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No.18616の一覧
[0] (完結)竜岡優喜と魔法の石(オリ主最強 再構成 エピローグ追加)[埴輪](2012/04/21 21:14)
[1] ジュエルシード編 第1話[埴輪](2011/05/08 09:49)
[2] 第2話[埴輪](2010/10/31 11:50)
[3] 第3話[埴輪](2010/05/16 20:08)
[4] 第4話[埴輪](2010/10/31 11:53)
[5] 第5話[埴輪](2010/11/01 21:26)
[6] 閑話:元の世界にて1[埴輪](2010/06/06 22:47)
[7] 第6話 前編[埴輪](2010/11/01 21:30)
[8] 第6話 後編[埴輪](2010/07/10 22:34)
[9] 第7話[埴輪](2010/06/26 22:38)
[10] 第8話[埴輪](2010/07/03 22:20)
[11] 第9話[埴輪](2010/07/11 23:45)
[12] 閑話:元の世界にて2[埴輪](2011/06/25 09:05)
[13] 第10話[埴輪](2010/07/24 21:02)
[14] 第11話[埴輪](2010/08/14 14:15)
[15] 第12話[埴輪](2010/08/07 17:09)
[16] 第13話[埴輪](2010/10/06 22:44)
[17] ジュエルシード編 エピローグ[埴輪](2010/08/21 19:05)
[18] ジュエルシード編 後書き[埴輪](2010/08/21 19:06)
[19] 闇の書編 第1話[埴輪](2010/08/28 21:12)
[20] 第2話[埴輪](2010/09/04 18:23)
[21] 第3話[埴輪](2010/09/11 18:29)
[22] 閑話:フェイトちゃんのお買い物[埴輪](2010/09/18 17:28)
[23] 第4話[埴輪](2010/10/31 11:42)
[24] 第5話[埴輪](2010/10/06 22:17)
[25] 第6話[埴輪](2010/10/09 11:11)
[26] 第7話 前編[埴輪](2010/10/16 18:21)
[27] 第7話 後編[埴輪](2010/10/23 15:32)
[28] 閑話:ヴォルケンズの一週間[埴輪](2010/11/01 21:23)
[29] 閑話:なのはとフェイトの嘱託試験[埴輪](2010/11/06 19:00)
[30] 第8話 前編[埴輪](2010/11/13 18:33)
[31] 第8話 後編[埴輪](2010/11/22 21:09)
[32] 第9話[埴輪](2010/11/27 11:05)
[33] 閑話:元の世界にて3[埴輪](2010/12/04 17:29)
[34] 第10話[埴輪](2010/12/11 18:22)
[35] 第11話[埴輪](2010/12/18 17:28)
[36] 第12話[埴輪](2011/01/08 13:36)
[37] 闇の書編 エピローグ[埴輪](2011/01/09 08:08)
[38] 闇の書編 あとがき[埴輪](2010/12/31 22:08)
[39] 空白期 第1話[埴輪](2011/01/08 14:39)
[40] 第2話[埴輪](2011/01/15 11:39)
[41] 閑話:高町家の海水浴[埴輪](2011/01/22 09:18)
[42] 第3話[埴輪](2011/01/29 19:16)
[43] 第3話裏[埴輪](2011/02/06 08:55)
[44] 閑話:高町家の歳時記[埴輪](2011/02/19 17:56)
[45] 閑話:聖祥学園初等部の林間学校[埴輪](2011/06/25 09:06)
[46] 第4話[埴輪](2011/02/26 09:18)
[47] 第5話[埴輪](2011/03/05 19:26)
[48] 第6話[埴輪](2011/03/19 18:33)
[49] 第7話[埴輪](2011/06/11 17:58)
[50] 第7話後日談[埴輪](2011/04/03 10:25)
[51] 閑話:竜岡優喜の鉄腕繁盛記[埴輪](2011/04/09 19:07)
[52] 第8話[埴輪](2011/04/16 17:57)
[53] 閑話:時空管理局広報部の新人魔導師[埴輪](2011/04/23 11:07)
[54] 閑話:竜岡優喜の憂鬱[埴輪](2011/04/30 18:34)
[55] 閑話:ある日ある場所での風景[埴輪](2011/05/07 17:31)
[56] 第9話[埴輪](2011/05/14 17:40)
[57] 第10話 前編[埴輪](2011/05/21 17:58)
[58] 第10話 後編[埴輪](2011/05/28 21:07)
[59] 閑話:高町家の家族旅行[埴輪](2011/06/05 21:02)
[60] 閑話:元の世界にて4[埴輪](2011/06/11 18:02)
[61] 第11話[埴輪](2011/06/18 17:33)
[62] 第12話[埴輪](2011/06/25 09:05)
[63] 第13話 前編[埴輪](2011/07/02 21:22)
[64] 第13話 中編[埴輪](2011/07/09 20:51)
[65] 第13話 後編(R-15)[埴輪](2011/07/16 11:51)
[66] エピローグ あるいはプロローグ[埴輪](2011/07/23 11:03)
[67] 空白期後書き[埴輪](2011/07/23 11:22)
[68] ゆりかご編 第1話[埴輪](2011/07/30 19:10)
[69] 第2話[埴輪](2011/10/01 18:39)
[70] 第3話[埴輪](2011/08/20 18:23)
[71] 第4話[埴輪](2011/08/27 18:40)
[72] 第5話[埴輪](2011/09/03 18:13)
[73] 第6話[埴輪](2011/09/24 19:13)
[74] 第7話[埴輪](2011/09/26 19:49)
[75] 第8話[埴輪](2011/10/01 18:39)
[76] 第9話[埴輪](2011/10/08 18:22)
[77] 第10話 前編[埴輪](2011/10/15 20:58)
[78] 第10話 後編[埴輪](2011/10/22 19:18)
[79] 第11話 前編[埴輪](2011/11/05 19:03)
[80] 第11話 後編[埴輪](2011/12/03 19:54)
[81] 閑話:ある日ある場所での風景2[埴輪](2011/11/26 21:00)
[82] 第12話[埴輪](2011/12/03 19:54)
[83] 第13話 前編[埴輪](2011/12/10 20:17)
[84] 第13話 後編[埴輪](2011/12/17 19:21)
[85] 第14話 その1[埴輪](2011/12/24 20:38)
[86] 第14話 その2[埴輪](2012/01/07 20:47)
[87] 第14話 その3[埴輪](2012/01/21 19:59)
[88] 第14話 その4[埴輪](2012/01/28 21:24)
[89] 第15話 その1[埴輪](2012/02/04 19:04)
[90] 第15話 その2[埴輪](2012/02/18 20:56)
[91] 第15話 その2裏[埴輪](2012/02/25 21:31)
[92] 第15話 その3[埴輪](2012/03/03 18:43)
[93] 第15話 その4[埴輪](2012/03/17 19:40)
[94] 第15話 その5[埴輪](2012/03/24 13:56)
[95] 第15話 その5裏[埴輪](2012/04/07 21:01)
[96] 第15話 その6[埴輪](2012/04/15 23:11)
[97] エピローグ[埴輪](2012/04/21 21:14)
[98] あとがき[埴輪](2012/04/21 23:41)
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[18616] 第14話 その4
Name: 埴輪◆eaa9c481 ID:60d866f5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/28 21:24
「隊長! 駄目です!」

「まだ……、敵が居る……!」

 満身創痍の体を引きずり、治療担当の隊員を振り切って、地上196部隊隊長は戦場に戻ろうとする。現在ここ南口の状況は、ほぼ壊滅的と言っていい。普通の戦争における敗戦ラインと言われている、戦力の損耗率三割はとっくの昔にすぎており、回収できずに流れ弾で原形をとどめなくなるまで破壊された遺体も少なくない。隊長自身もすでにスケープドールは破壊され、重傷のわき腹と左肩をはじめ全身くまなく負傷している。魔力もほとんど空で、あと何発か攻撃すれば、カートリッジの反動で死にかねない。

 とは言え、彼以外の生き残りも、ここに戻ってきている人間は似たり寄ったりだ。そもそも、いまだにスケープドールが残っている隊員自体がすでにおらず、辛うじて無傷でしのいでいる人間が数名いる程度だ。海の援軍もすでに半壊と言っていい被害が出ており、もはや全滅は時間の問題である。脇腹をえぐられた程度なら適当に止血して戦闘を継続している、と言うのが実際のところで、一秒ごとに状況は悪くなって行っている。

 そもそも出だしの状況が悪かった事に加え、ここが手薄だと言うのがすぐにばれたらしく、増援が最も多く投入されたため、一気に戦況が悪化した。他の場所と違って遮蔽を取りにくく、数の差がダイレクトに出てきたのも痛かった。その上、撹乱のためか犯罪組織の下っ端どもが後ろでちょろちょろ余計な事をしてのけ、そうでなくても少なかった余裕を全て削り取ってくれている。今現在拮抗を保てているのは、海の部隊が張った物理結界の恩恵にすぎない。

 もっとも、その下っ端どもに関しては、割と最初の段階でレトロタイプの攻撃を受けて、すでに全員絶命している。多分、口封じの類であろう。

「今その体で出て行っても、無駄死にするだけです! 第一、魔力だってほとんど無いじゃないですか!」

「カートリッジを使えば……、三発ぐらいは……、砲撃を撃てる……。」

 砲撃三発など、この状況では焼け石に水だ。そもそも、隊長がここでそう言う死に方をしてしまうと、ここを凌ぎきった後、隊を立て直すのに余計な時間がかかってしまう。指揮官と言うのは、生き残って責任を全うするのも仕事なのだ。

「とにかく! ここを通す気はありませんから!」

 隊長と押し問答を続けていると、辺り一帯を膨大な魔力が覆い尽くす。

「治療結界? 援軍!?」

 突如張られた結界の効果に、思わず喜びのにじんだ声を上げてしまう治療術師。張られた結界の難易度はいいところ上の下、治療専門の魔導師ならそれほど苦労せずに張れる代物だが、込められた魔力の量が桁違いである。はっきり言って、この魔力なら、余程の重症者以外は五分もあれば全快しかねない。

 結界の状態を確認していると、結界の外を桜色の魔力光が走り抜ける。いわゆるクラスター砲と言うタイプの砲撃で、弱いが数が多い相手を叩くときに使われるものだ。この色の魔力光とこれだけの魔力を持つ人物と言えば、一人しかいない。

「遅くなりました!」

「……高町一等空尉、ですか……。」

「はい、高町なのはです!」

 デビューしたころからつきあいのある隊長の姿を見て、泣きそうになるのを必死にこらえる。

「これより敵の掃討に移ります! 皆さんは一度下がって、体勢を立て直してください!」

「我々も……、戦います……。」

「まだ、この後があるんです! ここで全てを使いきっちゃいけないんです!」

「戦いを……、好まないあなただけに……、全てを押し付ける訳には……。」

 年が親子ほど離れた目の前の隊長にとって、なのはとフェイトは、いまだに十歳の少女のままなのだろう。初めてあった頃から随分と背も伸び、多くの女性がうらやむプロポーションを手に入れ、すでに恋人まで居るのだが、やはり最初のイメージが強いらしい。

「そう思うのなら、ちゃんとここで体を治して、ちゃんと戦えるようになってください。あまり言いたくはありませんが、その怪我で戦闘に参加されると、気になって集中できません。」

 娘のような存在に暗に足手まといと言われてしまい、情けなさに泣きたくなってしまう隊長。だが、この心やさしい女の子の場合、怪我人、それも重傷だと言える人間がしゃしゃり出ると集中力が散漫になり、それこそ命にかかわるミスを犯しかねない。その可能性が無視できない程度にはある以上、いくら歯がゆくても大人しくするしかない。

「さっき減らした程度の数では、大して時間は稼げません。早く避難を!」

「……分かった。……済まないが、……退却指示を代わりに出してくれないか。……大きな声を出すのは、……少々辛くてね。」

 隊長の頼みを聞き、一時退却の指示を代理で全部隊に通達する治療術師。その言葉と同時に結界を飛び出し、もう一度クラスターを撃つなのは。たった二発で三割近い数を仕留めるものの、その結果にいまいち不満げな顔をする。

「やっぱり、セイクリッドクラスターだと、これだけの範囲に広がった相手を仕留めるには、ちょっと効率が悪いよね。」

『肯定します。』

「あまりやりたくないけど、やっぱりあれの方が早いかな?」

『むしろ、他に効率よく殲滅する方法は無いでしょう。』

 レイジングハートの言葉に一つ頷くと、サーチャーを飛ばしてざっと位置取りを確認する。最大効率で殲滅するなら、その場から動かないのが一番だ。

「レイジングハート、ラピッドモード!」

『ラピッドモード。』

 なのはの掛け声にあわせ、レイジングハートが新モードを披露する。先端の形状こそさほど変わらぬものの、中ほどにドラム型の大きなカートリッジシステムが取りつけられ、その付近に腰だめに持って横に薙ぎ払いやすいようにグリップが追加されたそれは、もはや杖とはとても呼べない姿になっている。

「行くよ、レイジングハート!」

 袖口から引っ張り出した弾帯を斜めに二周して肩にかけた後ドラムに接続し、気合を入れて腰だめに構える。主の声に応え、即座に虚空に辺り一帯の敵の分布を表示するレイジングハート。そのデータに合わせ杖の先端を向け、この形態の専用技を発動させる。

「ラピッドバスター!!」

 トリガーとともに景気よくベルトを飲み込みカートリッジを撃発し、ものすごい勢いで吐き出されるディバインバスター。手数による面制圧を重視したため、爆発力より貫通力を向上させたその砲撃は、地面すれすれで勝手に曲がり、一本一本が多数のガジェットやレトロタイプを飲み込んで粉砕していく。

 秒間五発を数えるディバインバスター。その威力を落とさないためのドラム式カートリッジシステムは、今のところ弾詰まりを起こしたりせず、順調に魔力を増幅し続けている。レイジングハート本体にもこれと言った悪影響は出ておらず、問題なくあたりにカートリッジの空薬莢を吐き出し続けている。

 普通ならこんな真似をすれば体が持たないものだが、そこは持久力をとことん追求している竜岡式。もともと弾帯に使われているのが、威力低下を抑えるためだけの小型カートリッジなのもあり、この程度の反動は無いも同然である。豪快に軽快に砲撃をばらまき続けて三十秒、辺り一帯の敵影は綺麗に消え去っていた。

「レイジングハート、敵の追加は?」

『今のところ確認されていません。』

「ベルトのカートリッジ残量は?」

『約75%。残り九十秒は掃射が可能だと思われます。』

「了解。」

 状況を確認して地上に降りる。敵が居なくなったのであれば、他の事をやればいい。他所に援護に行く前に出来る範囲で遺体の回収ぐらいは済ませ、部隊の立て直しをちゃんとしておかなければ、次に悪い方に状況が変化すればここから崩れていくのは目に見えている。

「敵の掃討を完了しました。」

「……相変わらず、すさまじいですね……。」

「いろいろ問題がある形態なので、本当はあまり使いたくないんですけどね。」

「問題、ですか。たとえば?」

「まあ、一番大きいのは見た目なんですが、専用のカートリッジだから他のデバイスと全く互換性がないとか、物理的な稼働部分が多いからトラブルが起こりやすいとか、カートリッジを使ってる割には言うほど一発の威力を増やせないとか、結構致命的な問題がちらほらと……。」

 なのはの説明に、そうだろうなあ、と納得してしまう治療術師。特に見た目の問題、と言うのはよく分かる。仮にもアイドルにあのデバイスは無い、とは誰もが思うことだろう。威力に関しては、レトロタイプやガジェットを複数消滅させて減衰しなければ十分すぎるだろう、と言うのも共通認識に違いない。

「とりあえず、次に何があるかは分からないので、治療を手伝います。何をすればいいですか?」

「そうですね……。」

 激戦区の南口は、激戦区であったがゆえに最強の援軍が送り込まれ、結果として一番早くガジェットとレトロタイプの混成部隊を制圧する事になったのであった。







「南口の制圧、確認しました!」

「北東部、現在八割制圧!」

「やっぱり、なのはちゃんらがおるところは早いなあ。」

「伊達に管理局の最大戦力と認定されている訳では無い、と言う事ね。」

「ですが、残存部隊の損耗率がどちらも四割を超えています。集中力が途切れた現状では、事実上壊滅したと言ってしまって間違いないと思います。」

 グリフィスの生真面目なコメントに、思わず難しい顔をしてしまうはやて。損耗率四割オーバーと言うのは、普通であれば退却途中で受けたダメージも合わせた結果に近い。そこに至るまで踏みとどまった、ということ自体が驚きだが、それだけの被害が出るまで援護にいけなかった、と言う事でもある。地上部隊の責任感を評価する以前に、自分達の初動が遅すぎた事が問題視されるのは確実だ。

「四割かあ……。どっかから戦力を引っ張ってこなあかんなあ……。」

「戦力、ねえ……。」

 何とも難しい状況に唸ってしまう。そんな余剰戦力があれば、最初から苦労してはいない。だが、いつまでもなのはやフェイトをその場に張りつけておくと言うのももったいないし、第一、彼女達にはゆりかごの制圧とスカリエッティの逮捕という大仕事が残っているのだ。

「戦力の当ては、ない訳ではないのだけど……。」

「ほんまですか?」

「ええ。ただ、状況が分からないのよね。」

「状況?」

 はやて達の怪訝な表情に、どう説明しようか少し考え込むプレシア。

「私がAMF対策でいろいろ作っていたのは知っているわよね?」

「そら、そのせいでアースラの艤装が遅れたんやし。」

「そのうちの一つが、今日最終調整をやってるはずなのよ。」

「それってどんなシロモンなんです?」

「数年前から開発されていた魔力無効系技術対策の兵器、通称AEC兵器をベースとした一般局員向けの特殊兵装、その先行量産型よ。」

 その言葉に驚くべきかどうか、微妙に悩むはやてとグリフィス。プレシアが裏でいろいろやっているのは今更の事だし、その成果が常識の範囲内に収まらないのもいつもの事だ。とは言え、アースラの艤装やら新デバイスの面手や改造やらをこなしながら新兵器を先行量産までこぎつけていると言うのは、さすがに驚くべきなのかもしれない。

「で、具体的にはどんなもんを用意したんですか?」

「今の段階では、特殊魔導砲・ストライクカノンと、航空魔導師支援ユニット・フォートレスの二つね。とりあえず、コアとなるジュエルジェネレーターの量産試作品が予定よりかなり多く出来たから、ストライクカノン四百とフォートレス二百を用意して、地上と海に試験配備したの。で、納品が先週末で、今朝聞いた状況では昨日の時点で合同での最低ラインの訓練が終わって運用が固まって、今日最後の微調整をやってるところだと言っていたから、多分そろそろ動けるはずなのだけど……。」

「首都航空隊から連絡! フォートレス隊の準備が完了。出動先の指示を求む、とのことです!」

「ナイスタイミングやな。プレシアさん、フォートレス隊とやらだけで、北東部と南口の穴は埋まります?」

「流石に厳しいわね。今回のは扱いやすさを重視して武装をかなり絞り込んであるから、全体的に大物を相手にするにはパワー不足なのよね。全員がストライクカノンを併用する事を前提で考えても、やはりサポートはあった方がいいわね。」

 プレシアの厳しい説明に、必死になって頭を回転させる。何にしても、ここで方針を決めるのに手間取って、投入が遅れる事だけは避けねばならない。

「ほな、とりあえず他所から回す前提で北東部と南口に三小隊ずつ、拠点制圧に三小隊。残りは一旦均等に割り振るとして、どこから北東と南に戦力を回すかな……。」

 とりあえず指示を出した後、戦況を確認してざっと計算する。どこも微妙に一進一退だが、それでも明らかに余裕が出ているところはある。ただ、戦闘と言うのは水ものだから、ほんの少しの戦力の変化で状況がひっくり返る、などと言う事は珍しくない。故に、そこからどの程度回していいのかという判断は難しい。

 また、全体的に予定よりいい感じで話は進んでいるが、一部想定外の状況になっている部分もある。その最たるものが、遊撃に回ったティアナ達新人チームが、トラブルに巻き込まれて足止めを食らっていることだろう。おかげでそのしわ寄せが竜司とカリーナに降りかかり、予定よりもアンチテレポートと結界の設置が進んでいない。

「フォートレス隊が動けるとなると、ストライクカノン隊もそろそろ動けるはずよ。ただ、あっちはフォートレス隊と違って足が遅いから、どれだけ頑張って急行しても五分はかかると思った方がいいわ。」

「……五分稼げればいいの……?」

 ブリッジの手伝いをしながらプレシアとはやてのやり取りを聞いていた美穂が、蚊の鳴くような声でぽつりと聞いてくる。その言葉に、その場にいた人間の視線が集中する。

「稼げるん?」

「……五分持たせるだけなら……。」

 その美穂の言葉に、ほんの少し考え込むはやて。出した結論は、聞くだけ聞こう、である。

「美穂の考えを言うてくれへん?」

「……西口と南東部は、拮抗させるだけなら、あと五%戦力が少なくても問題ありません……。」

「断言できるん?」

 はやての問いかけに頷く。戦場を知らない美穂ではあるが、今までの状況の推移から、どのラインまでは大丈夫か、と言うのは大体察している。この場合、すぐにフォートレス隊が一部隊到着する事と、ストライクカノン隊が到着するまでの五分を凌げば問題ないことから、敵の行動で余程状況が悪化しない限りは問題ない。正直なところ、ぎりぎりまで削っていいと言うのであれば、二割ぐらい他所に回してもまだ余力があると判断しているが、実戦経験の無い自分がデータだけで判断するのは危険だと考え、安全マージンを多めに見積もって答えたのだ。

「……やけに自信あるけど、その理由を聞いてええ?」

 はやての言葉に、余力があると考えた根拠の一つを指さす。指さした先にあるのは、前線の隊員のバイタルデータと損耗率の一覧表。確かに美穂が提案した二カ所の部隊は、バイタルデータを見てもほとんど消耗しておらず、損耗率もほとんど無傷と言っていい数字だ。

「……逆に、ここに戦力を集中させて、一気に制圧して他所に援軍を出す、という方法もあります……。」

「せやな。よし、分かった。」

 美穂の意見を聞いて、何かを決めたらしい。

「プレシアさん、ゆりかごは西口と南東部、どっちの方が近い?」

「西口かしら?」

「アンチテレポートと結界の状況は?」

「どちらも安定しています!」

「ここでやるべき作業も終わっているし、今ならアースラを動かせるわよ。」

 その言葉を聞いて、決断を下す。

「アースラを西口へ!」

「了解!」

「西口と南東の隊員のうち、まずは一番消耗の少ない部隊を二部隊ずつ南口と北東部へ! 私が出た後は、グリフィス君が全体の指揮を。美穂ちゃんは、出来ればグリフィス君のサポートをお願いや。」

「……善処します……。」

「無理はせんでええで。元々グリフィス君はそのための訓練を受けてるんやし。」

 はやての言葉に小さく頷く。劣勢だった状況は、急速にひっくり返る気配を見せ始めたのであった。







「ランスター執務官より連絡! これよりマスタングの拠点へ強襲をかけるため、可能であれば広報部から何名か支援が欲しいとのことです!」

「マスタングの拠点か……。」

 ティーダからの要請に、じっくり考え込む。ざっと支援要請を出せそうな人間のリストを頭に思い浮かべ、とりあえずその中で一番無難そうなカリーナに連絡を取ろうとして、ヤマトナデシコの三人と目があう。

「優喜君となのはちゃんに、ちょっと連絡とって。」

「あの二人を動かすのですか?」

「いや。ヤマトナデシコの三人、現時点での仕上がり具合はどうなんかな、って。」

「……規定に引っかかりますよ?」

「今更の話や。それに、この子らの切り札は、後方支援にうってつけやった覚えがあるし。」

 はやてに言われ、しょうがなしになのはと優喜を呼び出すグリフィス。

『どうしたの、はやてちゃん?』

『何か厄介事?』

「そこまでの事やあらへんねんけどな。」

 そう言って、ざっと詳細を説明する。

「最初はカリーナを送り込もうかと思ってんけど、そうすると結界内部の対応が手薄になるねん。それに、下手にあの辺を送り込んで、手柄を横取りする形になってもまずいしな。そう言うわけやから、後方からヤタノカガミか神楽で支援させるだけやったら、何とかならへんかな?」

『……確かに、高天原なら拠点制圧の支援にはいいし、マスタングの基地は機械兵器が主体だろうから、初陣からいきなり人を殺したとかそういう問題にはつながりにくいだろうけど……。』

「因みに、三人の力量的には、どんな感じ?」

『実戦経験の無さを差し引いて、総合A+ってところ。支援限定ならミコトはAAA、リーフはAA+ぐらいにはなるかな?』

『体力面はまだまだ地上の一般局員にも劣る感じだけど、気功の基礎はできてる。那美さんいわく、三人とも霊力の扱いとは相性がいいらしくて、特にミコトは現段階で神咲の上位といい勝負だって言ってた。フルドライブでドーピングするんだったら、短期決戦ならどうにかなるんじゃないかな?』

「十分やろう。出来るだけ前の方に出さんようにしてもろて、保険でリニスさんについていってもろたら何とかなるんちゃう?」

 はやての言葉に唸るなのはと微妙な顔をする優喜。

『リニスさんを送り込むんだったら、いっそ僕がそっちに行こうか?』

「いや、優喜君はこの後なのはちゃんと一緒にゆりかごの攻略に回ってほしいし、フェイトちゃんはスカリエッティのラボや。竜司さんは拠点制圧言うより拠点破壊になりそうやし、何より優喜君も竜司さんも立場は外部協力者や。あんまりこういうケースで暴れてもらうんも、後々ややこしい事になる。」

『まあ、グレアムさんとかレジアスさんとかがOKを出すなら、そこははやてに一任するよ。』

『納得はいかないけど、人手不足だもんね。トーマ達を駆り出さないだけまし、ってことにしておくよ。』

『とりあえず、過保護かもしれないけど、美穂に預けておいたエンチャントアイテム、全部渡しといて。』

「了解や。」

 優喜の言葉に、これでかつる! などと内心でガッツポーズをとりながら一つ頷く。優喜達との会話を聞いていた美穂が、デバイスから山盛りのエンチャントアイテムを取り出し、ヤマトナデシコの三人に使い方や機能を説明している。一番えげつないのが、複合エンチャントで物理攻撃無効と光学兵器無効がかかったペンダントで、元々ゆりかごとスカリエッティのラボに突入するメンバー用に用意しておいたものらしい。

 そんな便利なものがあるなら、せめて広報部の人数分は用意しておけばよかったんじゃないか、と言う話には、優喜の手を煩わせるのは一日ぐらいでも、完成するまでには一個につき二週間ぐらいかかり、同時に三つぐらいしか作れない、と言う生産性の問題が立ちふさがる類の物である。こんなこともあろうかと作り初めて一カ月では、六個しか完成していない。とは言え、魔力攻撃を一切してこない機械兵器は、攻撃面ではこのアイテムだけでほぼ完全に無力化できてしまう。

 ほぼである理由は、体当たりは衝撃も含めて無効化できても、のしかかられてしまうと防げないからである。重量をかけてくるのは攻撃ではないから、と言うとんちみたいな理由であり、逆にこれを防ぐには重量軽減のエンチャントが必要になる。地味に応用が効かないが、それでも十分すぎるほど強力なので誰も文句は言わない。

「まあ、そう言うわけやから、グレアムさんとレジアスさんに一応の許可をとったら、自分らはリニスさんと一緒に出撃や。」

「さっき、許可は取っておいたわ。あまりいい顔はしてなかったけどね。」

「そうやろうなあ。私もこういう状況で、安全マージンを取る手段がなかったら考えもせえへんかったやろうし。」

「まあ、今回は仕方がないから協力はするけど、人の使い魔を、勝手に安全マージンとして使おうとしないでほしいところね。」

「ごめんなさい。」

 軽快にやり取りをしながら、ティーダを呼び出す。見習いを研修も兼ねて後方支援につける旨を説明し、リニスをつけているから安全に気を配る必要は無い事、研修の一環なので前には出さない事、の二つの注釈を入れた後、それでいいのであれば支援を出す、と告げる。

『戦力年齢規定に引っかかるような子たちなんでしょ? あんまり気が進まないなあ。』

「正直なところ、私も褒められた話やないと思ってる。せやからフルドライブの大技一回使ったら、そのまま引き揚げさせるつもりでおる。」

『いろんな意味で、それ大丈夫なのかい?』

「効果については保証できるで。こういう任務の支援にはうってつけや。」

『……リニスさんだけ、って言うのは無理かな?』

「今更の話やけど、一応プレシアさんも外部協力者やからな。その使い魔も、あんまり単独で他所の部署の人と一緒に行動するんはよろしくないねん。」

 今更のような話に苦笑を浮かべ、なるほど、と告げるティーダ。

『支援能力は十分なんだよね?』

「そこはなのはちゃんと優喜君が太鼓判を押しとる。広報部の秘密道具で防御もガチガチに固めとるから、前に出さへん分には安全面は問題ないはずや。」

『だったら、後輩の研修に付き合うよ。』

「ごめんな。支援とか言いながら、気を使う人員を送り込んで。」

『いいって。どうせ広報部の見習いだったら、並の地上局員よりは実力が上でしょ? それに、六、七年前までは、今回みたいに才能がある子供が先輩にひっついて、こういう重要な任務をこなすってのも割と当たり前の事だったし。』

 その被害が結構洒落になっていないから、グレアムとレジアスが命がけで年齢規定を作り上げたのだが、まだまだ常にそれを守れる環境にはなっていない。

「ほな、これからそっちに行かせるから、申し訳ないんやけど引率頼むわ。その代わり、支援って項目やったら絶対に役に立つはずから。」

『了解。支援、感謝します。』

 ティーダの敬礼に敬礼で答え、通信を切る。

「ほな、急な話で悪いんやけど、ちょっと行って来てくれへんかな?」

「「「了解です!」」」

はやてからの指示を受け、貰ったエンチャントアイテムの最終確認を済ませ、リニスとともにティーダのもとへ合流しに行くヤマトナデシコ。そんなこんなをしているうちに、目的地の西口が見えてくる。

「フィー、そろそろデバイスとしてのお仕事や。大至急ブリッジに上がってきて。」

『はいなのですよ!』

 捕虜の様子を見たりトーマ達の世話をしたりと細かい雑用をこなしていたフィーが、大急ぎで上がってくる。逆転しつつあった流れを完全に決める一撃を放つまで、あとわずかとなったのであった。







「三カ所が全滅だと?」

「ああ。……今、四カ所目が壊滅した。」

「どういう事だ?」

「最初の二カ所は、優勢に進めていた場所に高町なのはとフェイト・テスタロッサが現れた。三カ所目は八神はやてが直々に出てきて制圧。四カ所目は、どこからともなく表れた正体不明の大男が、原理不明の非常識な技であっという間に掃除してしまったらしい。他の地区も広報部の連中が押し返しているから、全滅するのは時間の問題だろうな。」

 腹心ともいえる男の言葉に、顔を大きくゆがめる。彼らは夜天の書再生反対運動を起こしていた過激派武装勢力「闇を滅する会」の中枢である。他にも同じ思想を持ついくつかのグループと連携を取り、いずれ管理局相手に事を起こすために、スカリエッティやマスタングから大量に兵器を購入していた一派だ。彼らの発言力が大きいのは、クライド・ハラオウンが殉職した二十一年前の闇の書事件、その更に一回前の事件の生き残りだからだ。

 もはや九十近い上に、二度の闇の書事件、どちらも被害者の身内として関わっており、内容を横に置けば、その言葉の説得力は途方もないものがある。故に、旗頭として彼らのもとに過激派が結束しているのだ。その憎しみがエネルギーとなり、九十近い年齢の老人とは思えない若々しさを保ち、認知症のような症状が一切出ていない事は皮肉である。

 他のマフィアや人種差別主義者の過激派武装集団などと違い、彼らは最終的な目的も取ろうとした手段も同じであり、それゆえに今回事を起こした連中の中では横のつながりが強い一派である。

「またしても闇の書か、忌々しい!」

「全くだ。他のグループの同志もいくつか、かつて夜天の王の代理人を名乗っていた女顔の男やイロモノ部隊の小娘に襲撃を受けて壊滅しているらしい。」

「我々の持っている機械兵器は全滅か?」

「まだ少々残ってはいるが、状況をひっくり返すほどの数は無い。そもそもあれだけの数を用意して、接敵からせいぜい三十分もかからずに広報部の連中から壊滅的な打撃を受けるとは思わなかったからな。」

 地上本部が最も苦手とする物量勝負の消耗戦。それを仕掛けてひっくり返されたと言う予想外の状況に、思わずため息が漏れる。

「マフィアどもの装備はどうだ?」

「詳細の連絡は無いが、新たに出現している様子が無いところを見ると、いい加減打ち止めだろうさ。」

「……全くもって、忌々しいな。」

「それで、どうする? 犯罪者どもと違って、こちらにはもはや、ここから行動を起こせるような手段は無いぞ?」

 腹心の言葉に黙りこむ。だが、その沈黙は、どうすればいいか決めあぐねているものではなく、やるべきかやらざるべきかを躊躇っている種類の空気を纏っていた。

「……何か、手はあるのか?」

「無い訳ではないが……。」

「ならば、何故ためらう?」

 その言葉に、重い口を開く。

「ならば同志よ。私と一緒に、死んでくれるか?」

「……私が死ねば、闇の書を確実に始末できるのか?」

「伝承通りであれば、奴らに対抗手段は無いはずだ。本当かどうかは、分からないがな。」

「ならば、死のう。」

 躊躇い無く返事を返す腹心に、やはりと言う顔をするリーダー。

「お前がそう言うと分かっていたから、この話をする気が起こらなかったのだが……。」

「あれとその持ち主を消すために、いまさら何を惜しむのだ?」

「実際に効果があるかどうか分からんのだが、いいのか? あの伝承が虚偽であれば、我らはただの自殺だぞ?」

「何をいまさら。どうせもはや何も残ってはいない。どう転んでも犬死ならば、あやふやな伝承に縋るのも、悪くなかろう?」

「……そうだな。我々には、もはや失うものは無い。やるか。」

 管理局や聖王教会内部の協力者も失い、資金も今回の件で尽きた。仲間達の大半が不当逮捕され、ここから再び活動を盛り返す事は、もはや不可能だろう。ならば、真偽があやふやな、実際に効果があるかどうかも分からないおまじないもどきに命を差し出すのも悪くない。結果が同じであれば、自己満足のためにやれるだけやった方がいい。

 伝承通りであれば、下手をすればミッドチルダが滅ぶかもしれない。だが、闇の書を破壊せず、持ち主をのうのうと生かしているどころか重要な地位につけている時空管理局も、それを黙認どころか積極的に進めたミッドチルダも、別に滅んでしまっても問題ない。いや、滅ぶべきだろう。

「ならば、儀式をしに行こう。」

「ここでは無理なのか?」

「場所が足りん。それに、使うかもしれんと考えて、すでに準備はしている。」

「なるほどな。では、さっさとやろうか。闇の王の破滅のために。」

「闇の王の破滅のために。」

 闇の書に故郷を奪われ、二度も家族を全て奪われた男達は、自分達のやろうとしている事が、憎い相手と同じ事である事に気が付いていない。長い年月を憎しみ抜いた二人は、すでに狂気の世界に足を踏み入れているのであった。







「どうやら、管理局が来たようじゃの。」

「逃げる算段は付いているのか?」

「数に不安はあるが、まあ、何とかなるじゃろうて。」

 急ごしらえの防衛用を確認し、そううそぶくマスタング。

「因みに、何を作ったんだ?」

「小型を合計五百ほどと中型を百、それからタイプFとタイプNを合計三十、と言ったところかの?」

「よくもまあ、この短時間でそれだけ生産できるな。」

「何、仕様未確定の半完成品を大量投入しただけの事じゃ。それに、言うてはおらなんだが、開戦直後の接敵前から作り始めてはおったからの。」

 爺の言葉に、思わず呆れて首を横に振るフィアット。

「普通に考えれば、その数があれば逃げる時間ぐらいは余裕で稼げそうだが、不安なのか?」

「向こうも新兵器を投入してきておるからの。データが足らんでどの程度の物かは分からんが、あの魔女が絡んでおるのであれば、小型の五百や千では相手にならんだろうて。」

「全く、あの婆様も元はこちら側のくせに、厄介なものばかり作ってぶつけてくれる。」

「別人とはいえ、娘を取り戻して幸せの絶頂だからの。飯の心配もなくなっておる以上、わざわざ体制に喧嘩を売る理由もなかろうて。」

 体制側についたマッドサイエンティスト、と言うやつがこれほど厄介だとは思わなかった。倫理規定と言う枷がある代わりに、それさえ守っておけば大ぴらにマッドな発明をして許されるのだ。しかも、調達に便宜を図ってもらえ、場合によっては合法的に資金を融通してもらえる。もっとも、あの魔女にとっては、資金の問題など何の制約にもなっていないだろうが。

「それで、向こうの連中の体制はどうなっておるのかの?」

「ほぼ壊滅、と言ったところか。予想通り、一番優勢だった南口と北東部に高町なのはとフェイト・テスタロッサが投入されたからな。広域攻撃がそれほど得意ではないフェイト・テスタロッサで三分程度、高町なのはに至っては三十秒で殲滅してくれたよ。」

「妥当と言えば妥当じゃが、流石に少々面白くは無いのう。」

「ついでに言うと、西口で八神はやてが前線に出ている。三カ所も制圧されたら、後は時間の問題だろう。」

「クラナガン内部はどうなっておる?」

「遊撃で動いている連中が迅速に叩いて回っているから、大した成果も上がっていない。」

 フィアットの報告に、ふむ、と一言つぶやいて考え込むマスタング。

「ちっと、調べてみるかの?」

「何をだ? と言うより、今からか?」

「何、世界征服ロボの残骸が、どの程度残っておるかを調べるだけじゃ。」

「それに何の意味があるんだ?」

「見てのお楽しみじゃ。」

 フィアットの質問をニカッと笑ってはぐらかすと、手元の携帯端末を操作して何やら調べている。

「まあ、なかなかいい具合のようじゃ。」

「本気で何をする気だ? と言うより、脱出の準備をしなくていいのか?」

「そっちは準備万端じゃ。これで駄目なら、元々逃げられる状況では無かろうさ。」

 マスタングの言葉に、どんどん不安が募っていくフィアット。アジトでの決戦は、刻一刻と迫るのであった。







「地上では、ずいぶんと無様な事になってますわね、陛下。」

「……。」

「まあ、下等な人間達がどうなろうと、私達の知った事じゃありませんものねえ、陛下。」

「……。」

 ゆりかご内部では、クアットロが何やら作業を続けながら、うつろな目で玉座に座る、十代半ばから後半と思われる少女に、モニター越しに声をかけ続けていた。

「もうすぐ、あなたの母親を奪った高町なのはが、こちらに飛んでくるはずですわ。」

 母親、という言葉にピクリと反応を示す少女。

「いくら強いと言ったところで、魔力とデバイスがなければ、いえ、たとえ万全の状態でも、拳の届く距離であればただの小娘。陛下の敵ではありませんわ。」

「……敵?」

「ええ。あれは陛下の敵です。」

「……ママを奪った?」

「そうです。言いがかりをつけて不当逮捕し、ろくな裁判もせずに処刑した極悪人ですわ。遠慮なく殴り倒してあげてくださいな。」

 嘘八百を並べるクアットロに、うつろな目のまま一つ頷く少女。

「まあ、このまま内部に招き入れるのも芸がありませんし、まずは小手調べと言う事で行きましょうか。」

 そう言って、内部で待機している妹達に声をかける。

「セインちゃん、ディエチちゃん、ウェンディちゃん。そろそろ新人たちがいい具合に分散してるみたいだから、あの凡人のくせに小生意気なガンナーを叩いてきてちょうだいな。チンクちゃんとノーヴェちゃんは、プロトゼロの姉を連れて、妹の方を始末しちゃって。」

『お前が言うほど簡単な仕事ではないが、まあ善処はしてみる。』

『チンク姉。妹の方はあたしとプロトゼロの二人でやらせてほしい。』

『……分かった。クアットロ、別にいいだろう?』

「任せるわ。妹の方は出来そこないだし、優秀なノーヴェちゃん一人でも十分よね。」

 クアットロの言葉に頷くと、とっとと出撃用のサブフライトシステムで飛び出していくノーヴェ。その様子を見てため息をついていたチンクが、出撃前にクアットロに言い残す。

『あまり、ゆりかごを過信しない事だな。それと、高町なのははお前が思っているほど、接近戦が苦手な訳ではないぞ?』

「それでも、所詮はどこまで行っても砲兵。陛下の敵ではないんじゃないの?」

『だといいがな。』

 敵を甘く見るのは死亡フラグの第一歩。そんな事をちらっと考えながら、特に何を言うでもなく出撃する。どうせ相手とは戦うふりをするだけのつもりではあるが、それでもクアットロの目をごまかせる程度には本気でやらねばまずいだろう。クアットロが、なのはの手によって頭を強制冷却されるのは確定事項だろうが、そこに至るまでにはそれなりの時間がかかる。前もって一応連絡だけは入れておくべきか。

「あ、そうそう。余計な事を考えても無駄よ?」

『そうか。ならば、その言葉をお前に返しておくよ。』

 クアットロに冷たく言い放つと、ノーヴェ達と同じようにサブフライトシステムで出ていく。一部例外を除き、基本的にナンバーズは空戦能力が低い。あまり目立たないように出て行こうとすると、どうしてもサブフライトシステムに頼る事になる。

「さて、あれでチンクちゃんが慣れ合うとか考えなきゃいいけど。」

 次の一手の準備をしながらつぶやく。とは言え、ずいぶん前から考え方が相容れなくなっていたのだから、クアットロの言うことなど聞くはずがない。

「まあ、それで捕まろうがドクターを裏切った罰、ってことでいいかもね。」

 最近では、姉妹ですら駒の一つとしてしか見なくなっていたクアットロは、平気でそんな事を言い放つ。そのまま、次にやるつもりだった作業を終えると、安全装置を解除する。

「ドクターを犯罪者扱いする低能や、存在すら知らなかった愚民にふさわしい末路を与えましょう。」

 クアットロは、主砲と書かれたスイッチを、容赦なく押し込んだ。







「総員、耐ショック防御!」

 ゆりかごの変化に真っ先に気がついたプレシアが、製作者のマスター権限で割り込んで、何やら操作をしながら叫ぶ。少し遅れて衝撃。

「とうとう撃ってきたようね。」

「凄い破壊力です……。」

 余波で壊滅した廃棄区域を見て、乾いた声でつぶやくグリフィス。

「でも、これぐらいは想定の範囲内、でしょう?」

『そうやね。シャマル、結界の方はどないな感じ?』

『余裕、とまでは言いませんが、そう簡単に破られることもあり得ません。』

『えらい自信やん。』

『ユーノ君が協力してくれて、アート・オブ・ディフェンス的なやり方で増幅してくれてますからね。第一、破壊力だけで言うならスターライトブレイカーの方が上ですし。』

 シャマルの言葉に苦笑する。個人が撃つ集束砲が、ロストロギア満載の古代戦艦が撃つ主砲より破壊力が上。 一体何の冗談だ、と言いたいところであるが、まぎれもない事実である。

「まあ、どちらにしても、いい加減雑魚の掃除は終わってる事だし、そろそろ私達も本丸に切り込む時期だと思うのよ。」

『そうやね。なのはちゃん、フェイトちゃん、優喜君。そろそろ次のステップに入るから、早いところアースラに……。』

「言われるまでもなく、もう戻ってるよ。」

 はやての言葉にかぶせるように、優喜が声をかけてくる。

「ただいま、母さん。」

「お帰り。早かったわね。」

「そろそろだと思って、援軍が揃ったところで抜けてきたんだ。」

 優喜の後から入ってきたなのはとフェイトが、特に疲れた様子も見せずに帰還のあいさつを済ませる。絶望的な数に見えた機械兵器も、包囲網が一か所綻びれば後は早かった。優喜も、クラナガン内部にあったテロやマフィアの拠点をそれなりの数潰し、後はカリーナや竜司、後方組の地上局員に任せて大丈夫だろうと判断出来るところで切り上げてきたらしい。

『ほな、この後の話をしよか。フェイトちゃんは、シスターシャッハとロッサ君を連れて、スカリエッティの本拠地を叩いて。なのはちゃんと優喜君はゆりかご内部に突入や。』

「「「了解。」」」

『優喜君と一緒に行動できへんでフェイトちゃんには悪いんやけど……。」

「分かってるよ。明らかにゆりかごの方が危なそうだし、なのははああいう狭い場所だと実力を発揮しきれないから。」

『理解してくれて、助かるわ。今、シャッハとロッサ君がそっちに向かってるから、合流したら作戦開始や。』

 はやての言葉に頷こうとしたところで、優喜の動きが止まる。

「ごめん。どうやら、ゆりかごの突入には、付き合えそうもない。」

『どないしたん?』

「どこかの馬鹿が、やらかしたみたいだ。多分、僕と竜司がいかないと、対処できない。」

『優喜君らでしか対処できへんって……、もしかして!?』

 顔色が変わったはやてに頷き、竜司を呼び出す。

「竜司。」

『分かっている。一度、そちらに合流する。』

「いや、竜司は直接現地に。向こうで合流した方が早い。」

『了解した。』

 短いやり取り、その間にもただならぬ空気が流れている。あまりに不穏な状況に、真剣な、不安そうな顔で優喜に詰め寄るなのはとフェイト。分かり切っている事を、一応念のために確認する。

「優喜君、やらかしたって、どういうこと?」

「僕が性欲をなくした原因、あれと同じ種類の存在を、この世界に呼び込んだ馬鹿が居る。」

「優喜が行かなきゃ、いけないの?」

「僕が知る限り、ミッド式にもベルカ式にも、魂に直接作用する類の攻撃魔法は無かった。なのは達の攻撃もこっちの魔法がベースだから、多分気功変換しても効果が薄いと思う。」

 優喜の淡々とした説明に、反発しようとして言葉に詰まる。

「奥の手、って言うのは、使わない?」

「相手に寄る。ただ、僕と竜司で、合わせて四発は秘伝が撃てるから、普通なら十分な火力があるはず。」

「友よ、訂正しておく。私の力で、後二発は余分に撃てるぞ。」

「だ、そうだ。数が一体だし、計六発撃てば普通は倒せるはずなんだ。」

 普通は、という言葉に顔が曇る。こういう時、相手が予定外にタフだったりするのはよくある事だ。

「とにかく、僕と竜司がいかないと、あれにダメージを与えられない。それに、あれを放置していると、冗談抜きでミッドチルダが崩壊しかねない。」

『次元系ロストロギアみたいな存在やな。』

「意志があって自立行動する分、もっとたちが悪いかもね。」

 あっさりとえぐい事を言ってのける優喜に、思わず苦笑が漏れるプレシア。今更次元世界が崩壊するかもしれない程度の事で、いちいち慌てるような細い神経はしていないらしい。

「優喜。フェイトの母親として、一応聞いておくわ。」

「何?」

「確実に、仕留められるのね?」

「六発撃てるなら十分だ。」

「奥の手、とやらは使わないのね?」

「まず必要無い。」

 優喜の言葉に一つ頷くと、なのはとフェイトに視線を向ける。

「信用していいと思うわ。」

「でも!」

「相手が予想外に強かったりしたら!」

「それでも、惚れた男を信用するのが、いい女ってものよ。」

 プレシアの言葉に黙りこむ。

「優喜、やっぱり……。」

 再び口を開き、否定的な言葉を告げようとしたフェイト。だが、その言葉を最後まで告げる事は出来なかった。優喜の唇が、フェイトの口を塞いだからだ。

『ちょ、優喜君!?』

「あら、意外とやるわね。」

「ヴァイスとロッサがね、うるさい女の口を塞ぐには、キスするのが一番手っ取り早い、とかいってたからね。」

 それはどうなのか、と突っ込もうとしたなのはの口を同じように塞ぐと、いきなりの事で呆然としてる二人に背を向けてブリッジを出て行く。

「あなたがああいう真似をするとは驚きでした。」

「君も案外やるね。」

 入れ違いの形で通路に現れたシャッハとヴェロッサの言葉に、苦笑しながら肩をすくめる。

「たまには、キャラじゃない事をやるのもかまわないでしょ?」

「違いない。」

 優喜の言葉に苦笑すると、そのままブリッジに入って行こうとする。

「やり逃げは美しくないから、ちゃんと戻ってきて責任を取りなよ。」

「分かってる。」

 こうして、管理局サイドの攻勢は、なかなかに不穏な空気を纏いつつ、いろんな意味で予想外のスタートを切るのであった。


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