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No.18616の一覧
[0] (完結)竜岡優喜と魔法の石(オリ主最強 再構成 エピローグ追加)[埴輪](2012/04/21 21:14)
[1] ジュエルシード編 第1話[埴輪](2011/05/08 09:49)
[2] 第2話[埴輪](2010/10/31 11:50)
[3] 第3話[埴輪](2010/05/16 20:08)
[4] 第4話[埴輪](2010/10/31 11:53)
[5] 第5話[埴輪](2010/11/01 21:26)
[6] 閑話:元の世界にて1[埴輪](2010/06/06 22:47)
[7] 第6話 前編[埴輪](2010/11/01 21:30)
[8] 第6話 後編[埴輪](2010/07/10 22:34)
[9] 第7話[埴輪](2010/06/26 22:38)
[10] 第8話[埴輪](2010/07/03 22:20)
[11] 第9話[埴輪](2010/07/11 23:45)
[12] 閑話:元の世界にて2[埴輪](2011/06/25 09:05)
[13] 第10話[埴輪](2010/07/24 21:02)
[14] 第11話[埴輪](2010/08/14 14:15)
[15] 第12話[埴輪](2010/08/07 17:09)
[16] 第13話[埴輪](2010/10/06 22:44)
[17] ジュエルシード編 エピローグ[埴輪](2010/08/21 19:05)
[18] ジュエルシード編 後書き[埴輪](2010/08/21 19:06)
[19] 闇の書編 第1話[埴輪](2010/08/28 21:12)
[20] 第2話[埴輪](2010/09/04 18:23)
[21] 第3話[埴輪](2010/09/11 18:29)
[22] 閑話:フェイトちゃんのお買い物[埴輪](2010/09/18 17:28)
[23] 第4話[埴輪](2010/10/31 11:42)
[24] 第5話[埴輪](2010/10/06 22:17)
[25] 第6話[埴輪](2010/10/09 11:11)
[26] 第7話 前編[埴輪](2010/10/16 18:21)
[27] 第7話 後編[埴輪](2010/10/23 15:32)
[28] 閑話:ヴォルケンズの一週間[埴輪](2010/11/01 21:23)
[29] 閑話:なのはとフェイトの嘱託試験[埴輪](2010/11/06 19:00)
[30] 第8話 前編[埴輪](2010/11/13 18:33)
[31] 第8話 後編[埴輪](2010/11/22 21:09)
[32] 第9話[埴輪](2010/11/27 11:05)
[33] 閑話:元の世界にて3[埴輪](2010/12/04 17:29)
[34] 第10話[埴輪](2010/12/11 18:22)
[35] 第11話[埴輪](2010/12/18 17:28)
[36] 第12話[埴輪](2011/01/08 13:36)
[37] 闇の書編 エピローグ[埴輪](2011/01/09 08:08)
[38] 闇の書編 あとがき[埴輪](2010/12/31 22:08)
[39] 空白期 第1話[埴輪](2011/01/08 14:39)
[40] 第2話[埴輪](2011/01/15 11:39)
[41] 閑話:高町家の海水浴[埴輪](2011/01/22 09:18)
[42] 第3話[埴輪](2011/01/29 19:16)
[43] 第3話裏[埴輪](2011/02/06 08:55)
[44] 閑話:高町家の歳時記[埴輪](2011/02/19 17:56)
[45] 閑話:聖祥学園初等部の林間学校[埴輪](2011/06/25 09:06)
[46] 第4話[埴輪](2011/02/26 09:18)
[47] 第5話[埴輪](2011/03/05 19:26)
[48] 第6話[埴輪](2011/03/19 18:33)
[49] 第7話[埴輪](2011/06/11 17:58)
[50] 第7話後日談[埴輪](2011/04/03 10:25)
[51] 閑話:竜岡優喜の鉄腕繁盛記[埴輪](2011/04/09 19:07)
[52] 第8話[埴輪](2011/04/16 17:57)
[53] 閑話:時空管理局広報部の新人魔導師[埴輪](2011/04/23 11:07)
[54] 閑話:竜岡優喜の憂鬱[埴輪](2011/04/30 18:34)
[55] 閑話:ある日ある場所での風景[埴輪](2011/05/07 17:31)
[56] 第9話[埴輪](2011/05/14 17:40)
[57] 第10話 前編[埴輪](2011/05/21 17:58)
[58] 第10話 後編[埴輪](2011/05/28 21:07)
[59] 閑話:高町家の家族旅行[埴輪](2011/06/05 21:02)
[60] 閑話:元の世界にて4[埴輪](2011/06/11 18:02)
[61] 第11話[埴輪](2011/06/18 17:33)
[62] 第12話[埴輪](2011/06/25 09:05)
[63] 第13話 前編[埴輪](2011/07/02 21:22)
[64] 第13話 中編[埴輪](2011/07/09 20:51)
[65] 第13話 後編(R-15)[埴輪](2011/07/16 11:51)
[66] エピローグ あるいはプロローグ[埴輪](2011/07/23 11:03)
[67] 空白期後書き[埴輪](2011/07/23 11:22)
[68] ゆりかご編 第1話[埴輪](2011/07/30 19:10)
[69] 第2話[埴輪](2011/10/01 18:39)
[70] 第3話[埴輪](2011/08/20 18:23)
[71] 第4話[埴輪](2011/08/27 18:40)
[72] 第5話[埴輪](2011/09/03 18:13)
[73] 第6話[埴輪](2011/09/24 19:13)
[74] 第7話[埴輪](2011/09/26 19:49)
[75] 第8話[埴輪](2011/10/01 18:39)
[76] 第9話[埴輪](2011/10/08 18:22)
[77] 第10話 前編[埴輪](2011/10/15 20:58)
[78] 第10話 後編[埴輪](2011/10/22 19:18)
[79] 第11話 前編[埴輪](2011/11/05 19:03)
[80] 第11話 後編[埴輪](2011/12/03 19:54)
[81] 閑話:ある日ある場所での風景2[埴輪](2011/11/26 21:00)
[82] 第12話[埴輪](2011/12/03 19:54)
[83] 第13話 前編[埴輪](2011/12/10 20:17)
[84] 第13話 後編[埴輪](2011/12/17 19:21)
[85] 第14話 その1[埴輪](2011/12/24 20:38)
[86] 第14話 その2[埴輪](2012/01/07 20:47)
[87] 第14話 その3[埴輪](2012/01/21 19:59)
[88] 第14話 その4[埴輪](2012/01/28 21:24)
[89] 第15話 その1[埴輪](2012/02/04 19:04)
[90] 第15話 その2[埴輪](2012/02/18 20:56)
[91] 第15話 その2裏[埴輪](2012/02/25 21:31)
[92] 第15話 その3[埴輪](2012/03/03 18:43)
[93] 第15話 その4[埴輪](2012/03/17 19:40)
[94] 第15話 その5[埴輪](2012/03/24 13:56)
[95] 第15話 その5裏[埴輪](2012/04/07 21:01)
[96] 第15話 その6[埴輪](2012/04/15 23:11)
[97] エピローグ[埴輪](2012/04/21 21:14)
[98] あとがき[埴輪](2012/04/21 23:41)
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[18616] 第6話
Name: 埴輪◆eaa9c481 ID:43cec595 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/09 11:11
「結構早く話がついたんだね。」

「ああ。夜天の書の名を出したら、ものすごい食い付きだった。」

 はやての誕生日から二日後、ヴォルケンリッターの生活雑貨を買い出しに行った翌日の午前中。クラナガンの中央ターミナル。優喜とクロノは、聖王教会からの出迎えを待っていた。

「それで、どこまで話が通ってるの?」

「これから交渉しに行く相手は、聖王教会の中でもトップテンに入るぐらいの人物だ。彼女が直々に出てくるぐらいだから、トップまで話が伝わっていると考えていいだろう。」

「クロノも何気に、えらいところに伝手があるんだね。」

「彼女に直接伝手があるわけじゃないさ。ただ単に、その身内と、士官学校で同期だったにすぎない。」

 クロノが彼女、と言っているからには女性であろう。もっとも、若いとは一言も言っていないし、仮にも大規模な組織の重鎮なのだから、優喜の実年齢とですら、親子どころか孫ぐらい離れていてもおかしくない。

 それに、仮に相手が若い美女だったとしても、それを喜ぶようなおめでたい感性は持ち合わせていない。なにしろ、プレシアを筆頭に、リンディ、レティ、桃子、忍と、見た目や実年齢が実際に若い美人の知り合いは多いが、大方は頭の回転が速く性格的にも癖が強い、交渉相手としては面倒なことこの上ない相手だ。今のところ、下準備や運び方がうまくかみ合っているため、一見して優喜が一方的に主張を通しているようにみえるが、手札を切る手順を一度でも間違えれば、あっという間に立場が逆転する相手ばかりなのだ。

 因みに、管理局人事部の親玉、レティ・ロウランとは、クロノの手引きによって、ターミナルに来る前に顔合わせを済ませている。どうやら、優喜が厄介だと思った程度には、レティの側も優喜を手ごわいと考えているようで、単なる挨拶だけだというのに、最後の最後まで一瞬も気を抜く事が出来なかった。面倒な話である。

「それはそうと、交渉がうまくまとまったとして、いちいち用事の度に迎えに来てもらって、って言うのはお互いに面倒だと思うけど。」

「向こうにも個人用の転送装置ぐらいはある。交渉がまとまれば、許可申請を出して時の庭園から直接飛べばいいさ。」

「なるほど。それなら安心だ。」

 優喜の言葉に苦笑する。二十歳前後の若造だと、あるならどうして今回は使わない? などという礼儀の部分を分かっていない発言をしそうなものだが、さすがにこの狸はそういう面ではそつがない。

「どうでもいいけど、なんだか時の庭園が、悪巧みの舞台装置みたいになってるよね。」

「まあ、元々の購入目的を考えれば、あながち間違った使い方でもないだろう。」

「あれ、一応ロストロギアなんでしょ? プレシアさんの罪状に影響しないの?」

「ロストロギアと言っても、全てが個人所有禁止というわけではないからな。時の庭園は正規の手続きを踏んで購入したものだから、管理局がどうこう言う問題じゃない。」

 ロストロギアというのは、基本的に滅びた文明の、現在では再現不可能なものの総称である。時の庭園の場合、次元航行艦数隻分を上回る出力の魔力炉と、次元空間の航行手段がロストロギアとなっているが、サイズの問題に目をつぶれば、これらはすべて代用品が存在する技術だ。それに、長年にわたり研究され尽くしており、安全性などに問題がないことが証明されているものでもある。

 こういった暴走の危険の無いものは、不動産のような扱いで売買が認められており、取得時点で悪質性の高い事件を起こしておらず、十分な資金があれば、基本的に誰でも買えるものなのだ。もっとも、たくさん出土しているようなものならまだしも、時の庭園のような大物は、クラナガンの一等地に城を何軒か建てられるほどの値段なのが普通であり、その一点をもってしても、プレシアが握っている特許などがどれほどのものかがよく分かる。

「ありがたく使わせてもらっている身の上でこんなことを言うのもなんだけど、プレシアさんもよくあんなものをポンと買い取ったもんだ。」

「正直、僕たちのような公僕には、どれほどの値段かが予想も出来ない。」

「フェイトが箱入りで世間知らずなのも、ある意味おかしなことじゃないんだよね、そう考えると。」

 いろんな意味で将来が約束されている友人の顔を思い浮かべ、苦笑しながらクロノに答える。

「それはそうと、執務官ってのは高給取りの代名詞の一つだって聞いたんだけど、そこら辺はどうなの?」

「あんな規格外の研究者と一緒にされても困る。確かに職質手当も危険手当も一般の武装局員とは段違いだが、それでも常識の範囲内だ。そもそも執務官には時間外手当の類は無いし、功績給もそれほどの額がつくわけでもない。」

「そんなもんなんだ。」

「ああ。さすがに提督クラスになれば、ロストロギアの購入に手を出せるぐらいの収入もあるだろうが、それだって結局は、使う暇がないからという側面が否定できない。」

 クロノの言葉に苦笑する優喜。因みに、今日はクロノは優喜のために、わざわざ休暇を取ってセッティングしてくれたらしい。なにしろ、本来の職務である密輸業者の摘発に加え、プレシアの裁判にグレアムサイドの動向調査まで抱えている。他にも細かい事件に対する応援要請を数件抱えており、一般的には休暇に設定されていても、休んでいる暇などないほど忙しいのが現実だ。一般局員にとっては休日なのに、休暇を使わなければ休めないという現実が、執務官の多忙さを物語っていると言える。

「ん、迎えが来た見たい。」

「ああ。予定より早かったな。」

 二人の前に、リムジンが滑り込んでくる。予定時刻の十分前。どうやら、向こうも優喜達と同じく、予定より早め早めに行動を起こすタイプのようだ。

「やあ、クロノ。どうやら待たせたみたいだね。」

「大して待ったわけではないさ。それよりロッサ、面倒な用事を押し付けて悪いな。」

「なに、これぐらいお安いご用さ。それに、こちらにとっても、今回の話はいろいろと聞き捨てならない話だからね。」

 リムジンから降りてきた、一言で表現するならチャラい優男と、親しげに会話するクロノ。その様子を思わず珍しそうに観察してしまう優喜。さすがに、クロノの友人にこういう軽薄そうな男がいるとは予想していなかったのだ。

「それでクロノ、そろそろそちらの将来が楽しみな美少女を紹介してほしいんだけど。」

「それが目的だから構わないが、やはり君も間違えたか。」

「間違えた、とは?」

「どう見ても美少女なのは認めるが、彼は男だ。」

 クロノの台詞に硬直する優男。その様子に苦笑しながら、人に名を尋ねるには自分から、という事で自己紹介を始める優喜。因みに優喜は、正装に相当する服の持ちあわせが無かったため、とりあえず聖祥の制服でごまかしている。

「僕は竜岡優喜、私立聖祥大学付属小学校三年生で、夜天の王の代理人です。今日はわざわざありがとうございます。」

「ヴェロッサ・アコースです。特別査察官をやらせてもらっています。僕相手にそんなに畏まる必要はないよ。こちらも、普通に喋らせてもらうから。」

「了解。」

 互いに自己紹介を済ませた後、再び優喜を上から下まで観察するヴェロッサ。

「しかし、本当にもったいない。女の子なら、後十年、いや五年あれば、僕も含めて男どもが放っておかないだろうに。」

「大丈夫。性別を気にしない血迷った男が放っておかないから。」

 ヴェロッサの大げさな態度に、嫌そうに吐き捨てる優喜。言うまでも無く、そういう経験には事欠かない。

「まるで経験者のような言葉だけど、覚えがあるのかい?」

「この年でも十分に。」

 優喜の台詞に、思わず引きつるヴェロッサ。

「ねえ、クロノ。」

「なんだ?」

「彼は、本当に初等部の人間なのかい?」

「……所属と年齢は、な。」

 クロノの返事に、思わず沈黙してしまうヴェロッサ。

「ロッサ。とりあえず、とっとと向こうに行くぞ。ここで腹の探り合いをする価値は無い。」

「あ、ああ。そうだね。」

 クロノの一言で我に帰り、客人のエスコートという本来の役割を思い出すヴェロッサ。この時彼が抱いたかすかな予感は的中し、車中でもいまいちペースをつかみきれないまま、ベルカ自治区の聖王教会まで案内する事になったのであった。






 ベルカ自治区は、クラナガン郊外からハイウェイで一時間少々という、利便性という観点では少々疑問符がつく立地条件の場所に存在している。公共交通機関だと、始点と乗り継ぎ次第では二時間以上は余裕でかかる事もあり、移動コストも高くつくので、あまりここからクラナガンに通っている人間というのはいない。

 そして、そのベルカ自治区を事実上統治しているのが、件の聖王教会である。ベルカ戦争で住む世界を失ったベルカ人たちは、あちらこちらの次元世界でこのような自治区を与えられ、辛うじて自身の文化を放棄せずに細々と暮らしている。そういったベルカ人たちのネットワークを維持し、権威という面から支えるのが聖王教会の主な仕事だ。

 教会と名がつくだけあって、教義の存在をはじめ様々な面で宗教色が強い。ただし、聖王教会が普通の宗教と違うのは、神に現世利益や来世の幸福を祈るのではなく、ベルカを想い、その信念を貫いて散って逝った諸王の功績をたたえることで、ベルカ人としての誇りを維持し、いつの日かもう一度ベルカの復興を誓う点であろう。

 因みに、聖王教会と銘打っているが、なにも聖王家だけを過剰に特別扱いしているわけではない。単に、最後の聖王は若くして散った美しい女性で、民を守るために軍の先頭に立ち、誇りと信念を貫いた気高き悲劇のヒロインであったため、看板にしやすかったのだ。

 他の王家をないがしろにしているわけではない事は、夜天の王の代理人として夜天の書について交渉に来た優喜とクロノを、最上級のもてなしで迎え入れたことからも明らかであろう。

「お待たせして申し訳ありません。教皇の代理人として本日お話を伺わせていただきます、カリム・グラシアです。こちらは私の補佐をしている、シスター・シャッハです。」

「シャッハ・ヌエラです。本日はよろしくお願いします。」

 優喜達の交渉相手として現れたのは、美由希やエイミィとそれほど変わらない、少女という呼称を卒業するかどうかの境目という感じの女性二人であった。カリム・グラシアと名乗ったのは、長い金髪の清楚という印象の女性。シャッハ・ヌエラと名乗ったのは、シスターというイメージに合った服装の、おかっぱと表現するのが近い髪型の、活発な印象の女性。どちらも、水準以上の美人である。

 因みに、二人とも顔には出さなかったが、クロノが連れてきたのが優喜のような年端もいかぬ美少女であった事には、それなりの驚きと戸惑いを感じてはいるようだ。少なくとも、カリムの瞳孔が微妙に揺れ、シャッハの視線が微妙に泳いだ事を、優喜は見逃さなかった。

「本日は、わざわざお時間を割いていただいて恐縮です。夜天の王の代理人で、私立聖祥大学付属小学校三年、竜岡優喜です。」

「クロノ執務官も、本日は呼びつけてしまって、申し訳ありません。」

「いえ。お気づかいなく。このような機会でもなければ、旧友と顔を合わせる事もなかなかありませんので。」

 などと、ある意味型どおりともいえる挨拶とともに握手を交わし、交渉の席につく一同。とりあえず相手に気づかれぬよう、監視や盗聴の類がなされていない事を確認し、話し合いを始める前に軽く場を和ませる事にする優喜。

「話し合いの前に、一つ。」

「はい、なんでしょう?」

「今までの経験から、十中八九勘違いされていると思うので、どうでもいいことではありますが念のために申し上げます。」

「はい。」

「僕は、このなりでも一応男ですので。」

 本来、交渉の席では、一人称は私が礼儀のようなものだが、ここは台詞の問題もあるので、あえて僕という一人称で話を切り出す優喜。

「え?」

「本当に?」

 何故か優喜本人ではなく、クロノの方に確認の視線を向けるカリムとシャッハ。クロノが一つ頷いて見せると、もう一度驚きの表情を浮かべ……。

「それは、大変でしたね。」

「まあ、慣れてますから。」

 割と意味不明の会話をするカリムと優喜。緊張感自体は薄れたものの、場が和んだとは決して言い難い結果に落ち着く。

「さて、本題に入りましょう。」

「はい。まず最初に確認しておきたいのですが、グラシア卿。」

「その呼び方は、少々他人行儀にすぎます。どうぞ、カリムと呼んでくださいな。」

「では、カリム卿で?」

「それも少々仰々しすぎます。どうせこの場にいる人間は、これからも長く顔を突き合わせるのですし、他に誰も聞いてはいないのですから、無理に丁寧な敬称などつけず、普通にカリムと呼び捨ててくださって構いませんよ。」

「それはそれでこちらの気がとがめますね。では、カリムさん、と呼ばせていただくという事で。」

「分かりました。それではこちらも、優喜さんと呼ばせていただきます。」

 せいぜい大学生ぐらいの女性と小学生の少年の会話とは思えない言葉の応酬に、カリムと違っていまだに交渉相手が優喜だとは思えなかったシャッハが、ようやく襟を正す。移動の車中で見た目と中身がかけ離れている人種だと嫌というほど理解していたヴェロッサも、たかが呼び方一つで腹の探り合いのような真似をやらかす二人に、思わず見えないところで冷や汗を流している。

「それで、話を戻しますが、夜天の書と闇の書について、カリムさんがご存知ない事は、教会全体でも誰も知らないと考えてよろしいでしょうか?」

「確実にとは申し上げられませんが、多分長老たちでも、私が存じ上げている以上の事は、ほとんど知らないと思います。」

「それでは、まず知識のすり合わせから行いましょう。」

「そうですね。」

 まずは、優喜が夜天の王の代理人であることを相手に納得させなければならない。そのためにまずは、共有しておくべき知識を共有しなければ、話が進まない。夜天の書の成り立ちと闇の書への変貌の経緯、そして闇の書の現状について、手元になければ分からない事も含めて話しておく。

「……なるほど。我々の認識とは、ずいぶん違うものですね。」

「聖王教会においての、公的な認識というのは?」

「闇の書は、失われた夜天の書の粗悪なデッドコピー品、そう考えていました。」

「なるほど。確かにヴォルケンリッター自身が夜天の書を闇の書と呼んでいるようでは、両者を同一の物と見るのは難しいでしょうね。」

 優喜の言葉に、一つ頷くカリム。

「これまでの話で、夜天の書が危機的状況にある事は理解しました。それで、あなたが我々聖王教会に要求するのは、一体どのような事ですか?」

「いくつかありますが、ゆずる事が出来ない要求は一つ。闇の書の暴走を確実に阻止できるようになってからか、もしくは重要な部分を写し取った上での完全破壊、そのどちらかが完了するまで、ありとあらゆる勢力から書の主を保護していただきたい。」

「聖王教会の立場上、その申し出を拒否することはできませんが、容易に出来る事ではありませんね。」

「ええ、もちろんです。ですが、その分あなた方が得ることができるメリットも大きいと考えております。」

 メリット、という言葉に少しだけ空気が変わる。今までは、言ってしまえば犯罪者を無条件で匿え、という話に過ぎなかった。それでもモノがモノで、しかもヴォルケンリッターがすでに出現しているとなると、聖王教会の立場上、決して断ることは出来ない事柄だ。別に、それはそれで利用法はあるのだが、あとあとの事を考えると、いろんなところにしこりが残る事は避けられまい。

 だが、十分かどうかはともかくとしても、見返りがあるなら話は別だ。単に保護をして恩を売った、というだけでも十分かもしれないが、メリットがあるのであれば、それを盾に上を説得し、周りを鼓舞するのもやりやすい。

「メリット、とは?」

「まず、夜天の王とヴォルケンリッターに大きな恩を売る事が出来る。次に、必然的に修繕事業にかかわるため、夜天の書そのものの技術的なフィードバックが得られる。さらに、夜天の書が収集した古代ベルカの遺失魔法についても、もう一度一般的な魔法にする事が出来るかもしれない。」

「……。」

「それに、現在管理局内部の一部有志のみで進んでいる修繕事業にいち早く組織全体で関われば、管理局に対していろいろなアドバンテージを得る事が出来ると考えています。」

「そうですね。最後はこちらの立ち回り次第、という面が大きいですが、確かにどれも魅力的な提案です。」

 そう、実に魅力的な提案だ。このまま管理局主導で進めてしまった場合、古代ベルカの王だというのに、聖王教会は夜天の王に対して、何一つ主張できなくなる可能性もある。

「メリットについては分かりました。ですが、申し訳ありませんが、それだけでは要求を受け入れるのは難しいです。」

「手土産が足りませんか?」

「いえ。足りないのはメリットではなく、成功についての保障です。よろしければ、現在の進捗と成功するか否かの見通しについて、可能な限り詳細に教えていただけませんか?」

「分かりました。」

 現状を包み隠さず答える優喜。優喜の説明を聞いて、一つため息をつくカリム。

「仕方がないこととはいえ、正直もっと早く話を持ってきていただきたかったですね。」

「申し訳ありません。こちらも、クロノ執務官と面識を得たのがつい最近のことでして、いろいろと慎重に判断せざるを得なかったのです。」

「その事については理解しています。ただの愚痴と受け取ってくださいな。」

「本当に申し訳ない。」

 やけに馬鹿正直にメリットを提示てくるわけだ、と内心でもう一度ため息をつく。ありとあらゆる勢力、と言うが、実際のところ優喜が牽制してほしいのは、主体となる予定の管理局なのだ。非常に面倒な仕事だが、やらねばならない理由こそあれ、断る理由は無いのが厄介だ。

 正直なところを言えば、もっと条件を吹っかけたいところだが、今更それを言い出すのは信義にかかわる。聖王教会自身は営利団体ではない。本来の設立目的に絡む案件で、これ以上吹っかけるのもおかしな話だし、第一うまく立ち回れば、管理局に対して今まで以上に影響力を持てるのだ。足りない利益は、そっちで得られるように動けばいい。

「そうですね。協力を了承したあかしとして、当方から一人、古代ベルカ式のデバイスに詳しい技術者を、非稼働品のデバイス数点と一緒にすぐに派遣しましょう。」

「ありがとうございます。」

「ただ、申し訳ないのですが、デバイスの方はともかく、技師の派遣は今日すぐに、とはさすがにいきません。いくつかの部署に話を通した上で、当人に準備をさせる必要がありますから。」

「承知しています。当方でも受け入れ準備ができているわけではありませんので、すぐに来ていただくのも少々難しいと思われます。」

 実際のところ、時の庭園での受け入れ、それ自体は特に問題ない。問題になるのは、派遣されてくる技師を、どういう扱いにするのかである。さすがに、いきなり最初の交渉で、相手方から人員の派遣を申し出てくるとは思っていなかったので、その辺のすり合わせがグループ内で完全には出来ていないのだ。

「そうですか。では、とりあえず、今すぐに持ち出せるデバイスを一点、準備させます。シャッハ。」

「はっ!」

 カリムの指示を受け退室するシャッハ。とりあえず、今日の目的はこれで終わりだ。後は、近いうちにヴォルケンリッターを説得してはやてを聖王教会に一時避難させ、グレアム一派を口説き落とせば、交渉周りはそこでほぼ完了である。

 だが、残っているのが頭の固いヴォルケンリッターと、復讐に目がくらんだグレアム一派。スムーズに進むとは思えない。

「さて、少し遅くなってしまいましたが、昼食にしましょう。今の夜天の王がどのような方か、食事の席でいろいろと教えていただけますか?」

「喜んで。」

 こうして、優喜はどうにか無事に聖王教会の協力を取り付けることに成功したのであった。







「ねえ、はやて。」

「ん? どうしたん?」

「ちょっと、ヴォルケンリッターを借りたいんだけど、いいかな?」

「私は特に問題あれへんから、あの子らがええって言うたら好きに連れて行って。」

 はやての誕生日から一週間後。前倒しになったなのは達の嘱託試験の二日前。例によって軟気功ではやての体と闇の書を矯正しながら、ちょっと早いかな、と思いつつ切りだす。

「せやけど、いつも思うんやけど、何でわざわざ外で話すん?」

「まあ、いろいろ理由がありまして。……ん~、そうだなあ。はやても来る?」

「一緒に行ってええんやったらついていきたいんやけど、大丈夫なん?」

「まあ、そろそろはやてにも話しておいた方がいいかも、と思わなくもないんだ。ただ、ヴォルケンリッターについては、出てきてからまだ一週間だし、ちょっと早いかもしれないんだけど……。」

「……なにがまだ早いんだ?」

 部屋の外で壁に背中を預け、それとなく優喜を警戒していたヴィータが口をはさむ。

「さすがに、一週間じゃこっちの暮らしに馴染んでないだろうし、はやてとアリサ以外は、まだ貴方達に信用されてる気がしないし、そういう意味でちょっと早いかもなあ、とは思うんだけど……。」

「……お前がただの小僧だったら、信用してもいーんだけどな。」

「うん。その意見は実に正しい。僕だって、一緒に暮らしているわけでもない同じような生き物を、たった一週間で信用しろって言っても無理だしね。」

「……自分で言うのかよ……。」

 ヴィータの言い分に苦笑を返し、とりあえずはやての治療を切り上げる。

「それと、先に言っておくけどな。」

「何?」

「別におめーらを信用してないわけじゃねえぞ。少なくとも、おめーらが悪い奴らじゃねーのは理解してるつもりだ。」

「ん。ありがとう。」

 ヴィータの言葉に小さく微笑んで礼を言う。

「それで、ここじゃ言えねー話って何なんだよ。」

「ちょっと待ってよ。話すなら一度で全部済ませよう、ね。」

「ちっ。分かったよ。シグナム達よんでくる。」

「お願い。すぐにリビングに行くから。」

 返事代わりに手を振ってヴィータが出ていったのを確認した後、はやての体を抱き起して車いすに乗せる。はやてに闇の書を渡し、車椅子を押してリビングへ移動する。

「……それで、話とはなんだ?」

「まあ、ここじゃなんだから、ちょっと付き合って。」

「付き合うのはいいけど、どこに行くの?」

「まずは手土産の調達に、翠屋まで。そこで、案内してくれる人を呼ぶつもりだから。」

 そう言って、プレシア特製の、通信機能に特化した小型端末をぶら下げて見せる。

(物々しい話だな。一体何を警戒している?)

(いろいろと、ね。)

 ぶっちゃけ、盗聴を含めた監視に気が付いている事は向こうにもばれているのだから、別段八神家で話をしてもかまわないのだが、最近はグレアム陣営以外の物々しい気配を感じる。どこにどんな耳があるのか分からない以上、素直に情報漏洩対策として、安全性の高い時の庭園を使うに越したことは無いだろう。

「なあ。」

「なに?」

「今のおめーの姿見てるとさ、この国が見た目ほど安全なのか、すげー疑問なんだけど。」

 出かける準備をしながらのヴィータの言葉に苦笑しながら、返す言葉を考える。

(あのさ。)

(なんだよ?)

(僕が、この世界で普通に起こるトラブルごときで、ここまでいろいろ警戒して動くと思う?)

 念話で伝えられた優喜の言葉に、思わず沈黙してしまうヴォルケンリッター。実際に戦った事は無いが、優喜は下手をすると、自分たちより強い。その優喜がここまで過剰に警戒するのだから、むしろ自分たちの側のトラブルに、主が巻き込まれているのだろう。

「最低限の危機管理、というやつがどれほど難しいか、改めて考えさせられる話だな。」

「何が?」

「この国では、お前や私たちは、単なる個人の危機管理のための戦力としては、明らかに過剰だ。一週間あればそれぐらいは分かる。月村の言葉ではないが、社会全体でここまで治安維持に成功していれば、個人として我々のような存在や組織だった犯罪者に対して身を守れるように備える、などというのは、著しくコストパフォーマンスに欠ける。」

「だけど現実に、魔導師がほとんどいないはずのこの世界で、魔導師で無いと解決できない事件が何週間か前まで続いていたみたいだし、絶対に不要か? って言われるとそうでもないのが問題なのよね。」

 結局は、確率の問題なのだ。大規模なテロや他国からの宣戦布告なしでの攻撃、魔導師による無差別破壊など、それほど大きな確率では無くても、ゼロでは無い危機などいくらでもある。そのうちどのあたりまでを国家に任せ、どのあたりから自衛するのか、また、どれくらいの確率で起こる事件まで見こんでどう準備するのか、結局そこら辺をコストや実現性で線引きするしかないのだ。

「……因果な話だな。俺たちが見たことも無いほど平和で安全な国に生まれたというのに、主に選ばれてしまったがゆえに、無視できる確率のトラブルに巻き込まれてしまうとは。」

「まあ、ぶっちゃけ四月に僕やなのはと友達になった時点で、前の事件に巻き込まれるのはほぼ確定してたんだけど。」

 ザフィーラの嘆息に、やや申し訳なさそうに優喜が口をはさむ。

「優喜君、結局、それは遅いか早いかの違いだけやん。あの事件も穏便に、誰も泣かんで済む終わり方したんやし、私が危ない目にあったわけでもないし、細かい事は気にしなや。」

「ん、そうだね。もう終った事だしね。」

「そうそう、終わったことや。」

 優喜とはやての会話に、疎外感を感じざるを得ないヴォルケンリッター。

「主はやて。差し出がましいようですが、我らが顕現するまでに、一体何があったのかを教えていただいてよろしいですか?」

「ええよ、って言いたいところなんやけど、フェイトちゃんとかすずかちゃんの重大なプライバシーにかかわる部分があるから、私の一存ではどうにも、な。」

「やはり、話してはいただけませんか。」

「ごめんな。みんなの事を信用してへん訳やないんやけど、どんなに信用してる相手に対してでも、人として勝手に話されへん事ってあるんよ。ほんまにごめんな。」

「いえ、主はやてがお気になさる事ではありません。」

 フェイトとすずかのプライバシーにかかわる問題が起こった、というところが実に気になるが、そういう話を本人がいない場所で勝手に聞かない程度には、彼女達も礼儀や常識をわきまえている。結局、その話はそこで終わり、翠屋につくまでの話題はシグナム達の戦争ボケ体験の暴露大会となってしまうのであった。







「お疲れ様です、優喜君。」

「お疲れ様、リニスさん。いつも手間かけてごめんね。」

「いえいえ。こういうのも楽しいので、気にしないでください。」

「楽しんでくれてるならいいけど、さすがにそろそろ、自力での転移手段も調達した方がいいかなあ。」

「そういう話は、プレシアに相談してください。多分、喜々としていろいろ用意してくれると思いますよ。」

 リニスの言葉に、微妙に嫌そうな顔をする優喜。プレシア・テスタロッサはマッドだ。昔はそうでもなかったようだが、一度狂気の世界に足を突っ込んでからは、発想がマッドな方、マッドな方へと流れる傾向がある。用意された通信機も、従来のもと比べると、斜め上の方向で強化されている。何より、たかが通信機にランクA+の自爆装置を組み込むあたり、もはや引き返せない領域でマッドになっていると言えるだろう。

「それで、そちらが?」

「うん。はやての忠実なる部下・ヴォルケンリッター。女性は身長順に、シグナム、シャマル、ヴィータ。男性はザフィーラ、守護獣だそうな。みんな、この人は使い魔のリニスさん。これから貴方達に持ちかける話の中心人物の一人。最近いろいろ悪い楽しみを覚えたって、主のプレシアさんが愚痴ってる人。」

「はじめまして。最近優喜君のせいで、悪巧みと暗躍の楽しさを覚えてしまったリニスです。」

「あ、ああ。ヴォルケンリッターの将、剣の騎士・シグナムだ。」

 にこやかに物騒な事を言うリニスに一抹の不安を覚えながら、とりあえず礼儀にしたがって自己紹介を返すシグナム。

「鉄槌の騎士・ヴィータだ。」

「湖の騎士・シャマルです。」

「盾の守護獣・ザフィーラだ。」

 シグナム同様、こいつ大丈夫なのか? という不安を覚えつつ、さすがに友好的な態度の相手に喧嘩を売るわけにもいかず、大人しく自己紹介を済ませる他の三人。

「さて、立ち話もなんですし、目立たないところまで移動しましょうか。」

「あ、ああ。」

「シャマルさんは転移魔法、使えますよね?」

「え、ええ。」

(では、座標を教えますので、適当にダミー転移を十回程度はさんで合流してください。)

(わ、分かりました。)

 にこやかに、やけに物々しい事をさらっと言い出すリニスに、いろいろ不安を隠せないシャマル。どうも、自分たちは知らぬ間に、それだけのことをしなければいけない事情に巻き込まれているらしい。

 いや、主が平然と構えているという事は、知らないのは自分たちヴォルケンリッターだけのようだ。この手際の良さを考えるに、昨日今日始まった状況でもなさそうなので、多分自分たちが顕現するよりずっと以前から続いているのだろう。

「それでは、行きますよ。」

「あ、ああ。」

「私、転移魔法で地球の外に出るんは初めてやから、かなりわくわくするわ。」

 何か、明らかに過剰な期待を持って、わくわくしながらリニスを見るはやて。そのはやてに苦笑しつつ、溜めも勿体つけも一切行わずにさっくり転移を開始するリニス。

「おおう、これが転移魔法か。」

「はい。ようこそ、時の庭園へ。」

「おじゃまします。」

 なんとなく気の抜ける会話をはやてとリニスが交わしている間に、少し遅れてヴォルケンリッターが到着する。

「ようこそ、悪巧みと暗躍の舞台・時の庭園へ。」

「リニスさん。いくら事実でも、初対面の相手にそういう趣味の悪い事を言わないの。」

「はい。そろそろ自重します。」

 前に会ったときより更にはっちゃけた感じのリニスを見て、いったい彼女に何があったのかと微妙な目線を向けながら考えるはやて。ついに全員駄目なほうに落ちたかと、達観した感じで見守る優喜。このノリについていけないヴォルケンリッターは、付いてきたことを、一瞬本気で後悔していた。

「とりあえず、ここは監視も盗聴も心配要りませんので、疑問点とか全部ぶっちゃけちゃっていいですよ。」

「だが、代わりに貴様らに記録されるのだろう?」

「何か問題でも?」

「……本気で趣味の悪いことを堂々と言う女だな……。」

「伊達に悪巧みと暗躍の舞台の管理をしていない、ということです。」

 リニスの言葉に苦笑しながら、とりあえず疑問をひとつ解決することにする。

「聞いておきたいんだけど、ここ、僕達以外にも使った人がいる?」

「ええ、何組か。誰がどういう話し合いで使ったのかについては、本題が終わった後に資料をお渡ししますね。」

「ん、お願い。」

 どうやら、現在の状況について、優喜も完全に把握し切れているわけではないらしい。何しろ、手が足りないからと、水面下で結構な人数が動いている。しかも、先日正式に聖王教会が協力を申し出たので、更に規模が大きくなった。当然ながら、重要事項はともかく、瑣末な話し合いや毎日の進捗状況などは、それぞれの役割のトップが個別に把握しているだけである。本来なら、そろそろ進捗の共有のため、トップレベルでの会合が必要になっている状況だ。

「それじゃあ、お茶を用意してきますので、こちらにお願いします。」

 立ち話もなんだし、という事でリニスにしたがい、用意された部屋で表面上くつろぐ一同。リニスがお茶を持ってくるまでの間、つかの間の休憩を取る一同であった。







「今日わざわざここに来てもらったのは、いくつか確認したい事があったからなんだ。」

 リニスが用意したお茶を、毒が入っていないことを証明するように一口すすり、話を切り出す。なお、リニスは解析作業のために席をはずしている。

「確認したい事……?」

「うん。貴方達の今後にもかかわる、本当に大事な話。」

「……どうせ、無関係のものに聞かれては困る類の話なのだろう?」

「もちろん。でなきゃ、監視と盗聴を気にして、わざわざこんなところに連れてきたりしないよ。」

 監視と盗聴、という言葉に顔が引き締まる一同。

「今更の話だが、我々が住んでいる家は、監視されているのか?」

「うん。ぶっちゃけ、貴方達が出てくる前から、ずっと監視されてるよ。」

「そうなん? いつごろから?」

「少なくとも、僕とはやてが初めて会った時には、もう監視されてたよ。たぶん、はやての家に闇の書が来たころからじゃないかな?」

 監視に全く気がつかなかったヴォルケンリッターが、物騒な表情を浮かべながら、優喜に対してうめくように言葉を絞り出す。

「本当に、監視されてるのか?」

「探知範囲内にそういう反応は無かったけど、事実だとしたら一筋縄ではいかない相手ね。」

「監視されてるんだとしたら、やっぱり安全な国ってわけじゃねーじゃんか。」

「だが、俺の鼻が聞く範囲には、そういう気配はなかったぞ。」

 ヴォルケンリッターの反応から、どうやら彼らも一般の魔導師と同じで、気配や殺気に対する感知能力は普通程度らしい。また、グレアム陣営が仕掛けた隠密型の監視用サーチャーは、シャマルの能力でも捕捉出来ないレベルのようだ。もっとも、プレシアに言わせれば、あると分かっていれば簡単に見つけられる程度だそうだが。

 とはいえ、元々正面切っての戦闘がメインで、少々攻撃が当たったところでびくともしないヴォルケンリッターと、視力をおぎなうために感覚器を磨き抜いた優喜や、不意を撃たれれば即命がない世界で戦闘している御神流とでは、必要な気配感知の精度や範囲が大幅に違うのは仕方がない点であろう。

「まあ、とりあえず、一つ目の質問の答えは分かったよ。」

「監視に気が付いているかどうかを聞きたかったのか?」

「うん。まあ、これに関しては割と、どっちでもいいと言えばいいんだ。知ってたらそれでよし、知らなくても今話せば終わり、ってことだし。」

「ならば、他の質問とやらを言え。」

 物騒な表情になっているシグナムに、苦笑を返す優喜。一週間かけて、自分たちの暮らしている国が異常なぐらい治安が良く安全な国だという事を、認識した矢先の話だ。いきなり騙されて梯子を外されたように感じても、無理もない話だろう。

「じゃあ、二つ目。貴方達は、闇の書が改変されて、現在進行形でおかしくなっていってる事を知ってる?」

「もちろんだ。我々自身の事だからな。」

「じゃあ、はやての足の麻痺が、その改変にかかわっている事は?」

「……どう言う事だ?」

 やはり、これもちゃんとは知らなかったようだ。言ってしまえば、病気についての知識のようなものか。自身がなにがしかの病気である、という自覚症状はあっても、それがどういう病気でどの程度進行しているか、当事者には案外分からない物だ。

「この場で調べればすぐに分かる事だけど、闇の書が、はやてのリンカーコアを侵食している。足の麻痺は、浸食されて足りなくなったエネルギーの帳尻を合わせた結果だ。」

「……シャマル?」

「分かったわ。調べてみる。」

 シグナムに促されて、はやてと闇の書のリンクをチェックするシャマル。その顔がどんどん険しくなって行き、最終的に蒼白、と呼んでもいい状態になる。

「……残念ながら、優喜君の言う通りのようね。」

「で、その事にかかわる話だけど、夜天の書って言う名前に聞き覚えは?」

「……ないな。かすかに記憶に引っかかる物はあるが、少なくともはっきりとは知らん。」

「じゃあ、もう一つ。前回の覚醒が何時で、その結果がどうだったか、覚えてる?」

 優喜の質問に対して、はっきりと顔色が変わる。最後、どころか過程すら思い出せないのだ。

「……優喜。貴様は何を知っている!?」

「ちょっと待って。後で全部話すから。次がこの件に絡む最後の質問。管理人格の名前は?」

「……なぜだ。何故思い出せん!!」

「やっぱり。どうにもなかなか重症みたいだね。」

 ヴォルケンリッターの蒼白になった顔を見て、心の底から重いため息をつく。そこに、はやてが不思議そうな顔で質問する。

「なあ、優喜君。」

「ん?」

「管理人格って、なに?」

「えっとね。夜天の書にはもう一人、人格プログラムがいるんだ。名前の通り、書のシステム全体を管理する、主を除けば最上位の存在で、同時に書の主やヴォルケンリッターの強化ユニット・ユニゾンデバイス、ベルカだと融合騎って言うんだったかな? でもある存在。

 ヴォルケンリッターみたいに実体化することもできるんだけど、今ここにいないってことは、どうやら実体化にヴォルケンリッターとは別の条件があるみたい。ユニゾンデバイスについては説明を省くから、名前で予想して。僕が知ってるのはこんなところだけど、だいたいはこれであってるよね?」

「あ、ああ。」

 優喜の説明はほぼ正確だ。この時点で、相手は自分達の事をほぼ知りつくしていると判断していいだろう。

「で、貴方達の名前はちゃんと調べて分かってたんだけど、どうにもこの管理人格は奥ゆかしい人らしくてね。名前が出てくる資料がないんだ。まさか、名無しってことはないよね?」

「ああ。ちゃんとした名があった。だが、どうしても思い出せない……。」

「一体どうなっちまってんだよ……。」

「それについて、これから説明するよ。ただ、貴方達にとってはショックな話だから、それなりに覚悟はしておいてよ。はやても、ね。」

 真剣な顔の優喜に、うろたえる心を無理やり押さえつけ、顔を引き締めて一つ頷くヴォルケンリッター。その様子を見て、分かっている限りの夜天の書の現状を説明する優喜。

「……今更聞くことではないが、事実か……?」

「嘘をついて、僕に何のメリットがあるの?」

「……だが、到底信じられん。」

「少なくとも、おかしくなっていってる自覚はあるんでしょ?」

 優喜の問いかけに、苦虫をかみつぶしたような顔で頷くシグナム。

「それで、だ。仮に貴様の話が事実だとして、直すあてはあるのか?」

「さっきのリニスさんが、先々週ぐらいに書のシステムの断片をコピーして解析してる。彼女に言わせると、解析そのものは同時代の古代ベルカデバイス言語があれば、暗号解読で一日、本体解析でもう一日ぐらいだって言ってたよ。」

「信じられない能力ね……。」

「でしょ? 伊達にマッドサイエンティストの使い魔はやってないみたい。それに、他にも色々とやれることはやってるから、後は時間との勝負。」

 優喜の言葉に、ため息をつく。その時間との勝負という状況で、わざわざ一週間も話を持ちかけるのを待ったのは、間違いなく自分達に対する配慮であろう。

「そこについては分かった。もう一つ聞いておきたいのだが、監視している人間については分かっているのか?」

「うん。時空管理局本局提督、ギル・グレアム。はやての後見人のギル小父さんだ。」

「えっ……!?」

「貴方達は管理局にばれないように事を運ぶつもりだったみたいだけど、残念ながら、最初から管理局の一部には筒抜けだったんだ。」

 優喜の言葉に、どこか他人事だったはやてが、顔を青ざめさせ優喜を見る。

「なあ、優喜君。ほんまなん?」

「残念ながら、ね。」

「何で? 何でギルおじさんが?」

「十一年前の闇の書の暴走事件、その時の担当が彼だったんだ。で、その時に、暴走した闇の書と一緒に、腹心ともいえる部下をその手で消滅させている。」

 優喜の言葉に、息を呑む一同。

「それで、リンディさんとクロノって言う、今度シグナムたちに会ってもらう予定の管理局の人がいるんだけど、そのリンディさんの夫でクロノの父親がね、闇の書と一緒に消えた人なんだ。」

「……ちょっと待て。」

「言いたいことはわかってるよ。ちゃんと、そこらへんも何度も確認してある。それとも、本当にそんな事件があったのかが信用できない、って言うんだったら、映像資料が手元にある。」

「……いや、今更そこは疑わないが、その人は本当に信用できるのか?」

「少なくとも、嘘は言ってない。ただ、あなた達と直接対面したときまでは保障できない。」

 優喜の言葉に、手元のティーカップを睨みながら、言葉をかみ締めるシグナム。

「……なあ、優喜君。」

「何?」

「ギルおじさん、私のことも憎いんかなあ……?」

「……なんとも言えないよ。僕が直接会った相手は、彼の使い魔だしね。」

 重苦しい沈黙が場を覆う。優喜がはやてに秘密で話を進めるわけだ。さすがにこの内容を、盗聴されてる場所で堂々と話すわけには行かないだろう。

「……優喜君。」

「ん?」

「ギルおじさんと直接話すことって、出来へんのかなあ……。」

「もう少し待って。今、そのためにがんばってるから。」

「……うん。」

 更に沈黙。しばしの沈黙を破って、優喜が口を開く。

「それで、言いづらいんだけど……。」

「言わずとも分かっている。」

 優喜の言葉をさえぎり、重々しく言葉をつむぐシグナム。

「正直、信じられん話ばかりだ。いや、信じたくない、というのが正しいか。」

 深い深いため息をひとつ漏らすと、シャマルがシグナムの言葉を継ぐ。

「でもね、少なくとも、このままだとはやてちゃんの体が持たないことと、蒐集が問題の解決になるかが疑わしいことは分かったわ。」

 シャマルの言葉が終わるのを待ち、ザフィーラが静かに己の意見を告げる。

「我らは騎士だ。我らが将の判断に従おう。」

 最後に、ヴィータが優喜を睨みつけ、己の言葉をほえる。

「だがな、たとえ手を組むしても、だ。お前がアタシ達を、いや、はやてを裏切ったら、絶対ゆるさねえ! 地獄の底からでも蘇って、オメーをぶっ飛ばす!!」

 ヴィータの言葉に、目を鋭く細め、相棒たるデバイス・レヴァンティンを起動し、切っ先を優喜に突きつけるシグナム。

「シ、シグナム!?」

 はやての言葉を無視し、優喜に突きつけた切っ先で、首筋を軽くなぞる。うっすらと一筋、赤い線が首に浮かぶが、優喜は微動だにせずシグナムを見つめ続ける。

「この場は貴様を、主はやてが心を許し、アリサ・バニングスが認め、月村すずかが慕う貴様を信じ、その言葉に従おう。」

 レヴァンティンをおろし、睨みつける眼光もそのまま鋭く吐き捨てる。

「だが、我らを裏切ったとき、この切っ先が貴様の首を切り落とすと知れ!」

「言われるまでもない。仮に管理局があなた達を裏切ったなら、生き物であることを捨ててでも連中相手に落とし前をつけるさ。」

 シグナムの言葉に、愛らしい顔に似合わぬ不敵な笑みを浮かべ、物騒なことを言い切る優喜。その覇気に、シグナムは満足そうに相棒を鞘に収める。

「貴様に従い、管理局と手を組もう。」

 烈火の将・シグナムが、ヴォルケンリッターの方針を決定する。長きに渡る闇の書と管理局の対立、それがこの時、ようやく歩み寄りを始めたのであった。


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