「して、頼みとは?」
「こいつにできるだけ強力な『硬化』と『固定化』の魔法をかけてやってくれませんかね」
俺はオスマンに日本刀の強化を頼んでいる。
「宝探しの戦利品かの?」
「そうゆうことです」
学院の教師、生徒を総動員して『硬化』と『固定化』をかけてもらうべく交渉中である。
「しょうがないのぉ、断ったらエライ目にあいそうじゃし」
「当たり前です。俺、神の盾『ガンダールヴ』。それを召喚したルイズの正体をばらしちゃいます」
「むむ」
オスマン氏も思うところがあるのだろう。俺にルーンの事を教えたのが命取りだったな。
「安いですが報酬も出します」
「つまりは、断れば大損だが、受ければ皆が得をするということかの?」
さすがに年を食っているだけある。虚無の危険性をわかってらっしゃる。
「生徒を戦争の道具として使われるのいやじゃしのぉ、受けるしかあるまい」
立派な教育者である。
ついでにキュルケとタバサは課外授業扱いにしてもらった。
マチルダは一応まだ学院長秘書なのでそれを使った。
「ありがとうございます。いずれお礼はお返ししますよ」
「期待しとらんよ」
学院長の元を去る。そろそろガソリンができているはずだ。
「サイトくん! サイトくん! できたぞ! できた! 調合できたぞ!」
熱苦しいハゲだ。俺はゼロ戦を点検、整備していたのに。
「まず、私はきみにもらった油の成分を調べたのだ」
ワインのビン二本分のガソリンを入れる。
プロペラ位は回せるだろう。
「微生物の化石から作られているようだった。それに近いものを探した。木の化石……、石炭だ。それを特別な触媒に浸し、近い成分を抽出し、何日間もかけて『錬金』の呪文をかけた。それでできあがったのが……」
「ガソリンですね。わかります」
「早く、その風車を回してくれたまえ。わくわくして、眠気も吹っ飛んだぞ」
俺は再び操縦席に座り込んだ。うるさいハゲだ。あせるなよ。
ルーンの力でエンジンの始動方法、飛ばし方が頭に鮮明な情報として流れ込んでくる。エンジンをかけるには、プロペラを回さなくてはならない。
「先生、魔法でこのプロペラを回せますか?」
「これかね? これは、あの油が燃える力で回るのとはちがうのかね?」
「初めは……、エンジンをかけるために、中のクランクを手動で回す必要があるんです。回すための道具がないから、魔法でプロペラを直接お願いします」
コルベールの魔法でプロペラを回す。
タイミングを合わせて点火スイッチを押した。スロットルレバーを、心持ち前に倒して開いてやる。
ババババババッ! と、プロペラが回り始める。機体が振動した。
「うおおおお、うるせー」
車輪ブレーキをかける。ゼロ戦が少し動いた。
エンジン関係の計器は正常に動いている。やはりガス欠のみでほかに異常はなかった。
点火スイッチをOFFにした。
操縦席から飛び降りる。すると、コルベールと抱きついてきた。
むさくるしいぞ。
「さすが先生だ。エンジンがかかりましたよ」
「おおお! やったなぁ! しかし、なぜ飛ばんのかね?」
「ガソリンが足りませんね。飛ばすなら、樽で五本分はないと」
「そんなに作らねばならんのかね! まあ乗りかかった船だ! やろうじゃないか!」
とりあえず、ゼロ戦を磨いた。工具がないので本格的な整備できないのが悩ましい。
ギーシュあたりに作らせよう。
「夕飯の時間よ。真っ暗になるまで、何をやってるの?」
「すまん、気づいたら夢中になっていた」
「そう。よかったわね」
相変わらずルイズの興味は薄い。
「エンジンが掛かった。もうちょいしたら飛べるゼェ」
「飛べたら、どうするの?」
「東に向かったり、このあたりを自由気ままに飛行しようかなぁ」
「あんたはわたしの使い魔でしょ。勝手なことしちゃダメ。あと、五日で姫さまの結婚式が行われるの。わたし、そのときに詔を読み上げなくちゃいけないの。でもね、いい言葉が思いつかなくて困ってるの」
ハッ。
「はーはっは、ルイズ約束を違えたな。犯すぞオルァ!」
「げ、な、何も考えてなかったわけじゃないわ。いい言葉が思いつかなかっただけよ!」
ルイズは部屋に帰った後、俺を前にして、『始祖の祈祷書』をひろげていた。
「じゃあ、とりあえず考えついた詔とやらを読み上げてみろ」
こほんと可愛らしく咳をして、ルイズは自分の考えた詔を詠みはじめた。
「この麗しき日に、始祖の調べの光臨を願いつつ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。畏れ多くも祝福の詔を詠みあげ奉る……」
それからルイズは、黙ってしまった。
「いうことはそれだけか?」
手をワキワキさせて聞く。
「こ、これから、火に対する感謝、水に対する感謝……、順に四大系統に対する感謝の辞を、詩的な言葉で韻を踏みつつ詠みあげなくちゃいけないんだけど……」
「踏みつつ詠みあげればいいじゃねえか」
「なんも思いつかない。詩的なんていわれても、困っちゃうわ。わたし、詩人なんかじゃないし」
「いいから思いついたこと、言ってみ」
「えっと、炎は熱いので、気をつけること」
「『こと』は詩的じゃないだろ。注意だね」
ちょっとカワイイと思った。
「うるさいわね。風が吹いたら、樽屋が儲かる」
「ことわざ言ってどうする」
ルイズには詩の才能がない。知ってたことだが改めて聞くとめちゃくちゃだった。
「ダメだね、ああ、全然ダメだ。罰として一緒に寝てもらおう」
「へ、それだけ?」
なにやら期待してたのか腑に落ちない表情を浮かべていた。
「まあ、何も考えてないわけじゃなかったし、なに? して欲しいの?」
「そ、そんなんじゃないわよ」
ルイズはベッドに潜り込んでしまった。
俺は部屋の明かりを落としてからベッドに入った。
「ねえ、ほんとに東の地に行くの?」
「気が向いたら」
「元の世界に帰りたくないの?」
「うーん、今のところは帰る気ないね」
ルイズにスッと近づいた。ルイズはビクっとなったがそれだけだった。
「いつになったら帰る気になるの?」
「みんなが幸せに笑えるようになったら、かな、かな?」
「なによそれ」
ルイズの微笑は可愛かった。
「抱き枕だぁ」
「きゃ」
軽く悲鳴は上げたが俺のされるがままに抱き枕と化したルイズだった。