ある日起きると
「・・・子供?」
金髪のガキになっていた
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ハルケギニア~俺と嫁と、時々息子~(勝ち組か負け組か)
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欧州大陸によく似た地形を持つハルケギニア大陸。その上空で一定の軌道を維持しながら周回浮遊するのは何も二つの月だけではない。大地に含まれた風石の力によって地上三千メイルの高度を維持する浮遊大陸-それがアルビオンだ。大陸の下半分が常に白い雲で覆われているため「白の国」の通称を持つこの大陸を治めるのはアルビオン王国。始祖の長子アーサーを初代とする王政国家である。この世界の支配構造-メイジ(貴族)が平民を支配する構図はここでもかわらない。
浮遊大陸南東部の王都ロンディニウムは、文字通りアルビオンの政治・経済・文化の中心地である。この国の最高権力者の一族であるテューダー王家は、その美しさから「白の宮殿」との異名を持つハヴィランド宮殿に居住していた。当然、現国王エドワード12世の王子にして第2王位継承者であるヘンリー・テューダーの寝室もその中にあった。
「殿下、アルバートでございます」
「・・・・」
「殿下、アルバートでございます」
「・・・・」
「殿下?」
その日いつもの様に侍従のアルバートは、寝室につながるドアをノックしたが、王子からの返事が返ってこなかった。首をかしげながら、先ほどより強くドアをノックする。
コンコン!
「殿下、殿下?」
「殿下、へスティーでございます。殿下?」
第2王子付のメイド長であるヘスティーも一緒になって呼びかけるが、返事はない。不審げに顔を合わせた二人の耳に、寝室の中から声が漏れ聞こえていた。
「・・・は夢・・・・・夢・・・・・だ・・・」
どうやら殿下は何かつぶやいておられるようだ。意識はあられるようだが、返事がないのは不可解である。もしや熱を出してうなされていらっしゃるのか?アルバートは限られた条件の中から中の状況についての推察をつけた。最近夜は冷え込むと、注意し申し上げたところだったのだが。殿下の本日の予定はすべて取りやめなければならんか・・・いかん、それどころではなかったな。まずは殿下のご様子を確認しなくては。アルバートはへスティーから同意を得ると、王子の許可を得ないまま寝室につながるドアを開けた。
「アルバート、入ります」
部屋に入ったアルバートとへスティーが見たものは
「夢だよ、うんきっと夢なんだ。これは夢、うふふふ・・・あははは・・・」
ベットの上で(何故か手鏡を見つめながら)うつろな顔でブツブツつぶやく、ヘンリー王子のイッチャった姿であった。
*
「って、どっかの陰気中坊主人公みたいなこと言ってる場合じゃねって」
気分が悪いからしばらくひとりにしてくれと2人を追い出した少年(つまり俺)は、手鏡に映る自分の顔をいじくりまわしていた。キンパツに青い目-まるで西洋人形みたいだ。うーん、なかなか可愛い顔して・・・ゲフンガフンッ!いかんいかん。俺はノーマルなんだ。うん。てか、自分の顔が可愛いって、どんなナルシーだよ。痛すぎるだろ俺。
まあ現実逃避はこれくらいにしておこう。気を取り直してベットの脇に置かれたやたらとでかい姿見の前に立ってみると、やはりそこにいたのはどう見ても西洋人の子供だった。左手上げて~右手下げない!右で上げなくて~・・・うん、一人でやっても実にむなしいな。
「夢じゃないな・・・」
つねりあげて腫れ上がった頬の知らせる痛みが、西洋人の子供に若返ったというこのふざけた現象が現実であることを教えてくれる。念のためにもう一度つねって・・・いててて。
孤独な数字(まさに今の俺)素数を数えていくらか落ち着いた頭で考えてみる。この西洋人のがきのなかにいるのは誰だ?俺だ。俺に決まっているじゃないか。じゃあその俺は何なんだという話だが。
44歳と2ヶ月と2日・・・それが、この世に生を受けて、昨日布団でいびきをかいて眠りの世界に入るまで、俺が過ごして来た時間だ・・・いや『だった』か。某県にある中小商社に勤める俺は、大学時代は暇に明かせて体を鍛えまくったため、体は健康そのもの。腹筋が6つに割れているのが自慢。無論仕事も出来・・・たらいいんだが、まぁ・・・会社では可もなく不可もなく。総務第2課課長なんてものをやってはいるが、ぶっちゃけ窓際。不景気だからね、ボーナス削減や給与カットがあっても、雇用があるだけありがたいというものだ。組合万歳(組合費はらってないけど)最近薄くなってきた後頭部と、反抗期な一人息子に頭を悩ませる。そんな小市民だった・・・はずだ。
さっきのおっさんは俺のことを王子とよんだ。よく見たら点がついてて「たまご」とか呼ばれていたというオチじゃないのはいうまでもない。昨日までは小市民のおっさんが王子様?何の冗談だ?びっくりか?壮大などっきりなのか(小市民でしかない俺にこんな大それた仕掛けをしてだます必要も面白みもないということに思い至り、これは却下した)じゃあいったい今の「俺」は何なのか?自分の中の「自分」を探してみると、プリンス・オブ・ヘンリー(ヘンリー王子)-それが俺の今の名前であり、年齢は9歳と2ヶ月と2日-何故かこの2つだけは自覚できた。妙に細かいな。まあそれはともかく、現状でいえることはただひとつ。
『44歳のおっさんが9歳に若返った』
人類の夢、始皇帝ですら為しえなかった若返り(不老不死だったか?)を、俺はやってのけたのだ。すごいぞ俺。ありがとう神様(墓は仏教だけど)
・・・よし、ここは前向きに考えよう。人生をやり直せると。さらば古女房、さらばクソ生意気な息子。しかもおれは王子さまだ。王子ってことは、俺人生勝ち組?!青春をやり直す!しかも人生勝ち組で?!うっひょ~ひょ~♪
「・・・殿下?」
返事がないため再び入室すると、今度は姿見の前で一人でニヤニヤしていた第2王子の姿に、アルバートは背中に嫌な汗をかき、メイド長のへスティーは眼鏡越しに冷たい目線を向けていたが、幸いなことに「ヘンリー王子」が気がつくことはなかった。
*
1年経ちました(はやっ!)
ここは「ゼロの使い魔」の世界でした
そしてここはアルビオン王国でした
・・・まてまてまてまてぇ!!!!それって、あれじゃん!ほら、レンコン・キス・ドール・・・じゃなくて、レコン・キスタ・・・あれ、レコン・ラキスタだっけ?・・・どっちでもいい!とにかく、貴族の反乱で、王族全員えんがちょー、になった国じゃん!だめじゃん!勝ち組どころか、おもいっきり負け組じゃん!最後はアレか?ニューカッスル城で刺し殺されるの?
いーや~!!
「殿下?」
「おぉ、へスティー。いたのか」
「えぇ、ずっと」
お前はどっかの教師のストーカーかよ!
「すかーと?」
「いや、なんでもない」
彼女はメイド長のへスティー。メイドさんだ。これでもかっていうくらいメイドさんだ。黒髪のボブカットに、白いカチューシャが実に映える。しかもメガネっ子!いいね、ポイント高いね。でも猫耳付いてないのが惜しい。とっても残念。
「殿下」
仕事は文句の付け所がない完璧主義者。掃除が終わった部屋の溝を人差し指でこすって「やり直し」て言ってたのを見かけた時は「どこの小姑だよ」って大笑いしたものだ。イメージとしては優等生・・・いや、委員長だな。眼鏡掛けてるし。
「殿下・・・」
うお!その冷たい目、たまらんぞ!ぞくぞくしちゃうぅ!
「・・・」
ごめん、ちょうしこきました。
ふ、あんまりの非情な現実に、おもわず現実逃避しちまったぜ。妙に若者言葉なのは、体が若返ったからか?精神は体に引っ張られるものなのか。仮にも大学で「心理学研究会」に参加していた俺としては、実に興味深い。若いってすばらしい!
・・・現実逃避はこれくらいにして、現状はつまり・・・
俺、思いっきり死亡フラグたってる!頭のてっぺんに!ハ●坊かよ?!
どうするんだじょ~!(by丹下段平)
・・・そんなことやってる場合じゃねえ!!ととと、と、とにかく、現状把握だ。すでに1年もの貴重な時間を「メイドさん萌え~」で、つぶしてしまってるし(だって生メイドですよ?本物なんですよ?)というわけで俺はそれまで聞き流していた個人授業の家庭教師であるエセックス男爵に、食い下がるようにして質問した。特にハルケギニアと、アルビオンの現状に関して。それまで「もえ~」だの「カチューシャいい!」だのと突如わけのわからないことを言い出していた王子が人が変わったように熱心に質問する姿に、エセックス男爵は「1年もくどくど繰り返し説教してきたことが、ようやく殿下のお心に届いたか」と自分の努力が実ったことを喜んだ。
まぁ、勘違いではあるが、完全なる間違いではない。なんせ自分の生死がかかっているのだから。ということで現状把握パート2。
今はブリミル暦6198年。えーと、タバサの生まれた年が・・・たしか・・・えーと・・・思い出せ~思い出せ~・・・6・・・223?・・・いや、7だ!6227年!だから16足して、原作開始の年が魔法学院の2年で6243年か。6243-6198=45、つまりあと45年?なんだ半世紀近くあるじゃん。心配して損したぜ。
という具合にこの時までの俺は現状を気楽に考えていました。
ここで俺のニューファミリー、新しい家族を紹介しよう。
アルビオン王国は始祖ブリミル以来、5000有余年続いてきたが、初代国王の直系子孫がずっと続いてきたわけではない。分家の大公家が跡を継いだり、血筋が近いトリステインに婿養子に出された王子の息子を呼び戻したりと色々王朝交代という名の政変があったらしい。今の王家は約500年前にテューダー大公家のウィリアム・テューダーが、国王の娘と結婚して即位して成立したテューダー朝アルビオン王家。現国王のエドワード12世(俺の親父)は、その25代目にあたる。
エドワード12世(口ひげがダンディーなおじ様)には俺を含めて4人の子供がいる。
兄貴で皇太子のジェームズ・テューダー(20歳)
次男(俺)の、ヘンリー・テューダー(10歳)
長女のメアリー・テューダー(8歳)
3男が早世していて
4男のウィリアム・テューダー(7歳)
・・・なんか、微妙に嫌な予感がする。
「なぁ、エセックスよ。男爵から見て、兄様はどんな性格だ?」
「そうでございますな・・・まじめ一筋といった感じですな。とかく浮ついたところのない、しっかりしたお方でございます」
・・・うん
「そういえば、先ほど宮廷内で小耳にはさんだのですが、弟君のウィリアム様にモード大公家から養子入りのお話があったそうでございますぞ」
「兄貴の俺を差し置いてか?」
「・・・」
男爵、あさっての方向をむいて口笛ふいてるんじゃねえ。てか、わりとお茶目だなお前。まぁ俺も「メイドさん萌え~」とかいう子供を養子に・・・断固として拒否するな、うん。
・・・ちょっと待てよ・・・
たしか、レコン・キスタで殺される国王がジェームズ1世・・・時間的に考えたら、これはまちがいなく、兄貴のジェームズ皇太子だな。原作でも両脇を支えられながら最後の舞踏会に出てきたって言うくらいの老齢だったから、年齢的にも合致する。ティファニアの親父で、エルフの妾こしらえて、つぶされたモード大公は、ジェームズの弟だったはず・・・まだわからんが、弟のウィリアムが大公家に養子入りするなら、間違いなくこいつなんだろう。
そういや、ウェールズ皇太子と、アンリエッタって、従兄妹同士だったよな・・・たしか、マリアンヌ大后が、フィリップ3世の娘で、旦那はアルビオン王家からの婿養子だったから・・・
・・・ん?・・・って、ことは、だ
・・・あれ?
「俺、アンリエッタのお父ちゃん?!」
「・・・どなたですか、それは?」
ヘンリーの言葉に、エセックス男爵が首をかしげる。そんなある日の昼下がり。
時にブリミル歴6198年。原作開始まであと45年であった。
「へスティー、なに一人でブツブツ語ってるんだ?」
「独り言でございます、殿下」