ああ、俺達の部屋に運んだよ。
三人で住むには少し手狭だが、すぐに整理して済み心地を整えるからそれまで我慢してほしい」
「もちろんですわお兄様。私もお手伝いさせて下さいね」
ルルーシュの背中の裾をつかんで歩いているロロにナナリーはまたちくりとするものを感じたが、何も言わずに微笑んだ。
「今からエトランジュ様のお見舞いに?」
「ああ、熱があったが少し落ち着いたとクライスからメールが来た。さっそく行くとしよう」
基地内は日本人が圧倒的に多いために白人であるルルーシュ達はかなり目立つのだが、ブリタニア人も少数ながらいるしハーフもいるため、見られはするが悪意の視線はなかった。
お見舞いに来たとルルーシュが告げると自動ドアが開き、クライスが出迎えた。
「お、元気そうでよかったな。そっちはロロだったな。
悪いなあ昨日はあんまし説明なしにあんなことしちまって」
手を合わせて謝るクライスにロロはどう反応すればいいのか解らず戸惑っていたが、クライスは構わずに一行を部屋に招き入れた。
エトランジュの部屋に入ると、さすがに女王の部屋なだけあって広く寝室とリビングが備えられていた。
「エディも熱は少し下がってて話くらいは出来るけど、他の連中と連絡が取れるのはまだ先になりそうなんだ。
悪いけど例の件はそれからにして貰いてーんだけど」
「そうか、無理はさせたくないからそれで構わない。昨日は申し訳なかったな。
お詫びと言っては何だが、プリンを作って来た」
「お、エディも好きなんだよこれ。あいつ朝は何も食ってないから、これくらいならいけそうだ」
クライスがエトランジュの寝室に一同を招き入れると、ベッドには氷嚢を額に乗せて顔を赤くして荒い息をついているエトランジュがいた。
「お具合はいかがですか、エトランジュ様」
ナナリーが心配そうに問いかけると、エトランジュは弱々しく微笑んだ。
「大丈夫です・・・ただちょっといろいろあったので・・・熱が出てしまっただけですぐに治ると・・・」
「私達のために、申し訳ありませんでした。お詫びにプリンをお造りしたんです。
ぜひ召し上がって頂ければと」
「まあ、プリンを・・・それくらいなら食べられそうですので、頂いてもよろしいですか?」
「もちろんです!よかったですわ、ねえお兄様、ロロさん」
ナナリーが嬉しそうに言うと、ルルーシュもそうだなと頷いてサイドテーブルの上にプリンを置く。
「これ、三人で作ったんですよ。お口に合えばよろしいのですけど」
「そうですか・・・まあ、美味しそうですね」
ゆっくりと起き上がったエトランジュがプリンを受け取って食べている間、昨夜の件についての情報交換が行われた。
「・・・ということで、ロロを俺が預かることになりました。
しかし、この子もあまり外の世界を知らないので、ぜひエトランジュ様のほうでも万が一のことがあればお預かりして頂ければと」
「・・承知いたしました、お任せ下さい。
大変でしたね・・・もうあんな力は使わなくていいですから、心配なさらないで下さいな」
エトランジュはロロににっこりと微笑みかけると、ルルーシュに言った。
「私が回復したら・・・すぐにでも一族にも申し伝えておきましょう・・・。
それから、例のブリタニア皇帝の計画についても・・・協議を。
すぐにでもしなくてはいけないのに・・・申し訳ございません」
エトランジュは早急に会議が必要な時期に倒れてしまって申し訳ないと謝るが、彼女をこの状態にしたのは己のミスからなのだからとルルーシュの方こそ謝った。
「こちらのミスでエトランジュ様に大層なご迷惑をおかけしてしまったのですから、謝られては恐縮する限りです。
熱が引いて一段落つきましたら、ぜひ・・・ん?」
エトランジュの部屋のドアが開かれる気配がしたので視線を向けると、イノシシのような勢いでエトランジュの寝室に入って来たのはカレンだった。
背後には苦虫を百ダースほど噛み潰したような表情をしたアルカディアが、スカートを揺らして立っている。
マオも来ていたのだが、騒々しくなりそうだったのでC.Cの所に直行していた。
「カ、カレン!早かったな」
「ええ、聞きたいことが山ほどあってね・・・さあ、全部話して貰いましょうか」
ばきばきと指を鳴らして事情説明を迫るカレンに、ルルーシュは後ずさりする。
「お、落ち着けカレン。ここは病人の部屋だぞ」
話はするから冷静に話し合おう、と言い訳の正論を言うルルーシュに、カレンは赤い顔でこちらを見ているエトランジュを見てそうね、と落ち着きを取り戻した。
「騒がしくして申し訳ありませんエトランジュ様。
連絡が取れなくなったとアルカディア様から聞いた時は、どうなることかと」
「いえ、こちらこそ無用な心配をおかけして申し訳ありませんでした・・・。
ちょうどそちらの話も伺いたかったので・・・ぜひどうぞ」
ギロリとルルーシュを睨みつけたカレンは、政庁から出た後のことを話しだした。
「政庁から出た後、ユーフェミア皇女は無事に特区庁に戻ったんだけど何ていうか、静かに怒ってるみたいだったわ・・・あんなことをルルーシュ達に命じるなんて酷いって」
「そうか・・・テレビを見る限りでは、昨夜のテロについては詳しいことは知らないが近隣の皆様には迷惑をかけてしまってすみませんと当たり障りのないことを言っていたようだが」
「無難に対処したほうがいいって、私が言ったからね。
ルルーシュ皇子の事情を聞いてくるって言ったら、今日休日にしてくれたの」
アルカディアの補足になるほどと一同は納得した。
「政庁はまだ混乱してるみたいだけど、コーネリアが午後から特区庁に来るみたい」
「そうか・・・だいたいは解った。ではこちらの件なんだがな」
ルルーシュがアッシュフォードで起こったことを話すと、カレンは早い段階から自分の正体をシャーリーに知られていたことを知って仰天した。
「ちょ、何でシャーリーが知ってたのよ?!」
「あ、それは私のせいです。マオさんがうっかり漏らしてしまったみたいで・・・申し訳ありません」
自分がマオに教えたことが、ルルーシュの知り合いだということで話してしまったのだとごまかして謝るエトランジュに、カレンはそうですかと納得せざるを得なかった。
「そっか・・・でも黙っていてくれたのねシャーリー。後でお礼を言わないと」
だがそれよりも驚くべきことは、アッシュフォード学園生徒会メンバーが黒の騎士団入りするという予想すらしていなかった事態である。
「これ、どうする気?戦争ごっこじゃないのよ!止めるべきだわ」
いくら自分達を思ってのこととはいえ、あまりにも危険だというカレンの意見はもっともなのだが、ルルーシュが大きく溜息を吐きながら尋ねた。
「ああなったミレイを止めるのは無理だ。君だって会長を止める自信があるのか?」
「・・・ないわね。でもせめてリヴァルやシャーリーくらいは・・・」
「そうだな、出来れば説得したいと思っている。
アッシュフォードの外出禁止令が解かれ次第、カレンとアルカディアに会いに行って貰いたいんだが」
自分が直接会うのは監視されている可能性があるからやめておくと言うルルーシュに、二人は頷いた。
「ま、そっちのほうが無難でしょうよ。
外出禁止令が解かれた報告が来たら、カレンさんのほうで会う約束してくれない?」
「解りました。お任せ下さい」
正直カレンはルルーシュほどには深い付き合いがなかった生徒会の面々だが、それでも反逆という行為に参加するとあっては止めようと考えるほどには情はあった。
「それから、アッシュフォード生徒会や君・・・・俺に関わった全ての人間に監視がつく可能性が高い。
昨日の今日だから今回はぎりぎりで大丈夫のようだったが、明日からは解らない。
よってカレンにはすまないが、基地への出入りを止めて欲しい」
「何ですって?!でも・・・」
「じき、日本解放戦を始める。君が黒の騎士団員幹部とバレたら得られる情報が限られてくるし、向こうもなりふり構わず殲滅戦を始めかねない。
・・・頼む、もう少しなんだ」
滅多に頭を下げないルルーシュに頼まれて、カレンはうっと考え込んだ後渋々了承した。
「わ、解ったわよ。そういうことなら来ないわ。
でも、連絡はどうやってすればいいの?」
「例のデジタルペットを模した通信がある。まずそれをシャーリー達に渡してくれ。
連絡はアルカディアを経由して行う。ハードワークになるが、頼めるだろうか」
「・・・やるしかないんでしょ?もうヤケだからやってやろーじゃない」
その代わり失敗は許さんと徹夜で情報解析をして疲れ果てていたアルカディアの据わった目に射抜かれ、ルルーシュは幾度も頷いた。
「あんたもキリキリ働いて貰うからね・・・日本解放戦が近いってことは、各エリアに物資を送る手筈なんか任せるから」
日本が独立を勝ち取ると同時に、各エリアでもその動きを連結させる予定なのだ。
そのためには日本特区や後援基地で生産した物資をばら撒く必要があるので、ルルーシュはもちろんだと了承する。
「はい、じゃーさっそくこれ。日本特区内で横領成功した物資のリストね。
明日までに指示よろしく。それから盗聴用の通信回路の分析の件で・・・」
大量の仕事を提示してきたアルカディアに、ルルーシュはよほど昨夜エトランジュの安否が分からず不安だったのだなと申し訳なく思いながらも、仕事に取り掛かる前にロロを紹介しておこうと自分の手につかまっているロロの頭を撫でた。
「カレン、アルカディア。この子はロロと言って、ブリタニアの特殊機関で使われていた子なんだ。
俺の味方になってくれたが行き先がないので、俺の弟として迎え入れようと思ってる」
「・・・ああ、例のあの子。へー、結構ナナリーちゃんに似てるじゃない」
アルカディアがまじまじとロロを見つめながら言うと、確かに髪の色や目の色など、ナナリーに似た部分がある。
「私はアルカディアよ。エトランジュの従姉なの。
ちょっと外で活動していることが多いから会えないかもしれないけど、よろしくね」
「私はカレン。ゼロの親衛隊長をしているんだけど、別の仕事で離れてるの。
この子いくつ?ナナリーちゃんと同じ年齢くらいに見えるけど」
カレンが眉をひそめなが問うと、ルルーシュが正解だと答えたので怒りだした。
「ってことは、14歳?そんな子を危ない仕事に従事させるなんて、これだからブリタニアは!!」
もう大丈夫だからね、と笑いかけるカレンにロロはさっとルルーシュの背後に隠れてしまったので、カレンは傷ついた。
「・・・私、そんな怖かった?」
「いや、ただの人見知りだよ。どうも優しくされるということに慣れていないようだから」
「・・・ああ、それで。ごめん、配慮がなかったわ」
カレンが謝罪すると気にするなとルルーシュが手を振ったので、ここでエトランジュにも悪いので部屋を退出しようと話がまとまった。
「じゃあ、私そろそろ戻るわ。連絡は出来るだけまめにするけど・・・気をつけてよ?」
「解っている。ではシャーリー達の方は頼んだぞ」
頷いたカレンがアルカディアと共に他の一同もエトランジュの部屋を出ようとした刹那、ナナリーがおずおずと言った。
「あの・・・皆さん。出来たらでいいんですけど・・・お願いがあるんです」
皆がナナリーに視線を集めると、遠慮がちに告げられたその内容に一同は息を呑んだ。
一週間後、ようやく外出禁止令が解かれたアッシュフォードでは久々の外出を生徒達が楽しんでいた。
カレンから連絡を受けたアッシュフォード生徒会改め黒の騎士団アッシュフォード支部のメンバーは、さっそく彼女から指定されたマンションにやって来た。
アッシュフォード学園から250メートルほど離れたオートロックのマンションは、つい先日カレンを通じて借り受けたエドワード・デュランことアルフォンスの部屋である。
契約したばかりなのでテーブルと椅子とベッドしか運ばれていない殺風景な部屋だが、そんなことは問題ではない。
出迎えたアルフォンスとカレンは、さっそくルルーシュからの指示を事細かに伝えた。
「ルルーシュからの指示はまず勝手な行動は取らないことと、連絡は私達を通じて欲しいってこと。
そのためにこれ、渡しておくわね」
カレンがバックから携帯デジタルペットを三つ取り出すと、ミレイ達は珍しそうに手に取った。
「これ、特区で二ーナがユーフェミア様に献上したやつでしょ?
お父さんが欲しいなら買ってきてやるって言ってくれた」
「実はこれ、大まかなのはルルーシュとアルフォンス様が作ってくれたの。
特別仕様のこれには隠し機能があってね、騎士団の人達専用の連絡機能があるのよ」
「なーるほど。これなら掲示板くらいのことは出来るし、誰が持ってても不思議じゃないもんね。さっすがルルちゃん」
ミレイが納得するとさすがルルーシュ、とリヴァルも感心している。
「アイテムを交換したりする機能があって、それで通信をやり取りできるよ。
特別仕様同士でなければ重要機密はブロックされるようにはなってるけど、市販の奴に送ったりしないように気をつけて」
アルフォンスの注意に三人が頷くと、改めて使い方の説明を受けた。
「普通にデジタルペットとしても育てられるから、それもついでに楽しんでね。
秘密プログラムの起動方法は、お友達キャラの黒猫に隠しアイテムのゼロ仮面を被せてパスワードを入力することだから」
アーサーをモデルにしたペットのお友達キャラが騎士団員専用のお友達キャラだと聞いて、三人は笑った。
「ははは、面白―い!誰のアイデアですかこれ」
ツボにハマったミレイが爆笑しながら尋ねると、アルフォンスが自分だと答えた。
「ゼロがゼロ仮面を生徒会で飼ってた猫に被られて追いかけ回したと聞いたからね。なのでやってみた」
「・・・あ、あの時か!そりゃ必死で追う訳だ」
「・・・相変わらずたまーにうっかりするんだから、ルルちゃん」
ミレイも苦笑すると、シャーリーは何だか邪悪な笑みでルルーシュのうっかりを暴露するアルフォンスに黒いものを感じたので何かあったのだろうかと思った。
ちなみにこれは、己にオーバーワークを強いられ大事なエトランジュが倒れた遠因になったルルーシュに対するささやかな仕返しなだけだったりする。
「カレンとなら連絡を取り合ってもおかしくないけど、なるべくバレないようにオブラートに包んでやり取りしてほしい。
ルルーシュ皇子に会いたいだろうけど、この状況では難しいんだ」
「解っています。カレンも基地に出入りしないようにしていると聞きましたから」
打って変わって真剣な顔でミレイが言うと、一同も姿勢を直して聞き入った。
「ロイド伯爵の件ですけど、下手に探りを入れられなくて・・・。
本人が言うにはガウェインっていうんですか、動かすのが大変なナイトメアを動かせたルルーシュ様にお仕えしたい、完成させるはずだった武器を弄りたいってことだったんですが」
「あー、あれならうちのエース科学者が完成させちゃったよ」
「らしいですねえ・・・凄い荒れてましたから。
だからあれ以上の武器を造ってやるんだって息巻いてましたよ。
あと、ランスロットの量産型の設計図を作ったので、それを手土産にするって」
ロイドはルルーシュに信用して貰うため、上司であるシュナイゼルには本腰を入れたナイトメアの開発報告をしていなかった。
名目はランスロットが戦場に出ないせいでデータが取れないからということと、予算が出なかったというものである。
「ふーん・・・でもあのシュナイゼルの部下ってのが気にかかっててね。あの野郎中華でえげつない策略してきたから」
アルフォンスが苦々しい顔で呟くと、滅多に他人を信用しないルルーシュらしいとミレイは軽く頷いた。
「ロイド伯爵には、このことはまだ黙っておきます。私からの報告は以上です」
「了解したよ。じゃあ何かあった時のために、ここの合い鍵渡しておくからね」
アルフォンスがキーを一つミレイに手渡すと、彼女は礼を言って受け取った。
「記念すべき黒の騎士団アッシュフォード支部の初会議はこれで終わったわけだけど、何か質問はない?
これから忙しくなるから、今のうちに・・・」
アルフォンスがそう尋ねた刹那、ミレイとシャーリーが目を合わせて叫んだ。
「あります、あります!ずっと聞きたかったこと!!」
「ど、どうぞ。答えられる質問なら答えるよ」
余りの熱のこもりようにアルフォンスが少したじたじになると、代表してシャーリーが質問した。
「あの中華で、天子に銃を突きつけたのって・・・あれってどうなったんですか?!」
「・・・あ~、あれね」
そりゃ気になるわ、とアルフォンスは納得すると、すぐに答えた。
「あれは演技だよ。ブリタニアと中華の結びつきを壊すためと、天子も結婚に嫌がってたからね。
エディ・・・エトランジュと天子様は友人同士だから、そこから繋がりがあったんだ」
「そ、そうだったんだ・・・びっくりしてどうなったのかと気になって」
「そうよね、ブリタニアじゃ一方的に黒の騎士団が天子をたぶらかしたとかしか報道されなかったから、どうしたんだろうって思って・・・あーよかった」
シャーリーとミレイが安堵の息をつくと、ミレイは握りこぶしを作って言った。
「まったく、あれじゃー悪の帝王みたいだったわ!
私がルルちゃんの元に行った暁には、正しい正義の味方ってのをレクチャーしないと!」
「・・・ま、そのほうがいいかもしれないね。そっちもゼロには伝えておくよ」
フォローしきれない、とアルフォンスが半ば投げやりに約束すると、よろしくお願いしますとミレイ達に頭を下げられた。
そうして散会した後基地に戻ったアルフォンスは、ミレイから頼まれて持ってきた正義の味方に関する資料をルルーシュに手渡すのだった。
『この宇宙に必要なのは、俺達の熱い勇気だ!それをマイナス思念と呼ぶのなら、滅ぶべきは、お前の方だ!』
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『・・・マンがいる限り、この世に悪は栄えない!!』
「・・・こんなのは、俺のキャラじゃない」
そう呟いたルルーシュに、それもそうだと納得するマグヌスファミリアと黒の騎士団の面々だった。