何進
恋姫三国志の世界では、既に袁紹が冀州を治めている。
その治世もそれほど悪くない。
というより、政治だけを客観的に見れば善政だと思う。
袁紹のイメージが悪いから悪い印象を受けるが、やっていることだけをみれば優秀だ。
賢人会議の恩恵という説もあるが。
経済の発展も著しい。
農業は一刀の影響が大きいだろう。
その状態で黄巾の乱が起こるのだろうか?
冀州が黄巾の乱勃発の地なのに。
その疑問は田豊に聞いためちゃくちゃ後漢状況で納得した。
まず、冀州であるが、これはどういうわけか業を含む半分だけ袁紹の管理下にある。
それでも九州より大きいようだけど。
そして、残りの半分と幽州の大部分、そして并州を治めるのがどこをどう間違ったのかかつての大将軍何進。
幽州の一部が公孫讃というのが河北の支配状況。
青州は陶謙が治めているので、袁紹の管轄外。
きっと、そのうち曹操がとるのだろう。
たしかに、これなら公孫讃と袁紹の距離が近いのも納得できる。
冀州で黄巾の乱が勃発したのも分かる。
それにしても……ねえ?
何で何進がこんなところにいるかというと、何皇太后・宦官連合軍に権力闘争で負け、命は助けてもらったものの、中央政界からは抹殺されてしまったそうだ。
世に言う党錮の禁。
その所為で大将軍から地方の州牧に転じられていたとのこと。
そんな歴史があったかなぁ?
三国志演戯も真っ青のご都合主義。
何で袁紹がそんなちっぽけな土地で我慢しているの?
何進は黄巾の乱もないのに、どうして大将軍になったの?
何進がいるのに、どうして逢紀が袁紹に仕えているの?
もう、突っ込みどころ満載の状況だが、そういう歴史だそうなので、受け入れるしかない一刀である。
自分の知っている歴史は、何が使えるのだろう?と改めて頭を抱えるのだ。
袁紹、実は相当お人よしだから権謀術数の策を巡らす政治家にいいようにカモにされていたのかもしれない。
「つまらん!!つまらん!!」
で、その何進。
元はただの肉屋、というか屠殺屋である。
妹のおかげで大将軍にはなったが、そんな器ではない。
清流派を重用したといっても、別に自身が清流なわけではない。
宦官ら、濁流派を淘汰したいから、清流派を重用しただけだ。
敵の敵は味方だから。
だが、今は濁流派に破れ、党錮の禁により清流派は粛清され、自分もこんな辺鄙と思っているところにいる。
政治的な思想は全く無いといってよい。
唯一ある思想は、自分が贅沢をしたい、それだけだ。
一度大将軍になって、贅沢を味わってしまった今、地方にいたら質素でたまらない。
洛陽はよかった、豪奢だった。
あの雰囲気をもう一度味わいたい。
その結果が毎日酒池肉林の宴会三昧。
さすがは元肉屋。
当然、内政なんか碌にするわけがなく、民の困窮はひどくなる一方だ。
金の消費も激しいので、税率は8割に達している。
袁紹領の税率3割とはえらい違いだ。
ちなみに、他の地方の税率は4~6割位が相場らしい。
「何大将軍、それでは新しい酒をお持ちしましょうか?」
部下はご機嫌をとるために、未だに大将軍と呼んでいる。
「酒も女も料理も飽きた!
何かもっと変わったものはないのか!」
「そうですねえ。
最近、巷では数え役萬☆姉妹という歌い手が流行っているようです」
「数え役萬☆姉妹?」
「ええ。歌も踊りもうまく、結構な評判だとか。
丁度、ここ鉅鹿にきているそうですから、その者達を連れてきてここで歌わせるというのはどうでしょうか?」
「それは趣向を変えるには良さそうだ。
早速連れてまいれ!」
「御意」
その日、数え役萬☆姉妹、即ち張三姉妹はいつものように野外特設スタジオでコンサートを開こうとしていた。
張三姉妹。
長女張角。真名件芸名が天和。
次女張宝。真名件芸名が地和。
そして、三女張梁。真名件芸名が人和。
偶然手にした太平要術の書という謎の書物の知識を利用して、マイクもないのに拡声器と同じような効果を持つ、一種のマジックアイテムを持っている。
「みんな大好きーー!」
「てんほーちゃーーーーん!!」
「みんなの妹ぉーっ?」
「ちーほーちゃーーーーん!!」
「とっても可愛い」
「れんほーちゃーーーーん!!」
「今日もいくねーー!!」
「おおーーーーーーっ!!」
今日も公演は盛況だ。
みんなのってる。
気合を入れて公演をしよう!
そう思う張三姉妹である。
そこにどかどかと入り込んでくる兵士達。
「この公演は中止だ!
張三姉妹は何進様にお呼ばれになったのだ。
ついてまいれ!!」
隊長らしい兵士が会場にいる全員と張三姉妹に命令する。
「いやよ!かしんだかなんだか知らないけど、公演をみたいなら、ちゃんとお金払って見に来ればいいじゃない!
わたしたちは、公演を見に来てくれる人みんなのために歌を歌っているのよ。
ここに来てくれた人が、今一番大事なの!」
張三姉妹の長女、天和がしっかりとした声で兵士達に怒鳴り返す。
やっぱり長女、こういうところはしっかりしている。
「そうだそうだー!」
「天和ちゃんは俺たちのものだー!」
「帰れ帰れーー!!」
「なんだと!?歯向かうならば殺す!」
「脅せば何でも言うことを聞くと思ったら大間違いだぜえ」
「そうだー!もう散々搾り取られているんだ。これ以上俺たちから金や楽しみを奪うことはゆるさねえー!」
「やれるもんならやってみろー!!」
「殺れ」
隊長が部下に命ずる。
部下は命令に従い、やってみろといった男を槍で貫く。
「グヴァッ…」
男は妙な声をあげて、うずくまってしまった。
「キャーーー、助けてーーー!!!」
地和の絶叫が会場に響き渡る。
それを聞いたファンたちは、まるで催眠にかかったかのように、
「天和ちゃんを守れーー!!」
「地和ちゃんに指をふれさせるなーー!!」
「人和ちゃんは俺たちのものだーー!!」
そう、口々に叫んで、兵士達に素手で襲い掛かる。
兵士達は、武装しているとはいえ、いくらなんでも多勢に無勢。
ファン達に数名の被害者がでたが、兵士達は殲滅させられてしまった。
こうなると、日頃悪政に鬱積している人々である。
「何進をやっつけろー」
「漢王朝をぶっつぶせー!!」
と、その勢いが武装蜂起につながっていく。
その勢いは張三姉妹のファンのみならず、民衆全体に広がっていく。
もう、漢の、何進の悪政は臨界に達していたのだ。
きっかけさえあれば、いつでも暴動が起こる素地ができていた。
鉅鹿は暴徒で溢れかえった。
あとがき
袁紹が黄巾の乱の前に冀州にいて一刀を拾う状況にしたら、ここにきてようやく設定が無謀であることに気がつきました。アハハハハ!
こんなことなら、冀州にいないことにすればよかったとも思うのですが、今更遅いし、そうしないと公孫讃との関係がおかしくなってしまうので、苦渋の内容です。
我ながら失敗だったと思う設定で、色々ご意見もあるでしょうが、とりあえずこういうことにしておいてください。
大変失礼いたしました。
治めているのは何進でも誰でもよかったのですが、袁紹より上の立場にあって適当な人物がいなかったので、何進に悪役になってもらいました。
本当のところ、あまりいい人でもなさそうですし(違ったらごめんなさい)、韓馥は悪政というより、気弱な雰囲気ですし。