軋轢
文醜が逢紀の応援を仰ぎ、顔良との最初の対決を迎える日がやってきた。
「フッフッフ。斗詩、今日のあたいはちょっとちがうから」
「何回やってもおなじよ。返り討ちにしてあげるから!」
文醜と顔良が対決前から闘争心を露にしている。
そして、軍師同士も。
「今日は勝たせていただくでありんす」
「ふん、そのふざけた口調も私に負けたら少しは抑えてもらいたいものね!」
逢紀も田豊もやる気十分だ。
……ただ単に仲が悪いという説もあるが。
そして、軍師は最後のアドバイスを将軍たちにする。
「猪々子はん、訓練通りに軍を動かせば必ず勝てますよって、自信を持ちなはれ」
「うん、分かった!」
「斗詩さん、今日の敵は突進するだけとは思えません。
色々な陣形を訓練しましたから、臨機応変に対応してください」
「わかった。ありがとう、菊香ちゃん。絶対勝つわ!」
最後の確認をして模擬戦に臨む。
「突撃ーー!!」
文醜の掛け声で模擬戦が始まる。
「突撃ーー!!」
それに応えて顔良も軍を動かす。
顔良は文醜の陣形を見る。
今までと全く同じ突撃パターンだ。
いくらなんでも同じ攻撃をしてくるとは思えないのだが。
でも、この陣形には鶴翼陣が一番効率的なので、軍を展開させようとする。
「斉射!!」
文醜の次の指示が飛ぶ。
と、集団の先頭からやや後に隠れていた弓隊が一斉に弓を射始める。
「うわーー!!」
顔良軍の動きが鈍くなる。
矢の先は鏑矢のような木の塊だから当たっても死ぬことはないが、多量の矢が飛んできている状況での移動はそれほど簡単ではない。
「盾で防ぎながら陣を退却!
同時に軍を左右に分けて」
顔良の悲鳴のような声が響く。
顔良軍がそれにしたがって軍を展開させていく。
だが、防御しながらの動きはどうしても遅くなる。
「後陣は二手に分かれて左右から突撃!!
前列はそのまま突進!!」
文醜の声が響き渡る。
そして、文醜軍の後の部隊が左右に分かれて顔良軍の左右から突撃を開始する。
突撃の速度はぴか一だから、あっという間に文醜軍は顔良軍の左右に展開する。
前隊は相変わらず突撃を続けているので、顔良軍は3方を文醜軍に囲まれ、ほとんどなす術もなく敗退してしまった。
「やったー!!勝ったーーー!!!」
文醜の大喜びの声が演習場に響き渡る。
「太夫、ありがとう!!」
「当然でありんす」
「また、お願いな!」
一方、負けた方は
「そ、そんな……」
顔良、田豊、沮授共通の言葉であった。
「菊香はん、あちきは戦術では無敵でありんす。
いさぎよう負けを認めるでありんす」
「模擬戦で弓を使うとは卑怯ね。でも、負けは負けだわ。
次はこんなに簡単にいくとは思わないことね」
「おほほ。いつでも返り討ちにしてさしあげるでありんす」
と、リベンジを誓う田豊であるが、顔良はそんなにのんきなことも言っていられない。
「どうしよう、一刀さん。負けちゃったよう」
「そ、そうですけど、ほら、まだ3勝1敗だから、自分より勝ち数が多くないといやということにしたらどうですか?
それほど理不尽な要求じゃないと思うんですけど」
「うん、いい考え。そうするね」
顔良はようやく安堵した様子で文醜に会いに行った。
幕間:田豊、沮授の夜。
「一刀。悔しいの!いっぱい慰めて!!」
それはそれでうれしい一刀である。
さて、負けた田豊は陣容の拡充を図る。
「柳花さん」
「何よ、敗軍の軍師が何のようよ」
「一緒に太夫をやっつけるの手伝って!」
恥も外聞もなく救援を要請する田豊。
「何でよ」
「あのごてごて着飾り軍師が袁紹軍でのさばってもいいと思うの?」
「っ!菊香、手伝うわ!!!」
そう、田豊、沮授は清楚な感じ、荀諶もそれほど華美ではない、というよりむしろ地味なマントとフードなので、華麗な袁紹、逢紀とは少し一線を画するところがあったのだろう。
逢紀を華麗というのは少し憚られる気がするが……やっぱり華麗かな?
田豊を牢に入れたのも、華麗-地味の超えられない溝が原因なのかもしれない。
というわけで、地味軍師が結託して逢紀にあたることになった。
その結果は……
「文ちゃん、これで4勝1敗だね。
あと4つ勝たないと私の体をあげないから」
「ぐぬぬ……」
というように、地味軍師軍の勝利で終わった。
「太夫、戦術では無敵でありんすって、この間言ってなかったっけ?」
「きょ、今日は少し調子が悪かっただけでありんす。
次はあちきが無敵であることを証明するでありんす」
「そう、期待しているわ」
悔しさがにじみ出る逢紀であった。
逢紀は文醜軍の拡充を試みる。
だが、逢紀には余り仲間といえるような人間がいないので、地味組に属していない将軍でもあり軍師でもある審配を尋ねる。
「樹梨亜那はん、お話がありんす」
審配。字が正南、真名が樹梨亜那。
その真名の示すとおり(?)、見た目がゴージャス。
エナメル光沢で背中が全く覆われていないボディコン衣装に羽の扇。
10cmはあるピンヒール。
長い爪、特徴ある髪型。
少し昔の東京のお立ち台で見たことがあるような衣装だ。
世に言うワンレン・ボディコン・爪長・トサカ前髪スタイル。
しかもハイレグでなくノーパン(ここだけリアル?)。
民明書房によれば審配がジュリア○東京のモデルになったとあるが、明らかに嘘だろう。
逢紀といい審配といい、衣装は全くリアル無視だ。
いったいどこでどのように作った衣装なのだろうか?
審配は逢紀とは方向性がまるで異なるが、華麗組に入れていい人材だろう。
が、華麗のありかたについて逢紀と意見を異にし、日頃仲が悪い。
「あ~ら、太夫も樹梨亜那ファッションの良さに目覚めたのかしら?
そんな時代錯誤の着物は脱いで、もっと肌を露出させないと。
女は露出よ!
コスチュームのアドバイスや腰の振り方ならいつでもレクチャーしてあげるわ」
樹梨扇をゆっくり動かし、腰をくねくねさせながら応える審配。
「それはないでありんす」
「それじゃ、私とコスチュームについて、また激論を戦わせたいの?
ごめんねー、今忙しいのー」
「それも違うでありんす。
今日はお願いがあってきやした」
「お願い?この私が仲の悪いあなたのお願いを聞くとでも思っているの?」
「服の趣味が合いませんで仲違いしているのは存じているのでありんす。
ですが、それはあくまで個人のこと。
仕事は個人的な趣味とは一線を画さなければならないのでありんす」
「ふーん、いいこと言うわね。
じゃあ、話だけでも聞いてあげるわ」
「ありがたいでありんす。
では、早速。一緒に文醜軍を勝たせていただきたいのでありんす」
「どうして私があなた助けなくてはならないのよ?」
「お気持ちはようわかりんす。
ですが、相手は田豊、沮授、荀諶という地味軍師たち。
袁紹軍は華麗な軍師が仕切らなくてはならないのでありんす。
どうかわかっておくんなまし」
その台詞には審配も弱く、一発で同意してしまう。
華麗の方向性は、華麗-地味の対立に比べれば遥かにちいさなものだから。
「わかったわ!ゴージャス同士一緒に頑張りましょう!!」
こうして逢紀+審配の華麗組が地味組に勝負を挑むことになったのだった。
顔良の4勝1敗で迎えた第6戦。
今日は顔良優勢だ。
このままいけば顔良が勝つだろう、と思う一刀であった。
だが、審配を仲間に率いて、さらに淳于瓊との接触もあるようだ。
淳于瓊。字が仲簡、真名が霊泥素らしい。
服は張遼のような晒(さらし)に薔薇の刺繍をした学ラン。
この人も派手組だ。
パーパパピパピパプピパー
突然演習場に響き渡るクラクションの音。
ドドドっと横槍をいれる騎馬隊。
率いるのは淳于瓊。
霊泥素……れいでいす………レディース!
うわー、馬に竹やりくっつけてるよ!
意味ねー!
おまけに馬を蛇行させて走ってるよ!
ある意味すげー!
淳于瓊さん、派手ですけど何か方向性間違ってますから!
全然華麗で無いですから!
太夫さん、樹梨亜那さんのほうがまだ理解できますから!
淳于瓊の登場で顔良隊は対応に苦慮し、そして優勢だった戦局が一気に文醜隊優勢に変わっていった。
そのまま文醜隊の勝利で終わった。
華麗組が地味組に勝利することができたのだ!
逢紀、審配の仲も次第に改善されていった。
一方で華麗組と地味組の戦いはますますエスカレートしていった。
模擬戦も、得物が練習用である以外、あらゆる戦術を駆使し、あらゆる武器、罠を利用する実戦さながらのものに変貌していった。
漢の時代にはなかったと思われるゲリラ戦まで導入し、策はより実践的に、より陰険になっていった。
一刀が来た当初のだらけた様子を思い出すのは最早困難だ。
だが、よいことばかりではない。
軍隊の強化と引き換えに失ったものもある。
「顔良、今日もあたいが勝ったな。悪いが次も勝たせてもらうぜ」
「文醜さん、まだ私のほうが勝ちが多いんだから。次は私が勝つんだから」
と、昔の和気藹々とした雰囲気もすっかり失われてしまった。
あとがき
顔良、文醜にそれぞれ3人の応援をくっつけようとしたので淳于瓊を登場させましたが、多分もう出番がないと思います。
逢紀、審配は時々出てきそうな気もしますが、まだ決まっていません。