「よう。」
「ヴィータちゃん、こんにちは。」
「はやてが待ってんぞ。」
二学期も半ばを過ぎたある休日。珍しく、なのは達とはやて、それからヴォルケンリッターの休日が祝日に重なったため、久しぶりにみんなで遊ぼう、という話になり、アリサ達も含めてはやての家に集まることになったのだ。
「ヴィータ、なんだか機嫌が悪いね。」
「そうか? まあ、オメーらが関係あることじゃねーから、気にすんな。」
「気になるよ。折角みんなで遊ぶのに、そんなんじゃ……。」
「あ~、わりぃ。ちょっと任務でな。……そうだな、アリサ達まだみてーだし、もしかしたらそっちも関わるかも知れねーから、管理局組だけで話しとくか。」
そう言って、先にリビングに行くヴィータ。いまいち不機嫌なその姿に、思わず顔を見合わせるなのは達。
「なんか、相当な事があったんだろうね。」
「かなりイライラしてるよね。」
なのはとフェイトの言葉をよそに、少し前にグレアム達に聞かされたきな臭い話を思いだす優喜。
「もしかして、あれの事かな?」
「優喜君、何か心当たりがあるの?」
「心当たりって言うか、ね。グレアムさん達が頭抱えてたんだけど、最近AMFと質量兵器を搭載した機械が、あっちこっちで局員を襲ってるんだって。もしかしたらその関連かな、って。」
「AMFか……。」
なのはもフェイトも、AMFと言う単語に苦い顔をする。かつて命と貞操の危機を迎える羽目になった例の任務、あれもAMFが関わっていた。今なら、魔法が全く使えないAMF濃度でも、気功変換で普通に何事もなく戦闘できるが、一度刻み込まれたトラウマはそうそう抜けはしない。
不吉な単語を聞き、そっと優喜の服の裾をつかむなのはとフェイト。そんな二人の様子に、大丈夫という感じの笑みを向けると、リビングから顔を出したシグナムに向き直り、声をかける。
「という推測を立ててるんだけど、どうかな?」
「大方それであっている。」
「ヴィータ自身がひどい目にあった、とかそういう話じゃないよね?」
「ああ。つい先日、ヴィータが目をかけていた後輩を、そいつに目の前で再起不能にされてな。幸いにして、その後輩の命は助かったのだが、言ってしまえばAMFがある以外はただの雑魚に後れをとり、そのミスで大事にしていた人間を殺されかけた、と言う不甲斐なさで、今とてつもなく機嫌が悪い。」
シグナムが、事のあらましを簡単に告げる。そのヘビーさに、うわあと言う顔をするなのはとフェイト。もしかすると、自分がその立場だったかもしれない。そこに思い至り、服をつかむ手に力をこめる。二人の手を軽く握って落ち着かせると、疑問を口にする優喜。
「それ、いつのこと?」
「事件自体は先週の頭だったか。その後輩が目を覚ましたのが、三日ほど前の事。その件であまりにもヴィータが荒れてるものだから、強制的に休暇を取らされたのが今日、ということだ。」
「そりゃ、荒れてるわけだ。」
「ああ。だから今日のボード戦は派手な展開ができるように、制限を緩くすることになった。間違っても接待プレイなんかするなよ?」
「了解。」
シグナムが、やや挑発的な表情を浮かべて言い放った言葉に、にやりと笑って答える優喜。ここで言うボード戦と言うのは、今回の場合はバトルテックという人型ロボットが主体のTRPGの、戦闘部分だけを遊ぶことを指す。
「そういえば、サイコロ振るのも久しぶりだけど、シグナムさんとヴィータちゃんに会うのも、久しぶりだよね。」
「そういえばそうだね。」
「互いに忙しい身の上だからな。」
シグナムの言葉に偽りはない。売れっ子アイドルの二人と、人手不足の地上部隊隊員。どちらも忙しくないわけがないのだ。因みに、シャマルとは魔法を教わるために、はやてとは任務の絡みで、それなりの頻度で顔を合わせている。
「テスタロッサ、執務官試験に受かったそうだな。遅くなったが、おめでとう。」
「ありがとう。落ちたら、なのはが気にすると思って、必死になって頑張ったんだ。」
ちょうど、なのはが退院してすぐぐらいの時期に、フェイトが受ける予定だった執務官試験があったのだ。そのため、補助魔法の特訓も、フェイトの試験に有利になるものからスタートしている。
「そういえば、ちょうどそのぐらいの時期だったな。あの日は、救急車の出動回数も多かったぞ。」
「だろうね。コンサートが夕方からでよかったよ。」
「違いない。」
などなど、和やかに話しながらリビングに入る。
「なのはちゃん、フェイトちゃん、優喜君、いらっしゃい。」
「お邪魔してます、はやて。」
「おやつ作ってきたから、後でみんなで食べようね。」
「お、ありがとう。」
なのはが持ってきたプリンをはやてに差し出す。
「あ、そうそう。はやての家って、金山時味噌とか食べる?」
「また渋いところを突いてくるなあ。」
「今日自家製のを一応持ってきてるんだけど、食べないなら持って帰るよ。」
「いや、私おかず味噌は結構好きやから、ありがたく頂くわ。そういえば今日のお昼どうする? 一緒に作る?」
「「うん!」」
などと、女の子たちが楽しそうにおしゃべりに移りかける。
「なあ、はやて。アリサとすずかが来る前に、こいつらにも話しておきてーんだけど……。」
「ああ、そやな。多分、なのはちゃんらの耳には、まだ入ってへんやろうし。」
「先ほど、ざっとした概要は私と竜岡が話しました。」
「そっか。ほな、さっくり映像いこか。」
そう言って、はやてがシュベルトクロイツを操作して投影した映像には、レトロな印象のデザインの、シンプルな機械がふよふよ浮いているのが映っていた。
「こいつが、ここ一月ほど、あっちこっちの次元世界にちょろちょろ出て来とる。性能としては低レベルのAMF以外に、見るべきところはあらへん。けどな……。」
「低レベルって、どれぐらい?」
「出力ランクAあれば、減衰はされるけど普通に本体に届くレベルや。ぶっちゃけ、このレベルやったら正規の手段で展開したAMFの方が効果あるで。」
「でも、それってランクC以下は自己増幅か、ゼロ距離で直接内部に叩き込まないと発動すらしない、ってことだよね?」
「そうやねん。それが問題や。普通、ランクA以上の魔導師でも、自動発動の防御なんかそこまでの出力はあらへん。」
はやての言葉に沈黙が下りる。結局のところ、ヴィータの後輩が落とされたのもそこだ。
「……これについて、何か対策とか立ててるの?」
「一応、回収した残骸のうち、比較的損傷の少なかったやつを使って、AMFの特性とかを実験中や。そのデータをもとに、プレシアさんらにAMFキャンセラーを作ってもらう予定になっとる。」
一応対策を打っていることを告げるはやて。この時に作られたものはアンチ・アンチマギリングフィールド、通称A2MFと呼ばれるようになり、地球におけるECM・ECCMのように、いたちごっこの関係として一般に定着する。
「そういえば優喜君、プレシアさんって、今何やってるの?」
「夜天の書の担当部分がひと段落したからって、趣味に走った研究をしてるらしい。ただ、内容は食料関係としか聞いていないけど。」
「そういえば私、前に母さんから、試作品のしょう油を貰ったよ。」
「……それで、なんとなく何を研究してるのか分かった。」
言われてみれば、節分の時にはひどく米の料理に飢えていた。そして、ミッドチルダではしょう油やジャポニカ米はかなりの貴重品で、常食のために日本で購入して持ち込むには、手続きが面倒にすぎる。プレシアほどの人物なら、工業的な手段で自給自足に走るのも当然かもしれない。
「プレシアさん、確か低ランクの魔導師用の、カートリッジシステムを利用した特殊装備の開発もやっとったはずやで。」
「裁判と行動規制のフラストレーションを、発明で解消してるっぽいね。」
「フェイトちゃん、もうちょっとプレシアさんと会う頻度あげよっか?」
「そうだね。デバイスのメンテナンスあたりを口実にすればいいかな?」
因みに、次に会いに行った時には、傀儡兵を農作業兼用に改良し、時の庭園の空きスペースを酪農用に改造、和牛や黒豚の研究にまで手を出していたのはここだけの話である。
「そうそう。夜天の書って、今どうなってるの?」
「今、細部のバグ取りと調整の最中や。それが終わって、単独の起動テストが終わったら、管理人格との連結テスト開始ってとこやな。予定では、来年の一月末になるらしいで。」
「リィンフォースさんの妹は?」
「そっちは、来月入ってすぐに起動テストや。上手い事行ったら、八神家にもう一人家族が増えるで。」
リィンフォースの妹の話題が出てきたことで、ヴィータの雰囲気が少し和らぐ。妖精という表現がしっくり来る八神家の末っ子を、実は誰よりも楽しみにしているのがヴィータである。
形式名称リィンフォース・ツヴァイは、夜天の書修復プロジェクトの一環として、管理人格のバックアップのために、書から独立した存在として作られた、新たなユニゾンデバイスだ。サイズは人間の肩に座れるぐらい、外見はリィンフォースをそのまま年齢一桁にした感じである。どちらかと言うと、ユニゾンデバイスは普通は妖精サイズだそうで、むしろリィンフォースやブレイブソウルの方が特殊例である。
「そっか、楽しみだね。」
「ああ。」
意図せず話が逸れたために、ヴィータの荒れ具合が幾分ましになる。アリサ達が来るまで、新しく増える子はどんな子なのか、などと盛り上がる一同であった。
「今回、ものすごく状況が荒れたね。」
「ああ。お互いにラッキーヒットを当てて、同時にリーダー機のエンジンをふっ飛ばすとは思わなかったぞ。」
ゲーム終了後に、おやつを食べながら駄弁る。もちろん、内容は先ほどまでのボード戦がメインだ。
バトルテックで使うメックと呼ばれるロボットは実に頑丈で、一番軽くて装甲が薄い機種でも、攻撃が一発当たったぐらいでは普通は落ちない。腕一つもぐにしても、装甲板をすべて吹き飛ばし、さらに中枢の耐久値をゼロにしないと壊れない。
だが、何事にも例外と言うものがあって、どこに当たったかを決める時に、三十六分の一の確率で、装甲の残りだとかそういったものを無視して胴体の中枢に食い込む。中枢にダメージが入ると、一定確率で致命的な破損が起きることがある。今回は初手の牽制射撃でお互いのリーダー機にそれが起こり、滅多にない確率で同じターンに同時に沈んだのだ。本来なら、ここで引き分けでゲーム終了だが、あまりに早すぎるために、一方の全滅もしくは投了までゲームを続けた結果、お互い三機ずつ同時撃墜を起こして引き分けと相成ったのが、今回の試合である。
「と言うか、今回同時撃墜が多すぎるわよ。」
「やなあ。」
アリサとはやてが、あきれたように笑いつつ、戦況を振り返る。因みに、今回は聖祥組とヴォルケンリッターに分かれ、それぞれのチームのリーダーをアリサとはやてが務めた。最初の段階で自分の駒が無くなったため、基本的には意見を出しながらの傍観だったが。
「久しぶりだってのに、なのはの射線の取り方とフェイトのウィングは絶妙だよな。」
「それ言ったら、そっちの砲兵の守り方だって。」
「とかいいながら、私を一撃で葬り去ったのはどこの誰だ、竜岡?」
「突撃のノックバックで同時撃墜になったんだから、別にいいじゃないか。」
などと、互いのいい点、悪い点を語り合う。何というか、魔導師組は、ボードゲームでも行動原理や適性が変わらないあたりが業が深い。
「なあ、はやて。」
「どうしたん、ヴィータ?」
「前から思ってたんだけどさ。これ、指揮の練習とかに使えねーかな?」
「せやなあ。士官学校のカリキュラムには、一応似たようなんはあるから、ちょっと応用したら、短期の一般教導とかに使えん事はないかも。」
「そっか。ちょっとルールいじって考えてみっかな。」
「必要なら手伝うで。」
真剣にルールを睨み始めたヴィータを、皆で微笑ましいものを見るような目で見守る。
「どうやら、ちゃんと気分転換になったみたいね。」
「ヴィータちゃん、今日はなんだかピリピリしてたもんね。」
小声でそんなやり取りをするアリサとすずかに、真面目な顔で一つ頭を下げるシグナムとザフィーラ。この年下の友人たちには、こういう面でいつも助けてもらっている。闇の書から出てきた時の事を差し引いても、彼女達には頭が上がらない。
「さて、これからどうする?」
「もう一戦、にはちょっと時間が遅いわよね。」
「この人数で普通のテレビゲームとか、さすがに拷問やと思うで。」
「インディアンポーカーとか、変なゲームやる?」
「その種のゲームは、貴様か主はやてがそっちの二人をカモにするだけだと思うが?」
優喜の提案を、なのはとフェイトを引き合いに出して却下するシグナム。因みに、それを言っているシグナムやザフィーラも、五分五分の確率でカモられる。
「パーティ仕様の大人数向け人生ゲームとか、一応持ってきてるんだけど。」
「とりあえず、クイズとかパズルの詰め合わせソフト、持ってきてるよ。」
すずかとなのはの提案に、少し考えた上で、片付けが楽だからという理由でなのはの案を採用する。その後、アリサ達が引きあげる時間まで、ワイワイと遊んでいたのであった。
「私たちに見せたいものって、何ですか?」
翌日。学校が終わり職場に顔を出してすぐ、二人揃ってグレアムに呼び出しを受けた。何やら見せたいものと伝えたい事があるらしい。優喜はともかく、なのはとフェイトの意見を聞くのは、実に珍しい話である。
「まあ、それほど身構えなくて構わないよ。」
「はあ。」
「見てほしいのは、この動画だ。」
そう言ってグレアムが再生したのは、次元世界の動画投稿サイトに投稿されていた映像である。タイトルは「犯罪予告的に歌って踊ってみる」、投稿者は「じぇい☆るん」となっている。投稿者の名前が何故か日本語なのが、どうにも恐ろしく違和感を感じさせる。
「……うわぁ……。」
「……これは……。」
再生された映像に、思わずうめくなのはとフェイト。優喜は苦笑するだけで何も言わない。
「この動画が投稿された一時間後に、この場所にあったロストロギア『レリック』が、何者かの手によって盗まれた。タイミングと言い、場所と言い、間違いなく彼女達の仕業だろう。」
そんなグレアムの言葉も耳に入っていないらしい。なのはとフェイトは、痛ましそうな表情で、画面の中で踊っている三人を見ていた。
「どうしたのかね、そんな顔をして。」
「え? あ、その……。」
「多分、この人たち、心底やりたくないんだろうなあ、って思って……。」
そう言って、体のラインを強調した、無駄にセクシーな衣装で踊る三人を見る。露出面積はそうでもないのだが、ポイントを押さえていることもあり、変に肌を晒すよりも色っぽい。もっとも、多分一番年下であろう、なのは達よりも幼く見える少女は、なのはと同レベルかそれ以上の幼児体型であり、正直痛々しさを増幅する結果にしかなっていないのだが。
「だけど、これって、かえって恥ずかしいよね。」
「うん。こういうのは、開き直って堂々と思いっきりやらないと、こういう中途半端が一番恥をかくんだよね。」
どうにも、論点がずれた発言をするなのはとフェイト。だが、日々エンターテイメントの世界でしのぎを削らされている彼女達のこの言葉は、論点がずれていながらも実に説得力がある重い言葉としてグレアムに届く。
三人とも妙なマスクをしているため顔ははっきりと分からないが、一番小さい少女は明らかに恥が勝っており、真ん中ぐらいの女性は完全にふてくされている。リーダー格と思われる女性は両隣の二人に比べると堂々とはしているが、生真面目に引き締められた表情が、不本意である事を雄弁に伝えてしまっている。その様子が、非常に哀れを誘って、他人事では無いなのは達にとっては、身が引き締まる思いなのだ。
「ちょっともったいないよね。」
「うん。歌も動きもちゃんとそろってて、最低水準はクリアしてるんだから、恥ずかしがったりふてくされたりするよりは開き直って楽しんだ方が、後からダメージが小さいし。」
「まあ、二人とも。論点はそこじゃないから。」
優喜のその言葉に少し苦笑し、ずれていた思考を戻す。ようやく話を進められるとあって、苦笑していた表情を引き締めるグレアム。
「とりあえず、この動画の投稿者が何者かは分かっている。だが、居場所と意図が分かっていない。」
「投稿元を洗いだせなかったんですか?」
「ああ。かなりあちらこちらのポイントを経由していてね。途中で痕跡が途切れてしまったよ。」
「えっと、これ、どういうサイトに投稿されているのかって、今見れます?」
「問題ない。すぐに呼び出そう。」
そう言って、手元の端末を操作する。呼び出されたのは、次元世界最大の動画投稿サイト。最大の特徴は、動画に直接コメントが流れる仕様になっていることだろう。関連商品の登録も可能となっているのも他のサイトにはあまりない特徴だ。恥ずかしそうに踊る幼児体型を応援する声が、やたらいっぱい流れているのが目を引く。
「……今回初投稿なのに、何ですでに関連商品に、抱き枕カバーとかティッシュボックスとか、そういう妙なものがあるんだろう……。」
優喜の疲れたような突っ込みに、同じく疲れたように同意するなのはとフェイト。結構バカにならない数が売れているあたりに、男と言う生き物の、世界の壁を超えた業の深さを感じる。
「もしかして、だけど……。」
「ん?」
「この人たち、金策のためにこういう事やってるんじゃないかな……?」
関連商品の、原価を考えれば法外とも言える値段を見て、そんな事を呟くフェイト。その言葉に思わず沈黙する一同。普通に考えれば、こんなものを盗んで捕まらない能力があるのであれば、わざわざ抱き枕カバーなんぞで商売をしなくてもいくらでも稼げそうな気がする。だが……。
「あり得なくはないな。」
「と、言うと?」
「一見、足がつきやすそうで効率が悪そうに見えるが、動画の内容はともかく、商売そのものは合法的なものだ。これだけでは加工業者を摘発する根拠としては薄いし、第一、そこから金の流れを追って行ったところで、管理外世界でも経由されればすぐに途切れるだろう。」
「そっか。盗品を売りさばいた場合と違って、物資の移動そのものはすべて合法だから、そっちのラインからは足がつかないか。」
「そういうことだ。どうせ生産だけでなく、受注も十中八九は外部の業者もしくは自動システムに丸投げだろうし、投稿場所も不特定多数が使う場所を利用されてしまえば、犯人の居場所特定には役に立たない。」
グレアムの言葉で、わざわざ足がつく危険を冒す理由に、説得力が出来た。
「あの、それで、どうしてこれを私達に?」
「別段、私達が見る必要性がなかったような気がするんですけど……。」
「あ~、それはね。」
「これの投稿者の『じぇい☆るん』という男が、君たちに興味を持っているからだ。」
説明しようとした優喜を遮ってのグレアムの言葉に、戸惑って顔を見合わせるなのはとフェイト。何の話だかが、まったく見えてこない。
「この男、本名はジェイル・スカリエッティといってね。技術型の広域指定犯罪者なのだよ。」
「えっと、そんな人がなぜ……。」
「理由は推測するしかないが、そもそも、プレシア君をプロジェクトFに誘い込んだのは、この男だ。その成果でもあるフェイト君には、前々から興味があったと、スカリエッティサイドから寝返ったスパイが言っていたよ。」
「……その人、本当に信用できるんですか?」
なのはの問いかけに、いたずらっぽい笑みを浮かべるグレアム。実は、完全に寝返った、実に説得力に富んだ理由があるのだ。
「スカリエッティはね、彼女にもあの衣装を着て踊るように言い出したんだそうな。それであきれて見切りをつけたらしい。」
「それは……。」
「確かに寝返るかも……。」
「スパイに顔を晒して歌って踊れとか、さすがについていけない、とこぼしていたよ。」
グレアムの台詞に、思わず乾いた笑いをあげてしまうなのはとフェイト。その様子を満足そうに一つ頷くと、表情を引き締めて話を戻すグレアム。
「この三人については、ある程度の情報を貰っている。中央の女性がトーレ、左隣がクアットロ、一番小さい子がチンクと言うそうだ。三人とも戦闘機人、いわゆるサイボーグと言うやつだ。」
「戦闘機人……。」
「致命的ともいえる魔導師戦力の不足を補うために、倫理を切り捨てた研究の成果、と言ったところだね。」
管理局が関わっていた、と言う事はあえて言わない。二人の年齢を考えると、組織の、と言うより人間の汚い部分を強調するような話はまだ早い、という判断だ。もっとも、年からすれば察しのいい二人は、管理局が関わっていた事を、薄々察しているかもしれないが。
「トーレは高速行動、クアットロは幻術、チンクは爆破の特殊能力を持っているそうだ。具体的にどの程度強いのか、と言うのははっきりしないが、トーレは低く見積もってもAAA程度の能力はあるだろう、とのことだ。」
「グレアム提督は、私達がこの人たちとぶつかる可能性がある、と考えているんですか?」
「その可能性は高いだろう。今回の件でも、君達を意識しているのが分かる。言ってしまえば、今回のこれは、アプローチを変えただけで、君達の二番煎じだ。権利関係が噛まない分、利益率はこちらよりはるかに高そうだがね。」
「それに、そのスパイがね、二人の戦闘データを集めるように命令されてたんだ。いずれしびれを切らせて、こちらに何か仕掛けてくる可能性は高いよ。」
断言する二人に、思わずうんざりした顔をしてしまう。そうでなくても、普段から出動と芸能活動で忙しいのだ。この上、訳の分からない集団と喧嘩するなんて、出来る事なら避けたい。
「後、多分はやてから聞いているとは思うが、AMFを使う機械兵器が出没している。」
「はい。」
「ヴィータが、後輩の人をそれにやられたって、怒ってました。」
「どうやら、それにもスカリエッティが絡んでいるらしい。」
その情報に、小さくため息をつく。本当に、むやみやたらといろいろやっている男だ。
「ただし、レリックを集めて何をしようとしているのか、と言うのは、スパイも知らないらしい。多分、管理局転覆計画とは直接関係ないだろう、とは言っていたが。」
「管理局転覆計画、ですか……。」
「それって、おおごとなんじゃ……。」
「転覆、と言っても、今の上層部のスキャンダルを暴いて、復讐をしたいだけみたいだね。あまり弱体化されると困るから、瓦解させるところまでは考えてないらしいよ。」
「もっとも、彼が握っているであろう情報を考えれば、弱体化で済むかどうかは難しいところだがね。」
自分達が無邪気に歌って踊っている間に、中々ややこしい事になっているようだ。だが、ここまで情報を握っていて、それでもスカリエッティの逮捕に動けないらしいグレアム達に、どうしても疑問が浮かぶ。
「本来なら、さっさと逮捕に動きたいところだが、残念ながらAMF対策が進んでいない。どうせ、本拠地には高濃度のAMFが張ってあるだろうから、今突っ込んでも無駄に被害が大きくなるだけだ。」
「そっか……。」
「AMF、か……。」
今となってはどうという事のない代物とはいえ、なのはもフェイトも、一度それでひどい目にあっている。グレアムが慎重になるのも、当然と言えば当然だろう。魔法という単一の技術・技能に頼ることの弊害が、見事に表に出たケースだ。
「多分、すぐにどうという事はないだろうとは思うが、場合によっては、君達に出動をかけざるを得なくなるかもしれない。あんなことがあったというのに、また類似の技術にぶつけるのは心苦しいが……。」
「分かっています。心配しないでください。」
「私もなのはも、二度とAMFなんかに負けません。」
「……すまない。頼りにさせてもらうよ。」
そう言って頭を一つ下げると、退室を促す。貴重なレッスンの時間を割いてもらっているのだ。不要な長話をする時間はない。
「さて、優喜。」
「何?」
「スケープドールの在庫は、どれぐらいある?」
「……何を考えてるの?」
「大規模な生産拠点を、一か所発見した。グランガイツ隊が先走りそうだとの事だ。摘発はせねばならないにしても、無駄に被害が出ると分かっていてGOをかけるわけにはいかないからね。」
「……ゼストさんなら、普通にやりそうだね。了解。人数分は、何とか用意するよ。」
「頼む。A2MFの試作が間に合うかどうか、それすら分からない状況だからね。」
グレアムの言葉に一つ頷き、そのまま退室する優喜。これが、グレアム一派とスカリエッティの長く続く因縁の、本格的なスタートラインであった。
「ふむ。売れ行きはなかなかのものだね。」
構想から一年ぐらいかかって、ようやく実行に移せた計画。その結果にそれなりに満足そうに頷くスカリエッティ。門外漢が手探りでやった初PVとしては、上々の反応だといえるだろう。不満を言うとすれば、資金不足で稼動が遅れたセインとディエチが、教育と調整の関係で、このPVに混ぜることが出来なかったところだろうか。
「……ドクター。」
「なんだい?」
「わざわざ、リスクを冒してまで得るような、そんな大きな収入ではないと思うのですが……。」
ウーノの言葉に、にやりと笑って我が意を得たりと口を開く。
「まだ一回目だ。そんな大きな収入が得られるわけがなかろう? 所詮私たちは草の根活動なのだよ?」
「だったらなおの事、こんなちまちまとした収入のために、危険を冒す必要を感じません!」
「何を言うのかね? 合法的な商売と言うのも、実に大切なものなのだよ?」
どうにも噛み合わない会話に、思わず頭痛を感じるウーノ。ドゥーエが離反するわけである。
「さて、次はどんな衣装と歌にするかな?」
「……。」
「そうだ、ウーノにぜひともやってほしい事があるのだが、どうだね?」
「……内容によります。」
その返事に気をよくしたらしいスカリエッティが、フェイトのステージを再生する。彼女達が暮らす国・日本の歌や文化を紹介する、という趣旨のコーナーで、着物と呼ばれる民族衣装を着て、演歌と呼ばれる、こぶしの効いた独特の節回しのバラードを歌っている。
「……もしかして、これを?」
「ああ。実は、衣装も手配してあるんだ。」
「……どうしてまた……。」
「簡単だよ。私が見たいからだ。ウーノなら、フェイト・テスタロッサより素晴らしい歌を聞かせてくれると確信しているし、ね。」
はっきり言って、断りたい。だが、子供のように目を輝かせ、期待に満ちた表情で見上げられると、どうにもノーとは言いにくい。惚れた弱み、と言うのはこういうことなのだろう。あきらめて、ため息とともに一つ頷く。
「そうか、やってくれるか。」
「妹達も頑張ったのです。私だけ駄々をこねて拒絶するわけにはいきません。」
「別に、強制するつもりはなかったのだがね。」
ドクターの厚顔無恥な言い分に、思わず苦笑が漏れる。
「さて、悪いけど、コーヒーでも淹れてくれないかね? 少しリフレッシュして、次の構想を考えねばならないからね。」
「分かりました。」
先ほどよりは容易い頼みを聞き入れ、コーヒーを淹れるために席を外すウーノ。その間にも、スカリエッティの無駄に高性能な脳みそは、いろいろ余計な方向に高速回転し続ける。
「まずは、あの二人との対決姿勢を明確に打ち出すか。上手い具合に、衣装の傾向は対照的になっている。となると、彼女達の新曲に対抗する曲を用意せねばならないか。」
そんな事を呟きながら、必要な手続きを恐ろしいスピードで進める。あっという間に新曲の手配が終わり、次の思考に移る。
「そうそう。折角応援してくれる人たちがいるというのに、あまりやりたく無いオーラがにじみ出ているのはよろしくない。コメントでも散々叩かれていることだし、そこらへんの矯正は急務のようだね。特にクアットロ。」
スカリエッティがこうつぶやいた瞬間、別室で調整を受けていたクアットロの背筋に冷たいものが走る。アングラ系アイドルグループ・ナンバーズの前途は、なかなか大変そうである。さらに、新規のグッズ展開として、等身大バスタオルや合法ぎりぎりのラインの写真集など、あからさまに下世話なものをいくつか企画・手配して、サイドビジネスに関する思考を終える。
「結局、高町なのはとフェイト・テスタロッサの戦力情報は、碌なものが集まっていない。ここはあえてつぶされても痛くない拠点を利用して揺さぶりをかけ、少しでもデータをかき集めるか。どうやら、リークした情報に食いついている部隊もいるようだしね。」
「……強くは言いませんが、ドクター。あまり火遊びに夢中になられませんよう、お願いします。」
「分かっているさ、ウーノ。我々は愉快犯だ。愉快犯らしく、安全なところからかき回すことに専念するよ。」
ウーノからコーヒーを受け取り、食いついてきているグランガイツ隊をどうやって釣り上げるか、その詰めについて計画を検討するスカリエッティ。ドゥーエは態度にこそ出していないが、彼女の離反がほぼ決定的となっている事はスカリエッティも理解している。そこも踏まえての計画の修正も考える必要がある。
グレアムとレジアス以外に、誰かが噛んでいる。その誰かを引きずりだすためにも、ここからは慎重に計画を詰めて大胆に実行する必要があるだろう。マッドサイエンティストにありがちなことだが、スカリエッティもまた、困難に直面すると、余計な方向で燃え上がるたちであった。
「今回、グランガイツ隊に僕が手を貸せるのはここまでだよ。」
スケープドールとおまけを少々詰め込んだ箱を渡し、優喜がおっさん二人にそう宣告する。
「十分だ。ありがとう。」
「すまんな。助かった。」
数日後。度重なる挑発についに我慢の限界に達したゼストが、不退転の決意で拠点制圧を上申してきたのだ。これを抑え込めば、確実に独断専行に移るのが目に見えていることもあり、グレアムサイドが進める最低限の準備が整うのを待つ、という条件で決行を許可した。折よく前々から準備していたスケープドールが同じ日に数がそろい、グレアムがなのは達の配置をコントロールするための仕掛けを即座に行って、現在にいたる。
「しかし、よくなのは達の仕事、あんな条件のいいものをねじ込めたね。」
「最初から出動の予定がある事をほのめかせば、食いついてこない放送局はないからね。」
「売れっ子も大変だ。」
しかも、昨日発表で今日決行と言う突発ゲリラライブだというのに、チケットは五分で完売している。なのは達に動画を見せてからすぐに計画し、いつでも実行に移せるように突貫工事でレッスンやリハーサルをしていたのだから、彼女達を含めたスタッフが一番割を食ったのは確かだろう。チケットの発行なども、相当無理をしている。
「後は何もないと思うが、なのはとフェイトのために、一応現地で待機していてくれると助かる。」
「了解。」
返事をして、時の庭園を出て行く。その後姿を見て、小さくため息をつく。
「結局、A2MFは間にあわなかったか。」
「無理を言ってはいけないよ。まだ、残骸の解析が終わって半月程度だ。いかな稀代の魔女と言っても、時間が足りなすぎる。」
「やはり、無理にでもゼストを抑え込むべきだったか……。」
「実際に民間にも被害が出ている以上、引き延ばしはここが限度だっただろう。」
あと二日も後ろに食い込ませた日には、何の準備も無しに突入しかねない。 やはり、ここが潮時だったようだ。
「奴に対する報酬のほうは、どうなっている?」
「とりあえず、今回は本局のほうから出そう。名目は、外部発注のテスト装備購入、だ。もっとも、金額に関しては、相場というものが存在しないから、正直妥当かどうか判断できないがね。」
「だろうな。とりあえず、後で設定金額を教えてくれ。今後、こちらでも購入することになるはずだからな。」
「ああ。」
いまいち精彩に欠ける表情で話し合い、そのまま戻り支度をする二人。戻り方を工夫しないと、余計な勘繰りを受けるのが面倒くさい。偉くなどなるものではない、とつくづく思う。
「いつものことだが、何をするにも時間が足りんな……。」
「どれだけ十分な時間があっても、結局はぎりぎりになるのが人の世の常だ。」
「儂の自業自得とはいえ、単に共同で物事を進めるだけでも、いちいち余計な反発で無駄に時間がかかる……。」
「管理局ほど巨大な組織では、そうそう急に方向転換など出来ないよ。私達が退くまでに、改革の道筋がつけば御の字だと思うしかない。」
互いに前途の厄介さにため息をつくと、スケープドールを抱えたレジアスが転送されるのを見送る。時差を考慮して十分に時間が過ぎるのを待ち、グレアムも時の庭園を去るのであった。
「これより制圧作戦を開始する!」
クラナガン郊外のさびれた研究施設。そこを目視できる距離に潜みつつ、作戦開始を宣言する。もしもの時のために、高町なのはとフェイト・テスタロッサが即応できる位置でコンサートを行っているそうだが、そんなものを当てにするつもりは一切ない。
「内部は高濃度のAMFが展開されていると考えられます。各人、常に退路に気を配り、注意を怠らない事!」
「この日のために練り上げ、磨き続けた非魔法による対質量兵器戦闘法、存分に見せつけなさい!」
ゼスト・グランガイツの言葉に続き、メガーヌ・アルピーノとクイント・ナカジマが檄を飛ばす。隊長勢の檄に、意気高く敬礼を返す隊員達。その様子を見て満足そうに頷くと、最後にもう一度、カートリッジその他の残量を確認するゼスト。
「それでは、総員突入!!」
ゼストの号令にしたがい、恐ろしい勢いで研究施設のゲートに突撃をかけるグランガイツ隊。わずか数秒で搬入口のシャッターが食い破られ、大きな出入り口が作られる。けたたましい警報とともに、魔法の発動が急激に重くなる。
「AMFの発生確認!」
「バリアジャケットと自動防御は当てにするな!」
「当たったら終わりよ! 流れ弾に注意して動き回りなさい!」
奥からわらわらと出てきた機械(スパイの情報によればガジェットドローンと言うらしい)を一気に薙ぎ払って一刀両断しながら、注意を呼び掛ける。いつも通りの対処方法では、命がいくつあっても足りない。相手の武器は、短距離の飛び道具が主体なのが分かっている。とにかく緩急交ぜて小刻みに動き、照準を絞らせないのが一番の対処方法だ。
「三班、目視範囲を制圧完了!」
「二班、完了!」
「第一波、殲滅確認!」
幸先よく、ほとんど消耗せずに最初の群れを殲滅、士気が高いまま奥に侵入できる。踏み込んだ先には、ガジェットドローンの生産工場が。
「ここであのガラクタを作ってたわけか。」
「工場は、ここだけではないと思われます。」
「当然だな。アルピーノ、ラインの破壊は可能か?」
「問題ありません。」
「では、一気にやれ。」
「了解。」
ゼストの指示に従い、大量の蟲を呼び出して生産ラインの配線を食い荒らさせる。瞬く間に、ラインのあちらこちらでショートが起こり、主電源が漏電遮断器によって落ちる。工場の明かりが消え、辺りが薄暗くなる。
「……この設備は、人が扱うような構造にはなっていません。どうやら、生産そのものは無人で行われている模様です。」
「ジェイル・スカリエッティは、基本的に単独犯だ。仮に協力者が居たとしても、たかが使い捨ての戦闘機械を作るのに割けるほどの人員は抱えていないだろう。」
ゼストの指摘に一つ頷き、ラインの上にのっかっている、九割がた完成しているであろう作りかけを破壊して回るクイント。大丈夫だとは思うが、まかり間違って動きだしでもしたら、目も当てられない被害が出る。
「総員、気を緩めるな! これだけの規模の設備だ! まだまだガラクタは出てくるぞ!」
ゼストの掛け声に、それぞれのデバイスを掲げて返事を返す。その言葉が合図にでもなったか、次の突入先を検討している最中に奥の壁が開き、ガジェットドローンがわらわらと現れる。それらを即座に、見事な連携で仕留めていくグランガイツ隊。さすがは、地上トップクラスの戦闘部隊である。すでに工場の資料をある程度押さえているというのに、注意が一切散漫になっていない。
「AMF濃度上昇!」
「ランクB以下の隊員は退却準備!」
先ほどの倍以上の数のガジェットをどんどん制圧しながら、即座に退却指示を出す。すでに、出力ランクAでも発動が厳しいラインだ。隊員の半分はバリアジャケットが解除されてしまい、念のために着込んであった防弾ジャケットが最後の砦になっている。
「隊長! 後方より敵の増援を確認!」
「全軍一時撤退!」
その知らせを聞いた瞬間、迷わず撤退指令を下す。このままでは孤立する。ならば、AMFの効果が薄い施設の外で可能な限り迎え撃ち、態勢を整えて再突入するのが妥当だろう。この狭い空間では、的を絞らせないための挙動が取りにくい。即座にそう判断し、撤退のために動き始める。だが……。
『あらぁ。勝手に侵入しておいて、そう簡単に撤退できると思っているのかしら?』
メガネをかけた女が、そんな事を宣言する。その言葉が終わるか否かぐらいのタイミングで、後方より大規模砲撃が叩きこまれ、全軍が追い込まれる。
「アルピーノ! 援軍要請の後、後方を支えろ! ナカジマ! 正面突破をかける! 続け!」
少しでも優位に立ちまわれる場所を求め、次に突入すると決めてあった扉に向かって走る。さすがに希少なSランクのゼストと、精強なグランガイツ隊の中でも頭一つ抜きんでたクイントだ。少々きついAMFでも難なくガジェットを破壊し、一気に扉まで突破する。
「ようこそ。」
扉の向こうには、精悍と表現するのがしっくりくるグラマラスな女性と、なのは達と大差ないかやや幼い印象の少女が待ち構えていた。
「はめられたか……。」
頼るつもりはなかったが、こうなっては援軍だけが頼りだ。何人生き延びられるか。そんな絶望を振り払い、槍を構えて迎え撃つゼストであった。
「そういえば、果物と言えば、日本ではもうすぐ柿の季節だよね。」
「うん。そろそろ、一番早いのが出回るころだね。」
曲と曲の合間のトーク時間。会場のリクエストで好きな果物からスタートし、日本での話題にうつりかけたあたりで、デバイスのアラームが鳴る。
『なのはちゃん、フェイトちゃん! グランガイツ隊より緊急援助要請! すぐに出動して!』
いつもの先輩より要請が入り、即座にデバイスをセットアップする。そのシーンに会場が沸き立つ。
「会場の皆さん! ごめんなさい!」
「聞いての通り、この近くで作戦展開中の部隊がピンチなんだ!」
「今から出動するから、現地に着くまでの間は、今まで発表した歌のダイジェストで我慢してね!」
二人の宣言に、会場から応援の言葉が次々に飛ぶ。その言葉に一つ頷くと
「「ユニゾン・イン!!」」
即座にユニゾンして、観客達の声援を浴びながら飛び立つ。
「フェイトちゃん。グランガイツ隊って、確かものすごく強い部隊だったよね。」
「うん。隊長はゼスト・グランガイツ。数少ない古代ベルカ式の使い手で、オーバーSランクの武人。他の隊員の平均ランクもAに届いてるから、海の部隊と比較しても弱くはないよ。」
「その部隊が救援要請、か……。」
事前にそれなり以上の確率でこうなる事を聞かされてはいたが、フェイトが説明したグランガイツ隊の概要から察するに、そうそうよその部隊に救援要請をするとは思えない。そんな事を考えつつ、一分かからないぐらいで現地に到着する。
(なのは、フェイト。)
(優喜君?)
(どうしてここに?)
(もしもの時のために、ここで待機しててって言われたんだ。一応、ここから分かる状況を軽く説明するよ。)
優喜の言葉に頷いて、気配を探って近くに降りる。どうやら隠れ身を使っているらしく、すぐ近くにいるのは分かるのに、姿はどこにも見えない。
「とりあえず、後々の事もあるから、まだ隠れ身は解かないでおく。」
「分かった。」
「それで優喜、状況は?」
「グランガイツ隊は、内部で退路を断たれて孤立してる。今のところ死者は出てないけど、スケープドールは隊長三人を含めて半分が壊れてる。残り半分も長くは持たないと思った方がいい。」
その言葉に一つ頷くと、そのまま正面から突入しようとする。そこに、ブレイブソウルが制止の言葉をかける。
「なのは、フェイト。内部は出力ランクB以下の魔法が発動しない。それに、正面には大量のガジェットドローンが居る上、奥にグランガイツ隊がいる。正面からの大技での制圧は、救援対象を巻き込みかねない上に時間がかかるから、あまりお勧めできない。」
「同じ理由で、天井をぶち抜いての侵入も避けた方がいいね。」
「……それって、もしかして……。」
「ああ。風の癒し手から習っているだろう?」
シャマルが、リンカーコアを抜くときによく使っている手段。あらゆる障害物を迂回し、対象の身に直接ちょっかいをかけるあの術。確かに、なのはとフェイトはその術の変形版を習っている。資質の問題もあって、まだ単独で発動させるのは厳しいが、今回は二人揃っている。実戦で使うのが初めてだ、という以外に、使用をためらう理由はない。
「……分かった。」
「なのは、発動したらバスターお願い。そのあと、私が突入して制圧するよ。」
「うん。」
方針が決まり、儀式の準備を行いながら、ライブ会場に映像を送る指示を出す。正確な動作で左右対称に動き、巨大な魔法陣を書き上げ、三十秒ほどで発動のための第一段階を終了する。儀式の前に飛ばしてあったサーチャーでゲートを開く場所を確定し、AMFの妨害を押し切って一気に空間を切り開く。
「ゲート展開成功!」
「なのは!」
「うん!」
開いたゲートの向こうに杖を向け、チャージを済ませたバスターを撃ち出そうとして動きが止まる。向こう側には、乱戦状態となってめまぐるしく動き回るグランガイツ隊の姿が。
「……なのは?」
「たった三十秒で、ここまで状況が変わってるなんて……。」
儀式を始めた段階ではもう少し双方固まっていたのだ。だが、ここまで入り乱れてしまえば、少しそれただけで味方を仕留めてしまう。一発でも誤射をしてしまえば、その隊員の命はない。自然と手が震え、トリガーを引くことに恐れに似た感情が湧きあがる。
だが、撃たねばただ全滅するのを待つだけだ。いかなフェイトといえど、この乱戦状態に飛び込んでは、満足な活躍は難しい。それどころか、元々閉鎖空間ではそこまで長所を生かせない彼女では、下手をすれば味方に足を引っ張られて、ただの的になり下がる可能性すらある。
撃たねばならないのだ。だが、どこに? どう撃てばいい? 冷や汗を流しながら、必死に空回りする思考をまとめなおそうとする。手の震えがひどくなり、焦りと恐怖が膨れ上がる。どうすればいい? どこがいい? 頭の中を、その言葉だけが埋め尽くす。
「なのは……。」
彼女の迷いを察したフェイトが、そっとレイジングハートを握る手に自分の手を添える。それと同時に、見えないもう一つの手がレイジングハートを支える。
(優喜……?)
(うん。)
思わず名前を呼びそうになり、放送中である事を思い出してとっさに念話に切り替える。思わぬ状況と、密着した優喜の体の感触に、違う意味でなのはの動きと思考が止まる。
(なのは。僕が大体の位置を示すから、自分で微調整して撃って。)
(え?)
(残念ながら、僕は射撃の方はからっきしだから、大体どこに撃てば大丈夫ってのは分かっても、ちゃんと当てる能力はない。だから、なのは。)
優喜の手に力がこもる。
(ミスしたときは、僕が一緒に背負うから、僕と自分自身を信じて、思いきって撃つんだ!)
そう言って、優喜がレイジングハートの先をある角度に向ける。乱戦は乱戦だが、比較的敵の密度の方が大きい。巻き込める数に目をつぶり、もう少しだけ外側にずらせば、ガジェットドローンだけ粉砕できる。そうやって見てみると、意外と撃ち込める場所がある。そこに気がついた瞬間、すっと焦りが消え、頭が冷える。
「なのは、大丈夫だから。私がついてるから!」
「ありがとうフェイトちゃん。」
一旦チャージしたバスターを解除し、最速で再度チャージしなおす。術式の変更が混ざるため、確実に発動するように、一からやり直したのだ。
(頭はクールに、ハートは熱く、だよね!)
クールダンした頭の中で予定の軌道を描き、戦況の流れを見極めタイミングを計る。惚れた男と無二の親友。その二人の心の熱が、なのはの覚悟を後押しする。
「行きます! ディバインバスター!」
なおも悪い方に変化し続ける状況に歯止めをかけるために、思いっきりバスターを叩きこむ。先ほど優喜が示した場所ではなく、戦場のど真ん中に吸い込まれそうになり……。
「ブレイク!!」
五つに先が分かれ、隅っこの方に吸い込まれる。
「ターン!!」
掛け声とともに、五本の砲撃が鋭角で曲がり、ガジェットドローンの群れを背後から飲み込み……
「バースト!!」
砲撃がグランガイツ隊に牙を剥く前に、周囲のガジェットを巻き込んで大爆発し、消失する。
「フェイトちゃん!」
「うん! 行ってくる!」
「スターライトブレイカーで出口を作るから、巻き込まれないように気をつけて!」
「了解!」
フェイトが突入したのを見送ってから、角度を取るために空に上がる。
「レイジングハート! エクセリオンモード起動!」
『エクセリオンモード!』
「カートリッジロード!」
本体内部に装填された六発のカートリッジを一気に撃発し、スターライトブレイカーのチャージに移る。状況から言って、最大チャージの一割でも大きすぎるぐらいだが、バスターの連射で出口をあけるには、少々面積が広すぎる。とはいえど、ユニゾンなしで制御できる最大チャージですら、今では下手をすると小さな島の一つを沈めかねない威力がある。ユニゾン状態では、絶対に物理破壊設定で最大チャージを使うな、と何度も何度も釘を刺されている魔法だ。
加減を間違えると、敵も味方も一網打尽になる。正直、今までの経験から言うと、ちょっと弱いかな、程度で撃った方が安全だろう。そう考え、かなりの時間をかけて慎重にチャージを調整し、非ユニゾン時の最大の八分の一程度の低威力で叩きつける。どういう訳かこれを超えると、出力と破壊力の関係が正比例ではなく二乗になり、出力二倍で破壊力が四倍になってしまうのだ。
「行きます! スターライトブレイカー!!」
チャージにかかる手間と過剰すぎる威力のため、アイドルになってから一度も使う機会が無かった、はやても含めた魔導師仲間の攻撃で最大の破壊力を誇る集束砲。対外的には本邦初公開となるそれを、直撃コースから結構離れた位置に叩き落とす。
次の瞬間、大地を派手な震動が襲い、余波が入り口とその付近にいたガジェットドローンを根こそぎ消滅させ、辺り一面を大量の粉じんが覆い隠す。砂煙が収まった後には、五メートルほどの深さの大きなクレーターが穿たれていた。
「ちっ!」
回避が絶望的な熱線砲を、優喜がおまけとして付けてくれた使い捨ての防御アイテムで防ぐ。一発二発はともかく、十を超える数が同時に来れば、ゼストといえどただでは済まない。
「さすがに粘るな!」
「貴様らごときの腕で、この俺が仕留められると思うな!」
大柄なほうの女の斬撃を槍で払い、突き返す。切り払われると同時に、女の姿が消える。どうやら、事前情報にあった、例の高速行動のようだ。
「ぬるい!」
左後方に現れた女を石突で吹き飛ばし、行きがけの駄賃として邪魔なガジェットを二体、一気に粉砕する。
(こいつら自体はどうとでもなるが、ガジェットの数が多いな。)
子供から投げられた投げナイフを大きく弾き飛ばしてガジェットにぶつけ、大柄なほうの女に再び一撃入れようとする。次の瞬間、どこからとも無く砲撃が飛んできて、追撃を潰される。
「ナカジマ! このままではキリがない! まずはこいつらを一人仕留めるぞ!」
「了解!」
ゼストとクイントが覚悟を決め、雑魚を振り切って本命に集中しようとしたところで、事態が大きく動いた。
「また砲撃!?」
「いや、これは!!」
ゼストたちの頭上を飛び越え、急角度で曲がった砲撃が、ガジェットを大量に巻き込んで爆散する。こんな非常識な砲撃を撃てる人間など、彼らの知る中では一人しかいない。
「ナカジマ、どうやら援軍が来たようだぞ。」
「援軍が来たところで、このの劣勢が覆るとでも思っているのか?」
「覆るさ。」
高町なのはとフェイト・テスタロッサ。直接対面したことは無いが、色々非常識な噂には事欠かない人材だ。そして、その噂に信憑性を与えているのが、竜岡優喜に鍛えられた、という一点である。
「ほう。ならば、覆して見せろ!!」
そういって打ちかかろうとした女は、黒い影に弾き飛ばされる。
「サンダーレイジ!」
金糸の髪を持つ黒い影は、一般の魔導師にとっては致命的な濃度のAMF、それを何事も無かったように無視して大技を放ち、一気に前方のガジェットを殲滅する。
「フェイト・テスタロッサか?」
「はい、グランガイツ隊長。遅くなりました。」
そういって、引き締まった表情で戦鎌を構える。が、次の瞬間、その表情がどうにも情けなさを伴った微妙なものに崩れる。
「ぶつかるかも、とは聞いてたけど、こんなに早くか……。」
「どうかしたのか?」
「あ、そのですね。」
いきなり妙なことを口走ったフェイト。その言葉に敵味方共に動きが止まる。
「なんというか、嫌そうな感じで歌って踊ってる映像を見てるから、どうにも可哀想でやりにくいなあ、と。」
先ほどの電撃とフェイトの言葉からようやく立ち直りかけたところで、その台詞に完全に硬直する戦闘員。
「あのね。」
「何が言いたいのですか、フェイトお嬢様……。」
「ここで投降すれば、少なくとも恥ずかしいのに無理して歌って踊らずにはすむよ?」
「……言いたい事はそれだけですか?」
「えっとね。仮にここで引いて、もしあれを続けるんだったら、恥ずかしいとか不本意だって思いは捨てないと、かえって痛いよ。」
「……。」
敵同士のはずなのに、やたら親身になって忠告してくれるフェイト。思わずその言葉にぐらつきそうになる女と子供。
「……忠告、痛み入ります。ですが、我々はここで投降するわけには行かない。」
「いいの? ここで駄々こねてでもやめないと、多分私達みたいに引くに引けなくなるよ?」
「うっ……。」
『トーレ姉様。お嬢様の口車に乗って裏切るおつもりで?』
この場にいないもう一人の言葉に、動揺をどうにか押さえ込むトーレ。
「そうだな。ドクターの悲願のために、あの程度のことを嫌がって、ここで投降するわけにはいかん。」
『そうですわ、トーレ姉さま。』
「一番嫌がってふてくされてたくせに……。」
『何かおっしゃりまして、フェイトお嬢様?』
「別に。ただ、投降する気がないんだったら、そろそろ耐ショック防御はしておいた方がいいかな。」
「総員、耐ショック防御急げ!!」
その言葉に不吉なものを覚えたゼストとクイントが、すぐさまその場にうずくまり、全力で防御魔法を展開しながら声を張り上げる。数秒後、研究所全体をすさまじい振動が襲う。振動がおさまるとともに、急に研究所内が明るくなる。
「ね?」
「い、いったい何が……。」
「高町の集束砲か?」
「正解。やっぱりちょっと加減間違えてるね。」
体を浮かせた上で、何事も無かったかのようにグランガイツ隊全員をガードしてのけたフェイトが、あっさり答えを告げる。ちなみに、隊員たちは知らないことだが、事前にこうなることを予想していたフェイトが、遅延発動で強化型防御魔法をチャージして、大規模魔法でもはじく出力で展開したのだ。
「でも、建物が倒壊してないから、着弾場所はちゃんと選んだみたいだね。」
「……いったい、どんな威力でぶっ放したのよ……。」
「外に出ればわかりますよ、多分。」
そういって後ろを指差すと、瓦礫すら残らず綺麗に吹き飛ばされ、青空を晒している研究所の入り口が。
「という訳で、医療班を手配してあるので、皆さんは一度引き上げてください。後は私となのはで制圧します。」
「わ、分かった。」
あまりにもあまりな光景に青ざめている戦闘機人を放置し、動ける人間で負傷者を担いで引き上げるゼスト。
「さて、なのはが次の砲撃に入る前に、あなたたちを捕縛させてもらうよ。」
「クアットロ! ディエチ! 引き上げるぞ!」
トーレが声を張り上げ、青ざめてがたがた震えている子供を抱えて距離をとる。フェイトが戦鎌を振り上げて突っ込んでくるのを見て、子供がトーレにしがみつく。だが、それをたしなめる余裕はトーレにも無かった。何しろ、彼女とて、先ほどの光景を見て平静ではいられなかったのだ。いくら長く組んで行動していると言っても、この状況であっさり「やっぱりちょっと加減間違えてるね」で済ませる、と言うだけでも、敵対している人間からすれば底しれぬ恐怖がにじみ出る。
明らかに怯えてパニックを起こしている二人に、フェイトはその美しい顔に憐みを浮かべながら、それでも一切加減せずに距離を詰め、このAMF下でなお出力が衰えない魔力刃を、情け容赦なく振り下ろす。魔力刃が二人をとらえる寸前、その姿が消える。
「……逃げられちゃったか。」
間一髪で転移が間に合った戦闘機人たち。どうにも、長い付き合いになりそうだ。
「なのは、状況終了。引き上げてコンサートの続きだね。」
『了解。早く戻ろう。』
どうやら、既にいろんな意味でクールダウンしているらしいなのはの返事。それを聞いて一つ安堵のため息をつくと、ユニゾンを解除してとっとと会場に戻るフェイトであった。
「予想していたが、馬鹿にならん被害だな。」
「再起不能になるほどの重傷者がいないのが救いではあるが、笑ってすむ被害ではないね。」
「ああ。もし、二人を送り込まなければ、と思うとぞっとするぞ。」
「やはり、あの子達がAMFで殺されかけたときに、さっさと対策を打っておくべきだった。」
半壊、としかいえないレベルの被害を出した今回の件。限界を超えて蟲達を酷使したメガーヌは意識不明の重態で、ゼストとクイントは三日間の絶対安静、他も再起不能ではない、というだけで半年やそこらは普通にベッドに縛り付けられるレベルである。
「とりあえず、比較的規模の大きい生産拠点を一つ叩き潰せただけまし、というしかなかろうな。」
「まったく、頭の痛い話だよ。しかも、だ……。」
ため息と共に、グレアムが映像を展開する。画面には、あんな目にあったというのに、ある種やけくそのような雰囲気で楽しげに踊る戦闘機人たちの姿が。管理局に顔がばれたから、と言う事で、マスクはなくなっている。
「わざわざ再び挑発を仕掛けてきている。しかも、人数を増やした上で無駄にレベルを上げて、ね。」
「……また、色々頭の痛いグッズが増えているな……。」
「まったく。こういう下世話なアイデアを、どこから仕入れてくるのやら。」
等身大バスタオルとセクシーポーズのフィギュアという、下世話な上にアプローチをする層がいまいちよく分からないグッズを見て、一つため息をつく。
「とりあえず、これで世間的にも、なのは君たちと彼女たちはライバル認定されることになりそうだ。」
「連中の金策を手伝うことになるのは気に食わんが、せいぜい大いに盛り上げるしかなかろうな。」
頭が痛すぎる現状にため息をつきながら、とりあえず今後の対策を立てるおっさん達であった。一方そのころ。
「あれと正面から戦えとか、絶対嫌だ!!」
「セインはいいじゃない。まだ直接戦闘になる可能性は低いんだし。どうしてあたしは、あれと同じ砲撃型なんだろう……。」
新たに投入された二人の戦闘機人が、今後の不安を大いに嘆く。だが、それを誰もたしなめない。少なくとも、絶対広い空間で戦うのは嫌だ、というのは戦闘機人達の共通認識だからだ。
「とりあえず、まずはAMFの出力強化と、逃げるための手段の強化から、だねえ。」
「ドクター、やはり現状では手に余りますか……。」
「ああ。集束砲はそれほど警戒しなくてもいいにしても、二人揃って普通に出力がSSを超えているからね。現状のAMFではあってもなくても一緒だよ。」
自身の予想をあっさり二周りほど上回られ、ため息をつくスカリエッティ。
「……ぼやいている割に、明らかに燃えていますね……。」
「ああ。こんな面白い状況は他にないからね。」
「あたしとしては、ドクターにはあきらめて欲しい……。」
無駄に燃えているスカリエッティに、深々とため息をつくディエチ。何しろ、彼女が力を発揮する戦場は、高町なのはの本領なのだ。
「とりあえず、何をするにしても資金が必要だ。君達には一杯働いてもらうよ。」
こうして、ナンバーズは金策のために、寿命が縮む想いで余計な挑発を繰り返す羽目になるのであった。
おまけ(一発ネタ)
「レイジングハート! エクセリオンモード起動!」
『エクセリオンモード!』
「カートリッジロード!」
本体内部に装填された六発のカートリッジを一気に撃発し、大技のチャージに移る。状況から言って、最大チャージの一割でも大きすぎるぐらいだが、バスターの連射で出口をあけるには、少々面積が広すぎる。とはいえど、ユニゾンなしで制御できる最大チャージですら、今では下手をすると小さな島の一つを沈めかねない威力がある。ユニゾン状態では、絶対に物理破壊設定で最大チャージを使うな、と何度も何度も釘を刺されている魔法だ。
両手の間に集められた魔力がどんどん肥大化して行き、気がつけばなのはの体の数倍のサイズまで膨れ上がっている。
「行きます! ストナーサンシャイン!!」
掛け声とともに地面に向かって投げつけられた巨大な魔力弾は、複雑な軌跡を描きながら狙い過たず予定地点に着弾し、辺りを一気に消滅させる。派手な震動を起こし、すさまじい爆風とともに地形を変え、後には雑草一本の凝らぬ巨大なクレーターが。
「なのは。それって、武装から言ったらむしろフェイトの業じゃない?」
「え?」
なんとなく思いついた一発ネタ。スターライトブレイカーじゃなくてストナーサンシャインに入れ替えても、違和感ゼロだと思うんだ。