始祖ブリミルよ。私は貴方を恨みます
「そんなもんわしにいわれても知るか!大体殆ど、おのれが引き起こしたことやないか!自分のケツぐらい自分でふきさらさんかい、このドアホ!」
・・・じゃあ神を恨みます
「あ?なんやと?お前がこの世界に転生させたって?それこそ筋違いじゃ!!わしは知らんぞ、管轄外や。文句垂れるなら、お前んとこの世界の神さんに言え!」
いまさらだけど、何故関西弁・・・
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ハルケギニア~俺と嫁と、時々息子~(ブリミルのバカ野郎)
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「う、うう・・・」
「あーもう!いつまでも泣いてるんじゃないの! 嬉しいのはわかるけど・・・」
「俺の純粋な気持ちが、俺の初恋が
ぎゅ~~~~
「そんな事いうのはこの口か?え?この口か!」
「ふぁ、ふぁなふぇェ!」(は、はなせぇ!)
「大体、初恋も何もも、貴方、前世で何人の女の子泣かせたのよ?!え?名前一人づつ上げていきましょうか?!」
「ふゃれはふぁれ、ふぉあえふぉろ」(それはそれ、これはこれ)
ぎゅううううう~~~~
「ふぁああああごだああええええええ~!!」(俺の純粋な告白を返せえええ!!!)
「このスケコマシの甲斐性無しがまだ言うかあぁぁ!!!」
・・・アルビオンは今日も平和だった(まる)
*
突如登場したこの女性については説明が要るだろう。大体大まかな関係は二人のやり取りでご理解いただけたと思うが、彼女-美香はヘンリー(高志)の前世での嫁である。二人の家は隣同士であり、幼稚園から小中高と同じ学校、同じクラスという腐れ縁・・・いわゆる「幼なじみ」っていうやつだ。
黙っていればなかなか可愛い顔をしてるのだが、これがまた喧嘩っ早い上に、口の悪いこと悪いこと・・・へたなヤ○ザ映画よりも汚い言葉で、食虫植物に近寄る虫のように、見かけに騙されて詰め寄る男子をばっさばっさと斬り捨て御免。ついたあだ名が「辻斬りの美香」
おまけに柔道の黒帯ときている。確か中学生の頃、美香にふられて逆恨みした馬鹿どもがバット片手に取り囲んだことがあった。女相手に情けない限りだが、取り囲まれた当人はというと。口元を「ニヤリ」とゆがめて
「正当防衛~♪」
明らかに過剰防衛です。ありがとうございます
人って、浮くんですね。勉強になりました
俺は俺で、こんな「オトコ女」にホの字になるわけもなく。互いに馬鹿やって笑いあう友達関係だったが、大学、社会人になると、お互いの生活もあって疎遠になった。
そんなある日。失恋してヤケ酒飲んで実家に帰った次の日、目が覚めるとそこには
「・・・責任とってよ」
・・・頭が真っ白になりました
「・・・来ないの」
・・・フリーズしました
人生の墓場直行・・・で、転生して、今に至ると
説明終わり!
*
顔を別人のように腫らしたヘンリーが、見事な正座をしている。その前に腰に手を当てて仁王立ちの『元嫁』。先ほどまでの胸の高まりはどこへやら。神は神でも、破壊神シヴァに見え・・・あ、あれは男か。まぁ、こいつは男女だからいいか・・・
「・・・何か不穏当なこと考えたでしょ?」
「そ、そんなことないって、うん!」
ジト~とした目を向けるキャサリン。ヘンリーは改めて彼女に隠し事は出来ないことを、身をもって思い知った。まあそれはともかく、今は彼女に対して確かめなければならないことが、尋ねたい事が山ほどある。転生というふざけた超常現象を経験したもの同士、ここは情報収集といこうじゃないか。
「美香、お前は」
「キャサリンって呼んで」
「・・・どこぞのキャバクラ嬢かお前は」
瞬間、顔を真っ赤にして(仮称)キャサリンは反論した。
「な、なによ!だってこっちに産まれたときから『キャサリン』って呼ばれてるんだもん!いまさら『美香』に戻れないわよ!高志だって、いまさら『高志』って呼ばれても困るでしょうが!」
それもそうですね。ところで恥ずかしがるのはいいんですが、空いてる手で私を殴らないでください。痛いんですけど
「私は心が痛いの!」
私は、リアルに、痛いん、ですけ、げぶ・・・
*
(仮称)キャサリン曰く。俺は前世でやっぱり「死んだ」ようだ。いわゆる「突然死」として処理されたらしい。
「それは何というか・・・世話かけたな」
「そうよ!起きたら死んでるんだもん、最初は悪いジョークかとおもったわよ。頭蹴っ飛ばしたり、鳩尾にパンチしたり、股間踏んづけたり・・・」
・・・
「それでも起きないから、『あぁ、死んじゃったんだ』って」
「それだけ?!なんかもっと外にないの?!」
「何言ってるのよ!それから大変だったのよ!救急車呼んで、警察に事情聞かれて、お葬式の手続きして・・・一週間は寝れなかったわ!その後も会社の人だの、学生時代の同級生だのがひっきりなしにやってくるし・・・そうそう!相続、相続よ!税務署の野郎が喪も明けないうちに「相続税のお話が」とか言いながらやってきてね?!少しは間空けて遠慮すりゃいいのに」
「そ、それで?」
「1回目はお茶かけてやったわ」
・・・め、眩暈が
「2回目はホースで水ぶっ掛けてやって、3回目は・・・」
・・・
「冗談よ」
「まったく冗談に聞こえないんですけど!?」
「私だって喧嘩売っていい場合と、少しあとで売ったほうがいい場合はわかるわよ」
「結局は売ったの?ねぇ、税務署と喧嘩したの?」
「ほら、税理士のおばさんいるでしょ、前橋のおばさん。あの人に助けてもらって。家は・・・」
あー、あー。何も聞こえなーい、何も聞こえなーい・・・
*
「じゃあ君は前世で天寿を全うしたのか?」
「そうなるのかしら?90歳でぼけちゃったから、後はよくわからないんだけど」
男は相手に死なれると落ち込んで早死にするという。女性は逆に清々するのか、元気で長生きすると・・・それにしても、長生きしたんだね・・・・・・何だ、この複雑な気分は。
「俺は死んでこっちの世界に、この「体」に転生したのは9歳のときなんだが、美『キャサリン』・・・キャサリンはいつからだ?」
「産まれてすぐね。赤ちゃんのときはつまらなかったわ・・・少なくとも15ぐらいまでは目立たないように、適当に合わせた対応をしてあげたの」
「十年以上もずっと演技してたのか?」
「ふっふっふ、演劇同好会元会長は伊達じゃないのよ?」
女は生まれ付いての女優ってか。そういえばこいつ高校でそんな事やってたな・・・ん?
「・・・そういや実際の年齢は90歳だったんだよな。今は110歳ぐらいか?ははッ!ほどんど妖怪(バキッ)・・・痛い・・・」
えーい、話が進まん・・・
*
(痴話喧嘩をすっとばしました)
*
「・・・なんか俺、生傷増えてない?」
「自業自得よ」
顔をオーク鬼のように張らしたヘンリー(?)が気になっていたことを尋ねる。
「なんか釈然としないが・・・そういえば「俺」に気づいたのはいつだ?」
「はっきりとした確信を持ったのは、面と向かいあった今だけどね。なんとなくそうじゃないかと思っていたわ」
「へぇ、どうして?」
「大声で『メイド萌えー』とか叫ぶ馬鹿は、あんたしか心当たり無いもの」
・・・くやしいが、全く反論できない
「それから舞踏会とかで貴方のこと観察してたんだけど、確信がもてなくて・・・」
「聞けばいいじゃないか?」
「違ってたらどうするのよ」
モ○ダー、貴方疲れてるのよ-間違いなく電波系扱いです
「でしょ?それで確認するためにいろいろ貴方のこと調べてたら、お父様・・・ヨーク大公ね。勘違いされちゃって」
「あぁ、それで今回の話になったのか」
「そう。国王も貴方に身を固めて欲しかったみたいだし、大公家ならちょうどいいとおもったんじゃない?お父様も、メイドメイドっていう変人だけど、手腕は手堅い貴方の事買ってたみたいだし」
・・・やっぱり変人扱いなんだ
「今度の大公家領の話だけど、美『キャサリン』・・・キャサリンが根回ししてくれたんだって?」
「そうよ」
「何でだ?俺が『高志』だっていう確信は無かったんだろう?」
その言葉に彼女は、思いもがけない返事を返してきた。
「たとえ貴方が何者でも、どっちにしろ何もしないとこの国は滅んでたわよ。『レコン・キスタ』でね。何もしないで死ぬなら、何か残して死んだほうがいいわ」
「?!」
「あらら、思ったことがすぐ顔に出るところは相変わらずなのね。覚えてないの?・・・まぁ無理も無いか。貴方、死んだ日に『ゼロの使い魔』を枕の下に敷いたまま寝てたのよ?」
「うっわ・・・めっちゃ恥ずかしい死に方じゃん・・・」
頭を抱えるヘンリー。
「恥ずかしいのはこっちよ!葬儀屋さんとか、鑑識の人とか、すっごい変な顔してたんだから」
「わ、悪い・・・そ、それでお前も読んだのか?」
「そうよ。馬鹿亭主が人生の最後に読んだ本はどんなものなのかってね。流し読みだから良く覚えてないけど、大体の時系列は覚えているわよ」
そ、そうか
「まぁまぁね」
・・・?
「好きな女を守るため、7万の敵に一人切り込む・・・かっこいいじゃない!」
嬉々として語る女房を前に、ヘンリーはこっそり安堵のため息をついた。この分なら俺がアンリエッタのお父ちゃんになるかもしれない可能性には、気がついていないのだろう。
もし、美・・・キャサリンがその事実を知ったらと思うと・・・
「怖い・・・」
「何が?」
何でもない、ないよ?!
*
「なにはともあれ助かったよ、これで少しは楽になる」
ヨーク大公家領は、交通の要所であり、軍事上の要所である大都市プリマスを抱えている。大陸にも近く、各国の情報を集めやすい。またペンウィズ半島は、アルビオン屈指の穀倉地帯でもあるのだ。
「もうけ、もうけ♪」
うっしっしと嫌な笑い方をするヘンリーに、キャサリンはジトっとした視線を向ける。
「・・・お父さまとお兄様、ちゃんと面倒見てくれるんでしょうね」
「心配するな。俺もそこまで白状じゃない。最低でも領主時代の生活費と研究費は保証するさ」
「そう、ならいいんだけど・・・」
「ともかく助かった!ありがとうな」
「礼なんかいらないわよ。これも私が生き残るため。逆賊には刺し殺されたくないからね・・・最後まで戦い散っていく騎士を見送る悲劇の婦人っていうのもいいけど」
そのあまりに彼女に似つかわしくない言葉にヘンリーは笑って答えた。
「はははッ!君なら後ろで待ってないで、先陣切って敵軍に殴りかかるだろ『殿下!そろそろ』・・・おう!もうそんな時間か。悪いなキャサリン、これから農業局との打ち合わせがあるんだ」
王立魔法研究所農業局は、名目上の責任者はいるが、実際にはヘンリーが責任者である。定期的な研究報告や査察は欠かすことが出来ないのだ。キャサリンは腰を浮かせたヘンリーにむかって手をしっしっと振った。
「あー、私に気を使わなくていいから。いまさら気を使われるとかえって気持ち悪いし。早く行って、稼いで、私を楽させなさい」
あぁ、懐かしいなぁこの感じ。打てば響く軽口のやり取りが心地いい。
「なんだぁ?!それじゃあ前世と代わらないじゃないか?」
「そうよ!私と貴方はここでも「夫婦」になるんだからね?」
「はいはい・・・『殿下!』・・・今行く!まったく、融通の聞かん奴だ」
10年ぶりにあった美香は、何にも変わっていなかった。曲がったことが大嫌いで、泣き虫で、単純で、そのくせ妙なところで勘がいい、意地っ張りで、そして
「上司にきちんと意見できるのは、優秀ってことよ」
誰よりも優しい-俺の女房
「違いない」
じゃ、あとでな
うん、またね
*
部屋を出てしばらくしてから、エセックス男爵はヘンリーに尋ねた。
「殿下、ずいぶんと、その・・・盛り上がっておられましたな」
「爺さん、やっぱり聞こえてた?」
「ええ。何をおっしゃているのかまでは聞こえませんでしたが、ずいぶんお二方の声が弾んでおられたので・・・もしや殿下はキャサリン公女とお知り合いでしたか?」
んー、そうだな・・・
「そうとも言えなくないな」
「と、いいますと?」
ヘンリーはさも愉快だという表情を隠さずに言う。
「腐れ縁だ、腐れ縁!」
エセックス男爵はヘンリーの言葉の真意がわかりかねたが、主人の機嫌がいいのでそれでよしとする。元々ヘンリーが今回の話に乗り気ではなかったことを知る男爵は、今回の初顔合わせが事実上この話成否を決めるとあって気が気でなかったのだが、どうやらお二人は波長が合われたようだ。
(まぁ、仲がよろしい事にこした事はないしの・・・)
*
出された紅茶はすでに冷めていた。祭りの後の静けさ-先ほどまでの男女による馬鹿騒ぎとは打って変わり、部屋には物寂しいとも思える、静かな時間が流れている。
キャサリンは一人、ヘンリーの帰りを待つ。
「・・・これでいいのよ。これで・・・」
その呟きを聞いたものは、誰もいない