『今日は、時空管理局の罪を断罪しに来た。』
スカリエッティの言葉に、幹部達の間で緊張感が高まる。
「ふん。いずれ来るとは思っていたが、やはり来たか。」
「どうなさいますか?」
「秘密など、隠し通せるものではない。どうせいずれ清算せねばならん可能性が高かった以上、当事者である儂が蹴りをつけるのが筋だろう。」
「レジアス。」
「ギル、貴様も口を挟むなよ。これは、儂が犯した罪だ。儂が清算せずに誰がするというのだ?」
レジアスの言葉に、心配そうな目を向けるリンディとレティ。その視線をきっちり無視して、スカリエッティの主張に耳を傾ける。
『断罪すべき罪は主に二つ。私を筆頭に、何人ものクローンを作りだし、好き放題人体実験を行っていた事。そして、地上の英雄であるレジアス・ゲイズが、かつてこの私と裏でつながっていた事だ。そのどちらの罪も、時空管理局の前身となる組織の頃から存在し、裏で糸を引いていた最高評議会と呼ばれる存在の差し金だ。』
スカリエッティの言葉に、会場からのどよめきが沸き起こる。
『つまり、事もあろうに、時空管理局は正義を標榜しながら、裏で好き放題犯罪を行っていたのだ。この件について、何か釈明する事はあるかね?』
「私個人の十年前の過ちについては、釈明する事は無い。何を言ったところで言い訳にしかならんし、理由がどうであれ犯罪は犯罪だ。」
『ほう。素直に認めるとはね。』
「あくまでも、私個人の罪については、だ。時空管理局全てが犯罪者とつながっていた訳でも、裏で犯罪を犯していた訳でもない。そもそも、貴様との協力関係など、十年前に切れておる。」
『協力関係が十年前に切れている事は認めよう。だが、それでも、君自身が言ったように、犯罪を犯していたという事実は消えない。それに、高町なのはをはじめとした有力な魔導師のクローンを大量に作り出し、好き放題いじくりまわしていた事も、表ざたになりそうになった途端に、私たちに証拠隠滅のために押し付けた事も、まぎれもない事実だ。違うかい?』
声高に、実に正義ぶって断罪を続けるスカリエッティに対し、神妙な顔で頷くレジアス。だが、言われっぱなしで終わらせるつもりもない。
「確かに、私は地上の戦力不足とそれによる治安の悪化に焦り、特効薬を求めて最高評議会の言うがままに、貴様なんぞに資金と情報を流していた。どれほど悔いても悔やみきれん過ちだ。今更何をしたところで、罪の清算など出来はしないだろうよ。」
『やけに殊勝ではないか。事あるごとに怒鳴り散らし、独善的な価値観で善悪全てを判断してきた男とは思えないね。』
「排除すべき澱みから目をそらし、己が理想に背を向ける事をやめただけだ。別段、貴様の言う事を全て肯定する訳ではない。」
『ほう? では、どんな言い訳を聞かせてくれるのかな?』
「まず最初に、現在最高評議会は既に存在しない。六年ほど前に、捜査上のトラブルで死亡している。いや、すでに体などなくなって生命維持装置の中で浮かんでいた脳髄を、生きていたと表現するのは正しくはないか。」
脳髄、という言葉が、この会話を聞いていた人間すべてに衝撃を与える。悪の組織の親玉、その典型例の一つである、生命維持装置の中で浮かぶ脳髄。そんなものが、次元世界の正義を守っていたはずの時空管理局を操っていた、という事実は、市民にとっては看過できない情報だ。
「この件についていくつか釈明させていただくのであれば、だ。身体があった頃の彼らがいなければ、時空管理局はおろか、いまだに次元世界全てが暗黒時代であったであろうことが一つ。手段が目的化してしまった傾向はあるが、彼らも私利私欲のために身体を捨てた訳ではなく、あくまで時空管理局と言う組織のためだけに行動していた事が一つ。そして最後が、直接指示を受けていた私でさえも、スカリエッティと決別してその手駒から情報を引き出すまで、連中が次元世界を救った大英雄で、すでにただ脳髄だけの存在になっていた事を知らなかった事、だ。」
次々に明かされる管理局の秘密。その内容に、何も知らなかった一般局員が、衝撃のあまりその場に立ちすくむ。
「そもそも、最高評議会、などと言う集団が存在する事は、時空管理局の中でも、ごく一握りしか知らなかった事だし、その正体はそれこそ、代々やつらの手駒として設備の維持管理をしていた連中か、貴様のように奴らに直接作り出されたものしか知らなかっただろうよ。」
『そうだね。その事実は認めよう。だが、それでも、奴らの思惑通り、時空管理局と言う組織の勢力拡大と、その影響力の強化のためだけに組織全体で好き放題やっていた事は変わらないよ。」
「何度も言うが、組織全体ではない。ほとんどの部署は最高評議会の思惑など関係なく、次元世界の治安維持と次元災害の発生の阻止、及び災害発生時の救助・復旧、そして危険指定されたロストロギアの回収・封印と言う組織本来の責務に真面目に一途に、命をかけて取り組んでいる。その結果として多数の命と世界が救われた事については、最高評議会の存在があろうが、その価値、功績はいささかも毀損されるべきものではない。そもそも、最高評議会などと言ったところで、存在も知らぬ末端を好き勝手に操れるほど、その影響力は大きくない。」
『本当にそうかね?』
「では、貴様が望むとおり、この時空管理局と言う組織を解体して見せようか? 多分一年とかからず、次元世界は暗黒時代に逆戻りだ。」
レジアスの脅迫に近い反論に対し、スカリエッティもそれ以上の追及は出来ない。事実、時空管理局が瓦解し、誰もその責務を果たさなくなってしまったとすれば、それこそ一年もしないうちにロストロギアによる犯罪と次元災害により、治安どころか文明の維持もおぼつかなくなるだろう。その事については、先ほどまで説明に使っていた資料を見るだけでも、疑う余地のない話である。
「もう一度言う。ほとんどの部署は、まともな休暇も取れず、身の安全も保障されず、十分とは言えない給料に決して美味いとは言えない配給食で、命を削りながら必死になって己が職務を果たしている。糾弾されるべきは私をはじめとした上層部、それも犯罪と分かっていながら目先の事に目がくらんだ愚か者だけだ。」
『理屈の上ではそうだが、はたして、一般市民はそれで納得するのかな?』
「せんだろうな。トップが悪事に手を染める、と言うのはそう言う事だ。たとえその後、最高評議会派のあぶり出しと排除に命をかけ、大方掃除を終わらせたと言ったところで、言い訳にもならん。」
そのレジアスの返答を聞き、スカリエッティの瞳に狂気の色が浮かぶ。
『掃除を終わらせた、と言うのであれば、どうして私のところにあれだけの数の子供たちが来たのかね?』
「その不手際に関しては、謝罪するしかない。最高評議会を排除した時、奴らの手駒の逮捕について、手続きが後手に回ってしまったのは、純粋にこちらのミスだ。その結果として、愚か者どもに生み出されてしまった罪のない子供たちに不自由な生活を強いてしまった事も、彼らの数も所在地も分からないが故に十分な補償をすることができなかった事も、ただひたすら謝罪することしかできない。」
『不手際、不手際か……。』
その一言が、スカリエッティの中の何かを刺激してしまったらしい。瞳にほのかに狂気の色を浮かべ、嘲笑とも怒りともとれる表情と口調で、たたみかけるように言葉を発する。
『そうでなくても生れた時点でハンデを背負わされた彼らを犯罪組織に押し付け、その人生を狂わせ、果てはテロの片棒を担がせておいて、不手際とはね。その結果、すでに失われた命すらあると言うのに、実にのんきなものだ。』
「他の誰に言われても、貴様に言われる筋合いはない。貴様とて、犯罪の片棒を担がせているではないか。」
『そもそも、君達が違法研究の証拠の隠滅などを図らなければ、私が彼らを犯罪に巻き込むこともなかったのだから。」
「これ以上はレベルの低い水かけ論にしかならんが、それでももう一度だけ言っておく。貴様に言われる筋合いはない。」
卵が先か、ニワトリが先か。そう言う種類の見苦しい水かけ論に入りそうになっていた会話をバッサリ断ち切り、犯罪者に対してぴしゃりと突きつける。
「確かに、管理局の中に違法研究を行い、その証拠隠滅を図り、あろうことか犯罪者に研究成果を押し付けるなどと言う真似をした言語道断な連中が居た事は、残念ながら事実だ。すでに塀の中に叩き込み、あと百年は出てこれなくなってはいるが、それが被害を受けた方に対する言い訳にはならない事は、認めざるを得ない。だが。」
『だが?』
「現実問題として、犯罪者が違法研究を行い、その成果を持って犯罪を犯している以上、対抗策を得るために、最低限使われている技術の研究は、どうしても行わざるをえん。中身も知らずに取り締まる事は出来んし、正攻法で屍の山を築いて対処しろ、と言うのはあまりにも現実的でない。それに、今回は愚か者が悪い方向で利用しようとしたが、クローンや細菌兵器などに関しては、対抗策だけでなく、生み出されてしまった者、被害を受けた者に対し、最低限日常生活を送れるよう保証するためにも、一定ラインの研究は必要になってくる。それすら駄目だ、と言い出せば、新たな伝染病が発生した時、ワクチン一つ作れん。」
『言い分は認めよう。だが、今回の件で、時空管理局がその権威と権限を悪用する可能性がある事を証明してしまった以上、君達の組織が正義であると認める事は出来ない。』
「何度も言っているが、今回貴様が糾弾している件は、全て時空管理局と言う組織の権威を隠れ蓑に、私を含めた個人が勝手に推進した事柄だ。時空管理局と言う組織の、いや、管理局員として働き、前線で命を削っている者たちの責任ではない。また、全てがそうである訳ではないにせよ、違法研究の動機も、その前線の負担を少しでも軽くしようと思いつめて血迷った結果だ。人の道を踏み外した最高評議会ですら、な。だから、責任を取るべきは、血迷った人間の総大将である私一人で十分だろう。違うか?」
あくまでも時空管理局を、そして前線で戦い続けている末端の職員を守ろうと一歩も引かないレジアスに、だが、スカリエッティは追及の手を緩める事はしない。
『責任をとる、などと言うがね。もはや定年間近の君が職を辞したところで、責任をとった事になどなりはしないよ?』
「言われるまでもない。そもそも、この公聴会が終われば、どちらにせよ退官して予備役に入る予定だった。だから、そんな生温いことで責任をとった、などと豪語するつもりはない。」
『ほう? では、どうすると言うのかな?』
「まず、退職金と年金はすべて返上する。また、貴様と関わりを持ち始めたころからこの公聴会にいたるまでの経過及び資料全てを公開し、その上で裁判を受ける。無論、取り調べの様子も、裁判の内容も、逐一全て公開し、なあなあで済ませる事は一切しない。また、裁判の結果がどうなるにせよ、私個人の資産はすべて処分し、被害を受けたと認定される人間すべてに対する賠償金に充てよう。言うまでもなく、裁判の結果がどうなろうが、控訴などせず判決を受け入れるつもりだ。」
あまりに思い切ったレジアスの言葉に、スカリエッティですら二の句が継げなくなる。組織の名誉を回復する、ただそのためだけに、人生をかけて築きあげた地位も名誉も財産も全て差し出す。彼はそう胸を張って言いきったのだ。
『……その言葉、違える事は無いだろうね?』
「無論だ。こんな爺の名誉や財産など、次元世界の平和と若者が胸を張って働ける組織の前には、塵芥ほどの価値もありはせん。」
『いいだろう。だが、それだけで時空管理局と言う組織が綺麗になったと信用するにはまだ早い。私達は私達なりに、時空管理局の浄化に手を貸そうではないか。』
スカリエッティの言葉と同時に、クラナガン郊外に大量のガジェットとレトロタイプが現れる。大型のもので、分かる範囲ですでに百はある。何種類かある小型の物に至っては、どれも万では済まない数が居る。しかも、クラナガンを包囲するように広範囲に分散しており、たとえ広報六課を総動員しても、すぐに制圧とはいけない状況だ。その上ご丁寧に、クラナガン全域を高濃度のAMFが覆い尽くしている。
救いと言えば、郊外と言うよりは、荒野と言った方が正しい位置に出現しており、互いの最初の部隊が接触・交戦を開始するまでに、どれほど短く見積もっても二時間は優にかかる、と言う事ぐらいか。クラナガンの外周部に侵入、となればもっと時間がかかるだろう。
『彼らを全て掃除すれば、時空管理局に根を張っている屑どもも一緒に始末できる。言った以上は、その覚悟を見せてくれたまえ。』
無責任にそう言い放ち、通信を終えるスカリエッティ。ついに、修羅場の幕が切って落とされた。
「さて、茶番はおしまいにしようか、広報六課!」
「ここから先は、この突撃ステージ・クレイドルの上で雌雄を決しよう! いいね!?」
「……雌雄を決するって、戦闘で?」
「いや、我々は現状では、曲がりなりにもアイドルとしてここに立っている。であるならば、アイドルとして雌雄を決するのが正しい姿だろう?」
「この状況で?」
「安心しろ。そのぐらいの時間はある。それに……。」
何かを言いかけたトーレが、手元のパネルを操作する。それと同時にステージの一部が変形し、床から何かがせり上がってくる。気がつけば、あっという間に審査員席付きのステージが完成する。見ると、審査員席にはすでに、誰かが座っている。
「この通り、人質も居るのでな。」
「……人質って割には、みんな落ち着いてるような……。」
「当然だろう? 特別審査員をしてほしいと言って、了承を得て連れてきているのだから。」
「それのどこが人質?」
確かに、人質としては機能するだろう。だが正直、この位置関係なら、誰か一人が気配を消して救助に回れば、余裕で脱走できる範囲である。
「って言うか、那美さん!?」
「エイミィまで……。」
「どうしても協力してほしい、って言われて、断りきれなくて。」
「ごめんね。久しぶりに特等席でみんなの活躍を見れそうだったもんで、つい。」
事態の深刻さに思わず乾いた笑みを浮かべる那美と、本当に悪いと思っているのかがいまいち微妙なエイミィ。他にもソアラとリーダーがいたりと、基本的にはある程度顔見知りの人間ばかりである。よく見ると、アウディ殿下とその奥方までいる。
「因みに、美由希も誘われてたんだけど、どうしても店を抜けられそうにないって血を吐きそうな顔で言ってたよ。」
「一体どこまでネットワークが広がってるのか、後で小一時間ほど問い詰めていい? もちろんスターライトブレイカー付きで。」
「事が終わったら全部話してやるから、ステージの上で物騒な事を口走るな。」
結構クリティカルな部分に触れられたせいか、珍しく結構殺気立っているなのは。
「それに、審査員長をまだ紹介していない。」
「これ以上、誰を出すんだか。」
地味に嫌な予感しかしない広報部サイド。その期待(?)を裏切らず、出てきたのは割ととんでもない人物であった。
「ごめんなさい、なのはさん。」
「紫苑さん、何やってるの!?」
「殿下に誘われて、断りきれなかったの。一応許可は取ってあるから。」
「そもそも、殿下じゃなくて何で紫苑さんが審査員長!?」
「そこはそれ、裏で壮絶な押し付け合い、もとい譲り合いがあってね。」
「そんないい笑顔で言うようなことじゃありませんよ、殿下!」
今日は突っ込みに忙しいなのはとフェイト。普段はどちらかと言うと突っ込みを入れられる方なので、実にレアな光景である。
「他にも人質は居る。」
「どこに?」
「ほら、足元にいるではないか。」
「……なるほど。」
「あなた達に、ファンを傷つけたりできるの?」
「試してみるか?」
そう言われてしまえば、黙るしかない。微妙な沈黙をステージが覆い始めたその時、なのは達にトーレから念話が飛んでくる。
(済まないが、ここは合わせてくれ。)
(でも……。)
(人質と言うのは、お前達を足止めする口実みたいなものだ。正直、余計な戦闘や破壊行動で、お互いに無駄に消耗するのは避けたい。)
(だったら、こんなことしてないで……。)
(何の成果も無し、となると、クアットロがなにをしでかすか分かったものでは無くてな。それに、人質を確保する、と言う口実であちらこちらに結界を張ってあるから、観客の心配は必要ない。)
わざわざ一般人を保護しているナンバーズに、ある致命的な事実を連想する。
(まさか!)
(もしかして、地上本部へのダイレクトアタック!?)
(やろうとしている連中も居る、と言うレベルだ。だからこそ、お前達は最悪の時のために、この場で戦力を温存しておくべきだ。)
(分かったよ……。)
(汚名は、全部我々がかぶる。だから、しばらく付き合って欲しい。)
なのはとフェイトから了承する言葉を受け、そのまま芝居を続ける。
「貴様らがなにを懸念しているかは分かっている。だから、ここで約束しておこう。」
「この勝負を受けさえすれば、あたし達が勝とうが負けようが、人質は全部解放する。」
「だから、正々堂々、いざ尋常に勝負!」
真剣な表情で告げてくるトーレ達に、真面目な表情を作り、しぶしぶと言った風情を演出しながら一つ頷く。
「分かったよ。」
「その勝負、受けて立つ。」
「みんな、局員として、アーティストとして、アンダーグラウンドでこそこそやってるだけの相手に実力の差を見せつけてあげよう!」
やると決めたら、プロ意識が先行してしまうなのは達。流石に芸能界に十年近くいるだけあってか、ステージがどうやったら盛り上がるかをとっさに考えて対応してしまうのは、もはや職業病かもしれない。
「言ってくれるな!」
「その言葉、後悔させたげる!」
「勝つのはナンバーズだ!」
こういう時は場を盛り上げるために、観客に違和感や不快感を与えない範囲で、キャラを崩さない程度にきつめの言葉をぶつけあう。そんなセオリーに従って、クレイドルのステージ部分に上がる。
「勝負の方法は単純だ。毎回先攻後攻を入れ替えながら、審査員長が指定したテーマに従って芸を披露しあい、特別審査員および会場の観客にポイント投票してもらう。ポイントは特別審査員が一人千ポイント、会場の観客が一人一ポイントだ。」
「なんか、特別審査員の点数が洒落にならない多いんだけど……。」
「当然だ。全ての会場を合計して、一体何万人の観客が居ると思っている? これぐらいのレベルで重みをつけねば、特別と銘打つ価値は全くないぞ。」
「そうかもしれないけど、それでいいの?」
フェイトの問いかけに、全ての会場から盛大な拍手が沸き起こる。どうやら、だれも異論は無いらしい。
「特別審査員の皆様には、ポイントを自由に割り振っていただこう。会場の観客は、手元のボタンでどちらか好みだった方に投票してくれ。」
「あのボタン、いつの間に出したの?」
「クレイドルの機能だ。便利だろう?」
「なんて技術力の無駄遣い……。」
なのはの疲れたようなコメントに、会場中が大爆笑する。正直なところ、すでにこの流れに乗った事に、微妙に後悔していたりする。
「さて、第一戦目だが……。」
「えっと、この封筒の中から一枚選べばいいのかしら?」
「ああ。」
「……演歌。」
「……いきなりそれを引くのか……。」
紫苑の妙な引きに、人選を間違ったかもしれないと微妙な顔になってしまうトーレ。
「まあ、いい。我々だけが矢面に立たされるのも不公平だ。どうせ暇を持て余して、アジトでまんじゅうでも食っているであろうウーノに、ひと仕事してもらうとするか。」
『まんじゅうなんて、食べてる訳無いでしょう!?』
どうやら通信をスタンバイしてあったらしい。即座にアジトのウーノから突っ込みが入る。
「だが、作戦が始まってしまえば、お前が暇を持て余すのは事実だろう?」
『そもそも、今の流れがすでに計画と違う気がするのは、気のせいかしら!?』
「このぐらいの変更は、我々の裁量の範囲内だ。違うか?」
『そこは否定しないけど、せっかくさっきまでドクターとレジアス・ゲイズが作り上げた緊張感とか真面目な雰囲気とかが、全部台無しじゃないの!』
「私達だけ、道化を演じるのは不公平だろう? そう言う訳だから、とっとと着替えて一曲歌え! 歌わないなら、お前が秘密にしているあれこれをこの場で全部ぶちまけるぞ!」
道化だと分かっていてやってる事をさくっとばらしつつ、やたら強気な態度でウーノを追い立てるトーレ。パブリックイメージと言うものがあるため、トーレの脅迫にはどうしても屈せざるを得ないウーノ。しぶしぶ一旦通信を切り、着替えてから撮影室の方に移動する。
「なかなかに素直じゃないか。」
『あなた、言った以上は本気なんでしょう?』
「もちろんだ。と言う訳で、こちらからはウーノが出る。そちらは?」
「演歌と言えば、私しかいないよ。」
見ると、すでにバリアジャケットが着物に化けているフェイトが、やる気満々でスタンバイしている。
「では、双方曲目をお願いします。」
「天城越え。」
『そうね……。好きになった人、かしら……。』
ミッドチルダの人間に通じるのか、微妙なニュアンスの曲を選ぶ二人。とは言え、地味にフェイトの方は何度かコンサートで披露しており、アルバムディスクの中にも収録されていてそれなりに人気はあったりするのだが。
「それでは、先攻は……。ウーノさんの方からですね。」
ランダム決定ボタン、と書かれたスイッチを押し、先攻後攻を決める紫苑。場の空気やら何やらを完全に無視した広報六課VSナンバーズ芸能対決は、こうして火蓋が切って落とされたのであった。
「さて、きな臭い空気になってきてるね。」
テレビでレジアスとスカリエッティの論戦を聞き終えた優喜が、ため息交じりにモニター越しのプレシアに声をかける。
「とりあえず、侵入者を確認したから、いつでもアースラを出せるように、準備だけはしておいて。」
『分かったわ。それで、あなたはどうするの?』
「アースラに転送回収機能はあるんでしょう?」
『ええ、もちろんよ。』
「だったら、隊舎に余計なダメージを与えないように、もうちょっと囮になっておくよ。」
ヴィヴィオとザフィーラを伴って、訓練用のグラウンドに向かって歩きだす優喜に、一つ頷くプレシア。残念ながら各種作業のために通常空間側のドックに出ているアースラは、現在防衛能力ゼロである。発進準備を進めてはいるが、プレシアがAEC兵器の仕上げに手を取られていた事もあって、予定がいろいろ遅れている。本来ならとうに終わっていたはずの最後の艤装工事が今朝方までずれこんだ結果、公聴会開始直前にようやくデバイスチェックが終わり、動力に火を入れられるようになったとこのなのだ。
動力炉に火が入っていない次元航行船など、内部に侵入されてしまえば脆い。しかも、現在侵入しようと思えば割と簡単に侵入できる上に、中には直接戦闘が可能な人材はプレシアしかいない。向こうが別段アースラやその人員の被害を気にしなくてもいいのに対し、こちら側は守らなければいけない物が多すぎる。そのため、発進準備が整い、外部からの許可なしでの転移を無条件で潰せるようになるまでは、アースラの中にヴィヴィオを置いておくと言うのはリスクが大きすぎるのだ。
本音を言うなら、ヴィヴィオを連れて歩くのは不確定要素が大きすぎるため、正直避けたいのだが、かといって、隠しておくにはいい場所がない。いっそ、公聴会に連れて行くと言う手も考えたが、そうすると今度は、不特定多数の人間の命とヴィヴィオの身柄と言う二択を迫られかねない。聖王教会にしても同じことであり、結局優喜が連れて歩くのが一番安全である、と言う結論を出すしかなかったのだ。
「ザフィーラ、打ち合わせ通り。」
「分かっている。だが、私たちには、向こうが強制転移を発動させてきたとき、対抗手段は無いぞ?」
「知ってる。だから、砲撃とかに消去を使わなくてもいいようにザフィーラに控えてもらった上で、リインフォースとシャマルにユニゾンしてもらって、出来るだけ強力な防御魔法を用意してもらったんだ。」
「そこは理解している。だが、それでうまくいくのか?」
「正直なところ、これで駄目なら多分どうやっても駄目だと思う。本当のところは、リインフォースか使い魔勢が消去を使えるようになってたら良かったんだけど。」
小さくため息をつきながら、ままならない現状をぼやく。優喜の消去魔法の最大の弱点は、どうしても最初の一回は発動を見ないと、目当ての物だけを消せない、と言う一点に尽きる。そのため、事前に詠唱を済ませて確実に潰す、と言う手が使いづらいのだ。それをしてしまうと、魔力炉のエネルギーまで中和してしまう可能性が高い。効果範囲を絞ってかつある程度取捨選択をして長時間、と言う器用なまねをするには、優喜ではやや技量が足りない。
「パパー、どうしたの?」
その様子を不思議そうに見つめているヴィヴィオの頭を一つなでてやり、そのまま狼形態のザフィーラの背に乗せる。
「ちょっと面倒くさい事になってて、ね。」
「めんどーくさいこと?」
「うん。これからみんなでママのところに行く予定だったんだけど、ヴィヴィオをママのところに行かせたくない人たちがいるみたいでね。」
「えー!? どーして!?」
「本当、どうしてだろうね。」
正直なところ、ヴィヴィオにそこまでこだわる理由は、優喜達には分からない。検査の結果、体内に埋め込まれたレリックをはじめとして、なにがしかの人体改造がいくつか行われているのは確認されているが、どういう挙動をするのかがはっきりしないレリック以外は、全て十全の性能を発揮したところで、現状を大きく変えるような能力は無い。所詮、どこまで行っても五、六歳の女の子の体なのだ。
「多分その人たちが攻撃してくるだろうから、ヴィヴィオはザフィーラの背中にしがみついて、大人しくしててね。」
「はーい。」
優喜の注意に素直に返事を返し、ギュッとザフィーラにしがみつく。その様子に小学生のころのはやてを思い出し、内心でこっそり眦を下げているザフィーラ。
「さて、おじゃま虫が来たいみたいだ。」
「数は?」
「こちらには五人。アルフとリニスが一人ずつ。……ギンガに二人か、ちょっと拙いかもしれないね。」
「ギンガが、か?」
怪訝そうなザフィーラの言葉に、小さく一つ頷く。真面目に鍛え続けたとはいえ、ギンガの力量は確実になのは達には劣る。それに、見た目や普段の言動に反して、ギンガの戦闘スタイルは正面突破が基本で、搦め手からの攻撃には意外と弱い。また、後から修業を始めたアバンテやカリーナと比べて修羅場の経験も少なく、何より三十メートルクラスの相手をする特訓を経験していない。そういう意味では、修行の経験年数を考えると、トータルの実力はやや劣る。ぶっちゃけた話、アルフやリニスの方が何枚か上なのだ。
「向こうにメガネが行ったっぽいのが予想外でね。」
「なるほど。ギンガとは相性が悪いか。」
「まあ、四の五の言ってられる状況じゃなくなったし、こっちはこっちの担当を処理しよう。」
そう言うと、空から来る三人と、地上を歩いてくる二人に目を向ける。
「正直、あなたのような正体不明の人間を相手にするのは、避けたいところなのですが……。」
「だったら、今すぐ引いて、なのは達のところに行けば?」
「こちらにも、義理と言うものがあってだな……。」
「なんだよ。こいつが向こうに行っていいって言ってるんだから、オリジナルをやっつけに行けばいいじゃないか。」
「それが通じるのなら、我らがここにきている意味がないだろうが。」
どうにもオリジナルと違って深く考えないと言うか、額面通りに受け取って自分の都合のいいようにしか判断しない雷刃の襲撃者。他の二人の苦労がしのばれる状況である。
「そもそも、頼まれた仕事を放り出してしたい事をする、と言うのは、幼稚園児のやる事ですよ。」
「ボクが子供なのは、今に始まった事じゃない!」
「自覚があるのなら、もう少し自重してくださいな。」
「胸を張って威張るような事でもあるまいに……。」
早速グダグダになり始める防衛システムの残滓達。そんな彼女達の様子に、だが優喜もザフィーラも警戒を解くような事はしない。
「それにな。こやつの相手をあの二人にだけ任せるのは、いくらなんでもいろいろ不安が大きすぎるだろう?」
「そうですよ。特にディードが、変態的な意味で不安要素大です。」
「誰が変態ですか。」
星光の殲滅者の言葉に、冷たい声色で突っ込みを入れるディード。オットーはどっちつかずの態度だ。
「この鬼畜外道相手に、いつまでも慣れ合っていてもしょうがないでしょう。さっさと蹴りをつけますよ。」
「蹴りをつけると言うが、クアットロの準備が整う前にこちらが殲滅されてしまっては元も子もなかろう?」
「心配しなくても、今からすぐに殲滅してあげるから。」
前回はきっちり稽古をつけた上で見逃したが、今回はそんな時間をかけるつもりはない。さっさと気脈を崩した上でツボを突いて、さっくり戦闘不能にする。そのつもりでとりあえず手近な位置にいるディードに攻撃を仕掛けようとしたその時、探知していた気配が一つ、極端に小さくなる。
「ギンガ?」
『プロトタイプの姉の方は、我々が頂いて帰る事にしますわ、優喜お姉さま。』
「クアットロか?」
『こっちの仕事は終わったから、あなた達も予定通りにやっちゃってちょうだい。』
「……分かった。」
正直、このままやられてしまった方が楽だったかもしれない、などと考えつつも、予定通りに六課隊舎の方に向けて、用意されたブースターと言うやつを使ってチャージを始める残滓達。それにならい、オットーも自身のISを起動させる。それを阻止しようと動いた優喜を、この中で唯一大規模攻撃が出来ないディードがブロックする。
「くっ! どういう事だ!?」
ブースターを起動してすぐに違和感を感じ、チャージを止めようとするが、主の意志を完全に無視し、体の中の魔力だけでなく、生命力まで根こそぎ吸い上げてる勢いで魔力を集めていく。
「制御がききません!」
「力が抜けていく! このままじゃ、ボクは飛べなくなる!」
「謀ったな、クアットロ!」
『あら、最初から力を全部使ってもらう、と言っていたじゃないのぉ。』
しれっと厭味ったらしく言ってのけるクアットロを、それだけで殺せそうなほどの殺気がこもった目線で睨みつける闇統べる王。だが、その程度の事で恐れ入るようなら、そもそもなのはのハウンドバスターを受けた時に懲りているだろう。
『さて、優喜お姉さま。陛下も返していただきますわ。』
そう言って、遠隔操作で転移を起動する。この時点で発動している魔法が四つに、転移が三つ。さらに、クアットロ達が逃げ出す分も探知しているが、流石に視界内で発動しようとしているもの以外は、無詠唱では潰せない。今はいたぶるように転移を止めているが、詠唱に入ったら即座に起動させるのは目に見えている。そして、優喜が無詠唱で潰せるのは三つまでだ。
『オットー、ディード。あなた達は自力で帰ってきてねぇ。後、お姉さま。私達の帰還を邪魔するのは結構ですが、その至近距離でその子たちの自爆を受けては、陛下が無事では済まないでしょうねぇ。』
にやにやと嫌らしい笑みを浮かべながら、わざと転移術の発動を遅らせる。言われるまでもなく、こんな至近距離で母親達と同じ顔をした人間が自爆などした日には、ヴィヴィオの体はともかく、心にどんな傷が残るか、分かったものではない。しかもご丁寧にも、他の全員を放置してヴィヴィオを保護しようとした場合、三つの転移魔法を別々に潰す必要がある。向こうの転移魔法もなかなかに手が込んでいるようで、クアットロが優喜のキャンセル能力をどの程度と見積もっているかは不明だが、少なくとも自分だけは絶対に逃げ切れる布陣にしてあるのは間違いない。
「優喜!」
「しょうがないか……。」
残念ながら、非情に徹しきるには相手が悪すぎた。実際のところ、これがナンバーズの誰かだったり、全く知らない人間のコピーだったりした場合、優喜はヴィヴィオを連れて速攻で別の場所に転移していただろう。だが、今回ばかりはそれをするのはまずい。そんな事をしたら、プレシアがどんな壊れ方をするか分からず、ヴィヴィオの事も考えるとその選択肢は取れない。
要するに、アースラの起動が間に合わなかった時点で、優喜達の負けだったのだ。
「クアットロ、二人とも後で絶対に返してもらうから、首を洗って待ってろ。」
『あらあら、怖い怖い。』
「パパぁ……。」
「ごめん、ヴィヴィオ。僕かママ達の誰かが、絶対に迎えに行くから!」
優喜が残滓達の自爆魔法を消し去った事を見届け、おどけるように転移する。後に残されたのは、魔力を全て食いつくされ、さらに生命力まで大量に消耗した残滓達と、いよいよ大技を発動させようとしているオットー、そして何かを期待するような目で優喜を見ながら、もう一度距離を詰めてくるディードの姿が。
「悪いけど、君の相手をする気分じゃない。」
軽くディードを叩き、あっさり気絶させる。そのままオットーを仕留めようと距離を詰める前に、彼女の大規模破壊魔法が発動する。どうせ直接当てても通用しないと踏んでか、目標は六課隊舎。
「これなら!」
スターライトブレイカーやラグナロクには一歩譲るが、それでも街の一区画を更地に代えてお釣りが出る威力だ。規模としては大きいとはいえ、たかが一部隊の隊舎に叩き込むには過剰な代物である。そのまま転移を起動して逃げようとするが……。
「えっ……?」
煙が収まる前に自分の胸から生えた手を見て、戸惑いの声を上げるオットー。その手のひらには、彼女のリンカーコアが。
『蒐集。』
その言葉とともに、オットーのリンカーコアが小さくなっていく。同時に転移がキャンセルされ、煙が晴れる。
「そ、そんな……。」
オットーが意識を失う前に最後に見た光景は、何一つダメージを負っていない六課隊舎の姿であった。
「リンカーコア抜きとはまた、懐かしい技を使うね。」
『今となっては、使う必要のない技だものね。』
「魔法の記録を集めるだけなら、別段コアを抜く必要はなくなったからな。」
夜天の書を片手に、ユニゾン状態のまま苦笑するシャマル。因みにシャマルが持っている夜天の書は、フィーが使う蒼天の書と同じシステムで作られた、いわゆる子機に当たる。リインフォースとフィーが同時に存在することで、場合によっては複数の場所で書の機能を使いたくなる事があり、そのために技術者集団が頭をひねって作り上げたものが、この子機である。子機であるため、出力といくつかの機能は大幅に制限されているが、基本的には夜天の書の蒐集機能とデータベース機能が使えれば問題ないため、今のところこれと言って不満は無いとの事。
なお、ディバイドエナジーで魔力を分けてもらうだけで、蒐集作業そのものは問題なく行えるようになってはいるが、オットーにやって見せたように、コアを抜いてページを埋める手段も出来なくなった訳ではない。これは単純に、わざわざ手間をかけてそっちの機能を削る意味があまりなかったからだ。使わなければ済むものを手間をかけて削って、余計な不具合を出す事を避けた結果である。
「さて、気が重いけど、連絡はするか。プレシアさん。」
『いつでも発進できるわ。』
「了解。」
プレシアの返事に頷き、アースラに回収してもらって出撃する。
「優喜。」
「分かってる。発狂も自殺も許さない。狂えた方がマシってぐらい徹底的に報復してやるさ。」
「法に引っかかっては元も子もないわ。私の分も任せるから、そこだけ注意しなさい。」
「分かってるよ。抜け道はいくらでもある。」
意識があったために優喜とプレシアの会話を聞く羽目になった残滓達は、誰が一番の危険人物かを思い知って、動かぬ体で震えあがる羽目になるのであった。
「ユーキがしくじった、だと?」
舞台の袖でその報告を聞いていたヴィータが、予想外の報告に思わず聞き返す。
『うむ。どうやら、なのは達のクローンを盾に取られたらしくてな。数人の捕虜と引き換えに、ヴィヴィオとギンガを拉致されたそうな。』
「ちょっと待て。そりゃ相当まずくねーか?」
『ああ。相当怒ってるな。」
「……もしかして、笑ってたか?」
『実に獰猛に。』
竜司の返事に、背筋に怖気が走るヴィータ。あの顔の優喜を見たことがあるのは、現時点ではヴィータ一人だ。それゆえか、そばで聞いていたシグナムにはピンと来ていないらしい。
『とりあえず、アースラでそちらに向かうらしい。少し寄り道をすると言っていたから、後十分もすれば、そちらの探知範囲に入るはずだ。』
「了解。なのは達の出番が終わったら、一応連絡はしておく。」
その台詞が終わる前に、魔力探知計が膨大な魔力を確認する。念のために戦況を確認すると、六課隊舎に程近いあたりの敵集団が、綺麗に消失している。
『流石に荒れているな。』
「まあ、どうせ始末なきゃいけねーんだから、八つ当たりぐらいはいいんじゃねーか?」
『そう言う事にしておこう。』
と言う竜司の返事が終わるか終らないか、と言うタイミングで、今度は地上本部の電力が落ちる。
「停電か?」
『この状況で起こる以上、ただの停電では無かろうさ。』
「気をつけろよ。」
『言われずとも分かっているさ。』
そこまで言って、事態の対応のために通信を切る竜司。頭の痛い状況にため息をつきながら、ステージから引っ込んできたなのはとフェイトに隊舎での事を告げる。なのは達の目つきが変わったところで、トーレからの念話が飛んでくる。
(すまん、予定が狂った。)
(予定って?)
(まさか、クアットロが成功するとは思わなかった。全く、成功してほしくない事ばかり成功させるとは、あの駄メガネめ……。)
(終わった事はしょうがない。それで、あなた達はどうするの?)
(こうなってしまえば、聖王のゆりかごが起動する事は避けられない。あいつが素直に陛下を解放するとも思えない以上、私達もあれに不審がられない程度には本気で戦うしかない。)
(つまり、全面対決、しかないってわけか……。)
どうやら、優喜がミスった事は、ナンバーズサイドにとってもありがたくなかったらしい。
(クアットロがこちらに陛下を連れてくる以上、さすがにいつまでもこの茶番を続けているのは難しい。人質を解放して下がるから、申し訳ないが追撃はしばらく待ってほしい。)
(分かってるよ。今この状況であなた達とことを構えたら、余計な被害が大きくなる。)
(本当にすまない。)
そう謝り倒した後、無理やりMCで対決を切り上げて人質を返還し、全員を強制的にステージから追い出す。
「ここでの勝負は譲ってやるが、戦士としては負けん!」
「この場でやれば、こちらのファンにも被害が出る。十分に広い場所で、今度は戦闘能力で勝負だ!」
対決の結果は七対三で六課の勝利だった。もっとも、七のうち四は僅差での勝利で、圧勝したのはなのはとフェイトだけではあるが。
「ここは見逃すけど……。」
(ヴィヴィオに何かあったら、ただじゃ済まさないから、ね。)
念話での捨て台詞に対する返答に背筋を凍らせながらも、表面上は強気の態度を崩さないナンバーズ。事件はとどまるところを知らない勢いで拡大していくのであった。