瑯邪
公孫讃がその後どこに行ったか、というと、もちろん劉備のところである。
劉備は、主に青州にいて、そこの盗賊の討伐にあたっていた。
青州は曹操の青州党の出身地であることから分かるように、黄巾党の力が強かったところで、それが引きずっているのか未だ治安が悪く、盗賊が跋扈している。
劉備のいる街は臨輜(りんし)。
古は斉の都として栄えた都だ。
まあ、あくまでいるだけであって、そこを治めているというわけではない。
そこを本拠として盗賊の退治に当たっている。
地理関係は
幽州
冀州 海
青州
だから、一瞬冀州を通る必要があるが、それほど遠くはないので公孫讃は劉備の元へ難なく着けた。
「桃香、すまん。行動を共にさせてくれ」
「あれー?白蓮ちゃん、どうしたの?」
「袁紹様に追い出されてしまった」
「えー!袁紹ちゃん、酷いねえ!」
実は自分が原因だったとは夢にも思わない劉備である。
というか、そんなことは、顔良以外誰も知らないだろう。
「まあ、今の世、そういうこともある。
もう、とやかく言っても仕方ないだろう。
命があっただけでもよかったと思わなくては」
「そうなんだ。それじゃあ、これからは二人で頑張ろうね!
いつかは袁紹ちゃんを見返そうね!」
「ああ、そうだな。
だが、立場としては私が桃香の部下ということにして、またそれほど目立たないようにしておいてもらいたい」
「えー?どうしてー?
白蓮ちゃんなら、州牧でもできるくらいなのにー!」
「袁紹様に追い出された身。
陶謙様の所領にいることがわかったら、陶謙様にもご迷惑がかかる」
「そっかー。そうだね。うん、わかった」
ということで、劉備の家来になってしまった公孫讃。
下克上ではないが、主従転倒だ。
それからは、公孫讃も盗賊退治に協力するようになった。
劉備も公孫讃と行動を共に出来て嬉しそうだ。
盗賊退治は関羽、張飛の担当。
劉備と諸葛亮は街の中をうろうろしては人々と話をして、愚痴をきいたり、盗賊の情報となりそうな話を聞いたり。
ここでも劉備はその魅力を遺憾なく発揮した。
「そうなんだぁ。
税ってそんなに重いんだ。
ねえ、朱里ちゃん、もっとみんなが楽に暮らせるように出来ないの?」
「そうですね。六割は多いほうですね。
四~五割でも何とかなるのではとは思うのですけれども、税を減らすと軍備が減ることも考えられるので、すぐに減らせると言うものでもありません。
陶謙様と相談して、それが出来るかどうかを考えなくてはなりません」
「そっかー。難しいんだね。
ごめんね、桃香ちゃんの力ですぐにどうにかできるものじゃないんだって。
できるだけ頑張るから」
「いえ、今までこのような話を聞いた方は一人もいらっしゃいませんでした。
聞いてくださっただけでもうれしいのです」
とにかく同じ立場に立って親身に聞く、というのがいいのだろうか?
劉備は偉そうなところが全然ないから。
それ以前に性格が重要な要素を占めている気もするが、劉備はこの地でも高い人気を博するようになっていた。
どこに行っても民衆にはとにかく人気が高い劉備であった。
そんななか、大事件が勃発する。
徐州瑯邪国開陽にて、陶謙の部下が曹操の父と妹の曹嵩、曹徳を殺害したと言うものだ。
二人は、董卓が悪政を行っているというので、洛陽から遠いここ瑯邪国に疎開していたのだが、どうやらもう大丈夫だろうというので許に戻るところを襲われたのだった。
それを聞いた曹操、怒り狂って瑯邪国に出撃を命ずる。
「ゆ、許せない……桂花!全軍出撃!!
瑯邪国の命と言う命を根絶なさい!!!」
「ぎょ、御意!!」
身内は臣下であっても大事にする曹操である。
親族が殺されたとあっては、その怒りも想像を絶するものだったのだろう。
あまりに凄惨な指示に、さすがの荀彧もびびってしまうが、曹操の指示である、全軍に出陣の指令を出す。
このころ、曹操は当初の軍勢5万人に、投降した黄巾党を曹操の直轄軍とした青州軍30万人を加え、袁術を凌ぎ、袁紹に次ぐ大勢力となっていた。
青州軍は常備軍ではないが、その全員に出陣の指令が出た。
曹操軍は瑯邪国に向け、全軍が突撃していった。
そして、瑯邪国に至るまでの10を越す街という街は、全て殲滅させられた。
三国志史上、最大の大虐殺であった。
尚、このときの曹操の姿がローマに伝わり、以降ヨーロッパでは死神は髑髏の顔(髪飾りを模したものだろうか?)に、大鎌を持って現れる姿として描かれるようになったのは、曹操の知らないことである。
曹操軍はそのまま徐州に攻め込むか、と思われたが、瑯邪国を落とすと、さっと豫州に戻っていってしまった。
さて、劉備はそのころ何をしていたか、と言うと、曹操軍が攻めてきたと聞いて、大急ぎで曹操軍に対するために自分の軍を南に移動させた。
「え!曹操ちゃんが攻め込んできたの?
大変!陶謙様を助けなくちゃ!!」
劉備の軍といっても、幽州から連れてきた数百名+公孫讃軍百名強、全部で千名に満たない兵がいるだけだ。
数十万規模の曹操軍とあたったら、ひとたまりも無く殲滅させられてしまうだろう。
しかも、曹操軍は今いる場所と陶謙との間にいる。
戦術的にあまりに無謀な考えに、諸葛亮や公孫讃は考えを改めるように説得するのだが、
「確かに曹操ちゃんとぶつかったらひとたまりもないと思う。
だから、何とか曹操ちゃんに会わないように陶謙様の元に向かえないかなぁ?
そうしたら、陶謙様の軍の役に少しはたてると思うんだけど」
という、劉備の強い意志で結局軍をすすめることになってしまったのだ。
幸運にも曹操軍は既に撤退した後で、劉備軍が曹操軍と矛先を交えることはなかった。
曹操軍と陶謙軍の戦いはなさそうだが、劉備はそのまま陶謙の許へと向かう。
「陶謙様!ご無事ですか?」
「ああ、劉備か。
知ってのとおり、曹操が戻ってくれたおかげで命拾いした」
各地に散らばっている陶謙の部下で、彼の元にやってきたのは劉備が最初だった。
陶謙を見てみれば、命は無事だが、すっかり意気消沈してしまって、何もやる気がない雰囲気だった。
怒涛の曹操軍のを見て、恐怖を感じたのだろう。
「よかった!
陶謙様がご無事なだけで、桃香ちゃん安心!」
「今回の事態は、私の責任だ」
「……そうなの?」
「ああ。曹操の親族が領内にいることはわかっていたので、彼等に監視をつけていたのだ。
動きがあったら報告をするようにと伝えておいたのだが、部下が彼等が許に戻るのを見て、怪しい動きと判断して殺害してしまったようだ。
そこまでしなくてもよかったものを」
陶謙、悔やんでも悔やみきれないという雰囲気だ。
「でも、曹操ちゃん戻ったから、もう大丈夫だよ!」
「だが、いつ曹操が再度攻め込んでくるかと思うと……」
弱気な陶謙である。
まあ、あれだけの力を見せ付けられると、弱気にもなってしまう。
「大丈夫!桃香ちゃん、曹操ちゃんを防ぐから。
ね!朱里ちゃん!!」
「え、えーーっと……
いくらなんでも今の手勢では少なすぎて、防ぐのは無理ではないかと……」
現実を直視する諸葛亮である。
「私の手勢四千を桃香に差し上げよう。
そして、小沛城も桃香に譲ることとしよう。
小沛城にて曹操軍を防いでくれ」
大盤振る舞いの陶謙である。
「うん、わかった!
朱里ちゃん、がんばろうね!!」
「え、ええ……」
それでも足りなすぎる!と思う諸葛亮であるが、陶謙の手勢(しかも精鋭)を渡され、城まで譲られると、否ともいえず、しぶしぶ了解するのである。
こうして、いきなり城主に抜擢され、小沛城に向かう劉備軍一行。
小沛城というところは、兌州(正字は兗)に半島のように飛び出した場所にある、半ば陶謙領の孤島である。
だから、曹操が攻めてくるとしたら真っ先にぶつかることになる。
諸葛亮は、城を出来る限り要塞化していった。
城壁のほころびは全て修復し、扉の強度も上げた。
あらゆる罠をしかけ、知っている限りの新兵器を用意した。
それから、篭城になっても大丈夫なよう、兵糧の確保もおこなっていった。
だが、そういう準備をしている間、曹操軍は全く攻めてこなかった。
あとがき
袁紹伝なのに袁紹関係の人物が一人も出てこない……
申し訳ございません。
あと、何回かそういう状況が続くような……
できるだけ端折りますので、もう少々お待ちください。