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No.10094の一覧
[0] 萌え?・・・いや、むりっしょ?《ネギまエウ゛ァ憑依》[フィノ](2010/04/03 23:13)
[1] プロローグ[フィノ](2009/11/11 08:53)
[2] プロローグ 2[フィノ](2009/11/11 08:53)
[3] え・・・マジ?な第1話[フィノ](2009/08/01 22:15)
[4] 緊急指令死亡フラグを撃破せよ・・・な第2話[フィノ](2010/02/26 12:17)
[5] 現状の思考と考察・・・な第3話[フィノ](2010/02/26 12:20)
[6] チャチャゼロ・・・・ゼロ?な第4話[フィノ](2010/02/26 12:26)
[7] 良い日旅立ち・・・炎上な第5話[フィノ](2009/08/01 22:19)
[8] 学校とはとにも奇妙なところだな第06話[フィノ](2010/04/13 21:43)
[9] 人間交差点・・・・な第7話[フィノ](2009/08/28 15:17)
[10] 頭痛がおさまらないな第08話[フィノ](2009/08/01 22:21)
[11] 真実は小説よりも奇なり・・・俺のせいだがな第09話[フィノ](2010/04/13 21:44)
[12] モンスターハンター・・・待て、何故そうなるかな第10話[フィノ](2010/02/26 12:29)
[13] 復讐は我にありな第11話[フィノ](2010/02/26 12:31)
[14] 新たな一歩なのかな第12話[フィノ](2010/04/13 21:46)
[15] 肉体とは魂の牢獄なんだろうな第13話[フィノ](2010/02/26 12:36)
[16] 絶賛逃亡中?な第14話[フィノ](2010/02/26 12:37)
[17] 幕間その1 残された者、追うことを誓った者[フィノ](2010/04/13 21:48)
[18] ラオプラナな第15話[フィノ](2009/08/01 22:28)
[19] 思い交差点な第16話[フィノ](2009/08/01 22:28)
[20] 色々とな第17話[フィノ](2009/08/01 22:29)
[21] おいでませな第18話[フィノ](2009/08/01 22:30)
[22] 幕間その2 騎士と主と在り方と[フィノ](2009/08/01 22:30)
[23] 発掘も楽じゃないよな第19話[フィノ](2009/08/01 22:31)
[24] 嫌な確信が出来たな第20話[フィノ](2010/04/13 21:50)
[25] 予想しておくべきだったな第21話[フィノ](2010/04/13 21:59)
[26] あいつらも大変だったようだな第22話[フィノ](2010/04/13 22:14)
[27] 目玉だな第23話[フィノ](2010/04/13 22:35)
[28] 全て世は事も無しな第24話[フィノ](2010/04/13 22:37)
[29] 知らぬが仏、つまりは知らないと死ぬ事だな第25話[フィノ](2009/08/09 13:34)
[30] タヌキとキツネとだな第26話[フィノ](2010/04/13 22:38)
[31] 失態だな第27話[フィノ](2010/04/13 22:39)
[32] さて、どうしようかな第28話[フィノ](2009/08/24 18:15)
[33] 中々にヒドイ事をするな29話[フィノ](2009/08/28 14:04)
[34] 1と0の差かな第30話[フィノ](2009/09/07 12:08)
[35] 時間は勝手に進むものだな第31話[フィノ](2009/09/21 17:04)
[36] 英雄の横顔かな第32話[フィノ](2009/09/28 22:28)
[37] ボロボロだな第33話[フィノ](2009/10/07 00:20)
[38] 夜ももう終わりだな第34話[フィノ](2009/10/16 01:21)
[39] 事故だと思いたいな第35話[フィノ](2009/10/21 19:47)
[40] 幕間その3 曰く、チョーカッコいい男[フィノ](2009/10/29 02:12)
[41] 戦闘or日常さてどっちが疲れるかな第36話[フィノ](2009/11/04 14:11)
[42] 取り合えず叫ぼうかな第37話[フィノ](2009/11/11 13:22)
[43] 気のせいだと思っておきたかったな第38話[フィノ](2009/11/15 20:58)
[44] それぞれの思惑だな第39話[フィノ](2009/11/25 09:56)
[45] 美味しそうだな第40話[フィノ](2009/12/01 16:19)
[46] 互いの牙の間合いだな第41話[フィノ](2009/12/08 01:32)
[47] 幕間その4 仲良くなろう[フィノ](2009/12/08 20:14)
[48] 出発は明朝かな第42話[フィノ](2009/12/18 17:37)
[49] 強い訳だよな第43話[フィノ](2009/12/26 14:10)
[50] 商人・・・、なのかな第44話[フィノ](2010/01/22 01:29)
[51] ケダモノの群れだな第45話[フィノ](2010/01/08 19:08)
[52] 見たかったな第46話[フィノ](2010/01/19 00:19)
[53] 疑うな第47話[フィノ](2010/01/20 01:44)
[54] 無形の有形だな第48話[フィノ](2010/02/03 06:37)
[55] そして歩き出すだな第49話[フィノ](2010/02/03 15:55)
[56] 旅の途中だな第50話[フィノ](2010/02/17 19:39)
[57] 地味に変わってるな第51話[フィノ](2010/02/24 00:17)
[58] 到着、出会いと別れだな第52話[フィノ](2010/02/26 12:10)
[59] 幕間その5 爪痕[フィノ](2010/03/04 23:18)
[60] 難しいな第53話[フィノ](2010/03/06 23:40)
[61] 日常だな第54話[フィノ](2010/03/13 12:39)
[62] その後の半年だな第55話[フィノ](2010/03/22 14:24)
[63] 研究の日々だな第56話[フィノ](2010/04/04 18:01)
[64] すれ違う人々だな第57話[フィノ](2010/04/13 22:55)
[65] 花畑の出会いだな第58話[フィノ](2010/04/25 22:56)
[66] 幕間その6 メイド達の憂鬱[フィノ](2010/05/02 06:47)
[67] 幕間その6 メイド達の憂鬱 中篇[フィノ](2010/05/05 06:13)
[68] 幕間その6 メイド達の憂鬱 後篇[フィノ](2010/05/23 22:37)
[69] ありふれた悲劇だな第59話[フィノ](2010/06/24 21:58)
[70] それぞれの思いだな第60話[フィノ](2010/11/12 06:04)
[71] 強く・・・、なりたいな第61話[フィノ](2010/10/25 22:54)
[72] ブリーフィングだな第62話[フィノ](2010/11/12 14:41)
[73] 彼女達の戦場だな第63話[フィノ](2010/12/01 23:14)
[74] 彼の戦場だな第64話[フィノ](2011/01/26 13:43)
[75] 自身の戦いだな第65話[フィノ](2011/04/18 03:53)
[76] 狗の本分だな第66話[フィノ](2011/04/23 03:32)
[77] 対峙だな第67話[フィノ](2011/05/02 03:37)
[78] 懐かしいな第68話[フィノ](2011/07/07 22:33)
[79] 風の行方だな第69話[フィノ](2011/09/23 23:39)
[80] 彼に会いに行こうかな第70話[フィノ](2011/10/01 03:42)
[81] そんな彼との別れだな第71話[フィノ](2011/10/15 07:37)
[82] 小ネタ集 パート1[フィノ](2009/08/11 22:17)
[83] 小ネタ集 パート2[フィノ](2009/09/21 17:03)
[84] 小ネタ集 パート3[フィノ](2010/02/03 15:53)
[85] 小ネタ集 パート4[フィノ](2010/02/04 03:28)
[86] 作者のぼやき。[フィノ](2010/01/08 00:21)
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[10094] そんな彼との別れだな第71話
Name: フィノ◆a5d9856f ID:7431407f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/15 07:37
そんな彼との別れだな第71話



今日も1日が終わる。
最近冷え込んで空気が澄むせいか、2階にある俺の部屋の開いた窓から見える月は蒼く美しく、そんな月を眺めながら、
ノッキングチェアに腰掛けて、脇のテーブルに置いてあるグラスにブランデーを注ぎ嚥下する。
とろ火の様に熱い琥珀色の液体が食道を渡り、胃につく頃には、小春日和のような温かさをかもし出す。
そんな事を考えながら、ランプの明かりで陰影の濃くなった静かな部屋で1人、
片手でグラスを持ち膝の上に置いて、キィキィと響くイスの音を聞きながら彼女から貰った髪留めを眺めている。

・・・。
思えば歳を取ったものだ。
つい先日までは、教壇にたって弁を振るっていたはずなのに、何時しか白墨の重みを感じるようになり、
今では夕食で使うナイフやフォークの重さを感じるようになった。
寒い夜には、たびたび夜にトイレに立つようにもなった。
そして、俺にも息子が出来、その息子が孫を作った。
俺の嫁は・・・、早くに逝ってしまって、今はこの家に幼い孫との2人暮らし。
息子に文句の1つも言ってやりたいが、俺の昔を思い出せば、早々言えるものでもない。

20代・・・、エルシアと言う教師を巻き込んでの教員免許習得は成功に終わり、
      その終わりが別れと言うように彼女は合格を伝え、酒盛りをした次の日の朝には、
      『今だ見ぬバカな生徒を探しに行きます。』と、その一文が書かれた置手紙を残し、忽然と姿をけしていた。
      そして、彼女との合格祝いの酒盛りが、彼女との最後の別れとなっている。
      風の便りは届いていない、人の噂も聞かない、ただ、彼女の生徒と名乗ってる奴は見かけるから、
      多分彼女は未だに『バカな生徒』を探しては教育しているのだろう。

30代・・・、悩む事が多かった。
      教師として、人として、夢の追い方として。
      種族同士の溝は意外と深い、教師として生徒を教えだしてから、そう感じることは多くなった。
      それでも、生徒達に手を取り合える事を教え続け、泥の道を踏みながら歩いた。
      そして、そんなおり彼女とであった。

      気取る事もなく、物静かで、俺の話す話しに酷く共感してくれたそんな彼女。
      俺は・・・、その人の事を、愛していた・・・、否、愛することが出来たと思う。
      思えば俺の半生はエヴァンジェリンと言う人に、酷く彩られていたと思う。
      俺が教師になったのも、人間と亜人が手を取り合えると言う事を広めようと思ったのも、
      事の発端は彼女との出会いと別れに由来する。

      だからこそ、俺は酷く戸惑ったのを覚えている。
      エヴァンジェリンと言う人を愛していると自覚していながら、他の人と共に人生を歩めるのか?
      エヴァンジェリンの為に結婚して子供を残す、それは、結婚した相手にとっては酷く不誠実な事だろう。
      だが、それでも俺は立ち止まらないと心に誓った、あの学び舎で、あの雪原で、彼女の前で。

      彼女と付き合いだした、しかし、傍目から見れば俺と彼女は酷くぎこちなかっただろう。
      手を握るにも戸惑い、気の聞いた話し1つ出来ない。
      こんな時、クーネなら軽く流すのだろうが、俺はそんなに軽い事はできなかった。
      でも、そんな俺でも彼女は気に入ってくれて結婚する事ができた・・・。
      酷く不誠実だが、この次点でも俺はまだエヴァンジェリンに心惹かれていた。

      だが、それもある時点で終わる。
      彼女が妊娠し、俺の息子が生まれた日。
      今でも目を閉じれば思い出す、時刻は日の出間近の早い明け方。
      若干の早産だったが、息子は元気に生まれた。そして、その日俺は久々に泣いた。
      朝焼けの空は瞳に痛く、しかし、昇る太陽から目をそらす事もできず、ただただ、息子の誕生に涙を流した。
      そして、この時から、俺の中でエヴァンジェリンと言う人が少しずつ薄くなっていく。

40代・・・、息子も少しずつ大きくなっていく。
      当然といえば、当然だが人は成長するものであり、そして、衰えていくものだ。
      だが、それでも父親として、喜ばしい事で人1人の成長をこんなにも間近で見る事が出来る。
      やんちゃな息子は、大小さまざまな事件を起こし、それを叱るのが父親の仕事なら、慰めるのは母親の仕事。
      しかし、それでも真っ直ぐに育ってくれる息子は何処かまぶしく、年甲斐もなく張り合いたくなる。
      そんな俺と息子を優しい眼差しで見守ってくれる嫁は、酷く愛おしい存在だ。

50代・・・、穏やかな別れだった。
      息子も20歳をこえ、仕事も育児も一段落して60も近くなった頃、静かに・・・、妻が逝った。
      息子が生まれた日のように、静かな晴天の日朝方のことだ。
      俺は、死ぬ間際まで彼女に付き添い、今までの事を語り合った。
      彼女の半生の事、結婚してからの事、息子が生まれてからの事、
      そして最後に、息子が独り立ちしてから今までの事。
      
      語る言葉は軽快で、時にバカ話で笑い、時に息子の話しで一喜一憂した。

      『貴方と一緒にいれて幸せでした。』

      そう、妻は俺に言葉を残し、俺はその言葉に答えるように、

      『俺も、君といれて幸せだった。』

      そう言葉を返し、そして、妻が最後まで知りたがっていた事を話す。
      なんてことは無い、何故俺が人間と亜人の仲を気にしていたのか、何故俺が教鞭を振るうとき、
      受け持つ生徒全てに種族間の問題を説くのか。

      『どうして、貴方は私と出会う前から、種族間の事を?
       その事が、今になってもわからないんですよ、そろそろ教えてもらえませんか?』

      そう、病院のベッドで横になる妻が俺の目を見て聞いてくる。
      そもそも、彼女との出会いも、種族間の問題にかかわったところが大きい。

      『・・・、聞いても面白くない話だが?』

      それでも聞きたいのかと、そう目で訴えると、妻は笑いながらも、お願いしますと視線を返す。

      『学生時代の・・・、初恋の話しなんだ。』

      そう言葉を切り出し、学生時代の事を話しだす。
      妻に話すまで忘れたいたはずなのに、話し出してからは、まるで昨日の事の様に数々の場面が浮びだしてくる。
      彼女と初めて出合った日、俺は彼女の事を俺の箒の操縦ミスで轢いた。
      次に会った時は、教室のど真ん中で見つめあった。
      数々の戦闘訓練を一緒に行い、ドラゴンゾンビを倒し、その日々で少しずつ彼女と仲良くなり、
      憧れを抱き、そして、彼女の笑顔に恋をした。

      『ふふ・・・。』

      そこまで話したとき、寝たきりの妻の小さな藁声が聞こえ、はっとして妻の顔を見る。
      視線の先の妻は、酷く優しい顔で私に微笑みかけている。

      『あ、いや、その、つい、熱が入って・・・、すまない。』

      そう、妻に告げる。
      いくらなんでも、妻の前で初恋の話をして、それに熱が入ってしまうとは、われながら不誠実極まりない。
      そう思い、再度頭を下げようかと妻を見ると、彼女は笑顔を絶やさすまま、

      『謝らなくても結構ですよ・・・、ふふ、貴方が余りにも、そう、少年のような顔で話すものだからつい、ね。』

      そう言いながら、彼女は苦笑しながら拗ねたような声でいう。

      『謝らないで下さい、私は貴方のそんな所に恋をしたんですよ。
       ただ・・・、できれば私の事を話すときにもそんな顔をしてくださいね』

      『それは出来ないな。』

      『どうしてです?』


ーside俺ー


「ひどくいい月夜だ・・・。
 ロベルタは来ないとしてチャチャゼロ、お前はどうする?」

そう、横にいるディルムッドにたずねる。
ロベルタとアノマに面識は無いが、少なくともディルムッドには面識もあるし、もしかすれば話したいこともあるかもしれない。
そう思いたずねてみたが、ディルムッドは目をつぶって眉をひそめた後、

「いや、俺も君を待とう。
 俺とアノマは結局最後まで相容れなかったし、これからも奴とは相容れない。
 だから、こんばんは君とアノマ、2人で会えばいい。
 俺達は・・・、屋根の上で出も待つさ。」

そう言って、俺についてくることはなかった。
まぁ、それに特に問題はないわけだが、さていざ逢うとなるとどうやって彼に会おうか?
今現在、俺は子供の姿に戻り彼の家に忍び込んで、髪留めに着けた血を頼りに彼の部屋だろう場所の扉の前にいるのだが、さて、
笑顔で会えばいいのだろうか・・・、いや、それは何か違う気がする。
微笑を浮かべながら・・・、いや、それもなんだか可笑しきがする。
不満な顔だろうか・・・、いや、それは死人に鞭打っているのと変わらん。

喜怒哀楽、感情自体は大まかに別ければその4つしかないが、表情となるとまた別だ。
しかも、アノマの人生がどういう道をたどったのか、俺は知らない。
もしかすれば、怒っているのかもしれないし、殺したいほど憎まれているのかもしれない。
いい方に考えれば、再会を喜び合うという事も考えられるが、少なくとも今の俺の悪名はうなぎのぼり所か、
下手すれば、鯉が滝を上りあがって龍になるぐらいには上りあがっている。
さて、そんな犯罪者が来れば迷惑極まりないのは、まぁ、事実だ。

「われながら、変なところで決断が付かん・・・ん?」

ふと、視線を感じそちらの方を見ると、そこには5~6才ぐらいの小さな子供がいた。
その子は、赤毛で俺の事を警戒するように見ている。
まぁ、こんな夜更けに知らない人間が居れば警戒するなと言うほうが無理な話しだろう。
そして、俺の視線に気付いたその子は、意を決したように俺に近寄ってきて、

「お姉ちゃんだれ、こんな時間におじいちゃんの部屋の前でなんで百面相してるの?」

そう、片手にはしっかりと練習用の杖を持って俺に尋ねてくる。

ふふっ、この子を見ると自然と笑みがでる。
そうか、アイツはちゃんと結婚して孫も出来たんだ。
そう思うと、なんだか心が温かくなる。

「そう言う君こそ、こんな夜更けまで起きてると悪い魔法使いにさらわれるよ。」

そう言うと、その子は胸を張りながら、

「悪い魔法使いって、エヴァンジェリンの事?
 大丈夫、それなら僕がやっつけてあげるよ、こう見えても僕おじいちゃんから魔法を教えてもらってるんだ。」

そう、その子は嬉々として俺に話してくる。
最近は暴れる時大人の姿で暴れる方にシフトチェンジしたせいか、
子供の俺の姿では、エヴァンジェリンとは認識してもらえないか。
だがまぁ、それならそれでいい。

「そうか、君は偉いな。」

そう言って、そのこの髪をグシャグシャとなでる。

「私は、君のおじいちゃんの古い知り合いでね、時が満ちたから会いに着たんだ。」

「そうなんだ、でもなんでこんな夜更けに?」

そう、目を細めて頭をなでられていたその子が俺に聞いてくる。

「そうだな、強いていえば・・・、私が夜の住人だからだよ。」

頭に手を置いたまま答えると、その子は上目遣いに俺の事を見ながら、

「ふ~ん、そういえば、お姉ちゃんお名前は?」

「私の名は・・・、起きたらおじいちゃんに聞いてみるといい。」

そう言いながら、眠りの霧を無詠唱で発動させる。
流石に、手で触れた上で俺の魔力ならかかるなと言うほうが無理だろう。

「え?」

「おっと。」

そう、その子は言葉を残して眠りに付き、崩れ落ちそうになった所を抱きとめる。
さて、この子を部屋に戻して、俺はアノマに会いに行くか。


ーsideアノマー


妻が俺にそう問いかけてきた。
だが、その答えは余りにも解りきったものだ。

「俺は君に憧れちゃいない。
 だって、俺は君の事を愛しているのだから。」

「・・・、ここまで熱烈な歓迎とは思っても見なかったな。」

目をつぶって思い出の海のまどろみに浸っていたが、急に懐かしい声が聞こえた。
その声につられて、目を開きながら言葉を返す。

「お前にじゃない。」

そう、言葉を返した先には窓のヘリに・・・、

「解ってるさ、私とお前は既に決別済みだ。
 きっちりと振ったんだからな。」

思い出のままの姿のエヴァンジェリンが、苦笑しながら座っていた。

「なら、俺に言うことがあるんじゃないのか?」

そう言うと、エヴァンジェリンはポンとヘリから飛び降りて部屋の中に入り、
目も前まで来て座っている俺に目を合わせて、

「約束を果たしに着た、まぁ、若干誤差はあるかもしれないがな。」

そう、人の悪そうな笑顔で話し掛けてくる。

「確かに俺はまだ65そこそこだ、逝く間際にしちゃ少し早いな。」

俺もエヴァンジェリンに人の悪そうな笑みを作って返す。
そして、手で持っていたグラスをテーブルに置いて立ち上がり、彼女を抱きしめる。

「おいおい、奥さんに怒られるぞ。」」

そう、抱きついたエヴァンジェリンがおどける様に話すが、彼女の手も俺を抱いてくれている。
なんと言えばいいのか、言葉は出ない。
出会いの嬉しさで涙が出そうになるが、それは必死に堪える。
この出会いは、決定されていたものでその事で泣くのは、何かが違う。

彼女がかつて言った時間の壁が、今俺の腕の中にある。
俺が歳を取った事を悲観すればいいのか、彼女が年を取れない事を悲観すればいのか解らない。
或いは、その逆も然り・・・、か。

「大丈夫だ、あいつなら解ってくれる。」

そう言いながら、どちらからとも無く抱き合っていた腕を外して分かれる。

「そうか・・・、アノマ・・・、歳を取ったな。」

「同級生がどの口で。」

そう返しながら、イスに座ると彼女は脇にある俺のベッドに腰掛けて、

「なに、いい顔をするようになったと思ってな。
 それに、声も言い感じに厚みがでた・・・。
 どうだ、人としての生涯を駆け抜けた感想は。」

ベッドに座った彼女が俺にそう聞いてくる。
だが、その答えはまだでない、何せ俺は・・・、

「さてな、まだ俺は人としての生涯を駆け抜けている途中だからな。
 ・・・、来るのが少し早いよ。」

そう俺が返すと、エヴァンジェリンは苦笑した後、神妙な面持ちで、

「なら、お前の今までの人生を聞かせてくれないか?」

そう言う、彼女の声色には何処か羨ましそうな雰囲気が漂う。
やはり、彼女は寂しいのだろうか、誰も彼もが彼女の名は知るが、
誰も彼もが、彼女自身を知らなくなるこの世界が。

彼女の名は・・・、いや悪名は既にこの世界に知れ渡り、恐怖の対象とされている。
だからこそ、彼女は酷く孤独になる。
彼女自身、それは多分わかっていることだろう。
いくら、彼女の周りにチャチャゼロがいたとしても、それ以上に友人も増えず、
語らう相手もいないのでは寂しくもなる。

「聞いてどうする?」

「なに、隣の家の芝生は青いと言うやつだ。
 ・・・、私では辿れない道、私では行きつくことの出来ない場所、
 私では得ることの出来ない暖かさ、私では得ることの出来ない・・・、自身の子を抱くと言う事。
 その、どれもこれもが酷く魅力的なものでね。」

「寂しいのか?」

なら、俺が逝くまでここにいないか?
そう言葉を紡ごうとしたが、しかし、その言葉は結局吐く事はできなかった。
その言葉を吐き出す前に、彼女は首をすくめてどこか遠い目をしながら、

「残念な事に、寂しさはまったくと言う訳ではないが、無いよ。
 ・・・、大切な人が私の腕の中で逝く事もあった。
 見ず知らずの人間と仲良くなる事もあった。
 神と出会い語らう事もあった。
 私はね、アノマ。この、ろくでもない世界を楽しんでいるんだよ。」

そう、何一つぶれる事の無い声で喋る。
あぁ、そう・・・、だったな。
彼女は何処までも強い人で、そして、何処までも歩みを止めない人だったな。
だからこそ、彼女はこんな台詞が言えたのだろう。

「『世界は何処までも無慈悲で残酷だが、だが、それでも絶望するほど酷くは無い』か。
 確かに、今の俺ならこの台詞には納得できる。
 辛くても、悲しくても、きつくても確かに、手の平分ぐらいの救いならあるな。」

彼女の目を見ながら話すと、彼女は痛く満足したような顔で俺の顔を見ながら微笑みかけてくる。
クソ・・・、俺がヤラレタのは、確か彼女のこんな笑顔だったな。

「そんな事をいわれたんじゃ、お前の人生を聞くまでも無いじゃないか。」

そう言って、彼女は俺のベッドに寝転び仰向けで大の字になる。
その姿が、酷く子供らしくて、しかし、彼女が肩肘を張っていたあの学園では、
けして見れないだろう姿を見て、なんだか無性に親近感がわく。

「まるで子供だな。」

そんな彼女にそう声をかけると、彼女は仰向けのまま顔だけを起こして俺を見ながら、

「残念な事に、私は子供なんだよ。
 まぁ、だからこそ走っていられる。」

そう言う彼女を見ていると、年甲斐も無くその背中を追って走りたくなる。
そう思うのは、けして間違いではないのだろう。
何せ俺は、まだ逝っちゃいない。

「バカいうな、俺だってまだ走るさ。」

「それは、年寄りの冷や水と言うものだぞ、アノマ。」

「それはお互い様だ、同級生。」

そう言って、お互いに笑い合い出す。
離れていた時間は短いものとはいえず、むしろ、長いといえる。
だが、それでもこうして語り合う事の出来る『友人』を得る事ができたのは、
俺の人生にとって酷く喜ばしい事だろう。

「そういえば、チャチャゼロはどうした?
 あいつが壊れたとは思えないが?」

そう俺が聞くと、彼女は体を起こしベッドの上で胡坐を組みながら、

「相容れないから来ないそうだ、無粋だと思ったんだろうな。
 私とお前、2人で会えばいいとさ。」

そう言われて、苦笑する。
何だかんだで、あいつも変わらず元気にしているのか。
それに、相容れないか・・・・。

「なら、エヴァンジェリンあいつに言付を頼む。」

「なんだ?」

そう言いながら、エヴァンジェリンが俺のほうを興味深そうに見る。

「相容れないお前は、相容れないままで居ろと言ってくれ。」

「解った。」

コレで、アイツなら俺が言わんとしている事はわかるだろう。
なら、アイツには相容れないままでいてもらわないと困る。
そんな事を考えながら、その後は尽きる事の無い会話を楽しむ。
別に気取った事をいうわけでもない。
思い出話ばかり喋ってしんみりするわけでもない。
ただ、そう、ただお互いの言いたい事を話すそんなたわいも無い会話。
だが、そんな今の時間がたまらなくいいと惜しい。
でも、時間と言うものは常に残酷なまでに有限だ。

「空が・・・、白みだしたな。」

そう、エヴァンジェリンが切り出したのは話が一区切りした頃。
そうか、気がつけば俺は一晩中彼女と喋っていたわけか。
だが、そう切り出すと言う事は・・・。

「行くのか?」

そう言うと、彼女は静かに目をつぶって。

「あぁ、そろそろな。
 余り長居すると、色々と迷惑もかかる。」

「そう・・・、か。」

そう言っている間にも、彼女はベッドから立ち上がり窓の方に歩みを進める。

「・・・、そういえば、この髪飾りは返した方がいいのか?」

そう言って、彼女に貰ったリング状の髪留めを差し出すと、
彼女はその髪留めをいとど受け取ってしばし見つめた後、俺に背中を向けてなにやら工具で作をした後、

「やるよ。」

そう言って、髪留めを俺に投げてきた。
それをパシリと受け取って見てみると、今までは赤黒く染まっていた髪留めが銀色に輝き、
変わりに、リングの中央部に赤い宝石のようなもの1つ付いている。

「コレは?」

そう聞くと、エヴァンジェリンはおどけた様な顔をして、

「私の血を凝縮精製した宝石だよ。
 まぁ、宝石といっても値打ちは無いがね。
 血塗れよりは、そっちの方が見栄えはいいだろう。」

「・・・、そうか、ありがとう。」

そう言いながら俺が顔を上げると、外にはちょうど天に昇る朝日。
目を細めて、彼女を見ようとするが、逆行になり彼女は濃い闇のシルエットになる。

「では、行くよ。
 次は・・・、残念ながら無いがね。」

そう、彼女の首をすくめる姿は見て取れるが、
しかし、声がぶれている。

「あぁ、最後って奴かコレが。
 まぁ、逝ったら花ぐらいはくれや。」

「あぁ、解った・・・。」

そう、言葉を残しエヴァンジェリンの体は無数のコウモリとなって霧散した。
彼女は何一つ残していかなかったので、彼女いた痕跡は皆無だ。
何もない・・・、ふと、一晩の事がまるで夢であったかのような錯覚に襲われる。
もしかすれば、思い出にふけっていた俺は、そのまま寝てしまい夢を見ていたのではないか?
そんな事を漠然と考えていると、ドタドタと廊下を走る音が聞こえ、

「おじいちゃん!おじいちゃん!」

そう言って、孫が俺の部屋になだれ込んでくる。
まったく、朝早いのに何だと言うのだ。

「うるせぇ、朝っぱらから騒ぐな。」

そう言うが、孫は興奮したような声で、

「おじいちゃんの古い知り合いって言う女の子こなかった!?」

そう、とてつもなく突拍子だが、何処までも心当たりのある言葉を吐きやがる。

「・・・、お前会ったのか?」

そう聞くと、孫はグシャグシャの髪を手で撫でながら、

「うん、昨日の夜おじいちゃんの部屋の扉の前で百面相してる時に会ったよ。
 白い綺麗な髪をした可愛いお姉さん。
 頭を撫でてもらったんだけど、いつの間にか寝ちゃって気がついたらベッドで寝てたの。
 知ってるなら誰か教えてよ、また、あの子に会いたいな。」

そう言いながら、孫はうれしそうに笑っている。
はぁ、何だかんだで罪作りな女だなアイツは。

「おじいちゃん知らないの?」

そう言って、孫は俺の顔を覗き込んでくる。
そんな孫を、抱え上げて膝の上に乗せて、話しだそうとするが、さてなにから話したものか。

「そういえば、僕お姉さんの名前も知らないや、何て名前なの?」

そうか、あいつ名前も名乗らずにコイツに会ったのか。
いや、名乗ったら名乗ったで大変なのは目に見えてるがな。

「男同士の約束、お前できるか?
 出来るなら話が。」

「うん、出来る。
 だから、教えてよ。」

そう言って、孫は純粋な瞳で俺を見てくる。
さて、これから話すことで孫の驚く顔を想像すると笑いがでるが、それは今は噛み殺しとかないとな。

「なら、これから話すことは他言無用だぞ。
 女の子の名前はな、エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マグダウェル。
 誰もが知ってるが、誰も知らない本当は優しい真祖の女の子だ。」


作者より一言

更に時代が飛びま~す。


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