気がついた時には遅かった。
キュルケの誘惑やハゲの相手をしていたせいでタバサを少しの間だけ放置してしまった。
そして、タバサの部屋に行ったときには部屋は抜け殻だった。
困った時のゲルマニア人。
俺はキュルケ部屋で事情を話した。
ミョズニトニルンと名乗る謎の露出狂の女に襲われたこと。
タバサが俺を襲ってきたこと。
キュルケ考え込む仕草を見せた後答えた。
「まったく……。あの子ったら、何にも言わないんだから。ほんとに水臭いわね」
「タバサにはタバサの事情があるんだろ。それより、助けにいかないとなぁ」
キュルケは真剣な顔つきになる。
「サイトは、タバサがただの貴族じゃないってことに気づいてる?」
「ガリア人ってのは知ってるな」
「あの子はそのガリアの王族なの」
「な、なんだってー(棒読み)」
キュルケはタバサの事を説明してくれた。
現国王の弟であったタバサの父親のオルレアン公が、現国王派に殺されたこと。
タバサの母親は、タバサをかばって毒をあおぎ、心を病んでしまったこと。
そして、厄介払いでトリステインに留学させられたこと。
「そんな仕打ちをしておきながら、面倒な事件が起こると、あの子に押しつけるのよ」
火のような怒りが浮かぶ。
キュルケは怒らせたら笑顔で人を刺すタイプだなぁ。
気をつけよう。
「ということは、ラグドリアン湖のも今回の事も命令ってわけね」
キュルケが頷く。
さて、どうやって助けだすかな。
ハゲのフネはゲルマニアのモノだからアレで動くとガリア VS ゲルマニアの大戦争になるな。却下。
ゼロ戦で行くとしても乗れるのが二人。ルイズと俺で行くとして、タバサの母親をさらった軍隊がたしか三百人くらいいたはず。それプラス、エルフとの対決。二人じゃ無理だね。却下。
やはり、姫様にシュヴァリエを叩き返して逃亡するのがいいだろう。嫌がらせにもなるし。
もともとシュヴァリエなんて称号なくても困らない。
考え事を見抜かれたのかキュルケが話しかけてきた。
「そのうち連絡がくると思う。動かないほうがいいわ。今は信じて待ちましょう」
キュルケは、窓の外を見つめて言った。心底、信じきっているといった声で。
だが、今回は放っておいたら帰ってこない。エルフ特製の薬を飲まされるからな。
アンリエッタ嫌がらせのための計画を立てるか、少し待っててくれタバサ。
「ルイズに話していいか?」
エルフの対策としてルイズの虚無が必要だ。
「話したほうがいいでしょ。あの子も、巻き込まれてるんでしょ? 参っちゃうわよねえ、伝説の担い手なんかになっちゃうと……。あのヴァリエールには荷が重すぎるわ。〝虚無〟なんてねぇ。まったくねぇ」
「なんで知ってる?」
キュルケがルイズの虚無を知るはずない。
ウェールズイベントなかったし、ルイズが虚無を使ったところを見せたわけでもない。
「コルベール先生がサイトが伝説のガンダールヴだって口を滑らせたわ。そこで調べたら"虚無"に突き当たったわけ。それに、ルイズの四系統じゃない爆発する魔法。〝虚無〟じゃないかって……。サイトの態度を見るに、当たりだったみたいね」
ハゲェエエエ。
キュルケはにやっと笑っていた。
SIDE:アンリエッタ
不気味だった。ルイズの部屋で昼食をとると言ったのだが、そしたら、サイトさんが料理を振舞ってくれるというではないか。
部屋には大きなテーブルが用意され、そこにルイズ、ギーシュが座っている。
給仕役はシエスタ。
私は不気味に思う。
料理は食べたことないものが多かったがそれ以上に美味しかった。
わざわざ、私の為にサイトさんが作ったのだ。
ギーシュさんの話に耳を傾けながらも私は考える。
なぜサイトさんが料理を振舞ってくれたのか。
タダの料理自慢だろうか。
すると、扉が開いて、神妙な顔のサイトさんが入ってきた。
「お口に合いましたか? 最後はルイズの好物です」
不気味に感じる原因の一つとして丁寧な言葉づかい。
さらに執事のような態度。
ルイズもギーシュさんもメイドも気にする様子がなく普通にデザートのクックベリーパイを食べている。
私も一口食べた、王宮のデザートより美味しかった。
「アンリエッタ女王陛下」
「なんでしょう?」
美味しいものを食べて、つい、気が緩んでしまった。
「俺を襲った連中の正体がわかりました」
話を聞くと、ガリア王国の仕業だという。
タバサという子は命令でサイトさんを襲った。
なるほど、さっきからの態度は私にガリアに行くことを了承させるための行為か。
「サイトさんはガリアに行きたいと?」
「まあな」
ギーシュさんが驚いた声をあげた。
「ガリアに乗り込むだって! おいおい、戦争になるぞ!」
「なに、隠密に行動するから大丈夫。アルビオンの時もなんとかなったろーが。だからお前はヘタレなのだ!」
ギーシュさんがビクリとなった。
彼を連れて行く気だろう。しかし、今では彼らはトリステインの騎士。
国際問題になる。なにかと行動が目立つサイトさんもきっと大問題を起こすに違いない。
「とりあえず、わたくしにお任せください。何か証拠になるものはあったかしら……」
「ガーゴイルの破片がある」
ドンッとテーブルの上に破片がおかれた。
「それがガリアで作られたものだと証拠を得たら、大使を呼んで厳重に抗議いたします」
「じゃあ、頼みます」
意外にも食い下がらなかった。一抹の不安を抱え私は王宮に戻ることにした。
SIDE:サイト・ヒラガ
その夜……。
俺はギーシュたちと、水精霊騎士隊のたまり場で会議をしていた。
たまり場というのは、コルベール先生の研究室の隣にしつらえられた、ゼロ戦格納用の小屋である。余ったスペースに机を置いて、周りに古くなって使われなくなった椅子を並べると、そこは会議室に変身するのだ。主に居酒屋みたいに酒を飲んでいるらしいが、たまに俺が会議と称して議題を叩きつけるのだ。
偉そうに会議だの議題だのいうが基本はエロい話と誰が誰を好きかとかの馬鹿話が多い。
だが、今日は違う。
「今日は真面目な話だ」
全員が俺に注目している。今後起こす予定を話す。
水精霊騎士隊として、タバサを助けに行くための許可を姫様にもらいに行く。
だが、それは断られる。
よって、一芝居打つ。
「その協力者がキュルケだっていうのかい?」
「キュルケには話は通してある」
「さすがサイト、仕事が速い。そこにシビれる。憧れるぅ~」
マリコルヌがいい感じに育ってるな。
痩せればモテるのに。
その時、格納庫の扉がばたん! と開いた。
腕組みをしたルイズとモンモランシーを筆頭とする、女子生徒たちである。
「いつまで話してるのよ。門限八時でしょー!」
「事業のことで話があるといったのはサイトでしょ? 待たせないでよ!」
ルイズが怒る。モンモランシーも怒ってる。他の女の子も騒ぎ始めた。
次の瞬間、がぼッ! と板を張っただけの格納庫の天井が抜けて、俺の上に何かが落ちてきた。
素っ裸の女だ。誰よりも早く俺は見た。
そして、受け止めてやる。
青い長い髪の綺麗な女性であった。
年の頃は二十歳ぐらいだろうか?
騎士のやつらは、目をまん丸に見開いて凝視した。
白い、雪のような白い肌を惜しげもなくさらしている。
こいつが、シルフィードね。すげぇ、かわいいじゃねーか。
現物はやっぱり、いい。
「きゅい……」
萌えた。
これ以上裸を放っておくと俺が死ぬのでマントを羽織らせた。
「会えてよかった~~~! きゅいきゅいきゅい!」
「おわっぷ」
生チチが顔に当たってますがな。抱きつかれたのはいいが、迫り来る死の気配に感づいたので突き離すことにした。
「大変なのね! 大変なのね! 大変なのね!」
「お前の頭の方が大変だな」
「いったいなにが大変なのよ。というかあんた誰よ?」
ルイズが怒って問いただす。
「お姉さまを助けてなのね!」
「わかった」
「ちょっと待ちなさいよ! 全く話がわからないわ! それに怪我してるじゃない!?」
モンモランシーが怒りながら治癒を始める。器用な奴だ。
「まあ落ち着けよ。こいつはたぶんタバサの関係者だろ」
「なんであんたは落ち着いてるのよ! は、裸見た癖に!」
「そ、そうなのね。わたしはイルククゥ。お姉さまの妹なのね。あ、お姉さまってのはここでいうタバサその人なのね」
「タバサの妹だって?」
ギーシュが疑問に思っているみたいだが放っておこう。
「とりあえず、事情を話せよ」
俺がそういうと、イルククゥはたどたどしい言葉で説明を始めた。
タバサが裏切った結果、ガリア王政府はタバサのシュヴァリエの地位を剥奪し、その母親を拘束する旨、伝えてきたこと。
タバサは母親を救い出すために、単身ガリアに向かったこと。
しかし、そこで圧倒的な魔力を誇るエルフに捕まってしまったこと。
「それで、俺に助けて欲しいってことだろ?」
きゅい、とイルククゥは頷いた。
擬人化最高。
「……この女性は、きみを襲ったガリアの手の者なんじゃないかね?」
俺が襲われたことを聞いたギーシュが、疑問の表情を浮かべた。
「タバサが囚われになって、それを助けてくれって言い分もなんだか怪しいわ。もしかしてワナなんじゃないの?」
モンモランシーも疑いの眼差しをイルククゥに投げつける。
「ふん、少しはモノを考えるようになったな。イルククゥ、なにか証拠を見せてやれ」
「なによ、偉そうに」
モンモランシーは文句を言ったが何故か顔を赤らめていた。
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生存報告
とりあえず生きてます。
富樫並の更新度ですが完結までは持って行きたいと思ってます。
報告のあった誤字修正
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