玄徳
ドラ○もんの歌のような歌が野に響いている。
こんなこっといいな で~きた~らいいな
あんな夢こんな夢 いっぱいある~けど~
中国全部 平和にしよう
わたしのともだち かなえてく~れ~る~~
わ~るいやつらを やっつけた~いな~
「ハイ! 愛紗ちゃ~ん!」
アンアンアン とってもか~わい~い 桃香ちゃん
劉勝の末裔 す~ごい~ね桃香ちゃん
皇帝になったら すてきなくら~し~
みんなみんなみ~んな え~がお~でく~らす
わたしのともだち かなえてく~れ~る~~
りっぱなせいじを や~りた~いな~
「ハイ! 朱里ちゃ~ん!」
アンアンアン とってもえ~らい~な 桃香ちゃん
てへ♪
………………こ、こいつ、駄目だ!
「あーん!鈴々が歌にでてこないのだあ!」
………………こいつら、駄目駄目だあ!
駄目駄目でなさそうなのは、その歌をひくひくした表情で聴いている他の二人。
そう、この4人組は劉備、関羽、張飛、諸葛亮の4人。
字はそれぞれ玄徳、雲長、益德、孔明、真名は桃香、愛紗、鈴々、朱里。
能天気な歌を歌っていたのはもちろん桃香、即ち劉備。
「あ、ごめんね、鈴々ちゃん。でも、鈴々のちゃんのこともだ~いすきだよ!」
「うれしいのだあ!でも、鈴々の歌も聴きたいのだあ」
「じゃあ、鈴々の歌も歌うね。え~っと……」
「と、桃香様、公孫讃様が手に入れられたという宝剣、桃香様の剣だといいですね」
歌から別の話題に振ろうとする関羽。
「うん、そうだね。宝剣を手に入れたってことしか分からないから、桃香ちゃんの剣かどうかわからないけど」
「あー!愛紗、鈴々の歌をじゃましたのだあ。ひどいのだあ」
「そ、そうだな。
そうだ、鈴々、あとで二人だけの時に桃香様にたくさん歌ってもらうというのはどうだ?
鈴々が満足するまで桃香様は歌ってくださるとおもうぞ。
な、なあ、朱里殿もそうは思わぬか?」
「そ、それがいいと思います。
桃香様の歌もいいですけど、これからのことを話し合うというのも大事だと思います」
「愛紗と朱里がそういうのならそうするのだあ」
「それで公孫讃様の所にいきなり出向いていって受け入れて下さるのでしょうか?」
歌を歌わせないよう胃に血のにじむような努力を続ける関羽。
そう、今、彼女ら4人は劉備の盗まれた剣を取り戻そうとしているところ。
劉備はかなり抜けているので、家宝の宝剣靖王伝家を盗まれてしまっていた。
ところが、公孫讃が賊を退治したときに宝剣を見つけたといううわさを聞きつけ、もしかしたらそれが靖王伝家ではないかと思い、公孫讃にその剣を見せてもらうため、公孫讃のところに向かっているところだ。
それで、公孫讃が会ってくれるかどうかを確認した、というのが関羽の台詞の背景である。
それが靖王伝家だったら、すぐに返してくれるかどうかはまた別の問題だと思うのだが、まあそれは後で考えることとする。
それと同時に、そろそろ路銀がさびしくなってきたので公孫讃のところで雇ってもらおうという腹積もりもある。
「うん、友だちだから歓迎してくれるよ~」
「確かにそうかもしれませんが―――」
諸葛亮が続ける。
「やはり相手は一郡の主。
友だちだからといってすぐに会うというものでも無いと思います。
ここは大人としての節度を持って事に当たるべきだと思います」
よく、舌を噛まずにいえました。パチパチ。
「え~~?面倒くさいよう。白蓮ちゃ~ん、って行けば会ってくれるよう」
「桃香様」
諸葛亮が子供を諭すように続ける。
「もう、子供ではないのですから、『白蓮ちゃん、遊ぼう!』って訳にはいかないのです」
「そうなの?」
「そうでしゅ!!
だから、会いに行くのも準備がいるんでしゅ!!」
朱里は昂奮すると舌を噛むようだ。
「準備ってな~に?」
「たとえば、今公孫讃様は賊の討伐に当たっていますから、義勇兵の長として参加したいといって会いに行くとかです」
「だったら簡単だね。
白蓮ちゃ~ん、義勇兵がきたよ~って言えばいいんだね」
頭を抱える諸葛亮と関羽。
「鈴々は百人力なのだあ!!」
もう一度頭を抱える諸葛亮と関羽。
「兵は数です。
4人で乗り込んでも無視されるのが関の山です。
ですから、一時雇いでもいいですから、会いに行くときは兵の数を揃えてよい印象を与える必要があるのです。
そうでなければ一兵卒としてしか取り扱ってもらえません。
数を率いていれば重要な客将として招いてくれる可能性が高まります」
「ふーん。面倒なんだねえ。
それでどうやって兵の数を揃えるの?
そんなにお金はないんでしょ?
お金がないから雇ってもらおうとしているんだから」
「そうですねえ。
腕相撲なんかどうでしょう?」
「腕相撲?」
「そうです。
鈴々さんに腕相撲で勝ったら賞金を渡すといって、腕相撲大会を開くんです。
その代わり、負けたら一日行動を共にするというんです」
「鈴々は腕相撲は強いのだあ!」
「なるほどねえ。
朱里ちゃんあったまいいー!!
じゃあ、そうしよう。
鈴々ちゃん、お願いね」
「わかったのだあ」
街に着いた一行は、早速腕相撲大会を開く。
見せ金として、会計担当の関羽は全財産を供出する。
(これがなくなったら………いや、それを考えるのはよそう。
鈴々はやってくれるはずだ)
関羽の胃はまたもや痛み出す。
「鈴々と腕相撲して勝ったら、この賞金をあげるのだあ!
力自慢はかかってくるのだあ!!」
「何?腕相撲大会だって?」
「賞金がでるのか?」
張飛の声に人々がわらわらと集まってくる。
そして……
あっという間に100人の見せ兵が集まった。
「これだけいれば十分だね、朱里ちゃん」
「そうですね、桃香様。
それでは早速公孫讃様に会いに行きましょう」
「そうしよう!」
嬉しそうな劉備、諸葛亮の影で、
(よかった、お金が無事で本当によかった)
と涙する関羽がいるのであった。