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No.18616の一覧
[0] (完結)竜岡優喜と魔法の石(オリ主最強 再構成 エピローグ追加)[埴輪](2012/04/21 21:14)
[1] ジュエルシード編 第1話[埴輪](2011/05/08 09:49)
[2] 第2話[埴輪](2010/10/31 11:50)
[3] 第3話[埴輪](2010/05/16 20:08)
[4] 第4話[埴輪](2010/10/31 11:53)
[5] 第5話[埴輪](2010/11/01 21:26)
[6] 閑話:元の世界にて1[埴輪](2010/06/06 22:47)
[7] 第6話 前編[埴輪](2010/11/01 21:30)
[8] 第6話 後編[埴輪](2010/07/10 22:34)
[9] 第7話[埴輪](2010/06/26 22:38)
[10] 第8話[埴輪](2010/07/03 22:20)
[11] 第9話[埴輪](2010/07/11 23:45)
[12] 閑話:元の世界にて2[埴輪](2011/06/25 09:05)
[13] 第10話[埴輪](2010/07/24 21:02)
[14] 第11話[埴輪](2010/08/14 14:15)
[15] 第12話[埴輪](2010/08/07 17:09)
[16] 第13話[埴輪](2010/10/06 22:44)
[17] ジュエルシード編 エピローグ[埴輪](2010/08/21 19:05)
[18] ジュエルシード編 後書き[埴輪](2010/08/21 19:06)
[19] 闇の書編 第1話[埴輪](2010/08/28 21:12)
[20] 第2話[埴輪](2010/09/04 18:23)
[21] 第3話[埴輪](2010/09/11 18:29)
[22] 閑話:フェイトちゃんのお買い物[埴輪](2010/09/18 17:28)
[23] 第4話[埴輪](2010/10/31 11:42)
[24] 第5話[埴輪](2010/10/06 22:17)
[25] 第6話[埴輪](2010/10/09 11:11)
[26] 第7話 前編[埴輪](2010/10/16 18:21)
[27] 第7話 後編[埴輪](2010/10/23 15:32)
[28] 閑話:ヴォルケンズの一週間[埴輪](2010/11/01 21:23)
[29] 閑話:なのはとフェイトの嘱託試験[埴輪](2010/11/06 19:00)
[30] 第8話 前編[埴輪](2010/11/13 18:33)
[31] 第8話 後編[埴輪](2010/11/22 21:09)
[32] 第9話[埴輪](2010/11/27 11:05)
[33] 閑話:元の世界にて3[埴輪](2010/12/04 17:29)
[34] 第10話[埴輪](2010/12/11 18:22)
[35] 第11話[埴輪](2010/12/18 17:28)
[36] 第12話[埴輪](2011/01/08 13:36)
[37] 闇の書編 エピローグ[埴輪](2011/01/09 08:08)
[38] 闇の書編 あとがき[埴輪](2010/12/31 22:08)
[39] 空白期 第1話[埴輪](2011/01/08 14:39)
[40] 第2話[埴輪](2011/01/15 11:39)
[41] 閑話:高町家の海水浴[埴輪](2011/01/22 09:18)
[42] 第3話[埴輪](2011/01/29 19:16)
[43] 第3話裏[埴輪](2011/02/06 08:55)
[44] 閑話:高町家の歳時記[埴輪](2011/02/19 17:56)
[45] 閑話:聖祥学園初等部の林間学校[埴輪](2011/06/25 09:06)
[46] 第4話[埴輪](2011/02/26 09:18)
[47] 第5話[埴輪](2011/03/05 19:26)
[48] 第6話[埴輪](2011/03/19 18:33)
[49] 第7話[埴輪](2011/06/11 17:58)
[50] 第7話後日談[埴輪](2011/04/03 10:25)
[51] 閑話:竜岡優喜の鉄腕繁盛記[埴輪](2011/04/09 19:07)
[52] 第8話[埴輪](2011/04/16 17:57)
[53] 閑話:時空管理局広報部の新人魔導師[埴輪](2011/04/23 11:07)
[54] 閑話:竜岡優喜の憂鬱[埴輪](2011/04/30 18:34)
[55] 閑話:ある日ある場所での風景[埴輪](2011/05/07 17:31)
[56] 第9話[埴輪](2011/05/14 17:40)
[57] 第10話 前編[埴輪](2011/05/21 17:58)
[58] 第10話 後編[埴輪](2011/05/28 21:07)
[59] 閑話:高町家の家族旅行[埴輪](2011/06/05 21:02)
[60] 閑話:元の世界にて4[埴輪](2011/06/11 18:02)
[61] 第11話[埴輪](2011/06/18 17:33)
[62] 第12話[埴輪](2011/06/25 09:05)
[63] 第13話 前編[埴輪](2011/07/02 21:22)
[64] 第13話 中編[埴輪](2011/07/09 20:51)
[65] 第13話 後編(R-15)[埴輪](2011/07/16 11:51)
[66] エピローグ あるいはプロローグ[埴輪](2011/07/23 11:03)
[67] 空白期後書き[埴輪](2011/07/23 11:22)
[68] ゆりかご編 第1話[埴輪](2011/07/30 19:10)
[69] 第2話[埴輪](2011/10/01 18:39)
[70] 第3話[埴輪](2011/08/20 18:23)
[71] 第4話[埴輪](2011/08/27 18:40)
[72] 第5話[埴輪](2011/09/03 18:13)
[73] 第6話[埴輪](2011/09/24 19:13)
[74] 第7話[埴輪](2011/09/26 19:49)
[75] 第8話[埴輪](2011/10/01 18:39)
[76] 第9話[埴輪](2011/10/08 18:22)
[77] 第10話 前編[埴輪](2011/10/15 20:58)
[78] 第10話 後編[埴輪](2011/10/22 19:18)
[79] 第11話 前編[埴輪](2011/11/05 19:03)
[80] 第11話 後編[埴輪](2011/12/03 19:54)
[81] 閑話:ある日ある場所での風景2[埴輪](2011/11/26 21:00)
[82] 第12話[埴輪](2011/12/03 19:54)
[83] 第13話 前編[埴輪](2011/12/10 20:17)
[84] 第13話 後編[埴輪](2011/12/17 19:21)
[85] 第14話 その1[埴輪](2011/12/24 20:38)
[86] 第14話 その2[埴輪](2012/01/07 20:47)
[87] 第14話 その3[埴輪](2012/01/21 19:59)
[88] 第14話 その4[埴輪](2012/01/28 21:24)
[89] 第15話 その1[埴輪](2012/02/04 19:04)
[90] 第15話 その2[埴輪](2012/02/18 20:56)
[91] 第15話 その2裏[埴輪](2012/02/25 21:31)
[92] 第15話 その3[埴輪](2012/03/03 18:43)
[93] 第15話 その4[埴輪](2012/03/17 19:40)
[94] 第15話 その5[埴輪](2012/03/24 13:56)
[95] 第15話 その5裏[埴輪](2012/04/07 21:01)
[96] 第15話 その6[埴輪](2012/04/15 23:11)
[97] エピローグ[埴輪](2012/04/21 21:14)
[98] あとがき[埴輪](2012/04/21 23:41)
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[18616] 第12話
Name: 埴輪◆eaa9c481 ID:29aabd54 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/07 17:09
「呼びつけてしまってごめんなさいね。」

 次元航行船アースラ。優喜達三人は、クロノに連れられ、艦長のリンディと名乗る女性と面会していた。自己紹介の時に、優喜が男だという事に対して恒例のやり取りはあったが、今更なので省略する。

「ここは安全だから、バリアジャケットを解除してもいいわよ。そっちの君も、元の姿に戻って大丈夫。」

 リンディに促され、とりあえずレイジングハートを待機状態に戻すなのはと、人の姿に戻るユーノ。特別に何もしていない優喜だけが、普段通りジャージ姿のままである。

「一応先に主張させていただくと、僕たちの行動が法に触れるから拘束される、って言うんだったら、さすがに受け入れらません。何しろ僕となのはは、あなた達の法を何も知らない。知らない法に触れないように、と言われても困る。それに、ジュエルシードの回収に関しては、集めたうちの半分ぐらいは暴走の現場にたまたま遭遇して、身を守るためにやったことです。」

「……今回の事は、管理局側にもいろいろ落ち度があるから、さすがにあなた達を逮捕するのは不当逮捕になるわね。」

「艦長!?」

「クロノ。法の定めとはいえ、ロストロギアが次元震を起こしかけるまで介入できなかったのは、こちら側の落ち度よ。それにそもそも管理局の法は、一部の例外を除いて、管理外世界の人間に適応する事は出来ない。まあ確かに、最初の段階で、回収予定のロストロギアが次元震を起こすほどの危険物である事を教えてくれていたら、もっと迅速に回収できたかも、とは思うけど。」

 リンディの言葉に、思わず小さくなるユーノ。それを見て、釘を刺すだけさしてから、これまでの事を不問にすることを決めるリンディ。

「ユーノ君だったかしら? あなたの行動と責任感は立派だけど、ちょっと無茶が過ぎる面もあるわ。」

「……ジュエルシードは、僕が発掘責任者で、管理局への輸送も僕が責任者だったんです。」

「それでも、あなたが全部一人でやる必要はなかったわよね?」

「……でも最初は、僕の失敗で、他人に迷惑をかけちゃいけない、って思ってたんです……。」

「その結果、現地の無力な民間人に迷惑をかけた揚句に手伝わせるようでは、本末転倒だがな。」

 クロノのきつい一言に、うなだれて唇をかみしめるユーノ。その様子に苦笑しながら、助け船を出す。

「とりあえずユーノ、一応聞きたいんだけど。」

「何?」

「最初の段階で、ジュエルシードが次元震だっけ? それを起こすほどのものだって知ってた?」

「……エネルギー容量だけなら、一つでも、もっと大規模な次元震を何回も起こしてお釣りがくるぐらいだ、って言うのは分かってた。いくつかの文献にも、そういう記述があったし。でも、実際にそれほどの出力があるとまでは思ってなかったんだ。」

「それは、君だけの判断?」

「……一緒に発掘しに行った他の学者も、大体同じ判断だった。計測した強度だと、あのサイズでそれだけの出力を出したら、即座に自壊するんじゃないか、って理由でね。」

 要するに、発掘チーム全体が、そこらへんの判断については甘かったのだ。まあ、チーム全体の判断ミスは、責任者のユーノの判断ミスなので、結局ユーノのミスには違いないわけだが。

「それで、最初から管理局を頼ろうと思わなかったの?」

「それもある。輸送前にちゃんと封印処理をかけてたから、そうそう暴走する事もないはずだ、って思ってたのもある。でも、一番大きいのは、管理局は余程の確証か危険性がないと、管理外世界には干渉できない事。もし空振りだったら、そうでなくても忙しい局員の人たちに、余計な負担をかけると思ったんだ。だから……。」

「一つでも所在を確認してから、連絡を取って回収しに来てもらうつもりだった、とか?」

「うん。……結局は、通信機が使えなくて、全部自力で集めるしかない、って思ったんだけど……。」

 結局のところ、ユーノのミスは、危険性の見積もりの甘さと現地の情報収集不足という事になるだろう。判断の前提となった理由が理由だけに、ユーノでなくても、同じ状況になる可能性が高かったと言える。不運だったのは、当初はそれほどでもなかった通信障害が、狙ったかのようにユーノが地球に降りたタイミングでひどくなったことだ。

「と、言う事だから、最初の見積もりの甘さとかはともかく、そこから後ろの事情は緊急避難だったという事を、とりあえず主張させてもらいます。」

「……そうね。見積もりが甘かったのはこちらも同じだし、今回の件については、通信障害の悪化というイレギュラーもあった事だし、これ以上は不問にするしかないようね。」

「だが、君たちが無謀な行動をしていたことは事実だ。ここから先は、こちらの指示に全面的に従ってもらう。」

「全面的に、というのは約束しかねるかな。友達の身の安全とそちらの指示が食いあった場合、余程の理由がなければ友達の安全を優先するつもりだし。」

 暗に、一般人を指揮下に置こうとするな、と要求する優喜。優喜の要求に顔をしかめるクロノ。今までの会話から、この美少女顔の少年が、見た目の年齢よりははるかに頭が切れるタイプだというのは理解したが、それでも一人だけ魔導師である可能性をかけらも見せていない少年が勝手な事をするのは容認できない。

 クロノの常識では、やや練度不足とはいえ、管理局でも類をみないほどの才能と実力の片鱗を見せた隣の少女と違い、完全に一般人であるらしいこの少年は保護対象だ。どれほど頭が切れようと、魔導師がどれほどの事が出来るかを理解しているとは思えない人間が、こちらの指示を無視することもあると宣言するのは、魔導師至上主義者ではないクロノでも、あまりいい気分はしない。

 一言で言ってしまえば、素人が勝手な判断で動こうとするな、というのがクロノの主張である。本来なら、実に理にかなった主張だし、おかしいのは優喜の言い分なのは間違いない。ただ、ジュエルシードの回収に携わった関係者がどちらを支持するかとなると、残念ながら優喜になるだろう。なにしろ、彼をただの素人の一般人と判断している時点で、クロノは相手の実力を見抜けていない、と判断出来てしまうのだから。

「……あの、クロノ君。」

「何か?」

「優喜君を普通の子供だと思ってるかもしれないけど、優喜君は私より強いよ?」

 なのはの言葉に、目が点になるリンディとクロノ。クロノが介入する直前の封印シーン。その時のなのはの出力は、下手をするとリンディとクロノを除くアースラの武装局員全部の合計と勝負できかねないものだった。技量の問題があるにしても、それより強いとは考えにくい。

「それって、魔法を使わないで?」

「普通にレイジングハートを起動して、結界を張ってもらって全力で空中戦をしても勝てません。」

「……もしかして、魔導師資質を持っているのか?」

『少なくとも、Fランクに届くほどの資質はありません。』

 納得できる理由をどうにかひねり出したクロノを、待機状態のレイジングハートが口をはさんでたたきつぶす。

「ちょっと待て! 百歩譲って生身の人間が魔導師を制圧する、というのはまだいい。状況次第では不可能じゃない。だが、魔導師資質も無しに空を飛ぶだと!? あり得ない!」

「あり得ないって言われてもねえ。まあ、飛んで見せれば納得するんだったら、飛んで見せるけど。」

 錯乱気味に怒鳴るクロノにあきれたような視線を向けながら、面倒くさそうに天井すれすれまで浮かんで見せる優喜。資質が足りなくて空戦魔導師になれなかった連中に謝れ、と言いたくなる光景だ。

「……魔力反応なしか。全く、どうやって飛んでるんだ……?」

「単なる技能系統の違い。ただ、僕の技能は貴方達のものとは違って、習得にそれなり以上の時間とかなりですまないぐらいの努力、それから取っ掛かりを教えてくれる師匠が必須になるから、貴方達の世界で存在しないのはしょうがない。」

「……確かに、嘘はついていないのは分かったわ。でも残念だけど、飛んで見せただけでは、あなたが魔導師相手に勝てるほどの戦闘能力を持っていることの証明にはならないわ。」

「別に、それを証明する必要を感じないけど、した方がいいですか? 正直、友達を嘘つきにしないために浮いて見せただけなんだけど。」

 だんだん対応が大雑把になっていく優喜。どうにも、さっきまでの大物釣りの疲労と面倒な交渉ごとに加え、まだ朝食を食べていないための空腹感から、そろそろいろいろ面倒になってきたらしい。

「正直なところ、出来るのであればお願いしたいところなのだけど、駄目かしら?」

「その前に、朝ごはんがまだだから、出来ればお弁当を食べる時間と場所がほしいんですが。」

「そうね。私達も朝食はまだだし、一緒に食べましょうか。」

「ですね。ユーノ、お弁当お願い。」

「うん。」







 表面上はにこやかに微笑んでいるリンディだが、内心では頭を抱えていた。原因はひとつ。優喜の厄介な性格について、だ。先ほどの優喜の主張を、クロノは一般人を指揮下に置こうとするな、と言っているように受け取ったようだが、正確には違う。

 優喜はこう言っているのだ。自分達を指揮下に置きたいのであれば、リンディ達が指揮をする事が妥当だと判断出来るだけのものを見せてみろ、と。そして難儀な事に、なのはもユーノも、優喜とリンディの指示が食い違えば、迷う事無く優喜に従うのがはっきりしている。多分彼は、ジュエルシードの回収を通して、それだけの実績を示している。

 正直に言ってしまえば、リンディから見て、竜岡優喜はかなり異質な存在だ。それは技能がどうとか、そういうレベルの話ではない。見た目に比べて精神年齢が異常に高いだけなら、なのはやユーノも同じだが、まだ彼らは、就業年齢の低いミッドチルダでは、かなり少数派ではあっても珍しいというほどではない。居るところには居る、と言う程度だ。

 だが、優喜は違う。まず、立ち居振る舞いが違う。本局や地上本部の、前線一筋の古強者。彼らと共通する妙な隙の無さと心構え。クロノはそこまでは感じ取れてはいないようだが、それなり以上の修羅場をいくつもくぐってきたリンディには、はっきりと分かる。ゆえに、おかしいと感じる。ジャンルが違うから正確なところは分からないが、少なくとも初等教育を受けているような年の子供には、身につけられない種類の雰囲気と挙動なのは確かだ。

 だから、表面上はにこやかにご飯を食べていても、内心リンディはひどく気を張っていた。

「……宇宙戦艦の中で、アジの開きを見るとは思わなかった。ミッドチルダでも、こういう食事が普通なの?」

 リンディとクロノの朝食は、一見して普通の和食だった。メニューはご飯にアジの開きに野菜のおひたしとコンソメスープ。どうやら、味噌やしょうゆは無いらしく、アジの開きも味付けは塩コショウでやっているようだ。味噌が無いので味噌汁も当然コンソメスープで代用だ。野菜のおひたしに至っては、どんな調味料でどう味付けをしているのかも想像できない。

「まさか。この船の食堂が変わってるんだよ。どっちかって言うと、翠屋で出てくるような食事の方が普通。」

「なるほど。お茶碗のお米の匂いがちょっと違うから、違う品種なんだろうな、とは思ってたけど、やっぱりこういうお米は無いのかな?」

「……相変わらず、鼻とか耳とかは人間をやめてるよね、優喜。」

 などと、何とも言い難い会話をする優喜とユーノ。何気なく聞いていたリンディだが、米の品種が違うという優喜の指摘に興味を覚え、少し話を振ってみる事にする。

「やっぱり、本場のお米とこのお米では、味が違うのかしら?」

「そっちを食べた事がないから分からないけど、多分結構違うと思います。」

 そう言って、自分の弁当のおにぎりのうち、塩だけのシンプルなものを半分に割って、リンディとクロノのアジの開きの皿の隅に乗せる。

「こういうのは食べてみた方が早いから、ね。ただ、おにぎりだから、表面には塩味がついてるから、純粋にお米の味を見るのにはあまり向いてませんけど。」

 せっかくもらったので、食べ比べて見る。優喜の指摘通り、はっきり言って別物だった。時間がたってかたくなっている米だというのに、それでも茶碗の中身に比べて、噛んだ触感がふんわりしている。味も、分かるか分からない程度の苦みがあるミッドチルダの米に比べ、日本の米はほんのり甘い。

「美味しい……。」

「やはり、中途半端な模倣では、本物にはかなわないのか……。」

「こういうお米は無いの?」

「一応あるにはあるのだけど、流通量がものすごく少ないのよ。この世界の出身者が細々と作ってはいるのだけど、ほとんどが飲食店や日本人の末裔の人たちに回って、一般にはほとんど出回っていないわ。私も機会がなくて、そのお米は食べた事がないし。」

 リンディの言葉に納得する優喜。地球でも、ジャポニカ米を栽培している地域はそれほど多いわけではなく、しかも米の貿易は自由化されていないため、日本でお米の文化に染まってしまった外国人が、母国に帰ってから米の禁断症状に苦しむ話は結構聞く。

 ましてや異世界となると、気候条件から何から何まで違うのだから、たくさん収穫するのは難しいのだろう。それでも、その手の本場のものを食べた事のある人間がはまり、じわじわと需要が増えてきているというのだから、日本の食文化というやつは侮れない。

「食べた事がないのに、日本料理が好きなんですか?」

 なのはの質問に、リンディが苦笑しながら答える。

「日本料理そのものは食べた事があるわ。和食レストランで食べた料理が、すごくおいしかったのよ。それ以来はまっちゃって、いつかは本物の日本米を食べるんだ、って野望に燃えていたの。でもね、さっきも言ったように流通量が少ないから、日本料理のお店でも、必ず日本米が食べられるわけじゃなくて……。」

「だったら、残りのジュエルシードを集め終わってから、うちに来てください。ちょっと洋風になっちゃうけど、日本の家庭料理をご馳走できると思いますから。」

「ありがとう、なのはさん。楽しみにしておくわ。」

 因みに和食に関しては、プレシアもはまってしまっている。高町家でどんなものを食べているのか、という話になった時に、桃子がプレシアにお弁当を用意して振舞ったのがきっかけだ。結局食に関しては、プレシアは桃子に完全にノックアウトされた事になる。もっとも、娘に美味しいご飯を食べさせたい一心で貪欲に学んでいるので、和食で桃子に追いつくのも時間の問題かもしれない。

「そうだ、聞いておかなければいけない事があったな。」

「ん?」

「今回の件や魔法の事、どれぐらいの範囲の人間に知られた?」

「えっと……。私の家族とお友達三人、それからお友達のお姉さんとメイドさん二人、かな?」

 結構な人数に知られている事に、思わず頭を抱えるクロノ。

「みんな口がかたいから、大丈夫だよクロノ君。」

「そういう問題じゃない……。」

「質問。知ってしまった人間は、どうするの?」

「基本的にはどうもしないが、言いふらしたり悪用したりした場合には、記憶の処理もあり得る。」

「なら、大丈夫。高町家も月村家も、こういう力で痛い目を見た人間が多いから、言いふらす事も悪用する事もない。アリサとはやてはまだ小学生だから、こんな話をしても子供の与太話で終わるし。そもそも、この話を言いふらしたら、なのは達との縁が切れる事ぐらいは皆理解してるよ。」

 優喜の言い分を信用するかどうかはともかく、少なくとも高町なのはは力を見せびらかしたり悪用したりするタイプではないのは、話していれば分かる。そして、その両親だ。こういう賢い子供を育てられる人間、それも竜岡優喜のような厄介なタイプが信用するような人間が、そんな迂闊な真似をするとは思えない。

「……分かった。信じよう。」

「おや、えらくあっさりと信じたね、執務官殿。」

「茶化さないでくれるか? 単に、高町がそういう人間じゃない事と、君が他人をシビアに評価するタイプだという事を理解しているだけだ。」

「高く評価してくれるのは光栄だけど、僕は所詮ただの小僧だよ?」

「初等教育を受けている最中のただの小僧が、こちらの不備や不測の事態を指摘したうえで、筋道を立てて自分たちの行動の正当性を主張したりはしないさ。」

 胃袋が満たされて落ち着いてきたのか、クロノの言動からはずいぶん険が取れている。やはり空腹と睡眠不足は、精神的にもよろしくない。たがいに完全に警戒を解く、とまでは行かなかったが、ある程度相手の人柄を信用するところには至ったのだった。







「はあ、やっと朝ごはんが食べられるよ。」

 管理局の組織形態や執務官の職務・地位、その他もろもろの質疑応答をしていると、ややぐったりした感じでエイミィが入ってくる。手には朝食のトレイ。話し合いの間、資料の準備だのデータ解析だのに追われていたが、ようやく作業の引き継ぎを終えて食堂に来れたのだ。

「エイミィ、ご苦労様。」

「どうだった?」

「少なくとも、今朝の件については、証言と食い違うところはなかったよ。」

「ふむ。だったら君達の友達は、なぜ逃げたんだ?」

 クロノの疑問に、苦笑を浮かべるしかない三人。何しろ、普通に考えて、あの状況で対人恐怖症が理由で逃げる、とか、普通にあり得ない。

「その前に、話の腰を折って悪いんだけど、そちらのお姉さんを紹介してほしい。少なくとも、ジュエルシードが全部そろうまでは顔を突き合わせると思うし。」

「あ、そうだね。あたしはエイミィ・リミエッタ。執務官補佐をしてるんだ。敬語とかいらないから、近所のお姉さんと話するぐらい気軽に声をかけてね。」

「了解。で、エイミィさん、僕達も一応自己紹介した方がいい?」

「大丈夫。ちゃんと誰がどういう子かって言うのは分かってるから。」

 堅苦しいクロノの補佐官とは思えない、融通と言う単語が服を着て歩いているような快活な反応。まだ少女の範囲に入る年齢からすれば、これぐらいが普通だろう。優喜やクロノが異常なのだ。もっとも、建前の上でかたい話をする程度には、現実的な少女でもあるが。

「それで、フェイトちゃん、だっけ? 綺麗な子だったけど、あの子、どうして逃げたの?」

「単純に、男に免疫がないんだ。」

「「「は?」」」

 優喜の返事に、間抜け面をさらすアースラトップスリー。普通、理解できない理由なのは痛いほど分かるので、苦笑するしかない優喜。

「フェイトは家庭の事情でね、あの年までほとんど他人とかかわる事が無かったんだ。で、ジュエルシードの回収に関わるようになって、ようやく家族以外とまともに付き合うようになったんだけど、ね。」

 優喜の言葉に、苦笑しか出ないなのはとユーノ。何しろ、フェイトの人間関係は、全てなのはと優喜の人間関係なのだ。

「フェイトが直接かかわってて、普通に話とかできる家族以外の人間って、何とか十人を超えた程度でね。その中で男って、四人しかいないんだ。」

「四人って……。」

「僕とユーノとなのはのお父さんとお兄さん。で、お兄さんは十歳ぐらい年上だし、お父さんは当然親子ほど離れてるし、僕とユーノは男に免疫をつけるっていう意味じゃ役に立たないし。」

 確かに、優喜もユーノも、見た目においては男らしさには派手に欠ける。また、フェイトぐらいの年だと、十歳も離れた相手だと、それほど性別を意識しなくてもおかしくはない。

「で、同年代のそれなりに男性的な容姿の人間に、あんな風に威圧的に声をかけられる機会が無かったから、びっくりしてパニックを起こして反射的に逃げたらしい。」

「……僕が悪いのか?」

「クロノが、というよりタイミングが、だと思う。気が緩んでる時に不意打ちで怒鳴られると、誰でもびっくりするでしょ? クロノの対応自体は、あの状況では必ずしも間違ってたわけじゃないし。」

「クロノ君ってば、常時お固いからねえ。」

 ニヤニヤ笑いながら、言葉でクロノをつつくエイミィ。エイミィの言い分に、思わずぶすっとした顔をするクロノ。

「多分、出てきてたのがリンディさんかエイミィさんだったら、もう少しましだったかもしれないけど……。」

「ただ、フェイトの人見知りって見た目より結構重症だから、やっぱり逃げるのは逃げたかも。優喜ぐらいじゃないかな、初対面でフェイトの懐に入っていけたのって。」

「だよね。私もフェイトちゃんが気を許してくれるまで、結構時間かかったし。」

「僕だって、タイミングが良かっただけだよ。フェイト、いまだに店で物を買うのにも身構えてるし。」

 優喜の台詞に、どこまで人見知りが激しいのか、とあきれるしかないアースラ組。フェイトがフィアッセやゆうひと普通に話が出来たのは、二人の人柄もあるが、基本的には桃子やなのはにつられての事だ。

「本当に、フェイトって、高町家に来る前はどうしてたんだろう……。」

「まあ、アルフもいたし、買い物と食事の準備ぐらいはどうにかしてたんじゃない? 桃子さんに教わる前から、それなりに料理できてたし。」

 高町家に下宿するまで、フェイトは地球では、基本的に自炊していた。味噌やしょうゆのような日本独特の調味料の使い方が分からなかったのと、日本語がそれほどちゃんとは読めなかったのとで、基本的に塩とコショウだけで味付けしていたが、それでも食べられないものは作らなかったようだ。

「……君を疑うわけじゃないが、本当にそれだけなのか?」

「まあ、原因は他にもあるけど、少なくともさっきの時点では、やましい事があって逃げたわけじゃないよ。」

「さっきの時点では?」

「そこら辺は、本人から聞いて。とはいっても、たぶんまだ落ち着いてないだろうし、フェイトの性格からして、落ち着いてもすぐにはこっちと連絡を取る踏ん切りはつかないんじゃないかな?」

 優喜とは別の意味で難儀な性格の少女、フェイト・テスタロッサ。しかも、一度懐くと今度は、必要以上に無防備に接するのだから始末に負えない。魔性の女の素質十分だ。これで、懐いた相手にだけわがままを言えるようになれば完璧だろう。

「で、話を変えるけど、僕が戦力になることを証明するって話、どうしようか。」

「どうしようかって、何が?」

「ジュエルシードの特性上、下手に模擬戦とかやって消耗するのはまずいかなって思って。とりあえず、攻撃力と防御力が十分だって証明すれば、一応OKってことにしてもらっていいですか?」

「それは構わないけど、具体的にはどうするのかしら?」

「攻撃力の方は、リンディさんとクロノのバリアジャケットを抜いて、適度なダメージを通して見せればいいかな、と。防御力は、なのはのディバインバスターを三発ぐらい受けて見せれば納得してもらえると思います。」

 優喜の台詞に、飲んでいたお茶を噴き出しそうになるなのは。因みに持ってきていた水筒のもので、中身はほうじ茶だ。

「ちょ、ちょっと待ってよ優喜君! 確かに優喜君はディバインバスターぐらい普通に防ぐけど……。」

「まあ、なのはが他人に向けて砲撃したくないのは分かるけど、今回は目をつぶって。」

 ハンターの一件以来、どうにも人に向けて撃つ時は引き金が鈍りがちななのは。人として正しい反応なのだが、毎度毎度いちいち撃つ前に躊躇われても困る。フェイトもそこら辺は同じで、二人ともいまいち非殺傷設定そのものを信用しきれていない。なのはとフェイトで模擬戦をするときはともかく、バリアジャケットの無い人間を相手にするときは、二人とも攻撃がどうしてもとまりがちになる。ましてや、最初から当ててくれと言われると……。

「……分かったよ。」

「ごめんね。後、基本的に最大出力でお願い。」

「……うん。」

 泣きそうな顔になりながらうなずくなのはに、悪いことしたと思わざるを得ない優喜。今まで散々誤射だのなんだので優喜やフェイトに当ててきたじゃないか、というのは禁句だ。

「じゃあ、一息入れたら、トレーニングルームで。」

「了解。」

 と、話が決まったところで、リンディが日本人的には看過できない行動に出た。明らかに淹れ方を失敗した緑茶に、砂糖とミルクをぶち込んだのだ。

「……。」

「……リンディさん、いつもその淹れ方でその飲み方?」

「ええ。それがどうかしたの?」

「……なるほど。米だけじゃなくて、お茶もちゃんとしたものを飲んだ事がないのか……。」

 緑茶と言うやつは、淹れ方を失敗するとただただひたすら渋くなる。そうでなくても独特の苦みがある事もあって、海外の人間は紅茶のような飲み方をする人間も結構多い。多いのだが……。

「リンディさん、後で本来の美味しい緑茶の嗜み方を教えますから、金輪際その飲み方は禁止です。どうしてもそうやって飲みたいのなら、地上のコンビニで、緑茶オレでも買ってきて飲んでください。」

 優喜がきっぱりはっきり禁止令を出す。隣のなのはもまじめな顔でうなずいている。

「え? そ、そんな……。こうやって飲むのが美味しいのに……。」

 優喜となのはの妙な迫力に押され、ごにょごにょと反論するリンディ。もっと言ってやれ、という視線を向けてくるクロノとエイミィ。もっとも、外野の二人にしても、美味しい緑茶の入れ方や飲み方なんて、ちゃんとは知らないのだが。

「邪道、とまでは言いませんが、やっぱりお茶と言うのは本来は、基本的に淹れたてをストレートで飲むものです。」

 なのはが、喫茶店の娘らしいこだわりを感じさせる一言をぶつける。彼女は小学生には珍しく、紅茶はストレートで飲む派である。ミルクティやフレーバーティも否定はしないが、やはり香りと風味を楽しむにはストレートが一番だというのが、なのはの主張だ。もちろん、緑茶に余計な手を加えるなど、なのは的には論外もいいところだ。

「……分かったわ。そうまで言うのなら、私を納得させるお茶を用意することね。」

 何やら格好をつけて、折れて見せるリンディ。だが、第三者的にはあくまで正しいのは優喜となのはだ。特にクロノにしてみれば、何度飲んでも好きになれないあの甘渋い液体が、間違った飲み物だと証明されるのは大歓迎だ。これで母の部分的に発揮される気持ち悪い嗜好が矯正されるなら、どれだけ感謝してもしたりない。

「……やっぱり、あれは間違ってたのか。」

「うん。というか、ミルクと砂糖を入れるんだったら、濃度とかもそれ用に調整しないと、普通は美味しくはないと思うんだけど……。」

「紅茶だって下手な淹れ方をしたら、ミルクや砂糖で誤魔化しても美味しくないから、多分あのお茶もそうなんじゃないかな、って思うの。」

「だからまあ、余計なお世話だとは思うんだけど、お米の美味しさが分かるんだったら、ちゃんとしたお茶の美味しさを知らないのはもったいないな、って。」

「いや、正直ありがたい。」

 どうやらクロノも苦労しているらしい。そう悟って苦笑する優喜となのは。この一件もあって、組織としての彼らを信用するかどうかはともかく、個人としてはうまくやっていけそうな程度には、人間関係を結べたのであった。







「アルフ……、どうしよう……。」

「どうしようって、優喜達と合流して、相手に頭を下げるしかないんじゃないかい?」

 優喜達が朝食を食べ終えた時間から少し後。フェイトは臨海公園でへこんでいた。理由は言うまでもない。パニックを起こして反射的に逃げた事だ。なお、現在フェイトはバリアジャケットを解除し、私服姿に戻っている。

 因みに、釣りやらなんやらで結構時間を食った事に加え、パニックを起こして明後日の方向に飛んで逃げて現在位置を見失った事もあり、公園に戻ってきたころには、結構人の姿があった。おかげで、目立たずに降りる場所を探すのにまた苦労して、さらに余計な時間を使ってしまっていたりする。

「優喜、怒ってるかな……。」

「怒っちゃいないだろうさ。ただ、あきれてはいるかもしれないけどね。」

「……うう。」

「フェイト、ここでへこんでてもしょうがないよ。」

「そうなんだけど……。」

 パニックになって逃げるとか、恥ずかしすぎる。しかも、逃げるタイミングとか逃げ方とかが、あからさまに怪しい。子供じゃあるまいし、もっと分別のある行動をしなければいけなかったんじゃないか。そんな風に、自分の年齢が子供に分類される事を忘れた反省を続けるフェイト。

「とりあえずフェイト、まずは朝ごはんにしようじゃないか。」

「……うん。」

 いつまでもへこんでいてもしょうがない。まずはお腹に物を入れよう。いざという時に腹ペコなのはよくない。ただ、朝食にはやや遅い時間だし、屋台で買ったものならともかく、こんな時間にお弁当を食べているのは目を引きそうで恥ずかしい。逆に、昼食には早いなんてもんじゃない。

「そういえば、アルフはお弁当だけで足りる?」

「ん~。欲を言うならもっと欲しいところだけどね。我慢できないほどでもないよ。」

 アルフの返事を聞いて、財布を取り出し中身を見る。絶対額で言うならそんなにたくさん入っているわけではないが、小学生の小遣いとしては破格の金額が入った財布。とりあえず、アルフにホットドッグや唐揚げを買ってあげるぐらいの余裕はある。そもそもフェイト自身は、ほとんどお金を使わないのだ。

「アルフ、ご飯を食べるのに、あんまり目立たない場所を探しておいて。何か買ってくる。」

「いいよ、フェイト。アタシはあれで十分だ。」

「でも、お弁当はおにぎりしか入ってないから、肉類はほとんどないし、アルフは満足できないでしょ?」

 フェイトは野菜も米も大好きなので、おにぎりにたくあんと言う朝ごはんにも文句はない。だが、アルフは出自が狼だけあって、肉がないとあまり力が出ない。使い魔の仕事が主を守る事なら、主の仕事は使い魔が実力を発揮できるようにすることだ。そして、食事はその原点だから、おろそかには出来ない。少なくとも金銭的に余裕がある以上、使い魔の食事を粗末にするわけにはいかない。

「気にしなくていいって。」

「私も少しだけ欲しいから、ね。」

 そう言い残して、アルフに取り合わずすたすたと屋台の方に行く。正直、屋台で買い食いと言うのも、結構フェイトにはハードルが高い作業なのだが、ここで折れては女がすたる、とはやて風の言い回しで腹をくくる。実際のところ、アルフが遠慮していたのは、フェイトの小遣いだけでなく、主のその性格面にもあるのだが、妙に気追っているフェイトには伝わっていない。

 少し話はそれるが、フェイト・テスタロッサを語る上で外せないのが、彼女の妙な引きの悪さ、間の悪さであろう。母・プレシアの病が治り、親子関係も改善された今となっては、薄幸の美少女という表現はしっくりこなくなったが、それでも妙なところで割を食ったり貧乏くじを引かされたりするところは変わっていない。例えば、フェイトが初めて戦った暴走体がゴキブリであったり、たまたま着地した場所が巨大ミミズのコロニーの真上だったり、そういった「引きが悪い」としか表現できない不運が妙に多いのが、フェイトの特徴の一つだ。

 何が言いたいのかと言うと、たかが屋台でホットドッグを買う、という作業だけでも、フェイトの場合は必ずしも無難に進むとは限らない、という事だ。因みに今回の場合は……。

「あ、そこのお嬢さん、ちょっと時間いいですか?」

 一つ気合を入れて屋台の方に歩きだしたところで、スーツを着たサラリーマン風の男性に声をかけられたのだ。予想外のタイミングで、まったく見知らぬ人間に声をかけられる。フェイトにとって最も苦手な状況の一つだ。プレシアとの不仲が深刻だったころは、割と思い詰めていた事もあって無視も出来たのだが、今となってはそれも無理だ。気がつかなかったふりをしようにも、目の前に立たれてしまってはどうにもならない。

「え? あの……?」

「あ、もしかして、日本語は分かりませんか?」

 男性の言葉に、反射的に首を左右に振る。分からない事にして逃げてもよかったのだが、それで堪能な英語やフランス語などを聞かされても、やはり対処に困る。まだ、英語はミッドチルダ語に近いからどうにかなるが、ドイツ語やフランス語になるとお手上げだ。まあ、最悪言語系の魔法を使えばどうにかはなるのだが。

「申し遅れましたが、私こういうものでして。」

 逃げを許さぬ隙のない動作で名刺を差し出してくる。小学生相手にやりすぎだろう、と突っ込みたくなる挙動だ。もっとも、フェイトは学校に行っていないので、小学生のくくりに入るかどうかは分からないが。

 因みに名刺には某有名芸能プロダクションの名前が書かれているが、フェイトにはそんな事は分からない。何しろ、地球でテレビを見るようになったのはここ一週間ほどの事なのだ。芸能界に限らず、圧倒的に知識が足りない。かといって、ミッドチルダをはじめとした魔法世界の事もほとんど知らない。彼女の世間知らずは筋金入りだ。

「あ、あの……?」

 強引に名刺を受取らされたフェイトだが、それをどうすればいいのか理解できない。そもそも、何のために男性が自分に声をかけたのかも理解できていないのだ。

 普通なら、名刺を見れば男の目的など一目瞭然だが、そもそも芸能プロダクションが何か、というものを理解していない。スカウト、という行為が存在する事を知らない。一応ある程度の一般常識はアリシアの記憶とセットで植えつけられているはずなのだが、その辺いろいろあいまいな上に、一般常識と言うやつは体験を通して定着する事も多い。最近まで娯楽の類とも縁がなく、社会と隔絶されて生きてきたフェイトに、こういう人間関係や娯楽が絡む一般常識を求めるのも酷だろう。

「お嬢さんは、テレビに出たいと思った事はありませんか?」

「全然……。」

 あるわけがない。士郎達が見ているから一緒に見ているぐらいで、正直なところ、さほど興味はない。そもそも、今のフェイトにとって、優先順位はテレビに出る事ではなく、ホットドッグを買う事だ。アルフを待たせているし、フェイト自身も結構空腹が辛くなってきている。正直、芸能界などどうでもいいのだ。とっとと、朝ごはんを食べたいのだ。

 だが、フェイトには、この手の人間を振り切るための能力はほとんどない。そもそも、屋台で買い食いするのですら気合を入れねばならないような女の子に、丁寧だが押しの強いスカウトマンをどうこうできるわけがない。結局外部から助けが入るまでの十数分間、フェイトは足止めを食らい続ける羽目になる。

「すまんが、その子は儂の連れでな。そろそろ解放してやってくれんか?」

「え……?」

 心底困り果てていると、不意に男の背後から年配の男性が声をかけてくる。驚いて顔を見ると、いたずらっぽく笑って目配せをしてくる。どうやら、困っているフェイトを見かねて、助けてくれるようだ。

「なかなか戻ってこんと思ったら、こんなところで足止めを食っておったか。」

「ご、ごめんなさい……。」

「いやいや。おまえさんは優しい子だから、興味がなくてもよう断れんことぐらいは知っておるさ。」

「あ、あの、それでお嬢さんは……。」

「今まで何を見ておったんじゃ? 明らかに、乗り気ではなかろう?」

 老人の言葉に、首を何度も縦に振って同意するフェイト。その様子にようやく脈がないと理解したスカウトマンは、時間を取らせたことを謝罪して去って行った。







「あ、あの、ありがとうございます。」

「なに、単に儂がああいう手合いが嫌いなだけじゃよ。それに、下心が無いでも無いしの。」

「下心……?」

「別段、尻を触らせてくれ、とかそういう事を言うつもりはないから、そんなに身構えんでくれ。」

 下心と聞いて、女の本能みたいな部分で思わず身構えるフェイト。そのフェイトを見て苦笑する男性。まだ完全に枯れてはいないが、さすがに年齢一桁の少女の尻に興味があるほど飢えてもいない。十年後ならさすがにストライクゾーンかもしれないが、今はまだまだ守備範囲外だ。

「儂は趣味で写真を撮っておっての。嬢ちゃんの写真を何枚か、撮らせてもらいたいんじゃ。」

「写真?」

「ああ。なに、ただでとは言わんよ。それに無理強いする気もないしの。」

「それぐらいならいいけど……。」

「おっと、そうじゃ、忘れておった。これを言わずに写真を撮るのは、フェアとは言えん。」

 老人の言葉に、少しばかり嫌な予感がするフェイト。その予感が正しかった事を証明するように、老人がフェイト的にはとんでもない事を言い出す。

「知り合いにの、海鳴を紹介する雑誌の写真を何枚か頼まれておっての。そのうちの一枚か二枚を、ここでとるつもりだったんじゃ。顔が出んように写すから、使わせてもらって構わんかな?」

「え……?」

「嫌なら嫌で構わんよ。嫌がる人間を無理に頼みこんで写しても、碌な写真は撮れんしの。」

 さっきのスカウトマンとは違って、実に紳士的な態度だ。恩着せがましくない態度が、かえってフェイトにとっては恩を強く感じさせる結果になる。実際のところ、写真ぐらいはいいか、という気分になってきているが、アルフの事が問題になる。さすがに、いくらなんでも待たせすぎじゃないか、と思っていたら、案の定念話が飛んできた。

(フェイト、ずいぶんと遅いけど、何かあったのかい?)

(ちょっと、いろいろとごたごたしてて。先に食べてていいよ。)

(そろそろ終わるんだったら、もうちょっと待ってるけど?)

(もう少しかかりそうなんだ。だから先に食べてて。)

(ん、分かったよ。早く戻ってこないと、全部食べちまうからね。)

(うん。)

 こんな事を言うが、アルフはフェイトの分をちゃんと残すだろう。あまり待たせるのも気まずいし、ちょっとその話だけはしておいた方がいいだろう。

「写真を撮ってもらうのはいいんだけど、連れを待たせてるんです。」

「ふむ。なら嬢ちゃんの分とその連れの分、ホットドッグでも買えばいいんじゃな?」

「あ、私の分はあるんです。ただ、連れが多分、それだけじゃ足りないかなって思って。」

「なるほどの。しかし、昼には早い時間じゃが……。」

「いろいろあって、作ってもらってた朝ごはんのおにぎりを食べそびれて……。」

 どうにも、食事に関しては、フェイトは食べそびれるととことん食べそびれる傾向がある。これもまた、彼女の間の悪さの一つだろう。

「じゃあ、先に嬢ちゃんの遅い朝飯か?」

「あ、とりあえず連れには先に食べててもらってますから、先に写真を撮ってもらって、もう私の分はお昼ご飯にします。」

「朝飯を抜くのは感心せんが、今から食うと今度は昼がおかしな時間になるか……。」

「はい。なので、朝ごはんをお昼ご飯にしようかな、って。」

 フェイトの言い分に納得した老人は、ならば手早く済ますか、と、撮りたい構図をフェイトに伝え、さっさとカメラを組み立てる。

「えっと、こう?」

「そうそう。いい絵じゃ。」

 手すりにもたれかかるように海を見るフェイトを、後ろから何枚か撮る老人。次は、空を見上げる構図で、と指定が入り、言われた通りのポーズをとったあたりで……。

「あら、フェイトじゃない。」

「アリサ? すずかも?」

「おはよう、フェイトちゃん。何してるの?」

「えっと……。」

 たまたま近くを通りかかったアリサとすずかが、フェイトに気づいて声をかけてきた。

「嬢ちゃん達、この嬢ちゃんの友達かい?」

「ええ、そうよ。お爺さんは?」

「こっちの嬢ちゃんを口説き落として写真を撮らせてもらってる、ただの写真が趣味の爺じゃよ。因みに、さっきは自己紹介を忘れとったが、儂の名前は鷲野じゃ。」

「私はアリサ・バニングスよ。よろしく。」

「月村すずかです。」

「フェイト・テスタロッサです。」

 ようやく、互いの名前を知ったフェイトと鷲野老人。

「しかし、写真のモデルか。それで、フェイトが気取ったポーズをとってたのね。」

 得心が言ったという顔で、アリサがつぶやく。横で見ると、すずかも頷いている。どうやら、フェイトがそういうポーズをとるのは、彼女たちの中では異常事態に分類されているらしい。

「それにしても、フェイトちゃんが初対面の人と打ち解けてるなんて、珍しいね。」

「まあ、鷲野さんだったら、分からなくもないんだけど、さ。」

「困ってるところを、助けてもらったんだ。それで、写真を撮りたいっていうから、お礼にモデルをさせてもらってるの。」

 恥ずかしがり屋のフェイトにこんな役をやらせるのだから、この好々爺然としたカメラマンはなかなかの人物のようだ。

「せっかくじゃ、アリサ嬢ちゃんにすずか嬢ちゃんも一緒に撮らせてくれんかの?」

「そうね。」

「せっかくだから、撮っていただけますか?」

 アリサとすずかの了解も取れたので、早速構図を決めようとする鷲野老人。その間に気になったことを口にするアリサ。

「そういえばフェイト、今日は一人なの? 優喜となのはは?」

「あ、それは……。」

 どう話すべきかしばし逡巡し、結局ありのままを話す。聞き終わったアリサが、こらえきれずに大爆笑する。

「ア、アリサちゃん、そんなに笑っちゃ駄目だよ。」

「だ、だって……、あんまりにもフェイトらしすぎて……。」

「うう……。」

 その様子をファインダーに納める鷲野老人。飾らない表情がほほえましく、爺さん的にはとても眼福だ。黙って一枚写す。

「そういえば、アルフさんは?」

「ちょっと離れたところでご飯食べてる。」

「ご飯って、こんな時間に?」

「朝ごはん、食べそびれたんだ。私はもう、昼ごはんまで我慢するつもり。」

「まあ、アルフさんだったら、この時間に朝を食べても、昼ごはんぐらい普通に食べるよね。」

 フェイトの言葉に納得するすずか。

「そろそろ、ポーズを頼んでもいいかの?」

「あ、はーい。」

「いつでもどうぞ。」

「お願いします。」

 鷲野老人の指示に従って、言われた位置でポーズを取る。普段、こんな感じで写真を撮ることなどない事もあり、やたら楽しそうにポーズをとる少女達。傍目にもほほえましい光景である。

 そう、ここで終わればほほえましい話、で終わったのだ。だが、ここにはフェイトが居る。こういう時、フェイトの間の悪さは奇跡のレベルである。

 運が悪いことに、ちょうどこのとき、海流で流されたジュエルシードがひとつ、蛸の住処にダイブした。その魔力に反応し、比較的近くにあったジュエルシードが浮かび上がり、それを悪食な魚がぱくりといって、と連鎖的に反応を起こし、残っていたすべてが発動してしまった。

「……え?」

「どうしたの、フェイト?」

「これ、ジュエルシードの魔力!?」

「へ?」

「何でまたこのタイミングで……!」

 ほとんど暴走に近いそれをどうにかすべく、バルディッシュを起動する。周りの視線など気にしている余裕はない。それに、これから起こることを考えると、デバイスを起動した程度は誤差の範囲だ。

(アルフ!)

(ああ、分かってるよ!)

(優喜たちと連絡を取ってみるから、結界お願い!)

(あいよ!!)

 こうして、実に間の悪いタイミングで、最後のジュエルシードはまとめて発動したのであった。


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