今回よりR2となりました!
無印より立った成長フラグや不幸フラグ折れのため、キャラの性格が若干変わっている場合があります。
特にナナリーの性格が途中から黒いです。CDドラマ版ナナリーになります。
主人公チームが有利になっているのでご都合主義流れになってしまうかもしれませんが、なにとぞご了承頂きますようお願い申し上げます。
それでは、コードギアス 反逆のルルーシュ ~架橋のエトランジュ~R2編、お楽しみくださいませ。
コードギアス R2 第一話 朱禁城の再会
中華連邦にやって来たルルーシュ達は、変装キットで顔を変えた後エトランジュのギアス誘導で彼女の仲間である女性に出迎えられた。
コーネリアと比較してもいいほど高い身長にスーツを纏い、薄手の眼鏡をかけて知的なボブカットの少し赤みがかかった髪の女性だ。
「初めてお目にかかりますわね、ルルーシュ様。
わたくし、マグヌスファミリアで教師をしておりますルチア・ステッラと申します」
「ルルーシュといいます。お話は常々エトランジュ様より伺っております。
何でもエトランジュ様の母君の御親友であるとか」
「ええ、血の紋章事件でブリタニアを去ってイギリスに亡命した時、当時イギリスに在住しておりましたランファーと会って以来、ずっと友人同士でした。
諸事情あって全て存じておりますので、そちらのことも貴方にお話しして欲しいとエディに言われましたもので」
そう言いながら軽く左目を撫でたところを見ると、つまりはギアスのことも知っていると言うことだろう。
「日本での経緯も存じておりますので、ご不安でしたらマオさんにも確かめて頂いて結構でしてよ。
とりあえずここでは何ですから、一度ホテルへご案内させて頂きます」
「お世話をかけます」
ルチアの先導でルルーシュ達が後をついていくと、お土産屋を見ていたマオがルルーシュにささやきかける。
「ああ言ってるけどどうする?いちおうあの人の心の声を聞いておこうか?」
「いや、それはエトランジュ様やルチアさんにも失礼だろう。それはもう少し疑念が持ってからでも遅くはない」
ルルーシュはそう言って止めたが、内心でルチアの素性に眉をひそめた。
(彼女、色つきの眼鏡でごまかしてはいるが、俺達皇族と同じ紫がかかった瞳の色をしている。
名門貴族の出だと聞いているから、近親者に皇族がいたのかもしれないな)
一同が用意された車に乗り込み運転手が発進させると、C.Cが空気を読まずに要求した。
「ホテルに着く前にピザの材料を買いたい。店に寄ってくれ」
「エディが貴女がそうおっしゃるだろうと予想して、既に準備してありましてよ」
「さすがだな、気配りの出来るいい女だ。良妻賢母になれるだろう」
「現在これから先の行動のため、無駄な出費は許されなくてよ。ですから今回限りです」
「ち、世知辛いな・・・だが仕方ないか」
物の道理が解らない彼女ではないので、ない袖は振れないから大事にピザを食べるかとC.Cは思った。
「ホテルは首都洛陽の隣の都市にご用意させて頂きました。
この車は我が反ブリタニアレジスタンスが所有しているものですが、貴方がたにお貸ししますのでご自由にお使い下さい」
「アクセスも容易、かつ目立たない、か。なかなかいい場所をご用意して頂き感謝する」
ルルーシュはルチアに礼を言いながら車の外を見ると、空港の周囲にある街を通りかかった。
そこは元来なら店が立ち並び商売に励む人々がいるはずなのに、大半の店は閉じられているかもしくは明らかに略奪されたとみられる形跡があり、人々は疲れたように座り込んでいる。
「・・・まるでゲットーのようだな。酷いものだ」
「十一年前はもうちょっとマシだったんだけどね、前皇帝が倒れちゃってからだんだん荒れていってさ・・・僕もこの辺に住んでたんだ」
「そうなのか?」
ルルーシュの問いかけにマオが遠い目をしながら頷く。
「空港近くの街だったから、観光客向けの店がいっぱいあったよ。
僕の家もそうで割と裕福な部類だったと思うけど、税金が上がったしそれにつれて観光客も減って誰もお土産なんて買わなくなったから家の収入も減って・・・破産しちゃった」
その後両親はマオを捨てて蒸発し、空き家で泣いていたところをC.Cに拾われたのだ。
「そうか・・・大変だったな」
「C.Cと一緒になってからここはゴーストタウンで食料もろくにないからってことで、洛陽に引っ越したんだけど・・・そこも多分変わってないだろうなあ」
一見栄えて見える洛陽だが、特権階級が住む地域と貧民街とで明暗が分かれている。
まさに租界とゲットーと同じと言うマオに、ルルーシュはこの中華も根本的に生まれ変わらせるべきだなと考える。
一行に用意されたホテルは、小さいが大宦官に対する抗議活動をしている科挙組の遠戚が経営しているホテルで、レジスタンスが旅行客を装って住んでいると言う。
現在滞在している全員が、大宦官に反発するレジスタンスや科挙組、エトランジュが呼び寄せた反ブリタニアレジスタンスだった。
「なるほど、ホテルなら住人の入れ替わりが激しくても、大量に食料を搬入しても怪しまれない。
特権階級の連中はもっと豪華なホテルを使うから、まず来ないだろうからな」
「普通の客が来たらどうするのさ?そいつが私服警察だったりしたら・・・」
マオの問いにルチアが青色のホテル会員カードを取り出し、フロントに見せた。
ルチアがそのカードを見せながらテーブルの上にあるペンではなくわざわざ持参した鳥の紋章が彫ってある万年筆で名前を書き込むと、フロントの女性マネージャーがご案内しますと出てきた。
(なるほど、青色の会員カードと鳥の紋章の万年筆で宿帳に名前を書く・・・二重の確認作業を行っているということか)
普通青い会員カードだけならすぐにこれが目印だと解るだろうが、書く物にまで注意を払う者は少ないだろう。
書き慣れた物で文字を書く者はざらにいるから、怪しまれることもない。
それ以外の客は丁重にお断りするか、一般用のフロアに案内すればいいのである。
「我が香南飯店へ、ようこそお越し下さいました。お部屋にご案内させて頂きます」
「お世話になります」
マネージャーに案内されて着いた部屋は、二部屋とユニットバスがあり、三人で住むには十分なスペースがあった。
「この辺では自炊のホテルが珍しくありませんので共同になりますが、キッチンが各階に設けられております。
また、小さいですが食事を出す場所もございますので、どちらもご自由にお使い下さい」
「ありがとうございます」
「太師からお話は伺っております。何でもブリタニアが持ちかけてきた政略結婚を潰しに来て下さった黒の騎士団の方だと」
女性マネージャーはおぞましそうに口を押さえると、彼女は左遷されて地方に飛ばされていた当時の太師の秘書だったと教えてくれた。
「お可哀そうに、まだ十二歳だというのにあんな三十になる男の花嫁になど酷すぎます!
断固阻止すべきですわ、おぞましい・・・!」
女性としては嫌悪を禁じ得ぬ話に、ルルーシュも頷いた。
「私達も協力いたしますので、何かありましたら遠慮なくおっしゃって下さいね。
それでは、失礼させて頂きます」
マネージャーが立ち去ると、ルルーシュ達は変装マスクを外しさっそくソファに腰を下ろしてルチアに言った。
「改めて紹介させて頂こう。俺はルルーシュ・ランぺルージ、そっちの女はC.Cで、その男は中華連邦人のマオだ」
「よろしくお願いいたしましてよ。では、さっそくご用件のほうですが・・・」
「はい、別便で来ている黒の騎士団員ですが、地方組と首都で動いて貰う団員、さらに中華にいる友人宅に潜伏するチームとに分かれていますので、彼らに命じた役目と連絡方法についてお教えしておきましょう」
ルルーシュは中華語を話せる者や中華連邦に詳しい者、もしくは知人がいるという団員を選んで今回の件に参加させた。
中でも中華の呪われた泉とやらで武者修行をしたことがあるという父子は、息子の方に数名の女性が強引に心配だから私もついていくと主張して騒ぎになり、ついてくんなと怒鳴っていたのが印象的だった。
『性格や能力こそ違うが、どこかの誰かを彷彿とさせる男だな』とはC.Cの弁である。
「現在の状況はおおむねエトランジュ様から伺っております。
二日前、天子様の後見人の一人である太保が亡くなったそうですね。
今マグヌスファミリアの一行は太師の邸宅に滞在しており、天子様と頻繁に面会しているとか」
ルルーシュの言葉にルチアは頷くと、科挙組と合わせて政略結婚を防ぐべく動いているのだと言った。
国際路線からも結婚適齢期になっていない少女を結婚させるなどそれでも節度ある大人の態度かと批判を浴びせかけ、中東の一部からもその動きをして貰っている。
「最近エリア18にされた中東にある国家と親しかった国があるので、喜んで応じて下さいましてよ。
ブリタニアには敵が多いですもの、一部ではロリコン太子と報道している国もあるほどで、面白い事態に・・・くすくす」
ころころと楽しそうに笑うルチアはノートパソコンを開くと、そこには長兄であるオデュッセウスと書いてロリコン太子、十二歳の幼女に求婚という悪意ある見出しのある電子新聞を一行に見せた。
「これはこれは、事実をこのように言い換えるとは報道とは面白いものですね。
それで、その効果は?」
「ある程度は上がっておりましたが、大宦官はその政略結婚を成立させた暁にはブリタニア貴族として迎え入れられるという密約があるそうで、それならば外国の風評など気にする必要はないとばかりの態度になりましてよ。
ブリタニアはもとより他国の風評など意にも解さぬ国ですから、そっちには全く効果がありませんでした」
「ならばこの結婚を失敗させれば、人道に反する行いをしたとして大宦官達を公然と粛清出来ますね。
ブリタニアとの密約だけでも売国行為、法を無視して未成年の少女を結婚させようとしたのですからね」
「ええ、その方向に持っていきたいと天子様と太師様、さらに黎軍門大人からも伺っておりますの。
ですから可及的速やかに失敗させたいものですが」
状況としてはもはや一刻の猶予もならない、ただ協力してくれる者も多いという情報に、ルルーシュは駒を把握することから始めることにした。
「天子様には無理としても、太師にはお会いしておきたい。それから、黎軍門大人とは誰です?」
「現在のわたくしの滞在先で、本名を黎 星刻とおっしゃいまして、現在朱禁城にて武官をなさっている方ですの。
天子様に高い忠誠心を抱いておられまして、この政略結婚は何としても潰すと息巻いておられましたわ」
下級官吏の子として生まれ、以前から役人をしていた男だという。
それが下級役人だった当時囚人に薬を与えたことを咎められた時、天子の温情で助けられてから彼女と永続調和の契りを交わした忠臣だそうだ。
ちなみに軍門大人とは、軍における地位を持っている人という意味である。
「ただそれだけに大宦官に煙たがられておりまして、生まれを理由に遠ざけられがちだったとか・・・。
日本の駐在武官に左遷されかけたこともあったそうですが、天子様が強く彼をお付きの武官にと望み、太師様が彼の後見人になったことから連中もそう強く出られないようです」
「武官の・・・地位はどれほどです?」
「反大宦官派の中ではリーダー格だと聞いておりましてよ。
ナイトメアの技量は彼を抜く者はいないと伺っておりますが」
(これは使える駒だな。エトランジュ様にお願いして、彼と顔を合わせる機会を作って貰おう)
「おおよそは理解した。
では、細かい打ち合わせのためにも太師様と黎将軍とお会いしたいので手回しをお願いしたいのですが」
「そうおっしゃると思いまして、明日の夜にお時間を頂いておきましてよ」
「話が早くて助かります。では中華との話はひとまず置いて・・・貴女は何故、今になってブリタニアの崩壊に手を貸すのです?」
血の紋章事件から、既に二十年近い歳月が過ぎている。
今になって何故と問うルルーシュに、ルチアはバカバカしいことを聞くとばかりに顎を上げた。
「わたくし、別にブリタニアなどどうでもよろしいの。
ブリタニアに限らず、どこの国が栄えようが滅ぼうが、わたくしには無関係・・・ただあのマグヌスファミリアで人生を過ごせられれば満足でした」
「・・・・」
「それなのにあの国ときたら、よりによって祖国と決めたマグヌスファミリアを占領したのです。
まったく他人に迷惑をかけなければ生きていけぬ国ですこと」
だから祖国を奪回するためにブリタニアを潰すだけだと言うルチアに、彼女の中にブリタニアはないのだとルルーシュは知った。
事実彼女の心の声を聞いたのだろうマオも、表情で『この人ほんとにどうでもいいって思ってる』と語っている。
「血の紋章事件に関わっていたと聞きましたが・・・」
「わたくしの親が当時のシャルル皇帝の異母兄に加担してクーデターを企んだのですわ。
わたくしがその加担した兄皇子の息子の妃になるという条件がありましたので、事が失敗した時わたくしまでとばっちりを食ったのです。
幸い失敗すると解っていたので、計画を聞いた時さっさとEUに亡命したので助かりましたが」
あっさり両親を見捨てて亡命したと告げる彼女に、ルルーシュはさすがブリタニア貴族と感心する。
「貴方も大変でしたわね、ルルーシュ殿下。本当に母君によく似ていらっしゃること」
「母と会ったことがあるのですか?」
意外そうに尋ねるルルーシュに、考えてみれば当時母・マリアンヌはナイトオブラウンズとして皇族の近くにいたのだ。
名門貴族としての彼女なら、顔見知りでも別におかしくはない。
「ええ、学年こそ違いましたが同じ学校に在籍しておりましたので。
彼女は士官学校に進み、私は高等学校に進みましたけれどお付き合いは少しばかりございました」
「そうですか・・・母とも」
思いがけず母の古い友人に会ったルルーシュが何となく笑みを浮かべると、ルチアは紅茶を飲みながら昔語りを始めた。
「意外でしたのよ、彼女が皇帝の后妃になったと聞いた時は。
何しろ自由奔放な性格で、何かに縛られるのが嫌だという女性でしたからね。家庭にだって入るのはなるべく遅いほうがいいと言っていたほど」
「母さんらしいな・・・その方が良かったかもしれない」
「子供だって好きに戦場を巡れなくなるからいらないと言っていたのに、二人も子供を作るなんて・・・やっぱり女は子供を産むと変わるものかもしれないと思ったものです」
そのやりとりを聞いていたC.Cは、確かに彼女はマリアンヌを知っていると思った。
彼女はルルーシュを妊娠した当時、戦場を巡れなくなったと愚痴っていたし面倒な宮廷のしきたりにも嫌がっていた。
シャルルはマリアンヌに夢中だったから、ナナリーを懐妊した時の台詞は『あらまた出来てしまったわ』とやたらあっさりしていた。
ただだからと言って子供達を嫌っていたわけではなく、彼女なりに息子と娘を大事に思っていたのは解るが、アリエスの悲劇以降の彼女の行動を見るにつけ、ルチアの言うように“子供を産んで変わった”ようには見えない。
(むしろシャルルの方が変わったな。V.Vが焦って嫉妬して、マリアンヌを殺してしまうほどには・・・)
母の昔話を頼むルルーシュに応じているルチアを見ながら、C.Cは内心で溜息をついたのだった。
その夜、洛陽にある太師宅でははるかに重大な会議が開かれていた。
エトランジュに太師、科挙組官吏が数名、黎 星刻である。
「ゼロが無事に到着いたしました。協力者の方は用意して頂いたホテルに、ゼロは別行動だとのことです」
「あのコーネリアに苦杯を飲ませたというゼロか・・・味方としては頼もしいのだが」
顔も明かさぬ仮面の男にどうしても懐疑的なのは、反ブリタニア派の軍の中核を担う星刻だ。
エトランジュの人格は信頼しているが、彼女の能力はそうではないし彼女自身がゼロにうまく言いくるめられているのではとなるのは至極当然の流れである。
「明日、お互いに会おうとのことです。
私も軍や政治のお話はまだまだついていけませんので、直接お話しになったほうがよろしいかと思いました」
「時間がないし、その方がいいでしょうね。天子様・・・!」
政略結婚などしたところで、どうせ中華を拠点にEUと争うことになる・・・そう太師から言われた天子は、そんなのは平和じゃないと泣き叫んだ。
「ゼロとの利害は一致しておるのだ。太保は先日、息を引き取ってしもうた。
わしももう長くない・・・その前に何としても大宦官どもだけでも片づけておきたいのじゃ」
車椅子に座る先代皇帝のように病み衰えた太師の身体を見た星刻は、あらゆる意味で時間がないことを悟った。
「エトランジュ陛下・・・・ゼロは信用出来ますか?」
「私は信頼しております。中華のために、今回の件に関しては力になってくれるものと思います」
能力的、反ブリタニア思想を持つことには疑いの余地はない。
利害は一致しているはずだと言うエトランジュに、星刻は押し黙った。
「とにかく、会ってみなくては解るまい。
ごほん・・・何事も相手を見るにはそうしなくては始まらぬ。百聞は一見にしかずというであろう・・・」
咳き込む太師にエトランジュが薬湯が入った器の蓋を開けて差し出すと、太師は礼を言って飲み干した。
「星刻よ、お主とて身体の具合はよくないと聞いておる。焦るのは解るが、まだ若いお主なら回復の余地もあろう。
くれぐれも先走ってはならんぞ・・・大義のためじゃ」
「は、それは重々・・・申し訳ありません、婚儀を強引に挙げようとする大宦官どもに、焦ってしまいました」
星刻が頭を下げると、エトランジュは心配そうに尋ねた。
「黎軍門大人、お身体の具合は最近よろしいと伺っておりますが、大丈夫ですか?」
「ええ、エトランジュ様がご紹介して下さった薬師のお陰で、ずっと体調がいいです」
星刻が感謝の意をこめて頭を下げると、紹介しただけですからとエトランジュは恐縮した。
「ひと段落つきましたら、一度検査をして治療に専念なさるのもよろしいのでは?」
「そうですね、反大宦官派の中でもっとも有力な武官は星刻だ。大宦官どもさえ消えれば、圧力をかけてくる連中もいなくなる。
いくらよく効いても、薬じゃ対症療法に過ぎないよ」
科挙組の言葉に太師も頷いた。
「うむ、同感じゃ。じゃが、何はなくともまず大宦官とブリタニアをどうにかせねばの」
「では、明日の夜に太師様の邸宅に・・・でよろしいですか?」
エトランジュの問いに太師が頷くと、星刻が言った。
「しかし、ゼロが来るとなるとブリタニアの動きが・・・周囲は大宦官の手の者に監視されているのですよ」
「大丈夫です。アル従兄様がうまくフォローして連れてくるとのことですから」
「そうですか・・・ですがくれぐれもご用心をお願いしたい」
「はい、もちろんです。では、明日の夜に」
こうして一同が散会すると、星刻は窓の外から見える朱禁城を見た。
豪華な造りだが冷たい鳥籠に囚われている主君に、外の世界を見せると約束した。
エトランジュが日本からやって来た時、日本の皆様に作って頂きましたと言って千羽鶴を天子に贈ってくれた。
さらに私室に招き入れられた後、こっそりと日本の皇族の姫君からですと言って皇 神楽耶からの手紙を手渡していた。
『聞いて星刻!私にもう一人お友達が出来たの!』
あの時の天子の嬉しそうな顔は、ブリタニアの皇子達から受け取ったカラーダイヤモンドの装飾品を受け取った時のそれより、比べ物にならないほど輝いていた。
(天子様を思うのなら、同じ政略ならエトランジュ様の従兄のアルフォンス殿の方が・・・ブリタニアはどう考えても中華の平和など考えていない)
連中が望んでいるのは、明らかに自国の繁栄だけだ。
他国を格下と位置づけ、誇りと尊厳を奪い支配する国など信用する方がおかしい。
EUや他の反ブリタニア勢力を組んで戦の目となっているブリタニアのみを相手にする方が、平和を望む御心にも叶っているのではないだろうか。
(太師様のおっしゃるとおり、考えても仕方ない。ともかくゼロを見てからだ。それから天子様に奏上しよう)
天子はまだまだ世間知らずな分、外に出ていろんなことを見聞きしているエトランジュが信じているのならと考えている面がある。
それはある意味仕方ないが、エトランジュも天子もまだまだ幼い。その分自分がしっかりゼロを見定めねばならない。
エトランジュやアルフォンスは信用出来ても、EUが一枚岩ではない分EUと同盟を結ぶのも二の足を踏んでいるという事情もある。
星刻はそう決意すると、自宅へ戻るべく太師の邸宅を辞したのだった。
ブリタニア大使館では、オデュッセウスとシュナイゼルが向かい合って優雅に夕食をとりながら今後の展望を相談していた。
「どうしたものかなあ、シュナイゼル・・・天子は僕に怯えるし、その一方でアルフォンス王子が彼女との間に信用を築き上げているんだけど」
客観的に見れば天子の文通友達であるエトランジュの従兄であり、下に従弟妹が大勢いて年下の相手をし慣れているアルフォンスの方に分があるのは明白だ。
オデュッセウスは長男で下には弟妹しかいないが異腹であり妃同士のいさかいもあって、彼らの面倒を見たことなどなかった。
対してアルフォンスは従妹であるエトランジュを間に挟んで親密に接しており、エトランジュが特技を生かして周囲の中華連邦人とも友好関係を広めているため、なかなか侮れない相手になっている。
どうにかして平和的に天子の緊張を解こうとしているオデュッセウスとしては、溜息をつきたくなる事態だった。
「実はユフィに同行して貰って、天子との間に立って貰おうとしたんだけどね・・・行政特区に専念しなくてはいけないと断られてしまったんだよ」
「なるほど、それは残念でしたね」
凡庸な兄にしてはいいアイデアだった。確かに温厚なユーフェミアなら天子の警戒を解き彼らの間を取り持つには最適の人選といえるだろう。
しかし今彼女は行政特区のほうに全力を注いでおり、中華に滞在する余裕など全くないはずである。
姉妹なら他に五人いるが、次点のコーネリアは退院したばかりな上に黒の騎士団殲滅に躍起になっているし、長女のギネウィアは性格がきつ過ぎて向いていない。
末のカリーヌは活発だが殺戮行為などに関して笑って話すなどブリタニア皇族らしい残酷さがあるので、外交観点から物事を話すということがまだ出来ていない。
四女は政治に無関心で、学生寮に入ったきり一度も宮廷に戻っていない。
こうして見ると穏健な形で話を進めたい場合、主な皇族の中でそれに向いた人材が少ないなとシュナイゼルは思った。国是からすれば当然のことなので、思っただけだが。
「実はエトランジュ女王のほうに私から話してみようかと考えておりましてね。
そこで兄上にお願いがあるのですが」
「それは、話し合いが出来ればそれに越したことはないと思うけど、彼女は我が国が侵攻したマグヌスファミリアの亡命政府の女王だよ?」
天子の前でブリタニアを罵ることこそしなかったが、自分の前で挨拶をした後自分に一切視線を向けて来なかったエトランジュを思い返して言うオデュッセウスに、シュナイゼルはいつもの笑みを浮かべてグラスを傾けた。
「だからこそ話し合って理解を得たいのですよ兄上。
彼女は今ゼロと組んでいるようですが、顔も明かさぬテロリストのすることですから、彼女をどう利用するか解りませんからね。
その辺りのことも含めて、一度どうしても話をしておかなくてはなりません」
「ゼロか・・・それは確かに危険だね」
ある程度常識があるオデュッセウスは、エトランジュに対して多少の負い目があった。
そのため彼の性格もあり、エトランジュが天子の前に来るとどうしても行動し辛いのである。
遠くにいるならそうでもないが、近くにいるならそれなりに罪悪を感じるエトランジュのためになるならと、オデュッセウスは弟の頼みをあっさりと了承する。
シュナイゼルはそんな兄を見ながら、脳裏で各地から集めたエトランジュに関する話や朱禁城での様子から、彼女の情報を整理した。
エトランジュはEUでは捨て駒に近い扱いを受けており、ゼロの件に関してはやはりやらないよりはマシという腹積もりのようだった。
だが彼女を通じて与えられたゼロの知略がそこかしこで使われているようで、EUに対する策がいくつか止められている上に最前線がエリア17として占領した国以降からいっこうに進められていなかった。
そのためゼロは確保しておくべきとの考えが徐々に浸透しており、ゼロもEUの負担にならない程度の援助物資を要求しては受け取っているとの情報が手に入った。
また、今回のオデュッセウスの婚儀についてはせっせと悪意ある報道をEU内でばら撒いており、中東でもエリア18にした国と親交の厚かった国などで同様の動きをするなど、他人の力をうまく使ってブリタニアに地味にチクチク攻撃を仕掛けていた。
さらにEUに亡命したブリタニア人達を中心にしたレジスタンスを組織したとも言う。
やっていることはそれなりの成果だが、人物像としてはみな殆ど“一般人として付き合うなら理想的だが、この戦乱の時代ではただの操り人形にしかならない女王”という評が返って来た。
つまりは人柄だけで能力はないユーフェミアタイプの人物ということだろう。
会議などでもきちんと話は聞くのだがいかんせん学校すらまともに出ていないせいでろくに理解が出来ず、解らないことをその都度聞いてきたことがあったという。
父親から“解らないことはすぐに聞きなさい”と言われたからだそうで、本人に悪気はなく、その後注意をされたのか会議終了後にまとめて解らないことを文書でまとめて聞いてくるようになったのだそうだ。
朱禁城にいる彼女の様子を遠目から見る限り、非常に礼儀正しく大宦官達でさえ傀儡だという認識もあるせいだろう、彼女に露骨に悪意を向けることはしなかった。
せいぜい天子に余計な知恵をつけるなという程度の不満である。
天子と席を並べて『一人でするより、何でもみんなでやった方が楽しいです』と笑いながら太師について勉強することもあった。
(つまりは子供の思考をする人物・・・ということだろう。それも大人の理想とする優等生タイプだな。
知識不足から深い思考が出来ない・・・とすれば、そこをうまく突けば会話を誘導し彼女を取り込める)
エトランジュさえこちらに引き込めてしまえば、EUに亡命しレジスタンス組織を作った元ブリタニア貴族にそれをきっかけとして免罪してもいいと持ちかけて駒に出来るし、ゼロとの間に出来たEUとの縁も壊せる。
また、天子もエトランジュがいるならと婚儀にそれなりに肯定的になる可能性もあるだろう。
何気に人脈があり外交技術の高い彼女は、味方にすれば地味に役立つということに、シュナイゼルは気付いたのだ。
何よりも、父であるシャルル皇帝が気にしていた遺跡・・・あそこにあった模様と同じ刺青が彼女の左手の甲にあったのを、シュナイゼルは偶然目撃していた。
(確実にあれについて何か知っているな、あの一族は。
彼女の信用を得れば、ポンティキュラス王家から何か聞き出せるかもしれない)
家族を大事にする傾向の強い一族だ、その可能性は高い。
そのための策を弄するために、父帝シャルルに要求した一件は是との返事を貰ってある。
シュナイゼルはそう考えを巡らせると、ワイングラスを揺らすのだった。