学校とはとにも奇妙なところだな第6話
現在上空2000m位ワイバーンの背中で雄大な新世界を見ている。
隣に居るディルムッドは終始見るものに、感動したりはしゃいだりしている。
「エヴァ見て見ろ、こんなにも竜が近くを飛んでるぞ!あはははは、まるで夢でも見てるみたいだ。」
ディルムッドが人の姿だったら、間違いなく目を輝かせて、さぞあの美形な顔で喜んでいただろう。
かく言う俺もワイバーンに沿うように巨大な竜が飛んでいる事に感動していたが、
隣に居るディルムッドがあまりにもはしゃぐものだから、どこか冷静だ。
「とりあえず黙れバカ。はしゃぐなとは言わんが落ちたらバラバラだぞ。」
だが、竜が火を吐いた時には流石にあせった。灰になっても生き返るとはいえ早々灰になりたがる奴は居ない。
そうしながらワイバーンでのフライトを終え、やってきたのは魔法学術都市アリアドネー。
町全体が迷路のように入り組んでいるのは神話にでも因んでいるのだろう。
これでミノタウロスでも居れば完璧なのだが・・・。
いや、この世界なら居そうで怖い。しかも一人と言わず一族として。
そんな事を考えながら町を歩く。
取りあえずは学校なのだが、入学するなら出来るだけ古い学校がいい。
なぜなら、古ければ古いほど古い書物が眠っている可能性が高い。
それに、旧世界ではまだ産業革命が起こっていないので、本の量産が出来ていない。
これを考えると、今ある書物を読まないと今後その書物がなくなる可能性が高い。
まぁ、新世界は妖精なんかを使って、量産している可能性も捨てきれてはいないのだが・・・。
「なぁ、エヴァとりあえず2~3校ぐらい見たがどうする?」
「悩みどころだな・・・。」
ワイバーンから降りて、すでに何校かは回ったがなかなかいい学校が無い。
今まで見たのは真新しい作りの学校ばかりで、年季と言う物が感じられない。
さて、ここで妥協はしたくないのだが・・・。
「とりあえず一旦休憩だ。事を急いで仕損じるなんぞ愚の骨頂だ。」
「了解。おっ、あそこに軽食屋があるみたいだぞ。」
そう言われて見てみると、オープンカフェのように軒下に机などを並べた店が見える。
考えてみれば、ここに来るまでエマのお菓子以外まともに飯を食べていない。
そう思うと腹が減ってきたので、店に入りメニューを見て適当に注文する。
むしろ、文字を読めても出てくる料理が想像出来ないとは思わなかった。
程なくして出てきたのはドリンクと大きなタコスのような物が数個。
中の具財は分からないがまぁ、食えるだろう。
「なぁ、エヴァ俺も食べたいのだが・・・。」
カフェテラスに陣取っていざ食事と言う時に、ディルムッド声をかけてきた。
ここまでの事を見るとディルムッドはこちらに来てから、かなりフランクになっている。個人的には嬉しいかぎりだ。
と、そういえばこいつはチャチャゼロの姿だが食えるのだろうか・・・?
とりあえず、原作で酒をガバガバ飲んでいるのは知っていたが、
固形物となるとどうなのだろう?
それとも、ディルムッドの魂があるから食えるのか?そう思い、試しに一つ渡してやると普通に食べた。
しかも割りといい食いっぷりで。それを眺めながら俺も一つ口に運ぶ。味は、辛さはあるがわりとさっぱりしている。
そう考えながら食べていると『ガリッ』っと何かを噛み砕いた気がしたと思ったら気持ち悪くなってきた。
「げほっ、うぇ、何だこれ。」
「どうしたんだエヴァ急に吐き出して?・・・あぁ、にんにくが丸ごと入ってるな。」
一緒についてきたドリンクを飲み口を潤す。
吐き出した物の中ににんにくがあった、基本的に俺は臭い物が嫌いだった。
代表としてにんにくとネギと玉葱後、キムチ。中の二つは調理の仕方しだいでは問題ない。
にんにくに関しては匂いを消した上で少量なら大丈夫だったが、キムチは完全にアウト。
考えてみれば今の俺は五感が人間よりもかなりいい。
だから、余計嫌いな物が駄目なのだろう。これは食事には気をつけないといけない。
下手に食えば自爆は必死だ。ついでに言えばねばねばした物も嫌いだった。例としては里芋、山芋、オクラなど。
だが、納豆は好きだった。そんなことを考えていると、
「吸血鬼って本当ににんにくが弱点だったんだな。」
などと能天気に言いながら料理をぱくついている。
なんだか、目の前の人形が急に恨めしくなってきた。
これは意地悪でもしないと気がすまない。
「にんにくは弱点ではない、ただ大嫌いなだけだ。ふむ、今晩は猪鍋にでもしよう。
きっと美味いだろうなぁ~。もちろんキサマも食うよな・・・?」
そういってディルムッドを見た。俺の言葉を聞いた瞬間、料理に伸びていた手が止まり急にガタガタ震えだした。
まぁそうだろう、猪に殺されたコイツが猪の肉なんぞ食いたい訳が無いのだから。
「エ、エヴァ嘘・・・だよな。そんな拷問じみた晩餐は。」
それを聞いた俺はさぞ嫌味な笑いを浮かべているだろう。
だが、楽しいからお構いなし。
「まさか、拷問じみたではなく拷問なのだからな。主からの心温まるほどこしだ、たっぷり食べるといい。」
「ナマ言ってすみませんでした。」
そういってペコペコしている。
心なしか元から小さいチャチャゼロが、さらに小さくなったような気もする。
まぁ、あまり苛めるのも可哀想だ。そもそも新世界に猪鍋があるか知らないし。
「まぁ、猪鍋は冗談として、あまりここで油を売っていても仕方が無い。
その料理をとっと食って片付けろ。」
そういうと、ディルムッドは再び料理を食べだし程なくして完食。俺にいたってはドリンクと煙草だけの食事となった。
ディルムッドが食事をしている時、俺は通りの方を見ていたが、流石魔法学術都市と銘打つだけあって学者っぽい感じの人間が多い。
あくまでぽいと言うだけで基本的にローブを着たやつが多いからそう感じたのだろう。
そんな中通りを歩く男女の一団から声が聞こえてきた。
「なぁ、知ってるか?町外れの学校潰れるらしいぜ?」
「えっ、本当?あそこって結構歴史のある学校じゃなかったっけ?」
「あぁ、本当だ。なんでも生徒が取れないんだと。まぁ、あんな不気味な学校行きたくは無いわな。
なんたって、あそこにはいろんな黒い噂があるし。それに、あそこって最新の魔法教えないし。」
「そういえばそうね。潰れても仕方ないわね。もう潰れたの?」
「いや、とりあえず今募集してる生徒まで取ってそれが最終組になるらしい。
まっ、あんな所に途中編入したがる物好きはいないから実質おしまいだ。」
ふむ、なにやら耳寄り情報ありがとう。
とりあえずの目星は着いたな、後は学校名と入学費とかか・・・。
「よし、行き先は決まった。いくぞチャチャゼロ。」
そういってキセルをくわえたまま歩き出す。
その後をディルムッドがヨチヨチと着いてくる。
「決まったって、学校か?今見て来た所に良い所が無いって言ってたはずだが?」
俺の横に並ぶと見上げながら話しかけてくる。
こっちに来て助かった事の一つに人形が喋っていても、歩いていても注目されないという事がある。
まぁ、コイツとしては人の姿で居たいのだろうが下手に目立つよりはずっといい。
「あぁ、今まで見た所は駄目だ。だが、今いい情報が入った。
町外れに古い潰れそうな学校があるそうだ。取りあえずは下見だがたぶんそこに入学するだろう。」
「そうか、よしなら行こう。」
そういって、町外れを目指して歩き出した。途中何度か迷い、そのたびに近くに居た人間やらエルフやら獣人やらに道を尋ねたが、
なかなかに親切に教えてくれた。ちなみに、ディルムッドはやはり嬉しいのか、話すたびに浮かれていた。そして着いたのが目の前の学校。
石造りで見た目は結構立派そうだが、あちらこちらに修復の後と補強の後が見える。
ついでに言えばなかなかに不気味だ、見方によっては城のように見えなくも無いが、どこか巨大な棺を連想させる。
そんな事を思いながら大きな門をくぐる。中には大きなグランドとなにやら研究室のような建物が無造作に乱立しており。
その乱立した物は後から付け足されたのだろうと思う。
そして受付に着いた。
「すみません・・・・。」
そう声をかけると受付嬢は辺りをキョロキョロしている。分かっていたことだが、今の俺の背は低い。
街中を歩いていて思ったのだが、ここに来るまで俺と同じぐらいの身長の奴に出会わなかった。
多分みんな学校なのだろう。
「あら、可愛いお客さんね。今日はどうしたのかな?」
受付から出てきたのはエルフのお姉さん。ちなみに巨乳。これを見て、「あぁ、やっぱりネギまか」と思ったのは内緒だ。
心の奥に閉まって鍵をかけておこう。と、いかんいかんこのままでは話が進まん。
「今日は、ここに入学するために来た。初めまして私はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと言う。
そっちの人形は私の騎士でチャチャゼロ。」
そういうと、ディルムッドは慇懃に一例そして
「俺は主の騎士。名はディ・・・・、痛いじゃないかエヴァ。」
頭を殴り言葉を止める。
この馬鹿は人の言った事を聴いてないのかそれとも、名乗れるのが嬉しいのか・・・。
まぁ、名乗らせはせんのだがな。
「チャチャゼロ。キサマ私の言った事を忘れたわけではあるまい?」
そういってジロリと見てやると、ややあってディルムッドは
「俺は主の騎士。名はチャチャゼロよろしく頼む。」
不満タラタラな感じで名乗りなおした。
本当にお前は忠義の騎士を目指してるのか?
ククク・・・、なかなかにいい壊れ具合じゃないか。
「そう、私の名前はエルシア気安くエルって呼んでね。っと、そういえば入学したいんだったわね。
いいわよ書類と入学金用意してくれれば。」
そういってエルシアは受付カウンターから数枚の書類を取り出してわたしてくれた。
内容を読んでみると、書かれていたのは入学手続きに必要な物と寮を借りるか否かと言う書類。
屋敷を焼き払った俺には住む場所が無いので、寮があるのはありがたい。それに、入学金もこちらに来た時に換金したお金で足りる。
後は羽ペンを借りて書類に必要事項を書き込み完成。正直、入学には手間取ると思ったが思いのほか簡単だった。
「エル、すべて揃った。これで大丈夫か?」
そういって今書いた書類と、鞄からお金を取り出し受付カウンターに置く。
そうすると、エルはえらくニコニコしながら。
「毎度有り~、ようこそ最後の新入生ちゃん。足りない物なんかは、町で買うか、学校の中で販売所があるからそこで買ってね。
本格的な勉強は明後日辺りからになると思うけど、それまでは自由だから好きに見学するといいわ。あぁ、後これね。」
そう言われて手渡されたのは一つの鍵。
たぶん寮の鍵だろうがその寮がどこにあるのやら。
「エル、寮はどこにあるんだエヴァが困っているだろ。」
おぉ、困ってる人を助けるってちょっと紳士っぽい。
考えてみれば、コイツは女には言い寄られまくっただろうから当然のスキルなのか?
「あぁ、ごめんね~、流石は騎士くん気が利くね~。寮はこの受付を出たら右奥よ一応クレータ寮って書いてあるから大丈夫だと思うわ。
部屋は角部屋13号室ね。」
そういいながら、エルシアは奥に引っ込んでしまった。ふぅ、ここに長く居ても仕方ない。それに、いい加減疲れた。
ついでに言えば腹も減った。確か鞄の中には食料も詰め込んでいたはずだ。取りあえずはそれでも食べて腹を満たそう。
「チャチャゼロ行くぞ。流石にここまで来るのに疲れた。ついでに言えば昼間は私の寝る時間だ。」
「あぁ、クレータ寮だったか。どんな所だろうな。」
そうして、エルシアに言われたとおり、受付を出て右奥に進む。
寮に向かっている途中グランドの方を見ると、何人かの子供が魔法の射手を壁に向かって撃っている。たぶん魔法の練習なのだろう。
これを見ていると、本当に魔法なんてモノを俺が学ぶんだなと現実味が増してくる。そう思いながら歩いているとクレータ寮に着いた。
着いたのはいいのだが、これはどうなのだろう・・・・・?
とりあえず建物自体は立派だ。
それは間違いないのだが、いかんせんその後ろに増築されたであろう、建物が邪魔をして非常に日当たりが悪い。
ついでとばかりに辺りを見てみると、えらく毒々しい色のキノコなんかが生えている。
新しい我が城ながらこれはなんとも。
・・・、まぁ、住めればいいか。
「なぁ、エヴァ、俺ってカビとか生えないよな?もしくはキノコとか。」
寮の門を開き中に入ろうとすると、そんな声がディルムッドから聞こえた。
ふむ、もし生えてそれが人の姿になった時も反映したら・・・・ヤバイ、意外と笑える。
「まぁ、確証は無いが多分・・・・きっと・・・・・・・大丈夫?」
「エヴァ、出来ればいつもみたいに迷わず最後のセリフだけくれ、ついでに言えば疑問系なしで。」
そんなバカ話をしながらエルシアが言っていた部屋の前に着き鍵を差し込み開ける。部屋の中はベッドとクローゼットに机。
個室の方には風呂とトイレがあった。必要最低限な物は揃っている。
ただ、日当たりが悪い。窓はあるがそこから日の光は差し込みそうも無い。
まぁ、闇の魔法を使うにはうってつけの環境と言えなくも無い。
「エヴァ、ここでどれくらい暮らすんだ?」
一緒に中に入り今は机に備え付けのイスの上に座っているディルムッドが口を開く。
ふむ、あまり長くは留まれない。長く留まれば不審がられる。となれば・・・、
「大体2~4年をメドにしたい。出来れば、早くあのゲスを始末したいな。」
「そうか、まぁ、俺は俺が出来ることをするだけだ。」
そういうディルムッドに期待していると伝え風呂へ。
考えてみれば、水瓶にダイブして以来始めての風呂。魔法のおかげか普通にお湯が出る。
浴槽が深いためお湯を半分満たし、ローブと着ていた服を脱ぎゆっくりつかる。
お湯につかると俺の白い髪がお湯に漂っている。
「ふぅ、なんと言うか・・・かんというか・・・。ふぅ・・・・。」
自身の白く小さな手でお湯を掬い顔を洗う。改めてみても小さいな。
そして、身体も髪も洗っていなかったので、気力で湯船から出て髪を洗い身体を洗う。
感想としては、エヴァって敏感・・・・だった。
いかん、この思考はカットだカット。自身の身体で欲情してどうする。
そう思いながら、もう一度湯船につかっているとふと、俺は下着も洋服も用意していないことに気づく。
まぁ、どうにかなるだろうそう思っているとなにやら外から声がする。
「チャチャゼロ君エヴァちゃんは?お買い物か何か?」
「いや、風呂だが何か用かエル?」
「ん~、用と言えば用なんだけどね、最初に書いてもらった書類で出し忘れた物と検査し忘れた事があったのよ。」
「検査・・・・か?そのやたらヤバそうな色の飲み物と関係があるのか?」
「うん、でもエヴァちゃんが居ないなら出直そうかな?」
ふぅ、そろそろ上がるか。考えてみれば俺は水も大丈夫なんだな、吸血鬼の弱点のはずなのに。
「お~い、チャチャゼロ下着と服とタオルを持ってきてくれ。」
そう声をかけると外でごそごそする気配が伝わり続いて少し開けた扉の隙間から服が差し込まれた。
別に見られたぐらい気にしないんだがな。ついでに言えば、隙間から見えたエルシアの目が異様にギラついていた様な気がする。
取りあえず、早くネグリジェに着替えよう。差し出されたタオルとネグリジェで身支度をして風呂を後にする。
風呂場の扉を開けると扉の前で仁王立ちしているディルムッドと、それに対峙するエルシア。
意味が分からん。
「おい、いったい何があった?」
仁王立ちしているディルムッドにそう聴いてみると
「いや、エヴァに用事があるって言うからエルを部屋に上げたんだが、エヴァは風呂に入ってたから、風呂に入ってると伝えたんだ。
そうしたら、出直すと言いながらエルが風呂場に突貫しようとしたのでな。」
それを聞いてエルシアの方を見ると。
それが如何したと言わんばかりに、ただでさえ大きな胸をさらに張り真顔で答えた。
「可愛い物を愛でて何が悪い!私は可愛い物が大好きだ!」
うん、この人実は頭痛い人だったんだな。うん、忘れよう例え女でも今の俺は少女。
つまり、女の人に酷い事言ってもOK。
「エル、愛でて良いのは愛でられる覚悟がる奴だけだ!ちなみに、私に巨乳属性は無い!」
そういった瞬間、エルが見る見るうちにしぼんでいったような気がする。それでやる気の無くなったエルシアが用事を言い出した。
ちなみに、ディルムッドは今の言葉でエルシアに戦意がなくなったと見たのかイスの上で黙って座っている。
「あぁ・・・、忘れた書類とこれ飲んで。」
そういって渡された物は専攻学科の書類と口では表現しきれない色の液体。これは飲んでも大丈夫だろうか・・・?
いや、死にはしないだろうけどさ。後回しだ後回しチキンと言うな、俺の本能が嫌がるんだよ第六感的な意味で。
そんな事を考えながら、学科の書類を見ると学科は2つ。しかも、両方選んでも問題ないとの事。
そして、書類をめくって学科名を見ると魔法学と錬金術。はて、この世界にも錬金術があったのか。
まぁ、書いてあるからにはあるんだろう。まかり間違ってもここは学校だ。
「学科は両方で頼む。しかし、錬金術なんてあるんだな。」
それを聞いたエルはやはりやる気が出ないのか適当に答える。
良くこれで雇ってもらえた物だ。
「あぁ~、錬金術ねぇ、これもうほとんど廃れてるからやってる人居ないのよ魔法の方が便利だし、錬金術とちがって材料いらないし。
だから、ここ潰れたら後は町に居る錬金術師に習うしかないんじゃない?
それに、錬金術師最高の称号であるアルケミストはもう持ってる人いないし。」
ふむ、今の時点で廃れていれば、もう後には伝承程度しか残らないだろう。
下手をすれば架空の産物になるかもしれない、これはなかなかいいな。
最終的にこの技術を持つのが俺だけになる可能性が高い。これは選考してよかった。
今は役立つか知らないが、いつか役に立つだろう。
後はこの不気味な液体だな・・・。しかし、いったい何なんだこれ?
「おいエル、これは何の液体だ?」
「・・・・・・・媚薬。」
聞いた瞬間地面に投げつけようとした手をエルシアが止める。
一瞬俺の知覚以上の動きをしたようだが、ギャグ補正か?
ディルムッドもイスの上で目をパチクリさせている。
「ごめん私が悪かった。これはね、魔法の適正を見るための薬よ。」
「ならさっさとそういえ。」
「エル、悪ふざけが過ぎるぞ、エヴァが怒ってるじゃないか。」
そう二人でエルシアに言うと『ちぇ』などともらしていた。
まぁ、適正薬なら飲んでも大丈夫だろう。そう思い一気にあおる・・・・。
飲んだ薬はえらくノドに絡みつく。味は・・・・、無い。むしろ、匂いも無い。それが逆に恐ろしい。
どこをどうすればあの色で無味無臭の薬が出来上がるんだ?
「おぉ~、一口でよかったのに全部あおるとは良い飲みっぷりだね。」
「こいつ・・・・、殺しても良いよな。取りあえず、こいつから始末して良いよな。」
「エヴァ落ち着け!なんか駄々漏れになってる!」
おっと、いかんいかんなんか外に出たようだ。
目の前のエルがガクガクではなくカクカクしている。
なんかロボットみたいだ。
「で、これでどうやって調べるんだ?」
「はっ、エヴァンジェリンさまその白魚のような指から一滴ばかり血をお恵みください。」
なんか知らんがエルがオカシイ何があった?
「チャチャゼロ何があってエルはああなった?」
「知らぬが仏という奴だ。」
まぁ、いちいち調べていても埒が明かない。それに、いい加減眠りたい。そう思いエルに血を渡して部屋から追い出しベッドに入る。
ついでに鍵もしっかりとかける。チャチャゼロには自由にしていいぞと言ったら、不埒な輩が何時来るか分からないとの事。
まぁ、あのエルを見ていれば警戒したくもなる。そんな事を考えてベッドでまどろんでいると少しずつ眠りに落ちていった。
ー翌朝ー
取りあえず、久々にベッドでよく寝た。
今日までに落ち着いて寝る事なんてあっただろうか?外から日差しは差し込まないけど気にしない。
そう思って机の方を見るとイスの上にはディルムッド。こいつの場合寝ているのか起きているのか分からん。
そう思って見ていると。
「ん、エヴァかおはよう。」
「あぁ、おはよう寝てたのか?」
「いや、考え事だ」
俺はそうかと返して風呂へ行って洗面を済ませ、持ってきた服に着替えてキセルで一服。流石にこの格好は目立つな。
今日は服とか含めての買出しをしよう。そんな事を考えながら鞄から干し肉とパンとワインを出し食べる。
ちなみに、ディルムッドも横で同じように食事をしている。
そんな感じに朝のユルイひと時をすごしていると、
コンコンコン
この学校でこの部屋をノックする奴なんて、一人しかいない。
はぁ、朝から昨日のカオスなテンションは出ないんだがな。ほら俺吸血鬼だし。
とりえず、そろそろ扉がぶち破れるんじゃないのかというぐらい叩いているので、いい加減うるさくなってきた。
「はぁ、チャチャゼロ開けてやれ。」
「・・・、そうだな、新しい城がいきなり壊されるのは、俺もどうかと思う。」
そういってヨチヨチ歩いてディルムッドが鍵を開けてやると案の定エルシアがなだれ込んで来た。
ちなみに、その衝撃でディルムッドはゴロゴロ転がっている。
「もう、エヴァちゃん朝から私時間無いの。今週遅刻すると減給なの。だからこれ読んで。以上では良い朝を。」
そういってエルは今度は風のように部屋から出て行った。
なんというか、良い朝をと言った本人がその朝を壊している気がする。
「生きてるかチャチャゼロ?」
転がってピクリともしないディルムッドに声をかけてやるとムクリと立ち上がった。
顔色は見えないが、なんというかよろしくは無いのだろう。
「エヴァ、昨日から考えていた事なんだが、俺はまだこの身体を使いきれていない。
だから俺は俺を鍛えなおす、俺は必ず強くなるよ。君の騎士として恥じる事の無いように。」
そういって立ち上がったディルムッドは硬く拳を握っている。
そこまで決意があるなら、主から激励の一つも送ってやらないとな。
「ククク、当然な事を言うな。最強の魔法使いを目指す私の騎士が、よもや弱いなんて事は無いだろう。
キサマは最強の騎士を目指せ。」
そういってやると、ディルムッドは『うぉぉぉ・・・、やってやる、やってやるぞ~。』と、どこかに行ってしまった。
まぁ、この学校からは出ないだろう。そう思いながら先ほどエルシアが持ってきた書類を見る。内容は俺の魔法適正。
読み進めて分かったのは俺の得意属性は闇と氷、これはエヴァがそうだったからそうなのだろう。
だが、後一つ得意属性があったそれは
「重力ね・・・、私は重い男だったのか?まさかな。」
そう、重力である原作では確かアルビレオ・イマが使っていた。
まぁ、プラスだな。後の属性はどんぐりの背比べで、光系統はほぼ壊滅的。
吸血鬼というか不死属性のなせる業というか。まぁ、俺自身光系統ってイメージわかないからOKか。
そう思い、いったん思考を中断し外に買い物に出る。このとき髪が邪魔になったので、リング状の髪留めで髪を止め、
さらに大き目のリボンでリング全体を隠すように結び準備完了。
さて、何から買おうか。