「う~~決闘フラグ決闘フラグ」
決闘フラグを求めて全力疾走している僕はトリステイン魔法学院に通うごく一般的な使い魔だ。
強いて違うところをあげるとすれば左手にルーンがあるってとこかナー。
名前はサイト・ヒラガ
ふと見るとテーブルの下に香水が落ちていた。
ウホッ!いい香水……
そう思ってると突然男は僕の見ている目の前で
薔薇の杖を抜きはじめたのだ……!
やらないか?
そういえばこのヴェストリの広場は決闘の広場があることで有名なところだった。
いい男に弱い俺は誘われるままホイホイと決闘の場所について行っちゃったのだ。
「諸君! 決闘だ!」
ギーシュが薔薇の造花を掲げた。うおッー と歓声が巻き起こる。
「ギーシユが決闘するぞ! 相手はルイズの平民だ!」
みんな暇なんだなぁと思いつつ話を聞いてやることにした。
「とりあえず、逃げずに来たことは、誉めてやろうじゃないか」
「よかったのかホイホイついてきて、俺はメイジだってかまわないで食っちまう人間なんだぜ」
ざわっと観客から声が聞こえた。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」
「うれしいこと言ってくれるじゃないの、それじゃあとことん喜ばせてやるからな」
「言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
女戦士の形をしたゴーレムが、俺に向かって突進してきた。
俺はポケットにあるペーパーナイフを左手で握りガンダールヴの力を使う。
見た目はポケットに手をつっこんだまま戦ってるわけだ。
SIDE:ギーシュ
さっきからあの平民が訳の分からない言葉をいっていたが、今この瞬間に全てを理解した。
『よかったのかホイホイついてきて、俺はメイジだってかまわないで食っちまう人間なんだぜ』
『うれしいこと言ってくれるじゃないの、それじゃあとことん喜ばせてやるからな』
どうせ平民の強がりだと思っていた。
だが、彼はポケットに手を入れたまま僕のワルキューレの攻撃を避けている。
さらに彼は避けたあとにワルキューレにケリを入れた。
たったそれだけで僕のワルキューレは吹き飛んでしまった。
「いいこと思いついた。お前、全力を出してみろ」
「なん……だと?」
「男は度胸何でも試してみるものさ」
いいだろう。今の僕の全力を見せてやる。
僕は薔薇を振る。花びらが舞い、全部で七体のゴーレムが、現れる。
「行け!ワルキューレ!!」
SIDE:ルイズ
自分の使い魔がギーシュと決闘するという話を聞き、急いで決闘の場所に来た。
よかった。
まだ決闘は始まっていない。
『よかったのかホイホイついてきて、俺はメイジだってかまわないで食っちまう人間なんだぜ』
メイジを食べる?
聞き間違えだと思った。
ギーシュはドットとはいえ、実技では好成績だ。
平民が貴族に勝てるわけない。
たぶんここに居る全員がそう思っている。
ギーシュのワルキューレが一体現れる。
止めなきゃ。
でも待てよ?
あの生意気でおかしな使い魔にはいい薬だ。
多少ケガをしたところでご主人さまが助けてあげる。
ルイズは数秒のうちに思いついた考えをそのまま実行に移す。
できるだけ早く止められるように前に出てあとは観戦するだけ。
信じられないモノを見た。
ワルキューレの攻撃を避けている。
しかも蹴っただけでやっつけた。
『いいこと思いついた。お前、全力を出してみろ』
サイトの声が響く。
「んなっ」
平民が貴族に対して全力を出せと命令している。
怒り、喜び、不安、期待。
様々な感情が混ざってワケがわからなくなる。
吹き飛ばされたワルキューレ含め全部で七体のワルキューレが私の使い魔に襲いかかる。
駄目だ。
固く目を瞑ってしまう。
SIDE:サイト・ヒラガ
あ、あいつ人が活躍中なのに目瞑ってやがる。
くそっ!
一瞬でみじん切りにしてやろうと思ってたのに作戦変更だな。
それにしても、バ●のオヤジがいってた地上最強の生物理論の一つ。
どんな大人数でも4人で攻撃が限度は正しかった。
ギーシュの操作術のなさもそうだが、4人以上の同時攻撃はない。
避けるのにも飽きたしルイズも目開けたしそろそろ決着でいいだろ。
(ガンダールヴは心の震えで強くなる。うおおおお、シエスタと風呂入るんじゃぁああああ)
ワルキューレの攻撃を素早く回避。
ギーシュに向かって疾走。
右手だけをポケットから素早く出してギーシュのマヌケの杖を奪い取る。
「続けるか?」
取り上げた杖を見せつけて決まった。
「ま、参った」
あの平民、やるじゃないか! とか、ギーシュが負けたぞ! とか、見物していた違中からの歓声が届く。
気楽なもんだ。
ギーシュに杖を返して歩き出す。
「サイト!」
「おう、ルイズ」
ハイタッチしようと手を出す。
「こんのぉ、バカ犬」
「ぐふ、な、ナイスボディ、おいちゃんと世界を目指そう……」
所変わって、ここは学院長室。
ミスタ・コルベールは、泡を飛ばして、オスマン氏に説明していた。
春の使い魔召喚の際に、ルイズが平民の少年を呼び出してしまったこと。
ルイズがその少年と『契約』した証明として現れたルーン文字が、気になったこと。
それを調べていたら……。
SIDE:オスマン
「始祖ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』に行き着いた、というわけじゃね?」
うーむ、コルベールくんは良い教師だが、ぶっちゃけ、つばかかってるんじゃが。
さてと、コルベールが描いた才人の手に現れたルーン文字のスケッチをじっと見つめる。
「そうです! あの少年の左手に刻まれたルーンは、伝説の使い魔『ガンダールヴ』に刻まれていたモノとまったく同じであります!」
じゃから、つばとんでるんじゃ。
「で、君の結論は?」
「あの少年は、『ガンダールヴ』です! これが大事じゃなくて、なんなんですか! オールド・オスマン!」
「ふむ……。確かに、ルーンが同じじゃ。ルーンが同じということは、彼は『ガンダールヴ』、ということになるんじゃろうな」
「どうでしょう」
「しかし、それだけで、そう決めつけるのは早計かもしれん」
ルーンが同じだからと言ってガンダールヴとは限らない。
全く別の可能性もあるしの。様子見としとこうかのう。
「それもそうですな」
ドアがノックされた。
「誰じゃ?」
扉の向こうから、ミス・ロングビルの声が聞こえてきた。
「私です。オールド・オスマン」
「なんじゃ」
「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒がいるようです。大騒ぎになっています。止めに入った教師がいましたが、生徒たちに邪魔されて、止められないようです」
全く、どこの貴族の子供だ。めんどくさいのぉ。
「誰が暴れておるんだね?」
「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」
「あの、グラモンとこのバカ息子か、相手は誰じゃ?」
「……それが、メイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔の少年のようです」
わしとコルベールは顔を見合わそた。
「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めております」
アホか、『眠りの鐘』は秘宝。たかが子供の喧嘩に秘宝など使っていたら学院の秘宝などとうになくなってるわい。
それに、あの少年の力を見る機会でもある。
「アホか。たかが子供のケンカを止めるのに、秘宝を使ってどうするんじゃ。放っておきなさい」
「わかりました」
ミス・ロングビルが去っていく足音が聞こえた。
わしは、杖を振り様子をみることにした。
壁にかかった大きな鏡に、ヴェストリ広場の様子が映し出される。
わしとコルベールは、『遠見の鏡』で一部始終を見終えると、顔を見合わせた。
貴族相手に余裕じゃのぉ。それにあの動き。熟練の貴族でもなきゃ捌けんわい。
「あの平民、勝ってしまいましたが……」
「うむ」
見りゃわかるじゃろ。
「ギーシュは一番レベルの低い『ドット』メイジですが、それでもあんなに簡単にやられるとは。そしてあの動き!やはり彼は『ガンダールヴ』!」
「うむむ……」
ガンダールヴ。こりゃまずいことになりそうだわい。
「オールド・オスマン。さっそく王室に報告して、指示を仰がないことには……」
「それには及ばん」
「どうしてですか? これは世紀の大発見ですよ!現代に蘇った『ガンダールヴ』!」
だから、つば飛ばすんじゃないわ。
「ミスタ・コルベール、『ガンダールヴ』はただの使い魔ではない」
「そのとおりです。始祖ブリミルの用いた『ガンダールヴ』。その姿形は記述がありませんが、主人の呪文詠唱の時間を守るために特化した存在と伝え聞きます」
「そうじゃ。始祖ブリミルは、呪文を唱える時間が長かった……、その強力な呪文ゆえに。知ってのとおり、詠唱時間中のメイジは無力じゃ。そんな無力な間、己の体を守るために始祖ブリミルが用いた使い魔が『ガンダールヴ』じゃ。その強さは…」
軍隊を壊滅させられる。
つまりガンダールヴ、いや、虚無を保有する国は戦争で有利になるということじゃ。
「千人もの軍隊を一人で壊滅させるほどの力を持ち、あまつさえ並のメイジではまったく歯が立たなかったとか!」
「で、ミスタ・コルベール」
「はい」
「その少年は、ほんとうにただの人間だったのかね?」
「……。見た目はどこからどう見ても、平民の少年でした。しかし、ミス・ヴァリエールが呼び出した際に、念のため『ディテクト・マジック』で確かめようとしたのですが、彼に気づかれたのか警戒されてしまいました」
「ほう、して、現代の『ガンダールヴ』を呼びだしたのは、誰なんじゃね?」
「ミス・ヴァリエールですが……」
ああ、公爵家の。いい噂は聞かんが……。
コルベールくんの意見はどうかのぉ。
「彼女は、優秀なメイジなのかね?」
「いえ、というか、むしろ無能というか……」
「さて、その二つが謎じゃ」
「ですね」
「無能なメイジと契約した少年が、何故『ガンダールヴ』になったのか。まったく、謎じゃ。理由が見えん」
「そうですね……」
「とにかく、王室のボンクラどもに『ガンダールヴ』とその主人を渡すわけにはいくまい。そんなオモチャを与えてしまっては、またそろ戦でも引き起こすじゃろうて。宮廷で暇をもてあましている違中はまったく、戦が好きじゃからな」
それにあの少年。まだまだ、力を全く出してないしのぉ。
「ははあ。学院長の深謀には恐れ入ります」
「この件は私が預かる。他言は無用じゃ。ミスタ・コルベール」
「は、はい! かしこまりました!」
しっかし、このガンダールヴの少年。
油断も隙もあったもんじゃないのぉ。
こちらに気づいているのか、目が合うしのぉ。
「全く大したものじゃ。ガンダールヴ」
――――――――――
2011/05/21
加筆&修正