第七話 プレバレーション オブ パーティー
ルルーシュはC.Cとマオを伴って日本に戻ると、真っ先にメグロの孤児院へと車を飛ばして帰った。
「ただいま、ナナリー!!」
「お帰りなさいませ、お兄様。一ヶ月のご出張、お疲れ様でした」
ナナリーが微笑みながら出迎えると、ルルーシュは最愛の妹を抱きしめた。
「長いこと留守にしてすまなかったな。お詫びに今日はご馳走を作ろう」
「そんな、お帰りになったばかりでお疲れですのに、そんなことはさせられませんわ。
今日は私達がお兄様にお食事を作ってあげようってことになっているんです」
ナナリーが一緒に出迎えてくれた孤児院の子供達を指すと、えへへと照れたように笑った。
「いつも美味しいご飯作って貰ってばかりだから、今日は俺達がってことになったんだ。
ナナリーちゃんさ、ピーラーで野菜の皮むいたりして手伝ってくれてるんだぜ」
「指を切ったこともありましたけど、慣れたらすぐに出来るようになったんです、お兄様。
それくらいですけど、みんなと一緒に作ったお食事は美味しいです」
「そうか、頑張っているなナナリー。そういうことなら、ぜひご馳走になろう」
「ありがとうございます!さあお兄様はお部屋でお待ちになって下さいな。
出来たらすぐにお知らせに上がりますから」
ピーラーで切ったのだろう切り傷がナナリーの指に見えたがそれは消えかかっており、少々痛い目は見たが成果を上げて出来るようになった妹に、ルルーシュはナナリーの髪を撫でた。
「怪我をしたようだが、これくらいで済んでよかった」
「ええ、一度切ったら次は薄いゴム手袋を下さったので、怪我はそれだけです」
「なるほど。俺も安全性を考えてみるから、他にやりたいことがあったら遠慮なく言うんだぞ?」
「はい、お兄様。では、私達は今からお夕食を作って参りますね」
ナナリーが友人達と共に厨房に向かうと、ルルーシュは荷物を整理するために自室へと入った。
「ナナリーが野菜の皮むきを・・・成長したな」
「お前があれこれ教えていたら、もっといろいろ出来るようになっていただろうな」
部屋に入るなりベッドにゴロンと横になったC.Cが突っ込むと、ルルーシュは不愉快そうにしながらも正論だと認めた。
「そんなことは解っている。だから今度から安全面を考えてさせることにしたんだ」
「いいことだ。なら次はピザの作り方を教えてやれ。あれはいいものだから、覚えて損はない」
「損にはならないがお前の得になるというのが気に入らないな」
互いに毒を吐きながらルルーシュがさっさと荷物の片づけを終えると、厨房に向かった。
そっと様子を伺ってみると、それぞれ担当を決めて手分けして作っているようで、なかなか手際が良い。
(ナナリーの手術はナナリーの誕生日が終わった十月末だ。足が動けるようになったら、もっといろんなことが出来るようになる)
足が治ったら目も治るかもしれないと聞いているルルーシュは、それに向けての訓練を勧めた方がいいかもしれないと考えた。
リハビリも大変だと聞いているし、少しずつ慣らした方が負担が軽いだろう。
公私ともに順調に進んでいるこの状況に満足したルルーシュがパソコンで情報を整理していると、カレンからのメールが届いた。
「カレンか・・・特区絡みで何かあったかな」
ルルーシュがメールを開くとそこには特区というよりユーフェミア絡みについて書かれている。
『十月にあるユーフェミア皇女の誕生日パーティーのことなんだけど、貴方にも参加して貰えないかってユーフェミア皇女が言ってるの。
出来ればナナリーちゃんもって望んでいて、いちおう末の妹の代わりにって名目で同じ境遇の子を何人も招待するって策を、バレないように用意したみたい。
ただコーネリアが来るから、私としてはナナリーちゃんは変装したにしても目立つからやめた方がいいと思うんだけど、最終的な判断は任せるわ。
特区の方は順調で、例の物資の横流しについてはパーティーの準備のどさくさ紛れに手配したから後で確認よろしく。
PS.そろそろアルカディア様を入院したって装うのが限界。一度顔出して貰えないか聞いておいてね』
「ユフィか・・・あいつらしいといえばらしいが」
あまり効果的とは言えないが、いちおう策を考えたというのは彼女もまた成長したということだろう。
それについては素直に褒めたいが、カレンの言うとおりナナリーを連れて行くのはやめた方がよさそうだ。
「しかし、代わりになる程度のことはしてやりたいな。ナナリーも特区に行きたいと言っていたし」
「全く、お前は妹に甘いな。ま、平和でけっこうなことだ」
「日本以外は嵐に見舞われているがな。
他国のレジスタンスのほうはアルカディアにゼロとして出て貰っているが、いずれはこの目で確認しておかなくては」
ナナリーの手術が始まる前に一度EUや他エリアのレジスタンスを見て回ろうと計画している。
手術が終わった後はリハビリが彼女を待っているので、さすがに眼を放したくなかったからその前に済ませておきたかったのである。
「EUに属していないエリアでゼロが関わっているとなると優秀な総督が派遣されることになるから、抵抗活動はやめさせてエトランジュ様の組織に属させるほうがいいな。
今は戦力の増強に努めるべきだと説得すれば難しいことではないだろう」
「そうだな、小国同士のレジスタンスが大きくなる方がいいと、諭せば解るだろう。EU戦のほうは大丈夫なのか?」
「ああ、内部でシュナイゼルと繋がっていた連中が数人捕まえられたからな。
大宦官と繋がって汚職に走った連中も逮捕されたようだし・・・。
ただ、それが俺の指示ではなくアイン宰相からのものだったんだが・・・」
日本に来て早々お持ち帰りのピザをぱくつくC.Cは予知という滅多にないギアスを持つのなら不思議ではないと思っていたが、ルルーシュの表情に首を傾げる。
「予知ギアスか。それなら内通者が解っても不思議じゃないだろ」
「予知とは言っても、彼の予知の範囲は血族のことしか解らないと聞いた。
つまりEUの不利になる行為がマグヌスファミリアにとってまずい事態を招いたことくらいは解るだろうが、原因をどうやって突き止めたかということだ」
解りやすいたとえをすると、アインがマグヌスファミリア国民が突如ブリタニアに引き渡されるという予知をしたとしよう。
それを防ぐとなれば当然何故そうなったかを考えなければならないわけで、彼らには的確に原因を突き止められる手段を持っていることになる。
「他のギアス能力を使ったんだろ。たとえばエマとかいう先々代の女王の心の顔が見えるとか言う能力とかな」
「そんなことは解っている。
俺が言っているのは、原因を突き止めてすぐに対処が出来るだけの頭を持っているのが誰かということだ」
「アインとかいうやつじゃないのか?」
「違うな。俺はエトランジュ様のギアスを通じて何度か話をしたが、それほど頭がいい男ではなかった」
酷い言い草だが、事実である。
アインは頭が悪いとは言わないが凡庸な男だった。無能を装う理由などどこにもないので、あれが素だろうとルルーシュは見ていた。
「情報流出を避けるために、あえて情報を互いに遮断していると聞いている。
何しろ心を読めるマオがいたわけだから、ギアス能力者のとの戦いを思えば正しいと言わざるを得ないな」
ゆえにエトランジュ達もコード所持者が誰かあえて聞いていないし、コードによって繋がっている会話も全くしていないと聞いた。
「・・・仕方ない、追及はやめておくとしよう。EUの内部は一息ついたんだ、戦略の方に目を向けるべきだ」
エトランジュを通じて、EUに出来るだけの恩を売ること。
そうすればエトランジュ達は発言力が強くなり、それを元に超合集国に組み込むかもしくは同盟に持ち込むことが可能にしやすくなる。
(あちらのレジスタンスを取り込めば、もっと楽になる。今のうちに戦力を増やしておかねば)
ルルーシュはカレンへの返事をメールに打ち込みつつそう思案し、さらに今後についても考えを巡らせるのだった。
ブリタニア植民地、エリア8では、ゼロに扮したアルカディアがレジスタンスと面談を行っていた。
もちろんエトランジュのギアスを使い、ルルーシュの言葉をアルカディアが話してである。
「貴方がたの反ブリタニア活動についてだが、この規模では正直なところ犬が噛みついたくらいにしかブリタニアは考えない。
よって各植民地との連携を取り、規模を大きくしていくのが妥当だと考える」
「黒の騎士団のようにか・・・それは我々も考えている」
「貴方がたに黒の騎士団に入って欲しくはあるが、自分達の力で祖国を解放したいという気持ちも理解出来る。
幸いエトランジュ様は末席とはいえEUの元首に名を連ねられ、中華連邦の天子様とも大きな繋がりをお持ちの方。
彼女を盟主としたレジスタンス連合を作るというのも一案かと思うのだが」
そしてそのエトランジュはゼロの協力者だ。結果は同じということだが、看板が同じブリタニア植民地にされた国の女王であるならば、意味合いが違ってくる。
ただ戦後にEUの干渉が来るということを危惧しており、実に面倒な思惑の結果なかなか踏み切れずにいるのが現状であった。
「だがこの国のレジスタンスだけの活動には限界があるのも事実だ・・・現状を打破するには、やむを得ん」
「各植民地のレジスタンスを糾合するには、確かにエトランジュ女王は象徴として適任だ。
中華の大宦官達の事件についても、黒の騎士団を通じて助けたという情報もある」
レジスタンス達もそれなりに情報網があり、EUに中華事変の動画をばら撒いたのがマグヌスファミリアであるとの情報を既に得ていた。
反ブリタニた活動の効果を上げており、また黒の騎士団のゼロと中華連邦との繫がりを持つというのは実に魅力だったのだ。
「既に六ヵ国のレジスタンスの方には、是との返事を頂いております。
戦力を一つにまとめブリタニアに対抗する組織作りをというゼロの案ですが、それについてはどうお考えですか?」
エトランジュの問いにレジスタンスの幹部は顔を見合せた。
「今の活動は限界がある。俺は賛成だ」
「だがエトランジュ様にその気がなくても、EUの植民地にされてしまうかも・・・」
それを危惧しているというレジスタンスに、アルカディアは待ってましたとばかりに言った。
「貴国一つではどちらにせよそうなるな。私としても国が支配されるという事態は避けたい。
よって私は超合集国を構想している」
アルカディアが超合集国連合について、ブリタニアに対抗する連合国家を作れば植民地にされる恐れはなくなる、今のうちに話し合いで解決する国家間の場を作ろうと説くと、思ってもみなかった発想に皆考え込む。
「いずれEUとは同盟という形になると思う。しかしそれはあくまで超合集国連合との間ということだから、加盟国が植民地になるという話にはならない。
貴国の心配が解消される案でもあるが、どうだろうか?」
「なるほど、それなら戦争後各国で協力し合って復興への道が開けられるな」
「そういうことなら・・・しかしゼロ、貴方の手腕が問題になるぞ」
レジスタンスが名声はあっても実績はまだそこまでいっていないと言うと、アルカディアはすでに慣れっこになっていた派手なポージングを取って宣言した。
「一年だ!一年以内に黒の騎士団発祥の地である日本を、解放してご覧にいれよう。
それをもって合衆国日本の成立とする!!」
「一年、だと?黒の騎士団が活動している期間を含めれば、一年半もないぞ」
「それだけで日本を解放出来るというのか?!」
驚くレジスタンス達に、アルカディアは頷いた。
「既に種はまいてある。後はそれをご覧になった上で、答えを出して頂きたい」
レジスタンス達が了承すると、他はマグヌスファミリアが構築した各国のレジスタンスの連絡網を伝え、連携を取り合って行動することに同意したのを見届けてから、エトランジュ達はその場を去った。
ジークフリードが運転する空港に向かう車の中でゼロの扮装を解いたアルカディアは、エトランジュのギアスでルルーシュに報告した。
《これで七ヵ国はこっちのレジスタンス同盟に入って貰えたわ。
戦力として少しずつ集まって来てくれた》
《戦果は上々ですね。では一度日本に戻って頂きたいのですが》
《いいわよ、エドワード入院で一ヶ月経ったからそろそろかなと思ってたから。
エディも日本に来たほうがいい?》
既に中華の件についてEUに報告しており、エトランジュが隠密に黒の騎士団を通じて政略結婚を阻止したことは、表だって協力していなかったせいもあって形式的にある程度の注意を受けるだけで終わった。
アルフォンスとの婚約は今は時期が悪いとなったので、とりあえず中華との関係については復興するのを見守るという形にするという。
《戦争してて復興を助ける余裕がないってのが本音でしょうけど、まあ建前は取り繕っておかないとね。
ま、機を見てEUからの慰問の使者としてエディが差し向けられるってところかしら》
《幼い女帝に文通友達の女王が見舞うというのは、実に絵になる光景ですからね。
民衆が望む物語としては理想的です。その要請が来るまでは、日本にいて頂きたいのですが・・・》
ルルーシュの要請にエトランジュが了承すると、十月のカレンダーを見て言った。
《そういえばもうすぐナナリー様の手術がありますね。それまでは私もいて差し上げたいと思っておりましたし》
《ああ、それでね・・・じゃあ、十月まで日本にいるってことで。
ああ、ユーフェミア皇女達をごまかさないといけないから、ホッカイドウ土産準備しておいてね》
《解りました。では日本でお会い致しましょう》
話がまとまるとギアスが切られ、エトランジュはジークフリードに言った。
「すぐに日本へ渡るので、手配をお願いします」
「承知しました」
遺跡にブリタニア兵がいないとは限らないので、エトランジュは、ルルーシュが手配した偽のパスポートを使って中東を経由して日本に入ることにした。
ごく普通のブリタニア人親子として審査を通った三人は、日本へと飛んだ。
九月末の日本では、近々行われるユーフェミア皇女の誕生日パーティーが話題になり、本国や各エリアでも取り上げられていた。
一般市民でも参加が可能だというので日本経済特区内にあるホテルは全て予約で埋まっているという報告に、ユーフェミアは気恥ずかしそうに笑った。
「まあ、そんなにたくさんの人が来てくれるなんて、嬉しいわ」
「租界内のホテルも予約の問い合わせが殺到しているそうです。
ユーフェミア皇女殿下の御人徳のたまものでしょう」
シュタットフェルトの報告にユーフェミアはこれは失敗が許されないと気を引き締めた。
「土産物などの生産を増やそうとの提案がありまして、さらにゲットーから日本人を募集した甲斐あって販売には充分な生産量です。
問い合わせが多く、かなりの売れ行きが見込めましたので」
「そうですか。これを機にブリタニア人と日本人の人達が仲良くしてくれるようになってくれればよろしいのですけど」
「は、平和的なものをアピールすれば、多大な効果があると存じます。
後はその・・・ブリタニア人が日本人に無法な振る舞いを避けてくれたなら、確実に成功すると申せましょう」
シュタットフェルトがなるべく言葉を選んで言うと、ユーフェミアはもっともな危惧だと溜息をついた。
「そうね、きちんとブリタニア人のほうにやってはいけないと納得して貰わないといけないもの。
カレンさんから聞いたわ、特区内でそういうことをした貴族達がいると」
表沙汰になったらまずいので暗に脅して特区から追い出したと言っていたが、ブリタニア人が多く来るということはそういったトラブルが増えるというのが予想出来た。
特に特権意識というのはなかなか抜けないものだから、なおさらである。
カレンからブリタニア人だという理由で日本人に無法な振る舞いをする者がいる、外から大勢来るブリタニア人が日本人に同じことをしているのが解ったら、特区参加者が増えないという訴えを聞いた時、ユーフェミアは考えた末にある提案をした。
『わたくしが特区内の法令を語ったDVDを作りましょう。それを空港や港などに流すのです。
それだけでは反発を招くでしょうからむやみに力で対応せず、無法な振る舞いを受けたらその証拠となるものを取って提出するように呼びかけましょう』
ブリタニア人、日本人共に特区内での無法な行為を禁じる。もし何か起これば証拠となるものを自分のところへ持って訴え出るように呼びかけると言う策に、シュタットフェルトはなるほどと納得した。
それだけでは心もとないので特区内にはトラブルが起こった時に証拠とするための監視カメラがあり、それを増設して抑止力とするという提案をして可決された。
「監視カメラは特に日本人が多く集まる祭りエリアを中心に設置終了いたしました。
日本人の監視のためとしていますので、ブリタニア人からの反発はないと思います」
「監視カメラというのは個人的には好きではないのですが、仕方ありませんね。
やったやらないの水掛け論になってしまっては、話が進みませんから」
ブリタニア人には“surveillance camera”、日本人には“防犯カメラ”と表示する形にしようというのは、ユーフェミアのアイデアだった。
そのやりとりをユーフェミアの後ろで聞いていたダールトンは、なるべくブリタニア人やイレヴンが反発を起こさないように考えを述べるユーフェミアに心の底から感嘆した。
特区の仕事を通じて政治家として急激な成長を遂げた彼女に、この誕生日パーティーが特区の成功の鍵を握っているのだから自分も全力で協力せねばと手を打つことにした。
(怖れ多くも皇女殿下の誕生日パーティーを台無しにするような愚かな振る舞いをする者にはそれなりのペナルティがあると、私のルートを使って貴族達に釘を刺しておこう。
姫様にも申し上げて、ご協力を仰がねば)
ダールトンは侯爵であり、貴族に顔が広い。
それなりに高い皇位継承権を持つユーフェミアの誕生日パーティーに出席する貴族が多いので、そう言った者達こそが模範を示さねば下は従わないものだ。
「租界内では既に流れておりまして、そういった行為の減少が認められたとの報告もあります。少しずつですが、効果が表れていると思います。
また、租界や特区内のホテルの客室にも無料配布し、なるべく目に入るようにいたしました」
「みんなで楽しく過ごせる時間にするためにも、努力を怠ってはいけません。
シュタットフェルト伯爵もいろいろ大変ですが、よろしくお願いしますね」
「もったいなきお言葉にございます。娘ともども、お力になれれば幸いに存じます」
「ええ、カレンさんには公私ともにお世話になっていますから。
御令嬢をお借りしたままで申し訳ありません」
中華からルルーシュが戻って来たと聞いて、ユーフェミアは天子誘拐の件を含めて詳しい事情を知りたくて、カレンを呼んだのだ。
「娘がお役に立っているのであれば、光栄にございます。どうかお気になさらぬよう」
その娘は黒の騎士団の長・ゼロの親衛隊隊長なのだが、そうとは知らぬシュタットフェルトは深々と頭を下げた。
皇族に深く信頼されているということはそれだけカレンの身の安全に繋がることなので、シュタットフェルトとしてはむしろ望むところである。
こうしてシュタットフェルトが執務室を辞すると、ユーフェミアはダールトンに尋ねた。
「中華のゼロの件ですが、中華の暴動が終わった後はどうなったのですか?」
「は、ゼロは狡猾にも中華の天子に甘言を弄して操り、民衆を扇動して中華とブリタニアの国交を断絶させました。
その後の行動は不明ですが、騎士団が中華から去ったとのことなので、このエリア11に戻っている可能性が高いでしょう」
「そうですか。お姉様はなんとおっしゃっているのですか?」
「ナイトオブトゥエルプのクルシェフスキー卿が戦死なさったことにたいそう驚かれておいでで・・・。
ラウンズが負けたままではいられぬと、ナイトオブナインのノネット・エニアグラム卿がゼロと戦う機会を得るためにと、このエリア11に赴任することを希望しているとか」
「エニアグラム卿は、お姉様の士官学校の先輩だったと伺っていますが」
「はい、そういった縁があるので、エニアグラム卿をとなったようです」
とうとうラウンズが派遣されるほどになった黒の騎士団に、ユーフェミアは複雑な気持ちになった。
ただモニカが戦死したので各国侵攻の作戦計画を変更しなくてはならなくなったため、来る時期はまだ未定だという。
「姫様もゼロの居場所が解り次第、殲滅作戦を行うとお考えのようです」
(サイタマのように住民を巻き込んだ殲滅作戦だけは、今度こそ阻止しなくては・・・お姉様にはそれだけ進言しておかないと、またやってしまうかもしれませんもの)
エトランジュの側近であるアルカディアという女性が言っていたというように、自分より立場の下の人間にだけ説得をするような卑怯な真似はやめるべきだ。
今度こそきちんと姉と向き合い、あのような恐ろしい行為をやめて貰わなくては自分がこうして特区を立ち上げた意味がなくなってしまう。
「簡単には見つからないでしょうけれど、居場所が解りましたらわたくしにも情報を回して下さいねダールトン」
「かしこまりました。では午後の会議まではどうぞお休み下さいませ。最近どうも根をつめておられるようですから」
ダールトンの心配そうな台詞に、ユーフェミアは笑って頷いた。
「ええ、今からカレンさんとお茶の時間にしようかと思っておりますの。
カレンさんも働きどおしですから・・・」
「結構なことです。では、御前を失礼させて頂きます」
ダールトンが退室した後、ユーフェミアの執務室横にある私室でカレンを待つと、ルルーシュと会って来たらしいカレンがやって来た。
「遅くなってごめん、ユーフェミア皇女。あいつ遅刻しちゃってさー」
「いいのよ、無事に会えたみたいでよかったわ。
さあ、座って話を聞かせて下さいな」
カレンがユーフェミアの前のソファに腰を下ろすと、中華連邦の件について差しさわりのないことだけを話し始める。
「中華の件は、婚姻壊しただけで引き揚げたそうよ。
あの天子様誘拐のほうも、最初から打ち合わせてやったって言ってたわ」
「やっぱり、ルルーシュがあんな小さな子に銃を突き付けるなんてするはずがありませんものね。ブリタニアではずいぶん批判されておりますけど・・・」
天子誘拐シーンのみを延々と流し、後の大宦官の本音暴露と中華で起こった暴動についてはシャルルの発言が報道されていないため、ブリタニアではゼロは幼い幼女皇帝を無理やり脅して婚儀を壊したとされている。
やはり少しはやり方を選ぶべきだったのではとユーフェミアは思っているのだが、他の方法など考え付かなかったので批判することはしなかった。
ちなみにアッシュフォードではミレイとシャーリーがその報道を見ては詳しい事情を知りたがっているのだが報道規制のため事実を知ることが出来ず、また相談出来る者がいないせいで悶々とした日々を送っている。
「エトランジュ様を通じて、話を通してあったからね。天子様とエトランジュ様は友人同士なの」
「そうなのですか・・・あの方は本当にお友達が多いのですね」
自分とは大違い、とユーフェミアは羨ましがったが、思えば友人を作る努力をしなかった己が悪いのだ。
「それに、今回中華で起こった暴動で反ブリタニアになったのはシャルル皇帝の演説で『中華は怠け者ばかり』って言ったのがバレたせいなんだから。
国のトップがあんなこと言ったら、そりゃ普通怒るでしょ」
「それは同感です。少しは言葉を選んで頂きたいものです」
ルルーシュが煽ったせいもあるが、ブリタニアのしていること自体が他国に反感を抱かせる行為なのだとユーフェミアは父に対して言いたかったが、それも出来ない自分に溜息をつく。
「ルルーシュが無事でよかったですわ。でも、近々日本にナイトオブナインのノネット・エニアグラム卿が来るとのことですの。
・・・どうか気をつけて下さいと、伝えて下さいな」
「ナイトオブラウンズが、日本に?それは伝えておかないと。教えてくれてありがとう」
黒の騎士団に機密情報を教えてしまうのは、ブリタニアの皇女としてやってはいけないことだと解っていた。
けれど、自分はルルーシュを助けたいのだ。彼らが一番を選んで戦っているのだから、自分も守りたいものを守るために精一杯のことをすると決めた。
(エニアグラム卿には悪いのですが、ルルーシュを失いたくありません。
お姉様とも戦って頂きたくないのですが、そのためには日本特区を成功させないと)
日本特区を成功させ、黒の騎士団の免罪宣言を姉に出して貰った後に彼をEUに亡命させる。
そうすれば姉を日本総督のままでいて貰えれば、それが可能になるとユーフェミアは考えている。
EUにいるブリタニア軍がルルーシュを相手にして貰うことになるが、ユーフェミアに出来るのはこれが限界なのだ。
「それで、ユーフェミア皇女に朗報ね。貴女の誕生日にはナナリーちゃんは無理だけどルルーシュが来てくれるって」
「本当ですかカレンさん!嬉しい!!」
きっと無理だろうと思っていたルルーシュの参加に、ユーフェミアは破顔した。
「ルルーシュから聞いたんだけど、ユーフェミア皇女とナナリーちゃんの誕生日が一週間違いなんですってね。
だからナナリーちゃんに日本特区の記念品を贈りたいとかで、来るつもりみたい」
「ええ、そうなのよ。私からもナナリーにプレゼントがあって・・・カレンさんに頼もうと思ってたけど、彼が来てくれるならルルーシュに渡せるわ」
実はスザクと一緒にナナリーに手渡すプレゼントを選んでいたのだが膨大な量になってしまい、その中からさらにどれにするかと今悩んでいる最中なのである。
「コーネリア総督と鉢合わせする訳にはいかないから、彼女が来る前がいいと思うの。だってパーティーが終わったら特区に泊まるんでしょ?」
「そうですわね・・・でも朝早くからいらっしゃるから、難しいかも」
「なら適当に理由をつけて彼女から離れて貰って、そこにしましょうか。
特区の私の家で会って貰っても構わないし」
一時間くらいなら大丈夫だろうと言うカレンに、ユーフェミアは頷いた。
「ありがとう、そうさせて貰いますわね」
「くれぐれもバレないように気をつけてね。私が手引きするから」
「解っておりますわ。ああ、本当に楽しみ!」
うきうきと声を弾ませたユーフェミアは、ふと尋ねた。
「そういえばエドワードさんは?もう二ヶ月近く入院なさっていらっしゃるようですけど」
「ああ、エドワードさんなら退院して今日特区に戻って来たわよ。退院してからも自宅療養してたんですって。
今は経済特区内で買い物してるわ」
「そうですの・・・風邪といえども侮ってはいけませんわね。
これから寒くなりますから、気をつけなくては」
やっとごまかす必要がなくなったとカレンが内心でほっとすると、鞄からパンフレットを取り出して言った。
「それならいいものがあるわよ。工業特区から出されたこれなんだけど・・・こたつフェア」
「こたつ、ですか?」
「日本独自の防寒用具でね、テーブルに分厚い布団を被せて温めるの。
一度入ったら出たくないくらいの気持ち良さよ」
ブリタニア人用に椅子に座っても使えるタイプがあると言うカレンに、冬は少し冷え症気味なユーフェミアは珍しそうにパンフレットを眺めた。
「工業特区からユーフェミア皇女への献上品として贈られるの。
これ絶対気持ちいいんだから、楽しみにしててね」
これでこたつが広まれば工業特区が潤い日本特区の成功の一手にもなるというカレンに、ユーフェミアは嬉しくなった。
大好きなルルーシュが来てくれるし、ナナリーに日本特区の記念品も受け取って貰えて楽しそうなフェアも開かれる。
きっと楽しい誕生日になるに違いないと、ユーフェミアはカレンダーを待ち遠しそうに見つめるのだった。
一方、久々にエドワードとして経済特区フジにやってきたアルフォンスはルルーシュと土産物屋をうろついていた。
実はカレンはルルーシュと共に経済特区フジに戻って来ていたのだが、ユーフェミアと会う訳にはいかないと、来たことを言わないように頼んだのだ。
ユーフェミアの誕生日パーティーが近いこともあって、混雑を避けて先に買っておこうというブリタニア人の姿が目立つ。
「お、人形焼き。巻きずしも人気あるなあ・・・試食会の様子が流れてる」
「結構な賑わいだな・・・特区が成功する日も遠くないな」
ルルーシュがナナリーへのプレゼントを物色しながら呟いた。
中華の騒動など知らぬげに楽しそうにしているブリタニア人と日本人の姿に、最初からこうしておけば各地の植民地支配もここまでの泥沼にならなかったのにとアルフォンスは呆れつつ、エトランジュ達のお土産を買っていった。
と、そこへ通りかかったダールトンがアルフォンスを目ざとく見つけ、彼を呼び止めた。
「エドワード殿!」
「・・・ああ、ダールトン侯爵。ご心配をおかけしたようで、申し訳ないです」
内心嫌な顔をしたアルフォンスだが、そうとは気づかせない笑みを浮かべて彼と向き合った。
ルルーシュは変装しているとはいえダールトンと顔を合わせたくなかったので、土産を選ぶのに夢中になっているふりをしながら手近な店へと入って逃げた。
「エドワード殿、開催式典以来ですな。入院なさったと聞いたが・・・」
「ええ、ホッカイドウで思い切りバイクを飛ばしたらあのザマに・・・広々とした畑の中を走るのが気持ちよくて」
半袖だったのでうっかり死にかけました、と笑うアルフォンスに、ユーフェミアについてホッカイドウを視察したダールトンは若いなと苦笑する。
「気候が気候だから、無理もないが・・・何はともあれ、回復してよかった。
貴殿もユーフェミア皇女殿下の御誕生パーティーには参加されるのかな?」
「はい、よろしければ参加させて頂こうかと思っております。お土産などは混みそうなので今のうちにと思いまして」
「その方がいいだろうな。今も予約が殺到してな、増産に増産を重ねているらしい。
土産はそれでいいのだが、レストランなどの予約が軒並み埋まっているので屋台などを増やして補おうという提案が出て、対応しているところだ」
「ずいぶん盛り上がっておりますね。整理券などの準備をしておかないと、長蛇の列が出来てしまいますよ」
「うむ、警備隊をコーネリア殿下から寄越して頂く手はずになっている。
何しろブリタニア本国からの旅行者や参加者も来るようだからな」
ユーフェミアはもともと皇族としては気さくで温厚な性格であり、そんな彼女らしく一般市臣民の参加を許したパーティーを開くとあって本国でもこの誕生日パーティーが話題になっているらしい。
そのため租界のホテルの予約も埋まっており、ついでに日本風の旅館などを楽しみたいというブリタニア人もいて、現在日本各地は占領後始まって以来の盛り上がりを見せていた。
(コーネリアの警備隊、ねえ・・・これは気をつけないといけないかな)
ルルーシュがこっそり参加すると聞いたアルフォンスは変装をより慎重に行うよう助言しておくことにした。
「お仕事お疲れ様です。では、私は邪魔になってはいけないのでここで・・・」
「うむ・・・ユーフェミア様も貴殿を気にしておられたので、元気そうだったとお伝えしておこう」
「はい。そうそう、ホッカイドウは本当に寒いので、そちらに行くなら防寒具をしっかり用意するようにガイドブックなどどうかと思っているんです。
こういうのもエリア11をアピールするのに効果的かと」
「なるほど、いいアイデアだ。私からも口添えをしよう。では、失礼する」
ダールトンと別れたアルフォンスはルルーシュが逃げ込んだ店に入ると、彼は何でいきなりユーフェミアの側近と出くわすのかと愚痴りながら、土産を見ていた。
「相変わらず運が悪いね。僕もまさか顔を合わせるとは思わなかった」
「顔を見たら話しかけてくるほど、相手の信用があるという証拠でもあるが・・・俺がいる時に限って会うとは・・・」
「パーティーの時は別行動の方がいいね。次はうっかりコーネリアと鉢合わせするかもしれないし」
ダールトン繋がりでコーネリアとも顔を合わせることになるかもしれないと言うアルフォンスに、エドワードの正体をユーフェミアには教えていないのだから無邪気に会わせる可能性があると考えたルルーシュは、そうすることを決意した。
「・・・この分だと、計画も早まりそうだ」
いったん成功させた後、それをぶち壊しにするようにブリタニアを仕向けなければならないわけだが、この様子では思っていたより時期を早めないとブリタニアによるエリア民同化政策を手助けしてしまう結果になりかねない。
時期の見極めが重要だと考えながらルルーシュが大量に買い求めた土産入ったカートを押していると、駐車場で小柄な少年とぶつかった。
「ああ、すまない。前が見えなくて」
「いえ・・・別に」
素気ない態度で傍を通り過ぎようとした少年の顔に、カートによって出来た小さな傷を見てルルーシュが呼び止める。
「待て、怪我をしている。ちょうど絆創膏があるから」
ルルーシュが少年に近付くと最近怪我をすることが多いナナリーのためにいつも携帯している絆創膏を取り出すと、少年の顔に貼り付けてやる。
「雑菌が入ってはいけないからな。今日は一日貼っておくといい」
「・・・・」
何故かきょとんとして戸惑っている様子の少年に、ルルーシュは買い求めた土産の中からKIBIDANGOと書かれた袋を一つ、彼の手に握らせた。
「お詫びと言ってはなんだが、食べてくれ。すまなかったな」
「は、はい・・・あの・・・・」
何を言っていいのか解らなそうにしている少年の後ろから、男の低い無機質な声が響いた。
不機嫌そうな壮年の男で、スーツに似た服を着ていた。
「何をしている、ロロ。早く来い」
「あ、はい・・・すみません」
少年が慌てて声がするほうに走って行くと、その少年を見送った二人は車に乗り込んだ。
運転席でハンドルを握り、後部座席に座ったルルーシュが言った。
「何だろうな、あれは・・・子供がぶつかって軽傷とはいえケガをしたというのに、気にせずさっさと行こうとするとは」
「全くだよ。もしかしたらあの子、虐待とかされてる子なのかも」
何かの世話になったり貰い物をした時は、あの年齢の子供なら御礼くらい言うのが普通だろう。
それなのにあの少年は、どうしたらいいのか解らないと戸惑っていた。
「ルーマニアで会った孤児院の子供の中で、優しくされることに慣れてなかったせいかあんな感じの子が割といたよ。
中にはぶつかっただけでごめんなさいって怯える子もいたくらい」
「そうか、偏見かもしれないが確かにそんな雰囲気だったな。思い過ごしだといいんだが・・・ん・・・な、ないっ!!」
荷物の整理をしていたルルーシュが、ふと買い求めたナナリーへのプレゼントの一つが消えていることに気付いて叫び声を上げた。
「どうしたの?携帯でも落とした?」
「そんなものではない!ナナリーの誕生日プレゼントがない!!」
「へ?何買ったの?」
「折り鶴を模した携帯ストラップだ。確かにここに入れたのに・・・」
ルルーシュが漁っている袋を見たアルフォンスは、先ほど少年に渡したお菓子を出した袋だと気づいた。
「さっきあの男の子に渡したお菓子に入ってたんじゃないの?」
「あ・・・ほああああ!!」
土産をそれぞれの店で買ったので持ち辛いと、いくつかに分けてまとめたのだ。
その際ナナリー用、施設への子供用、黒の騎士団用とに分けており、うっかり彼は施設への子供用と間違えてナナリー用の袋からお菓子を取り出していたのだ。
おそらく一番大きな袋に入れたKIBIDANGOの袋の中に、何かの弾みでナナリーに贈るプレゼントが入ったのだろう。
「限定品だったのに・・・!ナナリーに似合うピンクの折り鶴だったのに・・・」
座席でこめかみを押さえて唸るルルーシュに、アルフォンスが肩をすくめた。
「だったら別の贈ればいいだろ。日本特区の記念品は別にあるんだから」
「だが、トウキョウ租界にはシャーリー達に会わないとも限らない。ゲットーではろくなものがないぞ」
「ちょうど僕が作っているものがある。手伝ってくれたら、ナナリーちゃんの誕生日までに間に合うと思うけど」
そう言って信号が赤の間にアルフォンスが提示したのは、携帯型デジタルペットのプログラムだった。
「昔日本で流行ったやつでね、プログラム造る暇がなかなかなくてさ・・・。
お喋り機能でもつけたら、ナナリーちゃんにも楽しめると思うよ」
「よし手伝おう」
これならナナリーもペットを飼う雰囲気を楽しめて喜んでくれると、ルルーシュは感謝した。
施設の中で子供達がペットが飼えないからと、当時流行った世代の親が持っていたそれを与えていたのを見つけたアルフォンスは、閃いた。
「オスとメスに分かれてるゲームだったんだけど、ドッキングさせることで子供を作れるタイプのやつでね。
それを隠れ蓑にすれば、データのやり取りに使えると思って」
「なるほど、特区内では使える策だ」
特区内で携帯の所持は認められておらず、USBやCDロムといったものの媒体物について日本人には少し規制があった。
二人とも多忙を極めているのでせめて回覧板的なものだけでも特区にいる騎士団員内で回したいと考えたアルフォンスは、その携帯型デジタルペットを見てこれは使えると思ったのだ。
「赤外線ならうっかり他の機械にキャッチされるかもしれないが、これはドッキング型だからその恐れはないし、見た目はただのデジタルペットだ。
データの中身を見られない限り取り押えられることはない」
「そう、それが狙いで作ってたんだけど、なかなか進められなくて。
ラクシャータ先生はナイトメアや例の神経装置の方で多忙だから手伝ってなんて言えないしね」
デジタルペットを装った回覧板とは、なかなかユニークな代物だ。
「よし、ならユフィの誕生日にそれを渡して話題にし、特区内で広める。
そうすれば日本人が持っていても怪しまれないから、もっと効果があるだろう」
さらに互いにドッキングを重ねることで珍しいアイテムが手に入る仕様にしておけば、互いにデータのやり取りをしているのを見られても単に遊びとしか取られない。
「さすがゼロ、黒の騎士団員用にプログラムを組めばいいしね。
幸い一般人向けなら過去に流行ったやつがあるから、桐原公にでも頼んでデータを貰うだけでいいと思うし」
「この程度なら三日もあれば充分だ。さっそく取り掛かろう」
ナナリーにもっと楽しいプレゼントが贈れそうでよかったと前向きに考えたルルーシュは、さっそく脳裏でプログラムを練り始めるのだった。
その頃、経済特区内にあるホテルではルルーシュとぶつかった少年・ロロが、貰ったお菓子袋の中にあった小さなストラップをじっと見つめていた。
大事そうに包まれた女の子もののそれを何となく手にしてみたら、手放す気になれなくなったのだ。
(あの男の人の家族にあげるはずだったのかなあ・・・)
『待て、怪我をしている。ちょうど絆創膏があるから』
『お詫びと言ってはなんだが、食べてくれ。すまなかったな』
謝られたのも、手当てをされたのも、初めての経験だった。
温かな手でお菓子を渡されたことも、これまで一度としてなかった。
ロロはホテルのルームサービスで取った温かな料理には目もくれず、ルルーシュから貰ったお菓子を手に取った。
「美味しい・・・」
量産品のお菓子なのに、どうしてこうも美味しく感じるのだろう。
ロロが初めて味わう感覚に戸惑っていると、ノックもせずに入りこんできたギアス嚮団の男を見て、慌てて折り鶴のストラップを隠した。
「ゼロの情報が集まるまで、このホテルを拠点にする。
私は任務のためエリア11内を回るが、お前はここにいろ」
「解りました」
用件だけを伝えて挨拶すらなく部屋を出た男に何も思うことなく、ロロは再びストラップを取り出してじっと見つめた。