<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.18616の一覧
[0] (完結)竜岡優喜と魔法の石(オリ主最強 再構成 エピローグ追加)[埴輪](2012/04/21 21:14)
[1] ジュエルシード編 第1話[埴輪](2011/05/08 09:49)
[2] 第2話[埴輪](2010/10/31 11:50)
[3] 第3話[埴輪](2010/05/16 20:08)
[4] 第4話[埴輪](2010/10/31 11:53)
[5] 第5話[埴輪](2010/11/01 21:26)
[6] 閑話:元の世界にて1[埴輪](2010/06/06 22:47)
[7] 第6話 前編[埴輪](2010/11/01 21:30)
[8] 第6話 後編[埴輪](2010/07/10 22:34)
[9] 第7話[埴輪](2010/06/26 22:38)
[10] 第8話[埴輪](2010/07/03 22:20)
[11] 第9話[埴輪](2010/07/11 23:45)
[12] 閑話:元の世界にて2[埴輪](2011/06/25 09:05)
[13] 第10話[埴輪](2010/07/24 21:02)
[14] 第11話[埴輪](2010/08/14 14:15)
[15] 第12話[埴輪](2010/08/07 17:09)
[16] 第13話[埴輪](2010/10/06 22:44)
[17] ジュエルシード編 エピローグ[埴輪](2010/08/21 19:05)
[18] ジュエルシード編 後書き[埴輪](2010/08/21 19:06)
[19] 闇の書編 第1話[埴輪](2010/08/28 21:12)
[20] 第2話[埴輪](2010/09/04 18:23)
[21] 第3話[埴輪](2010/09/11 18:29)
[22] 閑話:フェイトちゃんのお買い物[埴輪](2010/09/18 17:28)
[23] 第4話[埴輪](2010/10/31 11:42)
[24] 第5話[埴輪](2010/10/06 22:17)
[25] 第6話[埴輪](2010/10/09 11:11)
[26] 第7話 前編[埴輪](2010/10/16 18:21)
[27] 第7話 後編[埴輪](2010/10/23 15:32)
[28] 閑話:ヴォルケンズの一週間[埴輪](2010/11/01 21:23)
[29] 閑話:なのはとフェイトの嘱託試験[埴輪](2010/11/06 19:00)
[30] 第8話 前編[埴輪](2010/11/13 18:33)
[31] 第8話 後編[埴輪](2010/11/22 21:09)
[32] 第9話[埴輪](2010/11/27 11:05)
[33] 閑話:元の世界にて3[埴輪](2010/12/04 17:29)
[34] 第10話[埴輪](2010/12/11 18:22)
[35] 第11話[埴輪](2010/12/18 17:28)
[36] 第12話[埴輪](2011/01/08 13:36)
[37] 闇の書編 エピローグ[埴輪](2011/01/09 08:08)
[38] 闇の書編 あとがき[埴輪](2010/12/31 22:08)
[39] 空白期 第1話[埴輪](2011/01/08 14:39)
[40] 第2話[埴輪](2011/01/15 11:39)
[41] 閑話:高町家の海水浴[埴輪](2011/01/22 09:18)
[42] 第3話[埴輪](2011/01/29 19:16)
[43] 第3話裏[埴輪](2011/02/06 08:55)
[44] 閑話:高町家の歳時記[埴輪](2011/02/19 17:56)
[45] 閑話:聖祥学園初等部の林間学校[埴輪](2011/06/25 09:06)
[46] 第4話[埴輪](2011/02/26 09:18)
[47] 第5話[埴輪](2011/03/05 19:26)
[48] 第6話[埴輪](2011/03/19 18:33)
[49] 第7話[埴輪](2011/06/11 17:58)
[50] 第7話後日談[埴輪](2011/04/03 10:25)
[51] 閑話:竜岡優喜の鉄腕繁盛記[埴輪](2011/04/09 19:07)
[52] 第8話[埴輪](2011/04/16 17:57)
[53] 閑話:時空管理局広報部の新人魔導師[埴輪](2011/04/23 11:07)
[54] 閑話:竜岡優喜の憂鬱[埴輪](2011/04/30 18:34)
[55] 閑話:ある日ある場所での風景[埴輪](2011/05/07 17:31)
[56] 第9話[埴輪](2011/05/14 17:40)
[57] 第10話 前編[埴輪](2011/05/21 17:58)
[58] 第10話 後編[埴輪](2011/05/28 21:07)
[59] 閑話:高町家の家族旅行[埴輪](2011/06/05 21:02)
[60] 閑話:元の世界にて4[埴輪](2011/06/11 18:02)
[61] 第11話[埴輪](2011/06/18 17:33)
[62] 第12話[埴輪](2011/06/25 09:05)
[63] 第13話 前編[埴輪](2011/07/02 21:22)
[64] 第13話 中編[埴輪](2011/07/09 20:51)
[65] 第13話 後編(R-15)[埴輪](2011/07/16 11:51)
[66] エピローグ あるいはプロローグ[埴輪](2011/07/23 11:03)
[67] 空白期後書き[埴輪](2011/07/23 11:22)
[68] ゆりかご編 第1話[埴輪](2011/07/30 19:10)
[69] 第2話[埴輪](2011/10/01 18:39)
[70] 第3話[埴輪](2011/08/20 18:23)
[71] 第4話[埴輪](2011/08/27 18:40)
[72] 第5話[埴輪](2011/09/03 18:13)
[73] 第6話[埴輪](2011/09/24 19:13)
[74] 第7話[埴輪](2011/09/26 19:49)
[75] 第8話[埴輪](2011/10/01 18:39)
[76] 第9話[埴輪](2011/10/08 18:22)
[77] 第10話 前編[埴輪](2011/10/15 20:58)
[78] 第10話 後編[埴輪](2011/10/22 19:18)
[79] 第11話 前編[埴輪](2011/11/05 19:03)
[80] 第11話 後編[埴輪](2011/12/03 19:54)
[81] 閑話:ある日ある場所での風景2[埴輪](2011/11/26 21:00)
[82] 第12話[埴輪](2011/12/03 19:54)
[83] 第13話 前編[埴輪](2011/12/10 20:17)
[84] 第13話 後編[埴輪](2011/12/17 19:21)
[85] 第14話 その1[埴輪](2011/12/24 20:38)
[86] 第14話 その2[埴輪](2012/01/07 20:47)
[87] 第14話 その3[埴輪](2012/01/21 19:59)
[88] 第14話 その4[埴輪](2012/01/28 21:24)
[89] 第15話 その1[埴輪](2012/02/04 19:04)
[90] 第15話 その2[埴輪](2012/02/18 20:56)
[91] 第15話 その2裏[埴輪](2012/02/25 21:31)
[92] 第15話 その3[埴輪](2012/03/03 18:43)
[93] 第15話 その4[埴輪](2012/03/17 19:40)
[94] 第15話 その5[埴輪](2012/03/24 13:56)
[95] 第15話 その5裏[埴輪](2012/04/07 21:01)
[96] 第15話 その6[埴輪](2012/04/15 23:11)
[97] エピローグ[埴輪](2012/04/21 21:14)
[98] あとがき[埴輪](2012/04/21 23:41)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[18616] ゆりかご編 第1話
Name: 埴輪◆eaa9c481 ID:f0fea97f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/30 19:10
「今、どんな状況?」

「残念ながら、なしのつぶてや。」

 年も明け、新部隊の稼働まで後三カ月を切ったある日の事。最後の懸念であるティアナとスバルの引き抜きに関してのなのはの問いかけに、渋い顔で首を横に振るはやて。

「広報部の局内での評判を考えたら、無理もない話やねんけどなあ……。」

「やってる私でも、たまに我に返って、自分がなにをやってるのか疑問になる事があるよ……。」

 なのはの言葉にため息をつくはやて。有望な新人の教育も兼ねた、精鋭をかき集めた実験部隊と聞くと、普通ならば声をかけられれば否とは言わなそうなものだが、内容が内容だ。世間一般ではともかく、管理局内部では広報部の魔導師はそれほど評価されていない。さすがに魔導師ランクがA+を超えるような人物は甘く見たり馬鹿にしたりはしていないが、地上の平均であるCやDぐらいだと、実力差が理解できないと言うのもあるらしい。

 実際のところ、広報部にとって一番大きな問題は、他所の部隊と連携が取れない事でも戦力保有制限に引っ掛かる事でもなく、内外での評価の差が大きすぎる事なのかもしれない。事あるごとにイロモノ扱いで現場と無駄な衝突を繰り返すたびに、関係者はため息とともにその思いがわき上がる事を押さえきれない。

 もっとも、怪我の功名とでもいうべきか、広報部と言う新たな不満の矛先ができたことで、以前に比べて陸と海の間の溝は埋まってきており、最近は共同作戦における衝突もずいぶん減ってきているようだ。本局の上層部も、イロモノに大きな顔をされるぐらいなら地上の戦力を充実させる、という意向になってきているらしく、かつてほど強引な引き抜きはしなくなってきたらしい。ゆえに、後は現在広報部に居る、スキルの面でも仕事の面でもこれまでとは方向性が違う集団を、本局・地上に続く管理局の三つ目の勢力として受け入れ、余計な対立を起こさずに上手くやっていけるような意識・体制を作る事が出来れば、人材難と局内のひずみの改革、その第一歩は終わるはずなのだ。

 それゆえに、その仕上げの第一歩である新設部隊が、新規の人材確保に躓いているのは非常によろしくない。

「実際のところ、傾向としては魔導師ランクが低くてキャリアが短く、上昇志向が強い人ほど、私たちの事を馬鹿にする事が多いよ。」

「あと、空士学校よりは陸士学校の方が、広報部を下に見る感じ。」

 なのはとフェイトの言葉に、思わず頭を抱えてしまう。それらの要素が、ティアナに全て当てはまるのだ。

「もっとも、スバルの話を聞く限りじゃ、それだけじゃないみたいだけど。」

「そうなん?」

「うん。まあ、スバルが見た感じでは、って話だから、正解かどうかは分からないみたいだけど。」

「それでもかまへん。今は、どんな些細な可能性でも知りたいし。」

 はやての言葉にうなずくと、スバルが感じた事を正確に伝えようと言葉を選ぶ。正直なところ、スバルはあまりこういう事に気が回るタイプではない。フォローが効かないほどではないにしても、良くも悪くも空気を読めないところがあり、その上自身の感情に任せて行動しがちなところもあるため、あまり人の気持ちを察するのが得意ではないのだ。

「とりあえず、スバルが言うには、ティアナはおまけ扱いされてるのが不満なんじゃないか、って。」

「おまけ扱い、か……。」

「実際には、今の計画にはむしろ、スバルよりもティアナの方が重要なんだけど、ね。」

 フェイトの言葉に渋い顔をしながらはやてが頷き、だがその口から出てきた言葉は、反論のそれである。

「傍から見たら、そうは見えへんやろうなあ。」

「だよね。」

 必ずしもそれが全てではないだろうが、どうにも今回は、スバルの指摘が正解のようだ。

「どうしたもんやろうなあ……。」

「今は昇格試験に集中したいみたいだし、そっちが終わってから、二等陸佐の権限で直接面談するしかないんじゃないかな?」

「気が進まへんけど、それしかないかあ……。」

 諸般の理由で延期になり、今週末になったスバル達の昇級試験・実技の部。延期になった理由は簡単で、内外で少々大きめの事件・事故が立て続けで起こり、受ける側もする側もそんな余裕がなくなったからだ。そのため、今週末は複数の試験会場で、かなりの人数を一気に終わらせる予定になっている。

「そう言えば、試験と言えば……。」

「どうしたの?」

「なのは、私達にも試験官が回ってくるかもしれないんだ。」

「そうなの?」

「うん。一気にやるから人数が足りないんだって。」

 フェイトの言葉に、嫌な予感しかしないなのはとはやて。実技の試験官と言うのは、基本的に試験をするランクより上の、ある程度実績を積んだ魔導師の中からランダムで選ばれる。一応選考の際に任務の絡みなどは考慮されるが、基本的に選ばれたら拒否権はない。

 なのはもフェイトも、力量と実績と言う観点では申し分ないのだが、いまだにパートタイマーである事と仕事の密度が凄まじい事が重なり、これまで試験官の候補にすらなった事はない。だが、今回は背に腹は代えられないらしく、広報の仕事を休ませてでも手を借りなければいけない、と言う難儀な状態になっているようだ。

「明日あたりに連絡が来るって言ってたから、一応試験内容はある程度考えておいてほしいって。」

「って言われても、いきなり何の資料も無しに試験内容なんて考えられないよ。」

「うん。私もちゃんとそう言ったら、資料を押し付けられたんだ。だから、後でレイジングハートに、どのランクが大体どの程度の試験だったか、って言う資料を送るよ。」

「……分かった。」

 フェイトに声をかけた、と言う事は、ほぼ百パーセント試験官をやらされると思っていていいだろう。しかも、このパターンだと、高確率でスバルとティアナの試験にぶち当たるのではなかろうか。世の中、どういう訳かこういうお約束は外さない。

「話はそれたけど、早いところこの件は蹴りをつけとかんと、五月末予定の結成記念公演の内容が決まらへん。悪いけど、ティアナの説得は二人も手伝ってや。」

「うん、分かってる。」

「できる限りの事はするよ。」

「頼むで。」

 そこまで告げた後、大きくため息をつく。

「どうしたの?」

「いや、結成記念公演でいらん事を思い出した言うか、自分の立場を再認識させられた言うか……。」

「ああ、そう言えば……。」

「確か、支配人、だっけ?」

「せやねん。誰かがおっさんどもに余計な知恵を吹き込んだもんやから、私に余計な肩書が増えてん……。」

 はやてのため息交じりの言葉に苦笑するなのはとフェイト。

「まったく、あの人らにサ○ラ大戦渡したん誰や……。おっさんらもわざわざそんなもんやるなや……。元ネタ通り、仕事中に飲んだくれてもええって判断するでほんま……。」

「でも、歌劇団って言うのは悪くないよね?」

「その分、教える内容とかも増えるんやで?」

「誤差の範囲じゃないかな?」

 教導担当のなのはの言葉に、思わず納得してしまうはやて。どうせ、歌やダンスは最初から予定に入っているのだから、その関連として舞台演劇が増えても、誤差と言えば誤差だろう。それに、せっかく大人数でやるのだから、宝塚のような大規模なショーをやりたくなるのは、人として当然である。

「私としてはむしろ、本当にこっちの企画をやるのかどうかが気になるんだけど……。」

 そう言ってフェイトが指さした企画書には、優喜、フォルク、アバンテの三人を使ったある企画が。

「少なくとも、私は本気やで。」

「優喜がうんと言うかどうかが微妙だと思うけど……。」

「そこはそれ、フェイトちゃんも説得手伝ってくれるって信じとるし。」

「……私は、優喜が嫌がるなら無理強いはしたくないけど……。」

「フェイトちゃんは、見たないん?」

 はやての台詞に思わず詰まってしまう。正直に本音を言うなら見たい。三人とも、方向性こそ違え十分にイケメンの範囲に入る。特にフォルクは化けたと言ってもいい変化を遂げ、今や爽やかな男前として、局内の未婚女性の注目の的である。そして、アバンテはもとからやんちゃな美少年だ。そんな三人が、企画にある昔の日本の男性アイドルのヒット曲を歌い踊る姿、それもセンターを己の恋人が務めるとなると、見たくないと言う方がおかしいのだ。

「まあ、無理にとは言わへんから。」

「う、うん。」

 物凄く葛藤して見せるフェイトに苦笑し、とりあえず話を切り上げるようにそう声をかける。どちらにしても、この場に居ないのだから、すぐに話が進む訳ではない。

「それはそうと、はやてちゃん。」

「何?」

「私たち、みんな寮に入るんだよね?」

「そのつもりやで。」

「駐車場とか、どうなってるの?」

「ちゃんと、二人のは屋内で用意してあるから安心して。セキュリティもばっちりやし。」

 はやての言葉に、一つ安堵のため息をつくなのはとフェイト。正直、二人の車は世界に二台しかない特別受注生産の超高級車で、それ以外の理由も相まって迂闊に長時間野外に止める事が出来ない。買い物で一時間やそこら、と言うのであればまだしも、月の半分以上野ざらしにするのは盗難や破損以外の理由で避けたい。

 なのはとフェイトの車は、彼女達が免許を取るために教習所に通い始めたと聞いたアウディ皇太子殿下が、練習用にとわざわざ操作性と乗り心地を追求した特別仕様の超高級車を、二人のイメージに合わせてデザイン段階から練り込んで発注したワンオフものだ。当然、プレゼントされた時にはいろいろ揉めたのだが、国家権力と国際問題を盾に押し切った。

 当然、当初はいろいろと局内でも大騒ぎになった。いくらアイドルとはいえ、なのはもフェイトも公務員で治安維持組織の一員だ。家族や友人同士の、社会通念上許される範囲の物品のやり取り(誕生日プレゼントや結婚・出産祝いなど)は黙認してもらえるが、ファンからのプレゼントはさすがにNGだ。故にこれまでは、例外として花束もしくは番組スポンサーがスタッフ全員に振舞ったもの、あるいは番組として用意した賞品等に限り受け取りを許可していたのだが、今回はどれにも相当しなかったために非常にもめた。

 結局、これらの規定の根本は贈収賄による癒着を防ぐためのものであり、根本的にアウディ殿下がなのはやフェイトに賄賂を渡して癒着する必要が無い事、二人が殿下の命の恩人である事、何より管理局でもトップクラスは外交の関係で、こういったプレゼントを受け取る事がそれほど珍しくないことなどから、この車については外交の一環として例外規定を適用することで落ち着いたのだ。アウディ殿下がWingの大ファンであり、二人が命の恩人である事が有名なのもプラスに働いた。ファンクラブの方では、いくら皇太子と言っても一人だけ特別扱いはどうか、などとプレゼントしたい連中が騒ぎはしたが、アイドルである前に公務員である、という現実の前に割とあっさり鎮静化した。

 とはいえ、こんな高級車を押し付けられた二人はたまったものではない。しかも、わざわざ仮免許の練習に使ってください、とメモ書きまでしてあるのだ。大御所ならともかく、芸能界ではまだまだ若手でしかない彼女達に、高級車に仮免許練習中の紙を貼って運転するような度胸はない。いくら事故防止と破損防止のための機能を大量に後付けしたと言っても、それで素人が安心できる訳ではない。かといって、中古車を練習用に買うのは失礼にもほどがあり、練習に車を借りれる相手も居ない。結局あきらめて練習も兼ねて乗りまわしているうちに慣れてきて、今では普通に近所のスーパーに乗りつけたりしている。因みに、仮免の練習で助手席に乗ったのは、主にユーノだ。

「まあ、あんな目立つ車、盗んだところですぐ足がつくけどなあ。」

「そう思うんだけど、盗もうとする人、結構いるんだよね。」

「そこまで頭が回らない人が多いんだろうね。」

 フェイトの言葉に、苦笑しながら頷くなのはとはやて。未遂なので逮捕などはしていないが、盗難防止システムには手を出した愚か者のデータが大量に記録されている。

「なんか、あの二台の隣に、ムーンライト所有のライトバンが並んでる光景って、かなりシュールやんなあ。」

「だよね。」

 いろいろな都合で、優喜もミッドチルダで免許を取得している。彼の場合は車に対してそれほどこだわりもないので、実用性重視のライトバンだ。さすがに高級宝飾店と言う側面もあるため、中古車は避けざるを得なかったが。

「とりあえず、部屋割が決まったらこの部屋を解約して引っ越しかな?」

「ここ、引き払うんや?」

「さすがに、一年使わないって分かってるとね。」

「そっか。ほなどうする? 士官用の部屋を二人でルームシェアする? 今やったら、ある程度のわがままは通せるで。」

「そうしよっか?」

「そうだね。」

 はやての提案に頷くなのはとフェイト。併設される寮の、士官用の部屋と言うやつは意外に広く、その気になれば紫苑やすずかも一緒に生活できるぐらいの余裕はある。もっとも、紫苑もすずかも立場としてはユーノに近く、彼ほどの権限を得ている訳でもないため、基本的には1LDの小部屋だ。キッチンが無いのは共用スペースのそれを使ってくれ、と言う事になっているからであり、例外は士官用の部屋に、お茶を入れられる程度のコンロが設置されている程度である。もっとも、トイレと洗面所は各部屋に設置されているので、洗い物ぐらいはできるのだが。

「とりあえず、今日の用事はこんなところ?」

「うん。また、なんか変更があったら連絡するわ。とりあえずなのはちゃん、今年の新人と今おる訓練生を、結成記念公演までに大舞台のショーで使いもんになるように、今から段取り組んで鍛えたってくれると助かるんやけど。」

「了解。そこはフィアッセさんとか先輩と相談して進めていくよ。」

「頼むで、なのはちゃん。フェイトちゃんは引き続き、最近微妙に大人しいナンバーズと妙に活発化してる有象無象周りの調査を頑張ってほしい。」

「分かってる。撮影の合間に、いくつか大きな動きを見つけて捕まえてあるから。」

「さすが。ほな、朗報を期待してるから。」

 そう言って、あわただしく部屋を出ていくはやてを見送ると、次の撮影のために移動を開始する二人。数時間後、予感の通りにスバルとティアナの試験官を命じられるなのはであった。







「いよいよだね。」

「ええ。気合入れて、一発合格するわよ!」

「分かってる!」

 試験当日。十分すぎるほど気合を入れて、試験開始を今か今かと待ち構えるスバルとティアナ。自身のデバイスのチェックにも余念がない。普段は自分で手入れをしているが、今回は奮発して、局内のデバイスマイスターにメンテナンスと調整をお願いしている。支給品ではなく持ち込みなので、維持費はすべて自腹なのだ。

 因みに、彼女達が使うデバイスのうち、正規のデバイスマイスターによって制作されたのは、スバルが使用する両腕のリボルバーナックルのみ。これは、管理局に入局することを決め、本格的な修行を再開した時に、母でありシューティングアーツの師匠でもあるクイントがプレゼントしたものだ。ローラーブレードは、ギンガが修業時代に使っていたお下がりを、教えてもらいながら自分で調整したものであり、母や姉が使っているものに比べると、格段に性能面では劣る、と言うより必要最低限の機能しかないものである。

 ティアナのアンカーガンもカートリッジシステムを組み込んだ自作品で、こちらは無理をしてハイエンドのデバイスを買おうとするティーダを押し切って、カートリッジ回り以外はバルク品を多用して安く上げた、これまた大した性能を持っていない代物である。幾度にもわたる改造と調整で、辛うじて管理局の標準支給品よりは上の性能になっているが、改良の余地という点ではすでに頭打ちで、結局そこまで合わせれば支給品に劣る。現状より上を目指すなら、いっそ一から作り直してストレージの中身だけ移植した方が早いレベルである。

「受験番号三十五番、三十六番。試験会場へ。」

「スバル!」

「うん!」

 ついに運命の試験開始である。試験内容は指定されたターゲットを回収し、制限時間内にゴールする事。ターゲットの捜索からスタートになることもあるが、今回は当初からターゲットがどこにあるかまで指定されている。敗北条件は時間内にゴールできなかった場合、戦闘不能になった場合、そして回収したターゲットを破壊された場合である。

 スタートと同時に大量のサーチャーをばらまき、ターゲットまでのルートを捜索。ガーディアンユニットの分布から安全度合いと踏破時間の兼ね合いを確認し、最適なルートを選んで移動を開始する。ガーディアンユニットが最も手薄なルートは飛行もローラーダッシュも出来ないティアナが通るには遠回りすぎるし、そもそも敵をある程度倒さなければ、脱出の時に面倒な事になる。そういった観点から、複数を相手にする回数が少なく、かつほどほどに移動距離が短いルートを選択。

「スバル!」

「OK!」

 予定通り道をふさいだガーディアンユニットを、阿吽の呼吸で撃破して突破する。

「スバル、ダメージは?」

「これぐらいなら大丈夫。でも、数が来ると抜かれそうな感じかな?」

「了解。急いで抜けるわよ!」

 今ので、巡回型のガーディアンユニットにも情報が共有されたはずだ。ちんたらやっていたら、無制限に敵を撃破し続ける羽目になる。最悪、囲まれてアウトだ。

「ティア、ターゲットは?」

「左の道。」

「了解!」

 ティアナの指示を受けて、バリアを張って突入するスバル。その後を、幻術で光学迷彩を張ってついていくティアナ。イロモノに鍛えられているからか、スバルは背中に目でもついているのではないか、と思うほど鋭く反応する。今回みたいに相手の数が多い場合、むしろ単独で孤立している方が動きやすいぐらいだ。なので、今回はティアナは邪魔にならないように姿を隠し、スバルのフォローに徹する事にしたらしい。

 三分少々で場を埋め尽くすガーディアンユニットを殲滅し、ターゲットの安置場所への道を切り開く。予定通り、制限時間はまだ三分の二が残っている。

「大型のガーディアンユニットを確認。スバル、ボス戦よ!」

「作戦は?」

「できるだけ流れ弾を気にしなくていい場所まで誘導した上で、正面から撃破ね。」

「分かった。あたしが釣るから、場所の指定はよろしく!」

 手早く打ち合わせを済ませ、果敢に突入していくスバル。二分後、意外なタフさに手こずりながらも大型のガーディアンユニットを撃破、ターゲットを回収する二人。彼女達はまだ知らなかった。本当のボス戦はこれからだ、と言う事を。







「前評判通り、なかなかいい動きだね。」

『スバルをうまく使ってるよね。』

「フェイトちゃんはどう見る?」

『さすがに今回の課題はチーム戦を前提としてるから、ティアナだと単独突破は厳しそうだけど、判断の速さと制御能力を見る限りでは、ランクA相当の能力はあるかな?』

 フェイトの意見に一つ頷く。基礎能力が段違いのスバルをうまくコントロールし、邪魔にならないよう立ち回りながら、苦手な相手を優先的に潰すティアナは、現時点での当人の能力こそ凡庸なれど、決して駄目出しされるほど劣ってはいない。むしろ、ティアナがいなければ、いかにスバルが突出した能力を備えていようと、ここまでスムーズに試験は進んでいないだろう。事実、スバル単独を想定したシミュレーションよりも、三割は制圧速度が速い。ちょっと頭が回れば誰でもできるのでは、と言われそうだが、頭の良し悪しだけでそれができるほど、二人の間の基礎能力の差は小さくない。

「さてと、そろそろ本番かな?」

『なのは、ちゃんと手加減してね。』

「分かってるつもりだけど、どれぐらい加減すればいいのかが難しいんだよね。」

 そうぼやくように言いながら、とりあえずディバインバレットを普段の四分の一セット七十五発と、ディバインシューターを三十発発動させる。威力も普段のランクA以上から、直撃しても防げそうなランクD~Cに押さえてある。ついでにリーゼアリアから教わったやり方で、魔力弾の色をカラフルに変色させて、なのはが関わっていると言う事をごまかす。なのは的にはそれなりに加減したつもりだ。が、

『ちょっと多すぎるんじゃないかな?』

 見事にフェイトに駄目出しをされる。

「スバルがいるから、これぐらいだと思うんだけど?」

『その威力だと、ティアナに当たったら、一発で終わるんじゃないかな?』

「そうかなあ?」

 とはいえ、これ以上下げると、今度はスバルに通用しないのではないか、と言う懸念がある。別段ランクBの試験なのだから、スバルに通用しなくても問題はないのだが、手を抜きすぎるのも気分が悪い。

「まあ、とりあえずこれで行くよ。やりすぎたと思ったら、そこら辺は臨機応変に。」

『はいはい。やりすぎないように気をつけてね。』

「分かってるよ。じゃあ、一発目、シュート!」

 旅の扉を開き、一発目を不意打ち気味に叩き込む。そのやり口を見て微妙に頭を抱えるフェイトに気がつかず、期待の新人たちをしごくために、あれこれ趣向を凝らしていじめに入る。試験官と言う役割を明らかに忘れているなのはであった。







「ティア!」

 突然、何もない空間から飛んできた魔力弾を、とっさの判断でスバルが叩き落とす。

「危なかった……。」

「なに今の!? 一体どこから飛んできたのよ!?」

「分からない。もしかしたら、ものすごく巧妙に発射装置を隠してあるのかもしれないけど……。」

 射線の先をにらみながら、違和感に首をかしげるスバル。今たたき落とした魔力弾は、先ほどのガーディアンのものと威力的には大差ない。ただ、あれの魔力弾と違ってバリア貫通の作用があるため、相対的に当った時のダメージが大きい。バリア貫通と言っても所詮は普通の威力の魔力弾だから、単発でスバルのバリアを完全に撃ち抜く事はないだろうが、当ればただですまないのは間違いない。

 正直、あんなものを打てる発射装置や戦闘ユニットを、ティアナの、と言うよりランクBの受験生のサーチャーを欺けるほどの巧妙さで隠す意味が分からない。それに、発射の時に発生するはずの魔力を感じなかったのもおかしい。どうにも感じからすると、最初から隠してあった魔力弾を、不意打ちで叩き込んできたと考えるのが自然だが……。

「ああ、もう! 目的が分かんない!」

「どうしたのよ、スバル?」

「今の、いろいろと中途半端すぎて、何がしたいのか分かんない!」

「……どういう事?」

 スバルの突然の叫びに、思わず怪訝な顔をするティアナ。だが、スバルにしても、直感で中途半端と断じた部分が大きいため、ティアナを納得させられるような上手い説明ができない。一つだけ言えるのは

「今の不意打ち、仕留めるのが目的にしては一発だけであの威力って言うのはおかしいから、中途半端すぎて何がしたいのか分からない。」

「言われてみれば、確かにそうね。」

「しかも、発射の瞬間に魔力を感じなかったから、結局どこから飛んできたのかが分かんないし……。」

「分からない物を探しても仕方ないわ。とにかく、あれで終わりだとは思えないから、可能な限り慎重に、迅速に行きましょう!」

 ティアナの判断に頷くスバル。出所が分からないにしても、防ぐだけなら防げるのだ。ならば、探しようがない以上は元を叩く事はあきらめ、勝利条件を満たす事を考えるべきだろう。

「とりあえず、念のため偵察にフェイクシルエットを走らせるから、状況を良く見ておいて。」

「了解!」

 ざっと打ち合わせを済ませ、遮蔽物の中からかなり手を抜いた造形の、幻影のスバルとティアナをゴールに向かって走らせる。三十発程度のカラフルな魔力弾が唐突に表れ、恐ろしい速度と精度で幻影を粉砕する。

「……これは手ごわいわね……。」

「どうやら、今からが本当のボス戦みたいだね、ティア。」

「そうね。本当に手の込んだ真似をしてくれるわ……。」

 たかがランクBの昇格試験とは思えない難易度の本日の試験。その試験を用意した担当試験官に内心でいろいろと文句を言いながらも、持ちうる手段を全て検討して、残り五百メートルほどのゴールまでの道をどう突破するか考える。

「そっちがその気なら、とことんまでやってやろうじゃない!」

 いろいろな何かを刺激されたらしいティアナが、珍しく闘争心全開で吼える。その様子を横目で見ながら、最悪の場合ターゲットを抱えてあの弾幕を突破しきれるかを自問自答するスバルであった。







「さて、どう出るかな?」

 警告も兼ねて、あえて過剰な数の弾幕で幻影を潰した後、特に急かす事もなく二人の様子を見守るなのは。正直なところ、単に相手を戦闘不能にするなら、とうの昔に旅の扉を開いてディバインバスターを撃ち込んでいる。それをしないのは、一応これが試験であるという自覚を持っているからである。

『なのは、多分やりすぎだよ……。』

「うん。自覚はあるよ。」

『これで失敗したら、どうするつもり?』

「別に、試験目的をクリアできなくても、必ずしも昇格できない訳じゃないから。」

 なのはの言葉にため息をつくフェイト。ぶっちゃけ、何の答えにもなっていない。

「あ、動いた。」

『……これはフェイクシルエットだね。』

「うん。……その後ろに複数の術式パターン確認。……フェイクシルエットを光学迷彩で囲ってるのか。」

『中々凝った真似をしてるね。』

「うん。頑張ってるティアナに、少しだけサービスしてあげるかな?」

 そう言って、予定より多い魔力弾と誘導弾をフェイクシルエットに殺到させる。実際のところ、気配を読めるなのはやフェイトには、幻術を使った光学迷彩やフェイクシルエットは通用しない。だが、気配だけで断定できるからと言って、見た目に本物と区別がつかないほどの幻術をあっさり無効化するのは、試験と言う性質上フェアではないだろう。広報部のイロモノ以外、このフェイクシルエットを一発で幻術と見破れる人間はほぼいない、それほどの出来なのだ。

「お~、幻術なのに、生意気にも結構よけてる。」

『だけど、ティアナの魔力量がそろそろ危険水準だ。』

「この時点で合格でもいい気がしてきたけど、向こうがやる気だから、最後まできっちり追い込んであげないとね。」

 そう言って、一つ目のフェイクシルエットを粉砕する。その瞬間、予想通り光学迷彩を解いた別のフェイクシルエットが走り出す。予想と違ったのは、フェイクシルエットがスバル単独だったことか。これまた実に器用に魔力弾の雨をよけてのける幻を撃ち抜いて、本命をあぶり出す。

「さて、そろそろ本命だね。」

『なのは、貫いちゃ駄目だよ?』

「気をつけます。」

 ティアナを背負い、ぎりぎりゴール直前まで到達していたスバルの進路を魔力弾で潰す。大きく迂回せざるを得なかったスバルを誘導弾で追い立て、かわせるかどうか際どいコースで何発もかすらせる。一瞬でも気を抜くか判断をミスれば直撃するそれらを、必死の形相でかわし、迎撃する二人。ついに最後の一発まで耐え忍び、ゴールに向かって一直線に走る。思わず途中で何度か貫を行いそうになり、慌てて自重していたのも加減すると言う意味では丁度良かったようだ。

「さて、残り時間あと五秒。正真正銘の最後の一発、ちゃんと防げるかな?」

 先ほどフェイクシルエットを攻撃したと見せかけて、相手の意識の外に隠したディバインシューターを、かなり意地の悪い軌道で飛ばす。下手に回避しようものなら、ティアナが抱え込んでいるターゲットを真正面から粉砕してのける予定である。

「……良かった。ちゃんと正解を引いた、か。」

『まったく、そこまですることないと思うんだけど……。』

 全力でバリアを張って真正面からディバインシューターに突っ込んで行き、強引にゴールまで突破するスバルを見て、思わずため息をつくフェイト。制御ルームでモニターしていて分かったのだが、残っていたシューターの威力が微妙に高めで、もう少しでスバルのバリアを抜きかけていたのだ。組んだ攻撃魔法全部に何故かバリア貫通の特性がつくなのはの攻撃は、こういうとき実に加減が難しい。

「あ……。」

『止まりそこなったみたいだね……。』

 どうもローラーブレードのブレーキが擦り切れたらしく、止まり切れずに崖まで一直線に突っ込んで行くスバルと、危険を感じて大慌てで飛び降りるティアナ。どうにも最後の最後でしまらない受験生たちであった。







「お疲れ様。」

 崖に向かって突っ込んで行ったスバルを呆然と見ていると、後ろからそう声をかけられる。

「もしかして、高町一等空尉ですか?」

「ええ。今回の試験を担当させてもらった高町なのは一等空尉です。まずは試験結果の通知から。」

 結果の通知、という言葉に身を固くする。残り時間一秒ときわどかったものの、とりあえず勝利条件自体は達成しているはずで、そうそう不合格になる理由はないのだが、広報部に所属する元祖イロモノである彼女がどういう基準で採点しているか、と言う部分は大いに不安を感じる。エレガントさがどうとか、そう言う良く分からない理由で大幅減点されていてもおかしくないのだ。

「そんなに緊張しなくても、自己採点で結果ぐらい分かってると思うけど……。」

「どういう採点基準かが分からないので、安心できないんですよ。」

「はっきり言うね。まあ、気持ちも分かるけど。とりあえずもったいつけずにさっくり言うと、二人とも合格。今、向こうで手続き用の書類を用意してるから、あとで人事に持って行ってね。」

 なのはの言葉に、思わず大げさに安堵のため息をつくティアナ。たかがランクBの試験である以上、ちゃんと目的を達成していれば普通は合格するのだが、後半のやたら厳しい攻撃を無理やり凌いだ自覚があるため、そっちの減点も心配だったのだ。

「それで、悪いけどこの後、少し話に付き合ってもらいたいんだ。」

「新部隊への異動の件なら、はっきりお断りしたと思うのですが?」

「残念ながら、はいそうですか、ってあきらめられるほど、こっちも余裕無いんだ。八神二等陸佐から話があるから、それぐらいは聞いてあげてね。」

「……それは命令ですか?」

「そうなるかな? 異動まで命令する気はないけど、意図がはっきり伝わっていないと判断出来る以上、テーブルにつくぐらいまでは強引にさせてもらうよ。」

 温厚そうな顔に困ったような表情を張り付け、微妙に不本意そうな感じで告げるなのはに、イロモノと言うイメージと違って実は結構常識人なのではないか、と印象を修正するティアナ。実際のところ、ティアナ自身も、スバルが言おうとしている事を頑として聞き入れなかった自覚があるため、話を聞けと命令されるのも仕方が無い、とは思っている。ただ、階級を盾にとってのそれに腹が立つ、と言うのは変わらないが。

「それにしても、スバルはどこまで落ちたんだろう?」

「まあ、そのうち戻ってくるんじゃないですか?」

「なのはさんもティアもひどいよ……。」

「あ、戻ってきた。」

 涙目になりながら固有魔法・ウイングロードで道を作って戻ってきたスバルを、生温かい目で見守るなのはとティアナ。ローラーブレードが本格的に壊れたのか、普通に自分の足で走ってきている。

「怖かったよ~……。」

「あのぐらいの高さから落ちたって、どうってことないくせに。」

「それとこれとは別問題だよ!」

 涙目ですがりつくスバルを冷たくいなし、なのはの方に視線を向けるティアナ。

「それはそうと、今回の試験の試験官が高町一等空尉だったのは……。」

「完全に偶然のはずだよ。少なくとも八神二等陸佐は関わってないし、私達はそもそも管轄が違うし。」

 そこより上の、魑魅魍魎が駆け引きをしているような世界に関しては、なのはもフェイトも関知していない。一応聞けば教えてもらえる間柄ではあるが、正直興味はないし、あまり関わって深みにはまるのは勘弁願いたい。

「なのは、お待たせ。」

「ご苦労様、フェイトちゃん。スバル、ティアナ。これがさっき言ってた書類だから、必要事項を確認の上、自筆でサインして人事に提出してね。」

「辞令は早くて明日。それまではランクC相当の待遇だから注意してね。まあ、せいぜい長くて二日だから、トラブルになるような事はないと思うけど。」

 なのはとフェイトの言葉に頷く二人。以前、ランクDからランクCに昇格した時、同じ説明を受けているため特に気になる事はない。

「それじゃ、悪いけど八神二等陸佐が待ってるから、ついてきてくれる?」

「その前に、先に人事で手続きを済まそうか?」

「そうだね。」

 この後の予定を否応なく決められ、抵抗の余地なく連れていかれてしまうスバルとティアナ。人事部に行くのはともかく、その後のちび狸との面談は気が重い。そんな内心を察してか、特に余計な事を話すでもなく、用事が終わるまで必要最低限のやり取りだけで済ませるなのはとフェイトであった。







「試験で疲れてるところ、無理やり引っ張ってきてごめんな。」

「お気になさらず。」

 ソファーに座らされての第一声に、思わず能面のような表情で冷たく言いかえすティアナ。その様子に、どうにも苦笑をもらすしかないはやて。

「それで、本題やけどな。」

「はい。」

「ティアナ・ランスター二等陸士。自分はスバルのおまけとして誘われてる、って思ってるやろうけど、実は今欲しいんはむしろ、ティアナの方やねん。」

 はやてのリップサービスのような一言に、ティアナの感情がこれ以上ないぐらい冷え込む。

「私のような吹けば飛ぶような下っ端に、そんなリップサービスを使ってまでスバルが欲しいんですか?」

「何度も言うけど、そこが勘違いや。大体、スバルの代わりはどうとでもなるんやで。」

 どうとでもなる。相棒をそう一言で切って捨てられ、思わず唖然としてしまうティアナ。その横で、どうとでもなる扱いをされたスバルは、気を悪くした様子もなく頷いている。

「今のはさすがに言い方が悪いけど、スバルとほぼ同じ特性で、互角程度の力量の人間は、広報部にもそれ以外の部署にも、それなりの数はおる。さすがに、外部の人を引き抜くのは、ランクとか経験年数の問題でしんどいけど、やろう思えばどうにかできる。」

「だったら、そうすればいいじゃないですか。」

「それやと、一番解決したい問題に進展が無いねん。」

「一番解決したい問題?」

 怪訝な顔をするティアナに向かって一つ頷くと、その問題について話を始める。

「まず、問題の説明の前に、竜岡式、っちゅう単語とその意味は知ってる?」

「スバルが使う気功と言うスキルを主体とした、魔力に頼らない戦闘方法についての訓練方式、ですよね?」

「そうそう。ついでに聞きたいんやけど、それって、どれぐらい一般的になっとる?」

「竜岡式、という名前はそれほど知られていないと思います。少なくとも、陸士学校でも今いる救助隊でも、その名前を出してもほとんど通じませんでしたし。」

「そっか。」

 とりあえず、ティアナが必要最低限の知識を持っている事と、竜岡式の知名度が年寄り連中の意図したレベルにとどまっている事を理解し、とりあえずさっくり話を進めても大丈夫だと判断するはやて。

「現状な、広報部の連中をまともに指揮できる指揮官がおらへんねん。もっと正確に言うと、広報部の、と言うより竜岡式で鍛えられた人間と、一般的な訓練しか受けてへん人間を同時に指揮して、両方に十全の実力を発揮させられる人材がおらへん。」

「高町一等空尉や、テスタロッサ執務官は士官教育も受けていると聞いていますが?」

「二人とも、それなりに指揮は出来るけど、やっぱり基本スタンドアローンで完結してる人間やし、そもそも管理局でまともな教育を受ける前に、竜岡式を基本とした独学で魔法戦闘を勉強してきとるから、根っこの部分でどうしてもかみ合わへんところがあるねん。まあ、これに関しては、私も度合いの差はあっても、人の事は言えた立場やあらへんけど。」

 はやての言葉に納得してしまうティアナ。実際、なのは達ほど極端ではないにせよ、管理外世界出身の、管理局に所属した時点で十分すぎるほど実力を持っていた魔導師は、多かれ少なかれ似たような問題点を抱えている。また、そう言う魔導師は自分を基準に考えがちであるため、自分が出来る事を他人が出来ない可能性を見落としがちである。

「で、や。今回の部隊編成のそもそもの目的が、今までまともな部隊行動をとった事が無いイロモノ連中に、他所の部隊との連携を取れるようにするために、その手の事を一から叩き込む事やねんけど……。」

「肝心の、部隊をまともに指揮出来そうな人材がいない、と。」

「そう言う事や。ティアナ、自分スバルとかその同類みたいな連中に、指揮官とかできると思う?」

 はやての言葉に、同席こそしているが今まで一切口をはさまず、振舞われたアイスクリーム(時の庭園の新作。正直に言えば、ティアナも食べたい)を堪能しているスバルを見て、ため息をつきながら首を横に振る。

「さすがにそのままやと使い物にならへんと判断されるだけあって、どいつもこいつも能力的には癖が強くてなあ。そうでなくても、部隊っちゅうんは、一人二人突出した能力を持ってるんが混ざると、とたんに運用しにくくなるし。」

「本当に、他には指揮官を出来そうな人間はいないんですか?」

「辛うじて、カリーナ・ヴィッツ空曹長が出来そうな感じやねんけど、あの子の場合は本人よりデバイスがなあ……。」

「……カリーナ・ヴィッツって、ルナハートですか?」

「そう、ルナハートや。」

 それを聞いて、思わずはやてのため息に同期してしまうティアナ。兄の命の恩人であり、直接の面識こそないがそれなりに因縁浅からぬ相手で、それゆえにいろいろと複雑な感情を持ってしまう相手。突出したイロモノぞろいの広報部の中で唯一、顔以外は明らかに凡人、と言うオーラを身にまとった、一般人にとって妙に親近感を覚える人材である。彼女自身はいろんな意味でまともなのに、支給された専用デバイスがあまりにアレなため、人気のほとんどが同情票と言うある種競いにくい、なのは達とは違った意味で異色の存在だ。

「で、今までの実績を見て、スバルに振り回されんと的確にコントロールできてるみたいやし、他の魔導師と臨時で組んでも足を引っ張る事も引っ張られる事もなく目標を達成してるし、今回のプロジェクトにぜひとも欲しい人材や、と現場サイドと上層部で意見が一致してん。」

「……ずいぶんと買ってくださっているんですね。」

「前線に出れてかつ指揮ができる人材っちゅうんは、結構貴重やからな。」

 社交辞令かもしれないが、それでも褒められて悪い気はしないティアナ。その横で、わが事のように嬉しそうに頷くスバル。

「まあ、一番大きい理由はそんな処やねんけど、他にもティアナには重要な役目があってな。」

「……どんな役割ですか?」

「普通に大概の部署で通用するレベルでかつまだ新人の範囲に入る、リンカーコアの成長期を過ぎた魔導師を竜岡式で鍛えた場合、どの程度の実力になるか、って言うテストケースや。」

「……人体実験、ですか?」

「そんな人聞きの悪い事をするわけやないで。そもそも、リンカーコアの成長期を過ぎてからの訓練に関して、全くデータが無いわけやないんやけど、データがあるんがクロノ君だけやから、ちょっと役にたたへんと言うか……。」

 はやての返事に、思わず納得してしまうティアナ。近年まれにみるエリート中のエリートのデータなど、あったところでほとんど意味をなさない。これが、竜岡式を学ぶことでエリートコースに乗った、と言うのであれば話は別だが、リンカーコアの成長期を過ぎてから、とはやてが言いきっている以上、どう見積もっても執務官としてそれなりの実績を積んでからの話にしかならない。そうなると、そのデータも竜岡式が優れているから能力上昇につながったのか、クロノに才能があったから竜岡式でも強くなれたのかが分からない。

「少なくとも、確実に力量が上がる事だけは断言できる。でも、それがどの程度かって言うともう少しデータを取らな何とも言われへん。当然個人差もあるやろうし、同じリンカーコアの成長が止まった魔導師でも、若い子と年寄りでは新しい技能を覚えるための負担も全然違うから、もっとたくさんデータを取らんとあかんねん。」

「そう言った意味でも適任だ、と?」

「そうや。自分も、出来れば強くなりたいやろ?」

「残念ながら、同じ強くなるなら、出来ればそんな正体不明の怪しいシステムに頼らず、オーソドックスな手段で強くなりたいんですけど?」

「若いのに、えらく保守的やねんなあ……。」

 今までと違って、本気でティアナを必要としていると理解してなお、いまだに態度が硬いティアナに疲れたようにため息を漏らす。

「今回の件、上手い事行けば教本に名前がのる事になるかもしれへんねんけどなあ……。」

「教本に、ですか?」

「そうやで。何しろ、今回の事はうまくいけば、いろんな意味で歴史に残る可能性が高い。少なくとも、なのはちゃんとフェイトちゃんはすでに名前が残るんは確定やし、ここで部隊運営のノウハウを確立出来たら、ティアナも十分歴史上の偉人になれるで。」

 歴史上の偉人、とはまた大きく出たものだ。そんな風にはやてを見ると、苦笑しながら追い打ちをかけてくる。

「そらまあ、大規模部隊の運営は私の名前になるやろうけど、チーム単位に関しては、現状ティアナが一番よう分かってるはずやし、その手柄を横取りしたりはせえへんし。」

「教本に名前がのるって、すごいよティア!」

「そうなるとは限らないっていうか、そもそも形になるまで部隊が維持できるかどうかも怪しいじゃない!」

「そのためにも、協力してほしいねん。必要なら、士官教育も受けてもらうつもりやし。」

 やはり、目の前の小柄な女性は、かなりのタヌキだ。凡人ゆえの功名心と言うやつを的確についてくる。

「それに、広報部の部隊である以上、どうしてもある程度の芸能活動はやってもらう事になるけど、逆に言うたらその分、普通の二等陸士より収入が増える、言う事でもあるし。」

「それって、どれぐらい?」

「具体的に言うと、アバンテとカリーナが二等陸士やったころ、一年で稼いだ印税その他の特別収入は、私の今の給料をこえとったで。」

「「……。」」

「今年度デビュー組の収入までは確認してないけど、少なくとも興行的にこけてはないから、下手な尉官より多いのは間違いあらへん。」

 はやての言葉に、思わずつばを飲み込んでしまうスバルとティアナ。燃費の悪いスバルと、奨学金の返済が残っているティアナは、共に生活が結構ぎりぎりだ。興行的に上手くいけば、と言う条件こそつくが、収入が何倍にもなる可能性があると言うのは平凡な一般庶民にとっては、抗いがたい魅力がある。

「もう一つ言うとや。うちの部隊に所属すれば、三度の食事と家賃はただやし、二人に合わせたワンオフの特注デバイスも支給する。もちろん、メンテナンス費用も全部タダや。ついでに、時間的にちょっときびしなるかもしれへんけど、取りたい資格の勉強についても、いろいろ便宜を図るで。」

「……どうしてそこまで?」

「それだけ、今回のプロジェクトに賭けてる、って思ってくれたらええ。それに、ええ加減プールした資金が多すぎて、いろいろ問題も出て来とるみたいやしな。まあ、食事をただにする、っちゅうんは、芸能活動が絡むから、いろいろコントロールする必要があるって部分もかんどるけど。」

 はやての言葉を半ば聞き流しながら、己のプライドと目先の利益を秤にかける。正直、何か隠している事はあるだろうが、少なくともはやてが嘘をついていない事は分かる。正直、嘘をついてまで引きずり込むには、自分もスバルも中途半端だ。少なくとも、先ほどの言葉が本当でなければ、わざわざ二等陸佐がこんな下っ端を時間をかけてスカウトしたりはしない。

 結局のところ、ティアナの中での問題は、竜岡式に対する不信感のみと言っていい。それとて、今のところそれ自体に悪い話は聞いていないのだから、後は妙なスキルに頼る、と言う事に対して折り合いをつけられるかどうかだ。今回のプロジェクトがうまくいけば、もしかすればそのうち竜岡式は当たり前になるのかもしれない、と考えると、くだらない事にこだわっていては損をしかねない。

「……もう少し、考えさせてもらってよろしいでしょうか?」

「ええよ。ここですぐに結論を出せ、とは言わへん。資料も用意しといたから、来週ぐらいまでに返事してくれたらええ。」

「分かりました。それでは失礼します。」

「失礼します!」

 資料を受け取って立ち上がり、一つ頭を下げるティアナ。ちゃっかりお代りのアイスを平らげ、さらにお土産として自分とティアナの分を確保したスバルが、元気よく挨拶をし、ティアナの後に続く。その後寮の自室で資料を読んだティアナは、通信で熱心に勧誘してくるなのはとフェイトの言葉に加え、大事な兄の期待に満ちた言葉に負けて、結局一日持たずに落ちたのであった。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.047132968902588