ルイズと劇を見る。という、デートを済ましていた。
うん、デートだ。デート。大事なことなので二回言いました。
劇は脚本は良かったが、役者がだめだった。
いずれ、劇場もプロデュースしようと誓った。
ロミオとジュリエット当たりがきっと受けるに違いない。
「ねえお兄さま」
「なんだい妹?」
ここ数日でお互いの呼び合いはこうなってた。
「今日も一緒に寝てくれる?」
「いいよ」
この妹、アマアマである。どうやら甘えん坊属性がついてきたルイズ。
「んじゃ、最後の仕事終わったら戻るから、遅かったら寝てていいぞ?」
「わかった」
ルイズは聞き分けよく部屋に向かった。
そろそろ、姫様が現れる頃だと思って布でぐるぐる巻きにしたデルフを背負っている。
かなり邪魔だし目立つので早く現れて欲しい。
裏口を開け、路地に出た瞬間、フードをかぶった女がこっちに向かって小走りに駆けてくるのが見えた。
こりゃ、ぶつかります。
どん!
と俺にぶつかる。倒れると危ないので腕を掴んで強引に抱き寄せる。
「大丈夫か? む、この感触」
ムニュ、俺の胸板に当たる胸に覚えがあった。
「……あの、この辺りに『魅惑の妖精』亭というお店はありますか?」
「そりゃ、ここだぜ。姫様」
そう言って、フードの裾を持ち上げて顔を確認した。
うん、やっぱり姫様だ。
しっ! と言われ、口を塞がれる。
「あっちを捜せ!」
「ブルドンネ街に向かったかもしれぬ!」
表通りの方から、息せききった兵士たちの声が聞こえてくる。
ここにいるぞぉ。
「……隠れることのできる場所はありますか?」
俺の口を塞いだままだったので、俺は兵士に知らせれなかった。
ごめんよ。兵士さん。
「こっちに来いよ」
ルイズのいる隣の部屋。つまり俺の部屋に案内した。
アンリエッタはベッドに腰掛けると、大きく息をついた。
「……とりあえず一安心ですわ」
「トラブルメイカーの貴方といると俺は安心できませんがね?」
「ちょっと、抜け出してきたのだけど……、騒ぎになってしまったようね」
俺をスルーしてアンリエッタは続けた。
「抜け出す姫様がバカなのか、抜け出すのを止められなかった奴らがバカなのかどっちでしょう」
アンリエッタは黙ってしまった。
「しかたないの。大事な用事があったものだから……。ルイズがここにいることは報告で聞いておりましたけど……、すぐにあなたに会えてよかった」
「よし、ルイズを呼ぼう」
「いけません」
アンリエッタは、俺を引き止めた。
「ちっ」
「舌打ちしました? しましたよね? ルイズには、話さないでいただきたいの」
「えー」
「えー、ではありません。私はあの子を、がっかりさせたくありませんの」
俺は椅子に腰掛けて、アンリエッタをにらんだ。顔はいいんだ。間違いなく。
体もナイスバディなのも認める。しかし、頭が弱い。
「んで、俺に用でも?」
「明日まででよいのです。わたくしを護衛してくださいまし」
俺はこれ見よがしに嫌な顔をした。
「そんなに嫌な顔をしないでください。今日明日、わたくしは平民に交じらねばなりません。また、宮廷の誰にも知られてはなりません。そうなると……」
「友達いないもんね」
ガクリと、うな垂れるアンリエッタ。
どうやら急所に当たったようだ。
「ええ、あなたぐらいしか、思いつきませんでした」
「報酬は?」
「う、今はありません。後に支払いましょう」
「今度こそ一括払いの現金な」
アンリエッタは目を伏せた。
おい、返事しろ。
「……大丈夫です」
「さっきの間は?」
「では、出発いたしましょう。いつまでもこの辺りにはいられませんわ」
スルーされた。くそっ、なんてやつだ。
「どこ行くの~」
力なき声で言った。
「街を出るわけではありません。安心なさってください。とりあえず、着替えたいのですが……」
「ルイズの服ならそこにある。しかも平民向けの奴が」
アンリエッタに服を渡すと、後ろを向いて着替え始めた。
貴族は他人がいようとお構いなしなようだ。
ナイス乳。
シエスタよりデカイだと!?
「シャツが……、ちょっと小さいですわね」
はちきれんばかりに詰めた乳は見ごたえがある。
「それの方が姫様っぽくなくていいな」
アンリエッタはさほど気にした風もない。
「行きましょう」
アンリエッタは俺を促す。
俺はアンリエッタの髪を掴む。
「髪型くらい変えよう」
「え?」
俺はポニーテールにしてやった。ついでに化粧も軽くしてやると、見事な街女にかわった。
こっちの方が、俺的には好みだ。
「ふふ、これなら、街女に見えますわね」
アンリエッタを引き連れて、こっそり裏口から路地に回る。
厳戒態勢がひかれてるじゃん。
「顔を堂々とだしとけ。あと、肩を組むぞ」
「はい」
アンリエッタは言われたとおりにされるがままに俺に肩を抱かれた。
報酬が見込めないのなら体で払ってもらう。
「もっと、恋人同士に見えるようにくっつけ」
「ええ」
ムニュっと胸が押し当てられる。
そのまま衛兵の側を通り過ぎる。
大通りに出たアンリエッタは、くすっと笑った。
「なんだ? ついに頭が本格的におかしくなったか?」
「いえ……、すいません。ちょっとおかしかったものですから。でも、愉快なものですわね」
「そーですね」
「こうして、粗末な服を着て、髪型を変え……、軽く化粧を施しただけで、誰もわたくしと気づかないのですから」
それを今、誰かが聞いたら意味ないけどな。
「でも、アンの顔をちゃんと知ってる人に見られたら気づかれますよ」
「アン?」
「こんな人目のあるとこで姫様などいってられん。アンで十分だ」
「わかりましたわ。サイトさん」
腕を組む様はリア充そのものだった。
夜も遅かったので、とりあえず宿を取った。
ボロかったが我慢してもらおう。
「ほんとにこんな部屋でいいのか?」
育ちのいいバカ姫に気を使うわけじゃないが、後々問題になると面倒なので、聞いておく。
「ええ。ちょっとわくわくするわ。市民にとっては、これが普通の生活なのだから不謹慎かもしれないけど……」
そう言ってベッドに座っているアンリエッタは可愛らしい仕草で足をぶらぶらさせる。
なんてこった。少し萌ダメージを受けてしまった。
「どうかなさったの?」
俺の凝視が気になったのか、杖を出してランプに明かりをつけたアンリエッタが聞いてきた。
ふと、率直に言葉を漏らしていた。
「思わず見惚れた」
SIDE:アンリエッタ
その言葉に私は嬉しくなった。
サイトさんにはてっきり嫌われていると思っていたから。
「そ、そうですか」
「そ、そう言えば、ルイズはちゃんと報告してるか?」
明らかに話を変えられたが、気恥ずかしいのもあって、それに答えた。
「あの子、きちんと毎日わたくしに、伝書フクロウを使って報告書を送ってきてくださいますわ」
「そうか、次からはこんな仕事は頼むなよ。主に俺が迷惑する」
「ええ……。ちゃんと、その日聞いたこと、噂になってること……。一つ一つ、細やかに。愚痴一つ書かずに、よくやってくれています。きっと平民に交じって、気苦労も絶えないでしょうに。あの子は高貴な生まれですから……。だから、体など壊してないかと心配になって」
そう告げる。たぶんまた何か言われるだろうと私は思っていた。
「元気でやってる。ルイズの情報は役に立ってるか?」
いつもの調子なら心配するくらいなら初めから頼むな~とか言ってくると思ったのだけど。
「わたくしは、市民たちの本音が聞きたいのです。わたくしが行う政治への、生の声が聞きたいのです。わたくしの元へ運ばれてくる情報には、誰かがつけた色がついてます。わたくしの耳に心地よいように……、それか、誰かにとって都合がよいように。わたくしは、ほんとうのことが知りたいのです。たとえそれが、どんなつまらぬことであっても」
「真実の声は辛いだろ? 特にアンみたいな年頃の女の子には」
思わず胸が高なる。私を女の子と見てくれる人がまだいたのだ。
「ええ……、でも真実を知るということは、ときにつらいことでありますわ。『聖女』などと言われても、実際聞こえてくるのは手厳しい言葉ばかり。アルビオンを下からただ眺めあげるだけの無能な若輩と罵られ、遠征軍を編成するために軍備を増強しようとすればきちんとに指揮できるのかと罵られ、果てはゲルマニアの操り人形なのではないかと勘ぐられ……、まったく、女王なんかになるんじゃなかったわ」
「いっそ投げ出して片田舎でヒッソリと暮らせばいいんじゃないですか?」
それができたらすぐにでもしたかった。
だが、甘い言葉に乗るとすぐにサイトさんはつついてくるだろう。
だから無視して聞いた。
「あなたの世界も、同じ?」
「ちっ、誰に聞きやがった?」
サイトさんは悪びれた様子もなく悪態をつく。
「失礼。魔法学院院長のオスマン氏に伺いましたの。あなたは異世界からいらしたって。驚きましたわ。そのような世界があるなんてこと、想像すらしたことがありませんでしたから。あなたの世界でも、人は争い……、そして施政者を罵るのですか?」
「アン、世界は違っても、人は人だ」
私はサイトさんの言いたいことがわかった。つまりは、どこも同じなのだ。
サイトさんはよく、諭すように物事を伝えてくれる。
どう見ても同い年くらいに見えるのにまるで年上のお兄さんみたいだ。
ついつい聞きたいことを口を滑らして聞いてしまった。
「私のこと嫌い?」
「囚われのお姫様を悲劇のヒロインみたいに思って文句垂れてた前は嫌いだった。今は少しながら自分で考えて行動してるから嫌いじゃない」
厳しい言葉だった。でも、嫌いじゃないと言ってくれたのが嬉しかった。
「戦争……、アルビオンと決着つける気だろ?」
私は驚いた。いや、さすがは平民の賢者だ。
「さすが……、ですわね。戦争はお嫌い?」
「嫌いだね」
「でも、あなたはタルブで王軍を救ってくださったわ」
「うるさい女だ。ただ、大事な人を護るためにやった」
口は悪いですが、根本的には良い人、なのでしょう。
そう思っていると、ぽつり、ぽつりと雨が降り始めた。
私は気分が落ち込んできた。戦争では少なからず人が死んだ。
そしてこれからももっと死ぬ。
私の所為で。
「不幸な奴だ。アン……」
サイトさんはそっと肩を抱き寄せ手を握ってくれた。
暖かかった。私の思いを汲みとってくれる。優しい人。
少しだけ、気分が楽になった。
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43話を修正したと思っていたらテキストの方を修正しただけで、掲示板の方を修正するのを忘れてました。
キチンと修正しておきました。
文章の量は二話分でも問題ないようなのでこのままの量で投稿していきます。
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