第十一話 鏡の中のユフィ
トウキョウ租界にある、とあるシティホテルのスイートルーム。そこでマグヌスファミリアの一行とルルーシュ、C.Cが集まって会議を開いていた。
彼らだけで行っている理由はもちろん、議題がギアス絡みだからである。
先に偽名でチェックインを済ませたエトランジュ達が入室した後、C.Cを伴ってやって来たルルーシュの顔色が悪いことに気づき、エトランジュがおずおずと言った。
「ルルーシュ様・・・その、お顔の色が悪いのですが」
「ああ、ちょっといろいろありましてね」
ユーフェミアに生存がバレてしまい、その原因となったスザクを思うと胃に穴があきそうである。
スザクに土下座でもさせてその頭を踏みにじってやるくらいのことをしないと、この怒りは収まりそうにない。
「あまりご無理をなさらないように。何かございましたら、私どもも出来る限り協力いたしますので」
「ありがとうございます・・・こちらで何とか致しますので、お気になさらぬよう」
ルルーシュは一人がけのソファに腰を下ろし、C.Cは当然のようにベッドに寝そべる。
「C.C・・・お前な」
ルルーシュは行儀の悪いC.Cにたしなめようとしたが、彼女には馬耳東風であることを嫌と言うほど知っているため、溜息をついて諦めた。
ルルーシュがエトランジュに向き直ると、さっそく尋ねた。
「本日来て頂いたのはほかでもない、神根島の件です。あの遺跡について、詳しいことを伺いたいのですが」
「はい・・・あそこについては昨日伯父様方から聞ける限りのことを聞いて来たのですが・・・どうも、コードとギアスを生み出した者達が創ったものだろうとのことでした」
「コードとギアスを・・・道理ですが、その目的は?」
「その辺りは不明ですが、調べた限り世界各地にある遺跡の中でも、神根島のものがもっとも古いものだそうです。
各遺跡に各地に散らばる遺跡の地図があるそうなのですが、一番最初に書かれている場所が日本のものだとのことなので、間違いないだろうとおっしゃっていました。
今はブリタニアが直轄管理していますが、戦前は世界のオーパーツとして研究している国もあったそうです」
ルルーシュは考古学については専門外だが、図書館などで一応のことは調べてきた。
オーパーツとは現代に至るまで謎が解明されていない不思議な遺跡や建造物などのことで、マチュ・ピチュやナスカの地上絵などが代表的な例だ。
ギアス遺跡は神根島、マグヌスファミリアなどの島に点在することが多く、中華連邦やブリタニアのペンドラゴンなどの大陸部にある遺跡は少ないそうだ。
エトランジュが遺跡がある国名を羅列すると、遺跡に沿って侵略が行われているのが解る。
「ブリタニアの手に渡っていないのは、イギリスにあるブリテン島のストーンヘンジと中華連邦の遺跡だけです。
あの周辺にイギリス政府に無理を言ってマグヌスファミリアのコミュニティを作って、こっそり使用しているのです」
「ストーンヘンジ・・・有名なオーパーツですね。ただ石が並んでいるだけかと思っておりましたが」
「あの遺跡はコード所持者かギアス能力者がいなければ、決して入口は開かない仕組みになっているのです。
ほとんどは石造りの扉一つだけなんですけど、マグヌスファミリアやイギリスのそれは二重扉・・・とでもいいましょうか、いったん地下に下りる仕組みの扉があるのですよ」
「なるほど、興味深い話だ。その扉が、遺跡だけのどこでもドアということですね」
「んー、ちょっと違いますね。扉をくぐるといったん“黄昏の間”と呼ばれる大きな広間に入るんです。
そしてそこから行きたい場所を念じて扉をくぐると、目的地の遺跡の扉から出ているということですね」
ルルーシュはエトランジュの話を聞いて、ますますブリタニアの目的が解らなくなった。
コード所持者とギアス能力者しか使えない代物を、わざわざ侵略する意味があるのだろうか?
そして今回来日するシュナイゼル・・・あの異母兄は何が目的であの場所へ行くのか。
「クロヴィスもあの遺跡を研究していたようです。
彼が死亡した後も彼の命令で研究していた者達が数人いたのですが、私達が到着した際にみんな殺して彼らが持っていたパソコンや資料などは全部壊してきました」
持っていこうかとも思ったのだが、量が多すぎて邪魔になるだけだったのでブリタニアの手に渡るのを阻止するために抹消するほうを選んだのだ。
「概要は理解した。俺も一度ぜひ、この目で見ておきたいものだが」
「しかし・・・あそこは皇帝直轄領です。そう簡単に忍びこめるとは」
おまけに自分達が容赦なく全員を始末してしまったので、そう簡単にはと申し訳さなそうに言うと、ルルーシュはニヤリと笑みを浮かべた。
「幸いある姫君が漏らした情報によりますと、シュナイゼルが視察に向かうと聞きました。
あの男を抹殺すれば、あの島に来る者はしばらくいなくなる」
皇帝直轄領と言うことは、裏返せば命令がない限り誰も立ち入れないということである。
クロヴィスは第三皇子であり、このエリアの総督であったからこそ皇帝の命令で調査をしていた可能性が高い。
だが、シュナイゼルは宰相であり考古学者ではない。宰相が遺跡を調べるために来日するなど、普通はあり得ない・・・裏があると考えるべきだろう。
「黒の騎士団も、後援組織のために租界では軍事行動を起こしておりません。
地方で何かしていると感づかれないためにも、そろそろ租界で活動しておかねばと思っていたところですしね」
「なるほどね、いいんじゃない?EUに貸しも作れそうだし」
アルカディアの言葉にルルーシュが眉をひそめると、彼女はジュースを飲みながら答えた。
「EU戦であの男が裏でいくつか策謀巡らせてるみたいでさ・・・アイン伯父さんの予知とあんたの助言でいくつかは回避出来たけど、次から次へとえげつない策やられててね」
阻止出来ていないものもあるし、現地で指揮をしているわけではないルルーシュだけでは完全に安心というわけではないらしい。
ゆえにシュナイゼル抹殺が黒の騎士団によって成し遂げられれば大きな貸しを作れる上、その根回しをしたマグヌスファミリアとしても今後の活動がしやすくなるのだ。
ルルーシュは己の策が異母兄に通じていないと聞いて、生来の負けず嫌いに火がついた。
「アルカディア様、申し訳ないがマオと共にシュナイゼルが来る日程をお調べ頂きたいのですが」
「もう調べた。例によってマオと士官クラブに行ったら、グラストンナイツから来週の金曜日だって情報ゲットしたわよ」
さすがに行動が早い、とルルーシュが満足すると、アルカディアは難しい顔で付け加える。
「ただ、最新鋭浮遊航空艦アヴァロンってのに乗ってくるみたいなの。コーネリアの件で護衛がいつもより分厚くなるようだから、油断しないで」
「ほう、空飛ぶ船に乗ってのご来日か。それならそれで、策はある」
ルルーシュはニヤリと笑って作戦を説明すると、エトランジュは首をひねったように言った。
「あのー、実は伯父からこんな予知が来ていたのですけど」
エトランジュが伝えた予知に、ルルーシュは眉をひそめた。
「・・・犠牲が出るかもしれない、ということか。ならば、貴方がたにはこのように・・・」
「解りました、お任せ下さい」
「では、来週の金曜日に。行くぞ、C.C」
ルルーシュがずっと黙って話を聞いていたC.Cを呼ぶと、彼女は面倒そうに立ち上がってルルーシュに続く。
(例の遺跡・・・中華連邦のやつはブリタニアの手に落ちていないと思っているようだが、もうすでにギアス嚮団によって占拠されているとは知らないらしいな。
・・・教えておくべき、なのだろうか)
マグヌスファミリアは現在、中華連邦の遺跡を渡すまいとして親ブリタニア外交を阻止すべく中華連邦でも活動しており、C.Cが中華連邦へ交渉しに行った際にも使者として赴いていたアルカディアの母・エリザベスと会った。
既にエトランジュから連絡を受けていたのか、いろいろと親切に話をしてくれたがコード所持者については話せないと申し訳なさそうだった。
「どうした、C.C?」
「いいや、別に・・・それより、腹が減った。ピザだピザ」
まだ食う気か、と呆れ果てたルルーシュをよそに、C.Cは話さなかったことにもやもやした気分を持ったことに苛立ち、それを振り払うかのようにピザのメニューを頭に思い浮かべた。
「ブリタニア帝国宰相シュナイゼルを襲撃、か!最近黒の騎士団もでかいことばっかするよなあ!」
玉城がうきうきと弾んだ声で言うと、藤堂が気を引き締めるように低い声で牽制する。
「コーネリアを半殺しの目にしたせいで、護衛も彼女の数倍は配置されているそうだ・・・油断するなよ」
「うっ・・・へいへい、解ってますよ」
「今回の目的は、シュナイゼルを抹殺することにある!!
あの男の抹殺が叶えばブリタニアは頭脳をもがれたようなもの、我らが悲願であるブリタニアの滅亡に大きく近づくことになろう!!」
久々にゼロとして衣装をまとい団員達の前で演説をするルルーシュは、潜水艦の中で作戦を説明する。
「あの最新鋭浮遊航空艦アヴァロンにシュナイゼルは搭乗しているが、あれは母艦の動きのみならず最新鋭のミサイルを装備、防御力も侮れたものではない。
だがそれは、あくまで“空に浮いている場合”のことだ」
「なるほどね~、あんなバカでかいもので来たら居場所がバレバレってことだから、基地に着陸したのを見計らって襲いましょうってことか~」
間延びした声で了解したのは、ラクシャータであった。
大きなものほど飛び立つ時多大な時間とエネルギーが必要であるなど、基本中の基本である。
基地に着陸した状態なら、ミサイルも使えないのだ。後はそのままアヴァロンを壊すなり、基地に避難したシュナイゼルを抹殺するなり策はいくらでもある。
「そういうことだ・・・まずアヴァロンが到着したことを確認次第、各部隊で式根島基地を襲う。
カレン、君にはおそらくその時に邪魔に入るだろう白兜を相手にして欲しい」
「はい、ゼロ!しかし、その・・・そっちはどう対処すれば」
「・・・出来れば生かしたままが望ましいが、あの枢木ではそうもいかないだろう。
君の命が危うくなれば、その場合は・・・始末しろ」
「はい、解りました!」
カレンが了解すると、横で藤堂が出来うることなら捕虜にして説得したいと考えていた。
あの弟子は、昔から感情で突っ走ることが多かった。今回も本人的には考えて出した末の結論でも、短絡的な思案の末だろうと予想している。
しかしそれを口にすれば、軍事総責任者である己が私情で動くのは困ると非難される。そしてそれは組織にとって良くないことだと理解しているため、口には出せなかった。
「シュナイゼルを抹殺に成功すれば、即座に撤収だ。後は予定通り地方に散って後方支援組織作りに戻る・・・以上だ」
各自が作戦展開のために散っていくのを見送りながら、ルルーシュは複雑な気分になっていた。
己の口から、親友を始末しろという台詞。
決して仲が悪いわけではなかった異母兄を殺し、異母姉を意識不明の重体に追いやり、仲が良かった異母妹を追いつめ、そして親友を殺す。
何と呪われた人生だろう。ここまで来たら、いっそ笑いたくなる。
だが、それでも修羅の道を行くと決めた。最愛の妹のため、そして自分のためにだ。
「スザク・・・俺は俺の道を行く。だから、お前もその道を行け」
あの白の皇女を選んだのは、スザクだ。何度も手を差し伸べたのに、選んだのは奇麗な夢を語るお姫様だ。
綺麗な夢を見たまま、そのまま永遠の眠りにつかせてやるのもいっそ親友のためかもしれない。それが自分に対する言いわけだとしても。
ルルーシュはそう決意すると、自分も作戦のために己の機体へと足を向けた。
「ルルの目的はさー、シュナイゼルの抹殺および、神根島みたいだね。
あれさえ手に入れられれば、自由に中華連邦とイギリスの行き来が出来るようになるって言ってたよ」
「それが目的か・・・確かにアシが着くことなくEU、中華、日本を往来出来るのは助かるからな」
ゼロの私室を陣取ったC.Cは、マオが差し出したピザを食べながら思案に耽る。
イギリスはともかく、中華連邦の遺跡はすでにブリタニアの手に落ちている。式根島の基地が落ちれば割と神根島へは自由に立ち入りが出来るだろうから、作戦成功時には教えてやるとしよう。
(お前をあのV.Vの手にやるわけには、いかないからな。いや、作戦の成否に関わらず、ギアス嚮団については教えた方が・・・)
「僕もこのギアスとおさらばしたいし~、作戦成功してあの島手に入れたいよね」
見違えるほど明るくなったマオを見て、C.Cは薄く笑みを浮かべた。
それなりに大事に思っていた養い子と根気よく向き合ってくれたエトランジュに、C.Cはこれでも感謝している。
マグヌスファミリアは長年コードを消す研究をし、コードを代々受け継ぐのは慣習だと聞いている。
このままエトランジュ達に協力し、ブリタニアを倒してその研究が成ることに協力する方がいいのかもしれない。
もしその研究が成らなくても、自分のコードをその慣習で無理なく継いで貰えるように頼んでみようか、とC.Cは思った。
「あ、C.C、エディからだよ」
「なんて言っているんだ?」
ギアスが効かないC.Cは、エトランジュからの連絡もマオを介さなければ伝わらない。
そしてマオはエトランジュに懐いているから、人を繋ぐギアスのリンクを切ることなく今に至っている。
「式根島基地をルル達が襲撃したってさー。シュナイゼル・・・殺せるといいね」
「そうだな・・・だが、うまくいけばいいんだが」
C.Cはそう呟いて、最後のピザを口に含んだ。
「いらっしゃいませ、シュナイゼルお兄様。エリア11へようこそ」
「やあ、久しぶりだねユフィ。最後に会った時より、ずっと美しくなって・・・すっかりレディの一員だ」
最新鋭浮遊航空艦アヴァロンのタラップから降りてきた金髪の青年・・・神聖ブリタニア帝国宰相のシュナイゼル・エル・ブリタニアはにこやかな笑みを浮かべて出迎えた異母妹の手を取り、その手の甲にキスをする。
「エリア11の副総督として、よくやっていると聞いているよ・・・コーネリアのこともね」
シュナイゼルは前日になってダールトンから護衛の増強についての連絡があり、その理由としてコーネリアがテロに遭い重体、加えてスパイの可能性があることを聞いていたのだ。
「お兄様・・・お姉様が、その」
「いいんだ、大丈夫だよユフィ。私がエリア11にいる間は手を貸してあげるから。
心配せずに、エリア11のことにはまだ詳しくない私を補佐してくれないかな?」
「はい、シュナイゼルお兄様」
ぱあ、と明るい表情で頷くユーフェミアは異母兄の手を取ると、まずは基地内へ入ろうとする。
「お疲れでしょうから、まずはご休憩をお取りになって下さい。お話はその時に・・・きゃっ!」
突然に響き渡った轟音に、シュナイゼルは目を鋭く光らせた。
「ユーフェミア様!」
とっさにスザクはユーフェミアを庇うべく彼女の身体を覆うと、シュナイゼルは冷静に分析する。
「まさか、本当に来るとはね・・・このタイミングで仕掛けてきたとなると、租界へ戻るのはかえって危険かもしれないね」
「は、広範囲にわたってジャミングがかけられております!」
「やはりね・・・では、そのままテロリストを迎撃してくれたまえ」
「イエス、ユア ハイネス!くそ、黒の騎士団か?!」
ブリタニアの軍人が散っていくのを見て、シュナイゼルは無表情に考えた。
確かに目立つアヴァロンで来たから要人が来たことは解るだろうが、襲撃のタイミングが早かったことから見ても、あらかじめ自分の訪問を知っていたと見るべきだろう。
(なるほど、ダールトン将軍の言うとおりこれはスパイの線が濃厚だね・・・それも、上層部に近いところで)
その線に一番近いのは目の前でユーフェミアは自分が守りますと息巻いている名誉ブリタニア人の騎士だが、彼にはいまだ携帯電話の所持が認められていない上、ずっとユーフェミアの傍にいたと聞いている。
何より彼ではあからさまに疑ってくれと言わんばかりの人間なので、スパイとしては向いていない。
(スパイでないなら、今から向かう遺跡の人間に不思議な力を与えるもの・・・なのかなこれは)
父であるブリタニア皇帝が何やら怪しげな研究をしていると聞いて自分でも内密に調べているが、リアリストの自分は全く信じてはいなかった。
しかし、クロヴィスもまた熱心に調べていたとあっては、本腰を入れて調べる気になった。事実、遺跡を中心に侵略をしていることは、シュナイゼルも知っていたからだ。
「いいえ、スザク。貴方は司令部の救援に向かって下さい」
「駄目です!自分はユーフェミア皇女殿下の騎士です。貴女をお守りする義務があります。
副総督の貴女が、テロの対象なのかもしれないのですよ!」
コーネリアがあんなことになったのだ、狙いは副総督のユーフェミアであってもおかしくない。
本来、騎士が仕える主の命令に異を唱えるなど許されることではない。
しかし、今回はスザクの言っていることのほうが正論の上、名誉ブリタニア人とはいえイレヴンに助けられたくはないというプライドもある。
そのため、周囲の軍人は一斉にスザクに同調した。
「そのとおりですユーフェミア皇女殿下。どうか騎士と共に我々と避難を」
「司令部は管轄にお任せを!ささ、殿下・・・シュナイゼル閣下も、お早く!」
その様子をじっと見ていたシュナイゼルだが、飛び込んできた伝令に唇の端が上がる。
「黒の騎士団です、殿下方!ゼロが現れました、すぐにこちらから退避を!!」
「やはりそうか・・・ロイド伯爵、確かあそこのエースナイトメアと互角にやり合ったのは、ランスロットだけだそうだね?」
「そうですよ~、シュナイゼル殿下。僕のランスロット以外は、みぃーんなやられちゃいました。あっちは白兜とか呼んでるみたいですけど」
センスないですよねー、と方向性の違う不満を口にするロイドを無視して、シュナイゼルはスザクに向かって言った。
「なら枢木少佐、私からもお願いしたい・・・ゼロを捕縛して欲しいのだが」
「しかし、シュナイゼル殿下・・・それではユーフェミア皇女殿下が」
「幸い、通常よりも多い護衛部隊がこの場にいる。だけど、あの黒の騎士団に黒星を与えているのは君のランスロットだけだ。
ゼロを倒すことはユフィを守ることにもなる・・・君にしか出来ないことだ」
ブリタニアの口先の魔術師とでも名付けたくなるほどの口のうまさである。
スザクは自分が帝国の宰相閣下に期待されていると思い込んで感激し、ちらっと主君を見ると彼女も笑顔で頷いた。
「お行きなさい、スザク。ここで貴方の力を示すのです。そうすればいずれ雑音も消えるでしょう」
「イエス、ユア ハイネス!」
イレヴンごときが宰相閣下から直接命令を拝するとは、とブリタニア軍人は悔しがったが、それを口にすることは皇族批判に繋がるために黙っている。
スザクがランスロットのキーを握りしめてその場から立ち去ると、改めて二人の皇族に避難をするよう進言する。
「ああ、では君達はユフィを頼むよ。私は少し、用事があるのでね」
「は・・・しかし」
軍人が尚も食い下がるが、シュナイゼルに笑顔で見つめられて口を閉じる。
「かしこまりました。では、ユーフェミア皇女殿下」
「はい・・・お兄様もお気をつけて」
ユーフェミアが素直に護衛部隊を引き連れて立ち去ると、ロイドはぽつりと呟いた。
「あれ、絶対何か企んでるよね~」
「ロイドさん!」
セシルが慌てて止めようとするが、ロイドは飄々としたものだ。
「僕とあの方とは学生時代からの付き合いだからねえ・・・ある程度は解るさあ~」
「企むとは人聞きの悪い。ただ、私は私の仕事をするだけだよ」
シュナイゼルは不敬に値するロイドを咎めもせず淡々とした口調で言うと、アヴァロンに視線を移した。
基地を破壊し尽さんとばかりに盛大に大暴れをする紅蓮にワイヤーを投げて邪魔をしたのは、白兜ことランスロットだった。
「来たか、ブリタニアの走狗があぁっ!!」
カレンはそう叫ぶとロープを避け、紅蓮の腕で攻撃する。
「ここで決着をつける!と言いたいけど、目的は白兜の足止め・・・難しいけど、ゼロの命令よ!」
「ゼロ・・・ゼロはどこに?!」
紅蓮の相手をしながらも、命令であるゼロの捕縛のために彼の姿を追うが、彼の乗っているナイトメアがどれかはスザクには判別できない。
ルルーシュはナイトメアの腕は悪くはないのだが、前線に出て指揮を執っているために常に的になり、そのたびにナイトメアを破壊されているのでその都度交換を余儀なくされているせいだ。
「言う訳ないでしょ!弾けろ、枢木 スザクっ!!」
紅蓮の腕がランスロットを襲うが、スザクはそれを避けて剣でなぎ払う。
「く・・・お前よりもゼロだ・・・ゼロを捕まえなければ、ユーフェミア殿下の安全が・・・・」
「へぇー、あのお姫様がそんなに大事なんだ?安心しなよ、こっちの狙いはあのお飾りより帝国宰相だから!」
カレンが接近戦でランスロットを抑え込もうとすると、スザクはそれを紙一重ですり抜ける。さながらナイトメアで、ワルツでも踊っているかのようだ。
「シュナイゼル殿下を?!許さない!」
「あんたに許して貰おうなんて思っちゃいないわよ!この日本の裏切り者があっ!」
「君達こそ、そのテロ行為が日本を壊していくことだと気づかないのか?!ブリタニアだって従順で優秀な者は、こうして僕のように取り立ててくれる!
無意味なことはやめるんだ!ルールに従わないと、いい結果は得られない!!」
「ブリタニアのルールに従えって?!まっぴらごめんね!」
紅蓮でランスロットの頬を殴り倒したカレンは、この男の脳味噌が何で出来ているのか知りたくなった。
従順に暮らしている租界近くのゲットーに住む者がどんな目に遭っているか、知っているのだろうか。
「あんた馬鹿?!今までどこ見て生きてたのよ!!
従順に暮らしていたってね、不都合が起きると私達を平然と使い捨てにするのがブリタニアなのよ!!
今のゲットーがどんな状態か、あんたほんと知らないのね」
「な・・・なんだって・・・?」
「どうせブリタニアに逆らう私達が悪い、ブリタニアは悪くないって正当化するってゼロが言ってたから教えてやらないわよ!
日本人はあんたに何も期待してないわ!期待しているのはあんたの飼い主だけよ、せいぜい大事にすることね!!」
そう、大半の日本人は既に黒の騎士団の方に期待の目を向け、スザクには関心がなかった。
ちなみにスザクに希望を見出しているのは、名誉ブリタニア人として出世し、より多くの給料と安全を得たい日本人ぐらいなものである。
「いいんだ、それでも・・・僕は僕のやり方で、日本を守る!!
この国を安全に・・・そして平和にしてみせる!!」
スザクはそう叫ぶと、紅蓮に向かって強化型スラッシュハーケンを撃ち放つ。
カレンはそれを輻射波動で相殺し、ランスロットの足止めに専念するのだった。
同時刻、そのやり取りを聞いていたルルーシュは自らのナイトメアである月下で呆れた溜息をついていた。
(あのバカ・・・日本の何を守りたくて戦っているんだ)
日本人が誇り、尊厳、権利の全てを捨て去れば、確かに奴隷の平和と言う名の安全は得られるだろう。
互いに造反者が出ないように監視し合いブリタニアのために働けば、ブリタニアも便利な道具をわざわざ壊すような真似はすまい。
しかし、それだけだ。ただ生きているだけの人生に、何の甲斐があろう。
ルルーシュはかつて、己を産み出した人物から生きていないと言われた。死んでいるのだ、とも。
だから、生きてやろうと思った。何が何でも生きて、ナナリーと共に幸福になる。
人は生きるために生きるのではない。幸せになるために生きているのだ。
「そのためには、ブリタニアが邪魔だ・・・世界を戦争に導いている国のために戦っている身で平和を語っても、誰もついてこないんだよ」
いっそ憐れみすら含んだ口調でそう呟くと、鉄壁の防御力を持つアヴァロンが発艦準備を行っているのを見てそこにシュナイゼルが乗り込んだかと思ったが、ラクシャータが言うには発艦には最低でも30分は必要のはずだ。
「違うな・・・それは囮だ!アヴァロンにシュナイゼルは乗艦していない!」
ルルーシュは自身で作ったプログラムでブリタニアの通信を傍受しており、シュナイゼルがユーフェミアと別れていることを知っている。
とすればシュナイゼルは別方面に回り、基地ごと自分達を葬る。母艦はアヴァロンだけではないのだから。
「ユフィを避難させたのも、そのためだな。スザク一人で黒の騎士団を葬れるのなら、安すぎる代償だ」
ルルーシュはそう吐き捨てると、高速で基地ごと自分達を葬ることが可能な場所を割り出し、さっそく全軍に指示を出した。
「全軍に通達する、速やかに基地から離れろ!シュナイゼルは基地ごと我々を葬るつもりだ!!」
「マジかよ!やべえ!!」
ランスロットにやられて脱出ポットで逃げた玉城が、悲鳴を上げる。
「だが、シュナイゼルの居場所は割り出した!東の砂浜にある母艦、ブリタニア海軍航空母艦にいる。
奴が策に気づかれたと悟る前に、その空母艦ごと葬り去れ!!」
「承知!!」
あの場所からなら、森などに遮られることなく基地にミサイルを発射出来る。
ルルーシュは短い時間でそう分析すると、己もシュナイゼルを討つべく東の砂浜へと向かうのだった。
東の砂浜にあるブリタニア海軍航空母艦に乗艦していたユーフェミアは、基地から黒の騎士団が撤退していくという情報を聞いてモニターに目を向けると、まっしぐらに向かってくる黒の騎士団のナイトメアの群れが視界に入った。
「あれは・・・黒の騎士団?!ユーフェミア様、早くこの場から撤退を!」
「駄目だ、間に合わない!くそ、やつらユーフェミア皇女殿下が目的か?!」
「わたくしを・・・ゼロが・・・」
一瞬青ざめたユーフェミアだが、すぐに毅然とした態度で通信機に手を伸ばして言った。
「黒の騎士団の皆さんに申し上げます!わたくしは神聖ブリタニア帝国第三皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニアです!
ゼロと話がしたいのですが、ゼロはそこにいますか?」
「ユフィ?!なぜお前がそこにいる?!」
ルルーシュはシュナイゼルがいると判断した場所にユーフェミアがいることを知って唖然とすると同時に、これがシュナイゼルの策であることに気づく。
「ち、ユフィは囮か!!くっ、あいつはどうでもいい・・・シュナイゼルはどこだ?!」
「おい、あそこにいるのはユーフェミア皇女のようだぞ。どうするんだゼロ!」
藤堂に指示を仰がれたルルーシュは、舌打ちしつつも撤退をすることにした。
シュナイゼルの居場所が解らない以上、このままやみくもに探すことは危険だ。また、長い間ここに留まればユーフェミアごと葬られかねない。
「やむを得ない・・・撤退だ!シュナイゼルを探していれば、こちらの戦力が削られる。
小さいとはいえ基地を使い物にならなくした戦果はあった・・・これで良しとよう」
「寡兵の弱みだな・・・仕方ない、撤退だ!ルート4を用いて全軍速やかに撤退せよ!」
黒の騎士団は純粋の軍人が少なく、軍隊としてまだ未熟といっていい。
そのためゼロの軍略に一糸乱れぬ正確さで従い、また短時間で作戦を遂行しなければ成果が得られないという弱点があった。
「ここまで来て・・・!けど確かに探している時間はないね。二番隊撤退!」
「続けて三番隊も戦場を離脱!」
次々に式根島から撤退していく黒の騎士団を見て、ブリタニア海軍空母にいた軍人達は大きく安堵の息を吐く。
「奴ら、ユーフェミア様のご威光に恐れをなしたようですな。次々と逃げていきますぞ」
実際はここにいるのがシュナイゼルだと勘違いしただけで、いたのが殺しても何ら益のない皇女だから撤退したのだとその場にいたブリタニア軍人ですら悟っていたが、彼らはそう言って嘲笑う。
ユーフェミアはせっかくゼロと話し合おうとしたのに、自分の言葉に何ら反応を返してこないゼロに悲しくなった。
(ゼロ・・・わたくしは戦いたくないの。話し合いで解決したいのです)
それを伝えれば、無益な戦いなどしなくてもよくなる。
正義の味方とリフレインの取り締まりや犯罪組織を潰している彼なら、きっと解ってくれる・・・そしてゼロがあの日優しい言葉をかけてくれた彼だったなら、喜んで手を取ってくれるはずだとユーフェミアは信じた。
「待って、ゼロ!わたくしは貴方と話がしたいのです。無益な戦いはやめて、わたくしと話をして下さい!」
「ユーフェミア皇女、私も暇ではありません。
それに、日本を奪い返すための戦いを無益とはさすがブリタニアの皇女殿下、国是に従った見事なお言葉です」
ナンバーズはブリタニア本国人に従うべきだという国是からすれば、確かに全く無益以外の何ものでもないだろう。
苛立ちを隠した声でそう皮肉を返してきたゼロに、ユーフェミアはそんなつもりで言ったわけではないと首を振る。
「違います!そういう意味ではなく、殺し合うより話し合いで解決したいと思って!」
「話し合い?ナンバーズを虐げてきた貴方がたが、我々と何の話し合いをしようというのですか?
もともと不当に日本を占拠したのはブリタニアだ・・・我々はそれを奪い返そうとしているだけですよ。ああ、失礼、ブリタニアはそれがおかしいからやめろと、そうおっしゃりたいのですね解ります。
・・・貴様らの都合など知ったことか!!いい加減にお前の身勝手な願望を押し付けるのはやめろ、ユーフェミア!!」
話しているうちに苛立ってきたルルーシュの怒鳴り声に、ユーフェミアはびくりと肩を震わせた。
「わ、わたくしはただ・・・!」
「では伺おうか・・・お前は副総督として就任してから、日本人に対して何をしてきた?」
「な、なにをって・・・わたくしはまだ何も」
「そうだ、お前は何もしていないだろう?日本人は未だに移動を規制され、住居を規制され、結婚を規制され、就職や起業に関する事まですべて規制されている。
お前が来て何ヶ月も経つが、日本は何も変わってない・・・お前がやったことはたった一つ、枢木を騎士にしただけだ!それで日本人の生活がどうにかなるとでも思ったのか!」
ユーフェミアはその指摘を聞いて、大きく眼を見開いた。
(せい、かつ・・・日本人の生活・・・わたくしはそれをよくしたくて・・・)
ユーフェミアの脳裏に、スザクと共に見た荒れ果てたシンジュクゲットーが蘇る。
崩れたビルに、疲れ果てて座り込む日本の人々。
数少ない食料を分け合い、また奪い合う者達。自分はそれをどうにかしたいと、ずっと考えてきたつもりだった。
「ですから、皆さんと一緒に日本をよりよくしていこうと・・・」
「ほう、ブリタニアが資金、資材、人材、決定権の全てを保有しているのに、あえて我々に働けと?つくづくブリタニア皇女らしいお考えだ」
「あ・・・!」
さらなる指摘を受けて、ユーフェミアはゼロの怒りの理由にやっと気がついた。
そう、ブリタニア植民地において何かをする場合、必須なのはブリタニアの許可と協力なのだ。
まず資金をユーフェミアが予算から出して資材を揃え、さらにゲットーの開発やそれに伴う法律の整備、開拓を終えるまでの生活環境の整備、それらを行って初めて『皆さんと一緒に日本をよりよくしていきたい』という言葉に説得力が伴うのである。
何もないところで高みから見下ろし『日本をよくするためにわたくしに協力して下さい』と言うのでは、ただの命令以外のなんだというのか。
「お前はただ、自分の優しい言葉で己を飾って満足しているだけだ!
夢を見て理想を語れば、それが現実化するとでも思ったか!!」
「・・・そんな、そんなつもりじゃ・・・」
ユーフェミアは泣きそうな声で、へなへなと床に座り込む。
「そんなつもりなどなくても、日本人から見たお前はそういう人間だ・・・そろそろ“他人から自分がどう見えているか”を知ったらどうだ?
さもないと、他人に利用されて終わるだけだぞ」
最後の言葉は、先ほどの台詞より穏やかな口調だった。そして憐れみと忠告の色が塗られていることを、ユーフェミアはぼんやりと感じ取る。
「たとえば、こんな風にな・・・上を見てみろ」
ゼロの台詞に不審に思った空母のレーダーを操作したオペレーターが、青い顔で報告した。
「ユーフェミア様!そ、空に飛行物体が・・・ミサイルの発射準備を確認!」
「え・・・?それはどこの・・・」
「断わっておくが、黒の騎士団ではないぞ。まだ全員撤退出来ていないのに、こんな馬鹿げた真似はしない」
ユーフェミアはオペレーターに視線でどこに所属している飛行物体か調べるように言うと、それはすぐに判明した。
「我がブリタニアに登録されている機体です!シュナイゼル殿下の・・・」
「シュナイゼルお兄様の?」
「やはりな・・・これがブリタニアだ、ユーフェミア皇女。
我々は離脱します。貴女も助かるといいですね」
そしてせいぜい、シュナイゼルの“君を巻き込むつもりはなかった”という嘘に騙されていればいい。
(綺麗なものを見続けていたいお前には、シュナイゼルの方がお似合いだ)
「では、お互いに生きていたらいずれ戦場でお会い致しましょう」
ルルーシュはそう皮肉っぽい口調で言い捨てると、己も離脱すべく月下を動かす。
だがそこへ現れたのは、左腕をもがれたランスロットだった。
ランスロットは残った右腕でルルーシュの月下の首元をロックし、そのまま抑えつける。
「白兜・・・スザクか!!」
「ゼロ・・・お前を捕まえた!!」
「そんなことを言ってる場合か!貴様も巻き込まれるぞ枢木!!」
「お前を捕まえろと命令されている・・・!軍人は命令に従わなければならないんだ!」
「フン!その方が楽だからな!人に従っている方が!」
「うっ」
「お前自身はどうなんだ!」
「違う!これは俺が決めた俺のルール!!」
自らに言い聞かせるかのように叫ぶスザクに、ルルーシュはこのバカがと思う余裕もなくスザクを振り払おうとするが、相手が破損しているにも関わらず振りほどけない。
「この、ブリタニアの犬があっ!ゼロを放せ!!」
カレンが操る紅蓮が乱入すると、スザクに向かって号乙型特斬刀で斬りかかる。 既にランスロットとの激戦で欠けていたために威力は低いが、それでもなんとかルルーシュは離脱に成功した。
「助かったぞカレン!全力でこの場から退却する!!」
「いえ、私はゼロの親衛隊ですから!では、私が!」
紅蓮がランスロットに向き合うと、既にミサイルはルルーシュ達に向けて照準が合わさっている。
シュナイゼルが乗艦しているのは、アヴァロンの小型版のような浮遊航空艦であった。
ダールトンからコーネリアが襲撃され、それがスパイによる情報漏洩による可能性が高いと聞いたシュナイゼルはアヴァロンの他にもう一機別の浮遊航空艦を用意させており、ユーフェミアと別れた後上空で待機させていたそれに乗り換えたのである。
アヴァロンより威力も防御力も劣るが、それでもナイトメア数機を葬り去る程度のことは十分可能なのだ。
「シュナイゼル兄様・・・!スザクごとゼロを・・・?」
ユーフェミアは青ざめた顔でそう呟くと、慌てて海軍航空母艦の外に飛び出した。
「ユーフェミア殿下、何を?!外に出ればミサイルの衝撃が来ますぞ!どうぞ中へ!!」
「シュナイゼル兄様にお伝えなさい!わたくしが巻き込まれる危険があると!!それでも発射命令を出せますか?!」
「あのような騎士など、いくらでも代えがおりましょう!わがままも大概になさって頂きたい!!」
不敬罪に問われかねない台詞だが、周囲も同感だったらしい。誰からも咎める声は上がらなかったが、ユーフェミアはそれを無視してスザクの元へ向かおうとする。
背後で合流したセシルがユーフェミア様なら、と希望を見出すが、ロイドは諦めた表情で『駄目じゃないかな・・・それでも』と溜息をつく。
案の定ユーフェミアの言葉を伝えられたシュナイゼルだが、あっさりと“それは私がミサイルを発射した後に聞いたことにするよ”の台詞の元に切り捨てた。
そしてその手を振り下ろし、ミサイルを発射する。
「接近するミサイルを確認!」
「ええい・・・!全ナイトメア、飛来するミサイルに弾幕を張れ!全弾撃ち尽くしても構わん!!」
藤堂の指示に退却し遅れたナイトメアがゼロを守るべく弾幕を張るが、それでも防ぎきることは不可能だった。
「このままではお前も死ぬ!本当にそれでいいのか!!」
「枢木少佐、これは無駄死にではないぞ!
国家反逆の大罪人・ゼロを確実に葬ることが出来るのだ!
貴公の功績は後々まで語り継がれることとなろう!」
「黙れぇぇぇっ!!」
通信を傍受したルルーシュは絶叫するが、スザクは苦渋に満ちた顔で言った。
「く・・・ルールを破るよりいい!!」
「この、解らず屋があっ!!」
ルルーシュはスザクの説得を、完全に断念した。これほど言い聞かせても、捨て駒にされてもなおそれでいいというなら、もはや何を言えばいいというのか。
「もういい!!お前とともに新たな日本を見たかったが・・・残念だ。もう、二度と言わない」
「ゼロ・・・?」
「さらばだ、スザク」
ファーストネームだけでそう別れの言葉を告げると、カレンに向かって指示する。
「カレン、紅蓮がそのざまでは脱出は無理だ。既にエトランジュ様に救護の準備を依頼してある!脱出装置を作動させろ!
他のメンバーはナイトメアで脱出ポイントまで退却!私も追って脱出する」
今回の作戦にマグヌスファミリアの一行が参加しなかったのは万一の事態に備えた救護のためか、と一同は納得し、それならばと藤堂達は一目散にミサイルを避けて退却していく。
「さすがゼロ・・・紅月 カレン、脱出します!!」
カレンが脱出装置を作動させてコクピットが放出され、海へと吸い込まれていく。
「あ~あ、あとで紅蓮を回収しなくっちゃね」
通信を聞いていたラクシャータは残念そうだが、あの攻撃ではブリタニア軍も退却しているだろうから、その隙をついてなんとか回収するしかない。
続けてゼロも月下から脱出装置を作動させると、彼もまた海へと飛んで行った。
「ゼロ・・・!!逃げるな!」
スザクがそう叫んだ刹那、ミサイルが付近に着弾した。
響き渡る閃光と轟音・・・そして、スザクの思考が黒く染まる。
(スザク・・・!まだ死んではなりません!)
そう念じながら甲板にあったナイトメアにまさに乗ろうとしていたユーフェミアも、爆風をもろに食らって海へと落ちて行った。
「ここは・・・・?」
「気がつきましたか、ゼロ」
気を失っていたルルーシュが目を覚ますと、視界に飛び込んで来たのは金髪に青い目を持つエトランジュの心配そうな表情だった。
「エトランジュ、様・・・ここは・・・」
「神根島ですよ。貴方を回収した後、一番近い島がここでしたので・・・今アルカディア従姉様とクライスが、カレンさんを探しに行きました」
ルルーシュがエトランジュ達に会った際に依頼したのは、ミサイルなどを撃たれて退却に失敗した仲間を救護する事だった。
水中に潜れるイリスアーゲートはまさに適役で、何よりエトランジュ達が慌てて海中に仲間を助けに向かう予知が来ていたことを聞いていたためである。
この予知のお陰で慌てることなく速やかに救助に動いたマグヌスファミリアの一行は、すぐにルルーシュを回収することに成功した。
次にカレンを救助すべく、ルルーシュをエトランジュと護衛のジークフリードに任せ、アルカディアとクライスは再びイリスアーゲートで探索に出たのである。
「そうですか・・・お世話をおかけして、申し訳ありません」
「いいえ、仲間ですから。お気になさいませんよう・・・あ、これお飲みになりますか?」
エトランジュが温かいスープが入ったマグカップを差し出すと、ルルーシュは礼を言って受け取った。
「今、周囲にブリタニア軍がいるんです。何でもユーフェミア皇女がミサイルの爆風に巻き込まれて飛ばされたとかで」
「またあいつか・・・!探索が減る頃を狙って、脱出するしかないということか」
「一応通信で外部と連絡はとれますから、力ずくでの脱出も可能かと」
エトランジュの提案にそれもあるかとルルーシュは策を巡らすが、目覚めたばかりで脳がうまく働かない。
と、そこへエトランジュが冷静な口調で言った。
「それに、ゼロ。こんな手もありますが、いかがなさいますか?」
「こんな手、とは?」
ルルーシュが尋ねると、エトランジュは先に脱がせて乾かしていたゼロの仮面を差し出して被るように促してきた。
それに不審を感じたが、彼女が無駄なことをさせる性質ではないことを知っているルルーシュは素直にそれを被ると、エトランジュが言った。
「ジークフリード将軍、あの方をこちらへお連れして下さい」
「はい、レジーナ様」
レジーナとはエトランジュの偽名で、EU圏の言語では女王を意味する単語である。
岩陰にいた軍服をきっちり着込んだジークフリードが連れて来た人物を見て、ルルーシュは目を見張った。
「・・・・!!!」
いちおうの手当てはされたのか、豪奢なドレスは脱がされてその身体は毛布にくるまれ、包帯が右手に巻かれた痛々しい姿で現れたのは、自らの異母妹であるユーフェミア・リ・ブリタニアであった。