<ゼロのひどい使い魔 67>
SIDE:サイト・ヒラガ
何か大切なことを忘れてる気がする。そろそろ、タバサとガチで戦うのはわかってる。
エルフとも戦うのもわかってる。テファに関わることだったような。
駄目だ、思い出せん。なんだ、この喉に詰まった感じは。そこまで出てきてるのに何かが邪魔して思い出せない。
それに、俺は、アルビオンの復興とウェールズの即位で忙しいのだ。
トリステインとの戦争が終わって俺がテファのとこに引き篭っている間もアルビオンは復興活動してた。学院に戻ってからは水精霊騎士隊の訓練以外は王宮と学院を往復する日々。
俺を貴族にしたことをいいことに、何かと骨と姫様が俺を呼びつけるのだ。
そんな奴らは、ウェールズの即位と本格的なアルビオン復興で王宮を忙殺させることにした。
俺がやったことはウェールズを公の場に引きずり出したことと、アルビオンの復興計画を出したことだけ。後は放り投げた。
ルイズとシエスタの甘い日々を過ごしたっていいじゃない。だって男の子なんだもん。
「そんなわけで三人で寝てるわけです」
俺の右側にルイズ、左側にシエスタが寝ている。
女の子に挟まれて寝る。
これはいいものだ。
誰よりも早く起きて心地のいい感触と、目覚めたばかりの微睡んだ感覚を楽しむ。
シエスタの乳を揉んでもこの娘の眠りは深くて起きないのだ。(^ω^)
シエスタにいたずらしていると、ルイズがモゾモゾと動き出した。
なるほど、今日はルイズか。
シエスタが俺専属メイドになった日から二人は俺を取り合っているようだ。
目覚めのキス。
今日はルイズの勝ち。
「起きてる?」
「ああ」
俺の目覚めが早い事は知っているので、起きていることをわかった上でキスしてくるのだ。
「今日も、訓練?」
「サボるわけにはいかんのだよ。国のためと思って我慢してくれ」
国のため、姫様のためというのが殺し文句だ。
水精霊騎士隊の訓練は初めよりは緩くなっているが、十分キツイ内容でやっている。
ただ、単に隊員が慣れてきただけだ。
訓練風景が恒例となってきた頃、一つの問題が浮き彫りになった。
「あ、あの……、これ、読んでいただけますか?」
茶色のマントを羽織っている一年生、茶色の長い髪のケティと数十名の一年生。
初日から女子生徒の見学者が増え続け、数人だったはずの見学者があっという間に数十人になっていた。
英雄、鬼軍曹、ドS。俺の呼び方は様々。
俺への一年生女子の評判は良好らしい。
憧れの眼差し、なんだかイジメてオーラを放つ目線も混じって俺に向いていた。
水精霊騎士女子援護団とか勝手に作って差し入れをくれるのだが、その多くが俺に対するものだった。
隊長のギーシュはいつも通りのバカをやって引かれたので矛先が大分俺に向いた結果だと思う。
水精霊騎士隊にいるだけで、モテる。そう考えられている時期もありました。
一時期その噂に踊らされて多くの入隊希望があったが、厳しい訓練についてこれずに結局、創立メンバーから人数は増えなかった。
「ケティも熱心だな。俺は平民なのよ?」
「平民だなんて! サイトさまは英雄ですわ!」
女の子たちは、顔を見合わせて頷きあう。
五万の軍勢相手と訓練の様子がどうも俺の事を助長させているらしい。
それに、アンリエッタの平民でも優秀なら貴族になれる制度。
このことが以前モンモランシーが言っていた俺が出世するからモテるぞ! という予測を見事に当てることになってしまったのだ。
モンモランシーには押さえとけと言ったがどうやら無駄に終わった。
女子援護団設立に支援という名の手紙や差し入れ。
さすがに、女子で入隊希望の猛者はいなかった。
ただし、キュルケを除く。
ゲルマニア人なので丁重にお断りしておいた。だって問題になったらめんどうだもん。
「サポートはいいが、こういった個人的な手紙はよろしくないねって何度も言ってるだろ?」
「また、そう言ってお逃げになるの?」
詩とかラブレターに近い内容の手紙をケティ並び、一年生女子は渡してくるのだ。
二年生女子もちらほらいるが、モンモランシーとルイズが睨みを効かせているので人目のつく所での受け渡しはない。
「好意は嬉しいが、君たちは俺の手柄やありもしない将来を見据えての行動に見えるね」
「違いますわ! 私たちは純粋に応援したいのです!」
何度目かの同じようなやりとりに俺はうんざりしてた。
ある日を堺に断っても無意味だと気づいたので、考えるのをやめたのだ。
「はいはい、公衆の面前で渡されると主に俺の立場が悪くなるので止めろよな」
「わかりました! じゃあ、隠れて渡しますね!」
嬉しそうな顔をするのはいいが、それを言ったら意味ねーよ。
「サイトは随分と冷たいね」
「うっせー、ギーシュがヘマしなけりゃ今頃モテモテだったのにな」
君が一番だと何人に言ったか知らんが、短期間で一線を引かれるなんてある意味すごい。
もともと黙ってりゃ顔はいいのでそこそこモテてるみたいだが、性格が破綻してるな。
「ふっ、こう見えても影ではモテてるんだ。いや、隊長やってよかった」
「よし、じゃあ、俺は退役して副隊長はレイナールに任せよう」
「だめだよ。君、サイトがいないと女の子が来ないじゃないか!」
クソッ、だめだこいつ、早く何とかしないと。
訓練も形になっているし、俺がいなくてもいいはず。
副隊長をやめて、ルイズとセクロス、じゃなかったイチャイチャしたい。
なので、副隊長候補は既にレイナールに決めてある。
「はあ、副隊長はそればかりだな。僕には無理だよ」
「諦めんなよ……。諦めんなよ、お前!! もう少し頑張ってみろよ!!」
熱苦しくレイナールに言い寄ったが、コレも、もはや通じなかった。
「ああ、サイトさま×レイナールさま」
なんか、恐ろしいつぶやきが見学者女子の中から聞こえた気がした。
きっと、気のせいだ。うん、気のせい。大切な事なので二度言いました。
「王様、ウェールズ王じゃないの!」
「いや、サイトくん。普通に呼び捨てにしてくれたまえ」
トリステインに援助されているアルビオン王、アンリエッタの紐、ウェールズだ。
アンリエッタはあっという間に同盟を結んだ。
アンリエッタは婚姻したかったみたいだが、ウェールズがアルビオンを復興して落ち着くまでは駄目だと断ったらしい。
アルビオンはトリステインに戦で負けた。
その責任はオリヴァー・クロムウェルの処刑で償われた。
戦が終わって暇になった軍人を中心にレコンキスタ残党狩りに動いていた。
レコンキスタの残党狩りは速かったが「アンドバリの指輪」は回収されなかった。
アルビオンの戦力はほぼ、トリステインの所有物となった。というか、トリステインと戦いたくないのでトリステイン軍になっちゃえみたいな雰囲気だった気がした。
よって、暇なトリステイン軍の多くはアルビオン内政に協力させて現在アルビオン復興中。
日本の自衛隊みたいに軍が自国の安全を保つためとか復興作業やるとか珍しかったらしい。
ともあれ、アンリエッタとウェールズの婚姻はしばらく無理ね。
俺がアンリエッタをいただいてしまうぞ?
しかし、同盟を結んだおかげでウェールズはアンリエッタと普通に会っている。
とはいっても、やはり、二人とも忙しいので月イチペースでしか会えない。
「ウェールズ、久しぶりだな」
「二日前にあったのは私の記憶違いかな?」
復興プランを骨に出した俺は何故かアルビオン復興を手伝っていた。
ダルイので、ウェールズがトリステインに来た時だけしか手伝ってないけどな。
「そうだっけ? ウェールズはトリステインに用あり過ぎだぞ。来る度に俺も呼ばれるんだからなっ! わかってんの?」
「そう言われてもマザリーニ枢機卿から呼ばれれば来ない訳にはいかない。なにせ同盟国だからね」
治安維持、税の問題が解決され始めているので、それほど重要な用はないはずである。
なんだこいつ、俺に惚れてるのか?
いや、女装したウェールズは……orz
なんでもない。うん、ナンデモナイヨ。
「あー、次はアレのお披露目だなぁ。たぶんそれを見せるためだけにお前を呼んだな」
「最近噂の学生のみで構成されている水精霊騎士隊かい? なんでも、模擬戦をやるとか」
明日行われるゲルマニア皇帝との昼食会からの帰りの護衛、その後、現役部隊との模擬戦。
この予定は一般には護衛のみしか知られていない。
模擬戦は軍関係者のみにお披露目なのだ。
「まあな。俺は指揮官だから戦闘には参加しねーけど」
「確かサイトは副隊長じゃなかったか? 指揮官とは隊長がやるものじゃないのか?」
その通りだが、平民でも能力があれば指揮官もできるというパフォーマンス的な意味もあって俺が指揮官なのだ。戦うのが面倒だから指揮官になったわけじゃないぞ?
「隊長命令で俺が指揮官になった。あと、政治的パフォーマンスで平民が指揮を取れる所を見せたいらしい」
「そうかね。なるほど、最近ではトリステインも平民でも貴族になれる用になったからね。もちろんアルビオンも平民でも貴族になれる。というか、優秀な人物が欲しいからそうせざるを得ない」
人材不足ですからね。
ウェールズと色々世間話をしたら骨が入ってきて仕事させられた。
「超メンドクサイしー」
ゲルマニア皇帝との昼食会から帰ってきた女王の警護を務めていた。
警護といっても、要は新設なった騎士隊のお披露目だ。
トリスタニアの入り口で、俺たちはかねてからの計画通りアンリエッタの隊列に合流した。
王宮での序列に従い、その隊列は女王一行の最後尾だ。
「最後尾だからと言って気を抜いてないかい?」
先頭にいる隊長のギーシュが注意してくる。
道の両側に並ぶ市民たちの目を気にしているのだろう。
特にやることもなく、タダ、列に並んで馬で歩いているだけである。
ぶっちゃけ、暇なのだ。
「なんだあいつ。剣を背負ってるじゃねえか。平民か?」
「ただの平民が、どうして騎士隊に交じってるんだ?」
市民の声が聞こえる。
その中に目立オカマを発見してしまった。
「何言ってるの! みんな! あの子がサイトくんじゃないの! 彼が五万の敵をたった一人でやっつけたから、トリステインは勝ったのよ!」
スカロンであった。彼はかっぽかっぽと行進する俺に向かって手を振った。
みると、隣にはジェシカや、『魅惑の妖精』亭の女の子たちまで並んでいた。
スカロンのその言葉で、観衆の間にどよめきが走った。
ラ・ヴァリエール公爵家が流した噂は知れ渡っている。
しかし、市民から見れば俺はタダの少年にしか見えない。
噂の真相がわからない市民はどうやら信じていなかったようだ。
「まさか! どう考えたってただの少年の平民が、そんな大それたことできるわけがねえだろ!」
「こないだ銃士隊の隊長になられたアニエスさまだって、元は平民の出じゃねえか!」
市民同士の議論はアンリエッタが決着をつけた。わざわざ俺を呼びつけて、偉そうに白馬車の窓から手が差し出されたのだ。
さすがに今ふざけると殺されるので、仕方無しに手にキスした。
「シュヴァリエ・サイト万歳!」
居並ぶ市民たちの歓呼の声がうるさい。
余計なことしやがって。
SIDE:アンリエッタ
睨まれました。良かれと思って手を許したのですが、どうやらサイトさんは迷惑だったようです。馬車の中にいるマザリーニはニコニコ顔、最近は笑うことが多くなったと思う。
王宮に到着すると、護衛の騎士隊は当直の一部を除き、解散となった。
つい、目で水精霊騎士隊を探してしまう。
私が新設した近衛隊は、王宮の隅で談笑していた。
お披露目を終えた彼らは、これから模擬戦を行うのだ。
相手はヒポグリフ隊。
宮廷貴族から「学生の騎士ごっこ」と揶揄されている。
だから、模擬戦をして実力を見せるとサイトさんは言った。
相手をたかが、学生と侮った、ヒポグリフ隊は惨敗した。
それも、トリステインの盾と名高いサイトさんは指揮官。
采配も見事だったが、学生の動きと思えない統率された動きだった。
何よりも、賛美歌詠唱に近い合体魔法を見せたのだ。
隊長のギーシュを筆頭に土系統の術者が花びらを作り、それを風系統の術者が舞わす。
それを油に錬金。その後、火の系統の術者が火をつけてさらに風で炎を大きくする。
巨大な炎の竜巻がヒポグリフ隊を襲ったのだ。
「お見事です」
マザリーニが感嘆するように水精霊騎士隊に言葉をかけた。
宮廷貴族達は「学生の騎士ごっこ」の認識を改めた。
私も期待していなかったわけではないが、ここまでの成果をあげるとは思っていなかった。
「初手で倒せるとは思わなかったぜ。後二つ程見せたいモノがあったのに」
その場にいた水精霊騎士隊以外の全員が驚いた顔をしていた。
悪魔の笑顔を見た私はサイトさんの言葉に恐怖した。この人は敵に回してはいけない。
直感的にそう思った。
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ケティ登場しましたね。
この娘の扱いをどうすべきか。
お悩み中です。
さて、女の子が多く登場してきました。
どこかで、ガッツリと女の子達とのからみを書こうと思っています。
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