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No.12082の一覧
[0] ぼくのかんがえたそれなりにかっこいいしゅじんこう(封神演義 現実→憑依 TS)[軟膏](2010/04/02 00:01)
[1] 第一話 彼の名は……[軟膏](2010/04/07 21:43)
[2] 第二話 土行孫、竜吉公主に膝枕をされる。[軟膏](2009/09/24 20:42)
[3] 第三話 土行孫、竜吉公主と真面目な話をする。[軟膏](2010/04/07 21:52)
[4] 第四話 土行孫、竜吉公主宅へ遊びに行く。[軟膏](2010/04/07 21:56)
[5] 第五話 土行孫、友達が増える。[軟膏](2010/04/07 22:01)
[6] 第六話 土行孫、碧雲の危急を知る。[軟膏](2009/09/27 20:00)
[7] 第七話 太公望、初登場する。[軟膏](2010/04/07 22:07)
[8] 第八話 土行孫、碧雲の救出に向かう。[軟膏](2010/04/07 22:13)
[9] 第九話 太公望、土行孫にいちゃもんをつける。[軟膏](2010/04/07 22:20)
[10] 第十話 土行孫、楊戩に決闘を申し込まれる。[軟膏](2010/04/07 22:22)
[11] 第十一話 土行孫、新宝貝ゲットだぜ![軟膏](2010/04/07 22:28)
[12] 第十二話 土行孫、楊戩と決闘する。[軟膏](2010/04/07 22:36)
[13] 第十三話 天才道士楊戩の華麗なる日々……?[軟膏](2009/10/08 21:03)
[14] 第十四話 土行孫、決闘の行方は……?[軟膏](2010/04/07 22:46)
[15] 第十五話 土行孫、運び込まれる。[軟膏](2009/10/05 23:37)
[16] 第十六話 土行孫、礼を言いに行く。[軟膏](2010/04/07 22:52)
[17] 第十七話 土行孫、ナタクと戦う。[軟膏](2010/04/07 22:55)
[18] 第十八話 土行孫、悩む。[軟膏](2010/04/07 22:58)
[19] 第十九話 土行孫、攫われる。[軟膏](2010/04/07 23:01)
[20] 第二十話 土行孫、発掘に行く。[軟膏](2009/10/16 23:18)
[21] 第二十一話 土行孫、贈り物をする。[軟膏](2009/10/18 10:46)
[22] 第二十二話 土行孫、贈り物をするPart2[軟膏](2009/10/20 19:22)
[23] 第二十三話 太乙真人、土竜爪を修理する。[軟膏](2009/10/21 23:21)
[24] 第二十四話 土行孫、フルボッコにされる。[軟膏](2009/10/24 10:46)
[25] 第二十五話 失われし過去の記憶[軟膏](2010/04/07 23:09)
[26] 第二十六話 土行孫、修行しに行く。[軟膏](2010/04/15 16:40)
[27] 第二十七話 土行孫、天化と闘う。[軟膏](2010/04/15 16:42)
[28] 第二十八話 土行孫、決意をする。[軟膏](2010/04/07 23:17)
[29] 第二十九話 土行孫、不憫な原作キャラと出会う。[軟膏](2009/11/08 20:24)
[30] 第三十話 老賢人に幕は降り[軟膏](2010/04/07 23:25)
[31] 第三十一話 武吉登場。[軟膏](2009/11/17 20:12)
[32] 第三十二話 魔家四将編① 襲来[軟膏](2010/04/07 23:29)
[33] 第三十三話 魔家四将編② 裏[軟膏](2009/11/26 08:47)
[34] 第三十四話 魔家四将編③ 援軍[軟膏](2010/04/07 23:33)
[35] 第三十五話 魔家四将編④ 対峙[軟膏](2010/04/15 16:51)
[36] 第三十六話 魔家四将編⑤ 無双[軟膏](2009/12/08 20:16)
[37] 第三十七話 魔家四将編⑥ 天化[軟膏](2010/04/15 16:42)
[38] 第三十八話 魔家四将編⑦ 勝利[軟膏](2009/12/20 14:54)
[39] 第三十九話 その頃の公主様[軟膏](2010/04/07 23:38)
[40] 第四十話 ある少女の日記[軟膏](2009/12/25 08:46)
[41] 第四十一話 新ヒロイン(?)登場[軟膏](2010/04/07 23:42)
[42] 第四十二話 目覚めた彼の状況  ※ヤンデレ注意[軟膏](2009/12/26 16:26)
[43] 第四十三話 蝉玉×土行孫×申公豹=?[軟膏](2009/12/29 16:03)
[44] 第四十四話 太公望VS鄧蝉玉……と土行孫[軟膏](2009/12/30 16:07)
[45] 第四十五話 殷周易姓革命START![軟膏](2010/02/08 22:32)
[46] 第四十六話 蝉玉のダディ登場[軟膏](2010/01/19 01:33)
[47] 第四十七話 蝉玉[軟膏](2010/02/09 00:00)
[48] 第四十八話 Virus使い呂岳[軟膏](2010/02/15 09:12)
[49] 第四十九話 ナタク無双[軟膏](2010/02/23 23:17)
[50] 第五十話 束の間の喧騒[軟膏](2010/02/23 23:18)
[52] 第五十一話 太子の選択一 [軟膏](2010/03/26 19:18)
[53] 第五十二話 太子の選択二[軟膏](2010/04/17 14:18)
[54] 第五十三話 太子の選択三[軟膏](2010/03/07 00:03)
[55] 第五十四話 太子の選択四[軟膏](2010/03/11 22:57)
[56] 第五十五話 太子の選択五[軟膏](2010/03/16 21:59)
[57] 第五十六話 太子の選択六[軟膏](2010/04/17 14:19)
[58] 第五十七話 落ち込む土行孫[軟膏](2010/03/26 15:18)
[60] 第五十八話 巨大趙公明[軟膏](2010/04/15 16:55)
[61] 第五十九話 再起[軟膏](2010/04/15 16:56)
[62] 第六十話 趙公明攻略Ⅰ 楊任[軟膏](2010/04/17 23:36)
[63] 第六十一話 趙公明攻略Ⅱ[軟膏](2010/04/27 00:43)
[64] 第六十二話 趙公明攻略Ⅲ もう一人の宝貝人間[軟膏](2010/05/20 01:30)
[65] 第六十三話 趙公明攻略Ⅳ 越えるべき壁[軟膏](2010/05/20 01:36)
[66] 第六十四話 趙公明攻略Ⅴ 蝉玉のストーカー被害[軟膏](2010/06/04 22:09)
[67] 第六十五話 趙公明攻略Ⅵ 劉環の哄笑[軟膏](2010/06/15 22:45)
[68] 第六十六話 趙公明攻略Ⅶ キレる[軟膏](2010/07/02 21:53)
[69] 第六十七話 趙公明攻略Ⅷ 天祥の戦い[軟膏](2010/12/25 00:00)
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[12082] 第二十八話 土行孫、決意をする。
Name: 軟膏◆05248410 ID:b4c4a321 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/07 23:17





 日が中天へと差し掛かる頃、竜吉公主に会いに、土行孫は鳳凰山へと赴いた。

「公主、ちょっと良いか?」

「おお、おぬしか」

 土行孫の姿を目に留めた竜吉公主は、土行孫を手招きして近くに来るよう呼ぶ。
 招かれるがままに近寄る土行孫だったが、いつものように座らず、立ったままだった。
 柔らかな笑みを浮かべていた竜吉公主だったが、土行孫の目に深刻そうな感情がある事に気付いた。

「……して、何かあったのか? その顔からして、私に何か話があるようじゃが……」

「ああ……」

 土行孫は頷いた。

「単刀直入に言おう。俺は……人間界に降りようと思う」

「なに?」

 竜吉公主の眉がピクリと上がる。

「……それは真か?」

「ああ。もう決めたんだ」

「……そうか」

 竜吉公主は僅かに思案する。

「訳を聞いてもよいか?」

「ああ……」

 土行孫は静かに目を閉じると、吐き出すように言った。

「……師叔達を助けるために、人間界に降りて行った楊戩とナタクが、この間帰って来たんだ」

「楊戩はあの天才道士として……ナタクはおぬしの弟分だったな。それがどうした?」

「ボロボロにやられてたよ」

 太乙真人の所を訪れた土行孫は、ナタクの片腕が吹き飛んでいたのを見てしまった。
 土行孫は楊戩には会っていないが、おそらく疲労が溜まっている事だろう。
 土行孫が認める二人が負けたのだ。
 太乙真人はその場面を見ていたらしい。

「幸い、ナタクは蓮の花の化身だから、腕や足が無くなっても元通りになるらしいけど」

 その事が土行孫にとって、唯一安心できる事であった。
 それを為した相手を、竜吉公主は訪ねた。

「……相手は?」

聞仲ぶんちゅうだそうだ」

「聞仲……聞いた事がある。禁鞭きんべんを持つ、殷の太師だったか?」

 土行孫は頷いた。

「そうだよ。知ってるのか?」

「これでも、それなりに長く生きておるからの」

「そうか」

 聞仲とは、崑崙とは対を為すもう一つの仙人界、金鰲島きんごうとうで修行をした仙人だ。
 禁鞭という名のスーパー宝貝を持っている。
 そして、殷に仕える太師であった。

「太乙真人様から聞いた話だと、その聞仲が一人で師叔達を倒したらしい」

 太公望の実力は、土行孫にはよく分からない。
 だが、後の楊戩、ナタク、天化の三人は、土行孫が自分以上だと認める程の実力を兼ね備えている。
 そんな彼らが束になっても、聞仲一人に敵わなかったのだ。
 土行孫が深刻な表情を浮かべるのも道理だろう。

「今西岐には、仙道は師叔と天化しかいない。
 あまり長い間、二人だけっていうのも、危ないと思う。
 聞仲レベルの仙人が攻めて来る事は早々ないだろうけど、それでも心配なんだ」

「だから、おぬしも人間界に行く、と?」

「そうだ。俺が行っても、大して役には立てないかもしれない。
 でも、ただ待ってるだけなんてのは、俺は嫌なんだよ」

「……ただ待っているだけは嫌、か」

 竜吉公主は目を細める。

「私にそれを言うとは、おぬしも酷い男じゃのう」

「あ……」

 土行孫は絶句する。
 身体が弱く、待つ事が常の竜吉公主に、そんな事を言うのは駄目だと気付いたのだ。

「悪い。そんなつもりじゃ……」

「よい、分かっておる」

 竜吉公主は軽く頭を振り、土行孫の言葉を制止する。

「おぬしがわざと言っておるかどうかなど、私にはすぐに分かるよ」

 だから謝る必要は無い、と。
 竜吉公主はそう言った。

「でもよ……」

「悪く思っておるのなら、もう少しこちらへ来てくれぬか?
 人間界に降りるというのなら、こうして顔を合わせて事もしばらく無いであろうからの。
 その前に、良く顔を見せておくれ」

「……分かった」

 土行孫は立ち上がり、数歩歩いて竜吉公主へと近づく。
 顔を合わせて話をするには、少し遠い距離。
 それだけの距離を、土行孫が詰める。
 座っている竜吉公主に、土行孫が尋ねる。

「これで良いか?」

「まだじゃ。もう少し……」

 竜吉公主は左手を伸ばして土行孫を招く。
 もう一歩近寄った土行孫の頬に、竜吉公主の白魚のような指が触れた。
 ひんやりとした指が、土行孫の顔をなぞる。

「お、おい……?」

 手を払いのける事も出来ず、土行孫は突っ立ったままだった。
 静かに顔に触れていた竜吉公主は、もう片方の手を伸ばす。
 そして土行孫の頭に手を当てると、両手で土行孫を引き寄せた。

「え、ちょ、しまっ、罠かっ!?」

「人聞きの悪い事を言うでないわ」

 土行孫の頭を胸に抱えた竜吉公主が、土行孫の髪を指で梳きながら言った。

「これ、暴れるでない」

「暴れるに決まってるだろうがっ!」

 竜吉公主が抑えようとするが、土行孫は離れようとしてバタバタと足を動かす。
 本気で抵抗すれば、竜吉公主を引き剥がす事など造作も無い。
 だがしかし、土行孫がそんな事をすれば、竜吉公主を傷つけてしまう。
 竜吉公主を傷つけないで済む力加減を分かっていなかった土行孫。
 結局彼は、身体を反転させて、竜吉公主に背を向ける事しか出来なかった。

「ふむ……まあ良いか」

「良くは無いんだけどなぁ……」

 竜吉公主は土行孫の身体に腕を回し、ぬいぐるみのように土行孫を抱えた。
 無理に引き剥がすのは難しいか、と土行孫は判断し、抜け出す事を諦める。
 もし無理に引き剥がしたりしたら、竜吉公主が悲しみそうで、土行孫にはそれが出来なかった。

「のう、土行孫」

「……何だよ」

 耳に掛かる竜吉公主の声に、くすぐったい思いを感じながら、土行孫は聞き返した。

「友とは良いものだ。そうは思わぬか?」

「何だよ、急に……」

「なに、ふと思っただけだ」

「そうか」

 竜吉公主は腕に力を込める。

「思えば、私に友と呼べる者は、僅かしか居ない」

「……」

 友達が少ないと言われ、どう返せば良いのか分からず、土行孫は口を噤む。

「数えれば、片手で足りる程であろうな」

「いやでも、碧雲や赤雲がいるじゃないか。友達が少なくても別に……」

「そうではない」

「え?」

 振り返った土行孫に、竜吉公主は頭を振って応えた。

「あやつらは弟子じゃ。故に、師匠である私は、あやつらの前では師匠でいなければならない。
 他でもそうじゃ。私は『純血の仙女』であり、『崑崙最強』でもある。
 だからこそ、周りはそれに応じた対応をする。否、しなければならない」

「……ああ、そうだな」

 竜吉公主は0.000000003%の確率でしか生まれない、純血の仙女である。
 貴重な存在である以上、周りはその扱いに慎重にならざるを得ない。
 その力は強大であり、崑崙最強という羨望を受ける。
 おまけに、病弱で滅多に姿を見ることの無い有様から、神格化している者も居る。
 そんな中で竜吉公主は、不様な様を晒す訳にはいかないのだ。
 もしそのような事があれば、弟子達にそれが飛び火する可能性もあるのだから。

「おぬしも、最初はガチガチに緊張しておったのう」

「そりゃそうだろ。有名な竜吉公主様が近くに居るんだぜ? 緊張しない方がどうかしてる。
 だいたい、俺が巻き起こした塵を吸い込んで、公主が倒れるだなんて思わなかったしさ」

「あの時は丁度、風が吹いておったからの。水の膜も張ってはおらんかったし」

 いくら身体が弱くとも、全く動けない訳ではない。
 だから竜吉公主は、偶に一人で外へ出ていた。
 二人が出会ったのは、そんなある日である。

 その日、竜吉公主は弟子も連れず、一人で外を出歩いていた。
 当ても無く飛び、仙人界の端の方まで来ていた竜吉公主は、疲れたのか空に浮かぶ岩に腰掛けていた。
 丁度心地の好い風が吹いていて、時折道士らしき人影が遠くを飛んでいるのを見かけた。
 それは良くある光景。
 なんでもない普通の一日。
 だが偶にしか外へ出られない身として、竜吉公主にはそれがとても新鮮だった。
 だから、少し気が向いたのだ。
 常時張り巡らせている薄い水の膜を解除しようと思ったのは、そんなちょっとした気まぐれだった。
 それを解除する事で、この心地好い風に自らの身を晒してみたいと思ったのだ。

 そして水の膜を解除した丁度そのとき、辺りを轟音が包み込んだ。
 竜吉公主の視界の外に居た土行孫が、修行のために岩壁を破壊したのである。
 舞い上がった塵や砂煙を、竜吉公主はまともに吸い込んでしまった。
 崑崙最強と言われていても、戦いに慣れている訳ではない。
 咄嗟に水の膜を張る事も出来ず、竜吉公主は咳き込んで倒れてしまった。

「俺のせいで公主が倒れたんだからな。あの時は殺されるかと思ったよ」

「失礼な。私はそのような見境の無い行為はせぬ」

「でも、最初に会ったときは、そんな事分からないしなぁ……」

 仙人界の端で修行していた土行孫は、誰も来ないような所に人が居るとは思っていなかった。
 だから見知らぬ美女が、いきなり咳き込んで倒れるのを、ぼうっと見ている事しか出来なかったのだ。
 慌てて介抱するために自分の家に運んだが、竜吉公主が起きて、その名前を聞いたときは背筋が凍ったものだ。

「……こうして思い返してみると、出会いは最悪だな。被害者と加害者だし」

「おまけにおぬしは、気絶した女を自分の家に連れ帰った男じゃな」

「止めてくれ……」

 土行孫は沈む。

「あの時は気が動転してたんだよ」

「分かっておるさ。土下座して謝るおぬしに、その気が無かった事くらい」

「分かってるなら、蒸し返さないで欲しいなぁ」

「何を言う。今となっては、良い思い出ではないか」

 土行孫としては、忘れたい思い出だ。
 だが竜吉公主にとってはそうではない。
 これは土行孫が、まだ過去の事で感傷に浸れるほど、年輪を積み重ねていないという事だろう。

「のう、土行孫」

「何だ?」

「以前私は、この病弱な身体に生まれた事を恨んだ、と言っておったな」

「……ああ」

「じゃが、今は寧ろ感謝しておる」

「どうしてだ?」

「私の身体が弱くなければ、私は今とは違う生を歩んでおったはず。
 私がおぬしと出会う事も無かったであろう。
 否、例え出会っていたとしても、こうして友となる事は無かったに違いない」

「……まあ、そうだろうな」

 竜吉公主の身体が弱かったから。
 偶々、外へ出ようとしていたから。
 偶々、遠くへと出掛けたから。
 偶々、水の膜を解除したから。
 積み重なったその偶然が、土行孫と竜吉公主を出会わせた。
 もし竜吉公主の言うとおり、彼女の身体が丈夫であれば、そのような事は起こり得なかった。
 外へ出ようとも、遠くまで行く事は無かっただろう。
 土行孫が塵を巻き上げようと、竜吉公主には何の影響も及ぼす事は無かった。
 土行孫が竜吉公主と出会ったところで、身分の違いから友人となる事は無かったに違いない。

「あれから何かと色々あったが、おぬしとは友になれた。
 私の我が侭ではあったが、おぬしは私と対等の関係で居てくれると言った。
 そんな、気の置けない相手が出来た事に、私は感謝しておる」

 竜吉公主もまた、対等に話せる相手を欲していた。
 何の肩書きもない、ただの竜吉公主として話せる相手を。
 だが上下の関係は、基本的にきっちりしている。
 ナタクのような例外はあれど、基本下の者は上の者に絶対服従である。
 そして、弟子である碧雲や赤雲では、竜吉公主と対等になる事が出来ない。
 だから、出会いは偶然とはいえ、ただの一道士であった土行孫が、竜吉公主と友人となれたのだ。
 それとは少し異なる考えを持っている土行孫だからこそ、竜吉公主と友人になれたのかもしれない。

「碧雲が行方不明になったとき、おぬしが言ってくれた言葉で、どれほど安心出来たことか。
 信頼しておる友の声が、あれほど心強いと感じた事は無い」

「……」

 土行孫は頬を掻く。
 その顔は僅かに赤みを帯びていた。
 幸い、竜吉公主に背を向けているので、それを見られる事は無かった。

「……ん? ちょっと待て」

「何じゃ?」

 竜吉公主の話を聞いていた土行孫が、疑問を浮かべる。

「水の膜なんて、俺は見た事無いんだけど」

 竜吉公主の周りに、常に水の膜が張り巡らされているというのなら、こうして二人が密着している事も無いはずだ。
 しかし、現に土行孫は、竜吉公主の指が顔に触れるのを感じていた。
 だが疑問を浮かべた土行孫に対して、竜吉公主はあっけらかんとして言った。

「当然じゃな。おぬしと会うとき、水の膜は解除してある」

「……は?」

 土行孫の目が丸くなる。

「何でだよ。あんな事があったんだから、尚更気を付けるべきだろう?」

「私がおぬしと会うときは、おぬしが大気中の塵を集めておるではないか。
 だから私は、おぬしの傍に居れば、澄んだ空気を吸う事が出来る。
 おぬしとて、それが分かっておるから、いつもそうしておるのであろう?」

「それは俺にも出来る事が無いかって探しただけだよ。
 水の膜で予防出来るなら、そっちの方が良いに決まってる」

 竜吉公主が再び塵や砂を吸ってしまわないよう、土行孫はそれを集めていた。
 物珍しげな竜吉公主が欲しがったので、土行孫があげた泥団子もその一つである。
 最初は上手くいかず、塵が飛んでいかないように、湿った土で周りを包んでいたのだ。

「……のう、土行孫」

 土行孫に回している腕に、竜吉公主はギュッと力を込める。

「死ぬなよ。私はまだ、友を失いとうはない」

「……ああ、分かってる」

 土行孫はその腕に、自らの手を添えた。

「俺だって、死にたくて人間界へ行く訳じゃないんだから」

 二人の間にしんみりとした空気が流れたとき、浄室の中に木を叩く音が響いた。


 コンコンッ


「失礼します」

 ノックした戸を開けて、入ってきた赤雲が竜吉公主に尋ねる。

「公主様、今日の献立はいかがいたし……ましょう……か……」

 だが顔を上げた赤雲のその声は、段々と尻すぼみになっていった。
 見開かれた目は、土行孫を後ろから竜吉公主が抱きしめている姿を捉えている。

「……失礼しました」

「あ、おいっ!」

 呼び止めようとした土行孫だったが、赤雲は素早く出て行った。

「……どうすんだよ、この状況」

「見たままであろう?」

「いや、間違ってはいないと思うけど、どこか間違っているような……」

 手を引っ張って、拘束から抜け出した土行孫。

「そうだ、俺達は友達だろう? だから状況的に考えられる事があったとしても、それは間違いなんだって」

 首を横に振って否定する土行孫。

「……じゃが噂は、すぐに広まるであろうな。
 少なくともこの鳳凰山の中には、今日中に広まるであろう。
 そうなれば、もう噂を消すのは難しいぞ」

「う……」

「人の噂も七十五年と言うしの」

「長すぎるぞっ!?」

「何を言う。あっという間ではないか」

 千年を超える仙道の感覚からすれば、確かに七十五年は短いかもしれない。
 だが未だ百年も生きていない土行孫には、そうは感じられなかった。
 竜吉公主は小さく口元に笑みを浮かべる。

「まあ良いではないか。しばらく経てば、噂も消える。
 ……もしかしたら、消えぬかもしれぬがな。
 そうなれば、私を貰ってくれる相手がいなくなるか」

「おいおい、勘弁してくれよ。そんな事になったら、俺は公主にどう謝罪すれば良いんだ……」

「なに、いざとなれば、おぬしが私を嫁に貰えばよい」

「そんな簡単に言うなよ……」

 軽い口調で竜吉公主は言うが、対照的に土行孫はげんなりとした声で返した。

「俺じゃなくても、もっと良い奴は居るだろうに。
 だいたい、俺の見た目は子供だぞ?
 そんな男と結婚するだなんて、何処の物好きだ」

「此処に居るではないか。おぬしの友である私が」

「はいはい。確かにそうだな」

 わざわざ土行孫と友になっている竜吉公主は、確かに物好きだろう。
 あるいは、箱入りなのだから、土行孫とは少し感覚がずれているのかもしれない。

「美人の公主なら、相手なんて選び放題だと思うけど、もし万が一そうなったときは俺が責任取るよ」

「うむ。それで良い」

 竜吉公主の顔に、してやったりといった笑みが浮かぶ。
 またからかわれたのだな、と土行孫は思った。
 土行孫にとって、竜吉公主は近くに居て安心出来る存在である。
 だがしかし、時折土行孫が凄く疲れる事を言うのが偶に傷だ。

「……早く降りよう」

 今頃、姿の見えなくなった赤雲によって、噂が広がり始めているはずだ。
 それが鳳凰山を覆い尽くす前に、人間界に行こうと土行孫は決意した。







あとがき

人間界に降りると、しばらく公主は出てこないので、その前にスーパー竜吉公主タイム。
これだけ話しておけば、また登場したとき、忘れられているなんて事は無いでしょう。



さて、DOKOUSONが何処に顔を埋めたか……分かるな?
存分にもげろと言えば良いと思うよ。
畜生……なんでこいつだけ、こんなに良い思いをしやがるんだよ畜生……。



次回は人間界に降りる前に、高貴な家柄のあの人が出ると思います。




もげろ。


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