強く・・・、なりたいな第61話
夜明けと共に目覚めた彼女は、しかし動き出す事もなくただベッドに座り、
顔を伏したまま、まるで抜け殻のように一点を見つめている。
「・・・、・・・。」
そんな彼女を目の前に、何かを言おうかと思い口を開くが、
しかし、そんな彼女に何をいえば言いの解らず、結局は開いた口をまた閉じるしまつ。
一体この動作をもう何度したかは、10を数えたあたりから数えていない。
そして、また、今度は言うべき事、聞くべき事を聞こうと思い口を開こうとした時、
背後のドアがキィと音を上げ振り返ってみると、
「おはようございます、今日はロベルタ・・・。」
そう、挨拶をしながら入ろうとしたノーラの声が止まり、1度息を飲み込んだ後、
かすかに震える声を、無理やりに明るくしたような感じで、
「おはようございます、エヴァさん。
今日はいい天気になりそうですから、寝坊しちゃいけませんよ。
朝ごはん食べて元気出しましょう。」
その明るいノーラの声が、静かな部屋に似つかわしくないほどに響く。
しかし、その声にもエヴァは空ろなまま反応を返さない。
・・・、ダメだ。1度仕切りなおそう。
このままここにいても、俺もノーラも・・・、そしてエヴァもきっと誰一人口を開けないだろう。
「先に食事を取るよ、エヴァも食べたくなったら来るといい。」
そう言って、戸惑っているノーラの肩を押しながら部屋の扉を閉じる。
そして、お互いに言葉を話さないまま食卓につき、お互いに食事には手をつけずに静かに食卓を見つめる。
その間にも、俺は頭の中で次にエヴァの所に行った時に何を話そうか、何から聞こうかと言うことを整理する。
しかし、その考えもあのエヴァの空ろな顔が浮ぶたびに、振り出しに戻される。
何か疑問をぶつけただけで砕けてしまいそうで、何か聞き出しただけで崩れてしまいそうなあの顔が。
そんな中、ポツリとノーラが言葉を漏らす。
「誰も強くはないんですね・・・。」
「えっ・・・?」
そう言葉を返すと、ノーラは節目がちにポツリポツリと彼女が思った事を口に出していく。
「初めて私がエヴァさんに会った時、エヴァさんは自信に満ちている・・・、って言うわけじゃなかったですけど、
常に落ち着いていて、何となく時を重ねた大木みたいなイメージがありました。
だから、私もきっとエヴァさんについていこうと思ったんです。
でも、本当はそうじゃなかったんですね。」
そう、ノーラに言われてふと今までのことを思い出す。
だが、その中で彼女が弱音を吐いていることも無ければ、今のように空ろになっている事もない。
それに、彼女はどんな状況でも・・・、不利になればなる程に不敵な笑みをその顔に浮かべる。
でも、それでも彼女は涙を棄てたわけじゃない・・・。
1度目はあの破壊しつくしたサーカスの残骸で、2度目はあの地遺跡で・・・。
彼女は間違いなく涙を流した。
「彼女が弱いと?」
そうノーラに聞くと、彼女は俺の目を見ながら、
「いえ、弱いんじゃないんです。
ただ・・・、きっとエヴァさんは身分とか、頭が良い悪いとかそんなの関係なく、
きっと・・・、何処までも普通の人なんです。
大切な人が死んでしまったりしたら、ぽっかりと心に穴が空いてしまうぐらいの。」
そう言った後、ノーラは今日はお店はお休みにします。
そう言って、席を立って部屋に向かってしまい、残されたのは手のついていない4人分の食事と俺1人。
1人でいるには広すぎるこの部屋で、俺はイスの背もたれ背中を預けながら天を仰ぎ目を閉じる。
「普通の人・・・、か。」
そう、ノーラの言った言葉を口に出してみると、口に砂が入ったような不快感と、
歯車が噛み合ったようなシックリとした奇妙な感覚に襲われる。
普通と異常・・・。
何処となくエヴァに付いて回っているようなその言葉。
いや、付いて回っているんじゃなくて、きっと彼女が彼女として在るべきときにあるモノ。
異常を趣向する以上、普通を知らなければ何が異常かはわからない。
なら、彼女は今・・・、普通の人として悲しんでいるのだろうか・・・?
目が覚める・・・。
目が覚めてしまっている・・・。
手を触れば感覚があり、顔に触れれば温もりがある。
ただ、そこにあって欲しいのに無いには涙の軌跡。
そういえば・・・、初めて人の死に触れたときも俺は泣けなかったな・・・。
そう思うと、幼少の記憶を呼び覚まされる。
普通の家に普通に生まれ、普通に学校に行って普通に就職して、有り触れた事故で死ぬ。
俺と言う人の一生はこの1行で完結できる。
そんな中で人の死に触れたのはただ1回。
その死も、大事故を見たとか殺人現場を見たとかではなく、親戚の老人の死。
今となっては色あせ虫食いのようになった幼少の記憶だが、その事ははっきり覚えている。
幼稚園に通うべく、無理やりに眠たい体を起こし、着替え用としたとき、
母から今日は幼稚園は休むというお達しが出た。
そして、バタバタとする大人足しを尻目に1人私服に着替え、言われるがまま車に乗せられて着いたのがその老人の家。
彼は遠い親戚で子供がいなかった事もあり、俺の事をよく可愛がってくれていたと思う。
いや、多分違う・・・。
俺はその老人と遊んだ記憶は無いし、散歩した記憶も無い。
ただあるのは、その老人の家に親に連れられて行っていたという記憶だけ。
そんな老人の家だが、その日だけは何時もと雰囲気が違い多くの知らない親戚が集まっていた。
そして、そこで初めて棺に入り死に装束着た老人と出会い、彼が死んだ事を知った。
そう、その棺を見たときに・・・、だ。
そして、その棺に花を入れ、出棺を行い火葬場で老人の骨を骨壷に箸で入れた時、
何処と無くほっと安心したのを覚えている。
そして、その老人の死で1度たりとも涙を流せなかった事も・・・、
それと、その老人の安らかな寝顔に安らぎを覚えた事も。
そういえば、1人の親戚が確か俺にこういった。
「可哀相な子だね、泣き出しそうなほどに目は潤んでいるのに涙が出ないだなんて。」
その親戚がどういう意図で俺に言ったのかは分からない。
でもその言葉は何となく俺の心に残っている。曰く、涙を流せないヤツとして。
それからは、悲しい事があれば普通に泣けるように努力した。
でも今の俺はこの様か・・・。
守りたいものも護れず・・・、涙を流す事もかなわず・・・、
生かされるように生かされ、空ろな身の体たらくをさらし・・・。
そう思いながら胸に手を伸ばせば、貫かれたはずの穴はなく、ただトクリトクリと鼓動するだけの心臓。
結局、言うべき言葉も聞くべき疑問も思い浮かばないまま、俺はエヴァの所に戻る事にした。
目覚めた以上、彼女の口から言葉が出るのを待った方がいいと思ったからだ。
それに、出て行ったロベルタの事も気になるから、その事も話しておかなければならない事ではあるが、
今の彼女にその事を話すのはもう少し後がいいだろう。
そう思いながら部屋の扉を空け中をのぞくと・・・、
「止めろ、エヴァ!」
そう声を荒げながら駆け寄り、彼女の手を無理やり引き剥がそうとする。
そかし、彼女はまるで機械のように静かに、
「放してくれ。」
一言、言葉を述べるとなおも手に力を込めていく。
多分魔力も使っているのだろう、彼女の細腕からは考えられないほどの怪力のせいで中々手は剥がれない。
そのせいで更に声が荒くなる。
「バカ!そんなことして一体なんになる!!」
そう言うと、一瞬彼女の力は弱まり、しかし、再度手に力がこもり、
「関係ない。」
そう、言葉の静かさとは裏腹に駄々っ子のように首を振るう。
そのことが更に頭にくる!
「関係ないことがあるか!!
いったい・・・!!!一体なんで目を指で潰そうとする!!!!」
そう言うと、彼女は冷静な声で、
「潰した所で元に戻る。」
その言葉が余りにカチンときた。
「そんなに潰したいのなら!!そんなに無意味な事をしたいのなら!!!
俺が2度と元に戻らないようにしてやる!!!」
そう言いながら、彼女の手を無理やり引き剥がし、
勢いでそのままエヴァをベッドに押し倒し、両手で彼女の両手首を押さえる。
両手で覆われていた彼女の目は、水中のサファイアのように潤みに潤んでいたが、
一筋の涙も流れ出す事は無く、せき止められている。
「なにが・・・、あった・・・。」
そう、はぁはぁと肩で息をしながら彼女に聞くと、
彼女は一時の沈黙の後に、一切感情の篭らない声で話し出した。
「エマが殺された・・・。
私の腕の中で。」
それは・・・、悲しいが予想の範囲内の話しだ。
あの日運ばれてきた彼女を見れば、おおよそ見当のつくことだが、
でも、それでもこうして彼女から言われると、嫌がろうにも現実だと突きつけられる。
でも、それなら!
「なんで復讐じゃなくて自傷なんだ。
君が過去に憎しみで人を殺した時、君は努力も研鑽も智謀も策謀も、
おおよそ、戦うために必要な準備は整えようとしたじゃないか。
それなのに、自傷してなんになる。」
そう言うと、彼女は潤んだ瞳を俺の目から逸らす事無く。
「私的な復讐は何も生まない・・・。」
そう、物分りの言い風な言葉で返してくる。
だが、だからこそ解る。彼女が今嘘をついているということが。
今までの彼女なら、こんな耳障りの良い言葉なんて使わない。
少なくとも、彼女の言葉は辛辣であればあるほど、耳障りが悪ければ悪いほど的確に本質を突く。
だからこそ、
「嘘だ!」
そう言って彼女を睨むと、彼女は奥歯を噛み締めるように顔をゆがめた後、
「エマは死んでしまったんだ・・・、私の腕の中で・・・。
それなのに・・・、私は!!」
そう、最後の最後でようやく感情の篭った声が出る。
だが、それなら尚更に自傷に意味が解らない。
わざわざ自分を傷つける事の・・・、眼を潰そうとする事の意味が・・・?
いや・・・、まさか・・・。
そう、自らの頭の中に浮かび上がった仮定を否定しようと口を開く。
「泣けなかったから・・・・、泣こうとしたのか?
眼を潰してまでして。」
そう俺が言うと、エヴァはビクリと体を強張らせ手をきつく握り締めながら、
その感情を、何処にぶつければいいか分からないかのように歯を食いしばった後、
「あぁそうさ!私は彼女の死を悲しめなかった!!
大切な人を殺されたのに、その死を悼むことができなかった!!
まるで畜生以下だ!!」
そう声を荒げると全身を脱力させ、強張っていた体をベッドに沈める。
彼女がどうしてそこまで涙に・・・、泣くことに対して必要性を感じているのかは俺には解らない。
それに、俺には今の彼女の方が泣きじゃくるよりなお、悲しみに打ちひしがれているように感じる。
涙の価値は俺には解らない、尊いものなのかもしれないし、ずるいものなのかもしれないし、
悲しみのシンボルとしては一般的なのかもしれない。
でも・・・、
「自傷の涙でエマが喜ぶとは到底思えない。
死人にくちなし・・・、いつか君は俺にそういった。
でも、そういえる君だからこそ、やるべき事が分かるんじゃないのか。」
そう言いながら、脱力した彼女の手首から手を放し床に立つ。
今の俺には、これ以上彼女にかけられる言葉は無い。
そう思い、部屋を出ようと扉に向かう途中で、1つ言って置かなければならない事があったのに気付いた。
「ロベルタが君の目覚める前・・・、夜明けと共に町に出た。
愚直な彼女の事だ、君の敵討ちに行ったのかも知れないから、俺も後を追わせてもらう。
君は・・・、泣きたいのならそのベッドで自身の涙で泣けるまで伏しているといい。」
そう言い残して部屋を出る。
すると、物陰に隠れるようにしながらノーラがコチラを伺っていた。
「どうしたんだ、ノーラ?」
そう言うと、彼女はビクッとした後、手をバタバタさせながら、
慌てた様子で、
「いえ、あの、その・・・、見てませんから!
チャチャゼロさんがエヴァさんを押し倒したのとかまったく!」
そう、見事に自爆しながら話す。
「何を勘ぐっているかは薄々わかるが、
残念な事にノーラが想像しているような事は無い。」
そう言うと、ノーラは乾いた笑いを上げている。
と、そうじゃなかった。
「すまないがノーラ、今からちょっとでかけてくる。」
そう言うと、ノーラは乾いた笑いをピタリと止め、
しかし、確信を持ったように、
「ロベルタさんを追われるんですね。」
そこまで言い切られてしまうと、今更隠す事もできないし、
そもそも、ロベルタを追う事は隠す事でもない。
そう思いうなずくと、ノーラは一度目をつぶりキッと俺の事を見ながら、
「エヴァさんはどうされるんですか?」
そう聞いてくる。
どうするか・・・、か。
「正直解らない。
もしかすれば俺たちを追ってくるかもしれないし、そうしないかもしれない。
今回の事は彼女も、相当こたえているみたいだしな。」
そこまで言うと、彼女は怒ったように、
「そんな時に、チャチャゼロさんはロベルタさんを追って行かれるんですね。」
そう言って俺を咎めてくる。
多分彼女の言っている事は、誰よりも正しい俺への咎めかたなのだろう。
大切な人が悲しんでいるときに、俺は別の人を追おうとしている。
でも、それは普通の人の考えで、俺達のように異常の中に身をおく者は違う。
「あぁ、追っていくよ。
彼女をこれ以上悲しませないために、悲劇を繰り返さないために。
そして、彼女が・・・、エヴァがまた笑ってバカがやれるように。
それに駆け出したロベルタと、今ここで止まっているエヴァなら、危険はロベルタの方が大きい。」
そう言ってノーラの横を通りすぎ際に、不意に彼女が口を開いた。
「ずるくて誠実な人。」
「え?」
そう言って、振り返ると彼女は『何でもありません。』そう言った後、
自らの胸に手をあてて、
「エヴァさんの事は任せてください。
帰ってきたままた皆でご飯を食べましょう。」
その彼女の言葉に『あぁ。』と言葉を返し片手を上げて俺は店を出た。
ーsideロベルター
朝早くから店を飛び出してみたものの、あの時間では開いている店も少なく、
中々思うように欲しい情報は得られません。
それに、初期の情報もお嬢様とエマさんが行かれたのは花畑である事ぐらいである事と、
ライアさんの商館に属する片が、お嬢様を私達の所まで運んでくださった事ぐらい。
その少ない情報を元に、ライアさんの所に伺おうかと思いましたが、
お嬢様を運び込まれた時に、今回の事はお互い不干渉と言うことを言われたので、
できれば最終手段にしたいところ。
それでも、集まるいくつかの情報をパズルのように組み合わせていくと、少なからず見えてくるものもあります。
1つは花畑の近くに傭兵団の砦があること。
1つはその傭兵団のトップ達が人間離れしている事。
そして、最後の1つはこの町の色町で娼婦に聞いた、
傭兵団に属していた傭兵2人が、ここ数日この町で遊んでいるという事。
そして、その娼婦に金貨数枚を渡し男達の足取りを確認した所、
「ここですか。」
そう言葉を発して見上げるのは廃れた酒場。
戦の傷跡か、店の看板には刺さったままの矢が誇らしげに抜かれることも無く刺さり、
昔は荒くれ者共で賑わっていたであろうこの店も、今は活気が無い様子。
そう思いながらキィ・・・、といやに響く音を上げて開く扉を開けて中に入ると私に向かう十数個の目。
しかし、その目だけでは一体誰が目標人物なのかは解りません。
「何を飲む女中さん」
「ミルクを。」
そう言うと、店の中にいた笑い声とともに、マスターが不機嫌そうに。
「そんな甘っちょろいものはねぇ。
それとも何か、貴族様たちの間じゃぁ酒場でミルク飲むのが流行りか?」
そう、カウンター越しにこちらを不機嫌そうに見てきます。
しかし、私は別にここに飲みにきているわけではありません。
そう思いながら、辺りの喋り声に耳を傾けながら、
「なら水を。」
「チッ。」
そう低く舌打ちをした後、ゴンと乱暴に水の入ったコップをカウンターに置きながら、
「ここは酒場だ、酒を飲め酒を。」
そう言いながら、不機嫌そうに奥に引っ込みます。
そんな背中を見送りながら、水を一口口に含みながら辺りを見ると、
奥の薄暗いテーブルに眼帯をつけた男と、その対面には髪を短く切った男が座り、
いった豆をつまみ代わりに食べながら、不機嫌そうにグラスを傾けています。
そして、その男がダンとグラスをテーブルに叩きつけながら、眼帯の方に、
「さ~て、ヘンリーお前どうするよあの話し。
荷物運んで途中で人拾って、フランスまで行きゃぁ金は出る。」
そこまで言って先ほど叩きつけたコップをあおった後、やはり何かが気に食わないのか、
「金は出るが、アイツからの以来って言うのが気にいらねぇ~。
そもそも、あのイカレが命令してきた事が納得いかねぇ。」
そう言って愚痴ばかり言っている短髪の男にヘンリーと呼ばれた方は、
眼帯の上を指でかきながら、
「ぶすくれるなよ旦那、確かにあの人からのオーダーってのは気になるし、
荷物も棺桶みたいな木箱で、厳重に封印されてるのは気になるが、
それでも、あの額は何だかんだで魅了的だ。」
『それに』とヘンリーと呼ばれた方は1度言葉を区切り、
自らの眼帯を押し上げながら、
「あのばぁさんのせいで俺の目はこの様だ。
これじゃぁ早々傭兵を続ける事もできん。
だからこそ、俺はこれを最後の仕事にして、もらった金で商売でも始めるよ。
お前さんも、あそこに戻る気はさらさら無いんだろ?」
それを聞いた短髪の男ははぁと、気の抜けたため息を吐き天井を見上げながら、
「殺すしか能のない俺にどうしろっていうんだまったく、あそこに戻る気はねぇが、
クソ、あの2人と会ってからケチのつきっぱなしだなまったく。」
そういう短髪の男の言葉にうなずきながら、
「まったくだ。若い娘にばぁさん、怨んででてきそうな組み合わせだ。」
そう言うと、2人の男達は苦笑を浮かべあっています。
なるほど、彼らが私の目標で間違いは無いようですね。
「女中さん、飲まねぇなら出て行ってくれねぁか。」
そう、まだ居たのかといった感じで、不機嫌そうにマスターがカウンター越しに話しかけてきます。
「いえ、もうすぐ出ます。
それと・・・、コップの作りが悪かったようですね。」
そう言って、席と立つと背後から、
「ひっ、木のコップが砕けた・・・。」
そんな声が聞こえましたが、今となってはどうでもいいこと。
カツリカツリと男達のほうに歩いていき、テーブルの前で立ち止まると、
何だと言わんばかりに私の方を見上げ、その後、ヘンリーと呼ばれた方の男が、下卑な笑いを顔に浮かべながら、
「よぉ女中さん。男あさりかい?」
そう勘違いした言葉をかけてきますが、これはこれで好都合ですね。
必要なら、口を割っていただく事になるのですから。
「そうです、ここではなんですから外に出ましょう。
そちらの貴方も一緒に。」
そう私が言うと、ヘンリーと言う男は、私の手をつかもうとしますが、
しかし、私の手をつかむ前に短髪の男が、ヘンリー伸ばした手首をつかみます。
「待てよヘンリー。」
そう言われた男はニヤリと笑いながら、
「旦那ぁ、ここまで来て先がいいって言うのはナシだぜ。
俺が声かけたんだからよ。」
そういわれた短髪の男はしかし、ヘンリーの方を見ず私の目を見据えながら、
「いや、そうじゃない。
女中さん、話しならここでしようや。
昼間とはいえ、俺達は弱っちいから暗がりが怖いんだ。」
チッ、いやに頭が回りやがりますね。
外の暗がりなら、昼間とはいえ多少の荒事も、そしてそうしてでしか手に入らない情報も手に入れられたのに。
しかし、こうなっては無理に外に連れ出すのもおかしいですね。
「なら、弱っちい貴方に端的に聞きます。
貴方方の属していた、傭兵団の砦のある場所を言いなさい。」
そう言うと、短髪の男は私の目を見ながら言葉を選ぶように、
「悪いが、一応は俺達もあそこに恩はある。」
そういう短髪の方の横から、ヘンリーがうんざりした様に、
「面倒事はもう沢山だ、恩は安売りで売り出しちまいなよ旦那。」
そう言われた短髪の男は、肩を落としながらため息をつき、
「はぁ、面倒くせぇし締りもわりぃ。
・・・、女中さん、恩をいくらで買うかい?
俺達はこれからなんか知らんが、フランスくんだりまで荷物を届けなきゃならんらしいんだ。
その行きの駄賃分ぐらいはよこしな。」
なるほど、金銭で解決できるならそれが手っ取り早いですし、
こんな小物を殺した所で意味はありません。
それに、今の私には時間は貴重です。
そう思いながら、金貨の詰まった袋をテーブルに叩きつけるようにドンと置き、
「行きの駄賃には十分すぎる額でしょう。
それでもなお、貴方方の天秤が私の方に傾かないのなら・・・。」
そこで言葉を切り、叩きつけた金貨の袋を握りつぶしながら、
「暗がりとなって無理やりに引き込むとしましょう。」
そう言うと、眼帯の男は目の前に目をパチパチさせ、
短髪の男は今の光景を見ながら、本当にうんざりした様に、
「あ~あっと、マスター奥の席借りるぜ~。」
そう言いながら、席を立ち奥のほうに席を移しながら、
「俺達は今同じ席にいるが、店を出たら他人だ。
お互いが誰かもしらねぇし、恨みっこもなしだ。」
そう前置きを1つして、男達は私に傭兵団の砦の場所を話し出しました。
作者より一言
転職、引っ越し、ネットなし。
長かったです。