「海鳴温泉も久しぶりだよね。」
「だよね。士郎さん達は毎年行ってたみたいだけど、私たちはずっと忙しくて行けなかったし。」
「何年ぶりぐらいだろう?」
「確か、最後に行ったのが六年生の時だから、五年ぶりぐらい?」
高等部二年のゴールデンウィーク。久しぶりに毎年恒例の温泉旅行に参加できたなのはとフェイトは、あの頃との立場の違いをしみじみと語りあっていた。まだ高校生だと言うのに、その姿は妙に哀愁が漂っている。
因みに六年生の時は、フォルクの特訓があったため優喜は参加していない。また、同じ理由で八神家も参加を見合わせているため、彼らは六年ぶり、フォルクとリインフォース姉妹は初参加となる。
「それにしてもなんか、ものすごい大所帯になったなあ。」
「バスを貸し切るぐらいだもんね。」
はやての感心するような言葉に、苦笑交じりに答えるなのは。今年はハラオウン家および広報部のデビュー済みが二人、それにエリオとキャロまで増えたため、ものすごい人数になってしまったのだ。そうでなくても、八神家は中学に上がったぐらいからさらに人数が増えており、彼女達が参加するだけで結構な規模になる。
結果として、高町家が優喜を含めて五人、テスタロッサ家が四人、八神家がフィーも勘定に入れて八人、月村家が婿入りした恭也と娘の雫を含めて六人、ハラオウン家が三人、そこにアリサとユーノのカップルプラス管理局関係者四人の計三十二人と言う、立派な団体客になったのだ。
一応シャーリーとルーテシアにナカジマ家も誘ったのだが、どちらも外せない用事と重なってしまい、今回は不参加である。もっとも、これ以上ミッドチルダからの参加者が増えると、どんな問題が出てくるかが分からないし、団体旅行としてもいい人数だ。そういう意味ではちょうど良かったのかもしれない。
「そういえば、部屋割りってどうなってるの?」
「ん? ああ、まず結婚してる組は基本一部屋。それ以外の男で二部屋。はやて、リイン、フィーで一部屋、それ以外のヴォルケンリッター女性陣で一部屋、なのは、フェイト、アリサ、すずかで一部屋。プレシアさんとリンディさんに子供二人で一部屋、残りの女性陣で二部屋、だったかな? まあ、夫婦と十歳以下の子供以外が男女混合にならなければ、どう変更してもいいとは言ってたよ。」
「男の子はどういう風に分かれとるん?」
「僕とユーノ、ザフィーラとフォルクとアバンテの予定。」
五人部屋と言うのが全部埋まっていたため、なのは達とリンディ達を除けば基本的に三人か二人で一部屋になる構成らしい。最初は四人ずつと考えていたものの、どう組み合わせてもしっくりこなかったため、結局こうなったらしい。一応、リンディをクロノ達と同室にし、フェイトをプレシアの部屋に移す案もあったのだが、当のリンディが
「早く孫の顔を見たいから。」
などと言って別室を望んだため、結局はこういう構成になったのだ。プレシアとしても、たまにはリンディとさしで飲んで語り合うのもいいか、と言う事で、快くその申し出を承諾したのである。
「ほなまあ、夜にそっちの部屋にも顔出すわ。」
「ん。まあ、修学旅行とかじゃないからあまりうるさくは言わないけど、その場の勢いで夜這いしての不純異性交遊は禁止ね?」
「それ、その場の勢いやなかったらええ、言うてるようにも聞こえんで?」
「ちゃんと真剣に考えての事なら、それをどうこう言う大人はここには居ないからね。」
「いやまあ、そうやろうけど。」
事実を突き付けられて、微妙に反応に困るはやて。確かに高町夫妻もプレシアもリンディも、真剣に愛し合い、将来の事を考えた上で行為に至ったのであれば、わざわざそれをとがめるような無粋な真似はしないだろう。そもそも、今回旅行に来ている人間で、仕事も収入もない年頃の人間はアリサとすずかのみ。その二人にしたところで、すでに家族公認になっているため、仮に先走った事をしても困る事はない。ただ単に、世間体やら何やらの問題があるので、せめて高校を卒業するまでは妊娠は避けた方がいい、という程度の話だ。
すずかに限っては、優喜の体の事以外にも、男を知ると発情期がひどくなる、という事情もあって、力技で迫るのは先延ばしにしていたのだが、最近はじらされすぎてかすでに普通に発情期がひどいので、もう体を使った治療を強行してもいいんじゃないか、などと大人たちがひそひそ相談していたりする。
因みに、そのこじらした発情期の餌食になるのは主になのはとフェイト、次点でアリサであり、最近なのはの発育が良くなったのはそのせいではないかと、まことしやかにささやかれているのはここだけの話である。
「それで、今回も朝と晩は走るん?」
「もちろん。フォルク達もその前提で用意してきてるだろうし。」
優喜の言葉に頷くなのはとフェイト。よくよく考えると、竜岡式で鍛えられている人間が七人もいるのだ。朝晩の鍛錬を怠るはずがないのである。
「朝晩の鍛錬だったら、雫も一緒にやる事になるが、いいか?」
優喜の台詞にはやてがげんなりしていると、話を聞きつけたらしい恭也が割り込んでくる。月村雫、現在三歳。夜の一族の身体能力ゆえか、早くも斬はものになりつつある、末恐ろしい美幼女だ。
「御神流を教えてるの?」
「教えちゃまずいのか?」
「忍さんの血筋で御神流とか、正直割と勘弁してほしい。」
「それを言いだしたら、なのはやフェイトの魔力量で魔力なしの近接戦闘が出来るのも、普通は勘弁してほしいんじゃないのか?」
恭也の突っ込みに、思わず頷くはやてとクロノにヴォルケンリッター。この二人、馬鹿魔力のくせに魔力なしでバリアジャケットを抜いてくるのだ。普通に戦うと、死角らしい死角が見つからなくて困る。
「それに、俺からすれば、お前の子供の方が正直恐ろしいぞ。」
「え~?」
「あ~、それはものすごく納得やで。」
恭也の指摘に、恐ろしいほどの説得力を感じる一同。何しろ、優喜の子供を生む可能性が一番高いのが、夜の一族に最強クラスの魔導師二人である。その子供が生まれた時から手取り足取りじっくり鍛えあげられるとか、どんな悪夢が待っているのか考えたくもない。
「何度も言うようだけど、僕自身は何も特別な血筋とか才能とかはないから、僕の子供だからって特別何かがあるわけじゃないと思うよ?」
「逆に言えば、特別な訳でもない人間でも、鍛えればその領域に届くと言う事だろう? しかも、お前は割と優秀な指導者だ。」
えらく過大評価されている感じの一言に、非常に居心地が悪くなる優喜。そもそも、自分が誰かと子供を作ると言う事すら想像できないと言うのに、何でその子供の話でここまで盛り上がるのか、心底理解できない。そんな困惑を知ってか知らずか、月村夫妻の愛娘が、目をキラキラさせてこちらを見つめていた。
「おにーちゃん、しずくにもきこーをおしえてくれる?」
「こんなこと言ってるけど、いいの、お父さん?」
「俺が教えるより、お前から習った方がちゃんと覚えるだろう?」
「教える気満々だし……。」
このあと、エリオやキャロの現状の話も加わって、誰に何をどの程度教えるのかと言う話で大いに盛り上がるのであった。
「アバンテ、カリーナ、楽しんでる?」
「はい!」
「こういう街を歩くのは初めてなので、凄く面白いです。」
海鳴温泉到着後の自由時間。ご当地サイダーを片手に適当に冷やかしていた優喜達は、高町夫妻に引率されて別行動中だったアバンテ達と遭遇する。さすがに三十人を超える集団がぞろぞろ歩いていると、邪魔なことこの上ない。そのため、いくつかのグループに分かれて温泉街を冷やかして歩いている。
「二人とも大人しいから、ありがたさ半分、つまらなさ半分と言ったところか。」
「士郎さん、士郎さん。さすがに二人とも中学には上がってる年なんだし、そういうはしゃぎ方を求めるんだったら、むしろエリオ達の方だと思うよ。」
「あの子たちはあの子たちで大人しいからなあ。」
士郎の台詞に、一体何を求めているのかと呆れてしまう一同。因みにエリオとキャロは、テスタロッサ家御一行と一緒に行動している。向こうはプレシアが割と羽目を外している事もあってか、子供たちは非常に大人しい。フェイトとリニスがブレーキ役としてプレシアを制御し、アルフが子供二人の面倒をみると言う、割と珍しい光景を展開しているテスタロッサ家であった。
「それはそうと、なのは達は、優喜に何か買ってもらったのか?」
「そういうのはないよ。」
「フェイトちゃん、別行動ですから。」
「なんだ、つまらん。」
「おとーさん、本当に何を期待してるの?」
なのはの突っ込みに、思わず苦笑する士郎。取り立ててトラブルを求めているわけではないが、せっかくの旅行なのだし、もう少し羽目を外してもいいのでは、と言うのが彼の本音だ。
「なに、まだ若いんだし、ちょっとぐらい羽目を外してもいいじゃないか、と言いたいだけだ。」
「そうね。はやてちゃんたちぐらいはしゃいでも、ばちは当たらないと思うわよ?」
最大グループである八神家は、今日ぐらいは財布のひもを緩める気らしく、普段やらないような散財の仕方をしている。特にこういう旅行が初めてのリインフォース姉妹の、常日頃あまり聞かないわがままにヴォルケンリッターの頬が緩みっぱなしで、夕飯大丈夫かと言いたくなる勢いで買い食いをしたり、やたらレトロなおもちゃを買って喜んだりと、ある意味正しく温泉街を満喫している。
「さすがにあそこまではちょっと、ね。」
「さすがになのは達も、小さい子抜きではしゃぐのは無理?」
「もうそんな年じゃないし。おねーちゃんだって、アバンテ達と一緒にはしゃぐ気にはなれないでしょ?」
「本当にねえ。私も年食ったもんだ。と言うか、何でいまだに私は一人身で親と一緒に行動してるんだろうかと思うと、さすがにちょっとこみあげてくるものがあるよ……。」
「み、美由希さんはまだまだこれからですよ!」
遠い目をしてたそがれ始めた美由希に、必死になってフォローを入れるすずか。実際、さすがにまだ悲観するには早い年ではあるが、彼女の出会いの無さと言うのは割と深刻な問題だ。毎日家と翠屋の往復で、空き時間は読書か鍛錬と言うプチ引きこもりの彼女には、せいぜい新しくバイトの子を雇った時ぐらいしか、新しい異性と出会うきっかけがないのだ。
最近、見かねた桃子のアドバイスに従って、店に出るときにはメガネをコンタクトに変えて、髪をほどいて下ろすようにしている。そのため、今まで目立たなかった一定水準を超える美貌が露わになり、隠れファンは急増中なのだが、さすがにそれが即出会いにつながるわけではない。
(おねーちゃん、美人で気立てもいいのに、何で彼氏出来ないんだろうね?)
(合コンとかになじめなかったらこんなもんだって、向こうで大学生やってるときに知り合いが言ってたよ。)
(そーいうものなんだ。って言うか、それで結婚とかに結び付くの?)
(そんなの、当人次第に決まってるじゃないか。ただまあ、美由希さんって多分、合コンとか結婚相談所とかで上手く行くタイプじゃないとは思うけど。)
優喜の言葉に、内心ため息をつくなのは。それを言いだしたら、美由希に限らず自分達の関係者は、そういうタイプの方が多いぐらいだ。彼女自身、優喜と上手くいかなかった場合、そういう手段で他の相手を探すことには抵抗があるし、フェイトに至っては一生独身確定だろう。すずかとなると、本人の性格以外にも、夜の一族と言う性質が結婚相談所向きとは言えない。
「そーいや、アバンテとカリーナは、そういう相手はいないの?」
「居ないですよ。」
「今のところ、そういう事を考える余裕はないです。主にデバイスのせいで……」
美由希の問いかけに、そういう相手が居ない事を気にもしていない感じで答えるアバンテと、美由希とは違う方向で黒いオーラをにじませながら、ちょっと欝が入った表情で返事を返すカリーナ。
「まあ、焦る事もないと思うけど。」
「そうなんだけどね、優喜君。ただ、焦る必要ない、なんて考えてると、美由希みたいに手遅れになりかねないから。」
「かーさん、それどういう意味?」
折角優喜達が言わないようにしていた事をズバリ口にする桃子に、じっとりした視線で詰め寄る美由希。フォローしようにも、下手に口をはさむと逆効果になりかねないため、苦笑しながら放置する優喜達。
「とまあ、こういう事になるわけだから、気になる異性がいたら積極的に、な?」
「「は、はい……。」」
「そっちも人ごとじゃないからな。」
「「あ、あはははははは……。」」
士郎の指摘に困った顔をするアバンテ達と、乾いた笑いをあげるしかないなのは達。なのは達に関して諸悪の元凶である優喜は、それを言われてもと言いたげな表情である。結局、さらに話が炎上するのを嫌った三人は、適当に挨拶をしてとっとと敵前逃亡したのであった。
「ふう……。」
湯船に体を浸して、思わずため息をつく。夕方までの散策と、その後の晩の鍛錬で程よく疲れた体を温泉の熱がゆっくりほぐしていく。
「こういう旅行の度に思うんだけど、一日ぐらい鍛錬休んだら?」
珍しく派手に緩んでいる優喜に、思わず呆れたように声をかけるユーノ。もうそろそろ夕飯時だからか、男湯は意外とすいている。高町家御一行の男連中以外では、見える範囲で三人ぐらいしかいない。
「そう思わなくもないんだけど、身にしみついた習慣ってのを変えるのは、なかなかね。」
「まあ、分からなくはないけど。」
苦笑気味に答える優喜に苦笑を返しながら、隣に浸かるユーノ。
「発掘の時も、結局朝の走り込みとかはやめないんだよね、優喜は。」
「日課ってやつは、サボるとどうにも落ち着かないんだよ。それこそ、もう十年以上続けてるんだし。」
「確かに、サボると落ち着かないのは分かるけど、僕は発掘に行く時とかは、そこまで気にならないよ?」
「そこはそれ、年季が違うから。受験の時とかも朝晩きっちり走ってたし。」
肉体的な鍛錬と言うやつは、一日サボれば取り戻すのに三日かかると言う。今日は旅行と言う事もあって軽めで済ませたが、優喜や恭也の軽めと言うやつは、一般人の本格的と大差なかったりする。何しろ、軽めに二十キロ走ってきた、とかほざく連中だ。さすがにアバンテ達がいるため、本当に軽くで十キロ程度に抑えてはいたが、それでも旅先でやる距離ではない。
「まあ、たまにヴォルケンリッターが羨ましくなる事はあるかな。向こうは鍛錬をさぼっても、肉体そのものは衰えないし。」
「だが、鍛えたところで強くなるわけでもないがな。」
優喜の言葉を聞きつけたザフィーラが、見事な肉体美を見せつけながら話に加わる。なお、言うまでもないが、耳と尻尾は隠している。後ろには、これまた実用的でアグレッシブな体を持つフォルクが。
「それにしても、ユーノも見た目の印象よりは鍛えているな。」
「遺跡発掘は、インドアな体じゃ出来ないからね。」
ザフィーラの言葉の通り、さすがに近接戦闘を本職にしている連中に比べればかなり劣るとはいえ、ユーノの体も細身ながら、結構しっかり鍛えられている。もっとも、彼の筋肉はちょっとした瓦礫をどけたり、何かあった時に走って逃げるための物なので、ボリュームはともかく質としては悪くない。
「しかし、この光景、シャマルには見せられんな。」
「まったくだ。今の会話なんて、下手に聞かせた日にはどんな妄想をするか……。」
ザフィーラの言葉に、鳥肌を立てながらフォルクが同意する。外ではそれなりに注意しているらしいが、それでも優喜達がその腐り具合を察する程度には、ヴォルケンリッターの参謀は腐っておられる。
「皇太子殿下の掛け算、妄想だけで抑えさせるのに苦労したぞ。」
「なんだか大変そうだね。」
「全く、もう少しいろいろわきまえてもらいたいよ。」
フォルクの言葉に、深々とため息をつくザフィーラ。普段なら苦笑して済ませるような話題ではあるが、場合によっては自分の身に降りかかってくるため、あまりさらっと流せない優喜とユーノ。
「シャマルのやつ、まだ病気が治ってないのか?」
「ああいう病気は、一般的にはどんどん悪化する類の物だからね。」
「貴腐人と言うのだったか? 下手にそれなりの経済力があるから、始末に負えん。」
体を洗い終えたクロノが、身内だけで固まってひそひそやってる連中の傍に来る。なまってるとぼやいている割には、まだまだ実用に耐えるぐらいの筋肉がついたいい体である。いつの間にやらこの一角が、その筋の人間には天国と言っていい光景になっている。
「なあ、クロノ。」
「なんだ?」
「皇太子殿下とオクタビアを掛け算した本、あれが仮に完成して出回ったとして、私達の首は大丈夫だったか?」
「さすがに連帯責任を問うような真似はしないが、シャマル本人は無傷では済まないだろうな。」
懲戒免職まで行くかどうかは状況次第だろうが、少なくともまだ事件が風化し切っていない今は、他国の王室を侮辱したと言う扱いになる事は免れない。
「……まったく、本当にどこかに腐につける薬はないのか、調べたいところだぞ。」
「あったらあのジャンルが、あそこまで元気になるわけがないよ。」
「言うな、頼むから……。」
心底疲れ切っているフォルクとザフィーラに、本気でどう声をかけていいのか分からない一同。これが女性なら、ある意味他人事なのでなんとでもいえるのだろうが、男の身の上だと、明日は我が身ではないと言いきれない。と言うより、少なくともここにいるメンバーは、すでにシャマルに掛け算されていると思っていいだろう。
「あの~。」
「何?」
「掛け算した本って、なんですか?」
「あまり、小さい子供に説明したくない。」
「そうですか、残念なのです。」
そう言って、ナチュラルに湯船に入ってくるフィーとキャロ。あまりに自然なため流していた男たちは、二人が湯船につかったあたりで違和感に気がつく。
「あのさ、何でこっちに?」
「エリオ君がいるかな、って思って。」
「小学校二年生までは、どっちに入ってもいいとの事だったので、フォルク達と裸の付き合いをしに来たのですよ~。」
フィーの言葉に、大いに納得する。普通に考えて、余程の変態でもなければ、まだ幼児に片足突っ込んでる小学校低学年に欲情することなどない。しかも、こういう不特定多数が頻繁に出入りする場所では、どんな度胸のある変態でもその性欲を満たしたりは出来ないだろう。と言うか、すれば事に及び切る前に、現行犯で手が後ろに回る。
「体はちゃんと洗った?」
「はいなのです。」
「隅々まで綺麗に洗いました!」
「ならよし。ちゃんと肩までつかって、ゆっくり温まる事。」
「「は~い。」」
優喜の言葉に素直に返事を返す子供二人。そんな様子を、まるで父親か何かだな、などと思いながら、ほのぼのと見守る一同。思わず真剣に、人としてシャマルのようにはなって欲しくないと願ってしまうのも、仕方あるまい。
「あれ? キャロ?」
そんな風にほのぼのと子供達を見守っていると、士郎とアバンテに引率されていたエリオが、露天風呂から戻ってきた。因みに恭也が居ないのは、家族風呂で忍と一緒に、娘をお風呂に入れているからである。なお、アバンテも例に漏れず、実用性たっぷりのマッシブな肉体をしているが、エリオとキャロはあまり筋肉をつけすぎると、将来身長があまり伸びない可能性があるため、せいぜいジュニアのスポーツクラブのエース、という程度にとどめている。
「あ、エリオ君だ。お~い。」
「ど、どうしてこっちに?」
「小学校二年生までは、どっちに入ってもいいんだって。」
「そうなんだ。」
「みんな、ご飯食べた後にもう一度入るって言ってたから、次は一緒に女湯に入ろうよ。」
やたらアグレッシブに押すキャロに、思いっきりおろおろするエリオ。そんな子供達を見て、更にほのぼのしてしまう一同。女湯に行けることをうらやましいとは欠片も思わないあたり、女湯にいる連中をどういう風に見ているのかがよく分かる。
「まあ、まずはじっくりぬくもってから、ね。それと、このあとの晩御飯は、好き嫌いなくちゃんと何でも食べること。」
「「「は~い。」」」
やはり父親と子供達のような会話をする優喜とちびっ子三人を、思わずほのぼのとした表情で観察してしまう一同。羞恥心周りはともかくとして、それ以外の部分はシャマルに染まらず、このままのキャロでいて欲しいと願ってしまう男どもであった、
一方女湯では。
「……。」
「……。」
湯船に浮かぶフェイトとすずかの乳房に、二つの視線が突き刺さっていた。一つは情欲まみれのねっとりとした視線、もう一つは羨望と嫉妬が渦巻く黒い視線である。
「は、はやて……、カリーナ……、何かな……?」
「いや別に何でもあらへんで。ただ、フェイトちゃん、二年ぐらい見てへんうちにえらく立派になったなあ、思って。」
「そうですよ。こっちはユニゾンしてもお湯に浮くほどのサイズじゃないのにこんちくしょう、なんて思ってませんから。」
カリーナの言葉に、思わず胸をかばってしまう二人。一瞬、もがれるんじゃないかという危機感を覚えたのだ。
「隙ありや。」
「あっ。」
カリーナに気を取られてはやてから注意が逸れた瞬間、日頃考えられないほどの素早さですずかの背後を取るはやて。そのままエロオヤジ全開の手の動きで、やたらねちっこく強弱をつけて、その見事な巨乳をこねあげる。
「あっ、んぅ、は、はやてちゃん、ほ、他の人が見てるから……。」
「見てへんかったらええん?」
必死に声を押し殺しながらもだえるすずかに、いけないスイッチが入ったらしい。さらにねちっこくこねながら、耳元で言葉攻めを始める。どうやら、必死になって耐えるすずかの壮絶な色気に、自分の方が発情してしまったようだ。それまで割と怖い目で見ていたカリーナも、すずかの色気にあてられて、真っ赤になりながら視線をそらす。
「見てなかったらとか……、んっ! そ、そういう問題じゃ……。」
「こんなふうにしながら言うても、説得力あれへんよ。」
などと、どんどんエスカレートするはやての後ろに、音もなく近付く影が。
「いい加減にしようね。」
「あいたあ!!」
後ろに立ったまま、音もなくはやての後頭部をデコピンの要領で叩く美由希。叩かれたのは後頭部だと言うのに、なぜか額を押さえてもだえるはやて。どうやら徹を応用して、裏側に当てたらしい。相変わらず無駄なところに高度な技を使う連中だ。その様子を、呆れながら見ているエイミィ。
「しかしまあ、みんな育ったよね。」
「私がもみたなる気持ち、分かりますよね?」
「限度ってものはあるけどね。それにしても、なのはには見事に追い抜かれたし、フェイトには完全に引き離されたなあ。」
「なのはちゃん、そんなに育ってるん?」
「まあ、見れば分かるよ。勝ち組のエイミィは、抜かれてもあんまり気にしてないみたいだけど。」
いきなりネタを振られて、思わず苦笑するエイミィ。バストサイズなど、自分および惚れた男との折り合いにすぎない問題だ。クロノがあまりそういう事を気にしないタイプだったという幸運ゆえ、エイミィも今では気にしていないが、結婚前、と言うよりハラオウン親子と海鳴で同居する前だったら、多分美由希と大差ない反応を示していただろう。
なお、彼女達の名誉のために言っておくと、はやても美由希もエイミィも、決して小さい方には分類されない。人それぞれの基準はあるだろうが、ユニゾン後のカリーナも含めて、貧乳と呼ばれる筋合いはない程度には大きい。ただ単に、今回旅行に参加している人間の平均値が、やけに上の方にあるだけである。
「はやてちゃん、向こうの方まで聞こえてたよ。」
「はやて、さすがにこういう公共の場では、もうちょっと慎みなさい。」
露天風呂につかっていたなのはとアリサが、苦い顔をしながら釘をさしに来る。一緒にいたヴィータが、いろいろ複雑そうな表情をしているのが印象的だ。
「そういえば、ちびっこたちは?」
「まだ年齢的にどっちにでも入れるからって、男湯の方に行ったわよ。」
ふと気になったエイミィの問いかけに、苦笑しながら答えるアリサ。フィーは好奇心で、キャロはエリオ目当てであろうが、正直男湯に行ってくれて助かったかもしれない。さすがにはやてのあれは、子供に見せるにはいろいろまずい気がする。
「むしろ、他のヴォルケンリッターと母親の皆さんがいない方が気になるんだけど。」
「シグナム達は、とっくに上がったよ。そもそも、あたしらよりだいぶ早くに入りに来てたからな。」
「お義母さん達も、売店で夜に飲むお酒を物色するとか言って、割と早くに上がってたかな。」
「アルフとリニスは、ノエルさん達の手伝いをしてるから、ご飯が終わってから入るって。」
アリサの問いかけに、次々に返事が返る。因みにはやて達が他のメンバーより遅くなったのは、鍛錬組を待っていたからである。クロノとエイミィは途中からリンディと別行動を取っていて、単純に帰ってくるのが遅くなっただけだ。
「それにしても、ほんまになのはちゃん育ったなあ。」
「……何が?」
「揉んでええ?」
「……さっき注意されたの、忘れたの?」
などと、突っ込むのも疲れました、と言わんばかりの態度で断るなのは。いつの間にやらはやてを抜き去り、アリサと並んだその立派なバストには、洗濯板を嘆いていた中二の一学期の面影はどこにもない。
「まあ、そうやねんけどな、って隙あり。」
一回二回デコピンを食らった程度では自重する気はないらしい。微妙にガードが固いなのはではなく、フェイトの方を毒牙にかける。
「は、はやて。まって、まって。ちょっと痛い!」
「……ん?」
「って、何で探るようにもむの!?」
「まあ、ちょっと気になる事があってな。」
そう言って、先ほどよりはかなり自重した動きで、もう少し揉みほぐす。その後、おもむろになのはのガードを抜いて、同じように何かを探るようにこねまわす。
「ちょっと、はやてちゃん、今痛いんだから、触るんだったらもっと優しく……。」
「あ~、ごめんごめん。でも、これで確信したわ。」
「……何を?」
「なのはちゃん、フェイトちゃん。自分ら、まだ育っとるやろう?」
はやての言葉に、思わず顔を見合わせるなのはとフェイト。確かになのははちょっと前にサイズを一個あげたところではあるが、フェイトは今のところカップが変わるほどの変化はない。
「なのははまだ大きくなってるみたいだけど、私はそんなに変ってないと思うよ?」
「ほんまに?」
「ん~、前に衣装のデータを取った時と比べて、トップが五ミリぐらいかな? 一センチは変わってなかったと思う。」
「育っとるやん!」
フェイトのボケ全開の返事に、思わず全力で突っ込む。元々この件に関しては、フェイトの成長速度はそんなものである。
「まだ芯があるし、あの触り方で痛いいうし、自分ら成長が遅いにもほどがあるで……。」
「そんな事言われても……。」
「ねえ……。」
はやての血を吐くような言葉に、困ったように応じるなのはとフェイト。別に、好きで成長が遅かったわけではないのだが、結構早くに今のサイズになって、結構早くに肉体的な成長がすべて止まったはやてからすれば、いろいろ信じられない話なのだろう。カリーナほど気にしている様子はないにせよ、全く気にしていないわけでもなさそうである。
とはいえ、この場でこの件について一番ダメージを受けているのは、明らかにヴィータだったりする。何しろ、夜天の書のシステムに組み込まれているため、プログラムを直接書き換えでもしない限り、肉体的な変化は起こらないのである。覚悟はしていたし割り切ってもいるつもりだが、それでも自分より貧相だったはずの連中にどんどん抜かれて、何とも思わないほど女を捨てきれてはいないようだ。
「それに、私まだ、ウィングの貧乳の方って言われてるんだよ?」
「なのはさん、それは私に対する挑戦ですか?」
「カリーナはこれからやって。ほら、まだまだこんなに青い。」
「ひゃっ! は、はやてさん、なのはさんじゃないけど、今痛いんですから、そんな乱暴に!」
などと、だんだん話に収拾がつかなくなってくる。結局、直後にもう一度美由希のデコピンが飛び、力技で状況が収拾される。湯船につかった状態で暴れたため、少々のぼせ気味になったなのは達は、結局そのまま風呂からあがり、
「……おかーさん、お酒物色してたんじゃないの?」
「あらなのは、もうあがったの?」
「うん。って、そうじゃなくて……。」
「日本はまだまだ奥が深いわね。こんないいものがあったなんて。」
「母さん……、年頃の娘としては、母親のそう言う姿を見るのは結構複雑なんだけど……。」
「プレシア。年を考えれば仕方がないとはいえ、さすがにさっきからいろいろおばさん臭すぎますよ……。」
「いいじゃない、フェイト、リニス。私はもう、年齢的にはおばあちゃんなんだから。」
自販機コーナーに設置されたマッサージチェアを占拠して、完全に溶けた表情の母親達を発見するのであった。
「ご飯美味しかったね。」
「追加の料理は、結局大方リインとエリオに食べられてしもたけどなあ。」
時の庭園では手に入らない地の食材をふんだんに使った夕食が終わり、ちょっと部屋でまったりしているなのは達。出てくる話題は、当然のことながら夕食の事である。
「ただ、私ちょっとショックやった事があってん。」
「どうしたの?」
「お漬物がな、あんまり美味しいと思わへんかってん。」
「あ~……。」
はやての言葉に、思わず大いに納得するなのは。ぶっちゃけ、フェイトが無駄に愛情を込めて漬けた漬物の方が、ここで出てくるものより美味しいのである。さすがに、コンビニ弁当などに添えられている大量生産品の漬物よりはずっと美味しいのだが、人間と言うやつは、一度美味しいものを食べてしまうと駄目だ。一番美味しいものをすごく美味しいと感じるのではなく、他の物を不味いと感じてしまうのである。
「最近な、局の食堂のご飯が、本気で美味しくないで。」
「はやてちゃんもそうなんだ。」
「本局中央オフィスの大食堂は、微妙だよね。」
「まだ中央オフィスはいい方よ? 無限書庫のあたりなんて、味に文句を言ってたら食事を抜くしかないんだから。」
「そういえば、中央地区の南エリアのあたりは、結構いいお店が何軒かあったよ。なのはちゃん達は行った事ある?」
「あまり、そっちの方はうろうろしてないかな。すずかちゃん、今度教えて。」
はやての言葉をきっかけに、クラナガンのグルメについて盛り上がる。ミッドチルダの話題など、管理局と直接関係のないアリサやすずかにはついていけなさそうなものだが、地味にそれなりの頻度で出入りしているため、民間人のはずの二人も意外と詳しかったりする。
「そういえば、なのはちゃんらはベルカ料理の店とか、知ってる?」
「あまり知らないけど、どうして?」
「うちの子らに食べさせてあげたいんやけど、自治区に行くと聖王教会で食事が出るし、クラナガンでもいうほど食べ歩いてる訳やあらへんから。」
「そっか。役に立てそうになくてごめんね。」
「いや、そんな大げさに謝られるような事やないで。いざとなったら、時間作って聖王教会の厨房で習えばええんやし。」
とはいえ、聖王教会の厨房で、はやてが望むようなベルカの家庭料理を教われるかどうかは難しいところかもしれない。
「あ、そういえば。」
「フェイトちゃん、なんか心当たりあるん?」
「前に一度、優喜と一緒に自治区に行ったとき、教えてもらって一緒にベルカ料理のお店に入ったよ。」
「なるほど、優喜君か。」
「ちょうどいいから、いまから遊びに行くついでに、聞きに行こうか?」
フェイトの提案に一つ頷き、ついでなのでトランプなどを鞄から引っ張り出す。そのままいそいそと、と言う足取りで優喜とユーノの部屋へ移動する。
「優喜君、ユーノ君。」
「あ、なのは。」
「皆来たんだ。」
部屋の前で声をかけると、中から微妙な雰囲気の二人が顔を出す。
「……どうしたの?」
「ん~、まあ、ちょっとね。」
妙な雰囲気を不審に思ったなのはの問いかけに、珍しく言葉を濁す。それを見たユーノが、少し厳しい顔をして優喜に告げる。
「優喜、どうせ話さなきゃいけないんだから、今話してしまったら?」
「旅行に水をさしかねないのがなあ……。」
旅行に水をさしかねない話、と言う言葉に、言いようのない不安を感じる。
「優喜君、ユーノ君、それってどういう……?」
「あ、今日明日どうこうって話じゃ無いよ?」
「そんなに言い辛いことなの?」
「割と、ね。」
今日明日どうこうなるわけではなく、それでいて優喜が言いよどむ内容、と言うのがぴんと来ない一同。その様子を見たユーのが、とりあえず口を開く。
「立ち話もなんだし、中で話そうよ。」
「了解。皆、中に入って。」
どうにも雰囲気がおかしい二人に眉を潜めながら、とりあえず割りと中立の位置にいるアリサが率先して部屋に入る。そのアリサに続いて、恐る恐る部屋に入っていくなのは達。
「それで、結局何があったのよ。」
「優喜君、今更だんまりは無しやで。」
「優喜、あきらめて話しなよ。」
アリサとはやての台詞に加え、先ほどから口を開かない三人のプレッシャーに負けて、ユーノが必死に促す。結局、しぶしぶと言った感じで、優喜が重い口を開いた。
「さっき、師匠の気配を感じた。」
「えっ?」
「多分、そろそろ迎えが来る頃だと思う。」
優喜の台詞に、完全に固まるなのはたち三人。思わず頭を抱えるアリサとはやて。優喜が言いよどんだ理由を理解してしまった。
「間違いない?」
「間違えるわけがない。」
「具体的に、いつ来るかとか分かる?」
「どんなに早くても、今年中に来るとは思えない。逆に、どんなに遅くても、大学に上がるまでには来るはず。」
優喜の言葉に、しばらく考え込むアリサ。その間に、はやてが聞きたいことを質問する。
「来年度中って言う根拠は何?」
「うまく説明できないんだけど、師匠の気配の遠さと、門を開くときの時差からそう判断した。」
「その予測は、絶対って言い切れる?」
「今年中には来ない、って方は言い切れる。ただ、大学に上がるまでって方は、一月程度なら後ろにずれるかもしれない。」
「そっか。」
優喜が来ると言うのであれば、多分来るのだろう。そう思っておいたほうが、ダメージが少なそうだ。
「……優喜君。」
「なに?」
「……お迎えが来たら、どうするの?」
「最終的にどうするかは決めてないけど、一度は向こうに戻るつもり。墓参りもしたいし、処理しておきたいこともあるし、ね。」
「……そのあとは?」
「そのときになってみないと分からない。」
帰る、とはっきり言われなかったことにほっとしつつ、先行きがはっきりしないことが、かえって不安を大きくしてしまう。
「まあ、さっきも言ったように、今日明日何かあるわけじゃ無いから、ね。」
「……うん。」
猶予があるのが、かえって辛い。だが、それを言っても話にならない。
「でも、優喜。」
「なに?」
「もうじき、十年だよ。向こうの人、どう思ってるんだろう?」
「多分、向こうは十年も経ってないと思う。」
「どう言う事?」
フェイトの問いかけに、どう説明するべきかを悩む優喜。かなり抽象的な話になる上、彼自身も経験則でしか知らない事柄だからだ。
「さっきも言ったよね、時差があるって。」
「うん。」
「厳密に言うと、時間の流れが違うわけじゃ無いらしいんだ。」
もう既に、言わんとしていることが分からない。だが、それでも何とか理解しようと頑張るなのは達に、どう噛み砕くか必死になって頭をひねる優喜。
「時間の流れがどうかじゃなく、向こうとこっちを行き来するゲート、それを開ける時間軸がどこか、っていう話になるから、向こうでどれだけ時間が流れてるか、こっちでどれだけ時間が経ったか、って言うのは関係ないんだ。」
「その説明だと、一度しかゲートを開けない、ってことになりそうだけど?」
「でもないらしい。一度時間軸を同期させてしまえば、開いたゲートは意図的に閉じない限りは、両方の世界で、開いてから後ろの時間に存在するんだって。ただ、最初に開くときには注意しないと、色々問題が出るから、特定のタイミングでしか開けない、らしい。」
「つまり、一度開いてしまえば何度でも行き来できる、と。」
「うん。で、師匠がゲートを開こうとした割には、気配が遠くて力の動きも小さかったから、今年中はないって判断したんだ。」
「なるほど……。」
分かったような分からないような説明に、無理やり納得して見せるユーノ。何しろ、かなり解析が進んだ今ですら、原理不明なままの技を複数持っている連中だ。何をしでかしてもおかしくない。
「要するに、ゆうくん。」
「ん?」
「仮に迎えに来ても、相互に行き来できるってことだよね?」
「そういうことになるね。」
「だったら、今は心配するのも悩むのもやめる。なのはちゃんもフェイトちゃんも、それでいいよね?」
すずかの言葉に、一つ頷いて同意するなのはとフェイト。
「うん。」
「そうだね。今考え込んでも、どうしようもないよね。」
「だから、とりあえずこの話しは横において、今日と明日は旅行を楽しもう、ね。」
すずかの提案に一つ頷く一同。だが、さすがに完全に気分を切り替えることは出来なかったらしい。このあとずっと優喜にべったりになった挙句、変にテンション高くはしゃいで見せたため、話を知らないメンバーに不審に思われる聖祥組であった。
おまけ
「ワインやウィスキーもいいけど、日本酒もいいわね。」
「本当に、日本の食文化は凄いわ。」
地酒をちびちびやりながら、窓辺で駄弁るプレシアとリンディ。飲んでいるのは売店で試飲させてもらって、一番気に入ったものである。エリオとキャロはフォルク達の部屋で、いろんな意味で先輩に当たる連中と交流を深めている。悪酔いしない限りは、酒を飲むのに遠慮が必要な環境ではない。
「つまみ買ってきたよ。」
「ありがとう。悪いわね、アルフ。」
「別にパシリぐらいはかまわないけどさ、あんまり飲みすぎるんじゃないよ。プレシア、アンタは見た目はともかく実際はいい年なんだし、アル中にでもなったらフェイトもアリシアも悲しむんだからさ。」
アルフの言葉に苦笑する二人。昔はただのやんちゃくれだったアルフに、こんな大人の意見で窘められるのだから、年を取るわけである。まあそもそも、リンディはともかくプレシアはもうじき七十に手が届く年だ。ジュエルシード事件の頃は、ここまで長生きするとは思ってもみなかった。
「言われなくても、ほどほどで止めるから安心なさい。」
そう言って、日本酒としては小瓶と言えるそれを軽く振ってみせる。それを見たアルフが、軽く肩をすくめて出ていく。
「そういえばリンディ、あなた最近、陸で仕事をしてるらしいわね。」
「ゲイズ中将とグレアム提督に言われたのよ。前線から退くのであれば、陸の案件処理を手伝えってね。」
「なるほど。あの二人が言ってた陸の世代交代って、そういうことか。」
「やめてよ。私は海の人間よ? 陸の中枢に入って、何ができるわけでもないわよ。」
リンディの言葉に意味深に笑い、それ以上の追及をやめるプレシア。竜岡優喜と関わってから、あの老人二人はろくなはしゃぎ方をしていない。どうせ今回も、レティにやらせるよりはリンディの方が現場に近いからやりやすかろう、ぐらいの感覚で引っ張ってきたに決まっている。実際、地上本部の今の主要閣僚をトップに持ってくるぐらいなら、海で実績をあげたリンディを連れてきて、二年程度かけて双方をなじませてから後任に据える方がましだろう。それぐらい、トップに立たせるには小粒な人間しかいないのだ。
「プレシア、なのはさんの事なのだけど……。」
「大分、気持ちが傾いてるわね。」
「そう……。」
「元々、本質的には戦闘に向いていないし、誰かさんのおかげで料理の楽しさに目覚めちゃってるし、実家が喫茶店って言うのも、修行にはもってこいだし、ね。」
そこまで告げて、酒を一口。そのまま、疑問に思っていた、と言うより考えが正しいか確認を取りたかった事を問いかける。
「それで、なのはのやりたい事は、可能なのかしら?」
「……管理局から完全に抜けるのは、難しいかもしれないわね。」
「やっぱり?」
「ええ。これが、普通の基準で測れるレベルなら、たとえランクSオーバーでも問題はないのよ。ただ……。」
「ロストロギアを組み込んだデバイスを個人所有した、補給なしでも海の武装隊を単独で殲滅出来る魔導師を、野放しにはできない、と?」
プレシアの言葉に、一つ頷くリンディ。この条件は、フェイトやはやてにも当てはまる。と言うより、はやてに至っては、ロストロギアそのものの主だ。
「ただ、方法がない訳でもないわ。要は、管理局の監督下にさえいれば問題ないのよ。」
「なるほどね。なら、私が考えている事を実行しても、それほど問題にはならないわね。」
「考えている事?」
「そのうち説明するわ。なのはの事にしても、まだ決まったわけではないし。」
プレシアの、何かを決めているらしい顔に、少しばかり不安が募るリンディ。どうやら、管理局や大人たちもまた、いろいろと転換点を迎えつつあるようだ。
後書き
単に母親勢がマッサージチェアを占領しているネタを書くだけで、何故にここまで長くなるのだろう?
なお、感想版で質問があったジョニーですが、元ネタは「かのそ」という同人ゲームです。原作の闇の書の闇を見て何故か植物を連想した頭のおかしい作者が、「植物>パックンフラワー>パックンフラワーならジョニー」と言う訳の分からない連想で登場させた一発ネタなので、あまり深く考えないでください。
後、ミッドチルダ女性の体格云々は、コミック版のギンガやvividのアインハルト、ルーテシアあたりを見てそういう設定にしました。現実の他の人種系統の場合はよく分からないのですが、少なくとも日本人女性は、小六から中一ぐらいで大体背丈が大人と変わらなくなり、中二の健康診断の頃にはほとんどの子の身長が伸びなくなっていると言うグラフを見て、ミッドチルダ人もしくはリリカルなのはの世界は、現実の日本人女性よりちょっと成長曲線が後ろにずれてるのかな、と考えました。
それと、なのはの成長云々は、公式設定の中学卒業時点では五人の中ではバスト最下位という情報と、アニメやコミックの戦技披露会での体型との折り合いをつけると、これ以外の解釈でははやてがシグナムよりわがままな体になってるとか、すずかが下手をすれば奇形の領域に行きかねない、とかそういう感じになるので、割と苦肉の策です。後、最近のコミックやら何やらだと、公式でもなのはとはやては普通に逆転してる気もしますし。
最後に皆様に質問です。
[207]Chaos◆dcf6ed89様の指摘された内容ですが、あまり気にせずに本文中で結構使っております。そんなに違和感が強い表現でしょうか?
違和感が強い、と言う方が多いのであれば、続きを一旦止めて修正を優先しようと思っていますので、ご意見よろしくお願いします。