豊後国戸次屋敷。
夕暮れの日差しで茜色に染まった室内に、俺と道雪殿は向かい合って座っていた。
まったく予想だにしていなかった大友宗麟からの勧誘。
つい先刻の道雪殿の言葉を思い返した俺は、それが意味することを飲み込むまでに多少の時間を要した。
道雪殿はといえば、使者の口上を告げた後は、じっと俺を見つめているだけである。
室内におりた沈黙の帳を引き裂いたのは、俺の声だった。
「……なんというか、宗麟様は本当に間の悪い方ですね。今このとき、しかも道雪様に使者を務めさせるとは」
悪意があるのではなく、ただただ間が悪い。
いっそこれが、道雪殿から軍師である俺を引き剥がすための策略だ、とか言うならなんとでも対処できるのだが、おそらく宗麟は心底から善意と誠意で行動している。
それは件の白紙委任状を見ても明らかであった。
道雪殿を使者としたことも、宗麟なりの気遣いなのだろう。
大友館に呼びつけるでもなく、一片の書状で仕官を求めるでもなく、加判衆筆頭たる人物の口から登用のことを申し出られれば、悪い気がする人間はいないだろう。
無論、それだけが理由ではあるまいが。
俺は道雪殿の客将だからして、それを召抱えるとなれば、主客双方に筋を通す必要があるし、召抱えた上で俺を誾の補佐にするというのであれば、そのあたりの差配を道雪殿に委ねる必要もある。そういった諸々の一環として、道雪殿に使者の役目を委ねたのであろうことは想像に難くない。
そして、主君である宗麟に命じられれば、道雪殿が拒絶できるはずがないことも、同様に想像に難くなかった。
「筑前殿は主を得るつもりはない。そのことは宗麟様にも申し上げたのですけど……」
道雪殿が、申し訳なさげに口にする。
それを聞いて、俺は一つの納得を得て頷いた。
「ああ、なるほど。一介の客将に対するには破格の条件だとは思ったのですが、道雪様の言葉があったから、その書状が付いてきたわけですね」
宗麟にしてみれば、これだけの条件を出せば謝絶されるはずがない、という感じだろうか。
問題は、どうしてあの宗麟が俺にそこまで目を付けたのか、ということだった。
豊前での戦果については、道雪殿や吉弘鑑理らの口から伝わったことは容易に推測できる。実際、大友館で顔をあわせた時、宗麟もそう言っていたし。
俺としては、あまり耳目を集めたくなかったのだが、臣下が戦の詳細を主君に伝えるのは義務であり、それを偽るような真似が許されるはずもない。道雪殿が宗麟に俺のことを伝えていたのは、考えてみれば当然のことだった。
道雪殿があえてそのことを俺に言わなかったのは――まあ、俺が困惑する様を見たかったとか、そんなしょーもない理由であると思われる。あるいはうっかり忘れてたとか。実際には聞いていないから何ともいえないが。
ただ、前回の豊前での戦、今回の筑前での戦、この二つの戦に関して俺の手柄を高く評価してくれたのだとしても、宗麟の態度には違和感が付きまとう。
仕官を持ちかけてくるだけであればともかく、褒美の委任状まで用意して是が非でも召抱えようとするのは明らかに行き過ぎであろう。
これが常日頃から、下層からの人材発掘に熱心な人物だったというなら、ここまで不審には思わないのだが――
俺は、その疑問を道雪殿にぶつけてみた。すると、道雪殿はわずかに眼差しを伏せ、答えを教えてくれた。
「此度の登用の件に関しては、申し訳ありません、わたくしが浅慮でした」
そういって頭を下げる道雪殿。当然、俺は何のことかと説明を求める。すると――
「宗麟様に此度の戦について訊ねられた際、口をきわめて筑前殿の手柄を称えたのです。戸次家の当主というだけでは、筑前殿の尽力に報いるにも限界がありますから、宗麟様からもしかるべき褒賞が与えられるようにと……」
宗麟は吝嗇という欠点はない。くわえて、東国に帰るに際しても、大友家の名が使えれば様々な面で役に立つ。道雪殿はそう考えたのだろう。
「……まさか、宗麟様が同紋衆以外の方を――それも他紋衆ですらない、外様の士を召抱えようとされるとは考えてもみませんでした」
そう語る道雪殿の目には、今なお驚きの余韻が漂っているように映る。
二階崩れの変から今日まで、一貫して同紋衆のみを重用してきた宗麟であってみれば、道雪殿の考えは決して浅慮とは言えまい。
そもそも、今では戸次家の双璧として名高い鎮幸殿も、元はといえば宗麟に仕えていたのである。とある戦で軍目付として戸次家の陣にやってきた鎮幸の才幹に驚いた惟信が、道雪殿に対し、鎮幸を戸次家に迎えるよう進言し、それをうけた道雪殿が宗麟に請うて麾下に招きいれたという経緯があったらしい。
軍目付は重要な役割である。ゆえに鎮幸が宗麟の麾下にいる際、とくに粗略に扱われていたわけではない。だが、道雪殿の請いにあっさり応じた時点で、宗麟の鎮幸に対する評価は知れるだろう。
あの小野鎮幸でさえその扱いなのである。
一度や二度、手柄を立てたからとて、宗麟が俺のような氏素性も知れない人間に執着を見せようなどとは道雪殿ならずとも想像できまい。
だが実際に、宗麟は道雪殿の進言――俺が主を求めていない――を蹴ってまで、俺を召抱えようとしている。当然、そこにはそれなりの理由があるはずであり、それを道雪殿が確認していないとは思えなかった。
俺がそう口にすると、道雪殿はあっさりと頷いた。なんだか疲れたような顔ではあったが。
「筑前殿と同様、わたくしもおかしいと思ってお訊ねしました。すると、宗麟様は一つの歌を詠まれたのです」
そう言って、道雪殿はみずからその歌を口ずさんでくれた。
海神(わたつみ)の、豊旗雲(とよはたくも)に、入日(いりひ)さし、今夜(こよひ)の、月夜(つくよ)、さやけくありこそ
「……万葉集に載せられている歌の一つ、詠んだ方の名は中大兄皇子。百済救援に赴く際に詠まれたものであるといわれています」
道雪殿の説明に、俺は頷くばかりである。意味も何となくではあるが、わかる気がする。
わからないのは、万葉集の歌と俺の登用にどんな関係があるか、という一点だった。
首を傾げる俺のために、道雪殿はなおも説明を続けた。
「内容自体にも意味がないわけではありませんが、宗麟様が気にかけていらしたのは、ここで用いられている『豊旗雲』という言葉です。ご存知かと思いますが、かつて豊前と豊後は一つの国であり『豊(とよ)の国』と呼ばれていました。そして、あなたの姓は雲居です」
「…………あの、もしかして?」
困惑をあらわにした俺の問いに、道雪殿は似たような表情で頷いてみせた。
「豊の国になびく旗とはすなわち大友家のもの、そしてそこにかかる雲。歌の本意とは異なりますが、この偶然に宗麟様は意味を見出してしまわれたらしく……しかも歌が詠まれたのは百済救援に赴く際。そして此度は筑前救援に赴くという共通点があります。さらに言えば、あなたの名は筑前――大友家にとって決して失ってはならない地と同名なのです。ここまで偶然が重なるはずがない、というのが宗麟様のお考えです。雲居という名が天に通じることにも、意味がある。もしかすると、あなたこそ、天より神が遣わしたもうた大友の救世主なのかもしれない、と……」
◆◆
気持ちを落ち着かせるために、お茶をすする。だが、一杯や二杯で落ち着くには、聞かされた内容があまりといえばあまりだった。
知らず、俺の口からは深々とため息がこぼれおちる。
「先刻より、道雪様がお疲れのようだと思っていたんですが、その理由が、今はっきりとわかりましたよ……」
それ以外に、何と言えば良いのやら。
馬鹿らしいというのは簡単だが、それを宗麟に納得させるには、なるほど、奇妙なほどに符号が重なってしまっていて、難しいかもしれない。
こういった感情の上に、戦の手柄を乗せれば、今回の宗麟の行動も納得がいった。
俺は頭をかきながら、宗麟の考えを推測する。
「ある意味で、宗麟様も俺を天の御遣いだと思っておられるわけですね。だからこそ、大切に思っている誾殿を守り、助けるために、是が非でも俺を召抱えたい、と」
「そういうことになりますね。わたくしも、幾度も再考を願い出たのですが、宗麟様は人が変わったように頑として受け入れてくれず、ともかく本人に確認をとってくださいと、その一点張りで……筑前殿には最後まで迷惑をかけっぱなしになってしまいました。本当に申し訳のしようもありません」
道雪殿はそう言うと、また俺に頭を下げようとする。
俺はそれを慌てて止めた。
「あ、いや、頭を下げずとも結構ですよ。道雪殿が好んで使者の役割を務められたなどとは、はじめから思っておりませんでしたから。まあ……さすがにこの理由は予測してませんでしたけどね」
そう言って俺は苦笑したが、実のところ、苦笑などしている場合ではない。
ここまでの熱意を見せている以上、俺が謝絶したからといって、宗麟がはいそうですかと引き下がるとは思えない。道雪殿なり、他の家臣に命じて更なる誘いをかけてくるだろうし、最悪の場合――と、そこまで考えて、俺は遅まきながらあの連中のことに思い至った。
「……そういえば、このことは南蛮神教は知っているのですか?」
どこの馬の骨とも知らない輩を宗麟が救世主と仰ぐ。連中にとって、それは許容できることではないだろう。下手をすると、襲撃さえしてくるやも……と心配になったのである。
だが、道雪殿は首を横に振って、俺の心配を否定する。
「筑前殿を召抱える、ということに関しては話をしたと仰せでしたが、その時点では、まだ救世主云々ということまでお考えではなかったようで――というより、どうもわたくしの話を聞いて、そのことに思い至られたようでしたので、その意味でも筑前殿には謝罪せねばなりません」
悔やんでも悔やみきれぬ、と言いたげな道雪殿だが、道雪殿ならずとも宗麟の考えをあらかじめ察するのは不可能だろう。それに、道雪殿はこちらのことを考えた上で行動してくれたのだから、感謝こそすれ、恨みなどするはずがない。
ただ、そうは言っても眼前に立ちはだかる問題には対処しなければならない。
道雪殿の話を聞くかぎり、登用を謝絶した場合、宗麟が諦めるという可能性はほとんど無いと見て良いだろう。それどころか、俺を豊後から出してくれないのではないか。だからといってこっそり東へ向かえば、それこそ大々的に褒賞金を出して捜索されかねん。
責任を感じている道雪殿は、俺が断ったという事実をもって可能なかぎり宗麟を説得してくれるとのことだし、もし宗麟がどうしても諦めなかった場合は、戸次家の力で責任をもって俺を東国へ送ってくれるとも確約してくれた。
だが、そんな事態になれば、宗麟と道雪殿の関係にも影響が出ざるを得ないだろう。そうなれば宗麟を諌められる者がいなくなってしまう。
道雪殿が加判衆筆頭として諸事に気を配ってさえ今の有様なのだ。これで道雪殿という重石がなくなれば、もはや大友家は坂道を転げ落ちるように、滅亡への道をひた走ることになるだろう。
それが大友家のみのことであれば――そして、大友家の滅亡が南蛮勢力の衰退を意味するのであれば、俺には関係ないとうそぶくことも出来たかもしれない。俺は道雪殿の依頼に応え、出来るかぎりのことをしたのだ。これ以上を求められる筋合いはない、と越後へ戻ろうと思ったかもしれない。
しかし、現状において大友家の衰退は、南蛮勢力の衰退を意味しない。むしろ、外国勢力の侵入をより早める結果に繋がるだろう。
改めて、考える。
南蛮神教の動き。連動しているであろう南蛮勢力の動向。
おそらく、カブラエルは道雪殿がこれほど早くに筑前から戻るとは考えていなかったはず。その道雪殿を筑前に追いやることが出来た今、本人はさぞご満悦のことだろう。
当主である宗麟を握っているカブラエルにとって、警戒すべきは道雪殿のみ。少なくとも、石宗殿の屋敷で、あっさりとカブラエルに従った俺のことなど気にも留めていないに違いない。それこそ名前すら覚えていない可能性もある。なにがしかの警戒心があれば、俺を誾の補佐にするという宗麟の願いにくちばしを挟んだであろうから。
改めて、考える。
どうして越後へ戻りたいのか。戻って、何をしたいのか。
『好きな人のために、命を懸けて戦った。そして、守ることが出来た。その人の命も、志も。ならば、これ以上望むものはありません』
かつて口にした言葉が、自然と脳裏によみがえる。
『それに、思うのです。いまだ戦乱は終わらず、にも関わらず私がこの地を去らねばならないのならば、それはその必要があるからではないか、と。私が一時、越後を離れることが、日の本の未来のためには必要なことで、それは結果として輝虎様の助けとなることなのではないか、と』
今日という日があることなど想像だにしていなかったあの時。それでも、その言葉に確信を抱いていたのは他ならぬ俺自身だった。
改めて、考える。
九国に来てからのこと。出会った人々。目の当たりにした情景。託されたもの。
最悪の未来図を思い描いたのなら、それを打破するために動くは当然のこと。率直に言って、肥前に発つことを道雪殿に進言したあの時から、越後に戻ることは二の次となっていた。九国に来て間もなくの頃ならばともかく、現状を知れば越後に戻る暇などないことは誰の目にも明らかだったから。
とはいえ、どれだけ考え続けても、納得できる答えが出なかったのも事実である。ただ一つわかったのは、今の俺では変えることは叶わないということだけであった。
俺が道雪殿に越後帰還を二の次にすることを言明しなかったのも、これが理由だった。戸次家の客将では、何をするにも限界がある。それゆえ、一度、東へ戻るという名目で大友を離れられれば、と考えていたのである。
しかし、今、目の前に差し出されたものがあれば。
つい先刻まで、想像だにしていなかった新しい選択肢を選びとることが出来たならば。
その先に広がる光景もまた、これまで見ることが出来なかった新しいものであるのは必然だった。
次々に思い浮かぶ策。
変えることが出来ないと苦慮していた情景が、俺の頭の中で驚くほどの勢いで塗り替えられていく。
「……さすがは大友宗麟というべきか。あるいは、これは――」
とんでもない妙手になるかもしれない。内心で小さくそう呟く。
そうして、俺は今なお脳裏に湧き続ける新たな策に没入していった。そんな俺の態度に、道雪殿が怪訝そうな表情を浮かべていることにさえ気づかずに。
◆◆
我に返ったのは、どれだけ経ってからだったろうか。一刻は経っていないにしても、優に半刻近くは過ぎ去っていただろう。
気がつけば、室内に差し込んでいた茜色の光は山嶺の彼方に没し、今、周囲を明るく照らしているのは侍女が付けたのだろう燭台の灯火である。
いつ入ってきたのやら、まったく気がつかなかった。
否、それを言えば、それだけの時間、道雪殿が黙って俺を見つめていたことにさえ気づいていなかった。
だが、無礼を詫びるのは事が済んでからで良い。今は一刻も早く、まとめあげた考えを伝えなければならない。
何故といって、それは道雪殿にも少なからず関わってくることだからである――というよりは、思いっきり渦中の人となるな、うん。
すべてを話し終えるまで、さらに一刻近い時間が必要だった。
俺の話を聞き終えた道雪殿が、じっと俺の顔を見つめてくる。そこに浮かぶのは戸惑いではない。怒りや、あるいは感謝とも違う。ただ純粋にこちらの意図を汲もうとする、真摯な色合いであった。
やがてゆっくりと道雪殿の口が開かれた。
「――宗麟様の請いに応じられるということは、宗麟様を主君とすることでもあります。そのことはどのようにお考えなのですか?」
「今のそれがしは天城颯馬ではなく、雲居筑前ゆえ――」
そう言ってから、俺はそれが冗談であることを示すために、軽く肩をすくめた。
「などと、おためごかしを言うつもりはありません。二君に仕えぬ者を忠臣というのなら、それがしは忠臣ではない。そういうことだと考えております」
ただ、これだけだと何やら開き直っている観があるので、俺はもうすこし言葉を付け加えることにした。
「天の御遣いなどと言われているところを見るに、世評では忠勇無双とでも思われているのかもしれませんが、元々、それがしは主の天道を尊しとしながら、その天道を歩けぬ者でした。必要とあらば、計略も策略もそれがしは用います。不祥の器たる兵を、楽しんでいることも否定しませぬ。天道に背こうと、結果として天道に復すればそれで良いのです」
天城颯馬のことを知っている道雪殿が、上杉謙信のことを知らないはずがない。謙信様が掲げる天道を、改めて説明する必要もあるまい。
異国との交流は否定されるべきものではない。だが、それが侵略となれば話は別だ。たとえ乱れていようとも、日の本は一つの国。他国の膝下に跪かねばならない理由などどこにもないのだから。
「それがしにとって、二君に仕えるとはそういうことです。変節漢との謗りは甘受せねばなりますまいが、それを恐れて竦んでいるつもりはありませぬよ」
まあさすがに宗麟に仕えるという選択肢は、俺一人ではまったく思いつかなかったわけで、大きな口を叩いてはいけないのだが。
ともあれ、そうと決めれば動くのは早い方が良い。これからの豊後は間違いなく危険になるので、出来れば吉継は道雪殿の下で働かせてもらい、長恵を護衛につける。
二人への説明も、出来れば今宵の内に――と、俺がそこまで考えた時だった。
「筑前殿、もう少しこちらへ寄ってもらってよろしいですか?」
道雪殿は、いつもより少しだけ小さな声でそう呼びかけてきた。
「は、はい、構いませんが、何か?」
首を傾げつつ、近づいていく。不意にいつぞやの出来事を思い起こし、慌てて髪に手をやるが――うむ、まだそれほどぼさぼさにはなっていないから、身だしなみは問題ないだろう。
ほっと胸を撫で下ろそうとした時、道雪殿の両手が、俺の左の掌を包み込むように握ってきた。
驚く間もなく、道雪殿はそのまま俺の左手をみずからの額にこつりと当てる。
その姿は、俺の左手を掴り、額に押し付けているという点を除けば、どこか神に祈りをささげる信徒のようにも見えた。
左手を包む暖かさと、間近で見る道雪殿の姿にどぎまぎしていると、不意に道雪殿の囁きが、俺の耳朶を震わせる。
「礼を申し上げる資格など、ありませんね。あなたにその決断を強いたのは、疑いなくわたくしなのですから……不躾な願いで申し訳ありませんが、今しばらく、このままでいてもらってよろしいですか?」
その声が震えているように聞こえたのは、俺の気のせいであったかもしれない。
だが、俺の手を握る道雪殿の両手がかすかに震えを帯びていたことは、気のせいではない。
ここで気の利いたことでも言えれば格好もつくのだろうが、生憎とそんな甲斐性はどこを探してもみつかるはずもなく。
俺はそのままの姿勢で、道雪殿が手を離すその瞬間まで、その場で硬直し続けたのである。