幽州
さて、袁紹軍が黄巾党を説得だけで服従させていた頃、驚くべきことに同じような方法で黄巾党を服従させていた州が他にもあった。
しかも、冀州のすぐ隣の幽州。
袁紹軍が冀州、并州を鎮めている間に、幽州は公孫讃が鎮圧に乗り出していたのだ。
冀州が最も黄巾党の活動が活発だったので、説得工作だけでも冀州の鎮圧には時間を要し、そのため幽州の鎮圧に公孫讃が名乗りを上げた。
袁紹もその行動は認めていて、冀州、并州が袁紹、幽州が公孫讃という分担が為されていた。
ここ幽州で活躍していたのは劉備。
顔良や一刀と同じように、一人黄巾党の暴徒の前に立って、説得を試みるのだ。
「みんなーーー!!
なかよくしようーーーーー!!!」
普通の人間がこんなことを言っても効果は期待できないが、劉備はちょっと人間の格が違う。
もう、常人では考えられないほどのおおらかさ、彼女と一緒にいたら多少のことはどうでもよいかと思わせる器の大きさ、なんとなく人を惹きつける魅力、そういったものを備えた彼女が説得をすると、暴徒となっていた黄巾党の人々も、なんとなく
「そうだなぁ」
と思ってしまって、闘争心がそがれてしまう。
その結果、次々に投降して行く黄巾党の暴徒たち。
同時に、劉備の評判は民衆の間でどんどん高まっていく。
こうして、幽州もほとんど戦闘らしい行為なしに公孫讃軍により平定されてしまったのだ。
「いやー、本当に桃香のおかげだよ。
よくやってくれた」
今まで劉備を疫病神としか見ていなかった公孫讃であるが、こうも活躍されるとやっぱりすごいやつだったんだ、と認識を変えざるを得ない。
のほほーんとしているようだが、やるときはやる桃香なんだ、だから部下たちも律儀に付き従っているんだなぁと認識を新たにする。
「うん!これで幽州は白蓮ちゃんのものだね!」
劉備は、当然だね!というのりでそう公孫讃に語りかけるのだが、現実はそれほど甘くは無い。
「いや、それは……だな」
「あれ?違うの?」
「何進様の治めていた土地は袁紹様が治めることになったのだ」
「えーー?!だめだよー。
折角白蓮ちゃんががんばって乱を収めたんだから白蓮ちゃんが治めなくっちゃ。
それに幽州の人はみんな白蓮ちゃんのことを慕っているんだから白蓮ちゃんが治めた方がきっとうまくいくよ。
だから、幽州は白蓮ちゃんが治めたいっていったら袁紹ちゃんもきっと分かってくれるよ。
袁紹ちゃん、優しいから!」
劉備にそういわれると、公孫讃もついそんな気がしてきてしまう。
「そうだな。頼むだけ頼んでみるか」
「そうだよ!そうするといいよ!」
「それじゃ、桃香も一緒に袁紹様のところに行ってくれるか?
桃香の頼みなら袁紹様も聞いてくださるような気がする」
「いいよ!一緒に行こう!」
こうして、公孫讃と劉備は袁紹の元に出向くことになる。
今回は参謀と言うことで劉備のグループからは諸葛亮一人が同行している。
関羽と張飛はお留守番。
お願いするだけだから、お目付け役の関羽がいなくても大丈夫という判断だろう。
関羽は最後まで同行することを希望していたが、
「大丈夫だよ、愛紗ちゃん、今回は政治の話だから。
盧植先生のところで政治は一生懸命お勉強したからうまくいくよ」
「確かにそうかもしれませんが……」
「武を使うことはないし、護衛なら白蓮ちゃんのところの兵隊がやってくれるから問題ないよ。
ゆっくり休んでいて!
今まで苦労かけたから、たまには休まないと。ね♪」
「ですが……」
「それとも愛紗ちゃんが袁紹ちゃんのところに行きたい理由があるの?
そうだったら行ってもいいけど。
あ!ビールでしょ!そうだよね。あれおいしかったものね。
じゃあ、護衛役に来てもらおう!」
「そ、そうではございません。
申し訳ございません、桃香様の仰るとおりにいたします。
今回はここにとどまることにいたします」
「うん、ごめんね。我侭いっちゃって」
というように劉備になだめすかされてしまって幽州にとどまることになったのだ。
劉備に行きたい理由と問われて、一刀の顔が思い浮かんだことは、劉備には秘密だ。
その一行が例によって白馬で業を目指している。
「袁紹様、黄巾の乱の鎮圧の報告に参りました」
「オーッホッホッホ。公孫讃、あなたの軍も華麗に仕事を進めたようですわね。
ずいぶん早く鎮圧が済んだようですが」
「はい、ここに控える劉備が黄巾党を説得し、それが効を奏しましたので鎮圧が速やかに進みました」
「そうですか。そんなことをしていたのですか。
何はともかく、この私の領土の乱を華麗に治めたのは賞賛に値しますわ。
何か褒美を取らせましょう。望みのものはありますか?」
「それなのですが………失礼を承知で申し上げます。
統治する場所の拡張を望みます」
「そうですか……」
袁紹はなにやら思案を始めた。
「それでは、幽州牧として、公孫讃に琢郡に加え、漁陽、代、上谷の三郡の太守を命じますわ」
「ありがとうございました!」
満足そうな公孫讃に対し、劉備は不満そうだ。
「えーー?幽州牧じゃないのぉ?」
突然割り込んでくる劉備に、袁紹は怒りを隠さない。
「またあなたですか、劉備!
いくら乱世の世とはいえ、できることとできないことがあるのですわ!」
「でもね、でもね、みんな白蓮ちゃんを信じているから投降したんだよ。
今、幽州は白蓮ちゃんを中心にまとまっているんだよ。
白蓮ちゃんじゃないと、またばらばらになっちゃうよ!
だからお願い!
白蓮ちゃんに機会を与えて!」
「これ以上の譲歩はできませんわ。
そうそう、劉備。あなたも活躍をしたそうですから、それ相応の報酬を与えなくてはなりませんわね。
安喜県の県尉を命じますわ」
冀州中山国安喜県。
冀州の片田舎である。
活躍の割りに与えられた褒賞が少ない。
鬱陶しいから、公孫讃と分けて、別の地方の役人でも任せておけ、という腹積もりだろう。
「桃香ちゃんはどうでもいいから、白蓮ちゃんにもっと褒章をあげてよ!」
「うるさいですわ!
これで会見もおしまいです!」
さすがに幽州の州牧は劉備のわがままを以ってしても得ることはできなかった。
さて、袁紹との会見を終えた公孫讃一行であるが、早速結果について話を始める。
「桃香、ありがとう。
おかげで、四郡の太守になることができた。
本当に桃香のおかげだよ」
「ううん、そんなことないよ!
本当は幽州を治めてもらいたかったんだけど……」
「それは、いくらなんでもできない相談だろう。
袁紹様の仰る通りだ。
でも、桃香の方こそ、随分褒章が少なくて……。
私のところに来ないか?
いくらなんでももう少しましな地位が約束できるが」
「そうですよ、桃香様。
あんな袁紹さんの言うことを全部まともに聞く必要はありません。
桃香様は黄巾の乱を鎮めるのに活躍したのですから、もっと褒章があって然るべきでしゅ!」
諸葛亮も公孫讃の意見に賛同している。
「うーん、朱里ちゃんがそういうなら。
でも、あの袁紹ちゃん、うんって言ってくれるかなぁ」
「それでは、私と朱里殿で掛け合ってみよう。
桃香は待っていてくれ。
また、波風起こすと困るから」
「うん、白蓮ちゃんがそういうなら、そうする」
というわけで、再び袁紹に面会に行った公孫讃と諸葛亮。
「え?劉備の扱いについて、ですの?」
「はい、袁紹様。
劉備は私の郡のどこかの役人につけたいと思います。
もちろん、報酬は郡の中で工面いたします」
それならば劉備に支払うはずの給金は不要となる。
公孫讃と劉備がくっついているのがうざったいが、悪い話でもない。
「いいでしょう。
その代わり条件があります」
「なんでしょうか?」
「劉備をこの業に二度と入れないことですわ」
「はい!それでしたら間違いなく約束いたします!」
公孫讃にとってもそれほど無理難題でもないので、あっさりそれを受け入れる。
こうして、公孫讃は幽州の四郡の太守となり、劉備は琢郡范陽県の県令に就任することとなった。
あとがき
たしかに流石に州牧を任せるというのは無理すぎるので、郡を増やすことにしました。
この程度なら、大丈夫ではないでしょうか?
ただ、こうなると公孫讃は袁紹の部下ということになってしまうので、今度は公孫讃を撃退するときに無理が生じてしまうような気が大いにするのですが、まあそのときに考えることにします。
また、酷い無理があったらご指摘ください。