<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.18616の一覧
[0] (完結)竜岡優喜と魔法の石(オリ主最強 再構成 エピローグ追加)[埴輪](2012/04/21 21:14)
[1] ジュエルシード編 第1話[埴輪](2011/05/08 09:49)
[2] 第2話[埴輪](2010/10/31 11:50)
[3] 第3話[埴輪](2010/05/16 20:08)
[4] 第4話[埴輪](2010/10/31 11:53)
[5] 第5話[埴輪](2010/11/01 21:26)
[6] 閑話:元の世界にて1[埴輪](2010/06/06 22:47)
[7] 第6話 前編[埴輪](2010/11/01 21:30)
[8] 第6話 後編[埴輪](2010/07/10 22:34)
[9] 第7話[埴輪](2010/06/26 22:38)
[10] 第8話[埴輪](2010/07/03 22:20)
[11] 第9話[埴輪](2010/07/11 23:45)
[12] 閑話:元の世界にて2[埴輪](2011/06/25 09:05)
[13] 第10話[埴輪](2010/07/24 21:02)
[14] 第11話[埴輪](2010/08/14 14:15)
[15] 第12話[埴輪](2010/08/07 17:09)
[16] 第13話[埴輪](2010/10/06 22:44)
[17] ジュエルシード編 エピローグ[埴輪](2010/08/21 19:05)
[18] ジュエルシード編 後書き[埴輪](2010/08/21 19:06)
[19] 闇の書編 第1話[埴輪](2010/08/28 21:12)
[20] 第2話[埴輪](2010/09/04 18:23)
[21] 第3話[埴輪](2010/09/11 18:29)
[22] 閑話:フェイトちゃんのお買い物[埴輪](2010/09/18 17:28)
[23] 第4話[埴輪](2010/10/31 11:42)
[24] 第5話[埴輪](2010/10/06 22:17)
[25] 第6話[埴輪](2010/10/09 11:11)
[26] 第7話 前編[埴輪](2010/10/16 18:21)
[27] 第7話 後編[埴輪](2010/10/23 15:32)
[28] 閑話:ヴォルケンズの一週間[埴輪](2010/11/01 21:23)
[29] 閑話:なのはとフェイトの嘱託試験[埴輪](2010/11/06 19:00)
[30] 第8話 前編[埴輪](2010/11/13 18:33)
[31] 第8話 後編[埴輪](2010/11/22 21:09)
[32] 第9話[埴輪](2010/11/27 11:05)
[33] 閑話:元の世界にて3[埴輪](2010/12/04 17:29)
[34] 第10話[埴輪](2010/12/11 18:22)
[35] 第11話[埴輪](2010/12/18 17:28)
[36] 第12話[埴輪](2011/01/08 13:36)
[37] 闇の書編 エピローグ[埴輪](2011/01/09 08:08)
[38] 闇の書編 あとがき[埴輪](2010/12/31 22:08)
[39] 空白期 第1話[埴輪](2011/01/08 14:39)
[40] 第2話[埴輪](2011/01/15 11:39)
[41] 閑話:高町家の海水浴[埴輪](2011/01/22 09:18)
[42] 第3話[埴輪](2011/01/29 19:16)
[43] 第3話裏[埴輪](2011/02/06 08:55)
[44] 閑話:高町家の歳時記[埴輪](2011/02/19 17:56)
[45] 閑話:聖祥学園初等部の林間学校[埴輪](2011/06/25 09:06)
[46] 第4話[埴輪](2011/02/26 09:18)
[47] 第5話[埴輪](2011/03/05 19:26)
[48] 第6話[埴輪](2011/03/19 18:33)
[49] 第7話[埴輪](2011/06/11 17:58)
[50] 第7話後日談[埴輪](2011/04/03 10:25)
[51] 閑話:竜岡優喜の鉄腕繁盛記[埴輪](2011/04/09 19:07)
[52] 第8話[埴輪](2011/04/16 17:57)
[53] 閑話:時空管理局広報部の新人魔導師[埴輪](2011/04/23 11:07)
[54] 閑話:竜岡優喜の憂鬱[埴輪](2011/04/30 18:34)
[55] 閑話:ある日ある場所での風景[埴輪](2011/05/07 17:31)
[56] 第9話[埴輪](2011/05/14 17:40)
[57] 第10話 前編[埴輪](2011/05/21 17:58)
[58] 第10話 後編[埴輪](2011/05/28 21:07)
[59] 閑話:高町家の家族旅行[埴輪](2011/06/05 21:02)
[60] 閑話:元の世界にて4[埴輪](2011/06/11 18:02)
[61] 第11話[埴輪](2011/06/18 17:33)
[62] 第12話[埴輪](2011/06/25 09:05)
[63] 第13話 前編[埴輪](2011/07/02 21:22)
[64] 第13話 中編[埴輪](2011/07/09 20:51)
[65] 第13話 後編(R-15)[埴輪](2011/07/16 11:51)
[66] エピローグ あるいはプロローグ[埴輪](2011/07/23 11:03)
[67] 空白期後書き[埴輪](2011/07/23 11:22)
[68] ゆりかご編 第1話[埴輪](2011/07/30 19:10)
[69] 第2話[埴輪](2011/10/01 18:39)
[70] 第3話[埴輪](2011/08/20 18:23)
[71] 第4話[埴輪](2011/08/27 18:40)
[72] 第5話[埴輪](2011/09/03 18:13)
[73] 第6話[埴輪](2011/09/24 19:13)
[74] 第7話[埴輪](2011/09/26 19:49)
[75] 第8話[埴輪](2011/10/01 18:39)
[76] 第9話[埴輪](2011/10/08 18:22)
[77] 第10話 前編[埴輪](2011/10/15 20:58)
[78] 第10話 後編[埴輪](2011/10/22 19:18)
[79] 第11話 前編[埴輪](2011/11/05 19:03)
[80] 第11話 後編[埴輪](2011/12/03 19:54)
[81] 閑話:ある日ある場所での風景2[埴輪](2011/11/26 21:00)
[82] 第12話[埴輪](2011/12/03 19:54)
[83] 第13話 前編[埴輪](2011/12/10 20:17)
[84] 第13話 後編[埴輪](2011/12/17 19:21)
[85] 第14話 その1[埴輪](2011/12/24 20:38)
[86] 第14話 その2[埴輪](2012/01/07 20:47)
[87] 第14話 その3[埴輪](2012/01/21 19:59)
[88] 第14話 その4[埴輪](2012/01/28 21:24)
[89] 第15話 その1[埴輪](2012/02/04 19:04)
[90] 第15話 その2[埴輪](2012/02/18 20:56)
[91] 第15話 その2裏[埴輪](2012/02/25 21:31)
[92] 第15話 その3[埴輪](2012/03/03 18:43)
[93] 第15話 その4[埴輪](2012/03/17 19:40)
[94] 第15話 その5[埴輪](2012/03/24 13:56)
[95] 第15話 その5裏[埴輪](2012/04/07 21:01)
[96] 第15話 その6[埴輪](2012/04/15 23:11)
[97] エピローグ[埴輪](2012/04/21 21:14)
[98] あとがき[埴輪](2012/04/21 23:41)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[18616] 第15話 その2
Name: 埴輪◆eaa9c481 ID:7dc1cc34 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/18 20:56
「これで最後かな?」

 見えている範囲の機械兵器を破壊し終え、ようやく一息つけるスバル。辺りには十を超えるガジェットの残骸が。

「これ、結構強かったけど、ティアは大丈夫かな……?」

 AMFと純粋な高火力により、流石に無傷と言う訳にはいかなかったスバル。新人の中では突出して防御力と突破力が高いスバルでこれだ。一般局員よりははるかに強いといえど、ティアナの単独でのトータルの実力は、まだまだ他の三人と比較すると一枚落ちる。その上、ガンナーと言う特性上、どうしてもAMFとは相性が悪く、こういう硬い装甲板を貫くのは苦労するはずだ。

 最初はガジェットの群れを突破して合流するつもりだったのだが、相手が思いのほか頑丈で手強く、しかも地味に連携じみた動きをしてきたため、突破しきれずに手間取ってしまったのだ。ティアナの側も強力なAMFと分厚い装甲、そして防御が薄いガンナーにとっては致命的な火力の攻撃に手を焼き、合流をあきらめて距離を取ることしかできなかったのである。そのまま二人して好き放題追い散らされ、どうにか殲滅を済ませた時にはすっかり迷子になっていた。こういう時に互いの安否を確認するための道具を預かっているため、まだティアナが生きている事は分かっているが、相手の手ごわさを考えると心配なものは心配である。

「それにしても、見事にはぐれちゃったけど、ここはどこだろう?」

 先ほどの戦闘で、見事に目印にならない感じに崩れたビルの残骸を見て、ため息をつきながら現状を確認する。地図で照合しようにも、ガジェットと派手にやりあったため周囲の景色が変わっており、目視での位置確認は困難だ。その上、通信妨害がかかっているためGPSも使えない。相手の数が多かった事もあり、応戦するのが精いっぱいでどこをどう動いたかなど確認する余裕もなく、歩いてきた道を逆にたどる、と言う手段も使えない。

 幸い、時計とコンパスまでは死んでいないため、ウィングロードで空を走れば、クラナガンの中心部に向かう事は難しくない。本来ならウィングロードも飛行許可が必要な類の魔法ではあるが、今回は緊急事態の上連絡も取れないので、この際規則の方に目をつぶってもらって、位置照合ができるところまで空を走る事にしよう。そう決めてウィングロードを展開したところで、よく知っている、だがどこか違和感のある気配が近付いてくる事に気がつく。

「もしかして……!?」

 自分の感じた気配が間違っていないのであれば、こちらに来ているのは、心の底から取り戻したかった人のはずだ。

「ギン姉!」

 スバルの予想通り、現れたのはギンガであった。傍らには、たしかノーヴェと言う名の、髪の色以外は自分達そっくりなナンバーズが居る。

「ギン姉を返せ!」

「心配しなくても、あたし達と勝負すれば返してやる。」

 その言葉に、ノーヴェをにらみつけるスバル。

「あたしだって、こんなやり口は趣味じゃないけどね。何しでかすか分からない困った姉貴が一人居て、そいつが危ないおもちゃを持っちまったんだ。」

「理由になってない。」

「その姉貴が、あんた達と戦って来いって言ってるんだよ。あたし達が戦ってる間は、あの姉貴も流石に無茶な真似はしないはずだから、こっちには選択の余地は無いんだ。」

 どこまでも勝手な言い分に、どんどん怒りのボルテージが上がっていくスバル。そのスバルの様子に気がつきながらも、言うべき事は全部言っておかねばならない、とばかりに言葉を続けるノーヴェ。

「それに、あたし達が戦わなきゃ、あの姉貴の事だ。裏切り者扱いであたし達ごとふっ飛ばしかねない。そうなったら、あんたが取り戻したかったこいつも、一蓮托生になる。」

「……分かった。だけど、今、最高に頭に来てるから、殺さないようにとかできないと思う。」

「気にすんな。あたしが戦って死んでも、自業自得だ。その代わり、こっちも演技なんてできないから、殺す気でいかせてもらうよ。」

 ノーヴェの宣言に頷くと、シューティングアーツの構えをとる。竜岡式でさんざん叩き込まれたさまざまな技法をシューティングアーツと融合させた彼女のそれは、見た目こそシューティングアーツの基礎の構えだが、その中身はすでに別物だ。その事を知ってか、ノーヴェの方も油断なく構える。

「ギンガ、あんたは待機。流れ弾にだけ対処する事。」

 ギンガが頷いたのを確認すると、そのまま先制攻撃に移るノーヴェ。殺気が十分に乗った、遠慮も加減も無い蹴り。それをブロック、ではなく、突撃で打点をずらしてそのまま威力を相手に返すスバル。挙動そのものはシューティングアーツだが、彼の武術には無い種類の発想に、思わず面喰って距離を取るノーヴェ。

 シューティングアーツは、基本的には先の先を取る一撃必殺型の、カウンターとはあまり縁がない武術だ。防御は機動力でかき回す事と、バリアやシールドを張ってのブロックがメインであり、こんな風に打点をずらして威力を殺したり、衝撃をそのまま相手に返したりなどと言う、攻撃以外の部分でテクニカルな真似をする流派ではない。カウンタータイプの技がない訳ではないが、こんなひねくれた挙動はしない。

 そもそも、打点をずらして受ける、という発想自体、魔法格闘技自体にあまり存在しない考え方である。理由は単純で、魔法攻撃のほとんどは、普通は打点などと言うものが分かるものではない。格闘攻撃にしても、単純な身体強化魔法で繰り出されたものならともかく、そうでないものの場合、それ自体の打点はスバルがやったような手段でずらせても、その上に乗せられた魔法の威力はダイレクトに来る。間違っても、単に受け方だけで衝撃を返したりは出来ない。砲撃に至っては、打点がどうとかそういう次元の威力ではない。流石にスバルはおろかフォルクでも、砲撃クラスになると打点をずらすだけでは防げないが、これについては、そう言うやり方でなのはの集束砲すら防ぐ優喜や竜司が異常なのだ。

「反射魔法を格闘レンジで発動させたのか?」

「違う。普通に受け方だけで返した。これぐらい、ティアナやヤマトナデシコの子たちでも普通にやるよ。成功率は落ちるけどね。」

「……広報部ってのは、末端まで非常識か……。」

「うちの教官には、こんなちゃちな手は通用しない。」

 その言葉に、思わず怖気が走るノーヴェ。スバルはさらっと言うが、スバルの技でさえ、ノーヴェのようなタイプにとっては致命的だ。その上を行く相手など、考えたくもない。

「長話する気分じゃないし、さっさとギン姉を返してもらう!」

 その台詞と同時に距離を詰め、一撃一撃が異常に重いラッシュを叩き込んでくる。受け方を少しでも間違えれば、即座に骨の一本や二本は粉砕されるであろう攻撃を、どうにかこうにかシールド魔法を併用してしのぐ。合間に強引に割り込んで打撃を入れるも、あっさり受けられ衝撃を返されてしまうため、迂闊に攻撃に移れない。

 突破口を見いだせず、じり貧になりながらしのぐノーヴェ。認めたくない事ながら、相手の方が完全に実力は上だ。このままでは、そう長くはしのげない。そんなとき、彼女にとって予想外の援護が、望まぬ形ではいる。

「ギンガ!?」

 無表情のギンガが、スバルに全力で体当たりを叩き込んだのだ。もっとも、来るだろうと予測していたスバルには、かすりもしなかったが。

「どういう事だ!?」

「どーせ、あんたの姉とやらが、ギン姉に何かしてたに決まってるよ。」

「……やけに落ち着いてるな……。」

「あのメガネのやりそうな事だし、こうなるって最初から分かってたから。」

 スバルのその言葉に、実に申し訳ない気分になるノーヴェ。ぶっちゃけ、こういう人質に攻撃させるようなやり方は、後味が悪い上に碌な結果にならないと分かっているため、正直ノーヴェとしては避けたいところだったのだが、そういうお約束を理解しろだの空気を読めだのと言う言葉は、クアットロには通じない。

 とにかく、こうなったからには悪役に徹するかと覚悟を決めて割り切り、勝てないと分かりつつも攻撃を仕掛けようとしたノーヴェは、攻撃に移ろうと考えた瞬間にものすごい衝撃で吹っ飛ばされる。

「悪いけど、ここから先は邪魔されたくない。そこで寝てて。」

 人懐っこい性格のスバルとは思えない冷たい表情と口調で宣言すると、あっという間にノーヴェの意識を刈り取る。チンク達とは違い、それほど長くは粘れなかったノーヴェであった。







「とは言えど、どうしたものかなあ……。」

 力任せの攻撃を繰り返すギンガをいなしがなら、この後の対処に頭を悩ませるスバル。最悪、骨の一本ぐらいは勘弁してもらう事にして、普通に殴り倒すことも視野に入れながら、出来るだけ乱暴な手段を取らずに無力化できないか観察する。

 もっとも、ノーヴェを仕留めたように普通の攻撃で意識を刈り取るのは、クアットロがどんな小細工をしているか分からないのが問題だ。下手をすると、気絶したままこちらに突っかかってきかねない。そう考えると、足の一本でもへし折るのが一番確実だろう。骨折ぐらいなら、一日もかからず治せる。

 だが、正直、大切な姉にそんな真似はしたくない。故に、まずは比較的穏当な方法で、ギンガの洗脳を解く手段を考える事にする。

「っ!」

 身体のリミッターでも外されているのか、予想以上のパワーとスピードで繰り出される攻撃が、スバルの脇腹をかすめる。技も何もない大ぶりの攻撃ゆえに、タイミングなどは読みやすくそう簡単に食らうものではないが、かといって当たった時の被害を考えると、油断できるような攻撃でもない。

(ギン姉の気の流れをちゃんと見るんだ!)

 激しい攻撃に、思わず身を守る事に専念しそうになる心を叱咤し、ギンガの気の流れをしっかり確認する。予想通り、いくつかおかしなことになっている部分がある。観察の結果、どこをどうつけばギンガを解放できるかはなんとなく分かったが、軟気功や気脈崩しはスバルにとっては、どちらかと言えば苦手な分野である。上手くやれるかどうかは、個人的な感触では五分を切る。

(でも、やるしかない!)

 そう、やるしかないのだ。このままギンガを放置すれば、無理な攻撃を繰り返して、確実に体を壊す。それでは、手足をへし折るのと変わらない。それに、スバルがやろうとしているやり方は、難易度が高い代わりに、ミスった時のリスクがほとんど無い。ならば、上手くいくまで何度でもやればいいのだ。

「ギン姉、今助ける!」

 何をするにしても、まずは攻撃を止めなければならない。この後の事を考えるなら、その場しのぎの気脈崩しで動けなくするのは不可能だ。故に、少々乱暴だが、爆発頸で大きく体勢を崩し、攻撃行動をとれなくするのが妥当だろう。

「はっ!」

「……!」

 スバルのブロックに、ギンガの表情が初めてわずかに動く。その様子に気がつきつつも、気の流れが変わっていない事を確認して、予定を変更せずにそのままぶっつけ本番の一回目をやる。

 懐に飛び込んで、ギンガの丹田のあたりに右手を添える。そのまま、気を乗せた左手を叩きつけ、一気に気脈全体を揺らす。ここまでは、スバルの技量でも問題ない。千回やって一回失敗するかどうか、と言う程度の確実性だ。だが、このやり方は普通の気脈崩しと違い、動きを止めると言う機能は十秒も続かない。そもそも、大きく揺らす事による揺り戻しで、おかしなところを戻すやり方なのだからしょうがない。

 問題はここからだ。とりあえず今の衝撃で、目論見通り細かい異常は全部吹き飛ばされた。ここからは本命である、頭の中をいじっているであろう何かをどうにかしなければならない。優喜なら、直接眉間辺りから気を流し込んで原因を粉砕することもできるだろうが、スバルにはそこまでの能力は無い。故に、いくつかの気脈から手数で少しずつ大きな異常を削り取っていき、最後に眉間に本命の一撃を入れるしかない。

 幸いな事に、プレシアの予想通り、ギンガの脳がいじられた形跡は無い。やはり、そこまでの改造をする余裕は無かったらしい。プレシアが言うには、多分機械から脳へ戻る制御信号に干渉してオーバーフローを起こさせ、意識の空白に付け込んで魔法をかけて洗脳したのだろう、と言う話だ。気脈を崩した時の感覚から、どうやら方法論としては分析通りだったようである。実際の魔法を使わないマインドコントロールは時間がかかる上に効果が不安定である事を考えるなら、他の方法は取れなかったに違いない。

 スバルもギンガも、元々脳には機械は組み込まれていない。全身あちらこちらに組み込まれた多数のメカが、脳と全く無関係かと言われれば答えは否だが、少なくとも機械一つを乗っ取られたら思考から何から全てコントロールされる構造にはなっていない。脳改造する技術が無かった、と言うのもあるだろうが、むしろ簡単にコントロールを奪われるリスクを避け、教育による洗脳で裏切りを防ぐ事を選んだ、と言うのが実際のところだろう。

「もう一回!」

 時間切れで復活したギンガから飛んできた反撃をやり過ごし、同じように衝撃で気脈を揺さぶる。最初の一回では、正中線上の二ヶ所からしか気を送り込めていない。スバルの技量なら、最低あと六ヶ所から打ち込んで、止めに眉間に一発入れてからさらに気脈を揺さぶってやる必要がある。この時送り込む気の量は、多すぎても少なすぎてもいけない。少しでも多すぎるとギンガに影響を与える前に身体をつきぬけてしまうし、少なすぎると気脈に弾き返される。また、打ち込む位置が深すぎても浅すぎても何の効果も発揮しない。

 失敗したところで影響が出ないだけなので果敢に挑戦できるが、成功させるには相当な集中力と技量が必要な方法である。本来、スバルの技量で行うには少々心もとないが、かといって、他にこの手の洗脳を解くような技は持ち合わせていない。ゆえに、スバルには成功するまでトライする、以外の選択肢は無い。

「えい!」

 幾度目かの挑戦で、ようやく残り二ヶ所まで追い込む。一ヶ所成功するごとに動きが鋭くなっていくギンガに手を焼きながらも、その事実がスバルにとっての手ごたえとなっている面もあるため、素直に喜べる事ではないにもかかわらず、顔がほころぶのを押さえられない。

「後一つ!」

 ほぼ本来のキレを取り戻しているギンガに苦戦しながら、どうにか最後の一ヶ所である眉間へ気を打ち込む算段を立てる。今までのように、気脈を揺らすのはそろそろ通用しなくなりそうだ。やれて後一度が限度だろう。眉間への一撃を成功させた後、もう一度気脈を揺らす必要がある事を考えるなら、限界まで集中して、カウンターで入れるしかない。

 そう覚悟を決めて構えを取り、ギンガの動きを読もうとして妙な事に気がつく。いつの間にか、ギンガの気のゆがみが、全部消えているのだ。さっき六ヶ所目に気を打ち込んだ時は、まだゆがみが残っていた。なのに、最後の一ヶ所を巡る攻防を繰り返しているうちに、そこがきれいさっぱり消えている。

 考えられるケースは二つ。身体を動かしているうちに自然に洗脳が解けたか、洗脳されている状態が馴染んでしまったか。ギンガの攻撃をかわし、もう一度彼女の全身の気を探って、ある種の違和感に気がつくスバル。

「……ギン姉。もう、元に戻ってるんでしょ?」

「……ばれた?」

「攻撃から殺気が消えてて、いつの間にか気功をやりだしてたら、他に理由は無いよね?」

「……言い訳すると、戻ったのはほんの三十秒前ぐらいよ?」

「つまり、最後の方の何回かは正気だった、って事だよね?」

 スバルにしては珍しく、ジト目でギンガを見る。その視線に耐えられず、明後日の方向を向きながら鼻歌なんぞを歌ってごまかすギンガ。この二人としては、実に珍しい光景である。

「まあ、何にしても、ギン姉が元に戻ってよかった……。」

「心配かけてごめんなさい。」

「あの手の攻撃は、一回やられないと対策を立てられないから、しょうがないよ。」

 実際、ギンガがやられていなければ、スバルが同じ立場に立っていただけの事である。どっちがやりやすいかと言われればギンガがスバルを治す方が簡単ではあるが、その分おかしな負荷で負傷しやすいと言う条件を考えれば、どっちもどっちであろう。

「とりあえず、一旦アースラに戻ろう。」

「そうね。」

 気絶しているノーヴェを担ぎ、アースラが居るであろう場所に向かって動き出そうとする二人。その直後に、ゾクリとした感覚が背筋を貫く。

「ギン姉……。」

「ええ……。」

 嫌な予感に、空を見上げる。そこには、微妙な亀裂が。

「次元震!?」

『そこまでのエネルギー量ではありません。』

「だとしたら、あれは一体?」

 マッハキャリバーの言葉に顔をしかめながら、徐々に広がっていく亀裂を睨みつけるギンガ。確かに、次元震特有の膨大なエネルギーは感じられない。あの程度の亀裂で何かが起こるほど、次元世界は軟ではないのも事実だ。だが、それでも、あれはまずい。世界の崩壊とは別口でまずい。

「スバル、ギンガ!」

「大丈夫!?」

 声をかけられてそちらの方を向くと、ティアナを抱えたカリーナが、見えるところまで飛んできていた。よく見ると、当りにサーチャーらしきものがある。流石にカリーナクラスなら、探知魔法を潰されるほどではないらしい。

「とりあえず、ギン姉はもう大丈夫! マッハキャリバーが対策を取ってくれてるから、同じ手で洗脳される事はもう無いはず。」

「そっか、良かった。」

「と言う事は、次の問題は、あれね。」

 空の亀裂を睨みつけながら、カートリッジをリロードしていうティアナ。本当なら、あれをふさぐ方法を考えなければいけないのだが、残念ながらスバルとギンガ、ティアナの手持ちには、そんな手段は無い。カリーナの手札にはあるにはあるが、ここまでになると変化が止まってからでないと上手くいかない。

「何か……、出てくるね……。」

「もしかしてあれ、竜岡師範が言ってた……。」

 ティアナの言葉が終わる前に出てきたそれは、何とも名状しがたい姿をしていた。







「増殖型か。」

「また厄介なものを。」

 行く手を阻む名状しがたいものを一撃で粉砕し、顔をしかめながら言いあう優喜と竜司。出てきた亀裂は、気功弾で周囲の空間ごと吹っ飛ばすと言う力技で消滅させているが、元を断たねばキリがない。何しろ、見ている前で新しい亀裂が生まれているのだから。

「とは言え、こいつらはまあ、問題なかろう。」

「こいつらは、ね。」

 今回二人の前に出てきたのは、普通に物理攻撃が通用するタイプだ。どうやらあの亀裂から出てきたときに、こちらの法則やらシステムやらに引っ張られて、肉体に生命が縛られたらしい。肉体に縛られなければ現界出来ないランクの物は、実際のところさして強くは無い。とは言えど、物理攻撃が通ると言っても戦車砲やミサイルぐらいの火力は普通に必要で、ビル程度なら歩く程度の気楽さで崩壊させるぐらいの能力は持ってはいる。魔法も何もない人間が相手取れるような存在ではない。

 地上部隊の能力では、一部隊で相手取るには手に余るだろうが、それでも倒せない訳ではない。火力にしても、ストライクカノンがあれば十分で、一度に出てくる数が少ない分、レトロタイプよりは大幅にやりやすかろう。見た目にひるまなければ、大した問題は無い相手だ。

「これより上が出てきたら、さすがにまずいかな。」

「そうだな。この上となると、実質ダメージが出せるのは、広報部とギンガだけだ。どうせ出てくるのは秘伝なんぞいらんような相手ばかりだろうが、それでも属性相性というやつは残酷だからな。」

 更に現れた雑魚を、亀裂ごと一緒くたに潰し、元凶のもとへ急ぐために移動速度を上げる。進行方向にいる連中をまとめて叩きつぶし、ただひたすら現地へ急ぐ。

「……誰か戦っているようだな。」

「うん。急いだ方がいい。」

 もうそろそろ視界に入ろうか、と言うあたりで、二つの気配を拾う。一つは言うまでもなく、どこかの馬鹿が呼び出した危険物だが、もう一つは普通の人間、からはやや外れているが、この世界に存在しうる生き物の気配だ。さらに言うと、そこまで鋭くは無い竜司はともかく、優喜には気配の主が大体分かっている。

「……あの男は、ヴァールハイトの方か?」

「らしいね。こんなところで、何をやっているのやら……。」

 ついに到着した現場では、老人の姿をした何かが、竜司には一歩劣るが立派な体格をした満身創痍の男を丸呑みにしようと、人体構造上あり得ないほどの大きさに口を開いて飛びかかっていた。







「こいつは、一体何だ……?」

 誰よりも早く次元振動の発生源に到着したヴァールハイトは、その中心にいた老人を見て、思わず呆然とした声を出してしまう。どうという事も無い、どこにでもいそうな老人。なのに、その姿を見た瞬間から、全身に鳥肌が立っている。あれには関わるな、逃げろ、と、本能がうるさいぐらいに警告を発している。

「何だ、とは御挨拶だな。見ての通り、ただの爺だが?」

「ただの爺が、そんな不気味な空気を振りまくとは思えんが?」

「いやいや。この世界を崩壊させようとしているだけの、ただの爺だよ。」

 見た目に反した若々しいしゃべり方で、ヴァールハイトに応える老人。その言葉を発した老人の目を見て、ヴァールハイトは認識を固めた。恐怖を感じる本能をねじ伏せ、縮こまりそうになる体を叱咤して槍を構え、言葉を発する。

「どうやら、野放しにしておくわけにはいかんようだな。貴様を成敗する!」

「たかが爺一人に大げさだな。」

 その戯言を無視し、最初から最強の一撃を、全力で叩き込む。その一撃をよけるそぶりも見せずに、やけに穏やかな表情で見続ける老人。そのまま、ヴァールハイトの人生で一番とも言えるタイミングで、最高の一撃が見事に入る。

「!?」

 手ごたえはあった。見た目通りの老人であれば確実に命を刈り取れ、そうでなくてもノーダメージと言う訳にはいかないであろう一撃。今までの人生で最高と言っていい一撃を叩き込んだヴァールハイトは、本能の命ずるままに即座に退避する。

「おやおや。若いのに戦慣れしているね。」

「……どういう事だ?」

「何が、どういう事、なのかな?」

「何故、死なない?」

 脳漿をぶちまけながらも平然と話す老人を見て、戦慄とともに疑問をぶつける。身体が真っ二つになり、断面が焼かれて死なない生き物など、普通はいない。

「それは簡単な話だよ。」

 ヴァールハイトの疑問を聞き、にやりと邪悪な笑みを浮かべて答える老人。

「もうすでに死んだものが、もう一度死ぬことなど、ないだろう?」

 その言葉に、本能が放つ警告の意味を正確に理解したヴァールハイト。だが、すでに遅い。

(いや、この場にこいつが立っていること自体が、すでに手遅れか。)

 らしくもなく腰の引けた思考をしそうになった自身に苦笑し、考え方を改める。実際、警告の意味を理解していようがしていまいが、全く関係ない話だ。こいつがこの場にいる以上、余程の奇跡でもない限り、遅かれ早かれ対峙する事になったはずだ。ならば、怯えて逃げても無駄だ。少しでも弱点を見つけ出せるよう、切れる手札はすべて切るしかない。

「気合を入れてくれているとこ悪いけど、実はこの年寄りには大した力は無くてね。単純な殴り合いでは、どう逆立ちしたところで君を仕留めることなど、できはしないんだ。」

 哀れにも、実力差を正確に理解しながらなお抵抗の意思を捨てない獲物に対し、にこやかに言葉をかける老人。見ると、いつの間にやら、切り裂かれた自身の身体を繋ぎ終えていた。左右が微妙にずれていたり、ずれた面から何かが足元に滴り続けていたりするが、全く頓着する様子は無い。

「嘘をつけ。さっき起こっていた次元振動、あれを起こすだけで、俺をミンチにするぐらいは余裕だろう?」

「残念ながら、あれは攻撃には使えないんだよ。あれは、こういうことしかできないんだ。」

 その言葉と同時に空間に亀裂を作り、何かをこの世界に呼び寄せる老人。反射的に槍を薙ぎ払い、その何かが完全に出てくる前に切り捨てるヴァールハイト。出てきた名状しがたい何かの残骸を見て、勘で槍を振るった事が正しかったと悟る。

「……おかしいな。」

 自分が呼び出し、あっけなく切り捨てられたものには目もくれず、どこか明後日の方向に視線を向けて首をかしげる老人。それを見ても油断せず、次の一撃を準備するヴァールハイト。技を振るおうとした彼に、老人が問いかける。

「あの都市の中に開こうとした門が、何故か開ききる前に強引に閉じられた。何か心当たりは無いか?」

「ある訳がなかろう。」

 思わず反射的に言葉を返し、次の瞬間彼の心を大きな喪失感が襲う。ちらりと己の左腕を見ると、今この瞬間までそこにくくりつけられていたはずの紐が、完全に切れて地面に落ちていた。

「……まさか、マドレか?」

「なんだ。心当たりがあるんじゃないか。だったら、その人に対する意趣返しも兼ねて、もっといっぱい門を開いてあげないとね。」

「させると思ったか!」

 ふざけた事を言いだした老人に襲いかかるヴァールハイト。この時彼は、本能に根ざした恐怖も絶望も、全て忘れていた。

「邪魔しないでほしいなあ。」

 うんざりした表情で襲撃者を見つめる老人。次の瞬間、地面に飛び散っていた彼の脳漿が飛び上がり、突っ込んでくる相手に向かって一直線に飛んでく。

「があ!?」

 とっさに張った強固なシールドとバリアを完全に無視し、ヴァールハイトの左目に飛び込む脳漿。当った場所からどんどん溶けて爛れていく。

(シールドを貫かれたか!? いや、そもそも全く影響を与えていなかった!)

 目を焼かれた激痛に耐えながら、相手の攻撃を分析する。どうにも、物理でも魔法でもない種類の攻撃らしく、普通の防御方法では防ぎようがない。布切れ一枚で防げるのでは、と思わなくもないが、それこそ貫通されて終わりだろうと考え方を改める。

「やっぱり開かないか。あの結界を張ってる誰かに、対策を取られたかな?」

「……管理局も、役に立つこともある訳か……。」

 今にも気が狂いそうなほどの激痛をごまかすため、軽口を叩いて健在をアピールする。

「まあ、元々簡単に開けなくて、至近距離に三つと内部に一つしか無理だったんだけどね。」

 大した問題点ではないからか、それとも知られたところでヴァールハイトにはどうにもできない事だからか、そんなヴァールハイトに一つ肩をすくめて見せて、何でもないように自身の限界を言ってのける老人。

「存外、大したことは無いな。」

「ああ。何しろ、いろいろ足りてなくて、まだ完全にこっちには出てこれてないんだ。この体も、単なる端末だからね。」

「ならば、その端末とやらを潰してしまえば、貴様はこちらには干渉できんと言う事だな。」

「さて、どうかな?」

 そううそぶく老人に向かい、再び槍を振るうために距離を詰める。左目が完全につぶれてしまったため、今までに比べて極端に死角が大きくなってしまうが、そもそも脳漿の動きについては、見えていても対応できるとは思えない。食らってもひるまずに突っ込んで行けば、一撃ぐらいは当てられるだろう。

 そんなヴァールハイトの思惑は、実にあっさり潰される。脳漿が見えているはずの右側からいきなり現れ、足首に巻きつき、地面に縛り付けたのだ。見落としたのではない。何の前触れもなく、唐突に出現したのである。完全に地面に縫い付けられ、じわじわと溶かされて行くヴァールハイトの右足。動かそうにも持ち上げることすらできず、徐々に徐々に身体を這いあがってくる。即座に決断を下し、己の足を切り落とす。

「躊躇いも無く足を切り落とすとはね。どうやら、君を低く見過ぎていたようだ。」

 感心するような老人の言葉に応えず、片足で跳び上がって距離を詰めようとするヴァールハイト。待ち構えていたかのように目の前に広がる脳漿。衝撃波で己の軌跡を変え直撃を避けるも、左半身に浴びることまでは避けられない。右足に続き左足も焼かれてしまい、もはや自力で立つこともできなくなる。もはや四肢のうち無事なのは右腕のみ、左腕は槍を握る事すらできぬほど食らい尽くされている。だが、それでもまだ、ヴァールハイトはあきらめていない。

 槍は、突いたり払ったりするだけが芸ではない。右腕一本動けばやりようはあるし、左腕とて体の向きを変える事ぐらいには使える。

「さて、そろそろ君と遊ぶのも飽きた。そこでじっとしてるなら、見逃してあげるけど、どうする?」

「ふん、戯言を。」

「いいのかな? それぐらいなら、この世界の医療技術で治せるはずだよ?」

「治すまで、世界が残っていれば、な。」

 そう。ここで命を長らえたとしても、こいつを放置すれば結果は一緒だ。それに、こういう理不尽な暴力を振るう相手に背を向けるのは、彼自身の存在意義を自ら捨てるに等しい。

「魂まで消されるかもしれないのに、まだ逆らうんだ。」

「貴様を仕留められるなら、今更死など恐れん! 魂が砕かれようと、最後まで闘う!」

「何が君をそこまで駆り立てるのやら。」

「知れた事!」

 残りの力を振り絞り、体勢を立て直す。体内に埋め込まれたレリックが、ヴァールハイトの気迫に反応して、新たなエネルギーを発生させる。食われたはずの足を再生させ、左腕を槍が持てるところまで癒す。その力に後押しされ、癒されてなお満身創痍の体を再び叱咤し、必死になって立ち上がる。

「我はヴァールハイト! 弱きものの槍なり!」

 ここで全ての命を燃やしつくす。その覚悟を持って槍を構え、高らかに宣言する。

「なるほど、ね。丁度いいし、君の命を食わせてもらうよ。」

 そう言って、爺の姿を保ったまま、それはヴァールハイトを丸呑みしようと飛びかかってくる。人体としてはあり得ないほどの大きさまで広がった口が、実に気持ち悪い。なまじ原型が残っているがゆえに、気が弱いものが直視しようものなら即座に発狂しそうなほどグロテスクなそれに、槍を構えて飛び込んで行くヴァールハイト。

 ぱくり。ごくん。音で表現するなら、その二つで足りるであろう。ヴァールハイトは、自身の半分もない老人に丸呑みされ、姿を消した。







「遅かったか!」

 気功弾の着弾を確認し、一つ舌打ちをする竜司。誰かが食われそうになっているのを確認し、即座に攻撃を放ったのだが一歩遅く、当ったのは男が飲み込まれてからであった。

「おやおや。今日は千客万来だね。」

「来ないとでも、思ったのか?」

「誰かは来るだろうと思っていたがね。よもや、この体にダメージを与えられる人間が来るとは予想外だったよ。」

「これだけの人口が居れば、一人や二人は当然いるよ。当たり前でしょ?」

「この爺や今の若者の記憶には、その手の攻撃手段が存在すると言う情報が無かったからね。少々油断したよ。」

 飄々と語る爺に、自然体のまま攻撃のタイミングをうかがう優喜と竜司。二人とも、目の前の爺については、心当たりが無いでもない。

「そんなものを呼び込んで、世界を滅ぼしたくなるほど闇の書が憎かったの?」

「この爺をはじめとした十数人はそうらしいね。その妄執があまりにも美味しそうだったから、ついパクリと行ってしまったけど、おかげでいろいろ知識や知恵が貰えてよかったよ。」

 元「闇を滅する会」会長、いや、その姿を模した何かが、あっけらかんとした態度を崩さずに答える。

「だけど、エネルギーの質としては、今食べた若者が一番だ。おかげで、完全に現界出来そうな感じだよ。」

「なるほど、つまりは。」

「貴様を完全に滅する事が出来る、と言う訳か。」

「おやおや、若いねえ。さっきの攻撃は、確かに少々痛かったがね。あの程度をいくら叩き込まれたところで、この身を滅ぼすことなどできはしないよ。」

 爺の言葉を無視し、容赦のない踏み込みから大量の気を乗せた打撃を繰り出す竜司。単純な威力だけなら、ティアナのスターライトブレイカーを上回るその一撃は、だが爺をわずかに揺るがす程度だった。

「なかなかいい一撃だね。だけど……。」

「こんな攻撃がダメージになるなど、誰も思ってはおらんさ。」

 竜司のその言葉にニカッと笑うと、大量の瘴気とともに、脳漿を食らった時にあちらこちらに撒き散らされたヴァールハイトの肉片を浮かせ、竜司と優喜に殺到させる。その肉片を闘気のバリアで弾き、そのまま体当たりを食らわせる。

「いいねえ。実に芸達者だ。」

「貴様のような不気味な生き物を相手取るには、これぐらいの芸は必要でな。」

「残念ながら、グロいだけの攻撃でひるんだりダメージを受けたりするような、そんなかわいげは十年は前に捨ててるよ。」

 言葉通り、実に可愛げのない反応を見せながら、攻撃の手を緩めない二人。実際のところ、ダメージは全く期待してはいないが、かといってやらない訳にもいかない。ダメージを与えるだけなら、秘伝を撃てば余裕なのだが、少なからぬノックバックがあるあの技を、どんな攻撃をしてくるかも分からない相手に対し、無防備にいきなり叩き込むのはリスクが大きすぎる。

 まずは余裕がある状態で、どんな手札を持っているかとどの程度タフなのかを確認しないと、この手の相手と戦って生き延びる事は出来ない。

(奴もなかなか慎重だな。)

(やっぱり見せ技が必要かな?)

 攻撃の手を緩めず、小道具を使った念話でこそこそ打ち合わせをする二人。正直なところ、大体のタフさについてはほぼデータがでそろいつつあるため、秘伝での攻撃に入ってもいいのだが、いくら二人で波状攻撃をすると言っても、せめて一つぐらいは敵の大技を確認しないと危なすぎる。

 何しろ、明らかに一発二発では足りない。撃てる総数を考えれば奥の手を使うほどでもないが、かといって全く隙を見せずに仕留められるほどヤワでもない。今までの経験から言って、戦闘能力で言うなら下級と言ったところだが、それでもなのは達ですら荷が重い程度の強さは持っている。

(むう……。)

(まいったね。)

 見せ技として大技の一つ、超圧縮型の気功弾を放って直撃させたものの、見事にスルーされてしまう。今までに比べると、明確にダメージが通っており、しかも明らかに再生能力を上回っていると言うのに、である。ここまで来ると、攻撃手段がほとんど無いのかもしれない、などと思わなくもないが、この手の性格の悪い相手は、そう思ってかさにかかって攻め立てると手痛い反撃を返してくる、と相場が決まっている。

(どうする? リスクはあるが、秘伝を叩き込むか?)

(それしかないかな。こいつは明らかに増殖タイプだから、あんまりちんたらしてられないし。)

(ならば、予備動作が少ない俺が叩き込もう。)

(いや、竜司よ。反動を少なくできるのだから、ここは友が撃った方がいい。一発目の段階では明確に隙ができる訳ではないにせよ、どうしても若干動きが鈍る。)

 ブレイブソウルの反論に一つ頷き、優喜が秘伝に移るための時間を稼ぐため、もう一度大技を叩き込む。この時、ついに待ち望んだ敵の大技が発動した。

「どうやら、こちらの手を待ってくれていたようだからね。少しはリクエストに応えるとしようか。」

 その言葉とともに、周囲の空間がゆがむ。とっさに飛びのいた二人に対し、触手のような何かが一斉にたかりに来る。

「ふん!」

「まだまだ!」

 闘気の壁を貫通し、皮膚をかすめたそれを本体を巻き込むようにして衝撃波で粉砕し、追撃を叩き込もうとする。その刹那、嫌な予感を感じた優喜が、防御姿勢をとることで竜司に警告する。

「ぬう!!」

 とっさにガードを固めた竜司の体を、無数の空間の亀裂が切り裂く。どうやら、こちらが本命だったようだ。

「今のは少々危なかったな。」

「ダメージは?」

「かすり傷だ。五秒もあれば治る。」

 その言葉通り、見ているそばからすべての傷がふさがる。

「だが、万全の状態でガードをしてもそれなりに食らう。三発目から後ろは覚悟が必要だな。」

「何をいまさら。そもそも、三発目を撃つって時点で、やるかやられるかの世界なんだし。」

 優喜の言葉に一つ頷く。そのまま次の攻撃が来る前に、竜司がゼロ距離に踏み込んで敵の気脈を連続して揺さぶる。

「ブレイブソウル、カートリッジ・ロード!」

「友よ、今が駆け抜ける時だ!」

 術式が正しく発動したのを確認し、秘伝を一発叩きこむ。そのまま離脱せずに二発目の準備を行い、竜司が叩き込んだのを確認せずにもう一発を入れる。無差別に開放すれば、地球を半壊させうるだけのエネルギー。それが一切のロスなしで何度も相手に叩き込まれる。

「友よ!」

「食らうか!」

 致命的な範囲で入った空間の亀裂を辛うじて回避し、もう一度ゼロ距離に踏み込む。視界内では、竜司が相手の頭をつかんで秘伝を叩き込んでいる姿が見える。一発叩きこむたびに、相手の体がどんどん大きくなっていくのが、不思議なところである。

「ブレイブソウル!」

「任せろ!」

 なのはを笑えぬレベルでの連続撃発に加え、想定以上のノックバックにそれなりに深刻なダメージを受けながら、必死にリソースをやりくりして三発目の準備を行うブレイブソウル。いくら使い潰されるのも道具の本懐とはいえ、戦闘時の彼女らしくない、あまりに後先を考えないやり方。そんなやり方をせねばならないほど、目の前の相手がやばい。

「痛い痛い痛い痛い!」

「これで痛くなきゃ、さすがに困るんでね!」

 軽口をたたきながら、さらに一発叩きこむ。秘伝の大安売りになっているが、それをせねば勝てない以上は仕方がない。そもそも、彼らの師匠の場合、この技をデコピンでもするかのような気楽さで連発する。最初からありがたみだの何だのと言うのは存在しない。

「折角出てきたのに、こんな短い時間で終わってたまるか!」

 優喜の感覚を持ってすら察知できないタイミングで亀裂を発生させ、二人を大きく切り裂く。さらにそこから触手を伸ばし、わき腹から傷口に食らいつかせて二人の生命力を吸い上げる。

「ぐう!」

「があ!」

 竜司にとってはこちらに来てから初めて、優喜にしても自爆以外では初めての命にかかわる大ダメージに、流石に悲鳴を押さえきれない二人。だが

「……この程度で……。」

「……死ねるものか……!」

 その程度のダメージなどへでもないとばかりに、触手を周りの肉ごと引っぺがし、膨大な気を叩き込んで崩壊させる。そのまま、カートリッジのロードなど待ってられるかとばかりに、流れるような動きで秘伝を追加する優喜。後先考えずに三発目を放つ竜司。反動で全身の血管が破裂し、先ほど受けた傷口から大量に血が噴き出す。

「なんだ!? 何が起こっている!? 何故体が動かない!?」

 悲惨な状態になった竜司に攻撃を仕掛けようとして、唐突に動きが止まる老人。みると、目の前の生き物の姿が、老人とヴァールハイトの二人が入り混じったものに変わっている。

「友よ!」

「分かってる!」

 あちらこちらから煙を吹き出し、小さな爆発をいくつも発生させ、誰の目にも半壊していると分かる姿になったブレイブソウルが、術式の準備が整った事を告げる。それに応え、彼女のサポートが受けられるであろう最後の一発を放つ。放つと同時に、竜司同様全身の血管が破裂し、傷口から大量に血が噴き出す。もっとも

「どうやら……、終わったようだな……。」

「あれで終わってくれなきゃ……、奥の手を切るしか無かったよ……。」

 敵の姿も同時に、消しゴムか何かで消したかのように消滅したのだが。

「最後のは……。」

「多分、ヴァールハイトが最後の意地を見せたんだろうね。」

「助けられた訳だな。」

「そうなるね。」

 重傷を負ってへたりこみそうな体に鞭打ち、立ちあがってどこかに行こうとする優喜。そんな彼を見咎めて、怪訝な顔で問いかける竜司。何しろ、本来なら三日は体が動かせないほどのダメージがあるのだ。

「どこへ行く?」

「おいたしたメガネに、ちょっと制裁をしに、ね。」

「そうか。」

 どうやら、優喜の仕事はまだ終わりそうもないらしい。ふらふらと立ち去る親友の姿を見送ると、竜司は聖王教会に対して通信を入れるのであった。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.033298015594482