第九話 呉越同舟狂想曲
ルルーシュがV.Vによって連れ去られた後、別室にいたために難を逃れたアルカディアは誰もいなくなったのを見計らって行動を起こした。
さすがにあの場では多勢に無勢で、どうこう出来る自信がなかった。
確実にドアの外にギアス能力者がいるのだ、自分のギアスで外に出てルルーシュを助けようものならギアスの効かないV.Vに見つかり、こいつを捕まえろと命じられればそれで終わりだ。万一本人を殴って気絶させることは出来ても、どんな手で逆襲されるか解ったものではない。
エドワードに変装するとそっと部屋を出て、まずはリビングの外で眠っているカレンを起こしにかかる。
「起きて、カレンさん!」
「あ・・・う・・・アルカディア、様?」
「よかった、目を覚ましたんだね。今僕はエドワードだから、呼ぶ時は気をつけて」
目を覚ましたカレンにそう注意したアルフォンスは、はっと慌てたように言った。
「どどどうしよう、ルルーシュがコーネリアに!!」
「うん、よく聞いてねカレンさん。隣室で窺ってた限りじゃ、どうもゼロの正体までバレたみたいでね」
「え・・・!それじゃちょっと!!」
「黙って聞いて。その理由って言うのがブリタニアの諜報員が探り当てたからで、彼が誘拐されたみたいなんだ。
今から僕は彼を探しに行くけど、カレンさんはここにいてブリタニアの動きを報告してほしい。幸いコーネリアは君の正体に気付いていないしルルーシュ・ランペルージが皇子だったことも知らないと思っている。
だから今回ユーフェミア皇女と会わせたのはあくまでユーフェミア皇女からの命令に従っただけということにするんだ」
「でも、私が付いていながら!親衛隊長なのに!私も探しに出ます!」
今にも飛び出そうとするカレンを、アルフォンスが慌てて押し止めた。
「だけど、君じゃどうやったって彼を探せないよ。もしかしたら軍部に捕まったかもしれないし、もしそうだったら君の家の力が役に立つんだ。
君を窮地に追いやるわけにはいかないな」
「・・・解りました。ゼロを、お願いします」
理路整然と説明されて納得せざるを得なかったカレンの了承を得ると、続けてコーネリアを起こしにかかる。
「コーネリア総督、ユーフェミア副総督!!どうされたんですか?」
ここぞとばかりに力を込めてコーネリアの頬を叩いて起こすと、ゆっくりと目を見開いた彼女にいかにも申し訳なさそうに謝った。
「乱暴に起こしてしまって、申し訳ありません!!
その、意識がなかったようなので、慌ててこんな手段になってしまいました!」
「あ、ああ・・・それはいいが・・・いったいなにが・・・?!」
「それはこちらが伺いたいくらいなんですが・・・カレンさんのところで休ませて貰おうとしたらドアが開いていて、みんな倒れていたのでこちらもびっくりして・・・」
首を傾げるアルフォンスの言葉に、徐々に覚醒したコーネリアは叫んだ。
「あ・・・ユフィ!!それとルルーシュは?!あの子供はどうした?!」
「はい?誰ですそれ。僕が来た時には倒れている皆さんしかいませんでしたが・・・」
すっとぼけるアルフォンスの答えに、ユーフェミアが眠っているだけで外傷がないことを確認したコーネリアは、慌てて自らの騎士であるギルフォードとダールトンの頬を軽く張り飛ばした。
「ギルフォード、ダールトン、起きろ!!ルルーシュが何者かに連れ去られた!!」
「う・・・姫様・・・!!」
主君の焦りきった声に覚醒した二人は、はっと飛び起きてまだよく状況が解っていない様子のコーネリアを見つめた。
「う・・・確かルルーシュ様とお会いした後、突然子供が現われてルルーシュ様は自分が連れて行くと言って・・・その後は猛烈に眠くなって以降の記憶が・・・」
「ダールトン将軍もですか。私もです。
ただその前にその子供が・・・ルルーシュ様がゼロだと言っていたような・・・」
「お前達もそう聞こえたのか・・・おそらく、そうだろうな」
コーネリアが信じたくはないという口調で肯定すると、二人は驚愕した。
そこでコーネリアが部外者であるエドワードことアルフォンスとカレンの存在を思い出し、今の台詞が聞こえたかと焦るが何故か姿が見当たらない。
「つい先ほどの青年はどこに行った?私を起こした男だが・・・シュタットフェルト伯爵嬢もだ」
「男、ですか?それはいったい・・・」
二人が顔を見合せていると、キッチンの方から足音が二つ聞こえてきたかと思うと、リビングにやって来た。
「エドワード殿!」
ダールトンが知人である青年を見て少し安心すると、知り合いかとコーネリアが視線で尋ねた。
「はい、特区プログラムを担当している協力者です。
元アッシュフォード学園の大学生だった縁で、カレン嬢と知り合ったとか」
「ああ、確かホッカイドウで長期入院していたとかいう・・・」
アルフォンスが普通にトレイに水差しとワインの瓶を載せてやって来たので、今までの会話は聞こえていなかったようだとほっと胸を撫で下ろす。
「水をお持ちいたしました、コーネリア総督閣下。今カレンさんもすっかり覚醒されたようで、人数分の水をお持ちしました。
あと、着付け薬代わりにワインを・・・」
「あ、ああ、ありがたく頂こう。ユーフェミアを頼む」
「かしこまりました。あの、コーネリア総督閣下は・・・」
アルフォンスは事情なんて何も知りませんと言うように尋ねると、コーネリアはワインを飲み干しながらとにもかくにもルルーシュを確保しなくてはと思い、ギルフォードとダールトンを連れてマンションを出ようとする。
「緊急事態が起こったゆえ、我々が対処する。今回の件は特殊でな、決して口外しないで貰いたい」
「承知いたしました。
パーティーの方はユーフェミア副総督閣下に何とかお顔を出して頂いて、コーネリア総督閣下の方は特区の視察に極秘で向かったと言っておきましょうか?」
「そうだな、穏やかな形で取り繕うに越したことはない。よしなに取り計らえ」
「イエス、ユア ハイネス。ユーフェミア副総督が起きられましたら、そちらに連絡いたしますのでご安心を。
とりあえず速やかにこちらから特区庁のほうにお送りいたします」
てきぱきとこちらの都合のいいように対処するアルフォンスがまさか自分を半殺しの目に遭わせた本人だとは知らぬまま、カレンがいることもありルルーシュの確保が先だとコーネリアはギルフォードとダールトンを引き連れてマンションを出て行く。
それを冷ややかな目で見送ったアルフォンスは、口裏を合わせて貰うために再びアルカディアに戻るとユーフェミアにワインを飲ませて起こした。
ちなみに横ではスザクがカレンにコップの水を被せられて覚醒させられている。
「ん・・・あ、あら・・・?」
「うわっ、冷めたっ・・・!」
「さっさと起きろ!!マジでやばいんだから今!!」
水と共に怒声を浴びせられたスザクが飛び起きると、右足に痛みを感じてそちらに視線を移すと、そこからは赤い血が流れていた。
「俺は・・・いったい・・・・あ・・・!」
ルルーシュの正体がコーネリアにバレたことを思い出したスザクとユーフェミアは、カレンに詰め寄った。
「ルルーシュ!ルルーシュはどうなりました?!」
「な、何があったんだよ!どうしてここにコーネリア総督が!
それにあの子供、何でルルーシュがゼロだって知ってたんだ?!」
「私が知るか!!今それを調べにアルカディア様が出られるんだけど、その前に口裏合わせなくちゃいけないからってまだ残ってんだから!!」
「ああ、彼女は隣にいたから助かったのか・・・だったら何であの時すぐに助けに出なかったんだ?!」
「あの状況でアルカディア様が出たって、捕まるだけで意味ないでしょうが!!」
「う・・・・それもそうだね。ごめん・・・」
自分と同じ身体能力を持たない人間が出たところで、どうせ即座に眠らせられたか殺されたかのどちらかである。
スザクがまた短絡的に言ってしまったと反省しているが、アルカディアはウザクなので仕方ないと、1ミクロンも気にしていなかった。
それに彼は彼なりにルルーシュを思っており、自身を傷つけてまでどうにか抗ったことを知っていたし、混乱しているだけだと解っていたのだ。
「落ち着いて!状況説明した後そっちと打ち合わせるから、よく聞いてね」
アルカディアの低い声に二人が頷くと、カレンも真剣に彼女の言葉を頭に叩き込むべく彼女を見つめる。
「もうゼロがルルーシュ皇子だとはほぼ確定すると思うの。
ただしそれを公表することはないと思うから、神根島でゼロ=ルルーシュだと知っていたと言いなさい。下手に隠しても意味はないから」
「え、でもそれじゃ・・・!」
「最後まで聞け。ただし、その後ユーフェミア皇女に『ルルーシュとコーネリア総督は戦って欲しくなかったから、日本をよくすればゼロは他のエリアに行くって言ったから特区を作った』と言うのよ。
これは事実だし、それで二人がどう繋がっているかを知って貰えればユーフェミア副総督とあんたに咎めが行くことはない」
何しろユーフェミアがやると決めたことなのだ。スザクはそれに従っただけとすれば、ルルーシュの生存を隠していたのも確かにユーフェミアの意志があったのだから、それほど責められることはないであろう。
「神根島でのことは、カレンさんの正体だけ隠して貰えればいいわ。後はこっちでゼロを救出するから、絶対動くな。
いいわね、絶対余計なことするんじゃないわよ?!」
大事なことなので二回言いました、とばかりにアルカディアが念を押すと、スザクはコクコクと頷くが、ユーフェミアは何やら考え込んでいる。
「カレンさんの方はついさっき私がダールトンに提案したように、そっちから貴女のお父さんにコーネリア総督の不在を取り繕うように頼んでおいてね。
ユーフェミア皇女は騒ぎにならないよう、すぐに特区庁に戻ってパーティーに出席してちょうだい。難しいと思うけど、なるべく楽しそうにね。
じゃあ私は今からちょっと情報整理してくるから」
定期連絡の時間までかなりあるのだ、それまでに情報を集めてことの事態を報告してどうするかを相談するしかない。
何しろ相手はギアス能力者だから、自分達が相手をする他ないのである。
アルカディアはそう言うが早いかカレンの部屋に飛び込んで勝手にパソコンを起動させると、特区内の監視カメラの画像を見ることが出来るプログラムを開いた。
膨大なカメラの量だがこのマンションの出入り口および特区出入り口を調べると、あからさまに怪しい長髪の子供とそれに従うように歩いているグループを見つけた。
「取り繕う気もないみたいね・・・お陰ですぐ見つかったけど」
「確かにこの子供だわ。何者かしら?」
眠気が来る前に確かに見たのはこの少年だと証言したカレンに、ここまで堂々としていればパーティーでコスプレをしている貴族の子供とその従者達に見えなくもないかと、強引に納得することにした。
「隣室で様子を伺ってみた限りじゃ、どうもブリタニアの秘密工作員みたいだったわ。
貴女達を眠らせたのも、多分眠り薬でも撒いたんだと思う」
実際はギアスなのだが、アルカディアが助かったのはおそらく有効範囲外にいたからだろうと予想している。
このことからこのギアスの持ち主の有効範囲はせいぜい二十メートル以内だと予想出来るが、接近戦を得意とするアルカディアには分が悪い相手だった。
「出て行ってからまだ15分過ぎたくらいだから、まだ特区から出てないな・・・ここにいる間に奪回しないと」
「出来そうですか?」
「解らないわ。ただエディ達がここに来れるかどうか・・・今アキタだからね」
間の悪いことに現在、エトランジュはジークフリードと共にアキタに行っている。
白人なので普通にモノレールを使ってアキタに行っているが、それでも戻るまでかなりの時間がかかる。
(私だけじゃ分が悪すぎる!ジークフリード将軍はエディと一緒だし、クライスはナナリーちゃんの護衛で離れられないし・・・くっ、ゼロがいると思って他にギアス能力者を呼ばなかったのがまずかった!
でもマオがトウキョウにいるのがまだ救いか・・・彼ならすぐに彼の居場所が)
もしナナリーまでもがさらわれでもしたら、ルルーシュを奪還出来てもその後の活動に大きな支障が出る。何としてでも彼女は守らねばならないから、クライスを呼ぶ訳にはいかない。
「・・・乱暴な手段を取ることになりそうね」
「仕方ないと思います。私で出来ることなら、何でも言って下さいね」
「ありがとう、カレンさんお願いするわ・・・っと、失礼」
定期連絡の時間でもないのにリンクが開き、エトランジュの慌てたような声が脳裏に響き渡った。
《アルカディア従姉様、今マオさんから伺ったのですが、ゼロが誘拐されたというのは本当ですか?!》
《え、その通りだけど何で解ったの?》
驚いたアルカディアに、エトランジュはうろたえながらも答えた。
《私、アキタに今ジークフリード将軍とマオさんと三人で来ていて・・・マオさんがC.Cさんから今聞いたと連絡を受けたんです》
《げ、マオも今そっちにいるの?!呼ぼうと思ってたのに!!》
重要な切り札のマオがはるかアキタと知って、アルカディアは泣きたくなった。
《アキタからここまで、どれくらいかかる?》
《今モノレールに乗って一時間くらいですが、あと二時間はかかります》
《やっぱりそれくらいかかっちゃうか。いい、大声出さないでよく聞いてね。
犯人は解ってるわ、ブリタニア側のコード所有者のV.Vよ。おまけにそいつがゼロの正体までコーネリアにバラしたというおまけつきで》
それは聞いていなかったのか、エトランジュが息を呑んだ。
《今から急げば特区内のゼロギアスをかけた連中で取り押えられるかもしれないわ。
何とかしてみるから、急いでマオを連れてきて!》
《何この最悪な展開・・・予知されてなかったの?》
マオがまさかのルルーシュ誘拐という事態に驚いた様子で尋ねると、エトランジュもアルカディアも首を横に振った。
《私達に関係する予知じゃないと出来ないし、自動発動型だからね・・・アイン伯父さんは何て言ってた?》
《予知はしていないようですが、何かあったらすぐ知らせるとのことなので五分おきに聞くことにしました。
・・・あちらからもリンクを開けられればタイムラグが避けられるのですが》
《そう言うところもこういう時はまだるっこしいわね。でも文句言っても仕方ないわ。
ホント急いで!それだけが今の私の望みだから!!》
《ゼロには必死でこっちから呼びかけてるんですけど、全然起きなくて・・・!
彼とリンクが繋がったらお知らせするので、それまでお待ち下さい!》
自由に動けるのが自分一人とあって、アルカディアはかなり混乱しているようだとこの会話の内容を聞いていた一族とマオは、本当にまずいなと現在の状況がかなり悪いことを改めて実感する。
と、そこへユーフェミアがおそるおそる口を開いた。
「あの、特区をこちらの権限で封鎖しましょうか?
そうすれば特区の外には出られないでしょうから、奪還しやすくなると思いますけど」
「それは、確かに特区外に連れ出されるとちょっと困るとは思ってたけど・・・」
実際のところルルーシュとの間にリンクは繋がっているので、ルルーシュさえ覚醒出来れば居場所はすぐに判明するのでそこまで気にしていなかった。
だがもしかしたらギアスを無効にされる可能性がなきにしもあらずな上、ルルーシュのギアスが視覚型と知っていたら目を塞がれているだろうからこの特区内で奪還するに越したことはないと、アルカディアは考えを変えた。
「騒ぎを起こさずに封鎖するなんて出来るの?」
「ちょうど今たくさんの人達が集まっていて、出入り口が混み合っていると思うのです。
いつもは東西南北の門それぞれで入場と出場が可能になっているのですが、今日だけ効率化のために南門と東門を入場門に、北と西を退場門にしてあるので、出口を封鎖するだけならたぶん・・・」
「・・・よし、じゃあ今からちょっと退場門のプログラムを操作して、退場する時に使う身分証の認証にエラーを起こさせるバグを起こすわ。
そのため退場門が使えないので、復旧するまで退場は無理だと通達してちょうだい」
アルカディアの案に、カレンも賛成する。
「今は特区に入場する人は多いけど出る人は少ないですし、今は昼を過ぎたばかりで帰る頃には復旧するだろうと考えてそれほど騒がないと思いますから、それでいいんじゃないでしょうか」
「それもそうね。コーネリアもゼロを追っていったから、そうすると言えば許可するでしょう。
じゃ、ちょっと始めるとしますか」
アルカディアがキーボードを叩いて特区プログラムにアクセスすると、さっそく身分証の認証エラーを起こすようにプラグラムを改ざんし始めた。
それを見ながら、ユーフェミアは特区内で通じる電話を使って姉に連絡する。
「お姉様ですか?あの、今ルルーシュを追っているんですよね?
まだ見つかってないそうですが、特区を封鎖するために・・・そうです、既に手配して下さった方が・・・はい、解りました。パーティーのほうにはきちんと出ます。
・・・はい、ごめんなさいお姉様。でも・・・はい」
受話器を下ろしたユーフェミアが溜息をつくと、アルカディアに報告する。
「まだルルーシュは見つからないそうですが、そのルルーシュを連れ去った子供のほうはまだ特区から出ていないから封鎖しようとした矢先だったそうで、さっきのアイデアを話したら許可が出ました。
パーティーに出てこのことは隠し通せとおっしゃられて・・・」
「その方がいいでしょうね、早く戻りなさい。この件はカレンさんを通じて、貴女にも結果を伝えるから。
・・・協力してくれて、ありがとう」
アルカディアが心から礼を言うと、まさかお礼を言われるなど想像していなかったユーフェミアは驚きながら言った。
「アルカディアさん・・・こちらこそ、ありがとうございます。
あの・・・ルルーシュをお願いします。私の大切な人なんです」
「解ったわ。今日はコーネリアからいろいろ言われるでしょうけど、もうここまで来た以上言いたいこと言ったら?」
それしかアドバイス出来ないけど」
「ええ、覚悟しています。もう逃げることは出来ないのでしょうね」
特区が成功してルルーシュが日本以外で活動してから、彼の許可を取ってコーネリアとは話し合えたらと考えていた。
逃げていたととられるかもしれないが、まず自分達がルルーシュと戦いたくないことと特区で日本人を守りむやみな争いをしたくないことを信用して貰うためにもと、彼女はここまで頑張って来たのだ。
「せめてお姉様をEUに赴かないように出来たら、これ以上姉弟で戦うことはないと思ったのに・・・」
ユーフェミアの泣きそうな顔に、スザクが彼女の肩をそっと支える。
「とにかく、ルルーシュをこの人に託して逃がすことを優先しよう。
まずは会場に戻って、異変をみんなに知られないようにした方が・・・」
「そうね、スザク。せっかくみんなで楽しんで貰うためのパーティーですもの」
ユーフェミアは滲んできた涙を拭きとると、カレンのほうを見つめて言った。
「何かありましたら、カレンさんを通じて連絡させて頂きます。では、後はよろしくお願いします」
「了解。そっちも頑張ってね」
ユーフェミアは頷くと、スザクとカレンを伴ってマンションを出た。
それを見送ったアルカディアは再びパソコン画面を見つめ、ルルーシュ救出作戦を考え始めるのだった。
マンションの地下駐車場で何も解らないまま車内に取り残されていたニーナが途方に暮れていると、青ざめた表情のユーフェミアがスザクに支えられるようにして戻ってきた。
傍には苛立った様子のカレンもおり、何かよくないことが起こったのだとすぐに解った。
「ユーフェミア様、どうなさったのですか?!ひどいお顔・・・」
「ああ、ニーナ・・・どうして貴女がここに?」
「あ、あの、実は私・・・」
ニーナが連絡役として居残ったユーフェミアの執務室で、例のデジタルペットのプログラムを送ってくれたルルーシュへの御礼状を書いていたらコーネリアが来て、その時の内容がたまたま彼女の目に入ってルルーシュという名前に反応したのだと答えると、まさかそんなところからルルーシュの生存がバレるとはと三人は額を押さえた。
さすがに幾通りものパターンを瞬時に考えられるルルーシュといえど、偶然までは予測出来なかったようだ。
「全然予想してなかったわ・・・ルルーシュも聞いたら驚くでしょうね・・・」
「ルルーシュはユーフェミア様のお知り合いだったのですか?」
ユーフェミアの呆然とした台詞にニーナがおそるおそる尋ねると、三人はどう説明しようかと考え込んだ。
しかし下手に隠しだてすることも出来ないため、腹をくくったユーフェミアが車に乗り込むと運転手に車を出すように言い、後部座席と運転席を遮断して音声を外に出さないようにした後にニーナに命じる。
「このことは、絶対に誰にも言ってはいけません。これは皇室の秘事ですから、約束して頂けるのならお話しましょう」
「・・・解りました。絶対誰にも言いません」
かなり悩んだニーナだが、カレンが知っているのなら自分もという対抗意識に駆られてその命令を了承すると、ユーフェミアはルルーシュがゼロだということを除いて話した。
「ルルーシュは私の異母兄なのです、ニーナ。閃光のマリアンヌというかつて七年前に暗殺された父の妃の長子なのですわ。
子供の頃一番仲が良かった異母兄なのです」
「え、ルルーシュが?!あ・・・そういえばマリアンヌ様のお子様がこのエリア11で暗殺されたって・・・え、でも生きてますよね彼?」
「・・・殺そうとしたのは日本人ではありません。開戦の口実を欲しがった父シャルル皇帝なのです」
「え、ええええ?!」
あまりに衝撃的な告白にニーナは唖然とするが、もともと頭の良いニーナはある程度事情を推理出来た。
「そ、それで皇室から逃げて素性を隠してたんですか。カレンさんを通じて、ルルーシュ・・・様の生存を知って?」
「前半はその通りですが、後半はちょっと違いますね。七年前留学という名目で送られたルルーシュとナナリーがいたのがスザクの家だったので、スザクから知りました。
アッシュフォードで再会したのは偶然のようなのですが・・・」
「そうだったんですか。それでルルーシュはスザクを親友だと・・・」
「絶対ブリタニアには戻らないと言うので私も隠していたのですが、今日バレて・・・いえ、ニーナのせいではありませんよ。
事情をお話ししなかったのはこちらの落ち度ですし、そろそろ隠しきれるものではなかったのですから」
全ての事情を知ったニーナはこの一連の騒動の理由に納得したが、それでどうして今この場にルルーシュがいないのかと首を傾げる。
「あの、そのルルーシュは今どこへ?」
「・・・事情が事情なので、今少しいろいろとトラブルが起こっているのです。
今はお姉様にお任せして、パーティーのほうに専念した方がいいと思って」
「わ、解りました。誓って他言致しませんのでご安心くださいませユーフェミア様」
ニーナは秘密を打ち明けて貰えたことに満足したが、それ以前に知っていて協力していたスザクとカレンに嫉妬を覚えた。
だが事情を見れば情報の出所がスザクなら仕方ないし、カレンも同じ学園にいて伯爵令嬢という身分で彼との逢瀬を手引き出来ていたのだからと強引に納得するしかなかった。
「私、私も何でも協力させて頂きますから、何でもお申し付け下さいね!」
「ありがとう、ニーナ。でも、この件はとてもデリケートなので無理はさせたくないの。ルルーシュの生存が本国に知れたら、どうなることか・・・」
日本人によって殺されたはずの皇子が生きていたと知れば、開戦理由が不当なものだとなってさらなるテロに繋がりかねない。
何より彼がゼロだと知られればどうしようと、ユーフェミアは頭が痛くなった。
「もう・・・本当にブリタニアをどうにかするしかないのかもしれませんね」
七年前に政治の道具にするために殺すことを前提に母を亡くした兄妹を捨てて敵国に送った父に、さらにシンジュクで無差別に毒ガスを散布したと偽って日本人を殺した異母兄に、テロリストの囮にするために関係のない民を巻き込んだ作戦を行った実姉に、それらすべてを否定して家族を殺すと決めたルルーシュに、それをただ黙認し続けている自分に・・・まったくもって自分を含めた我が一族は狂っているとしか思えない。
そして今また、ルルーシュを連れ去ったのはブリタニアの工作員だという。
状況を見れば確かにその通りだろうし、実はあの時見た子供の容姿が気にかかっていた。
(あの子供・・・どこかで見たような気がするわ。どこだったかしら・・・?)
ユーフェミアが懸命に記憶を探ろうとするが、答えが出てこない。
それもそのはずで、彼女が見たのはたった一度だけでしかもそれは写真だった。
父シャルルがペンドラゴンにある名門学園中等部に在籍していた頃の写真で、まだ幼さを残していた彼の姿をさらに小さくすれば双子であるV.Vになるのだ。
だが六十を過ぎていかつい老人となっていた父と子供とがどうしても結びつかず、ユーフェミアは思い出すことが出来ずに溜息をつく。
せっかくの誕生日だったのに、まさかこんなことになるとは露とも思わなかったユーフェミアは、とにかく騒ぎにならないように、またルルーシュが無事に特区から脱出出来るように祈るのだった。
その頃V.Vは日本経済特区から出ようとしていたが既にアルカディアの提案をユーフェミア経由で呑んだコーネリアによって出口を封鎖されてしまい、とりあえず取っておいたホテルにルルーシュを監禁してつまらなそうに椅子に座っていた。
ベッドには拘束されてアイマスクをつけられたルルーシュが転がされており、ロロを含めた三人のギアス嚮団の男が控えている。
「あーあ、さっさと外に出て始末して、海にでも沈めてしまおうと思ったのになあ」
「いつまでも封鎖は出来ませんV.V様。しばらくお待ちになった方が・・・」
「解ってるよ。今はお祭り騒ぎで退屈しなさそうだから、まあいっか」
V.Vはそう言いながらテレビを見始め、他の嚮団員達はルームサービスを手配したり荷物を整理したりしていた。
ロロはベッド脇の椅子に座り、眠りにつくルルーシュの顔をじっと見つめている。
(この前お菓子をくれた人が、ゼロだったなんて・・・)
何とも皮肉な巡り合わせにロロは何とも言えない気分になったが、それがなんというものなのか解らずにじっとルルーシュを見つめている。
(この人を・・・殺すのか・・・)
いつもしていたことなのに、あの時優しく手当てをしてくれた人物をと思うと、何故か嫌だった。
じっとルルーシュの寝顔を見つめていたロロだが、それに夢中になるあまり彼が既に起きていることに気付かなかった。
《・・・なるほど、大まかな動きは理解しましたエトランジュ様。お手数をおかけして申し訳ない》
《それはともかくとして、どう動けばいいのか教えて下さい。アルカディア従姉様だけではどうにもこうにも・・・。
しかもC.Cさんがおっしゃるには、C.Cさん自身も狙われていると言うではありませんか!》
はるかアキタからトウキョウに向かう途中のエトランジュとマオ、トウキョウにいるクライスはナナリーの護衛で動けず、C.Cも狙われていると聞いてはうかつに救出に参加して貰う訳にはいかない。
《現在俺は特区内のホテルに閉じ込められているようです。アイマスクをされている上にコンタクトを外せなかったので、ギアスも使えません。
さらに拘束されている上に外にはむろん、すぐ近くにも見張りがいます》
聞けば聞くほど最悪な展開に、この会話が聞こえている仲間達は顔を引きつらせた。
《こいつらはブリタニア側の工作員、というのは確定情報ですか?》
《はっきりとは・・・ただC.Cさんからそいつには絶対ルルーシュを渡すなと指示がありました。
理由をお伺いしたところ、確実にルルーシュを葬るつもりだからとのことですが》
エトランジュの報告に、やはり何か知っていそうな共犯者の魔女に溜息をつく。
《あのV.Vとやらはそれほど危険人物ということか・・・》
《出来ればそのコード所持者はこちらで確保したいのです。まだこちらのギアス能力者は暴走状態になっていませんが、達成人になり次第コードを奪いたいので》
《それは確かにそうですね。しかし駒が少なすぎる・・・今から遺跡を使ってマグヌスファミリアのギアス能力者の方に来て頂くことは可能そうですか?》
《・・・無理ですね。アイン伯父様がおっしゃるには、遺跡から日本に向かう途中でブリタニアのギアス能力者に待ち構えられているとの予知が来たそうなので》
半ば予想していたとはいえルルーシュは舌打ちすると、発想を逆転することにした。
《・・・コーネリアに俺の居場所を教え、救出するよう手配して頂きたい。
こいつらから逃げるより、ギアス能力者ではないコーネリア達から逃げる方が難易度は低い》
《しかし、そちらには周囲の人間を眠らせるギアスがあります。
それではさきほどの二の舞になってしまうのでは?》
《そのギアス能力者をを特定し、そいつを始末すればコーネリアが俺を救出するのは容易になる。
ギアス能力者を始末する方法を、貴方がたから教えて頂きましたからね》
《・・・解りました。ではアルカディア従姉様》
《あの女と一時的とは手を組むのか・・・》
家族の仇の力を借りることになるとはとアルカディアは嫌そうな顔になったが、他に方法を思いつかなかった彼女は渋々了承した。
《いいわ、あの女の力を利用すると考えることにする。
今特区内のホテルの出入り口の監視カメラを片っ端から見て、ゼロが監禁されてるホテルを特定しにかかってるから》
後はギアス能力者を始末する方法をコーネリアに伝えて実行させれば、ルルーシュを救出出来る。
もともと特区内の三分の二はこちらの手に落ちているのだし、自分の左手に刻まれた模様を使ったギアス兵を駒にすることも出来る。
いざともなればカレンに助力を頼むことも出来るから、確かにV.V達を相手にするより効率的な手段だった。
《じゃ、何とかしてみるわ・・・リンクだけは切らないでね》
アルカディアはそれだけ念を押すと再びルルーシュを探すべくパソコン画面に視線を戻す。
エトランジュとルルーシュも頷いて、彼はひたすら眠っているふりを続けるのだった。
特区封鎖を手配したというユーフェミアにコーネリアはよくやったと思いながら、信頼出来る部下だけでルルーシュ捜索に必死になっていた。
「早く私に報告しておけば、このような事態にはならなかったものを・・・!」
状況を見れば神根島で既にゼロの正体を知っていたであろう妹に呆れるが、ルルーシュがきつく口どめしただろうし何よりルルーシュが反逆罪で処刑されると思えば無理もないとも解っていたので苛立ちばかりが募っていく。
「とにかくルルーシュを確保するのが先だ!
あの子を連れ去ったのが誰かは知らんが、ゼロの正体を知っている以上無視は出来ん」
「いったい誰がルルーシュ様を・・・あの場でゼロの正体を暴露したのですから、黒の騎士団ではないでしょうが」
「・・・恐らく、我がブリタニアの誰か、だろうな」
「?!」
コーネリアが苦痛に満ちた顔で推理すると、二人は言われてみれば確かにそれが一番可能性が高いと気づき、主と同じ顔になった。
「落ち着け、まだ希望はある。ルルーシュをさらった奴らを捕まえた後、ルルーシュにゼロを辞めるように説得する。
そうすればゼロの正体を知っている可能性のある騎士団とマグヌスファミリアの連中を始末すれば、ルルーシュとナナリーは私を後見人として皇族復帰させることが可能だ。
亡きマリアンヌ様のためにも、それが一番いい方法だ」
「な、なるほど。しかし姫様、ルルーシュ様を捕らえた者達が皇帝陛下の配下であったなら・・・」
「陛下のお耳に入っていることも考えられる、か。その時は・・・」
その時はブリタニア皇帝の臣下として報告するのが正しい道だった。
だがそれでも出来るだけの隠ぺい工作を施し、ルルーシュとナナリーを自分の保護下に置くことに全力を尽くそうとコーネリアは思った。
「お姉様、監視カメラの中からルルーシュを連れた人がいないか調べていたら、見つかりました!
出口にしている北門近くのブーゲンビリアホテルですわ。金髪の子供も一緒にいましたし、間違いないと思います」
「そうか、よくやったぞユフィ!すぐにルルーシュを助けて戻るから、もう少し待ってくれ」
時間を見てはルルーシュを探そうと頑張った妹に感謝しながら、自分が集めた兵士に指示を出そうとするとユーフェミアが止めた。
「あの、いきなり行ったらつい先ほどのように眠らされてしまう可能性が高いと思うんです。ですから、対策をしてからのほうが・・・」
「ああ、それは私も思っていた。眠り薬の類だろうから、ガスマスクを持たせてあるから心配は・・・」
ギアスではそれに対処出来ないことを知っているアルカディアは、ユーフェミアを通じて別の策を与えている。
「こちらから催眠ガスなどで先に眠らせてしまったほうがいいと思うんです。
下手に傷つけたりして後からまずい事態にならないようにするためにも、そのほうがいいと思うのですけれど」
ギアス能力者はギアスを使うという意思のもと能力を発動させるので、逆に言えばさっさと物理的に眠らせてしまえばギアスを封じることが可能なのである。
よって催眠ガスや眠り薬、もしくは頭に衝撃を与えるなどして昏倒させるというのは、単純ではあったが効果的な対策なのだ。
「本当に成長したな、ユフィ。確かにもしこの件が皇帝陛下の命で行われたものなら、後々やっかいなことになる・・・そうするとしよう」
コーネリアは妹の意見を最もなものだと思った。
自分達に連絡が来ていなかったから知りませんでしたと取り繕うことは可能だが、不興を買わないためにも実行犯を殺さず捕まえられれば印象は大きく異なってくる。
それに皇帝が関わっていないにせよ、事情と裏にいる者をを知るためにも生かして捕らえるのが最善なのだ。
さらに万が一救出時にルルーシュが自分から逃げて黒の騎士団に戻りでもしたら、戦場でしか会う機会がなくなってしまう。
何としてでも自分の手元に置いて、ゼロなどやめてこのエリア11でナナリーと共に穏やかに暮らすように説得しなくてはならないのだ。
まさかユーフェミアにその提案を伝えたのがアルカディア、ひいては誘拐されたルルーシュ本人からの策だとは考えもしていないコーネリアはギルフォード達に指示して催眠ガスを用意させると、極秘にルルーシュが監禁されているというブーゲンビリアホテルに向かった。
念のためにユーフェミアから送られてきた映像を確認してみると、確かに出入り口で自分達にゼロの正体を暴露した子供と十代半ばの少年の背後で、三十代の男が眠っている黒髪の少年を抱えて入っていた。
それを確認したコーネリアは、まずはダールトンに命じてホテルの支配人に誘拐事件が発生したがこのパーティーの最中に大ごとにしたくないので極秘の協力を命じると、その先ほどの映像を見せて一行が泊っているホテルの部屋を教えさせた。
「高層階のスイートルームか。従業員通路からそちらに向かい、ルルーシュを救出する」
「イエス、ユアハイネス」
ギルフォードとダールトンが頷くと、地下通路からホテルの前に到着すると支配人の案内で従業員通路へと向かう。
極秘に呼び寄せたグラストンナイツを十名背後に従え、従業員用のエレベーターで目的のフロアに着くと部屋数が少ない上に外のパーティーに出るために外出したのか、人の気配はない。
「姫様はここでお待ちを。まずは我々が様子を探って参ります」
「うむ、頼んだぞ」
ギルフォードの指示でホテルの従業員の服を着たグラストンナイツの二人が催眠ガスを隠した掃除道具のカートを押して目的の部屋まで行くと、そこそこ高級なホテルの高層階は裕福な者達が泊まることが多いので防音効果が高く、室内から音こそ響かなかったが人の気配があることくらいは解る。
グラストンナイツの合図にギルフォードが頷くと、グラストンナイツが支配人から受け取ったマスターキーで部屋を開けると電光石火の早業で催眠ガスを投げ入れてドアを閉じた。
室内にいたギアス嚮団の面々は突然の攻撃に驚いたが、ギアスで常に先手を打っていた彼らはギアスではない手段で反撃されることに非常に不慣れだった。
防音効果が高いせいで外に兵士がいるなど解らなかった上、最強のギアスの一つに数えられるルルーシュの絶対遵守のギアスを防ぐことのみに目が行ってしまい、そのルルーシュを抑えたことで安堵したせいだろう、見事に油断していたのだ。
「さ、催眠ガス?!くそ・・・!」
「や、やられた・・・!」
ギアスを無効出来るV.Vだが、物理的な攻撃は普通の人間同様に受けてしまう。
よって催眠ガスによって強烈な眠気が己を襲うことを防ぐことが出来ず、頭を押さえて倒れ伏す。
周囲の人間を眠らせるギアスを持っているギアス能力者も、能力の発動圏内が半径十メートル以内と狭いため、確実に部屋の外にいる者にまでは効かないために何とか発動したはいいが、入口にいたグラストンナイツの二名を眠らせるに留まってしまった。
五分ほどが経過すると、昏倒したグラストンナイツの二名は眠っているだけと確認した後、念のためガスマスクをつけたギルフォードとダールトンがそっとドアを開けて部屋へと侵入した。
「どうやら眠り薬を撒こうとして失敗したようですね、ダールトン将軍」
「うむ・・・見る限りこの場にいる者達は眠っているようだが・・・」
ギルフォードとダールトンは眠っているギアス嚮団の男と子供を見つけると、他にいた兵士達を呼んで拘束させた。
そこへ同じくガスマスクをつけたコーネリアも入室すると、末弟の姿を求めて隣室へと駆け込みベッドの上で横たわるルルーシュを発見した。
その上には十代半ばの少年、ロロも催眠ガスによって眠っており、ルルーシュの胸の上に倒れこんでいる。
「ルルーシュ、ルルーシュ!!大丈夫か、しっかりしろ!!」
ロロを押しのけてルルーシュを抱き起こしたコーネリアは、金髪の子供と男達を連れて行けとグラストンナイツに指示した。
その命を頷いて了承した面々が彼らを連行すると、残ったルルーシュをギルフォードに預けて部屋を出る。
「これでルルーシュの身柄は確保出来た。後は・・・どうするか・・・」
「政庁でルルーシュ様のお目覚めをお待ちして、お話を聞いてから今後の展開を決めましょう。この者達の素性も調べねばなりませんし・・・」
「そうだな・・・それにしてもこいつらは我がブリタニアの者達か?
見たところナンバーズもいるようだが・・・」
「どうでしょうか・・・軍の人間とは思えぬ体たらくでしたし」
あっさりと催眠ガスにやられたことといい、何より小学生程度の子供がいるなど不可解なことばかりだ。
「しっかり拘束しておけ。後で私自ら尋問する」
「イエス、ユアハイネス。速やかに特区庁へ帰還する」
ギルフォードの指示で一同が頷くと、ギアス嚮団の者達が持ち込んだものを押収して部屋から出て行くのだった。
「兄さんがルルーシュを捕まえただと?本当かマリアンヌ」
黄昏の間と呼ばれる遺跡の中でそう報告を受けたシャルルは、十代半ばの少女の姿をしている妃のほうを振り向いた。
「ええ、つい先ほどC.Cから聞いたの。
それで今あの子に協力してくれてる子達が必死になって奪回しようと頑張ってるみたいね」
「兄さんはまた勝手に・・・それで、ルルーシュは無事なのか?」
「今のところはね。特区を封鎖されたせいで出られなくなったみたいだから」
マリアンヌの報告に大人しく計画成就を待ってくれない兄とそれを知らずにエリア11で暴走している息子に、シャルルは内心で大きく溜息をつく。
「エリア11のアッシュフォードでラグナレクの接続が成るまで大人しくしておればよいものを・・・テロリストになどなるからこうなるのだ」
「本当にねえ、誰に似たのかしら」
くすくすと楽しそうに笑う妻を見ながら、彼なりに息子を案じたシャルルはマリアンヌのように無為に死なせたくはないと考えてあの地に送ったというのに、盛大に反逆の狼煙を上げて自ら災厄を呼び寄せる息子に呆れた。
と、そこへ噂をすれば影で、当の騒動の発端となった兄からコードを通じて連絡が来た。
《ごめんシャルル、ちょっとミスしちゃってコーネリアに捕まっちゃった。
僕だけ逃げてもいいんだけど難しそうだからさ、他の嚮団員達と一緒に釈放させるように取り計らってくれない?》
《構いませんが兄さん、どうしてこうなったのですか?》
《ルルーシュを始末しようと特区にいたら、捕まっちゃった。中華連邦にゼロの力が及ぶようになったら嚮団も危ないしね。
それにルルーシュなんてシャルルもどうでもいいんだろ?》
悪びれもせずにそう無邪気に答える兄に、シャルルは何も言わなかった。
《C.Cのコードだって必要だし、ルルーシュさえ消しちゃえばC.Cも考え直してくれるかもしれないしさ》
《・・・そのC.Cを確保するためにも、ルルーシュが必要です。
少し考えがありますから、ルルーシュを殺すのはやめて下さい》
シャルルがその考えを兄に話すと、彼は納得したらしい。手を叩いて賛成した。
《なるほど、それならいいよ!解った、じゃあ僕は釈放されたらギアス嚮団に戻るね》
《ええ、でも勝手なことはやめて下さい。計画は大詰めに来ているのですから》
さりげなく釘を刺したシャルルの言葉に、V.Vは解ったと頷くと交信を切った。
「大変なことになっちゃったわねえ、シャルル」
「兄さんの言うことにも一理あるからな。そろそろあやつに協力して貰わんことには、計画が進められぬ」
計画遂行を何よりも重んじているシャルルだが彼は彼なりに息子を案じており、無為に死なせたいわけではなかった。
だからエリア11に送り込んでアッシュフォードの爵位を剥奪する形でルルーシュとナナリーを保護させるように仕向け、そのまま計画成就までいればいいと考えていた。
(全ての記憶を消して再度アッシュフォードの箱庭におればよい。C.Cさえ確保出来れば、そのほうがあやつのためにもよいのだ)
ルルーシュ本人が聞けば勝手に決めるなと怒鳴るであろう本音は、優しいものではあった。
しかしそれは激しく歪んでおり、息子を案じてはいるが利用しているという行為と並行しているが故に理解されないものだということに、彼は気付いていなかった。
何よりもたとえ死んだとしてもまた会えるという考えの元に生死の境があいまいになっており、死んでも別に構わないというあくまでも自分中心の考えこそが一番歪なものだった。
計画遂行という呪いにも似た思いに支配されたシャルルは、計画が成れば自分の思いを理解してくれた息子達と嘘のない世界で幸福になれると信じて、黄昏の間を出た。