「予想以上に件数が多いな。」
「前々から、フェイト君が絡むとこういう傾向はあったが……。」
広報部から上がってきた二人の緊急出動件数を見て、小さく唸るグレアムとレジアス。
「レジアス、ミッドチルダ全体の発生件数が増えている、というわけではないのだろう?」
「ああ。毎月増減を繰り返しながら、全体では現状維持、と言ったところだ。」
「となると、単純に事件に遭遇しやすいのだろうね。」
「もはや遭遇しやすいというよりは、引き寄せている、と言った方が正しいがな。」
レジアスの言葉に苦笑するしかないグレアム。実際のところ、出動回数そのものは、取り立てて多いというほどではない。ただ単純に、常に致命的なタイミングで事件に遭遇、もしくは二人の手が必要な事件が発生し、アポイントにぎりぎりの時間になるのだ。
「最近では、余裕を持って収録先に到着したら、拍子抜けされる領域だそうだ。」
「ツアーの最中も二度ほど襲撃があって、危うく本番がつぶれそうだったそうだが。」
「そちらは普通に狙われたらしい。どちらも野外ステージで見通しが良く、来るタイミングが分かったから、歌いながら対処したそうだが。」
「……羨ましい対処能力だな。」
「ああ。まったくだよ。」
レジアスの言葉に同意するグレアム。来るのが分かっている相手に対処する、と言うのは案外なんとかなる。だが、観客を前に歌いながら、一切の不安を抱かせずに対処するというのは余程隔絶した実力がなければ無理だ。なお、そのシーンはお宝映像としてどこからともなくネットワークに漏れ、ものすごい再生数を叩きだしている。
「ここまでうまくいってしまうと、別の心配が出てくるな。」
「その件については、すでに広報部の部長が締め付けているそうだ。」
衰える事のない二人の人気に便乗しようとして、いくつかの芸能事務所が逮捕権の無い一般の魔導師を、同じようなコンセプトで売り出そうとする動きが出てきていた。ほとんどがCランク未満のそれほど強力とは言えない魔導師で、二人ほどの歌唱力も戦闘能力もなく、単に状況を悪化させるだけなのが目に見えていたため、先手を打って締め付けを行ったのだ。
「とはいえ、我々も後に続く人材を出すのはほぼ不可能だろう。」
「当たり前だ。現状、二人はあくまでイロモノだからな。第一、プロ級の歌唱力とSSSランクの戦闘能力を両立した魔導師など、そんなにごろごろ出てきてもらっても困る。」
そんなものがごろごろ出てきた日には、対応する事件の難易度がうなぎ登りだ。管理局にたくさん強力な魔導師が居るという事は、在野にもたくさん強力な魔導師が居るという事につながるのだから。
「まあ、その話は置いておこう。広報部に関して、広報部長から半期の収支報告書とセットで質問が来ている。」
「ふむ? ……中々とんでもない数字だな。」
「ああ。芸能活動と言うやつは、当たれば実に儲かるものだね。」
「それで、質問と言うのは?」
「この膨大な収益をどうするべきか、と言うのを聞いてきている。何しろ、広報部だけで使うには巨額すぎるし、そもそも予算に組み込まれていない資金だ。二人にある程度還元はしているようだが、全て還元は出来ないし、するべきでもない。第一、大半を占める印税収入は、管理局と彼女達の取り分が同額だから、これ以上増やすのはバランスに欠ける。」
なのはとフェイトの芸能活動。その収支は、たった半期で膨大な黒字を叩きだした。何しろ、要望があったものを作って売り出すだけで、いくらでも収益が上がるのだ。一般的なグッズ類で今現在売り出されていない物は、時間が無くて撮影ができていない写真集と、機密の問題で許可を出しづらい、二人のデバイスを模したおもちゃぐらいなものだ。因みに、ミッドチルダではあまり一般的ではないフィギュアの類は現在、問い合わせを受けてどうするべきか検討中である。
また、テレビ出演や雑誌取材の類は、基本的に通常業務の一環扱いであるため、そのギャラのほとんどが管理局に入る。他にも事件解決時の映像使用料をはじめとした、著作権・肖像権が絡む話が山ほどあり、事件を一つ解決する、もしくはライブ映像が一つできるたびに膨大な金が動くのだ。
しかも、通常業務の一環であるテレビ出演も、二人が基本学生であまり時間が取れない事もあって、時間単価が日に日に跳ね上がっており、今やドル箱になってしまっている。コンサートツアーに関しては、それ自体は赤ではない程度の利益しか出ていないが、それに付属するもろもろが、これまた巨額の収益を生み出している。
「そうだな。まあ、あの子たちが稼いだ金だから、あの子たちの活動費に優先で当てて、余った分は予備費として蓄積、来期に使い道を考えよう。」
「いっそ、機動的に使える予算として、プールしておく方がいいかもしれないね。」
「ああ。災害対策にテロの後始末、突発的に金が居る事態はいくらでもあるからな。」
「それに、金額そのものは割と大規模な部隊を運営できるものだが、収益の安定性に疑問もある。さすがにこの金を当てにして新規の部隊を運営するのは、もうしばらく推移を見守ってからの方がいいだろうね。」
新たな試みと言うのは、上手く行こうが失敗しようが、たくさんの懸案事項が新たに生まれるものだ。しかも、今回は上手くいっているが、人気と言うのは水ものである。何がどう転ぶか、分かったものではない。その場その場で対応を決めながら、最低でも三年ぐらいは状況を見守るしかなかろう。
もっとも、どう転んだところで、なのはとフェイトが普通の部隊で運用できないという問題は解決しないのだが。
「予算と言えば、またしてもいろいろと面白いものが出てきているぞ。」
「ふむ。……なるほど。」
「優喜には感謝だな。ドゥーエを引きずり込んだだけで、ここまで動きやすくなるとは思わなかった。」
「裏を返せば、スカリエッティには内部事情が筒抜けに近かった、ともいえるがね。」
「そこはいまさら言っても始まらん。それで、どう見る?」
いくつかの不明瞭な予算の流れ。それを追いかけてあぶり出された事実。
「連中も焦っているようだね。ここしばらく、外に漏れないように彼らの手足を切っているから、こちらの予想より早いペースで影響力が落ちて行っているのかもしれないね。」
「見た限り、奴らのための予算、今期はほぼ半額まで削り取れた、と考えていいだろう。後二割ほど削れば、実質連中に使える予算はなくなるはずだ。」
「だが、その前に妨害工作があるだろう。何しろ、彼らは管理局の成立以前から、少なくとも一世紀半は確実に存在してきた化け物だからね。」
「まったく、管理局が成立した頃合いの情勢がひどかったのは分かるが、いつまでも自分達がいなければ何もできないと思うのは、いい加減やめてほしいものだ。」
「まあ、そう言わない。もはや情勢の変化にも適応できなくなった老害とはいえ、世界の平和のために人間の体を捨てた傑物であったのは事実だ。いい加減彼ら自身が混乱の原因になっているとはいえ、その志には見習うべき点もある。もっとも、引き際を間違えると無残な事になる、という反面教師でもあるがね。」
グレアムの言葉に、思わず渋い顔をしてしまうレジアス。何しろ、リンディとレティを筆頭に、後を任せられる後進が綺羅星のごとく育っているグレアム派と違い、今や地上の要となっているゲイズ派は、いまだにレジアス頼りである。人のせいにはしたくないが、事務方や非魔導師の指揮官連中すら、優秀な人材を容赦なく引き抜かれたことが響いている。
「……儂の年から言って、せいぜい後十年だろうな。」
「何がだね?」
「老害にならぬように身を引く、そのタイムリミットだ。」
レジアスの言葉に、彼の危機感を理解してしまう。地上の人材難は深刻だ。現場を知りながらもある程度大局的に物を見ることができそうな人材は、彼の知るところではナカジマ三佐ぐらいしか見当たらない。ゼスト・グランガイツは指揮官としても有能だが、その本質はあくまで武人だ。いろんな相手と交渉し、時と場合によっては人道にもとる行為を指示し、その結果と責任をすべて背負う、と言う事にはお世辞にも向いているとは言えない。
かといって、ゲンヤ・ナカジマは一生現場から離れる気はないと公言してはばからない人物であり、それ以外となると優秀だが官僚的な、トップに立つという観点では小粒な人間が目立つ。そういったバランスにも配慮して、年齢一桁で在りながら将たる器の片鱗を見せる八神はやてを地上に配属させたが、それとて十年ではまだ二十歳前後。素質はともかく、圧倒的に経験が足りない。
なお、言うまでもないが、なのはとフェイトは大規模な組織のトップという観点では、最初から弾かれる。どちらも気質がまっすぐすぎる上に、情にもろすぎるからだ。もっと言うなら、二人とも誰かに何かをしてもらうのが、割と苦手なタイプでもある。方向性は違えど、スタンドアローンで戦場に出られる戦闘タイプとして完成している点からも、その事はうかがえるであろう。どちらかと言えばトップに立つよりも、組織の象徴として全ての命令系統から独立させ、今のように広報活動をさせておくのがちょうどいい。
「いま、そこまで先の事を考えても仕方が無いさ。誰か一人ぐらい化けるのが居るかもしれないし、最悪こちらから見込みのありそうな中堅をそちらに回すことも考えるよ。」
「まったく、年はとりたくないものだ。」
自分達の組織人としてのタイムリミットがあまり残されていない事を認識し、思わず小さくため息をつく二人であった。
「「おはようございます。」」
「ああ、おはよう。」
日曜日の始業時間前。本局とミッドチルダ、そして日本の時間はほぼ一致しているため、この日は世間一般では休みの日だ。広報課の中でも企業や公的機関向けの部門は休みだが、なのはとフェイトが所属する一課については、一般向けがメインということもあり、ある意味休みの日が一番忙しい。
広報部という部門は、時空管理局の中で数少ない、本局と地上で一本化されている部署だ。組織としては本局内を拠点とした三つの課と楽隊、地上本部および各地上司部に設置された分室がある、後方部門としては比較的規模の大きな部署だ。だが、規模の割りに抱えている人数は少なく、特に隠しているわけではないのに、内部でもそれほど組織の構成が知られていない、かなりマイナーな部門である。
「今日は新曲のレッスンと新しいコマーシャルの撮影、それから生放送の音楽番組出演だ。」
「レッスンは何時からですか?」
「歌は九時半から一時間、そのあと軽く休憩をはさんで、振付を昼休みまでの予定だ。先生が来るまでは自由時間だから、宿題なり何なり好きに過ごしていてくれ。」
ほとんど二人のマネージャーになりかかっている一課課長から本日のスケジュールを聞き終え、自分の机に座ってテキストを広げるフェイト。なのははフェイトにお茶を淹れた後、歌詞を見ながらヘッドフォンで新曲を聞いている。ばれないようにごまかしているが、明らかにフェイトに比べると歌詞をトチりそうになる回数が多いなのはであった。
「おはよう。」
「おはようございます。」
二十代半ばの男性先輩局員に朝の挨拶を返す。広報部所属でありながらめったに部屋にいないなのはとフェイトは、その容姿と性格から、席に座っていれば課に関係なく可愛がって貰っている。
「二人とも、朝から精が出るね。フェイトちゃんは何の勉強?」
「執務官資格の試験勉強。」
フェイトの返事に、うへえと言う顔をする。先輩局員。なお、広報部といえども一応局員なので、ちゃんとみんな階級は持っているのだが、一番上でも三尉程度と大して高くないため、役付き以外は敬語なしでフランクに会話している。ぶっちゃけ、平の課員は皆出世コースからは外れており、なのはとフェイトを除けば前線に出る事もほぼないため、階級をうるさく言う意味があまりないのだ。
「また難しいのを選んでるね。」
「ちょっと思うところがあって。」
「さすがに俺じゃアドバイスも出来ないなあ。」
「気持ちだけ受け取るよ。」
先輩とのコミュニケーションを円滑に進めながら、手は黙々とテキストの問題を解いていく。さすがに合格率が低い難関の資格だけあって、求められる知識の幅が実に広い。大分頑張ってはいるが、正答率七割の壁がなかなか抜けない。
「そういえば、なのはちゃんは資格とかは取らないの?」
「今のところ、これと言ってピンと来るものが無くて。」
「だったら、もしかしたら後輩とかできるかもしれないから、教導官とかどう?」
「教導官資格が無くても、ものを教えるのは問題ないですよね?」
「ま、そうだけどさ。持ってればいろいろつぶしは効くと思うよ。」
「教導官、か……。」
フェイトが執務官資格の勉強に本腰を入れ始めた時、グレアムとレジアスが主だった資格について説明をしてくれた。その中にあった、割と重要で難易度の高い資格の一つが教導官資格だ。これがあれば、他所の部隊の人間にものを教える事が出来るほか、新戦術の開発など、執務官とは違った方向で、多岐に渡る業務への発言権が強くなる。
「そういえば、優喜君は学校の先生を目指してたっけ。」
「教導官を取れば、なのはは優喜とお揃いになるのかな?」
「学校の先生と教導官は微妙に違うから、おそろいって言うのはどうだろう?」
フェイトの言葉に、首を傾げるなのは。
「優喜君ってのは、お友達だっけ?」
「うん。これを作ってくれた子で、私にとっては恩人でクラスメイトで同居人。」
小指の指輪を見せながら、明らかにそれ以上の感情をにじませた声色で質問に答えるフェイト。
「へえ、綺麗な指輪だね。」
「あたしも、頼めば作ってもらえるかな?」
「多分作ってはもらえると思うよ。練習で作ってるものもあるから、今度頼んでいくつか持ってこようか?」
「あ、お願いしていい?」
「優喜がいいって言ったら。」
元々、作るだけ作って処分に困っている事が多いものだ。完成品に関しては、先約が無ければ割合扱いは緩い。まあ、材料が比較的安い素材なのも大きいだろう。因みに、最近はバニングスの関係者や夜の一族からの注文も増え、必然的に練習用に回る没デザインも多くなり、使う素材の値段も受け取る報酬も上がってきていたりする。税金関係は先方が勝手にやってくれているので、優喜はもうただひたすら作っているだけだが。
その後、二課や三課の休出組も交えて始業時間まで雑談し、広報部全体の連絡事項が終わった後、移動時間までひたすら勉強を続ける二人。宿題の類は少々しんどくても夜の訓練前に終わらせているので、純粋にこういう空き時間はキャリアアップに専念である。
「あ、そろそろ時間かな?」
「そうだね。いこっか、なのは。」
「うん。」
こうして、なのは達の多忙な業務が始まるのであった。
「フェイト・テスタロッサにここまでやらせるとはね……。」
ネットワークに流れているものや最近のテレビでの出演番組を集めたデータを眺めながら、ジェイル・スカリエッティはあきれと感嘆の混じった声を上げた。
「違法研究の成果たる彼女を法の番人たる管理局のコマーシャルに起用するなど、なかなかのブラックジョークだと思わないかね?」
「それ以前に、私はたった一年ほどで、フェイトお嬢様がここまで表情豊かになっていることに、驚きを禁じえません。」
敬愛するドクターの言葉に、まじめな顔で自分の意見を告げるウーノ。画面には、二人が変身するシーンをバックに、「来たれ若人! 時空管理局へ!」と言う宣伝文句が躍っている。
「多分、一緒に歌っているこの高町なのは嬢の功績が大きいのだろうね。」
「おそらくは。あと、ドゥーエの情報によると、プレシア・テスタロッサが正気に戻り、フェイトお嬢様に深い愛情を注いでいるとの事です。」
「ほう? あの彼女がねえ。」
自身の興味に集中してテスタロッサ一家から完全に意識を逸らしている間に、なかなか面白いほうに話が転がっているようだ。
「そもそもプレシア女史は、リンカーコア侵食型の肺炎を患っていたはずだ。普通ならば、よほどの奇跡でもなければ、当の昔になくなっているか、よくて寝たきりになっているはずだがね?」
「それが、スクライア一族が遺跡から発掘した遺失魔法で完治したとの事です。」
「ほう? そんな魔法は聞いたことがないが?」
「かなり高度な儀式魔法の上、まだ効果が実証されていなかったため、一般には出回っていない魔法のようです。」
「その魔法、データはあるかね?」
その言葉に、公開されてる臨床試験データを呼び出してスカリエッティに見せる。
「……これはまた、実に難易度が高くて効率が悪い魔法だね。このデータはいつのものだい?」
「プレシア・テスタロッサが受けた治療のものです。現時点では、この儀式魔法の唯一の臨床例です。」
「魔導師の命ともいえるリンカーコアに手を入れる儀式を、生き残るためとはいえ自ら進んで受けるとはね。その執念には、頭が下がる想いだよ。」
「あれほどお嬢様のことを憎んでいた彼女が、どうしてここまで心変わりしたのか、いまだに納得が出来ませんね。」
「人の心というものだけは、いかな天才といえども簡単にどうにかできるものではないからね。思考と感情を誘導することは出来ても、完璧な支配も理解も不可能だよ。」
スカリエッティの言葉に深く頷くウーノ。自分の博士への敬意や愛情とて、このマッドサイエンティストにどれほど伝わっているのか、時折疑問に思うのだ。
「さて、今回のこの一手、正直時空管理局らしからぬやり口だと思うが、何か心当たりはないかね?」
「単純に、高町なのはとフェイトお嬢様の実力が突出しすぎて、どうやっても制限を守った状態では部隊行動が取れなくなったことが原因のようです。」
「映像資料の類は?」
「最新の全力戦闘のものは手に入りませんでしたが、嘱託魔導師採用試験のものと、デビュー当時のものならば。」
「見せてもらっていいかな?」
スカリエッティの要請に従い、そのときの映像を流す。資料の映像に釘づけになるスカリエッティ。高度な戦闘機動に濃密な弾幕、曲がる砲撃、やや荒削りながらも見事なコンビネーション戦闘。さらには原理不明の入れ替わりに集束砲の三分割と来た。確かに、こんな魔導師を招き入れたところで、生半可な部隊では使いこなせまい。
「……誰が鍛えたかは分からないが、いろいろと常軌を逸したレベルにはあるようだね。」
「こちらは、更にレベルが上がっています。」
ウーノが次の資料を流す。こちらは世間一般に普通に出回っている、デビュー当日の対翼竜戦だ。こちらはさらにコンビネーションが洗練されており、一年ほどでさらに腕に磨きをかけたのが、戦術や細かい技能については基本素人である二人にもよく理解出来た。
採用試験の時に見せた奇手の数々のうち、今回見せたのは入れ替わりだけ。後はオーソドックスに射撃や誘導弾と砲撃に近接戦闘も交えた、ごく当たり前のスタイルで相手を制圧している。が、相手は本体の五十メートルを筆頭に、小さくても三メートルはある翼竜たちだ。普通の力量の魔導師がオーソドックスな戦闘法で制圧できるなら、誰も苦労はしない。嘱託試験で使った奇手に頼らず、普通に戦ってあれを制圧できるようになったと言う事が、そのまま戦闘魔導師としての力量向上を表しているのだ。
「……ユニゾンだと!?」
翼竜戦のクライマックス。フェイトがファランクスシフトで足を止め、二人同時にユニゾンを行ったシーンで、驚愕の声と共に立ち上がるスカリエッティ。
「どういう手段を使ったのかは不明ですが、高町なのはとフェイトお嬢様は、適性のあるユニゾンデバイスを所有しているようです。」
「……いや、あれは彼女達が昔から使っていたデバイスでユニゾンしている。だが、どうやって? ……まさか、……だが、あの魔女なら。」
あまりに衝撃的な出来事に、画面を見ながらぶつぶつつぶやくスカリエッティ。ドクターの助手をやっているウーノも、さすがに初めて二人がユニゾンをしたシーンを見た時には衝撃を受けた。当然だ。現代では製法が失われている融合騎。現存しているものは少なく、さらに適性がなければ融合事故を起こしてしまうという使い勝手の悪いものだ。当然、自分に合ったものを偶然入手する確率など、天文学的な数字になるだろう。
だが、スカリエッティが衝撃を受けたのはそこではないらしい。彼の言葉が正しいとするなら、彼女達が使っているインテリジェントデバイスに、ユニゾンデバイスの機能を後付けで追加したという事になる。それも、ユニゾン適性の問題をクリアした、完璧なリンカーコアをだ。
「……面白い、実に面白い。」
久しぶりにたぎってきた、と言う表情でつぶやくジェイル・スカリエッティ。今現在、彼にはどうにもできない技術を見せられて、どうやら本格的に何かが燃え始めたらしい。
「ウーノ、ドゥーエに彼女達の資料を集めさせて欲しい。後、最近管理局内部で静かに政変じみた動きがあるようだから、そちらの調査も。後は……。」
少し考えた後に、にやりと笑って付け加える。
「そうだな。管理局が彼女達のプロジェクトで動かしている資金、その収支を持ってきて欲しい。」
「その理由は?」
「なに。どうやら連中、戦闘機人計画に見切りをつけつつあるようでね。」
表情にこそ出さないが、少しばかり不審な雰囲気が漏れたらしい。それを察したスカリエッティが、その憶測に至った理由を告げる。
「どうやら、例の政変の影響らしい。レジアスはすでに最高評議会に従う気は全くないらしい。あと、どうにもこちらの研究に金を出さずとも、戦力不足を解消する当てを見つけたらしい。いきなり予算を全額切りはしなかったが、相当減額されたよ。」
「それと、彼女達の活動の収支と、どうつながるのですか?」
「大赤字を出しているならそこをつついていやがらせを、黒字ならば我々も見習おうかと思ってね。」
スカリエッティの言葉に、露骨に不審と不安が混じった表情を見せるウーノ。ドクターに骨の髄まで惚れこんでいる彼女としては、実に珍しい反応だ。
「どちらにしても、既に取りかかっている計画そのものに変更は加えないよ。」
「……分かりました。」
なのはとフェイトは、本人の預かり知らぬところで、地道にキーパーソンへの道を歩み続けているのであった。
「そこのジューススタンドのフレッシュジュース、すごく美味しいんだ。」
「へー、そうなんですか。」
「フェイトちゃん、今日は出動なかったら直接帰ってもいいから、帰りに寄って行こうか?」
「そうだね。たまには寄り道してもいいよね。」
「バナナとオレンジのミックスがお勧めね。あ、でも三種のベリーも捨てがたいかな?」
生放送の番組収録中。野外ステージの袖で出番待ちの最中、若いスタッフの女性と、マイクに入らない程度の声でガールズトークに興じるなのはとフェイト。因みに、今は管理局本局の、紺色の制服だ。最近は管理局員である事をアピールするため、基本的にステージ衣装には、前奏が始まった瞬間に変身する。
「あそこのジューススタンドだったら、季節のフルーツは絶対にはずれが無いから、苦手な果物じゃなかったらそこから入るのもあり。」
「あ、そうなんですか?」
なのは達の会話を聞くとは無しに聞いていた出番待ちの女性グループ、その中の一人がなんとなく混ざってくる。年のころは十代半ばから後半、美由希やエイミィあたりの年頃だ。それなりに整っているがどうというほどでもない容姿で、体型もユニゾンしている時のなのはやフェイトの方が上であろう。
だが、さすがと言うかなんというか、それなりに人気のあるグループのメインヴォーカルの一人だけあって、街ですれ違った人の十人中、八人から九人が振り返り、その姿を記憶にとどめるであろうほどには存在感がある。容姿やプロポーションだけでは言い表せない華、それを持ち合わせた少女だ。
「しまった、それがあったの忘れてた。」
「でもまあ、店の人に今日のお勧めを聞くのが確実かな。やっぱり、その日の一番いいのを知ってるのは店の人だし。」
「なんだか、聞いてるとどれも美味しそう。」
「そういえば、二人とも管理外世界の出身だっけ?」
「はい。」
「第九十七管理外世界在住です。」
などとそんな風に和やかに話をしてると、
「ソアラ! 本番前に駄弁るな! アンタ達も仕事中だろう!?」
同じグループのもう一人のメインヴォーカルが、イライラした感じで声を抑えて怒鳴る。どことなく人懐っこい雰囲気を持つソアラと違い、こうなんと言うか、無駄に迫力だけ余っている感じだ。美人ではあるが、さぞ誤解されている事であろう。まだ二十歳前後だというのに、何とも世知辛い気質だ。
「別にいいじゃんか、リーダー。問題ない範囲で駄弁って余計な緊張ほぐすのも仕事のうちっしょ?」
「そんな公権力の犬に尻尾振ってんじゃねえ、って言ってんだ。」
「公権力、ねえ。」
いまいちそういういかつい単語と一致しない二人を見て、思わず首をかしげるソアラ。なのはとフェイトも、どうしたものかと困惑の表情でリーダーとソアラを見ている。正直なところ、斬ったはったの世界をくぐりぬけてきたこの二人に、いくら迫力があろうと、ただの人であるリーダーの恫喝などどうという事はないのだが、それはそれとして、同じ番組に出演する人間の機嫌が悪いのは勘弁してほしい。
「管理外世界出身の高ランク魔導師の子供なんて、基本的に選択肢はないっしょ?」
「選択肢があろうとなかろうと、そいつらが公権力をバックにやりたい放題やってんのは一緒だろうが。」
「どっちかって言うと、この子たちはやりたい放題やられてる方だと思うけどね。」
歌と出撃を両立している二人に同情的な視線を送りながら、妙にいらついてるリーダーをなだめに入る。
「とりあえずさ、リーダーの主張も分からないではないけど、所詮下っ端のちびっ子たちにギャーギャー言うのは大人としてみっともないよ?」
「……ちっ。」
「リーダー、もうすぐ本番だし、スマイルスマイル。」
「分かったよ。だがな、遊び半分でチャラチャラやってて、もてはやされるのも今のうちだからな、犬共!」
どうにもリーダーの言いたい事が分からず、どう反応していいのか戸惑うなのはとフェイト。とりあえず、フェイトが性質的に犬っぽいというのは分からなくもないが。
「まったく、どうせ上の連中の都合で動いてるだけの子供に、なにいらついてんだか。」
「あの……。」
「私達、何か気に障る事でも……。」
「ああ、気にしない気にしない。どうせ単なるやきもちだから。リーダーは、何のバックも無しに歌一本で叩きあげて今の地位にいるからさ。アンタ達みたいにでかい権力のバックアップ受けてチャラチャラやってるように見える連中が、大っきらいなんだと。」
そう言われても困るしかないなのはとフェイト。実際のところ、割り当てられた仕事だからやっているだけで、やらなくていいというのであれば特に文句も言わずに辞めるだろう。本当のところは、現時点で普通に派手にプロモーションの類をうたずにやって、それで売れていなければこの方針は取り下げる予定だったのだ。
「あたしも、アンタ達の歌が本物じゃなくて、いやいや歌ってるようだったらかばうつもりもなかったけどね。」
「え?」
「二人とも、ちゃんと本気で歌を磨いて、その上で歌うの楽しんでんじゃん。だったら、同じ歌うたいとしては、どんな形で歌ってても否定したりこきおろしたりしたくないんだわ。」
「あ、ありがとう……。」
「いいっていいって。さて、そろそろそっちも出番じゃね?」
言われて辺りを見渡すと、心配そうにしているスタッフが恐る恐るあと三十秒のカンペを。
「ご、ごめんなさい!」
「すぐ行きます!」
このドタバタで、しっかり覚えてたはずの段取りが一部こんがらがっている事に気がつかず、お互い確認する暇もなく舞台に上がる二人であった。
「さて、そろそろか。」
地上本部のとある部隊の詰め所。時計を見て時間を確認したシグナムは、書き終えた書類をチェックし、ざっと束ねて上司のデスクに提出し、テレビのある休憩室に移動する。別に、レヴァンティンの通信機能を使ってもいいのだが、こういうのは休憩室で見るのがマナーだ。
「シグナム、休憩か?」
「はい。現在は待機任務ですし、書類仕事も一段落ついていますし、それに友人がテレビに出る時間がそろそろですので。」
「友人って、例のか?」
「ええ。一応レヴァンティンに録画はさせているのですが、折角の生放送ですので。」
先客の先輩武装隊員に挨拶をし、今は誰も使っていない備え付けのテレビをつける。ちょうど、なのは達が舞台の袖から現れる瞬間に間に合ったようだ。
「この子たち、可愛い顔しておっかねえほど強いんだよな。」
「私も、条件が悪ければ、あっという間に負けてしまいます。」
「シグナムでもかよ。じゃあ、俺なんざどうやっても勝てやしねえな。」
「申し上げにくいのですが、寝込みでも襲わない限りは、テスタロッサはともかく、高町の方にはダメージすら通らないかと。」
少々言いにくそうに、先輩局員に事実を告げる。高町なのはは、誘導弾と砲撃を主体とした魔導師としては珍しく、下手なフォワードを鼻で笑うほどに防御力が高い。しかも、移動にしても旋回性能に劣るが瞬発力はあり、本気で動きまわられると案外攻撃を当てにくい。さすがに、防御魔法も無しで威力ランクがAを超えるような砲撃を完全に防ぐ防御力はないが、完全に防げないというだけで、AAぐらいまでの攻撃は直撃しても普通に戦える。
逆に、先輩局員の攻撃力は地上基準での並程度。下手をすると、最大火力でもなのはのバリアジャケットを抜けない程度だ。そもそも、今シグナムが所属している部隊は、首都航空隊でも首都防衛隊でもないごく普通の部隊だ。高ランク魔導師を一般的な地上部隊で運用するテストケースとして、特例的にランク制限を一時的に緩めてシグナムを配置している。なのでそもそも、なのは達のような相手にぶつける部隊とは、根本的に用途が違うのだ。
「はっきり言ってくれるねえ。まあ、いろんな意味で成長期の過ぎたランクCが、ああいう突然変異みたいなのに張り合ってもしょうがねえわな。」
愉快そうに笑いながらテレビを見る先輩。元々、自分達と向こうとでは、根本的に用途も経験の種類も違うことぐらいは理解しているので、特に気を悪くするつもりもない。何より、自分達の領分なら、確実に彼女達よりも活躍できる。その事はシグナムが来たおかげで、はっきりと証明できている。そもそも、シグナムの態度が、彼の自信を肯定している。
「へえ、金髪の子、執務官資格を目指してるのか。」
「デビュー前から一応勉強はしていたのですが、何やらコンサートツアーで他の管理世界を巡った時に、いろいろ思うところが出来たそうで。」
「本腰を入れ始めたってか?」
「はい。まあ、性格的に黒い話に適応できるかどうかが心配ではありますが、そこを除けば適任だとは思います。」
「見るからに二人ともお人好しそうだからなあ。」
「そのお人好しに、我々も、我らが主も救われました。」
シグナムが、圧倒的に年下の友人達に向ける敬意。それを感じ取った先輩局員が、小さく笑いながら画面に集中する。そろそろ歌が始まるのだ。この時間帯のスペシャルゲストと言う事で、デビューから立て続けで発表し続けた曲のうち、事前投票の多かった曲を五曲、ショートバージョンをつないでメドレー形式で歌うのだ。デビュー半年程度の新人としては、破格の扱いだろう。
「……あ。」
「……お?」
ステージの中心で、管理局の服のまま出だしのポーズで待機。前奏が始まった瞬間にバリアジャケットを展開。ここまでは普段通りなのだが、その結果がおかしい。
「何で衣装のデザインがそろってないんだ?」
「……どうやら間違えたようですね。」
「こういうところは、やっぱ子供ではあるんだな。」
普通のアイドルや歌手では絶対に起こらない種類の、ある種微笑ましい失敗に苦笑しながら感想を述べる先輩。現実には、出番前のごたごたで曲目と曲順が飛び、トークの間になにを歌うのかは思い出したが、順番はごっちゃになったままだったため、二人揃って全く違う曲のジャケットを展開してしまったのだ。
「ちょっとあわててるな。」
「まあ、二人とも一応プロです。歌が始まるまでには立ち直るでしょう。」
シグナムの言葉通り、顔こそあわてていたもののダンスは即座に修正、しょっぱな以外ではミスらずに踊り切る。Aメロに入った時点ですでに歌手の顔に戻っていた。
「見た事ないポーズの組み合わせだったから、おかしいとは思ったんだ。」
先輩のつぶやきに、思わず彼の顔を見るシグナム。因みにこの疑問は、ポーズをとった瞬間に当の本人達も感じたのだが、念話で確認している間に歌が始まってしまったのだ。
「先輩も、テスタロッサ達をよく見ているのですか?」
「娘がファンなんだよ。魔導師資質が無いのをえらく悔しがってたぞ。」
話を聞いて、少し顔がほころぶシグナム。この先輩、まだ二十代半ばだが結婚が早く、すでに六歳と三歳の娘が居るのだ。
「いくら強力な魔導師資質を持っていたとしても、さすがにあの二人の真似は厳しいでしょうね。何しろ、彼女達の歌の先生はとても優しい人ですが、仏の顔で難しい事を要求してくる人物でもあります。」
「なるほど、歌がうめえわけだ。」
「それに、そもそも歌手活動をしながらあれだけ出撃を繰り返せば、並の体力ではまず持ちません。」
「あ~、なるほど、違いねえ。」
などとこそこそ話をしている間に最初の曲のサビに入り、そのタイミングで自然な動きで正規の衣装に切り替える二人。その見事なタイミングに、会場からどよめきが走る。
「お~、すげえ。」
「流石ですね。」
歌って踊りながら、バリアジャケットを切り替える。言うだけなら大したことではないが、今は局側の都合により、なのは達はデバイスの補助を受けていない。その上、二人が持っている衣装のパターンは結構多い。その中で再び間違えずに、歌も踊りもおろそかにせずに切り替えるというのは、なかなかに度胸が必要な難易度の高い芸当だ。
この後正規の曲順をしっかり思い出した二人は、残りの曲を特にミスをすることもなく最後まで歌いきった。途中、最初のミスをごまかす意味も含めたサービスで、お互いの衣装のデザインを即興で入れ替える離れ業をやってのけて更に客席をどよめかせ、そのくせ歌には一切手抜きをしなかったものだから、終わると同時に客席を大いに沸かせた。もっとも、終わった後に最初が二人揃って勘違いしましたと素直に正直に謝ったときには、司会者やゲストに大爆笑されて真っ赤になっていたのだが。
「模擬戦のときの凶悪さが嘘のようなエンターテイナーぶりだな……。」
「模擬戦だとそこまでか……。」
まあ、地上の戦力が一蹴されるような相手を、何事もなかったかのように仕留めるしなあ、などと彼女達の行く末を微妙に心配しながらも、とりあえず勤務時間も終わっているし見るものも見たので、帰り支度をする先輩であった。
「ねえ、フェイトちゃん。」
「何?」
お土産に買ってきた、氷抜きにしてもらったフレッシュジュースを冷蔵庫に詰めたなのはは、きっちり三角巾とリボンで髪を束ね、商店街でおすそ分けをもらった野菜をいくつか入れて、「美味しくなれ美味しくなれ」とつぶやきながら糠床の世話をしているフェイトに向かって声をかけた。
「ずっと気になってたんだけど。」
「うん。」
「コンサートツアーが終わってから、やけに一生懸命執務官試験の勉強をするようになったけど、どうして?」
「えっとね。」
糠床をいつもの収納場所に入れ、塩分控えめ自家製梅干の様子を確認しながら、どう言うべきか言葉を捜すフェイト。
「私達よりずっと小さい子供がね。」
「うん。」
「全然、笑ってなかったんだ。」
「……。」
コンサートツアーで回った管理世界の中には、数年前まで内戦があった世界があった。一度大きな病気が流行り、たくさんの人が死んだ世界もあった。そういった世界への慰問もかねてのツアーだったが、そこで見た光景は、二人の幼心に強い衝撃を与えた。
「笑ってないどころか、目に全然輝きがなくて、生きてるはずなのに全然力がなくて……。」
梅干をそっとしまい、小さく小さくため息をつく。
「どうしても、嫌だったんだ。」
「……何が?」
「子供が笑ってないのが。何も出来ない私が。」
フェイトの言葉に、何も言えずに黙る。フェイトの境遇だって、決して恵まれていたとはいえない。優喜のおかげで母親を失わずにすんだとはいえ、それまでのフェイトは、あの子供達より若干マシ、という顔しかして居なかった。なのはが衝撃を受けたのは、あのころのフェイトの顔を思い出し、子供達の背景を想像してしまったからである。
「私、やっぱりまだまだ子供なんだな、って思っちゃって。」
「フェイトちゃん……。」
「私のこの気持ちが、自分のエゴ丸出しの自分勝手で傲慢な考え方だ、って言うのは分かってるんだ。でも……。」
三角巾を外しながらなのはに向き合い、優喜に対する感情とは違う、だが同じぐらい日に日に熱くなっていく気持ちを、その熱を少しでも逃がすかのように、言葉と一緒に吐き出す。
「子供は、笑っていなくちゃ駄目なんだ。時々泣いているのはいい。怒るのもいい。でも、あんな人形みたいな顔してちゃ駄目なんだ。私は、どうしても、あの子達のあの顔が受け入れられないんだ。」
「そっか。それで、執務官?」
「うん。執務官資格があれば、あの子達みたいな子供に対して、できることがずっと増える。今の私じゃ、ほとんど何も出来ないから。」
「……フェイトちゃん、やりたい事を見つけちゃったんだね。」
なのはの、少し寂しそうな言葉に、少し首を傾げる。
「なのは?」
「ん、なんでもない。それで、今年は後一回試験があるけど、それを受けるの?」
「さすがに、今のレベルじゃ無理だと思うから、来年の最初の試験を受けるつもり。」
「そっか。がんばって。私も出来ることがあったら協力するから。」
「ありがとう。がんばるよ。」
なのはに話したことで、自身の気持ちが明確な形になることを感じたフェイト。これが、フェイト・テスタロッサの大人への階段の、その第一歩であった。