小康
富裕な袁紹領に対し、食料が困窮し始めようとしているのが曹操領。
40万人1年分の備蓄と言うことは、200万人なら2ヶ月ちょっとでなくなるという事である。
そして曹操領の人口は200万以上。
人口が多いのは、国力をあげるのには必要だが、こういうときには困ってしまう。
青州や兌州の一部を袁紹に占領されてしまったことが、却って吉となってしまっている。
今は食料があるが、何もしなければ間もなく食料がなくなることが保証されている。
今年の収量を加えても焼け石にミミズ……ではなくて、水。
なので、何かをしなくてはならない曹操。
手はいくつかあるが、簡単に言って買うかふんだくるか。
ふんだくると言っても、袁紹相手ではそう簡単に勝てるとも思えない。
今まで一勝もできていない。
状況が悪かったと言うこともあるが、それにしても連戦連敗だ。
濮陽のようにある程度は守ることが出来ると思っていたところですら、半日持っていない。
袁紹軍の練度からしても背水の陣で臨んでも勝てるかどうか。
独立したばかりの呉なら勝てそうだが、戦っている最中に袁紹軍が攻めてきそうで、そう簡単に軍を進めるわけにもいかない。
だいたい、そんなに食料を持っていなさそうだし。
では、買うかというと、金はまあ国内からどうにか調達するにしても、プライドが許さない。
そうも言っていられないと言う話もあるが、とりあえず今すぐに購入する気はない。
どうにも妙案が浮かばず、日々悶々としている曹操である。
そんな曹操の様子を知らず、業都では心優しい劉協が一刀に質問をしている。
「一刀」
「はい」
「蝗害が発生したと言う話を聞きました」
「ええ、発生しました。
俺も確認に行きましたけど、蝗の通った後は、収穫ができない状態になっていました。
百万人一年分くらいの食料が無くなったのではないでしょうか。
蝗害ってすごいですね」
蝗害が発生したと言うのに、まるで『昨日はすごい雨が降りましたね』というのと同じくらいの軽いのりで報告する一刀である。
「あの……大丈夫なのですか?」
「大丈夫って、民が食うに困らないかと言うことですよね。
ええ、全然問題ありません」
「そ、そうなのですか。
それは良かったです」
そして、今度は小声で袁紹に話しかける。
「一刀とは、もしかしたらすごい人物なのではないのですか?」
「と、当然ですわ。
この私の配下なのですから、並みの人物であるはずがあーりませんわ。
お、オーッホッホッホ」
袁紹も、劉協と同じ事を思ったのだが、それは口には出さないのである。
まあ、袁紹、分かりやすい人間だから、同じように思っていると言うことはばれている可能性が高いが。
一刀は、更に話を続ける。
「でも、曹操様の所領では壊滅的な被害を受けたそうで、話によると備蓄もあまりないそうですから、あそこはもうすぐ食料がなくなってしまうらしいです」
「そうですか」
ちょっと暗い表情になる劉協。
「ええ、それなので時期を見計らって攻め込む予定のようです」
「助けてあげることはできないのでしょうか?」
「え?助けるのですか?」
「ええ。元は同じ漢の民。
天災は為政者や民の所為で起こるものではありません。
天災で苦労するのであればそれを助けるのは皇帝の務め。
どうにかしたいと思うのです」
「そうですか……はあ。
ちょっと相談してみます」
一刀は劉協の意向を賢人会議に諮る。
「―――と陛下が仰っていたのだけど」
「今、冀州には潤沢に食料があるのですから、十分な食料を曹操に無償で渡せばいいでしょう」
と、あっさり言うのが沮授。
「何で、そんなに簡単にあげるのよ?」
と、つっかかるのが荀諶。
「漢の国内の問題ですから。
揚州牧曹操に、いるだけの食料を渡したらいいのではないですか?」
曹操の独立は認めない、元のとおり配下に戻れ、豫州や兌州は諦めて揚州にでも行け、そこで呉を名乗っている孫策を倒せ!
それを飲めば食料はくれてやろう、という考えだ。
それに答えたのは賈駆。
「清泉っておとなしい顔して、言うことはえげつないのね」
「もう、詠ったら、私のことを美人で頭がいいだなんて本当のことを言うのですから。
面と向かって言われると恥ずかしいです」
いや、誰もそんなこと言っていないから。
「考えとしてはいいわね。
即座にその条件を飲むとは思えないけど。
でも、まだ時期尚早ね。
もう少し時期を待ちましょう」
田豊が沮授の独り言を無視して、その場をまとめてしまう。
曹操領への侵攻は、劉協の意向もあり、当面見合わせることとなった。
そして、対曹操戦は、劉協の意向を受けて沮授がシナリオを全て書き直すことになる。
そのうちに、益州では州牧を務めていた劉焉が亡くなり、後を劉備が継いだとの話が伝わってきた。
劉備は、益州を漢から独立させ、蜀を建国すると宣言してきた。
これで、劉協・袁紹の治める漢、曹操の魏、孫策の呉、劉備の蜀が揃ったことになる。
漢と魏・蜀が並立しているのが変だが、まあそういう世界なのだろう。
だが、その実情は、魏は食物不足で困窮状態、呉は袁術の悪政の後遺症でまだまだがたがたという状態で、最後に独立を宣言した蜀が、漢を除けば一番裕福と言う、何とも奇妙な状態であった。
だいたい、袁紹のところに皇帝が来てからと言うもの、漢の国力はどん底からぐんぐん上昇してきて、今や大陸随一となっている。
その状態で、漢に反抗して独立しようと言う考え自体が間違っている気がするが、やっぱり三国志、魏呉蜀の三国が揃わないとならないらしい。
劉備の許へは、鳳統、黄忠など、いわゆる恋姫キャラが集まりだしているようで、蜀は次第にその国力を強化していた。
もともと、益州は巨大で肥沃な土地柄で、人口も多く、州の力は強かったが、蜀になり、さらに強化を図っているようだ。
諸葛亮や公孫讃が頑張っているのだろうか?
漢の外れの涼州は、まだ馬騰が州牧を務めており、今のところ漢への従属姿勢を保っている。
だが、彼もかなりの年齢、娘の馬超が後を継いだ後にどうなるかは、まだ誰も知らない展開である。
漢は、曹操への攻撃を見合わせているのと同時に、蜀や呉への介入も今のところ行っていない。
文醜らは、魏も呉も蜀も全部まとめてすぐに倒せるのに、と不満気ではあるが、一応皇帝の意向である、それには従っている。
皇帝の意向を無視してまで攻撃するほどのこともないというのも、沈黙を保っている原因である。
今は三国が皇帝劉協の優しさでなんとか国を保っている状態なのであろう。
漢が再度動き出したとき、そのときが魏呉蜀の滅亡の時なのだろうか?
あとがき
ここで、劉璋や張松なんかをだしたら、また話が面倒になるので、とっとと蜀を作ったことにしてしまいました。
あと、初めて馬超がその存在を露にしました。
でも、台詞は0。
もしかしたら、最後の最後まで一切台詞なしかも……。
公孫讃より影が薄い、というより影すらないのかも。