決戦
そして、二人が実戦訓練を行う当日がやってくる。
「オーッホッホッホ。みなさ~ん、今日は華麗な袁家軍の訓練成果を見せる日ですわ。
斗詩、猪々子、期待しておりますわ」
「わっかりましたー、麗羽さま~」
「はい、頑張ります、麗羽様」
「斗詩、いよいよ今日が斗詩の体を好きに出来る……でへへへ」
「文ちゃん、それは無理だから。
今日勝つのは私だよう。
それに文ちゃんの兵隊、みんな疲れているみたいだけど」
「う、うるさいなぁ。やるときはやるんだよ!」
「まあ、やればすぐわかるけどね。
それじゃ、はじめよっか」
「ああ!今晩が楽しみだ」
だが、一刀や沮授が予想したとおり、勝負は最初から分かっていた。
文醜軍の突撃力は、麗羽に見せたときのような破壊力は最早無く、試合開始からほんの数分で終わってしまった。
「そ、そんなぁ……斗詩の体がぁ……」
がっくりうなだれる文醜。
「斗詩、素晴らしい試合でしたわ。
流石は袁家軍だということを示してくれました」
「もちろんです、麗羽様」
「これからも訓練に勤しみなさ~い。オーッホッホッホ」
「はい。……その、あの」
「なんですの?斗詩」
「勝ったらご褒美をくれるって仰っていたような……」
「え?あ、そ、そうでしたわね」
すっかり忘れていた袁紹は、困った顔で思案している。
ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、チ~~ン
「それでは、斗詩。この剣を授けますわ」
「え?それは公孫讚さんが質草に差し出した宝剣なのでは?」
「そそそそうですわ。でも、どーせ公孫讚は借りた食料返せませんから、構いませんわ」
袁紹は、ちょっと目を逸らして返事をしている。
疾しいことを言うときの癖だ。
「本当にもらっていいんですか?」
「よろしいですわ。返せといわれたら倍の食料でも渡しておけば文句もいいませんわ」
「ありがとうございます、麗羽様。
大事にします!」
大喜びの顔良。
袁紹は、今度は文醜に話しかける。
「猪々子は、今日は精彩を欠いておりましたね。
もっと華麗に動いてもらわないと、袁家軍としてはずかしいですわ」
「ご、ごめんなさい、麗羽様。
それで、あのもう一度斗詩と勝負する機会をください!
このまま負けたまま終わるなんて悔しいです!」
「そうですわね。それではまた1ヵ月後、試合なさい。
斗詩もそれでいいですわね」
「もちろんです、麗羽様。
文ちゃん、返り討ちにしてあげるから」
「ふっふ。今度はそういうわけにはいかないぜ」
だが、言葉とは裏腹に、文醜は弱気になっていた。
自分のできることを全てしたつもりなのに負けてしまうなんて。
「え~ん、一刀ぉ~、負けちゃったよう」
夜、文醜が一刀の部屋に泣きを入れてきている。
「そ、そうでしたね」
「あたいは、勝ちたいんだよ。
一生懸命訓練もしたんだよ。
でも、負けちゃったんだよ。
どうすれば勝てるんだろう?
教えてくれよう~~」
「そうですねぇ。
毎日訓練見てましたけど、猪々子さん、ちょっと頑張りすぎだったんじゃないでしょうか?」
「頑張りすぎ?」
「ええ。休みもなしで毎日訓練したら、普通の人は疲れて動けなくなってしまいますよ。
だから、数日に1日は休みを入れるようにして、体力が持続するように訓練したらいいんじゃないですか?」
「そうか!分かった!」
そう言って、文醜は一刀の部屋を飛び出していってしまった。
「それから軍師を……」という一刀の台詞は聞かれることが全くなかった。
そして、一ヵ月後。
文醜軍の突進力は凄まじかったが、横からの攻撃は想定しておらず、やはり完敗した文醜。
「え~ん、一刀ぉ~、また負けちゃったよう」
夜、文醜が一刀の部屋に泣きを入れてきている。
「そ、そうでしたね」
「あたいは、勝ちたいんだよ。
一生懸命訓練もしたんだよ。
休みもとったんだよう。
でも、負けちゃったんだよ。
どうすれば勝てるんだろう?
教えてくれよう~~」
「やっぱり、軍師をつけたらいいんじゃないですか?」
「軍師?」
「ええ。斗詩さんも菊香さんの指示で訓練したり軍を動かしていますから。
軍の統率を取るのは大将ですけど、どのように軍を動かしたら効率的かということは軍師がよく知っていますから。
突撃だけじゃ勝てないと思いますよ」
「そっかーー。
……分かった!」
今度は猪のようにではなく、ちゃんと思案しながら部屋を出て行く文醜である。
翌日、文醜の選んだ軍師が明らかになった。
沮授や一刀と話している田豊のところに、逢紀がやってきた。
この人、見た目のインパクトが抜群。
派手な和服、日本髪、多数の簪、白く塗った顔、手に持つ煙管、高さ30cmはありそうな黒い下駄。
その姿はどう見ても花魁。
ものすごーーーく華麗。
だから、袁紹に受けがいいのかも。
一方の田豊や沮授は華麗というよりは清楚・可憐という雰囲気だから袁紹さんと反りが合わないのかも。
「菊香はん、あちきが猪々子はんの軍師でありんす。
よしなにおねがいするでありんす。
次の戦いは猪々子はんが勝つでありんす。
負けたときの言い訳を考えておくとよいでありんす。ホホ」
「そう、あなたが軍師なの、太夫。
それなら、より負けるわけにはいかないわね。
あなたこそ、負けて泣かないようにすることね!」
真名が太夫!出来すぎです。
「オホホ。その言葉、そのまま返すでありんす。
そうそう、清泉はん、一刀はん、あちきの訓練は覗かないでもらいたいのでありんす。
敵に動きを悟られたくないのでありんす。
よろしいどすえ?」
ホホホと笑いながら逢紀は去っていった。
残されたのは怒りで頭が沸騰している田豊。
こんなに怒った田豊を見るのは初めてだ。
「っもう、むかつく!むかつくわ!!」
「何でそんなに怒っているの?」
と、一刀。
確か、田豊って逢紀の讒言がきっかけで殺されてしまったくらい仲が悪いはずだから、まあそうなるのもわからないでもないけど。
もし、そんな事態になりそうになったら……菊香を連れてどこかに逃げよう。
あの袁紹さんじゃあ考えにくいけど。
それにしても、よくもまあこれだけ仲の悪い人々が同じ陣営にいたものだ。
何が原因なんだろうか?
「何か、太夫はそばにいるだけでむかつくのよ!
大体、あの格好何?おかしすぎるでしょ?
話し方もむかつくし。
そのくせ、妙に出来るときがあるし。
あ~ん、もう!
清泉、絶対負けたくないの!手伝って!」
「いいですよ」
こうして軍事演習は第2段階に進んだのである。