やっべ、さっきの俺かっこよくね? 思わず青春しちゃった。
部屋に戻りさっきの光景を思い出して悶絶中。
キャー、恥ずかし。
「相棒、さっきはカッコよかっぜ」
「言うなー、忘れろ。黒歴史じゃー」
ベッドの上でジタバタしていると扉があいた。
ワルドだ。
「きみに言っておかねばならぬことがある」
「なんでしょう?」
「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」
あっそ、今の俺は一人になりたい。
「おめでとさん」
「きみも出席するかね?」
早く出てって欲しかったので首を振った。
「ならば、明日の朝、すぐに出発したまえ。私とルイズはグリフォンで帰る」
「はいはい」
早く出てって!
「では、きみとはここでお別れだな」
そう言ってワルドは部屋を出てった。
クソッ、ウェールズめ、この気持どうしてくれる。
俺はトイレを済まして廊下を歩いていた。
抜いたらすっきりしたお(^ω^)
廊下の途中に、窓が開いていて、月が見えた。月を見て、一人、涙ぐんでいる少女がいた。
ルイズだ。
「泣いてるのか?」
俺が近づくとルイズは力が抜けたように、体にもたれかかった。
「いやだわ……、あの人たち……、どうして、どうして死を選ぶの? わけわかんない。きっと姫さまの手紙には逃げてって書いてあるのに……、サイトも逃げてって言ってるのに、どうしてウェールズ皇太子は死を選ぶの?」
「大事なものを守るためだ」
「なによそれ。愛する人より、大事なものがこの世にあるっていうの?」
「人それぞれだが、ウェールズはアンリエッタを護るために戦うぜ」
「わたし、説得する。もう一度説得してみるわ」
「ダメだ」
「どうしてよ」
「仕事の内容は手紙の回収だ。姫様に迷惑かけるつもりか?」
涙がぽろりと、ルイズの頬を伝った。
「……早く帰りたい。トリステインに帰りたいわ。この国嫌い。イヤな人たちと、お馬鹿さんでいっぱい。誰も彼も、自分のことしか考えてない。あの王子さまもそうよ。残される人たちのことなんて、どうでもいいんだわ」
「確かにウェールズは嫌いだ。さっき俺を汚しやがったからな。でもな、残される人のことどうでもいいとは考えてねーよ。残される人のこと考えてるから戦うんだ。じゃないと愛する人も死ぬことになる。わかったか?」
ルイズは泣きながら頷く。
「情けないところ見せちゃったわ」
「気にすんな。賢者タイムの今の俺は大抵のことは許せる」
なにそれって顔してたが男にはそういう時があるとだけ言って別れた。
SIDE:ウェールズ
始祖ブリミルの像が置かれた礼拝堂で、私は新郎と新婦の登場を待っていた。
周りに、他の人間はいない。皆、戦の準備で忙しいのであった。私は何をしているのだろうな。
すぐに式を終わらせ、戦いの準備に駆けつけなければ。
礼儀として礼装に身を包んだが、友人、サイトのワルドに注意しろという言葉を信じ軽装だが防具も着込んでいる。
扉が開き、ルイズとワルドが現れた。
二人の姿を見て私は確信する。
ワルドは何かを企んでいる。
新婦であるルイズは、アルビオン王家から借り受けた純白のマントをまとわせたが、ワルドは魔法衛士隊の制服である。
まるで、すぐにでも戦闘できるような体勢だ。
「では、式を始める」
サイト、君は何者だ?
ワルドは一体何を企んでいる?
「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」
ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。やはり、おかしい。戦場だからといってなぜ杖を持っている?
狙いは私?
それともルイズ?
「誓います」
ルイズを見る。彼女を狙っているのだとしたらこの結婚式はおかしい。殺せるタイミングはいくらでもあったはず。
「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」
狙いは私だ。なぜ?
『いえね、どこに裏切り者がいるかわかりませんから、身を持って奇襲の危険を体験させてあげたんです』
船での出来事を思い出す。
「新婦?」
「緊張しているのかい? 仕方がない。初めてのときは、ことがなんであれ、緊張するものだからね」
裏切り者、奇襲、危険。ワルドはレコンキスタ?
「まあ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。では繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして夫と……」
レコンキスタだとすれば、私を狙うのは当然。
ではこの結婚式は偽装?
ルイズもレコンキスタの一員?
いや、ありえない。彼がついておいてそんなハズはない。
私の言葉の途中、ルイズは首を振った。
「新婦?」
「ルイズ?」
彼女は利用されている。そう考えるのが自然だ。
「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」
「違うの。ごめんなさい……」
「日が悪いなら、改めて……」
「そうじゃない、そうじゃないの。ごめんなさい、ワルド、わたし、あなたとは結婚できない」
やはりそうか。
「新婦は、この結婚を望まぬのか?」
「そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、わたくしはこの結婚を望みません」
サイトはなぜここにいない?
ワルドは私に見向きもせずに、ルイズの手を取った。
「……緊張してるんだ。そうだろルイズ。きみが、僕との結婚を拒むわけがない」
「ごめんなさい。ワルド。憧れだったのよ。もしかしたら、恋だったかもしれない。でも、今は違うわ」
するとワルドは、今度はルイズの肩をつかんだ。ワルドの表情が変わる。
私はワルドの豹変に気づいた。
「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる! そのためにきみが必要なんだ!」
「……わたし、世界なんかいらないもの」
ワルドは両手を広げると、ルイズに詰め寄った。
「僕にはきみが必要なんだ! きみの能力が! きみの力が!」
サイトのいうハルケギニア支配は商売でという代名詞がつくが、ワルドは違う。本当の意味で世界を支配しようと言っているのがわかる。
「ルイズ、いつか言ったことを忘れたか! きみは始祖ブリミルに劣らぬ、優秀なメイジに成長するだろう! きみは自分で気づいていないだけだ! その才能に!」
「ワルド、あなた……」
SIDE:サイト・ヒラガ
や・ば・い
寝過ごしたw
SIDE:ウェールズ
彼の主人であるルイズが危ない。ルイズとワルドの間に入ってとりなそうとした。
「子爵……、きみはフラれたのだ。いさぎよく……」
ワルドはその手を撥ね除ける。
「黙っておれ!」
取りつかれたような目だ。確信した。こいつはレコンキスタだ。
「ルイズ! きみの才能が僕には必要なんだ!」
「わたしは、そんな、才能のあるメイジじゃないわ」
「だから何度も言っている! 自分で気づいていないだけなんだよルイズ!」
ルイズはワルドの手を振りほどこうとした。
しかし、物凄い力で握られているのか、振りほどくことができなかった。
「そんな結婚、死んでもいやよ。あなた、わたしをちっとも愛してないじゃない。わかったわ、あなたが愛しているのは、あなたがわたしにあるという、在りもしない魔法の才能だけ。ひどいわ。そんな理由で結婚しようだなんて。こんな侮辱はないわ!」
ルイズが暴れた。ここで魔法を使うわけには行かない。ルイズにも危害を加えてしまう。
私はワルドの肩に手を置いて、引き離そうとした。しかし、ワルドに突き飛ばされた。
杖を抜く。
「うぬ、なんたる無礼! なんたる侮辱! 子爵、今すぐにラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ! さもなくば、我が魔法の刃がきみを切り裂くぞ!」
ワルドの顔が笑っていた。覚悟を決めたと私は読み取る。
「こうまで僕が言ってもダメかい? ルイズ。僕のルイズ」
ルイズは怒りで震えながら言った。
「いやよ、誰があなたと結婚なんかするもんですか」
ワルドは天を仰いだ。
「この旅で、きみの気持ちをつかむために、随分努力したんだが……」
両手を広げて、ワルドは首を振った。
「こうなってはしかたない。ならば目的の一つは諦めよう」
「目的?」
ルイズは首をかしげていた。目的の一つか、いくつあるかは分からないがレコンキスタならばその目的に私の命が含まれているはずだ。
ワルドは唇の端をつりあげると、禍々しい笑みを浮かべた。
「そうだ。この旅における僕の目的は三つあった。その二つが達成できただけでも、よしとしなければな」
「達成? 二つ? どういうこと?」
ワルドは、右手を掲げると、人差し指を立ててみせた。
「まず一つはきみだ。ルイズ。きみを手に入れることだ。しかし、これは果たせないようだ」
「当たり前じゃないの!」
私は詠唱を始める。
「二つ目の目的は、ルイズ、きみのポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ」
ルイズははっとした。
「ワルド、あなた……」
「そして三つ目……」
私は杖を構えて魔法を発動させる。
しかし、ワルドは二つ名の閃光のように素早く杖を引き抜き、呪文の詠唱を完成させた。
「なに?!」
「やはり、貴様、『レコンキスタ』か」
私は攻撃ではなく、全力で逃げるための魔法を詠唱していた。