第八話 束の間の邂逅
十月十一日、エリア11内は朝からにぎやかな空気に包まれていた。
エリア11の副総督にして神聖ブリタニア帝国第三皇女のユーフェミア・リ・ブリタニアの誕生日パーティーが開かれるのだが、一般国民のみならずナンバーズである日本人も参加が可能な初めての試みとあって、世界中が注目していたのだ。
コーネリアやダールトンが暗に釘を刺したこともあり、この日だけはブリタニア人も日本人に対して無法な振る舞いを避けるように心がけようという雰囲気が流れたため、横にブリタニア人がいるというだけで神経を尖らせる日本人も少ない。
「いいか、今日が特区成功の分け目を握る大事な日だ。
ユーフェミア様を快く思わないイレヴンはもちろんのこと、特区を壊そうと企むブリタニア人もいるかもしれん。心して警備に当たれ!!」
「イエス、マイロード!!」
ダールトンがグラストンナイツにそう檄を飛ばすと、グラストンナイツや警備を担当している軍人達は緊張した面持ちで敬礼する。
コーネリアは皇位継承権としては第五位と高く、戦女神と名高く軍の支持が根強いため、皇位を望む皇族からは常に足元を狙われていた。
コーネリア自身は皇帝になろうとは考えていないのだが、それを知っている皇族は少ないのだ。
よって本人ではなく彼女の弱点であるユーフェミア失脚を狙う可能性があり、その意味でも気が抜けないのである。
日本人の騎士であるスザクが乗っていたランスロットを展示してナンバーズでも出世する機会があるとアピールし、ついでにテロリストに対する牽制にするなどの策が使われている。
裏ではそんなピリピリした緊張感が漂っているのだが、外では朝から祝砲が打ち上げられて盛り上がっていた。
「ご覧ください、ユーフェミア副総督のお誕生日を祝おうと、エリア11内から、ブリタニア本国から大勢の人が集まっております!!
日本経済特区フジは普段は身分証の提示をすれば入出場が自由なのですが、今回はそれと合わせて整理券が必要なほどの人出です。
そのため2、3日前からホテルや特区に住むブリタニア人の家などに滞在するブリタニア人が多く、ホテルはどこも満室。
あ、今ツアーバスが来ました。トウキョウ租界のホテルからのようで、日本経済特区フジに入っていった模様です」
アナウンサーがニュースで花火や祝砲で盛り上がる特区の様子を伝えると、孤児院でTVを見ていたナナリーが嬉しそうに言った。
「凄いですね、ユフィ姉様。こんなに早く特区を成功させるなんて」
「ああ、ユフィが頑張った証拠だなナナリー。俺もお祝いの言葉を贈りたいから、少し行ってくるよ」
「はい、私からのお祝いをお渡しして下さいねお兄様」
「任せてくれ。じゃあ、留守は頼んだよ」
ナナリーの髪を撫でてからルルーシュがエドワードに扮したアルフォンスと共に孤児院を出ると、彼の運転で経済特区フジへと向かった。
「ユーフェミア皇女へ送る携帯型デジタルペットが間に合ってよかったよ。
黒の騎士団用のプログラムが完成したらダウンロードして配るから、工業特区ハンシンで量産するよう手配して貰わないと」
「ああ、それとなくニーナにプログラムを渡して彼女からユフィに手渡すように手配してある。
公の場で渡せばそれが宣伝になり、特区に広まるさ。あと数ヶ月もすれば、条件がクリア出来そうだからな。
それはそうと、今日はエトランジュ様はアキタに行かれるそうだが」
「うん、超合集国参加に好意的な王国の王子にサイタマに住んでる友人の安否を確かめて欲しいって頼まれてね。
自分にそっくりなせいで誘拐事件に巻き込まれたのがきっかけで知り合ったって言ってたなあ」
「よく見つかりましたね。サイタマと言っても広いのに」
驚いたように言うルルーシュに、アルフォンスはその王子の写真を見せて言った。
「この子にそっくりな子を知りませんかって聞いたら、あっさり見つかった。サイタマじゃ有名な子みたいだったから。
今はこの子のお父さんの実家のアキタにいるんだってさ」
「そうですか、それならよかった。それにしても、怖いくらい順調だな・・・ここまで事がうまく進むと、かえって退屈なほどだ」
「やめてよ、そう言った時に限って最悪な出来事が起こるっていうのがお約束だって、どっかで聞いたから」
露骨に嫌そうにそう言うアルフォンスは、科学者のくせに迷信を気にする性質なのかとルルーシュは意外に思った。
「貴方がそんなことを気にするとは思わなかったが」
「まあ、常は気にしないんだけどね・・・何だかあんたが言うと怖いから」
それを日本人が見ていたら『それフラグ!』と叫んで会話を止めていたであろう。
しかしあいにくと日本の縁起担ぎに詳しくない二人は軽い調子で笑うだけだった。
「でも慎重を期して、コーネリアや側近に出くわす前にさっさと用件を済ませて引き揚げたほうが無難だと思うよ」
「同感だな。では行くとしよう」
特区の出入り口は車で渋滞になっていたがカレンから借りた通行証で貴族用のゲートから特区に入ってカレンのマンションの駐車場に車を止めると、さっそく公衆電話からカレンに連絡した。
「あ、カレンさん?エドワードです。今特区に入ったところで・・・え、もうコーネリア総督が来てる?
開催の挨拶が終わってからは貴族達に顔を出さないとだめ・・・解った、じゃあそれが終わったらまた連絡する」
「携帯が使えないって不便・・・仕方ないけど。でも、人間ってほんと便利なことに慣れるとそれがなくなると理不尽に感じるものなんだな」
「ええ、だからナンバーズという生きた道具がなくなると、ブリタニア人にとっては理不尽なことなのでしょう」
ルルーシュの言葉にアルフォンスはなるほどと理解はしたが、だからと言って自分達がもの言う道具として扱われることに対しては絶対に納得出来なかった。
「しばらく時間がかかるみたいだから、どこかで時間潰さないとね。
カレンさんの家には今メイド達がいるらしいから、エドワード・デュランとして借りてるビジネスホテルがあるからそこで行こう。
実は今朝ルチア先生から来たんだけど、そっちの私情で伝えたい報告があるし」
「俺の私情で伝えたい報告?・・・伺おうか」
ナナリーのことならすぐに報告してくれるだろうから何だろうと首を傾げたルルーシュとアルフォンスは、ビジネスホテルなのに賑やかな様子のホテルのロビーでチェックインを済ませて部屋に入った。
ごく普通のツインルームで、さっそくテレビをつけるとコーネリアが特区に到着した時の映像が流れていた。
「コーネリア総督がいらっしゃったようです!
ここ最近メディアの前にお姿を現さなかったコーネリア総督閣下ですが、妹君のバースデーパーティーであり初の試みである特区の催し物とあって視察を兼ねてのご参加とのことです」
「ち、元気そうだなー。もっと念入りに大砲用意して投げればよかったか」
「後遺症は若干残っているようだな。腕の一部の動きが隠してはいるが鈍い」
施設の子供達の動きをよく見ていたルルーシュが看破すると、ならあれは全くの無駄じゃなかったかとアルフォンスはほっとした。
「そのコーネリアについてなんだけど、ルチア先生が興味深いことを教えてくれたんだよ。
ゼロが調べてるって言ってたマリアンヌ妃の暗殺事件についてなんだけど、その日住んでたアリエス宮だっけ?そこの警備を担当してたのが彼女だって」
「そこまでは俺も知っている。クロヴィスが『シュナイゼルとコーネリアが知っている』と教えてくれたから、そこまでは調べがついたんだ」
コーネリアの経歴を調べると、確かに士官学校を卒業した後希望してその任に就いたと記録に残っていた。
「そうなんだ。じゃあマリアンヌ妃が暗殺された時警備隊を引き上げたのが彼女だっていうのは知ってた?」
「何だと?!それは本当か?!」
「本当かどうかは知らないよ。ルチア先生がまとめてる亡命したブリタニア人の中にね、一人だけいたんだってさ・・・その当時の警備隊の人が」
「その男からの証言ということですか・・・詳しく伺いたい」
ルルーシュがまさかルチアから手がかりがつかめるとはと驚きながら続きを流すと、アルフォンスは話し出した。
あの日の夜、警備の者達が配置に就こうとコーネリアに最終確認をしに行ったところ、突然コーネリアから今宵はいいとの命令を受けたのだと言う。
理由を尋ねたところマリアンヌ自身からの命令だとのことで、せめて数人だけでもと言い募ったのだがそれも却下されてしまい、命令に従わなくてならない下っ端の身ではそれ以上はどうすることも出来ずに引き下がったのだそうだ。
「そしたら翌朝の事件発覚で、仰天したんだってさ。
それでおかしいと思って事件を追っていたそうなんだけど、それが上層部の気に障ったらしくて軍を追われて・・・紆余曲折を経てEUに亡命したんだって」
ちなみにこの情報を何故最近知ったのかというと、中華からマグヌスファミリアのコミュニティに戻ったルチアが母の仇を探しているのならと、怪しまれない程度に亡命していたブリタニア人達にそれとなく聞いて情報を集めたのだという。
「なるほど・・・母の命令でコーネリアが警備を下げただと?」
「警備を下げた瞬間にテロリストが来たんだから、何か関係してると考えるべきだけど・・・たとえばそう取り繕えと命じられたとか、状況を聞いた限りじゃそんな感じだと思うね」
コーネリアを蛇蠍のごとく嫌っているアルフォンスだが、だからと言ってこいつが犯人だと決めつけてさらなる憎悪を燃やすほど馬鹿ではない。
きちんと白黒つけて理論立てて考えれば、せいぜいコーネリアは間接的な協力者だという推理が一番しっくりくることを、彼は認めていた。
ルルーシュも同意見だったらしく、顎に手を当てて考え込んだ。
「本当に母がコーネリアに命じたというなら、そう仕向けた誰かがいたということだ・・・一番可能性が低いが、あり得ない話ではない。
コーネリアに一度会って、確認しておかなくては」
「ギアスかけて聞くのが一番だけど、どうやってあの女に会うかだね。
日本解放戦の時に捕虜にでもする?」
「グンマの時は捕虜にするのは無理な戦力差だったから断念したが、今なら状況次第で可能だからな・・・」
「いざって時にはマオに頼めばいいと思うな。あー、いっそ今日連れて来てコーネリアの頭の中覗いて貰えばよかった」
今更思いついて済まないとアルフォンスが両手を合わせると、まだ機会はあるから気にするなと、ルルーシュは手を振った。
「いい情報をありがとうございます。しかし、母の死を調べてくれる者がいたとは・・・」
「軍の、特に下の方からはずいぶん支持が根強かったみたいだよ。
七年前の日本侵攻も、日本人がマリアンヌ妃のお子様を殺したって言うので軍人達の怒りが爆発した猛攻があったみたいで。
あとそれが原因でナンバーズに対する虐待が日本だけ他エリアより激しくなったんだってさ。ちなみに純血派がその筆頭で、例のオレンジも当時アリエスの離宮にいたそうだけど・・・」
「オレンジが?それは知りませんでしたね」
己が濡れ衣を着せて軍から放逐した男がかつて母に仕えていたと知ったルルーシュは一ミクロンほどは悪いことをしたかと思ったが、親友に濡れ衣を着せるなど非道な行いをしたのは事実なので、それ以上は何も思わなかった。
母の人気の高さを嬉しく思いつつも、それが原因で日本人達が虐げられたと知ってルルーシュは複雑な気分になった。
(それもブリタニアの虚偽に満ちた情報操作のせいだ。あの男、必ず責任をその命で取らせてやるぞ)
ルルーシュが改めて実父に対する殺意を燃え上がらせていると、万が一自分の生存とゼロの正体がバレてもブリタニアの内部分裂を誘うくらいは可能かとも考えた。
何しろ自分は生きているのだから、自分を殺そうとしたのは父シャルルであると言えば自分が本物のマリアンヌが長子・ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであると証明出来ればうまくいくかもしれない。
(何しろ大勢の貴族達の前で俺にお前は生きていないだの取引材料だとの言い放っていたからな。
表向きは偽者だとなっても、内心はどこまで信じるか・・・もしブリタニア人をまとめなければならなくなったらゼロの正体は不明のままにしておいて、俺が表舞台に立つという線もありかもしれないな)
ユーフェミアを傀儡にして新ブリタニア政権をと考えていたが、もしそれが無理なら代わりのプランとしてはいいかもしれない。
だがそれはあくまでも最終手段だ。いろいろと不都合も多いし、何より皇族に戻ってナナリーをもゴタゴタに巻き込むなどごめんである。
ルルーシュは一通り考え込むと、テレビに視線を戻した。
そこにはナナリーが来た時の目くらましにと、ユーフェミアが呼んだ障がいを持つ子供達が映っている。
いくら目的があってのこととはいえユーフェミアもそういった者達と交流を持つのは学生時代からしていたことなので、特に不審に思われた様子はない。
子供達を出迎えたユーフェミアの後ろにはスザクと、先月アッシュフォード学園を卒業したニーナもいる。
「ニーナもここで働いているんだったな。確か特区の技術部に就職したと聞いてるが」
「うん、例のウランについても個人で研究してるらしいよ。
ただあれマジでシャレにならないエネルギー量だから、出来ればやめた方がいいと思うんだけどね」
必死で危険性を説明したというアルフォンスの声に、科学にはそれなりに知識のあるルルーシュは詳しく理論は見ていないがエネルギー発生量の数値を聞いて唖然としたのはよく覚えている。
いずれここに子供達のための病院をと考えていますと笑うユーフェミアに、ルルーシュは困ったように笑った。
「俺に万が一の時があったらナナリーを保護出来る病院か・・・気持ちは嬉しいが、特区といえどブリタニアでは安心出来ない」
ナナリーの名前を出して病院を造るというのは賛成だが、そこにナナリーを預けるわけにはいかない。
もし自分に何かあった場合、彼女をマグヌスファミリアのコミュティへ預けて欲しいという依頼は了承して貰っているのだ。
「そう簡単に何かあって貰っても困るんだけどね。ゼロのお陰でレジスタンス活動が軌道に乗ったんだから」
「もちろん、うぬぼれでなければ俺でければ先に進めないと思っておりますよ」
ニヤリと自信たっぷりに笑うルルーシュに、たまに自信の大きさからくるうっかりさえなければこの男ほど有能な味方はいないとアルフォンスは解っている。
「だから、くれぐれも自重してよ。朱禁城みたいなことを二度もしたら、蹴り入れてやるから」
「・・・あれは二度としませんので、ご容赦を」
いらぬギアスをかけた結果、いらぬ手間をかけさせられたアルフォンスの苦情を粛々と受け止めたルルーシュは、ユーフェミアと会うまでの時間をテレビを見て過ごすことにしたのだった。
朝から怒涛のスケジュールをこなしたユーフェミアは、何とか一時間半の自由時間をもぎ取るとシュタットフェルトの執務室とカレンの服を借りて着替え始めた。
ユーフェミアの盛装のドレスは一人では着脱しにくい仕様になっており、カレンが不器用ながらも彼女の着替えを手伝っている。
「早く着替えて、ルルーシュに会いに行かなくちゃ」
「久々にルルーシュと会うもんね。ナナリーへのプレゼントも忘れずに持って行かないと」
シュタットフェルトの執務室前で見張りをしているスザクに、もちろん忘れずに持って来ていると笑った。
「何かあったら二ーナから連絡して貰うように頼んだし・・・これで大丈夫かしら?」
「外が凄い混雑してるから、徒歩じゃ時間確保出来ないと思うの。
だからうちの車を用意したから、地下を通っていけばいいわ」
地下には非常避難用の通路が張り巡らされており、常は皇族や貴族専用の交通網として使用されている。
今回のように混雑する時はめったにないが、今は大活躍しているようだった。
「ありがとう、助かりますわ。さあ、参りましょうか」
カジュアルな服に着替えたカレンが外に出ると、サングラスをかけただけを変装とほざいたスザクに呆れたカレンにより、カツラや地味な服装で印象を変えたスザクがいた。
「本当に、ちょっと見ただけではスザクとは解りませんわね。私もショートヘアのカツラと薄い色つきの眼鏡をしてますけど・・・」
「うん、ぱっと見ならユフィだとは解らないね」
「変装って言ったらせめてこれくらいはしないと!騎士団じゃもっと本格的な変装してる人なんかざらにいるんだから」
カレンの駄目だしにさすがだと二人とも感心しつつ、三人はそっと駐車場に向かった。
「これは、カレンお嬢様」
「悪いんだけど、友人達とお茶をしようってことになったの。
喫茶店とかは混んでるし、ここじゃ皇族方もおられるから一度家に戻ろうと思って」
「は、かしこまりました。ではどうぞ」
運転手がカレンの背後にいるエリア11の副総督にして第三皇女ユーフェミアとその騎士であるスザクを見てもちょっと似てるなくらいにしか思わず、車のドアを開けた。
三人が後部座席に乗り込むと、リムジンが静かに地下通路を走り出す。
「外の様子を見たかったけど、仕方ありませんわね」
「帰りは時間が余ったら、外を通って戻る?」
「いいんですか?それならお言葉に甘えて」
ルルーシュを挟んで割と友好的な雰囲気の二人に、スザクはこのまま穏やかな時が過ごせることを心から願った。
初めはトゲトゲした雰囲気のカレンだが、ユーフェミアが日本人のために頑張っているのを見て徐々にトゲも丸くなっていったようで、最近では友人といってもいい関係になりつつある。
地下通路から経済特区でも一番の高層マンションの駐車場に着くと、三人は急ぎ足で最上階のカレンの家へと向かった。
さすが伯爵家の別宅なだけはあり、最上階全てがシュタットフェルト宅なので誰かに姿を見られることもない。
「ルルーシュ!!」
飛び込むようにホールに入ったユーフェミアがルルーシュの名前を呼ぶと、カレンがリビングはこっちと少し呆れたように手招きする。
顔を赤くしながらユーフェミアが案内されたリビングに入室すると、そこには変装を解いたルルーシュがテレビを見ていた。
「早かったな、ユフィ。カレンも案内してくれて助かった」
「別に、これくらいはどうってことないわよ」
若干頬を赤らめて大したことじゃないと言うカレンに、素直じゃないなーと女装したアルカディアは勝手にキッチンを物色して淹れた紅茶を飲みながら思った。
「あ、アルカディアさんもいらしてたんですか?」
「ええ、いちおうゼロの護衛で。ついでに日本の食べ物を食べて帰ろうかと」
混雑していたので早めにアルカディアがゲットしておいた整理券を使って買った日本食を見て、ユーフェミアは嬉しそうだった。
「楽しんで頂いているようで、嬉しいです。あの、エトランジュ女王は・・・」
「さすがに顔がはっきりバレてるから、あの子は来れないわ。代わりにお土産買って帰るつもり」
「そうですよね・・・あ、これ特区内の人気のリストです。
よろしかったら参考にして下さい」
「ありがとう、ありがたく活用させて頂くわね」
エドワードとして特区に少々関与しているアルカディアは既に持っていたものだが、おくびにも出さずにユーフェミアから受け取った。
「じゃー、ちょっと隣の部屋で食べて仮眠してるから、帰る時になったら呼んでね」
ばいばいと手を振りながら隣室へと向かうアルカディアに、さんざん言い負かされてトラウマとなっていた彼女に苦手意識を持っていたスザクがあっけに取られたように言った。
「あの人、意外にいい人だったんだな・・・」
「ああ、あれほどコケにしていたのはお前くらいなものだったぞ。
アルカディアは面倒見がよくて騎士団でも慕われてるんだが、お前の面倒だけは無理だと神根島の時にはっきり言われたからな。
人の話を聞かない奴はどうしようもないからだそうだ」
「・・・耳が痛いよ」
肩を竦めて言うルルーシュによほど嫌われたらしいとスザクは思ったが、お前達は間違っていると断じて自分のしていることを省みることなく弾劾したのだから仕方ないと、改めて他人の話を聞くって大事だなと実感した。
「だが相手が変わったと認めたなら、ぞんざいな扱いはしない人だ。せいぜい精進することだな。
時間もないし、お茶にしようスザク、ユフィ、カレン。プリンを作って来たぞ」
「まあ、ルルーシュのデザート?楽しみだわ」
「ルルーシュの食事は本当に美味しいからね。あ、イチゴ入りだ」
スザクとユフィがルルーシュの前に座ると、カレンはルルーシュの横に座った。
ルルーシュの手作りプリンがテーブルに並べられると、スザクとユーフェミアは目を輝かせる。
「美味しそう!頂きますね」
「あ、私も貰うね。紅茶に入れるから砂糖ちょうだい」
ルルーシュが紅茶を入れ直すとカレンも嬉しそうにプリンに手を伸ばし、楽しいお茶会が始まった。
「パーティーは順調のようで、よかったなユフィ」
「ええ、今のところトラブルもないし、みんな楽しそうで嬉しいわ。
そうそう、ニーナがデジタルペットをプレゼントしてくれたの!とっても可愛くて私今から育ててるの」
ユーフェミアが嬉しそうに、キーホルダーほどの大きさの“ラブリーエッグ”と名付けられたデジタルペットをルルーシュに見せた。
「お互いにドッキングすることで新しいアイテムを貰えたり子供が出来たりするんですって。
たくさんの人同士でやったほうが楽しいって言ったら、さっそく工業特区ハンシンで量産しましょうって言ってくれたわ」
パーティーの開催時にニーナが渡したことでそれをテレビ放送されたこともあり、既に十代の少女を中心に問い合わせがあったのだそうだ。
ルルーシュは自分の計画がうまくいったことを知り、黒の騎士団員にだけは別に作って配布すれば条件はクリアされると笑みを浮かべる。
「それで私、ナナリーにもプレゼントしたいんだけど来週までに間に合いそうになくて・・・」
「ああ、それなら心配しなくて大丈夫だ。実は俺がある程度プログラミングをしていてな、それをニーナに渡したんだよ」
「え、ルルーシュが?でもどうして二ーナに・・・」
「俺から君に渡すと誰が作ったのか聞かれたら、君が困るだろう?だからニーナにそれとなくデータを渡しておいたんだよ」
実際は思い切り黒の騎士団員のための策なのだが、そう取り繕うとユーフェミアとスザクは納得した。
ニーナも何を贈ろうかと悩んでいたのだが、こっそり連絡したルルーシュからのプログラムを見て『ブリタニア人の女の子向けに君が改良して渡せば喜んでくれる』と言うと感謝しつつ短時間で完成させてくれたのだ。
「ナナリーにもペットを飼う楽しみを味わってほしくてね、君も楽しんでくれればと思うよ。
あと、アイテムやキャラに着せる服はニーナに頼んだんだ」
「こういうのは男じゃ無理だもんね。特に君・・・センスないし」
「何だと!俺のどこにセンスがないと言うんだ?!」
スザクの暴言にルルーシュが真顔で尋ねると、ゼロの扮装を思い浮かべたスザクは気付いてないのかと呆れた。
「君、ゼロの身代わりをしてくれてる人がいるだろ?嫌がられなかったかい?」
「ああ、ウエストがどうたらと言われて嫌がられたな。よく解ったな」
「確かに君女性より細いもんね・・・でも多分それだけじゃないと思うよ」
何しろ女性でかつウエストの細いユーフェミアと同じくらいのウエストなのだ。男性に頼んだとすればセンスの悪いスーツと合わせてさぞ嫌だったに違いない。
ウエストがきついのが原因で嫌がられたと思い込んでいるルルーシュが首を傾げると、ユーフェミアも同じしぐさをした。
「あら、ゼロの衣装はかっこいいと思いますけれど・・・」
「そうよスザク!失礼しちゃうわね!」
カレンからも怒鳴られたスザクは、何故自分が悪者にされているのかと途方に暮れた。
この場にアルカディアがいたらいい機会だからと服のセンスについて突っ込んでくれただろうが、あいにく彼女は隣室でテレビを見ながらたい焼きを食べている。
恋は盲目ということわざを実体験する羽目になったスザクは、心でさめざめと泣きながらプリンを食べるのだった。
そんな和やかなお茶会が始まる少し前、パーティー会場では主役たるユーフェミアの姿がないのでコーネリアとギルフォードが探していた。
「ユーフェミア様はいずこにおわす?」
「はい、ユーフェミア様でしたら先ほど娘と一緒に休憩したいとおっしゃられて、執務室の方へおいでになられましたが・・・」
ギルフォードの問いにシュタットフェルトがかしこまって答えると、朝からハードスケジュールだったから無理もないと、妹の居場所が分かったコーネリアは安心してボーイのトレイからシャンパンを手に取った。
「実に行き届いているパーティーだ。御苦労であったなシュタットフェルト伯爵」
「もったいなきお言葉にございます、コーネリア総督閣下」
「妹も随分と成長して、特区成功に向けて大きな前進をしている。まだまだなところのある妹だが、これからも助力を頼む」
「もちろん、娘ともどもこれからもユーフェミア副総督閣下とともに特区を支えさせて頂く所存にございます」
深々と頭を下げるシュタットフェルトに、ユーフェミアに尽力して特区に貢献している彼を認めていたコーネリアは妹の味方を増やすためにと、前々から考えていたことを告げた。
「まだ正式に決定していないのだが、卿に辺境伯の位をと考えている。
いずれエリア11のテロリストどもを殲滅させた暁には、私はEU戦へと赴くことになるだろう。
その際にはぜひ、総督となるユーフェミアを助けてやって貰いたいのだ」
「わ、私を辺境伯に?!よろしいのですかコーネリア総督閣下」
辺境伯と言えば貴族の中では上の下という位である。本国ではそれなりにいるが、エリアであるならそれこそ総督かその代理になってもおかしくない地位であった。
(このエリア11で辺境伯になれれば、カレンの身は安泰だ)
「御令嬢も学校を休学してまでユーフェミアに尽くしてくれていると聞いている。
今はシュタットフェルト伯の秘書のような扱いだと聞いているが、いずれは正式な地位を与えた方がいいだろうな」
その言葉にシュタットフェルトは内心で狂喜乱舞しながらも、自制してコーネリアに礼を述べた。
「もったいなき御配慮、まことにありがとうございます!
娘とともにこのエリア11の発展に尽力させて頂きます」
ユーフェミアの味方は多い方がいいと考えたコーネリアは、これで自分がEUに向かった時は安心だと安堵する。
シュタットフェルトは昔から続く名家だし、今度の件では随分とユーフェミアを助けたという成果もあるので爵位を上げるのが妥当だと考えたのだ。
と、そこへコーネリアがシャンパンのグラスを取り落とすと、ギルフォードがそれが床に落ちる寸前で掴み取り、カーペットが汚れる惨事を防いだ。
「姫様もお疲れなのでは?少しお休みになった方が・・・」
未だに身体が本調子ではないコーネリアを気遣うギルフォードに、シュタットフェルトが周囲を見渡して提言した。
「今はそれぞれで集まって懇談しているようですので、次のユーフェミア様主催の日本文化についてお話しされるまで、お休みになってはいかがでしょう?
今ユーフェミア様もお休みになっておられることですし、ご一緒にお茶でもなさっては?」
姉妹が今ぎくしゃくした関係だとは知らないシュタットフェルトの案にコーネリアは一瞬戸惑うが、ギルフォードがいい案だと頷いた。
「そういたしましょう、姫様。最近姫様もご多忙で、ユーフェミア様とお話しする機会も少ないことですし」
「ギル・・・そうだな、そうさせて貰おう。
私とギルは少々席を外すので、シュタットフェルト伯は会場を見ておいてほしい」
「かしこまりました。お任せ下さいませ」
シュタットフェルトに見送られてコーネリアはギルフォードと共にユーフェミアの執務室へと向かい、ドアをノックする。
「ユフィ、いるか?私も少し休もうと思ったのだが、入ってもいいだろうか?」
「え・・・コーネリア様?!」
何故かそう驚いたように返って来たのは、今日妹にデジタルペットというものを贈ったニーナという少女の声だった。
何でもカワグチ湖で起こったテロに巻き込まれ、ユーフェミアに助けられたという恩を感じて飛び級卒業してまで特区に参加したらしく、本日デジタルペットを二つ献上してご姉妹でどうぞお育て下さいと言われたのでよく憶えている。
「お前は確か、ニーナと言ったな。ユフィはいるか?」
「えっと、ユーフェミア様はその・・・えっと・・・」
歯切れの悪いニーナに業を煮やしたコーネリアがドアを開けて執務室横にある私室に入ると、そこには誰もいなかった。
「・・・ユフィはどうした?ここで休んでいると聞いたのだが」
「あの・・・その・・・ちょっと外を見ていきたいからとカレンさんとスザク君と一緒に・・・」
こわごわと応接椅子から立ち上がってかしこまって答えたニーナに最近はしっかりしてきたのにまたかと、コーネリアはこめかみを押さえた。
「あ、でもでも大丈夫です!ちゃんとぱっと見には解らないくらいに変装していらっしゃいましたし、行き帰りにはカレンさんの車を使うっておっしゃってましたから!」
「だからと言って、外を安易にうろつかれては・・・今どこにいるか解るか?」
「はい、今はカレンさんのマンションにおられるみたいです。何かあったら連絡してほしいと頼まれてて・・・」
きちんと行き先を知らせている分、以前よりはるかにマシな脱走の仕方ではあった。
もしかしたらと予想していたのでそれほど怒りは感じなかったが、騒ぎになる前に連れ戻さなくてはとコーネリアが私室をを出ようとした時、ふと応接テーブル上のニーナが使っていたPC画面が目に入った。
誰かに送信するメールだろう、デジタルペットについての案をありがとうと書かれてある。
そしてその相手の名前の綴りを見たとき、コーネリアは目を見開いた。
「ルルーシュ、だと・・・?」
「コーネリア様?」
いきなり様子が豹変したコーネリアに震えたニーナだが、彼女に構うことなく怒鳴るように尋ねる。
「ルルーシュというのは、誰だ?!」
「ア、アッシュフォード学園にいた時の生徒会の副会長をしていた人です。
私が卒業するちょっと前に、学校を辞めて本国に戻ったんですけど・・・」
「アッシュフォードにいた、ルルーシュ・・・?」
そこでようやくギルフォードも主の驚愕の理由に気付いた。
そして何が何だか解らないと立ち尽くすニーナに、主君に代わって穏やかに尋ねる。
「急ですまないが、ルルーシュという人物について詳しく伺いたい。
彼はアッシュフォード学園で、どんな様子だったか?」
「えっと・・・両親が亡くなったので、ナナリーちゃん・・・彼の妹です・・・と一緒にクラブハウスに住んでました。
凄く頭がよくてチェスが得意で、よく外でやってたみたいです」
「そのナナリーという少女だが、目と足が不自由だったか?」
「はい、よくご存知ですね・・・あの、二人が何か?」
ニーナがおそるおそる二人に彼らがどうかしたのかと尋ねるが、コーネリアとギルフォードはそれどころではない。
「・・・姫様」
「ああ、間違いない。ルルーシュとナナリーだ」
ルルーシュとナナリーという兄妹で、チェスが得意な兄と目と足が不自由な妹でアッシュフォードの庇護を得ていたとなれば、それに思い当たる人物はひと組しかいない。
「そういうことか・・・!枢木を通じて、二人と会っていたんだなユフィ!」
道理で彼を騎士にしたがった訳だとあながち外れでもない推理をしたコーネリアは、再びニーナに尋ねた。
「このデジタルペットは、そのルルーシュからのものか?」
「はい、大枠だけ・・・私がユーフェミア様に贈るプレゼントで悩んでいるとカレンさんから聞いて知ったみたいで、こういうのはどうかってアドバイスしてくれたんです」
実はルルーシュは自分の名前を出して発表するなと口止めしただけで、事情を知らないニーナに自分の生存云々については逆に怪しまれるので頼む訳にいかなかった。
さらにさすがに皇族から尋ねられたのではニーナとしては事実を喋らない訳にはいかず、結局は無駄な釘刺しに終わってしまったのである。
確かシュタットフェルト伯の娘はアッシュフォード学園の生徒会の人間だったと思い出したコーネリアは、今妹が彼女の家にいると聞いてすぐに気付いた。
「ということは、今ルルーシュはこの特区にいるな!ギルフォード、すぐに向かうぞ!」
「は、かしこまりました。すぐに車を用意させます」
内線でギルフォードが地下通路に車を用意させると、ニーナからルルーシュに連絡が行くことを恐れたコーネリアは彼女に命じた。
「今から妹を迎えに行くゆえ、そなたも来るがよい」
「え、え?でも私は何かあったらユーフェミア様にご連絡するように言われていて・・・」
おどおどしながらもユーフェミアの命令に従おうとするニーナに、こういう状況でなかったなら褒めたたえたいが実行に移される訳にはいかないと、ギルフォードが強引に彼女を連れて歩き出す。
本当に何が起こっているのか解らないまま、ニーナは二人に連れられて執務室を後にした。
一方、思わぬ形でコーネリアに生存がバレたとは知らぬルルーシュ達は、呑気にティータイムを楽しんでいた。
「そう、ナナリーが手術をするの・・・大丈夫かしら?」
「ああ、信用出来る人だから心配していないが、リハビリが大変らしくてな。半年はかかるそうだ」
「そんなに・・・無理をしないでね。そうだ、これナナリーへのプレゼントなの」
ユーフェミアがスザクと一緒に選んだという桜の模様が描かれた包装紙に包まれたプレゼントを、ルルーシュに手渡した。
「中身はオルゴールで、ナナリーが好きだった曲が入ってるわ。
こっちのCDは琴とか三味線の音楽が入ってるの」
「ありがとう、ナナリーも喜ぶ。これはナナリーから君へのプレゼントだ」
そう言ってルルーシュが差し出したのは、白い袋に赤いリボンで飾られたプレゼント袋だった。
「中身は俺も見ていないから知らないが、受け取ってくれないか?」
「もちろん!中身は何かしら」
ユーフェミアが嬉しそうにリボンをほどいて中身を見ると、そこには様々な模様の紙で折られた折り紙が入っていた。
「まあ、素敵!鳥に人形に動物・・・!全部ナナリーが折ったのかしら」
「同じ施設にいる子供が手伝ったのもあるだろうが、ナナリーが折ったのが多いな。最近ナナリーは意欲的にいろんなことに挑戦しているから」
「綺麗ね・・・ありがとう!ナナリーにお礼を言っておいてね」
さすがナナリーだとルルーシュは妹を称賛していると、ユーフェミアが折り紙をプレゼント袋に大事そうにしまいながら言った。
「後で和楽器による演奏会があるの。一緒には無理だけど、聴いていったらどうかしら?」
「そうだな、悪くないな・・・さて、そろそろ時間だ、戻った方がいい」
「もうこんな時間なの?・・・寂しくなるわね」
滅多に会えないのに、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
ルルーシュはそんな彼女に優しく微笑みかけた。
「また機会があるさ。それと、これは俺からのプレゼントだ・・・受け取ってくれ」
そう言いながらルルーシュが差し出したのは、ピンク色のオリーブの花が刺繍されたチョーカーだった。中央にはユーフェミアの誕生石であるピンク色のトルマリンが飾られている。
オリーブの花言葉は“知恵”と“平和”だ。それに気づいたユーフェミアは嬉しそうにルルーシュに抱きついた。
「ありがとう、ルルーシュ!私大事にするわね」
「喜んでくれれば何よりだ。作った甲斐がある」
「ほんとあんた器用なのね。料理だけじゃなくて手芸も得意なんて」
手芸も得意なルルーシュに、カレンが女として敗北感を感じていた。
こいつと結婚する女は、ある意味非常に勇気がいるのではないだろうか。
「ああ、成長期の服は馬鹿にならないからな。大きめの服を買って裾詰めは基本だぞ。
刺繍をして破れた部分をあしらったり・・・何だ、どうしたんだそんな顔をして」
元皇子とは思えぬ生活臭に満ちた台詞にユーフェミアは罪悪感に満ちた顔になり、スザクは家事一般をこなしていた過去のルルーシュを思い返し、カレンはまた余計なことを聞いてしまったと彼から目線を逸らした。
微妙な雰囲気の中今度こそカレンのマンションを出ようとした刹那、インターフォンがやや乱暴に鳴らされてドアが開けられる音がした。
「シュタットフェルト伯かい、カレン?」
「まさか・・・父さんならインターフォンなんて鳴らさないわよ。私、ちょっと見てくる」
「僕も行くよ。ルルーシュはユフィと一緒にいてくれ」
「解った、気をつけろよ」
スザクとカレンが連れ立ってリビングを出ると、ホールにいたのはコーネリアだった。
背後にギルフォードとダールトンもおり、さらに数人の軍人がいたので二人は仰天した。
「コーネリア総督?!」
「ユフィがここにいると聞いてな・・・それと、ルルーシュもだ!」
「!!!」
何でバレたと二人が顔を青ざめさせるが、時間を稼ごうとしたカレンが何とかブリタニア皇族のルルーシュではないとごまかすべく、慌てて言った。
「あの、アッシュフォード生徒会の元副会長のルルーシュが何か・・・?」
「・・・ああ、そうか、シュタットフェルト伯爵嬢は知らないのか」
てっきり全て知ってのことかと思っていたがユーフェミアに命じられてこの逢瀬をセッティングしたのかと、コーネリアは勘違いした。
よってここで彼の正体を暴露するのはやめておこうと、スザクをギロリと睨みつける。
「言いわけは後で聞いてやる。とにかく二人の元へ案内しろ!!」
「・・・イエス、ユア ハイネス」
そう答えるしかないスザクに防音効果があり過ぎておそらくこの会話が聞こえていない二人にどう伝えようと、カレンが考えを巡らせるがどうにもならない。
もしここにアルカディアがいることがバレたらルルーシュがゼロであることも解ってしまい、さらに自分の正体も芋づる式にばれてしまえばいろんな意味で終わってしまう。
コーネリア達がリビングに飛び込むと、そこにいたのは最愛の妹とカレン達が出て行った後大急ぎで変装した茶髪で青い瞳をしたルルーシュだった。
じっとその少年を見つめていたコーネリアはつかつかとルルーシュに歩み寄ると、すっとそのかつらを剝して言った。
「やはり・・・ルルーシュか」
目の前の黒髪の少年に確信を持ったコーネリアは、背後のユーフェミアとスザクに向かって怒鳴った。
「ルルーシュ達が生きていたことを、どうして言わなかった?!
特に枢木、お前はアッシュフォードにいた時点で知っていたのだろう?これは不敬に値する怠慢だぞ!」
「怒らないて下さいお姉様。スザクはルルーシュに頼まれて言わなかったのです!!
でも私にだけこっそり報告してくれたんです。だからその責は、口止めした私にあるんです!!」
あながち嘘でもない言葉にコーネリアはスザクを睨んだが、先に主君たるユーフェミアには事実を報告し、さらにそのユーフェミアが黙って口止めをしたのならスザクを責めるわけにはいかぬと、先ほどから黙っているルルーシュに向かって言った。
「さっさと私に報告していればよかったものを・・・!だが済んだことだ。
さあルルーシュ、話は政庁に戻った後で・・・ああ、ユフィの誕生日にお前が見つかるとは・・・!」
心底から嬉しそうなコーネリアが差し出した手を、ルルーシュは無表情に振り払った。
「残念ですが姉上、俺は戻る気はありませんよ。だからユフィは俺達の生存を報告しなかったんです」
「なんだと・・・どうしてだルルーシュ。お前が生きていたと知って、私がどれほど安堵したか」
(全く姉妹揃って余計なことを!少しは考えて行動しろ)
ユーフェミアの時とは違い会うなら今しかないと考えたのだろうが、いきなりの不意打ちにルルーシュは内心で唇を噛む。
「どうして、ですか・・・貴女ほどの方が、その理由に気づかぬと?」
ふっと嘲ったように笑う末の弟に、こんな顔をする弟だったかとコーネリアは怯んだ。
「この日本侵攻の開戦理由を覚えておいでか、姉上?」
「それはお前達がイレヴンに殺されたと・・・あ・・・!!」
「そうですね。ではここにいるルルーシュはいったい何でしょうか?まさかゴーストだとでも?」
皮肉っぽい口調で笑うルルーシュに、彼がどうしてブリタニアに戻らなかったのかを悟った。
「俺達は確かに殺されかけましたよ、姉上。あの男が差し向けた刺客にね。
自分達を殺そうとした男の元になど、戻るわけがないでしょう。どうせまた他国に同じ理由で送られるだけですからね。
ユフィも解っていたから、俺達が生きていることを報告しなかったのです。感謝していますよ」
「だ、だがルルーシュ、このままでは・・・」
「俺はブリタニアの世話にだけはならない。このまま放っておいて頂きたい」
ルルーシュはコンタクトを外してこの場の全員を操り、この件をなかったことにしようと考えた。
(俺に従えと命じれば、日本奪回戦での条件も全てクリアだ。
・・・コーネリアが俺の支配下にあるとなれば、マグヌスファミリアの連中も是が非でも殺せとは言わないだろう)
役に立つなら生かしてもいいと、現実主義の彼らなら言うはずだと読んだルルーシュがコンタクトを外そうと左目に手をかけた時、場違いな子供の声が響いた。
「ちょっと待ってコーネリア。ルルーシュは僕が連れて行くよ」
「何だ、お前は!子供の出る幕ではない!!」
コーネリアが叫ぶとギルフォードがその子供の肩をつかんで外に連れ出そうとする。
「ルルーシュ殿下のお知り合いか?だがあの方はこれから政庁に・・・」
「知り合い・・・といえばそうなのかあ?子供の頃顔くらいは合わせたし・・・でもまあどうでもいいよ。
僕はV.V。君を捕まえに来たんだ、ゼロ」
「な・・・なんだと・・・?ルルーシュが・・・・?」
コーネリアが絶句してルルーシュを凝視するが、ルルーシュは否定せずにV.Vと名乗った子供を睨んでいる。
「まさか・・・本当に・・・・?」
サイタマで自分が殺そうとしたのがかつて憧れた女性の息子で、さらに大事にしていた末弟であり、クロヴィスを殺した男と同一人物であるとコーネリアは信じたくはなかった。
だが思えばカワグチ湖で自分の性格を見透かしたようにユーフェミアの救出を申し出たり、妹に『ブリタニア皇帝の子供だからクロヴィスを殺した』と言いながらユーフェミアを殺さなかったことといい、思い当たる節が確かにいくつもあった。
一方、そんな姉の心情など思いやるどころではないルルーシュは、エトランジュ達が言っていたブリタニアにいるコード所持者だと、名前から気付いた。
「V.V、だと・・・まさか貴様は!!」
「うん、たぶんそれで正解。だから僕は君が邪魔なんだよ。
特区を張らせて正解だったなー。絶対ここに来るって思ってたんだ」
特区に派遣したのは、“特定の人物を感知するギアス”を持つギアス嚮団の男だった。
アッシュフォード学園からルルーシュの情報を得たV.Vは駐車場ですれ違った時に既にゼロであるルルーシュが特区に来たと知った男からの報告を受け、V.Vは特区にやって来たのである。
「アッシュフォードじゃ君、結構有名だったんだね。生徒に聞いたらあっさり情報が手に入ったよ」
「貴様・・・!」
ルルーシュがコンタクトを外してコーネリア達を手駒に変えてV.Vを捕えようとすると、猛烈に眠気が襲ってきた。
周囲を見ると、コーネリアやユーフェミアは既に昏倒している。
スザクだけが何とか抗おうと自ら傷つけて眠気をこらえようとしているのが見えた。
「ルルーシュ!にげ、ろ・・・!」
「タフだねえ、君・・・でも、無駄なことはやめなよ」
V.Vの言葉にスザクが首を横に振るが、背後から現れた男に後頭部を殴られて気絶する。
それを見たルルーシュもまた、おそらくはギアスによるものであろう眠気に耐えきれず、その場に倒れ伏す。
「ギアス能力者はマグヌスファミリアだけじゃないんだよ。
ここで殺すといろいろ面倒だから・・・とりあえずお休み」
V.Vが手を振ると、外から“周囲の人間を眠らせるギアス”を持つ男を含んだギアス嚮団員が入って来た。
「いったんどこかに運んで、始末しなくちゃ」
V.Vの声が、ルルーシュの脳裏に鈍く響き渡る
ルルーシュの意識はその声を聞きながら、暗い眠りへと沈んでいった。