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No.18194の一覧
[0] 聖将記 ~戦極姫~ 【第二部 完結】[月桂](2014/01/18 21:39)
[1] 聖将記 ~戦極姫~ 第一章 雷鳴(二)[月桂](2010/04/20 00:49)
[2] 聖将記 ~戦極姫~ 第一章 雷鳴(三)[月桂](2010/04/21 04:46)
[3] 聖将記 ~戦極姫~ 第一章 雷鳴(四)[月桂](2010/04/22 00:12)
[4] 聖将記 ~戦極姫~ 第一章 雷鳴(五)[月桂](2010/04/25 22:48)
[5] 聖将記 ~戦極姫~ 第一章 雷鳴(六)[月桂](2010/05/05 19:02)
[6] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2010/05/04 21:50)
[7] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(一)[月桂](2010/05/09 16:50)
[8] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(二)[月桂](2010/05/11 22:10)
[9] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(三)[月桂](2010/05/16 18:55)
[10] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(四)[月桂](2010/08/05 23:55)
[11] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(五)[月桂](2010/08/22 11:56)
[12] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(六)[月桂](2010/08/23 22:29)
[13] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(七)[月桂](2010/09/21 21:43)
[14] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(八)[月桂](2010/09/21 21:42)
[15] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(九)[月桂](2010/09/22 00:11)
[16] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(十)[月桂](2010/10/01 00:27)
[17] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(十一)[月桂](2010/10/01 00:27)
[18] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2010/10/01 00:26)
[19] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 鬼謀(一)[月桂](2010/10/17 21:15)
[20] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 鬼謀(二)[月桂](2010/10/19 22:32)
[21] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 鬼謀(三)[月桂](2010/10/24 14:48)
[22] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 鬼謀(四)[月桂](2010/11/12 22:44)
[23] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 鬼謀(五)[月桂](2010/11/12 22:44)
[24] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2010/11/19 22:52)
[25] 聖将記 ~戦極姫~ 第四章 野分(一)[月桂](2010/11/14 22:44)
[26] 聖将記 ~戦極姫~ 第四章 野分(二)[月桂](2010/11/16 20:19)
[27] 聖将記 ~戦極姫~ 第四章 野分(三)[月桂](2010/11/17 22:43)
[28] 聖将記 ~戦極姫~ 第四章 野分(四)[月桂](2010/11/19 22:54)
[29] 聖将記 ~戦極姫~ 第四章 野分(五)[月桂](2010/11/21 23:58)
[30] 聖将記 ~戦極姫~ 第四章 野分(六)[月桂](2010/11/22 22:21)
[31] 聖将記 ~戦極姫~ 第四章 野分(七)[月桂](2010/11/24 00:20)
[32] 聖将記 ~戦極姫~ 第五章 剣聖(一)[月桂](2010/11/26 23:10)
[33] 聖将記 ~戦極姫~ 第五章 剣聖(二)[月桂](2010/11/28 21:45)
[34] 聖将記 ~戦極姫~ 第五章 剣聖(三)[月桂](2010/12/01 21:56)
[35] 聖将記 ~戦極姫~ 第五章 剣聖(四)[月桂](2010/12/01 21:55)
[36] 聖将記 ~戦極姫~ 第五章 剣聖(五)[月桂](2010/12/03 19:37)
[37] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2010/12/06 23:11)
[38] 聖将記 ~戦極姫~ 第六章 聖都(一)[月桂](2010/12/06 23:13)
[39] 聖将記 ~戦極姫~ 第六章 聖都(二)[月桂](2010/12/07 22:20)
[40] 聖将記 ~戦極姫~ 第六章 聖都(三)[月桂](2010/12/09 21:42)
[41] 聖将記 ~戦極姫~ 第六章 聖都(四)[月桂](2010/12/17 21:02)
[42] 聖将記 ~戦極姫~ 第六章 聖都(五)[月桂](2010/12/17 20:53)
[43] 聖将記 ~戦極姫~ 第六章 聖都(六)[月桂](2010/12/20 00:39)
[44] 聖将記 ~戦極姫~ 第六章 聖都(七)[月桂](2010/12/28 19:51)
[45] 聖将記 ~戦極姫~ 第六章 聖都(八)[月桂](2011/01/03 23:09)
[46] 聖将記 ~戦極姫~ 外伝 とある山師の夢買長者[月桂](2011/01/13 17:56)
[47] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(一)[月桂](2011/01/13 18:00)
[48] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(二)[月桂](2011/01/17 21:36)
[49] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(三)[月桂](2011/01/23 15:15)
[50] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(四)[月桂](2011/01/30 23:49)
[51] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(五)[月桂](2011/02/01 00:24)
[52] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(六)[月桂](2011/02/08 20:54)
[53] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2011/02/08 20:53)
[54] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(七)[月桂](2011/02/13 01:07)
[55] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(八)[月桂](2011/02/17 21:02)
[56] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(九)[月桂](2011/03/02 15:45)
[57] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(十)[月桂](2011/03/02 15:46)
[58] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(十一)[月桂](2011/03/04 23:46)
[59] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2011/03/02 15:45)
[60] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(一)[月桂](2011/03/03 18:36)
[61] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(二)[月桂](2011/03/04 23:39)
[62] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(三)[月桂](2011/03/06 18:36)
[63] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(四)[月桂](2011/03/14 20:49)
[64] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(五)[月桂](2011/03/16 23:27)
[65] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(六)[月桂](2011/03/18 23:49)
[66] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(七)[月桂](2011/03/21 22:11)
[67] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(八)[月桂](2011/03/25 21:53)
[68] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(九)[月桂](2011/03/27 10:04)
[69] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2011/05/16 22:03)
[70] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(一)[月桂](2011/06/15 18:56)
[71] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(二)[月桂](2011/07/06 16:51)
[72] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(三)[月桂](2011/07/16 20:42)
[73] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(四)[月桂](2011/08/03 22:53)
[74] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(五)[月桂](2011/08/19 21:53)
[75] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(六)[月桂](2011/08/24 23:48)
[76] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(七)[月桂](2011/08/24 23:51)
[77] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(八)[月桂](2011/08/28 22:23)
[78] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2011/09/13 22:08)
[79] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(九)[月桂](2011/09/26 00:10)
[80] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十)[月桂](2011/10/02 20:06)
[81] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十一)[月桂](2011/10/22 23:24)
[82] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十二) [月桂](2012/02/02 22:29)
[83] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十三)   [月桂](2012/02/02 22:29)
[84] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十四)   [月桂](2012/02/02 22:28)
[85] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十五)[月桂](2012/02/02 22:28)
[86] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十六)[月桂](2012/02/06 21:41)
[87] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十七)[月桂](2012/02/10 20:57)
[88] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十八)[月桂](2012/02/16 21:31)
[89] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2012/02/21 20:13)
[90] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十九)[月桂](2012/02/22 20:48)
[91] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(一)[月桂](2012/09/12 19:56)
[92] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(二)[月桂](2012/09/23 20:01)
[93] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(三)[月桂](2012/09/23 19:47)
[94] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(四)[月桂](2012/10/07 16:25)
[95] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(五)[月桂](2012/10/24 22:59)
[96] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(六)[月桂](2013/08/11 21:30)
[97] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(七)[月桂](2013/08/11 21:31)
[98] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(八)[月桂](2013/08/11 21:35)
[99] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(九)[月桂](2013/09/05 20:51)
[100] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十)[月桂](2013/11/23 00:42)
[101] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十一)[月桂](2013/11/23 00:41)
[102] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十二)[月桂](2013/11/23 00:41)
[103] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十三)[月桂](2013/12/16 23:07)
[104] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十四)[月桂](2013/12/19 21:01)
[105] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十五)[月桂](2013/12/21 21:46)
[106] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十六)[月桂](2013/12/24 23:11)
[107] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十七)[月桂](2013/12/27 20:20)
[108] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十八)[月桂](2014/01/02 23:19)
[109] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十九)[月桂](2014/01/02 23:31)
[110] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(二十)[月桂](2014/01/18 21:38)
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[18194] 聖将記 ~戦極姫~ 第六章 聖都(三)
Name: 月桂◆3cb2ef7e ID:9e91782e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/09 21:42

 豊後国戸次屋敷。
 ひとたび決断を下せば、やるべきことは目の前に山のように積み重なっている。
 道雪殿の部屋を辞した俺は、とりあえず現時点で片付けることが出来る問題をささっと済ませてしまうことにした。
 最初にして、最大級の大きさを持つその問題の名を「娘の説得」という。



「――というわけで、吉継は長恵と一緒に筑ぜ」
「お断りします」
「……長恵と一緒に、筑前で道雪様の手助けを、だな」
「お断りします」
「……していただければ幸いに存じます」
「お断りします」
 全く同じ口調で俺の頼みを切り伏せていく吉継。
 頭巾に隠れて表情は見えないが、その口調はただひたすらに頑なだった。


 吉継のことだから簡単には承知しないかもしれない、とは考えていた。なにせこれから俺が相手取ろうとしているのは南蛮勢力――吉継にとっては仇敵ともいえる存在である。
 だが、敵の狙いが定かならぬ今、吉継が豊後にいることの危険性をすでに肥前で伝えていたこともあって、不満はあっても納得してくれるだろうと思っていた。
 あにはからんや、これほど頑なに拒絶されようとは。
 なんと説得したものか、と俺は腕を組んで考え込む。


「……南蛮神教から逃げ隠れするために筑前に行ってくれと言っているわけじゃない。おそらくは猫の手も借りたいほどに忙しくなるだろう道雪様の手助けをしてほしいんだ。そこは承知しているか?」
 なにしろ十時連貞をはじめ、戸次家の将兵の半ばは豊後に残され、誾の下につくことになるのだ。それはつまり、立花家を継いだ道雪殿の周囲がそれだけ手薄になることを意味する。今回の戦は大友家の勝利に終わったが、立花家の状況を知った筑前の国人衆や周辺諸国が再び動かないという保証はどこにもなかった。


 状況は高橋家の紹運殿もさして変わらない。しばらくの間、筑前の大友家臣団は、それこそ寝る暇もないほどに多忙になろう。そんな中で吉継と長恵の存在は、道雪殿にとっても有難いものとなるはずであった。
 事実、道雪殿は吉継と長恵を筑前に連れて行ってほしいという俺の頼みを、快く引き受けてくれたのである。まあ去り際に「お二人が承諾されれば、の話ですけどね」と意味ありげに笑ってはいたのだが。



 俺の問いに対し、吉継はそっけなく頷いて見せた。
 とすると、俺が口にした程度のことは、とうに承知しているということである。では、吉継の中では何が引っかかっているのだろうか。そんな俺の疑問を察したのか、吉継がどこか押さえた声で呼びかけてきた。
「お義父様」
 居住まいを正す吉継を見て、俺も知らず背筋を伸ばす。
 室内の灯火に照らされ、頭巾の隙間から俺を見つめる吉継の眼差しが紅く光ったように見えた。


「お義父様は豊後に残ることを選ばれた。今、私たちに口にされた理由は、多分、ほんの一握りなのでしょう。お義父様の決断の、本当の意味を私はわかっていない」
 吉継はそう言って、かすかに俯いた。
「――それを、教えてくれとは言いません。口にしないのならば、それに足る理由があるのでしょうから。そして、ご自身で危険だと口にしたこの豊後の地に、お義父様自身が残ろうとされることにも反対はしません。そうされるのは、そうせざるを得ない理由があるのでしょうから」


 ですが、とここで吉継は顔を上げ、鋭い眼差しで俺を見据えた。
「それゆえに、私の決断にも口を挟んでいただきたくありません。私には、私の理由がある。南蛮との確執は確かに理由の一つなれど、私とて、ただ過去のうらみつらみで行動しているわけではないのです」




 吉継は、反論は許さない、という感じできつく俺を睨んでおり、一方の俺はその視線の圧力に抗するだけで精一杯。
 室内に沈黙が満ちる。
 とはいえ、いつまでも黙っていては埒が明かない。それに、吉継の言うとおり、確かにまだ言っていないことは幾つもあるのだ。



 そのうちの一つを、俺はここで口にする。
「吉継」
「はい」
「宗麟殿から与えられる俺の任は誾殿の補佐だが、形としては戸次家ではなく、大友家に仕えることになる。つまりは道雪様と俺は、身分や身代こそ違え、大友家の同輩になるわけだ」
 ここでふと気づく。大友家に仕えるとなれば、宗麟『殿』はまずいよな。
 こほん、と咳払いしてから、改めて口を開いた。
「これからは道雪様を頼みとすることは出来なくなるわけだが、逆に言えば、道雪様に迷惑がかかるんじゃないかと、諸事に遠慮する必要もなくなった」
 現在の南蛮神教、大友家、その当主である宗麟について、これまでも思うところは多々あった。
 だが、俺が迂闊なことを口にすれば、必然的にその責は道雪殿や、あるいは吉継に及んでしまう。
 そのため、俺は言葉の一つをとっても慎重にならざるを得なかったのである。
 だが――



「宗麟様の臣下になったのであれば、俺の言動はすべて俺の責。必要なときに、必要な行動が出来るわけだ」
 ここで重要なのは『必要な』行動というのが、必ずしも世間一般で認められる行動だけではない、ということである。
 率直に言えば、批判や諫言を越えた、味方への謀略とか、味方への計略とか、味方への策略とか、そういった類の行動を指している。


 当然、そんなことをすれば家中に敵が出来る。新参の身が幅をきかせようとすれば、南蛮神教のみならず譜代の家臣たちも俺を敵視するようになるだろう。宗麟とて、俺の態度次第ではどう変心するかわかったものではない――大きな声では言えないが。
「豊後に残れば、そんな状況に巻き込まれる。かもしれない、ではなく、確実に巻き込まれる」
「だから、私は蚊帳の外にいろ、と?」
 感情を感じさせない、硬い声で問い返してくる吉継。
 俺は何と言えばわかってもらえるかと内心で頭を抱えつつ、首を横に振った。
「蚊帳の外じゃない。吉継、それに道雪様や紹運殿の力が必要になるのは、その後――」
「その後? 最も苦しい時に居ることが許されないのなら、それは蚊帳の外に置かれることと何が違うというのですか」  




 強い口調で言い返してくる吉継の語調に押されるように、俺は、む、と唸って口を閉ざす。
 すると、そんな俺の様子を見た吉継は、言い過ぎたと思ったのか、ぺこりと頭を下げた。
「すみません、少し感情的になってしまいました」
 頭を上げ、じっと俺の目を見つめてくる。
「お義父様が、私のことを考えた上で、そう言っていることはわかっているつもりです。大事にしようとしてくれているからこその、今のお話なのだ、と。ですが……」


 短い沈黙。
 吉継はそっと息を吐き、言葉の続きを口にした。
「父上が――大谷の父上が、昔、言っていました。信じるとは、無理をさせることなんだ、と」
「無理をさせる?」
「はい。もちろん、信じる相手にどう接するかは人それぞれです。父上が言ったことが、万人に共通する真理なのだと主張するつもりはありません。ただ、私は父上の言葉に頷ける。信ずればこそ、他の人には託せない重荷を、託すことも出来るのだ、とそう思うんです」


 吉継の視線が、どこか哀切さを帯びて紅く輝く。
 そして、つかの間、逡巡したように黙り込んだかと思うと、吉継はやおら頭巾を取り去った。
 あらわになる銀嶺の髪。先刻から黙って俺たちのやりとりを聞いていた長恵が、わずかに目を見開くのが視界の端に映った。


 その長恵の驚きに構わず、吉継はなおも言葉を続ける。
「私の力が、此度のお義父様の企てに何の足しにもならないというなら、こんなことは言いません。黙ってお言葉に従います。でも、そうではない。私は文武の鍛錬を怠っていません。どんな状況であれ、お義父様の力になれると自負しています。道雪様が猫の手も借りたいほど忙しくなる、といっていましたが、それはそのままお義父様にもあてはまるのでしょう?」
「む、それはまあ……」
 そのとおりではある。
「であれば――」
 吉継の目に、強い意志が煌く。まぶしいほどに。



 お願いします、と吉継は言った。
 信じてください。無理をさせてください、と。



「危険は承知の上ですし、復讐や報復の念に囚われているわけでもありません。私も日の本の民の一人。お義父様の話を聞き、それを黙ってみていることなんて出来ません」
「……それが、理由かな?」
「はい。辛いことの多い生ではありましたが、決してそればかりだったわけではありません。私は、いつか彼岸で父上と母上に逢った時に胸を張れる自分でいたい。二人が身命を賭して産み育んでくれたから、娘は誇り高く生き抜くことが出来ました、と……ありがとう、とそう伝えたいのです」


 そのためには、こんなところで怖じてなんていられない。吉継はそう言って、はじめて表情を緩ませた。
「たとえお義父様が反対なさろうと、私は残ります。駄目だなんて言わせませんよ? 石宗様と道雪様、それに和尚様、もちろんお義父様も……皆、私にとっては大切な人たちです。その人たちが築いてきた日の本の歴史を――そして、私が皆と共にこれから生きていく日の本の大地を、異国の軍勢に蹂躙されてたまるものですか」





 その時、吉継の頬が紅潮していたのは、多分照れていたからなのだろう。
 似合わないことを言っている、そんな自覚があったのかもしれない。
 それでも、視線だけはそらすことなく、こちらを見る吉継に対し、俺はきわめて真剣な顔でその名を呼ぶ。
「吉継」
「はいッ」
 何を言ってもごまかされるものか。そんな感じで応じる吉継に対し、俺はきわめて真剣に問いかけた。
「抱いて良い?」
「はいッ……………………はいッ?!」


 吉継は当惑――というか驚愕していたようだが、まあ許可をもらえたのでよしとしよう。そんなわけで、俺は吉継の小柄な身体を抱き寄せる。
「ちょ……え……なッ?!」
 吉継は何やらわたわたとしていたが、驚きのあまり、ろくに身体が動かないらしい。
 そんな吉継の身体を、俺は強く抱きしめる。
「お、お義父様、な、何を……ッ?!」
「我ながら唐突かなとは思ったのだけど」
「い、いえ、唐突とかそういう問題ではないですッ?!」
「しかし、誰のせいかといわれれば、それは吉継のせいなわけで」
「私の話を聞いてますか、お義父様ッ?!」


 娘の健気な覚悟に胸を打たれた父の当然の行動である。異論は認めない。
「――というわけで、しばらくこのままでいなさい」
「横暴ですよッ?!」
「それがどうした」
「開き直らないでくださいッ?!」
 ええい、だまらっしゃい。というか、あまりしゃべらせるな、素で泣きそうなんだから。


 先刻の吉継の言葉と姿、和尚や亡きご両親にぜひ見せてあげたかった。
 そんなことを思いながら、俺は心行くまで吉継の身体を抱きしめ続けたのであった。




◆◆




「ぐす、うう……」
 その少女が手に持った手拭は、涙を吸って重く濡れていた。
 少女は先刻から涙を拭き続けているのだが、それでもなお目からこぼれる雫は尽きる様子がない。
 落ち着かせるように優しく背を撫でながら、俺は首を傾げざるをえなかった。
 部屋にいたもう一人の人物に問いを向けてみる。
「……なんで長恵が泣いてるんだ?」
「……さあ、何ででしょうか?」
 そう答える吉継の頬は、先刻の抱擁の余韻でまだわずかに赤らんだままであった。   
 



 で、しばし後。
 ようやく落ち着きを取り戻した長恵は、赤くなった目をこすりつつ、頭を下げて詫びを口にした。
「……すみませんでした。師兄と姫様の姿を見ていて、思わず」
「いや、謝る必要はまったくないんだが……実は長恵って結構涙もろいのか?」
「そういうわけではないのですけど……」
「……目を兎みたいに赤くして言っても説得力がないのだが」
 ついそう言ってしまうと、長恵は俺から目を逸らしつつ釈明をはじめた。
「い、いえ、本当に。楽士の奏でる悲恋だの悲歌だのを聴いても、こうはなりませんよ? むしろあくびが止まらないくらいで……」
「まあ、それはそれでどんなものかと思うけど」
 俺は苦笑したが、人の好みはそれぞれだし、俺がどうこう言う筋合いはないだろう。


 長恵はその後も、自分は涙もろくない、という主旨のことをいくつか口にしたが、その最後に「ただ……」と困り顔で言い添えた。
「親子の絆とか、孝行娘とか、その類の話を聞くと、どうしてもこみ上げてくるものがありまして、何でなのか自分でも不思議なんですけど……もしかしたら、はじめて三国志を読んだときの、黄忠と黄叙のお話が印象的過ぎたのかもしれません」
 照れたようにそう言う長恵だったが、俺は内心で首を傾げた。黄忠と黄叙の話なんて、三国志にあったっけか??


 すると、思いがけず吉継が賛意を示した。
「それは私も少なからずありますね。荊州での劉家との出会いのくだりは、何度読み返したか知れません」
 そう言う吉継に対し、長恵はうれしげに頷いている。
 なにやらそれだけで話が通じているあたり、よほど有名なエピソードらしいが、はて?
 まあ天の御遣いとやらが出てくるらしいから、俺の知る三国志とは違っていて当然なのだろうが。


「ともあれ、師兄と姫様の抱擁は、私の心の琴線を、これでもか、というくらいにかき鳴らしたのです。うん、実に良いものを見せてもらいました」
 そう言って手まであわせる長恵を見て、先刻のことを思い出したのか、吉継が顔を真っ赤にさせ、うらめしげに俺を睨んできた。
「……お義父様」
「何度でも言うが、あれは吉継のせいですぞ」
「だから、なんで私のせいに――ッ」
 声を張り上げかけた吉継だが、不意にがくりと項垂れると、かぶりを振った。
 さっきから同じことを言い合っているので、いい加減に疲れたのだろう。
「……まあ、良いです。筑前で川に叩き落した件と、これでおあいこということにしておきましょう」
「む、すると髪を洗う件はご破算か?」
「当然ですッ」
 むう、それは残念。
 まあ、いずれ機会はまた来るだろう。





 そんなことを考えながら、吉継の銀髪に視線を向けていたのだが、そこでふとあることに気づいた。
 長恵は、吉継の容姿をはじめて目の当たりにしたわけだが、銀髪と紅瞳を見てどう感じたのだろうか。
 そんな俺の疑問に、長恵はあっさりと答える。
「姫様が何事かを秘しているのはわかっておりましたから、ああ、これがその理由なのか、と思いましたが」
 それだけらしい。
「うーん、あとは、こんなにお綺麗なのに、いつも顔を隠しているのはもったいないなあ、とも思いました。なにがしかの理由がおありなのだと推察しますが、いずれはそういうものを気にしないで済むようにしたいものですね」


 そう言って、長恵はどこか愉快そうに俺を見て、くすりと微笑んだ。
「まあ、私が言うまでもなく、師兄はそのつもりなのでしょうけれど」
「それはそのとおりだが、そうすると今度は相次ぐだろう縁談を蹴るのが面倒そうだというのが目下の悩みだ」
「たしかにこれほどの器量であれば、偏見さえなくなれば引く手数多でしょう。婿候補の方にはどう対処するつもりなんです?」
 吉継を嫁に出す、という選択肢が、俺の中に寸毫もないことを確信しているらしい長恵だった。
 まあ実際そのとおりだが。


「とりあえず、おとといきやがれと水をかけて追い払う」
「それでも帰らなかったら?」
「俺の屍を越えていけと刀を抜く」
「姫様の未来のだんな様に同情を禁じ得ません」
「なに、吉継から手を引けば見逃してやるさ」
「行かず後家となることが約束された姫様の未来に同情を禁じ得ません」
 などと長恵と言い合っていると、なにやらふるふると震えていた吉継が、我慢の限界とばかりに大声を張り上げた。



「――ああ、もう、いい加減にしてください、二人ともッ!!」
『ごめんなさい』



 先刻とは別の理由で顔を真っ赤にした吉継を見て、俺と長恵は揃ってはしゃぎすぎたことを反省するのだった。








 それからしばし後。
 吉継の怒りが収まるや、俺たちは改めて話し合いを行った。
 とはいえ、吉継の意思は明確であり、俺がそれを止める術を持たない以上、結論は一つしかありえない。
 そして俺と吉継が残る以上、長恵が他所へ行くはずもなく。
 結局、吉継も長恵も豊後に残ることになったのである。


 そうして、明日以降のことについて、俺たちが話し合っている最中のこと。
 不意に長恵が俺に問いを向けてきた。
「そういえば、師兄。褒美は思いのままなんですよね? 当主殿からもらった紙に何を書くつもりなんですか?」
 長恵の問いに、吉継も興味深そうな視線を送ってくる。
「確かに、それは聞いておくべきでした。望めば一城の主にさえなれるのですよね。その紙は、使い方次第でこちらの切り札になりそうですが……」
 その問いに対し、俺はあっさりと返答する。



「ああ、あれは燃やした」



 吉継が愕然とした様子で、目を瞠る。 
「燃やしたッ?!」
「うむ。道雪様にもらったその場で火にくべた」
 望めば一国一城の主になれたであろう夢の紙は、あっという間に灰になりました。
 俺がそう言うと、吉継はさらに問いを重ねてくる。
「どうして?!」
「いや、いらないし」
「いらッ?!」
「吉継、そう叫んでばかりだと喉に悪いぞ?」
「叫ばせているのは誰ですかッ!」
 ぜえはあ、と息を切らす吉継と、興味深そうにこちらを見つめる長恵。
  

 そんな二人に、俺は自分の行動の理由を説明する。
 といっても、別にそれほど大した理由はない。何でも望みが叶うということは、逆に言えば、それを見れば俺が何を望んでいるかがわかるということでもある。
 城を望めば野心があり、金を望めば欲があり、他者を掣肘しようとすれば敵意があることがわかってしまう。
 そう、つまるところ――
「大友家を救うために天からおりてきた救世主が、そんなものを持っているわけないよな?」


「……あ」
「……なるほど」
 俺の言葉を聞き、聡い少女たちは言わんとするところを悟ってくれたようだ。
「宗麟様がそうと意識していたのかはわからないが、あれは俺の為人を試すための道具だよ。もちろん、何を望んだって反故にはされなかっただろうけど、今の段階で宗麟様の信頼を失うのは絶対にまずい」
 そう考えると、道雪様の前で燃やすよりは、宗麟の前でそうした方がインパクトは強かったかもしれない。
 だが、一度でも自分の懐に入れてしまえば、あらぬ疑いを抱かれる恐れがあった。宗麟はともかく、カブラエルの耳にでも入れば、俺が燃やした紙が本物であったかどうか、確実に疑問を持つだろう。


 であれば、受け取ったその場で燃やしてしまった方が良い。道雪殿が嘘偽りを言うはずがないことは、宗麟も承知しているだろう。さらに、俺が受け取ったその場で、迷うことなく行動した事実は、宗麟の中の俺のイメージを確実に強めるに違いない。
 今の俺にとって、ほんのわずかでも宗麟に信を植えつけることが出来るなら、それは万金に優る価値があるのだ。


「そういうわけで、あの紙はもうない。切り札にはならな――のわッ?!」
 語尾に妙な声が出たのは、それまで黙っていた長恵が、不意に俺に顔を近づけてきたからである。
 さっき背を撫でていた関係上、俺と長恵の距離はとても近かったのだが、それを踏まえてなお、今の長恵の顔は近すぎる。
 本当に目と鼻の先に、ずずいっと顔を近づけられたのである。寸前まで気配を感じさせなかったあたりは、さすがに剣聖といえた――いや、さすがといっていいのかはわからんけど。


「ちょ、な、長恵?」
 おそるおそる声をかけるも、長恵は黙ったままである。
「何か……あ、や、まずはちょっと離れてほしいのだが……」
 さらに声をかけるが、それでも長恵は黙ったままである。
 怖いくらいに真剣な眼差しで、じっと見据えてくる長恵に対し、俺はどうしたものかと内心で大慌てだった。


 すると、不意に長恵が口を開いた。
「師兄」
「は、はい?」
 言葉を返すと、長恵はなにやらうんうんと頷いてみせた。
「うん、やっぱり師兄は実に良いです。姫様もとても素敵。あの時、師兄たちの方についていった方が面白いって思ったのは間違いじゃなかったです」
「む? それはどうも……」
「なので師兄、抱いて良いですか?」
「はいッ?!」
 なんでそうなる?!
 ……って、あれ、よく考えると、人のこと言えないのか、俺は。


「はい、では遠慮なく」
「ちょッ?!」
 なんだかわけがわからないうちに、長恵の胸に抱きすくめられる。
 慌てて離れようとしたのだが、さすがと言うべきか、長恵の力は尋常ではなく、容易に振りほどけそうにない。ゆえに俺はやむをえず――やむをえず、しばしの間、長恵のなすがままになるしかなかった。
 決して、細く引き締まってみえた腕が思ったより柔らかいな、とか、服越しに感じる胸の弾力が想像以上に凄いな、とか、そういったことに気をとられていたわけではないのである。



「……お義父様」
「ふぁい」
 妙な声になったのは、口が塞がれているためである。
 あわてて顔を動かし、かろうじて口は自由になったのだが――
「お忙しいようですので、私はこれで失れ――わぁッ?!」
「姫様もご一緒に」
「ちょ、な、長恵ど……お義父様、近い、近いですってばッ?!」
「こ、この状況で俺にそれを言ってもどうしようもないと思うわけですがッ?!」
「そ、それもそうですね。な、長恵殿、やめてくださ――ふぶッ」


 あわれ、吉継も長恵の胸に顔を埋める形になり。
 結局、長恵の気が済むまで、俺たち父娘は剣聖の腕の中で、赤くなった顔を付き合わせ続けたのであった。




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